外伝その446『綱渡り10』
――のび太は青年期以降に操縦士免許を米国で取得したため、青年期以降は自家用機を持つととされる。また、過去の冒険の経験で、戦闘機と戦車の操縦もできる。のび太曰く『タイムマシンを使いまくったり、時空の歪みで時間が繰り返されたこともあったから』だが、一部は説明がつかない。高度なG耐性がなければ『事故を引き起こす』という烙印を押された『F-20戦闘機』を乗りこなすなど、青年期以降は常人を超える肉体を手に入れていた――
「のび太、お前。地上空母でなんでドンパチする気だ?」
「名刀電光丸のDXバージョンとルガーのスーパーレッドホーク。鋼線は暗殺には使えるけど、相応に準備いるからね」
のび太は白兵戦に強いほうではないため、鋼線を暗殺に使うが、鋼線を使う時は相応の下準備をしていると明確にする。
「名刀電光丸って、バッテリー式じゃね?」
「それは、僕が子供の頃にドラえもんがバーゲンセールで買った廉価品。今使ってんのは、最高級バージョン。動力もバッテリーじゃないよ」
名刀電光丸。ドラえもんが持つ『まともな白兵戦用のひみつ道具』である。ドラえもんが普段から常備していたそれは『小学生でも買える値段の廉価品』であるが、DXバージョンは文字通りに最高級のもので、刃渡りも打刀ほどになっているし、本格戦闘に耐えられるAIが備わっている。正確にいうと、ドラえもんが大冒険で使った姉妹品『秘剣・電光丸』の系譜の商品であるらしい。
「AIに飛天御剣流を学習させたから、僕でも、あれを使えるよ。ただし、数日は筋肉痛だろうけど」
「お前、銃を撃つことに特化した鍛え方してたもんなぁ」
黒江は苦笑交じりに言う。のび太もその通りなので否定しない。また、飛天御剣流はハルトマンが全てを会得してしまったので、そのルートで広まりを見せており、のび太もその動きを名刀電光丸(DXバージョン)に学習させたという。ハルトマン以外では、剣の名人とされる者たちが会得を目指しているが、難易度が高く、完全に会得した者はダイ・アナザー・デイ時点では、エーリカ・ハルトマンとキュアフェリーチェの二人だ。黒江たちが転生を数度挟んでも、完全には会得できないのは、まさに『陸の黒船』と恐れられた通り。
「あれは筋肉量が常人よりあって、なおかつ、体躯が恵まれていないと、体を駄目にするからな。俺たちみたいに、体を極限まで研ぎ澄ますか、超人化した状態で奮うか。俺たちは軍で、ある程度までは鍛えられてたから、そこから更に鍛えればいい。はーちゃんは元が神様だからな。その関係もあるんだろう」
「あの子は覚えがいいからね。ま、あれは白兵戦での切り札の一つだよ」
「のぞみの素体の錦の家に伝わってた『草薙流古武術』はどうだ?」
「あの子の家は陽だね。陰は別の家に伝わってたようだから。あの子に錦中尉の体が馴染んだようだから、問題はないだろう」
「しかし、何の因果で、南斗聖拳に草薙流古武術と飛天御剣流に挑むんだ?」
「北斗神拳の伝承者がいるかどうかはわからないし、北斗琉拳と元斗皇拳まで抑えられていたら、君たちでも、ただじゃ済まない。南斗聖拳のほうがやりやすい敵さ」
「秘孔はやりにくいからなぁ」
黒江も、秘孔をいくつか諳んじていたから分かるが、西洋医学主体の調査ではその仕組みも解析できないのだ。
「秘孔は東洋医学と武術の研究の成果だからね。君は僕の持ってた漫画を読んで、その存在を知ってたから、向こうで窮地を脱する事ができたんでしょ?」
「ああ。実在は半信半疑だったがな。響が暴走状態の時や、切歌の動きを封じるために、試しに突いたら、シンフォギア越しでも効果があった」
黒江は暴走状態の響と、もはや正常な判断ができない思考状態の切歌を止める際、経絡秘孔の『肉体の動きを封じる』それを突き、二人の動きを封じた事があると述べる。経絡秘孔を破るには、秘孔封じという奥義を会得したり、気合で強引に解くか、第三者にその秘孔を打ち消す秘孔を突いてもらうしかない。シンフォギア装者がシンフォギア越しに、その秘孔を突かれた場合は『一週間程は完全に動けなくなる』程度に落ち着くようだが、西洋医学では説明できない麻痺状態(神経系に異常がないのに、肉体が動かない)は恐るべき効果であった。
「翼は、経絡秘孔よりも、飛天御剣流のほうに食いついてきたがね。俺もずいぶんな時間をあれに費やしたが」
「あれには天性の見切りと、身のこなしの速さが要求されるからね。あの子はまだ『青い』と思う」
