――満身創痍。
己の身を守っていた魔術障壁は砕け、真紅の衣と黒の鎧は鮮血に染まった。
その上、鉄さびのような臭いが余計に不快感を煽る。
歯を食い縛り、顔を上げる。
対峙するは万夫不当の英雄王。
己が技量を頼りにここまで持ち堪えはしたが……。
「どうした、世界最古の蛇。自ら称して“世界に反逆する者”と息巻いた割には不甲斐無い」
「黙れ、英雄王……っ、まだ終わってはいないっ!」
負けられない。
こいつのような、夢破れる様に――他者の辛苦に愉悦を見出すような輩に負けるわけにはいかない。
見果てぬ理想を抱き、傲慢に生きる者を好むのは互いに同じ。
しかしその理想に敗れた人間の絶望を愛でるか、それともその運命を嫌い道を示すか。
その一点においてのみ私と奴は違う。
無論、この感情は断じて善意から来るものなどではない。
もしも私が善に属するならば、臓硯を使う――意思無き魔力炉に変えるなどしなかっただろう。
故にこれは単に相手が気に入らないからという自己満足のための闘争だ。
だがしかし、だからこそ――
「貴様とは絶対に相容れぬ。故に貴様はここで死ね!」
「ふはははっ! その言葉には同意するがな……その有様で咆えたところで空しいだけだぞ、バーサーカー」
哄笑する英雄王を睨み、私は切り札の使用を考えた。
無論使えば、いくら魔力量に余裕があるとはいえ、雁夜は無事では済むまい。
「……ふっ」
私と同じ滑稽で無様な大馬鹿者と蔑んでおきながら、今更僅かでもあいつの身を按ずるとはな。
あいつも私も、こうなったのは自業自得だというのに。
桜を助けたい、か……。やつも私も何と醜い有様だろうか……それでも――。
尤も、雁夜のことを考慮せずともこの宝具の特性上、次の真名解放には七日のインターバルを有する。
ならばどの途、聖杯戦争の間には一度の使用が限度なのだ。
故にこの一度に全てを賭ける他ない。相手が英雄王ならばなおさら。
「さて、バーサーカー。もう一人の賊も……あの征服王も処断せねばならぬ。
これ以上貴様に構っている暇はないのだ。……故に、我が至宝を以て断罪してやろう」
黄金の鎧の擦れる音が耳に届く。
アーチャーが、展開された王の財宝から円柱状の刀身を持つ突撃槍のような剣を引き抜いた。
……いいや、あれは剣ではない。
剣という概念が生まれるより以前の産物だ。
「生憎、銘などないのでな、我はエアと呼んでいる」
狂化で鈍っているはずの直感が告げる。
あれは間違いなくアーチャーの切り札であると。
そしてそれは私――否、“オレ”にとっては恐れるべき対象ではない。
「貴様はこの我だけが持つ宝具――乖離剣を抜くに相応しい“敵”だ。誇りに思うがいい」
宝剣の刀身が膨大な魔力を喰らいながら回転し出す。
魔力の流れに巻き込まれた空気が震え、突風が巻き起こる。
――それは遥か昔、古代メソポタミアで天地を切り裂き、世界を創造した『世界を切り裂いた剣』だ。
人間が誕生する以前からある、世界最古の宝具。
その威力は計り知れないものだ。
オレの切り札とて“乖離剣”と同等……いや、やつには財宝による補助がある分、撃ち負けるだろう。
だがそれでも……それでも、あの剣の一撃だけは臆する必要はない。
「さあ、仰げ――『天地乖離す開闢の星』をっ!」
――真名の解放。
だが何を恐れる。何を躊躇う。
原初の地獄?
そんなもの、オレはとうの昔に記憶している。
確かに原典は奴の宝具かもしれない。
だが大地が創造された、天地開闢のその瞬間に立ち会った星は、奴の剣だけではないのだ。
「……解けよ、“偽りの輝光”」
瞬間、身の内に眠る熾天魔の力が覚醒する。
さあ、行くぞと意を決し、エアの引き起こした擬似的な時空断層の中に飛び込む。
――進む。
只管、前へと進む。
両手で握った神剣に二つの“流星”の輝きを集めながら、打倒すべき金色の王を目指して歩を進める。
「……なっ!」
あり得ないものを見たかのような驚愕の声が聞こえた。
だがな英雄王よ、貴様の剣が創り出した地獄は自然の理法より生まれたものだ。
己が本性を明かし、規格外の神性を発現させたオレには一切効果はない。
かつて天地が創造されるその瞬間に立ち会った、開闢の星そのもの。
そんなオレに、同じ現象が通じるわけがない。
「集えっ!」
鮮烈の白――夢幻輝星。
深淵の黒――夢幻冥星。
集った星の煌めき。
「奔れ!」
それが夜明けの光――“原初の赤”に変化する。
統一言語による真名の解放。
其は――
“熾天の――暁星ッ!”
