ユートピア・コロニー地下に網の目のように広がっている通路を、紫色のエステバリスが疾走している。

 そのコクピットに座るイツキは、物思いに沈んでいた。

 何故だろう。あの漆黒の青年の事が酷く気にかかる。今は民間人の負傷者を運んでおり、そちらに気をやらなければならないというのに。

 今、火星は正体不明の敵の襲撃を受けて壊滅状態、軌道上に陣取っていた第一主力艦隊も惨敗し、火星を守る者はもはや存在していない。

 火星は地球から見捨てられるだろう。事実、上層部はそう判断し、火星からの脱出を計画している。

 イツキたちパイロットは、その時間稼ぎと民間人の救出に乗り出しているのだ。

 そういえば、とふと思い立つ。ユートピア・コロニーで生存者がいた事を報告していない。それに加えて、半日近く地下通路を彷徨っていたため、地上 の現状をまったく把握していなかった。

 コンソールを操作して通信を開く。しかし、モニターに移るのはもはやすっかり顔なじみになった管制官の顔ではなく、荒れ狂うノイズの嵐だけだっ た。

「……どういう事?」

 更に幾つかチャンネルを切り替えてみるが繋がらない。非常用回線まで断裂しているのは、それだけ地上が窮地に立たされているからか、それとも……

 不吉な予感がイツキを捕らえる。

 まさか、そんなはずはない。

 イツキは機体を更に加速させた。負傷者に負担をかけない最大限のスピードで。このフラワー・バドと呼ばれる機体は人型をしていながらも、脚部の キャタピラで走行する。関節部が衝撃を吸収するため、戦車などに比べれば居住性は遙かに良い。

 地下通路の彼方に、火星の空が広がっている。出入り口に設けられていた隔壁は破壊されて跡形もないようだ。事実、敵はシェルター内まで侵入してい るのだ。

 外に躍り出る紫のエステバリス――フラワー・バド。そのコクピットで、イツキは驚きに目を見開いた。

 幾つもの軍用シャトルが、空に向かって飛び立ってゆく。輸送船ではなく、小型の惑星圏脱出用シャトルである。要人用にチャーターされる物で、普段 は軌道上を飛んでいるが、引力圏からの離脱も可能なのだ。

 それが伝える事実は一つ。

「そんな……」

 茫然自失になるイツキ。まさかと思っていた事が起こってしまった。軍上層部は、守るべき民間人を見捨てて逃亡したのだ。

 足下ががらがらと崩れていくのを感じる。軍人を志した自分の理想が、最悪の形で裏切られてしまった。民間人の楯となるべき軍人が、己の保身を計っ て敵前逃亡するなどあってはならぬ事なのに……

 火帯を吹き出して、赤い空へと上っていくシャトルを、ただただ呆然と見つめるイツキ。その虚ろな瞳に、黄色の昆虫にも似た機械の姿が映った。

「――ッ!」

 反応の遅れは致命的だった。目の前のモニターがバッタに占領される。次の瞬間には、バッタの身体はコクピットへと突き刺さり、自分と民間人の女性 をミンチに変えるのだ。

(間に合わない……!)

 これで自分は死んでしまうのだろうか……? 守るべき者を守れず、志半ばで倒れてしまうのだろうか。

 イツキの胸中が諦めにくじけそうになる。だが、それでも目を閉じることはなかった。

 駄目だ。まだ諦めてはいけない。せめて、この女性だけでも助けなければ……!

