「とうとう、終わったわね……」
ネルガル月ドック秘密工廠内。私室から出てきたテンカワ・アキトにエリナは声を掛けた。
火星における戦闘結果は既に聞いている。これでアキトは、2年にわたる復讐の妄執から漸く解放される時が来たのだ。
「ああ、終わった。なにもかも」
「ラピスは?」
「寝かしつけてきた。疲れが溜まっていたんだろう。横になってすぐに眠ってしまったよ」
「そう……これから、どうする気? 貴方がもしユリカさんの許に戻りたいというのなら……」
「よしてくれ。今更どの面下げて戻れと言うんだ。失った時は二度と戻りはしない」
「それで先方が納得するかしら?」
「それは俺の知った事じゃないな。苦労するのは、エリナ、お前とアカツキだけだ」
「……これから、どうするの?」
バイザーに隠れたアキトの双眸と対峙するエリナ。まるで空気にでも斬りかかっているような手応えの無さを感じるが、今ここで会話を打ち切る訳には いかない。
エリナの心情を知ってか知らずか、アキトの答えは単純明快だった。
「消える」
「アキト君!」
「テンカワ・アキトは死んだ。此処にいるのは復讐に囚われた過去の亡霊さ。その復讐も終わった今、亡霊が何時までもこの世に留まっている訳にはいく まい」
「誰もそんな事、望んでやしないわ!」
「俺が生きていては困る奴が色々と居るさ。ネルガルだって、ターミナル・コロニー襲撃犯と裏で繋がっていたと知れれば、拙い事もある。俺が生きてい ては都合が悪かろう」
「私が言っているのはそんな事じゃ……」
「それに」
言い募るエリナを遮って、アキトが静かに告げる。
「俺が望んでいるさ。誰よりも」
「……」
言葉を失うエリナ。
アキトがその裡に闇を抱えているのは知っていた。だが、それがここまで深いものだったとは。
しかし、エリナには自分の死を願うアキトの心情が理解できる。
彼は苦しんでいた。ユリカを護れなかった事、復讐のために幾多もの命を殺めた事、エリナやアカツキ、更には家族であったルリまでも巻き込んでし まった事……
彼はそんな自分が許せないのだ。誰も彼が悪かったなどと言う者はいないだろう。それでも彼は自分が許せない。何か方法があったはずだと、何か自分 に出来たはずだと自分を責め立てる。ある意味で高慢、ある意味で愚かな考え方。
だが、だからこそアキトなのだ。
他にも楽な道があるのを知っていながらも、それを選ぶ事が出来ない。不器用で、そして他人に優しすぎる。
今言っている事も決して本意ではないだろう。彼は自分たちの立場を慮っているのだ。
(私じゃ無理、か……)
エリナは諦めにも似た心情で内心溜め息をついた。
「……ラピスはどうする気?」
切り口を変える。アキトに彼自身の事について言っても効果はない。彼は他人のためにしか理由を見出す事が出来ないのだから。それほどまでに、愚か しいほどに優しい人なのだから……
「……ラピスの事はネルガルに任せる」
「随分と信用しているのね……」
「ネルガルという企業ではなく、エリナ・キンジョウ・ウォン個人という意味でなら、な」
「買い被られたものね……でも無理よ。ラピスには貴方が必要なのよ」
「俺は……何も知らないラピスを俺の復讐に巻き込んでしまった男だ。そんな俺が近くにいては、ラピスのためにはならない。あの娘には、普通の女の子 として幸せになって欲しい」
「あの娘の幸せはアキト君と一緒にいる事よ。そんなことも解らないの? リンクで繋がっているっていうのに」
エリナは苦笑を漏らす。
(相変わらず鈍感なんだから……)
やはりこの青年はテンカワ・アキトなのだ。姿形が変わっても、本質までは変わっていない。
「随分とはっきり断言するんだな」
「当たり前よ。女同士ですもの」
「ラピスはまだ11だ」
「それでも立派な女性よ。今のラピスがアキト君のいない事に耐えられるとは思えないわ。あの娘を精神的に殺す気?」
「……」
「ラピスを復讐に巻き込んだ、それは事実よ。なら、貴方はその責任をとるべきだわ。少なくともラピスに黙って出ていくなんて事、絶対に許さないわ よ」
「…………」
睨むようなエリナの視線に晒されて、アキトは僅かに俯いた。
バイザー越しで表情は窺えない。重い沈黙が漂う。
「………………俺は」
ぱんぱんっ!
