マガジンを引き出して、弾丸が装填されている事を確かめる。
身につけているボディ・スーツと同じく、闇の色に染め抜かれた38口径のフル・オートマチック拳銃。電子の世界を彷徨い、見つけだした闇ブロー カーから購入したものだ。
それなりの値段を掛けただけあって、ものは悪くない。
装弾し、スライドを引いて初弾を装填。マント下のショルダー・ホルスターに押し込む。
使い慣れたリボルバーは腰のホルスターに。ベルトには予備の弾倉とコンバット・ナイフが差してある。床に無造作に置かれているバックの口からは、 高性能起爆信管付榴弾が覗いている。
マントは耐弾・耐刃性の特殊繊維で織り込まれ、ルナ・チタニウム製のガントレットとフット・ガード。
胸に付けているプロテクターは、対人用ディストーション・フィールド発生装置だ。そこに埋め込まれている、青色の宝石――チューリップ・クリスタ ル。
これが黒百合の全装備だ。
具合を確かめるように、身体を丹念に動かしていく。足のつま先から手の指先まで。
彼がいる場所は、サセボ・シティの、ネルガルが用意したホテルの一室。自分を監視するカメラの映像は、とうにネットワークに介入してフェイクとす り替えてある。
彼にとって、ネルガルの監視の眼から逃れるのは容易な事だった。その手口の全ては彼の知るところであるし、何より彼には他の誰にもない、空間をわ たる術がある。
けして自ら望んだ訳ではない。だがそれでも、離れる事は出来ない。2年間の復讐の日々で彼はそれを悟った。
自嘲の笑みすら、今は浮かんでこない。
「……ジャンプ」
ボソンの輝きに包まれて、黒百合の姿が消えた。それに気付いた者さえ、今はない。
機動戦艦ナデシコ
ANOTHERアナザ・クロニクルCHRONICLE
第8話
「花に集うU」
元来――エリナ・キンジョウ・ウォンは気の長いタイプではない。
行動には成果を、才能には報酬を、疑問には明確な答えを求める。
それは決して短絡とイコールではない。事実、彼女は己の能力と才能と、それを活かす知識と実行力、そして何より、己自身を制御する自制心でもっ て、一癖も二癖もある同僚達を差し置いて出世街道をひた走ってきた。
だが、同年代の会長にからかわれて聞き流せないあたり、感情のコントロールは未だ完璧ではない。経験を重ねたプロスペクターの飄々とした態度や、 ネルガル会長のふてぶてしい態度が気にくわないのも、彼等の中に自分の持っていないものを認めているからかもしれない。
それ故に、彼女は彼等にあしらわれる事が多い。彼女は表情に出やすい質なのだ。
そんなエリナであるからして、現在、彼女が激しく感情を高ぶらせているという事は、その表情を見れば一目瞭然だった。
青白い筋をこめかみに浮かび上がらせ、口元は引きつり、手に握りしめた『極秘』の赤印の押された書類は幾度も引き絞られて、度重なる酷使に悲鳴を 上げているかの様だ。足音は大きくなり、彼女を視界に認めた整備員が顔を青ざめさせて休憩室に退避に掛かるほどの殺気を周囲に撒き散らしている。
有り体に言って、彼女は激怒していた。逃げ出した整備員の襟首をわしっと掴む。
「ひいいっ!?」
大の大人がみっともない悲鳴を上げた。
「ちょっと、ここに黒百合がいなかった!?」
「く、黒百合?」
「ダークサイドの●ードマンか闇夜の鴉をモチーフにしたガッ●ャマンがいたら多分こうなっただろうっていう全身真っ黒黒助のちょっとニヒル気取った 男がここにいたはずよ! 何処に行ったか即刻答えなさい!」
「な……お、ええ?」
被害者であるところの整備員は、哀れな程に取り乱している。エリナはそんな彼の様子にも構わず問い詰める。
「答えなさい!!」
「あ……あああああの、な、何だか妙に怪しい格好した奴なら、暫くドックを彷徨いてから、ふらっとどっかへ行ったみたいですけど……」
整備員の男が辿々しい舌使いで何とか答えると、エリナはぴたっと停止した。表情はそのままで。
「あ、あの……」
襟首をひっ掴まれたままの整備員はおどおどしく様子を窺う。と、彼女の腕が小刻みに震えだした。震えは腕を伝って肩へ、胴へ、足へ、そして全身へ と行き渡る。
「あ……」
「あ?」