 イツキの細い手がI.F.S.コンソールに掛かる。右手のコネクタに光が灯る。バッタが顎を開いて装甲をかみ砕く。

 ――その、どれよりも早く。

 漆黒の疾風が吹いた。

 



機動戦艦ナデシコ
ANOTHERアナザ・クロニクルCHRONICLE

 

 

第5話

「黒い炎T」



 

 ユートピア・コロニーの地下に先行生産された試験型のエステバリスが保管されていたのには、幾つかの理由がある。

 ユートピア・コロニーが火星最大のコロニーであった事。火星駐屯軍の基地がコロニーの近辺に存在していた事。そして何より、コロニーの開発には、 ネルガルが多大な出資をしていた事。

 ネルガルとの繋がりを最大限に生かし、ユートピア・コロニーの守備隊は最新鋭の人型機動兵器の試作品を手に入れていた。

 ――嗜好品として。

 現実問題として、漸く入植期も終わり、本格的な開拓の始まった火星に於いては、入植者同士の内輪揉めはともかく、外敵との戦闘などまったく考慮に 入れてはいなかった。

 その為の駐屯軍であるし、その為の宇宙軍である。他星――それも、宇宙人からの侵略など漫画かアニメの世界の出来事、真剣にその危険性を検討する 者など誰一人としていなかった。

 軍隊の手に渡ったのならともかく、コロニーの運営する守備隊に人型兵器などというまことに趣味的な物に乗りたがる者などいなかった。

 結果、、そのプロトタイプ・エステバリスは謳っているスペックを日の目に晒す事無く、お蔵入りと相成った。

 アキトがその存在を知っているのは、かつてアカツキから聞かされた事があるからだ。

 その時アカツキは、使われる事なく無駄に消えた機動兵器を酷く惜しく思っていた様だった。

 曲がりなりにもエステバリス・ライダーとして腕を振るった一パイロットとして、戦うことも出来ずに瓦礫に埋もれていった兵器に対して哀悼の意を示 していたのだろう。その言い方は素直ではなかったが。

『火星で稼働していたプロト・エステのデータが残っていれば、エステバリスの開発はあと半年は早まっていただろうに。まったく勿体ない事をしたもん だよ』

 彼はそう結んで肩を竦めていたものだった。

 アキトはその時は聞くともなしに聞き流していたのだが、まさかこんな形で役に立つとは思ってもいなかった。アカツキも思っていなかったに違いな い。

(人生、何がどう転ぶか判らんもんだな)

 過去に戻ってくるなどという、それこそ漫画かアニメの主人公のような希有な体験(しかも2度!)をした男は、コクピットの中でそんな事を考えてい た。

 

         ◆

 

 今まさにイツキのフラワー・バドに襲いかからんとしていたバッタは、メタリック・ブラックにその身を染めたエステバリスの一撃を受けて吹き飛ん だ。

 いわゆる飛び膝蹴りを決めたブラックのエステバリスは、イツキを守るかのようにバッタの群に立ち塞がる。

 次々と襲い来るバッタの群。

 その攻撃をすべからく紙一重で躱し、交差際の一撃で仕留める。背後にいるイツキには流れ弾すら向かってこない。

「凄い……」

 イツキは我知らず呟いていた。

 今、目の前で繰り広げられている戦闘は、もはや芸術の域にまでに洗練されていた。『舞』や『舞踏』の如く、まるで予め定められた軌跡をなぞる様 に、その動きには一点の澱みすら存在しない。

 もっとも、当のアキトからすればそれほど大した事をしているつもりはなかった。

 彼がユーチャリスに乗っていた頃、自分の手足として使っていた馴染みのある無人兵器である。その欠点もパターンもすべて把握している。それこそ決 まった振り付けをその通りにこなしているだけなのだ。

 その戦闘とも言えぬ戦闘は、5分と立たずに終わった。

 アキトの操るエステバリスの足下には、100を超えるバッタの屍が積み重なっている。

 そっと安堵の息を吐くアキト。

 実を言えば、かなりギリギリのタイミングだった。

 シェルターの更に地下でこのエステバリスを確保してから、慌ててイツキの後を追いかけた。しかし、追おうにもイツキの行く先も判らず、更には地下 通路で迷い、何とか案内表示板を見つけてシェルターを脱出し、呆けているイツキのエステバリスを発見したのだ。