言いかけたアキトを遮って、手を叩く音が響いた。
「はいはい、そこまで」
通路の角からひょっこり現れたのは……
「会長!? こんな処で何やってるんですか!?」
「何って、かつての戦友の出迎えに来たのが、そんなに珍しいかい?」
「そうじゃなくて……もしかして、ずっと物陰に隠れて聞き耳を立ててたの!?」
「いやぁ、もうちょっと色気のあるシーンを期待してたんだけどねぇ。それでも、普段は見れないエリナ君を見れたから、良しとすべきかな?」
「な! 何を……」
「まあまあ落ち着いて」
頬に朱を散らして狼狽えるエリナをあしらって、アカツキはアキトの肩に手をかけた。
「アカツキ」
「テンカワ君……今回ばかりは君の負け。ラピス君は君がいなくなったって幸せにはなれないよ。むしろ不幸になるだけさ。元大関スケコマシの僕として は、女の子を泣かせるようなマネを見過ごす訳にはいかないね」
「……俺に、どうしろと言うんだ」
「取り敢えずはラピス君と一緒にいてやる事だろうね。彼女の一生を台無しにしてしまったと思っているんなら、彼女のために自分の人生を捧げるくらい 簡単な事だろう?
そのついでに僕の頼み事を聞いてくれれば助かるんだけどねぇ。火星の後継者の残党はまだ残っているから」
「…………」
おどけるような口調でそう言うアカツキに沈黙を保ったままのアキトだったが、やおらくるりと身を翻した。
その背中にエリナが慌てて声を掛ける。
「ちょっと、何処行く気!?」
「ユーチャリス。火星から帰ってきてから、メンテナンスがまだだったからな」
アキトは振り返りもせずに答えた。そのまま通路の向こう側に消える。
その様を見たアカツキがわざとらしく肩を竦めた。
「相変わらず素直じゃないねぇ、王子様は」
「……彼、大丈夫なの?」
「ま、少なくとも何も言わずにいなくなるなんて事はなくなったさ。テンカワ君にラピス君を邪険に扱えるわけないからね」
「……これも私達の思惑通りという訳ね。アキト君にラピスを足枷として与えておけば、彼にはラピスを見捨てることは出来ない……」
自己嫌悪を感じながらも、彼がいなくならなかった事に安堵を覚えてしまうエリナ。
「まあ、彼が死んだって喜ぶのはクリムゾンのお偉いさんと地球政府くらいのもんさ。彼等を喜ばすくらいなら、テンカワ君にはしぶとく生き残って貰う 事としようか」
「……そうね。その為の私達ですもの」
「憎まれ役は慣れてるからねぇ、お互い」
「あーら、会長と一緒にして貰いたくはありませんけれど」
さりげなく肩を回そうとしたアカツキの手を抓って、澄まし顔でそう言うエリナ。
「おやおや、相変わらずガードの堅いこと。テンカワ君にはあんなに簡単に開いたっていうのに」
「な……っ!? 会長っ!!」
「はははははははっ」
軽薄な笑い声を響かせながら逃げていくアカツキ。後には頬を膨らませたエリナだけが残された。
「……もうっ!」
機動戦艦ナデシコ
ANOTHERアナザ・クロニクルCHRONICLE
第1話
「プロローグT」
プシュッ!