「あ・あ・あ……ぁんの、唐変木はぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!!」
「ぎえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
エリナに首を絞められた哀れな整備員の悲鳴が、地下ドック内に木霊した。
◆
何となく、空を見上げる。その方向に火星があると思うと、済んだ青色の空も心なしか赤みを帯びているように見える。
勿論、それは錯覚だ。昼間に空が赤く染まることなどないし、そもそも今自分の向いている方向に本当に火星があるかどうかも定かではない。
だがそれでも、寂寥感が胸を突き抜ける。
遙けき彼方の故郷。今は木星蜥蜴に占拠され、残留した火星市民達が息を潜めて潜伏している地。
正直、今すぐにでも駆け付けたいと思う。自分ならば簡単だ。6千万キロの距離も、一瞬で跳ぶ事が出来る。
勿論、そんな事は出来ない。自分一人の身で駆け付けて、一体どうするというのか? 己の不甲斐なさなど、3年前の事件ではっきりと思い知っている というのに。
瑠璃の翼も、純白の御剣も、今は自分の手にはない。半身すらも欠けている。
それでも、あの頃に比べれば力がある。求めて止まなかった力の万分の一だとしても、無いよりはましだ。あの頃は嫌悪していた戦うための力。人を殺 すための力。
何故、人は必要なとき、必要なままの自分で在ることが出来ないのか?
これから自分のやろうとしている事はあまねく自然の摂理に反することだ。だがそれがどうした? あんな未来など、消えて無くなってしまえばいい。 もしその為に今の自分が消えて無くなってしまったとしても、それがどれほどの事だと言うのか……
「……度し難いな、我ながら」
「ま・っ・た・く・だわね!」
地の底から這い出る魔王の呻りのような声が、背後から響いてくる。だが黒百合は微動だにしなかった。背後から迫る気配に気付いていたからだ。
「エリナか。どうした」
「どうした、じゃないわよ! 今日の2時に部屋に行くって伝えておいたはずでしょ!?」
「そう言えば、そうだったな」
「貴方ねぇ……少しは済まなそうな顔のひとつ位したらどうなの!? さっきだってちっとも驚きもしないし、張り合いがないったらありゃしない!」
「別に、俺を驚かすために声を掛けたわけでもないだろう」
「ポーカー・フェイスも大概にしなさいって言ってるのよ! まったく可愛げのない……」
「そんなもの、俺に求めるだけ無駄だ」
「はいはい、よ〜っく解ってるわよ、そんな事」
エリナは投げやりにかぶりを振る。
この男がネルガル・シークレット・サービスに所属してから半年間、彼への連絡はエリナが一手に引き受ける事になっていた。
未だ解明されていない未知の技術、ボソンジャンプ。その謎の鍵を握っていると思われるからこその処遇だったのだが、最初の一ヶ月でエリナは根を上 げた。
何しろこの男には掴み所がない。バイザーに隠されている所為もあるだろうが、まったく感情が読みとれないのだ。こちらの話を聞いていないかと思え ば、ズバズバとこちらの思惑を突いてくる。
立ち振る舞いに隙はなく、エステバリスのテスト・パイロットとしても完璧。開発中には表に出なかった不具合が、彼のアドバイスにより幾つも改良さ れた。
今回のスキャパレリ・プロジェクトの成否も、彼に懸かっていると言ってもいい。この、素性も判らない怪しい格好の男に。
「まったく気にくわないと言った顔だな」
「……ええっ!?」
いきなり黒百合に言い当てられ、慌てふためくエリナ。
「気付いてないのか? エリナはいつも俺の前に来るとそんな顔をしてるぞ」
「なっ……」
「何か用があったんじゃないのか?」
「――っ、そ、そうよっ」
停止しかけた思考を何とか再起動させると、エリナは手に持った書類を黒百合に突き付けた。
「これは?」
「ナデシコのクルーが決定したわ。そのリストよ」
「そうか……だが読めんぞ」
「へ?」
見る。エリナの持っている書類は幾度も捻られて荒縄のようになっている。中央に僅かに赤い朱肉が残っているのが見て取れるが、それだけだ。中身は もうボロボロだろう。
