様々な機材が置かれている病室

今、そこで一人の男が二人の女性に見守られながら息を引き取ろうとしていた

「アキト
死んじゃ、やだよ
また、一緒に暮らそうよ
ねえ、アキト!」

「ごめんな、ユリカ
助けてやることしかできなくて
俺がいなくても・・幸せに・・・暮ら・・せ・・・・よ」

「アキト!
アキト〜〜〜〜〜

・・・・・・・・・・・
・・・うっ、グス、うわ〜〜〜ん」

テンカワ・アキト
火星の後継者から妻を助け出し、その後もその残党を狩り続けた男がこの世から消滅した瞬間だった

それから二十分ぐらい病室に泣き声が響き続けただろうか

ふと、泣き続ける女性―ユリカーの肩にもう一人の女性―イネスーの手がおかれる

「う、うぐっ
ねえ、イネスさん、なんでアキトが死ななきゃいけなかったの
やっと昔みたいに笑ってくれるようになったのに
なんでアキトが・・・」

「火星人、テンカワ夫妻の息子、人類初のポゾンジャンパー、元ナデシコのパイロット
火星の後継者たちの実験、理由はそれこそ無限にあるわ」

ユリカの質問にイネスが冷静に答える

だがよく観察すれば、握られた拳が怒りと悲しみによって震えているのがわかっただろう

「そんな・・・・・・」

ユリカの表情が固まる

もともと、答えを求めて尋ねた質問ではないのだから、その反応は当然と言えるだろう

だが、イネスにとってユリカの質問はある意味でアキトのナノマシンは治療が不可能とわかってから
考え続けてきたことに対しての一つの答えと成り得るのだ

だからこそ、その原因をこの場ですぐさま言えたのである

「ねえ、ユリカ
もし、アキトを助けられる方法があるとしたら貴方はどうする」

それが禁断の、悪魔の問いかけと言ってもいい質問だということはイネス自身も理解している

だが、それでも言うことを止めることはできなかった

同じ人物を愛した女として、彼女の気持ちが痛いほどよくわかってしまったから

「助けます、
アキトは私を助けるためにがんばってくれた
だから、助けられるのなら今度は私が助けてあげなくちゃ」

先程まで泣き続けていたため赤くなった眼を見開いて宣言する

そこからは助けられるなら自分の命に代えても助けるという気迫があった

「そう・・・・・・」

イネスが呟き、しばしの間、沈黙が病室を支配する

「なら、一つだけ、アキトを救う手があるわ」

その沈黙を破ったのはイネスだった

彼女はついにずっと頭の中にあった計画を実行することに決めたのだ

そして、その禁断の計画にユリカを巻き込むことも

「本当ですか!
でもどうやって・・・?」

それを聞いたユリカの顔に浮んだのは歓喜と疑問だった

さすがの彼女も死んでしまった人を助けることは不可能だという常識は持っていたらしい

「過去に行くのよ
ポゾンジャンプでね
私とお兄ちゃんのように」

ランダムジャンプによって、イネスとアキトは過去へ、ナデシコは未来へと飛んでいる

ならば、故意に過去に飛ぶここととて可能だろう

歴史の改竄

それが、天才科学者がアキトを助けるために出した唯一の結論だった



そして二年後、二人は最新鋭の超ナ級戦艦ダンデライオンと共にこの世界から姿を消す

それが何を意味するのか、理解したものはこの世界にいなかった






2185年2月―火星軌道―

星々から届く光以外なにもない宇宙空間

今、その場所に突然の光と共に一隻の大型戦艦が出現した


左右に可動式二連装グラヴィティーブラスト二基づつ、計八門
上部艦橋前に四連装600mm六十口径砲三基、計十二門
対艦用大型ミサイル発射管十基を備え、
多数の対機動兵器用兵装とディステーションフィールドを持つその巨艦は
レーザーやビームが主力兵器となっているこの時代のものではありえない


その戦艦の艦橋と思われる場所で、
一人の女性が意識をはっきりさせるようにと頭を振りながら起き上がろうとしていた

「これは成功したのかしら?」

辺りを見回しながら女性―イネス―が呟く

イネスとユリカという二人のA級ポゾンジャンパーがおこなった過去への跳躍

その結果として今、この宙域に二人の女性を乗せた戦艦が漂っていた

イネスはオ級コンピュータ『キボウ』に現在の星々の位置から今の時間を割り出させつつ、
未だに気を失っているユリカを起こす

「ふぇ〜
朝ですか?」

起きたユリカの口からなんともやる気を削ぐような言葉がでてくる

だが、それは張り詰めてていたイネスの緊張を解きほぐすことにもなった

「しっかりしなさい
アキトを助けるんでしょ
過去に跳躍しようとしたのを忘れたの?」

ユリカの様子に呆れながらもイネスは言う

「えっと、そうでした
それで結果は・・・・・・」

期待と不安が入り混じった複雑な顔をしながらユリカが尋ねる

「いま、キボウに調査させているところよ
あと一分もしないでわかるわ」

「成功しているといいですね」

不安を押し殺すように明るく言う

「そうね
せっかくネルガルの最新鋭艦を盗んだんですもの」

「それもそうですね」

そう言って、二人で笑いあう

「調査完了しました
計算の結果
現在の日時は2185年2月3日午前6時22分前後です
お二人とも過去への跳躍おめでとうございます」

そこに合成音声でキボウからの報告が届く

思わず、嬉しそうに顔を見合わせるユリカとイネス

「やりましたよ、イネスさん
これでアキトを助けられます」

「まだ、安心するのは早いわ
喜ぶのは実際に助けてからにしましょ」

嬉しさのあまり飛び跳ねるユリカとそれを諌めるイネス

だがイネスの顔にもしっかりと成功の喜びが浮んでいた

そして二人は火星に向かう

未来を変えるために

アキトを救うために

二人の存在が新たな歴史に何をもたらすのか

物語はまだ始まったばかり










後書き、というか言訳

はじめまして、arkelkです

私はナデシコは漫画版の遊撃宇宙戦艦の方しか原作を知らなかったのですが
他のSS作家さんが書いている物が面白かったので自分でも書いてみたくなり、
投稿させていただくことにしました
(そのため、間違った設定が多くあると思いますが、
教えていただければ改訂するときに訂正するのでよろしくお願いします)

また、このSSはいわゆる逆行ものですが、わざわざ蜥蜴戦争の十年前に逆行することからもわかるように
原作アニメとは内容が大きく変わってしまいますので気を付けてください

それと、一応ユリカ(偽名としてヒミコ)が主役ですが、ユリカ(ヒミコ)×アキトには絶対になりません
(ユリカ(子供)×アキトはありえるかもしれませんが)
何せ、年齢が二十歳近く違うので・・・・・・

個人的にはユリカ(ヒミコ)×草壁なんていうのも面白いかな?
などと考えているのですがどうでしょう









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