「あいつは対人の切り合いについて、さほど場数は踏んでないからな。あの境地に至るには時間がかかると思う。才能はあるがね」
黒江が滞在中、風鳴翼は飛天御剣流の存在を知り、剣術に打ち込んだ。無論、彼女の才をしても至難な事であるため、苦戦中だ。(翼は鍛えているとはいえ、どちらかというと細めであるので、飛天御剣流を生身で扱うには厳しいが)
「俺があれを会得したのは、小宇宙で諸問題をひとまずクリアしてからだからな。あいつの場合は、元をかなり鍛えないといかんだろうね」
「鍛えてた?」
「ああ、協力関係を結んだ後に頼まれてな。沙織さんのおかげで、エクスカリバーがモノホンなのはわかってくれたよ」
「なんで?」
「向こうの世界じゃ、完全聖遺物は殆ど残ってない上、それも、実際には先史文明期の遺物らしくてな。俺みたいに、モノホンのオリンポスの神々から貰い受けたって言っても、信じてもらえなくてな。最も、オリハルコン製の黄金聖衣が素でイガリマの刃の全力を弾き返したから、向こうも調べていたようだが」
聖衣の仕組みはシンフォギア世界の技術体系では解析すら不可能である。(オリハルコンは古代ムー大陸のロストテクノロジーで作られたため、現代科学で再現するのは困難を極める。)
「オリハルコンはどういう金属なのさ」
「日本の伝説上の『ヒヒイロカネ』と同質ともされてるが、あの世界でのムーが滅んじまってるから、有耶無耶だけどな。少なくとも、思いの強さで、硬度が一定の間で変わる、伸縮性が現代の金属の比じゃないことだな」
聖衣の強度は装着者の力量と神の加護にも左右されるため、武具としては、シンフォギアよりも強力である。感覚(第六感、第七感など)まで強化するわけではないシンフォギアと違い、聖衣は感覚をも強化する効果を持つからだ。
「君、素で歴代でかなり上の技量だって言われてるからね」
「歴代の聖闘士は20代で戦死してきてんからな。星矢たちが異常にツイてるって言われてる所以さ」
聖闘士は平均で20代後半までに『動乱で戦死する』か、『内輪揉めを起こす』。その確率が異常に高いため、育成体制も徒弟制度から抜け出せず、大量育成が不可能であった。かと言って、生え抜きの叛乱を起こす確率も馬鹿に高いため、先代黄金聖闘士(アイオリア、サガなどの世代)の戦死後は『外部からヘッドハンティングする方法』が取られたり、戦死した者を蘇らせ、欠員補充を行った。だが、最高戦力である星矢がハーデスの呪いで廃人にされたため、打撃は計り知れない。
「でも、史実通りなら、星矢さんは廃人にされたはず」
「そこがミソだ。俺たちみたいな新参者がすぐに黄金になれた一因だ。ハーデスという大神の呪いだから、Z神でも手が出ない。時の神であるクロノスに懇願するしかないからな。俺たちは言わば、その穴埋めだ」
黒江は星矢の穴埋めといいつつも、聖戦後の聖域でかなりの地位を持つに至った。黄金聖闘士はおいそれと補充が効かないので、死人の蘇りすら容認されている中、聖域にしがらみがない人材は是非にも欲しがられたからだ。
「君も難儀な立場だね」
「軍人で、聖闘士だからな。ま、沙織さんだって、あの世界の日本を担う財閥の総帥が表の顔だしな」
「神様が企業経営ねぇ」
のび太はコーヒーを飲みながら、感想を漏らす。そこは世知辛いが、表の職業を成人後に持つこともあるという聖闘士。黒江のように、一国の公職を兼ねるケースは例があまりない。とはいえ、城戸沙織も財閥の総帥を13歳で務めているので、聖闘士世界は他の世界より法的な縛りが緩いらしい。1990年と、かなり古い時代ながら、他の世界の2000年代後半以降の水準に追いついている技術も存在するという。
「さて、そろそろか」
「他のみんなは便所とか済ませてると思う」
「お前も行っとくか?」
「今さっきやったさ」
と、冗談めかして答えたのび太。二人も甲板に戻り、再整備を終えたコスモタイガーに乗り込む。
「イベリア半島へ急降下だ。皆、遅れるなよ」
順番にカタパルト(電磁式)から打ち出されるコスモタイガー。扶桑海軍はこの作戦でバトルキャリアやニミッツ級航空母艦のカタパルトを目の当たりにした事で、油圧式のその先のカタパルト技術を血眼になって研究するようになる。(既に扶桑では、大鳳以降の新型空母には油圧式のカタパルトが備えられていたが、日本からは蒸気式カタパルトへの変更をせっつかれている。ウィッチ閥の反対で工事が遅延しているが、カタパルト技術の世代交代は認めざるを得ないため、結局はウィッチ運用が強襲揚陸艦に移管されるに従い、ウィッチ閥の反対は減っていくが)