 彼女の危機を救う事が出来たのは、まことに僥倖と言えるだろう。

 助けると決意した矢先にそれが打ち破られては、今度こそ立ち直れなかったかも知れない。

『どなた……ですか?』

 アキトが過去――いや、未来の世界で乗っていたエステバリスと違い、大小幾つかに分割されたモニターの一つから、イツキの声が聞こえてきた。映像 は繋がっていない。周波数が合っていないのだろう。チャンネルを適当に弄ると、程なくして長髪の少女の姿が映し出された。

 イツキ・カザマ。彼女の無事な顔を見れた事に再び安堵する。もっとも、彼女の表情には驚きしか張り付いてはいなかったが。

 

 

 イツキにしてみればアキトがプロト・エステに乗っている事は意外以外の何でもない。このプロト・エステの存在を知っている者は民間では極僅かのは ずである。先ほど地下で別れた青年がまさかその人型兵器の乗って自分の危機に颯爽と(イツキの視点では)現れ、苦もなく無人兵器を蹴散らそうなどと思おう はずもない。

 だというのに、通信が繋がって青年の姿をコクピット内に認めたとき、イツキは『やっぱり……』と思った。

 何故かは判らない。ただそう感じたとしか言い様が無かった。

『……無事か?』

 声を掛けられたのに気付くまで、少しの間を要した。慌てて返事を返すイツキ。

「あっ、はい! だいじょうぶです!」

『怪我人はどうした?』

「えっ? あっ!」

 実を言えばすっかり忘れていた。

 幸い、女性は穏やかな息を立てて眠っているようだ。

「だ、大丈夫です!」

『……何を慌てているんだ?』

「な、何でもありませんっ」

『……まあいい。そんな事よりも、君は駐屯基地へ向かうつもりだったのか?』

「え? ええ、そうですけど……」

 漸く落ち着きを取り戻したイツキだ。アキトはモニターの向こうで、考え込むようにおとがいに手を当てた。

『そうか……』

「あの、何か……?」

『今打ち上がっているシャトルは軍の物だろう。だとすれば、基地は既に敵に占領されているかも知れん」

「何故ですか? 駐屯基地は最も戦力の集中している場所ですよ?」

『戦っていて気付いたんだが、奴らはどうも人間や機械の動きを感知して襲撃してくるような節がある。だとすれば、戦力の集中している箇所に連中も殺 到して押し掛けているはずだ。数としては相手の方が圧倒的に多いからな。

 それに、戦っている矢先にお偉方が逃げ出したんだ。パイロットたちの志気はガタガタだろう。俺達が到着するまでとても持ちこたえられるとは思えん な』

 それは確かにあるだろう。自分もショックのあまり戦場で呆然としてしまったのだ。眼前で見せつけられた者達の受けたショックは、果たしていかばか りのものか……

『そんな顔をするな。気持ちはわからんでもないが、気落ちしても始まらん。今こうして民間人を助けている行為自体には、何の変わりもないんだから な。お偉方のミスにまで責任を感じる必要はない』

 ぶっきらぼうな言い方だが、恐らく慰めてくれているのだろう。酷く不器用で……それでいて何故か温かい。

『それよりも、今どうするかだ。基地が駄目なら他に行く当てはあるか?』

「それは……あとはまだ生き残っているコロニーを捜すしか……」

『それも望み薄だが……他に方法はない、か。バッテリーの残量も気になる。急ぐぞ』

「はい」

 頷くイツキの表情に、先程までの悲壮感はなかった。

 


 

 アキト達はイツキの提案でアルカディア・コロニーを目指した。

 アルカディア・コロニーは輸送船の中継点として発達したコロニーである。規模も比較的小さく、人口も少ない。当然そこに割いている警備隊の数も微 々たる物で、とても戦力などと言えた代物ではなかった。

 だからこそ、戦火が及んでいない可能性があるとイツキは言う。その判断の裏には、アキトの推測(イツキにとっては)があるのは間違いなかった。

 プロト・エステを省電源モードで疾走させること3時間。漸く到着したアキト達の見たものは、アルカディア・コロニーを舞台に繰り広げられる、幾多 ものバッタと数機のフラワー・バドによる火線の嵐だった。