意を斯く成し、だが音にはならぬその真紅の星。
宝具を解き放った反動で動けぬアーチャーに、全てを“無”に還す無窮の光剣を振り降ろす。
――両断。
紅蓮に舞った血の華が咲き乱れ――そして、刹那のうちに霞の如く消え去った。
「慢心したな、英雄王」
「……戯け。慢心せずして何が王か。そのようなこと、貴様とて王を名乗る者ならば知っていよう」
「ああ、その通りだ。伊達に傲慢など司ってはいないのでな」
「ふん……此度は……いや此度も、我の負けだ。
貴様が“最古の蛇”である以上、我の敗北は必定であったか。全くもって、忌々しい限りだ」
……それは違う。
「運命に絶対など無い。……元より、それを打ち破ってこその英雄だろう」
「英雄の王に、英雄たるべきを解くか。……まあいい。今はその無礼許そう、ヒトガタの神造兵装よ。
気に入らないのは変わらぬが懐かしいものを思い出させた礼だ。……いや、中々に愉しかったぞ」
黄金の王はその言葉を最後に、今生の世から消滅した。
あとがき
記念作品ということで。
小説というより、一場面を切り取っただけですが。
以下ステータス更新
【クラス】バーサーカー
【マスター】間桐雁夜
【真名】サタネル
【性別】男
【身長・体重】183cm・72kg
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力A+ 耐久A 敏捷A+ 魔力B 幸運A 宝具A
【クラス別スキル】
・狂化:D
筋力と敏捷のパラメーターをランクアップさせる。
バーサーカーは憤怒の魔王となることそのものが狂気に侵された状態。
そのため正常な思考を保つが好戦的になる。
【固有スキル】
・対魔力:B
竜種としての対魔力を持つが、狂化によりランクダウンしている。
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
・高速神言:A
統一言語。ただし神の呪縛によって人類への催眠は無効になる。
呪文・魔術回路との接続をせずとも魔術を発動させられる。
大魔術であろうとも一工程で起動させられる。
・直感:B
戦闘時に常に自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
狂化の影響でランクダウンしている。
・カリスマ:A+
大軍団を統率・指揮する才能。
ここまでくると人望ではなく魔力、呪いの類である。
・暁闇の明星:EX
宝具“偽りの輝光”を封印することで発動する特殊スキル。
バーサーカーの真の姿である熾天魔王の力が覚醒し、固有スキルに神性:EXが追加。加えて魔力消費が増加する。
また竜の因子が完全に解放されたことで、全てのステータスが1ランクアップし
“黒竜の翼”の展開により全てのST判定において成功率が二倍になる。
ただし元々バーサーカーが王であったころ。
即ち人としての側面で召喚されているため、神霊としての召喚には至らず、サーヴァントの範疇で力を引き出すに留まる。
・風鎌剣:A+++
両手高速剣。読みはフウレンケン。
対人、対軍魔剣を有する幻想種と戦うことを前提に考案された剣術をどれほど極めたかの値。
修得の難易度は最高レベルで、他のスキルと違い、Aでようやく“修得した”と言えるレベル。
A+++ともなれば達人の中の達人だが、バーサーカーは風鎌剣(かざかまけん)を極めた上で、
更に飛燕剣と十六夜剣舞を参考にしながら数百年かけて改良を加えている。
また心技体の完全な合一により、剣を握っている間はいかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
【宝具】
『鞘から抜かれた魔剣』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1人
元来、人間の願いにより神の武力の象徴として生まれた聖剣にして神造兵装。初代天使長が持つもう一つの神の剣である。
しかし堕天によって神剣としての格は失われ、魔剣としての属を得る。
全てのST判定において成功率が2倍になる。
またバーサーカーの神殺しの逸話から、神性を持つ相手に追加ダメージを与える。
『偽りの輝光』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1人
自らのステータスを隠蔽し、竜殺しなどの対象を選ぶ敵性効果を無効にする。
バーサーカーの素性を隠して旅をしていた逸話や天界に下級天使に化けて忍び込み、
“水”の熾天使の目さえ欺いたエピソードの具現。
偽りの輝光は“世界”の認識を晦ませる。
『極限の傲慢』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大補足500人
魔力を“光”に変換し“破壊”と“浄化”の概念を付与した鮮烈の白――“夢幻輝星”による極大の斬撃。
剣を必要とする、バーサーカー自身の特殊能力――魔剣を触媒とした魂を導く力の解放である。
高熱を帯びた光の奔流は“破壊できないもの”をも破壊する。
またこれと対極にある、魔力を“闇”に変換し物質化させ、
“滅び”の概念を付与した深淵の黒――“夢幻冥星”を使用した場合、
闇の刃が“不滅のもの”にも滅びを与える“極限の憤怒”となる。
こちらを使用した場合、対となる“極限の傲慢”は七日間使用できない。
二つで一つの宝具であり、共に地上に落下する隕石はバーサーカーの仕業とする逸話の具現であるため
魔術ではなく自然現象としての力の顕現。
『熾天の暁星』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1〜99 最大補足1000人
スキル“暁闇の明星”発動状態でのみ使用可能。
神造兵装の側面を持つバーサーカーの権能の最大顕現にして彼そのもの。
夢幻の両星を同時に魔剣で発動させた、万象を“無”に還す“原初の赤”にして夜明けの光。
剣を必要とするが、そのものによる魔力変換ではなく、バーサーカー自身の特殊能力。
統一言語による真名解放のため“音”という形を持たない。
またその発動工程において強制的に宝具“極限の憤怒”を使用した状態になるため、実質七日に一度しか発動できない。
かつて赤き竜が天より堕ちた時、恐怖のあまり大地は地表を縮めたというエピソードの具現。世界さえも退ける自然の猛威。
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