圧搾空気の抜ける音がしてドアが開く。
アキトが部屋に入ると、微かな呻き声が漏れた。
「……アキト?」
「ラピス? 起こしてしまったか」
ベットに腰掛けたアキトに縋り付くラピス。暗がりの中に灯るその金色の瞳は、微かな感情に揺れているように見えた。リンクを通して伝わってくる彼 女の心は……不安。
「……どうした」
ラピスはアキトに抱き付いたまま動かない。額を擦りつけ、放さないと言わんばかりに回した腕に力を込める。
アキトは安心させるようにラピスの肩を抱いてやり、空いてる方の手で彼女の薄桃色の御髪をそっと撫でてやる。
「ん……」
目を瞑ったまま喉を鳴らすラピス。
精神安定のためにアキトとの一次的接触を必要とするラピスが、特に気に入っているのがこれだ。
(まるで仔犬みたいだな)
「ワタシ、犬じゃない」
どうやら思考が伝わってしまったらしい。内心苦笑しながらアキトはもう一度訊いた。
「ラピス、どうした?」
ラピスは再び俯いてしまったが、ややあって漸く口を開いた。
「…………アキトは、ワタシを置いてドコかに行っちゃわないよね?」
「ラピス?」
「アキトはもう戦わなくてイイんでしょう? アキトの家族のトコロに帰っちゃうの? ワタシはもう要らないの?」
瞳に涙を溜めて訴えかけてくるラピス。彼女がこれほどまでに感情を発露させている事に、アキトは純粋に驚いていた。
「火星で、ホシノ・ルリに会った」
ラピスは続ける。
「ホシノ・ルリはアキトのコト大切なヒトだって言ってた。ホシノ・ルリはアキトにとっても大切。ミスマル・ユリカも大切。
だからアキトは行っちゃうの? ワタシを置いてくの? またワタシは一人になっちゃうの?」
「そんな事はない!」
アキトはラピスの身体をきつく抱き締める。
「……そんな事はない」
「イヤだよ。ワタシはずっとアキトと一緒にいたい。一緒にいたいよ……」
「……大丈夫だ。ラピスを一人にするような事は絶対にしない」
「……ホント?」
「ああ、本当だ」
「ワタシを置いてったりしない?」
「ああ、ラピスを置いて行くような事はしない」
「ワタシを一人にしない?」
「ああ、ラピスを一人にするような事はしない。仮に離れ離れになったとしても、必ず迎えにいくさ」
「本当……?」
「ああ……ああ、もちろんだ」
「アキトぉ……」
胸に頭を埋めたラピスを見やりながら、アキトは苦虫を噛み潰す思いだった。
(ラピスがこんなに怯えていたとは……)
アキトがルリと再会した辺りからラピスが漠然とした不安を覚えていたのは解っていた。リンク越しに微かな感情が伝わって来るからだ。
ラピスは決して感情のない少女ではない。確かに表に出る感情は乏しいが、それは表現する術を知らないからだ。内面では普通の11歳の少女と何ら変 わりはない。それが解っていたというのに……
(保護者失格、だな)
自嘲する。
(いや、そもそもそんな資格もなかったか)
翻ってみて、自分はラピスに何かしてやれただろうか。
情操を育む大切な時期を戦闘という殺伐とした空間の中で過ごし、会う者といえばエリナとイネス、後はアカツキのみという有様だ。
自分の五感をサポートするという役目のために、普通の少女としての生活を奪われたラピス。
復讐の終わった今、そのラピスのために自分がしてやれる事なら何でもしてやろう……
「アキト……」
溢れる涙を拭ってやると、ラピスはそっとおもてを上げた。そこに浮かぶ喜びの表情、華のような笑みに、アキトは目を奪われた。
「アキト、これでワタシはアキトのオヨメサンだね」
「ああ……?」
頷きかけたアキトだったが、ふと感じた違和感に動きを止めた。
「えっと……不束者ですが、これからもヨロシク、アキト」
「ああ、よろしく……じゃなくて!」
勢い良く立ち上がるアキト。こてんと転がったラピスがキョトンとした表情でこちらを見やる。
「ラピス……その『お嫁さん』っていうのはどういう事だ……?」
「アキト……違うの?」
「い、いや、そういう事じゃなくてだな……」
「エリナに訊いたの。アキトとずっと一緒にいるにはどうすればイイかって。そしたら『責任』とってオヨメサンにして貰えばイイって。オヨメサンにな ればずっとアキトといられるって……
アキトはワタシと一緒にいると言ってくれた。だからワタシはアキトのオヨメサンになったと思ったの。違うの?」
小首を傾げるラピスにアキトは引きつった笑みを浮かべた。こんな類の笑みを浮かべるのは、一体何年振りだろうか……
おそらく、不束者云々もエリナから聞いたのだろう。
(エリナの奴……)
高笑いをしている彼女の姿が目に浮かぶ。
(覚えてろよ?)