呆然としているエリナを置いて、黒百合は事も無げに言った。
「まあ、別に読む必要はないがな」
黒百合にしてみれば皆知っているメンバーではある。手間が省けて大助かりなところだったが、エリナにしてみれば聞き逃せる話ではなかった。
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ。クルーを確かめない気?」
「そのリストを読めなくしたのは何処の誰だ?」
「そっ、そりゃあ悪かったわね! でも、また後で確認すれば良いだけの話でしょう!?」
「俺には関係ないからな」
「関係ないって……何が?」
「誰がクルーとして乗り込もうと……俺のする事に変わりはないという事だ」
そう言われては押し黙るしかなかった。彼の行動には詮索をしない事、それが彼を引き抜く条件のひとつでもある。彼がこのプロジェクトに乗ってきた 理由も、火星にあるという以外は聞き出せてはいない。
「用件はそれだけか?」
そう言ってきた黒百合の顔を見返す。彼の相貌には何も映し出されてはいない。
「……」
「エリナ?」
「……いえ、何でもないわ。用件はもうひとつあるわよ。前々から貴方が要望してた件」
「……そうか、どうだった?」
黒百合の雰囲気が、微妙に変化した。エリナは敢えてそれには触れずに、促されるまま先を告げる。
「貴方の言っていた通りだったわ。資金の水増し請求に、定期報告の偽証。研究所で行われていた実験って言うのも、ね」
「その口振りからすると、相当なものだったようだな」
「ええ。会長が新しくなってから手を触れてなかったのをいい事に、やりたい放題やっていたようね。会社の利益云々より、もう単なる好奇心で研究を進 めていたみたい。科学者なんかに良くいるタイプよ」
「それで、その研究所はどうなる?」
「廃止、と言いたいところだけれどね。
現在は禁止されている遺伝子操作のデータが蓄積されているところだし……研究所自体は存続するわ。サンプルになる献体も数が限られているから、こ れから蓄積されるデータだけでも貴重なのよ」
「その所長の処分は?」
「2週間の自宅謹慎と24ヶ月の減俸。水増ししていた資金も個人的な研究に使っていたみたいだし、中には役に立つものもあったのよ。新型ナノマシン の開発とかね」
「貴重な人材の確保のためには、多少の散財もやむを得ないという事か」
「ま、そういう事」
「その成果として残ったのが、マシン・チャイルド……ネルガルも、随分と危ない橋を渡るものだな」
「まあ、今はクリムゾン・グループとの技術競争が激しいから、使える人材は何でも使うわ。貴方みたいにね」
「……違いない」
「今はよっぽどの不祥事でも起こさない限り、優秀な人材を手放したりはしないから、安心して良いわよ。取り敢えずの所は」
「…………」
押し黙ってしまった黒百合に、エリナは怪訝な表情を向けた。
「ねえ、確かに貴方のする事に詮索しないのが条件ではあったけど……疑問を口に出す事くらいは構わないでしょ?
貴方がこんな事調べて、一体どうする気だったの? 実験体にされた子供達は確かに運がなかったと思うけど、所詮は他人事でしょ? 貴方がヒューマ ニズム云々を口にするとは思えないんだけど」
エリナにしてみれば答えを期待して口にした事ではなかった。言った通り、疑問を口に出しただけだ。だから、いらえが返ってきたのにはむしろ虚を突 かれた。
「……他人事、ではないんでな」
「……え? 今なんて……」
「用件はそれだけだな?」
「え……ええ、そうだけど」
「そうか」
「あ――ちょっと!」
それだけ言うと、黒百合は踵を返した。エリナの制止の声にも構わず、地下ドックへと続くドアの向こうに消える。
「もう……何なのよ……」
溜め息をつくエリナ。黒百合の思考原理が理解できない。冷酷ななりをしているくせに、こんなどうでも良い事にまで興味を持つ。
そう、どうでも良い事だ。エリナにとってマシン・チャイルドなど、ネルガルでのし上がるための持ち札のひとつに過ぎない。研究成果には興味があっ ても、その成果の生まれる課程にはまったく用はなかった。
溜め息の理由はもうひとつある。