『こんな所にまで敵の手が……』

 イツキの呟きが聞こえてくる。アキトはコンソールを握る手に我知れず力を込めた。

 落ち着いているように見えて、アキトは焦っていた。

 アキトがアルカディア・コロニーを目指した理由は、負傷したアイの母親の手当は勿論だが、火星を脱出する術を確保するためでもある。

 アキト一人だけの事なら難しい話ではない。単独ボソンジャンプで事は足りるが、個人携帯用のジャンプ装置には回数に限りがある。イツキやアイの母 親、そして火星にまだ残っている人々を助けるためには、火星の重力圏を脱出できる船を手に入れなければならない。

 輸送の中継点となっているアルカディア・コロニーならば、それがあると踏んだのだ。

 だが、このままではそれも危うい。アキトの右手のコネクタが光を帯びる。

『アキトさん?』

「君はそこにいろ!」

 驚きの声を上げるイツキにそれだけを告げると、アキトは漆黒のプロト・エステを駆って戦場へと飛び込んだ。

『アキトさん!』

 イツキの呼びかけにもアキトはもう応えない。漆黒のプロト・エステは凄まじいスピードでその身を躍らせると、今まさにミサイルを吐き出そうとして いたバッタに手刀を突き立てた。

 装甲のない内部機械を引き裂かれ、爆発して果てるバッタ。アキトのプロト・エステを敵性体と判断し、一斉に攻撃を仕掛けてくるバッタの群。ミサイ ルが、バルカンの弾丸が、あるいはバッタそのものが、アキトへと襲いかかる。

 しかし、狙いが正確な故にアキトにはその攻撃が読めていた。引きつけて、紙一重で躱す。後方へと流れた弾丸は後ろから狙いを定めていたバッタ達に 命中。一気に間合いを詰め寄り、生き残ったバッタの一機を鷲掴みにする。

 敵性体に捕らえられたと判断したバッタのAIは速やかに自爆を採択した。目のレンズに赤い光が灯り、きっかり5回明滅したあとにバッタが爆発す る。ただし、他のバッタの群のただ中で。

 蜥蜴戦争初期のバッタのAIの欠陥である。判断が機械的に過ぎるのだ。相転移エンジン、グラビティ・ブラストといったハード面ではともかくとし て、ソフト面で木連は地球に後れをとっている。

 即席のバッタ手榴弾は絶大な効果を上げた。

 初期型のバッタはディストーション・フィールドを装備していても、その強度は至近距離での爆発に耐えうるものではなかった。自爆に巻き込まれて バッタの大半が破壊され、生き残った物も瞬く間に漆黒の風が薙いで火球へと変ずる。

 アキトのプロト・エステを中心として広がってゆく、刹那に消えゆく無数の華。

 アキトの戦い振りに、イツキは息を呑んでしまう。ユートピア・コロニーからの短い旅路で何度か目にしているにもかかわらず、だ。

 イツキはこれでも自分の腕前にはそれなりの自信と自負を持っていた。しかし、アキトは次元そのものが違う。違いすぎる。

 技術の差はもちろんあるだろう。だがそれとは別に、何か決定的な違いがアキトとイツキの間にはある。

 アキトの戦いは炎だ。烈火の如く、全てを飲み込んでは焼き尽くしてゆく。それを止める術は無い。

 何があそこまでアキトを駆り立てるのか、イツキには判るはずもなかった。

 かつて復讐に生きたアキトは、己の命を削って戦いに身を費やした。復讐の黒い炎の残滓は、今もなおアキトの裡に燻っている。戦闘となれば、その燻 りは再び炎となってアキトの身を包むのだ。

 地獄の果てを覗いてきた者だけが纏う狂気。

 だからこそ、アキトはユリカやルリの元へと帰れなかった。自分が変わってしまった事を知っているが故に、かつての自分を望んでいる彼女たちを求め る事は叶わなかったのだ。