「アキト、違うの?」
不安げに眉をひそめ、縋るように見上げてくるラピスの瞳の前に、アキトに出来たのはこくんと首を縦に振る事だけだった。
数時間後、秘密工廠内の通路に、女性の笑い声混じりの悲鳴が響き渡ったらしい。
「アキト君、貴方とうとう少女趣味に走ったんですって?」
ごん!
開口一番のイネスの言葉に、アキトは頭をしたたかに壁に打ち付けた。
「あら、痛そう」
素知らぬ顔でそう言うイネスに、渋面を浮かべてアキトが起きあがる。
「……ドクター、誰がそんな事を言ったんだ……? エリナか?」
(仕置きが足りなかったか?)
そんな事を考えたが、イネスはぴっと人差し指を立てて、
「残念ながら外れ。ラピスよ」
「ラピスが?」
「そ。よっぽど貴方の『お嫁さん』になれたのが嬉しかったんでしょうね。珍しくあの娘から話し出して来たわ」
「そうなのか……」
「私が閉鎖区画に入った途端に知らせに来たから、多分誰彼構わず教えてるんでしょうね」
「そ、そうなのか……」
アキトの額に大粒の汗が流れる。
「ま、良い傾向なんじゃないかしら? これならいずれはアキト君の望み通り、普通の女の子として暮らしていけるでしょ。その為にもアキト君にはラピ スのお婿さんになって貰わなくちゃね?」
揶揄するような笑みを浮かべるイネス。明らかに面白がっている。
「……ドクター」
「ドクターなんて他人行儀ねぇ……昔みたいに『アイちゃん』って呼んでよ」
「ちゃん付けするような歳でもあるまいに」
「あら失礼ねぇ、私はまだまだ現役よ?……でもまあ、真面目な話をしましょうか」
イネスがおもてを引き締める。説明モードのスイッチが入った。
「ユリカさんだけど……心配されていた後遺症はないようね。火星の後継者に捕まっていた間も早い時期からコールド・スリープされていたらしくて、身 体を弄くられたり薬を打たれたりした跡は見られなかったわ。
ただ、長い睡眠状態が続いていたせいで基礎体力が低下しているから、様子を見る意味でも暫く療養してリハビリに努めた方が良策ね。ま、何かやろ うって言っても、ミスマル提督がさせないでしょうけどね」
「そうか……」
「火星の後継者の方はあれから動きはないみたいだけど、まだまだ気は抜けないでしょうね。捕らえられた草壁春樹を奪い返すために動き出すような輩も いないとは限らないでしょうし」
「……ヤマサキはどうなった」
「彼はそのまま特殊監獄行き。ヤマサキの行った非人道的な実験の数々はデータや証言が残っているから、言い逃れは効かないわよ。
心配されるのは裏取引の類なんだけど……これもミスマル提督がさせないでしょ。
火星の後継者に荷担した形になった統合軍やクリムゾン・グループに代わって、連合軍とネルガルも勢いを取り戻してきたし、今度の連合政府の人事は 大幅に動くでしょうね。地球連合内でもゴタゴタがあるんじゃないかしら? ま、表の顔が変わるだけでしょうけど。
これで貴方の復讐にもケリが付いたという訳ね」
「……そうだな」
「……これから、どうする気?」
そう訊かれて、アキトは僅かに苦笑を浮かべた。
「どうしたの?」
「いや、エリナにも訊かれたんでな。俺はそんなに死にたがっている様に見えるか?」