「地上スレスレまで降下、山をくぐり抜けて、目標に接近するぞ」
「了解」
黒江はいの一番に急降下を敢行。他のメンバーも続く。コスモタイガーは急降下爆撃もこなせる宇宙戦闘機であるので、このくらいは朝飯前。空母の乗員の一部が日本風に『帽振れ』で見送る中、一同は戦いの場へ征く…。
黒江、ドラえもん、のび太の率いるメンバーがコスモタイガーで地上空母撃破へ向かったその日のこと。ノイエ・カールスラントでは。
――ノイエ・ベルリン――
「あなた方は我が国を滅ぼすつもりか!」
「滅ぼすのではなく、あるべき場所に帰れと申し上げただけです!」
「怪異に占領された地に、どう帰れと!?」
「世界に頭を下げればいい!奪還作戦をしてくれと!」
カールスラントはドイツ側に猛抗議していたが、ドイツは日本と違い、帝政は解体させるつもりだったため、援助するどころか、国内秩序の再編を優先した。これがカールスラントの内乱を促すのである。カールスラントは1940年以降は軍事大国であることで、プライドを満たしていたので、それを剥奪することはカールスラントの秩序の否定を意味するからだ。
「それと、皇室親衛隊は危険分子だ!財産剥奪、市民権剥奪も検討すべき!」
ドイツは皇室親衛隊の完全な解体に躍起になったが、結局はカールスラントの国防体制の否定と解釈した軍人たちの不満を爆発させてしまい、有力な軍人の大半が予備役編入からの『日本連邦の義勇兵志願』を行うことを促進させてしまう。この流れはカールスラントの必死の引き止めにも関わらず、技術者や官庁の官僚にも及び、数年後にはカールスラントのあらゆる体制が空洞化。軍人に至っては『将官までもが、日本連邦に引き抜かれる』のだ。カールスラントの有力な軍人たちは失職と恩給の廃止を危惧し、先に予備役編入し、恩給を受給しつつ、日本連邦に厚遇される道を選んだ。この時に多数の有力なカールスラント軍人が編入されたことで、扶桑軍は戦時中であることを理由に、(体制の転換期である事もあり)ウィッチと軍人の新規育成を縮小。太平洋戦争の激戦を義勇兵の奮戦を主体に乗り切ることを選んだ。だが、新規育成は縮小されつつも継続した。育成ノウハウの喪失を防ぐためである。
「我々はナチス・ドイツではありませんぞ!」
「帝政ドイツではあるだろう!帝政をすっぱりやめて、共和制に移行するべし!!」
結局、ドイツの高圧的な態度はカールスラント内乱でNATOの介入が起こるまで継続。ドイツは結局、カールスラントという同位存在を受け入れられず、現地に混乱だけを残し、NATOの圧力で手出しできる権利をほぼ放棄することになる。日本連邦が高度な一体化を成し遂げていくのとは対照的な結末であった。カールスラント帝室が虐殺を恐れ、第三国へ亡命してしまった事で、一気に体制の安定を失ったカールスラントは内乱へひた走ってしまうのだった。
――戦線では、そのカールスラント製兵器が一定の評価を受けていたが、日本連邦の超兵器のほうが注目を浴びた。海底軍艦、メーサー殺獣光線車、メーサータンク、スーパーX。いずれも、自衛隊がバブル全盛期に開発したり、旧日本軍の秘密兵器。多くが松代大本営跡に秘匿されていた超兵器である。松代大本営は日本軍や自衛隊が『知られたらまずい技術や存在』を秘匿するための空間と化していた。それらは通常兵器の数倍の戦力価値が見出され、リベリオン軍を撃退するてっとり早い手段の一つと見なされた。リベリオン軍はウィッチ世界での平均を上回る兵器を用意したが、連合軍は量を質でカバーすべく、躊躇なく未来兵器を投入。局地的にであるが、20対1の圧倒的なキルレシオが記録されている。機動兵器戦も頻度は低いが、発生している。64Fがその分野でも、地球連邦軍に伍す実力を見せた事が、同隊のその後の扱いを決定づけた――
――前線司令部――
「賽は投げられたか」
「アイク、我々にやれることはなんだ?」
「打てる手は打ったよ。あとは祈るだけだ」