 身も蓋もなく一言で切り捨てるならば、これは八つ当たりである。それを向けられるバッタはたまったものではなかっただろう。

 

 

 イツキは35oマシンライフルを斉射しながら施設へと向かった。アキトを援護したい気持ちはあるが、今は負傷した民間人を乗せている。それでなく ても、自分の腕前ではアキトの足手纏いになりかねない。

 臍をかむ思いのイツキの前に、モニターが表示された。

『その紫のバドは、イツキか?』

「クロウ!?」

 モニターに映し出された顔には見覚えがあった。火星駐屯基地のパイロット育成学校で同期だった、カンザキ・クロウである。

「無事だったのね、良かった……」

『それはこっちセリフさ。イツキの配属された基地が落ちたって情報が入ってみんな心配していたんだ』

「そう……他のみんなは?」

『無事だよー♪』

『何とか生きてるぜ』

『でも、ちょっとやばいかな?』

「ジェシカ! シンヤ! カズマサ!」

 イツキの問い掛けに応えるように開いたモニターには、懐かしい面々が揃っていた。いずれも、クロウと同じく育成学校の同期生である。だが、一人数 が足りない事に気付いた。

「……カイトは?」

『『『『…………』』』』

 返答はなかった。だが、その沈黙が答えを知らせてしまう。

「そう…………」

 俯き、目を伏せるイツキ。だが、すぐに面を上げると決意を込めた瞳をかつての同期達に向けた。

「詳しい話はあとで聞くわ……今は生き残る事だけを考えましょう」

『……そうだな』

『じゃあ、ぱぱっと片づけるか。第13期生の上位六人の内、五人が揃ってるんだからな』

『それが出来れば苦労はしてないって』

 おどけるカズマサにシンヤがツッコミを入れる。学生時代と変わらぬやりとりに、イツキに小さな笑みが浮かぶ。

 そんな、俄に明るくなる雰囲気に水を差したのは、ジェシカの掠れた呟きだった。

『ねぇ、その必要は無いみたいよ……』

「え?」

 見渡してみると、周囲に黄色の昆虫型機械の姿はなかった。あるのは所々に燻っている炎と、立ち上る煙と――そして、無数のバッタの残骸の上に立つ 漆黒の巨人だけだった。

『そんな……あれだけの数を、ほとんど一人で片づけたってェのか……?』

 カズマサが呆然と呟く。アルカディア・コロニーを襲撃したバッタの数は、100や200ではきかなかったはずだ。

『イツキ……あれは一体何者なんだ……?』

 クロウの問い掛けにイツキは一瞬戸惑った。

 アキトは確かに味方ではあろう。だが、これほどまでの異常な戦闘力を目の当たりにして、背筋に冷たい物が走ったのもまた事実。

 彼は、本当に味方なのだろうか……?

 揺れるイツキの脳裏に、あの情景がよみがえる。

 女性を助けたときの、彼の安堵の息。落ち込む自分を不器用ながら慰めてくれた彼の言葉。ぶっきらぼうな彼の言動の端々から感じられる、気遣いや思 いやりの心。

 それは、決して自分の錯覚などではなかったはずだ。だから……イツキはこう答えた。

「彼は……アキトさんは、味方よ。私達の……」

 

          ◆

 

 バッテリー切れの警告音の鳴り響くプロト・エステのコクピットの中で、アキトはシートの背もたれに身を預けた。深い深い息を吐く。

 コロニーを守り切れた安堵感と、戦いに興じていた自分に対する嫌悪感。そのふたつが綯い交ぜになって、アキトの心に翳を落とす。

 まあいい、今はとにかく戦う事だ。

 復讐のために手に入れた力が誰かを護れるというのなら、それだけでも自分の命を賭ける意味がある。

 アキトはこれからの戦いに想いを馳せた。

 彼の心の裡を窺い知る者は、彼自身以外には存在しない。

 今は、まだ。

 

 




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