「そうまでは言わないけど……昔っから自分を責めるものね、『お兄ちゃん』は」
溜め息ついでに、慈愛の篭もった眼差しを向ける。
「もう昔とは違うさ、何もかも」
「そう思っているのは貴方だけかも知れないわよ?」
「さてな。それはともかく、これからは出来るだけラピスと一緒に居てやるつもりだ。あの娘には今まで何もしてやれなかったからな……」
「そう……」
安堵の息を漏らすイネス。すっと肩の力が抜けたところにアキトの言葉が突き刺さった。
「ドクター」
「何?」
「俺は後どれくらい生きていられる?」
不意打ちだった。流石のイネスも言葉に詰まってしまい、それがアキトに答えを知らせてしまう。
「それほど長くは無いようだな……」
「な、何言ってるのよアキト君。精密検査の結果はいつも知らせているでしょう?!」
「自分の身体だ。何も言われなくても解るさ。ドクターやエリナが何か言いにくそうにしている事にも気付いてたしな」
気負いもなく肩を竦めるアキトに、イネスは諦めたように息を吐いた。
「まったく……相変わらずそういう所ばっかり鋭いわねぇ……医者としてはやり難いわ」
「俺は模範的な患者とは言えなかったからな……で、どうなんだ?」
「話を逸らそうとしても喰い付きゃしない……そうね、今のままの生活を続けていたら……ざっと見てあと2年」
「2年か……」
アキトは自分の掌をそっと見やる。
「ヤマサキのラボからは貴方の実験に関するデータは発見されなかったわ。それさえあれば手の打ち様もあるんだけど……いいえ、これから治療に専念す れば、感覚は戻らないまでも体内の不要なナノマシンを減らす事で延命策も講じられるわ。その間に完全な治療法が発見される可能性も……」
「あの名高いイネス・フレサンジュ博士が可能性の段階で講釈を論じるとはな。珍しい事もあるもんだ」
「冗談で言っている訳じゃないのよ!」
「解っているさ。どのみち治療法が有ろうが無かろうが俺の身体にはもうガタが来ている。データが有っても良くて車椅子生活……無ければ遠からず俺は 死ぬ」
「アキト……君……」
「俺は死ぬ。それはいい。ユリカも助けられた。復讐も終わった。だがまだラピスが残っている。ラピスには普通の女の子として幸せになって欲しかった がんだがな……」
「あの娘が貴方と一緒にいる事を選んだのよ。貴方でもとやかく言える事ではないわ」
「そうだな」
「復讐も終わったというのに……貴方はまだ戦いに身を投じるというの?」
「まだクリムゾン・グループが残ってる。俺にとってはさして恨みのある相手でもないが……それでも元凶は潰しておくに越した事はないだろう。アカツ キ達の花道を用意してやるさ」
「馬鹿よ……貴方は……」
「まったくだ。今の話、ラピスには言わないでくれよ?」
「言える訳無いわ、こんな事……」
「そうだな……」
イネスに背を向けて歩き出すアキト。すると、そこにアキトの姿を見つけたラピスが駆け寄ってきた。
「アキト」
「ラピス、どうした?」
「エリナがね、お祝いだってペンダントくれたの」
「そうか、よかったなラピス」
「ウン」
本当に嬉しそうに顔を綻ばせるラピスに、アキトもまた微笑みを浮かべる……
漆黒の騎士に連れ添う桃色の妖精。
イネスはそんな二人を憐憫とも悲哀ともつかぬ面もちで見つめていた。