64Fのメンバーが空母を飛びだったとの報告を受けたアイゼンハワー最高司令官。打てる手は打ったと、部下であるパットンへ明言する。海軍は敵艦隊との決戦間近、空軍は大規模反撃のため、スーパー戦隊に『バリドリーン』、『スカイエース』、『コズモバルカン』の出動を、宇宙刑事には『グランドバース』と『バビロス』を要請した。陸軍はその揺動のため、虎の子の部隊に『ラーテ』(敵の目を惹き付けるため、最初に完成していた個体を運搬した)を伴って移動させているように見せかけつつ、実際の攻撃の主力は未来兵器で固めた部隊が担う。
「我々の部隊は囮か?」
「敵の目がそちらにいけば、64FとGフォースは仕事がやりやすくなる。君の部隊には、囮の役目を果たしてもらう。そのためにラーテを回した」
「カタログスペック上の威力は認めるが……。ハリボテに等しくないか?」
「怪異相手であれば、あれで良かったのだ。対人戦など、本来は想定しておらん。君は戦車に関しては口を慎め。同位体がM26の事で批判を受けているからな」
「それは『あちらの俺』が言ったらしい事で、この俺の言った事ではないよ。まったく……」
「私だって、それを言ったら、大統領としては功績がないと批判を受ける身さ。私たちはウィッチと違って、『平行世界の同一人物』が先方にいた記録がある。扶桑の連中のように、兵たちにリンチされて、病院送りは御免被る」
アイゼンハワーも、史実の『大統領としては有能ではなかった(行動はしなかったとの意味だが)』という評判を気にしている事がわかる。また、扶桑軍が前年(1944年)に遭遇した『史実の行いをやり玉に挙げられ、参謀や将官がリンチされる事が続発した』事例を重く見て、自らのイメージ戦略を考え直している節も見受けられた。パットンもそれは思っており、『圭子に頭が上がらない』事を公言して『気さくな人柄』をアピールしようとしている。連合軍の将官の半分以上は史実で敗北した側の軍隊での高官らであるし、勝った側であろうと、戦中戦後の行いでネガティブイメージがついている事はままある。アイゼンハワーもその類であるし、パットンは直に『史実での寿命』を迎える。また、21世紀では『イメージが悪くなると、色んな意味で再起不能に追い込まれる可能性が高い』ので、二人は共通して、『21世紀向けの記者会見場への登場』に気を使っているのだ。
「私たちは彼女たちを支援することで、同位体の行いで生まれた色眼鏡を外させなければならない。東条大将が扶桑海事変での領土喪失を大義名分に『裁かれた』事はいい見本になった。彼が多くの世界でした事は『弁護の余地のないようなこと』だったが、この世界では単純に『敵の能力を見誤ったことでの連戦連敗』以外に罪は犯していない。だが、それを大義名分に、国外追放されたからね」
「東条大将は運に見放された人なのか?」
「平時の軍事官僚としてなら優秀な部類だが、有事の宰相の器ではないよ。本人も嫌う政治を、派閥の領袖であった永田鉄山の暗殺後に、その後釜をやらされたがための悲劇と言える」
ウィッチ世界での東条英機は史実より数年早く、首相を拝命。しかし、直後の扶桑海事変での稚拙な戦争指導で大陸側の領土の多くを喪失。更に若手将校の叛乱が起こった責任を取って辞任し、陰性生活をしていたが、日本人からの『つるし上げ』に近い非難を浴び、政治判断もあり、国外追放の憂き目にあった。親類には類は及ばなかったが、妻と共にバード星へ移民していったという。
「彼のように、祖国を間接的に滅亡へ追いやった責任を(自分自身はしていないのに)一方的に取らされるのは、ある種の恐ろしさを感じるよ」
「前に、人間は自分が正義だと信じた時がもっとも残酷になれると聞いたが…」
「人間というのは、同胞に残酷になれる動物だからな。日本人(扶桑人)に、勝てば官軍負ければ賊軍』という言葉があるように、彼は負けた側だったのが不幸だったよ」
アイゼンハワーは日本が唯一、国外追放にまで至らしめた扶桑の要人『東條英機』にある程度は同情しているようだった。望むことのないことをやらされた挙句の果てに『戦犯』の烙印を押され、宇宙に追放されたというのは、ウィッチ世界でも暗殺されたものの、陽の面が再評価された『永田鉄山』(統制派リーダー)に比べ、あまりに哀れ。弁解もせずに、甘んじて罰を受ける姿は潔いものの、戦後日本が抱く戦中体制への憎悪の感情のはけ口を一手に引き受けざるを得なかった立場は、連合軍の高官らの同情を誘っている。それがアイゼンハワーが作戦の最中に漏らした『個人としての本音』だった。
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