黒百合に探りを入れるためにわざと挑発的な物腰を取ったのに、めぼしい反応も返ってこなかった。
もっと食いついて来ると思っていたのに。拍子抜けも良いところだ。あっさりと引き下がるくらいなら、始めから訊かなければいい……
この時、彼女は気付かなかった。
黒百合の手が硬く握り締められていた事に。
背を向けている黒百合の全身に、うっすらと輝線が浮かび上がっていた事に。
エリナは、黒百合という男を見誤っていた。
スワ・シティの湖の畔にたたずむ、人類遺伝子研究所。
遺伝子病の治療や老化遺伝子の研究などを目的とした施設だが、その地下に広がる非公開の研究室では、日々遺伝子操作による人体強化の為の人体実験 が行われていたという事を知る者は少ない。
表向きは警備員が二人、施設の入り口に立っているだけだが、見る者が見れば、施設の周囲に最新型の電子監視機器が張り巡らされている事に気付いた だろう。
塀の外には一定の距離を空けて森が広がっており、無機質な監視カメラの視線が常に向けられている。誰もその目を逃れて施設に近づく事は出来ない。
9月の半ば、昨日までの厳しかった残暑も和らいで、秋の到来を予感させるうららかな日差しの昼下がり。
後ろ手に腕を組んで、忠実に仕事に勤しむ二人の警備員の目の前に、何の脈絡もなくこぶし大の丸いボールがぽとり落ちてきた。
周囲で遊んでいた子供の投げた野球のボールが飛び込んできたか、とでも思うところだが、生憎と施設の周囲5キロに人の住む民家は存在しない。
濃いめの茶色をしたボールは、ころころと転がって動きを止めた。
「?」
怪訝に思った警備員の一人が、近づいてボールを手に取る。
ピッ、ピッ……
そのボールからは小さな電子音が零れている。警備員がそれが高性能時限榴弾である事に気付く前に。
ピ――――――ッ
一際長い電子音が鳴り響いた。
湖畔の静寂を轟音が引き裂く。
爆発に吹き飛ばされる警備員。意識までは失わなかったのはプロであればこそだ。だが、それが皮肉にも彼の寿命を縮めた。彼の傍らに、煙に紛れて黒 い影が降り立つ。
「きさ――」
警備員の誰何の声は、最後まで言い切る事は出来なかった。黒い影の左手が翻り、警備員の首を薙ぐ。
カシュッ!
喉元にもう一つの口が開く。一瞬後、猛烈な勢いで赤い飛沫が噴き出した。
呻き声すら上げずに絶命する警備員を置き去りにして、影は施設内へ侵入する。途中、爆音を聞きつけた警備員達を物陰に隠れてやり過ごし、警備員の 詰め所脇の、給湯室へと滑り込んだ。
ドアを閉め、ロッカーの中にあったモップをつっかえ棒にする。踏み台の上に立って天井点検口を押し開け、天井裏を走っている配線を引っぱり出し た。
黒いチューブをナイフで開き、配線を剥き出しにすると、携帯端末の端子を差し込む。コンソールに当てた手の甲にナノマシンの紋様が浮かび上がり、 モニタの上を猛烈な勢いでマシン文字が滑っていく。
全てのプログラムを流し終えると、モニタに表示されている『Enter?』の文字に触れた。その瞬間、低い鳴動の音を上げて監理システムのコン ピューターがダウンする。照明が消え、即座に非常灯の赤い光が辺りを照らした。
施設内が喧噪に包まれる。
右往左往する警備員達。騒然となる研究者たち。皆が慌てふためいて出口へと殺到する。その流れに逆らって廊下を走り、地下への階段を駆け下りる。
下りた先には電子ロック式のドア。監理システムが別系統のため、機能は死んではいない。
マントの裏から取り出した吸着式の爆弾を張り付け、安全装置を解除。階段の裏に隠れて発信装置のボタンを押す。起爆――爆発。
爆風が収まるのもそこそこに、煙の中に飛び込む。爆煙を抜けた先には、驚きに固まっている研究者達の顔。恐らく、上での騒ぎも気付いていなかった に違いない。その手に持っているのは、幾つもの無針注射器を並べた金属製のトレイ。
驚きに固まっている研究者に向けて、自然な動作で拳銃を向ける。トリガーはいとも簡単に引けた。
タン、タン。
乾いた破裂音が2回。トレイに並べられていた注射器がガラガラと音を立てて床にばらまかれる。その音で、時の拘束が解けた。悲鳴を上げながら逃げ まどう研究者達。その背中に向けて、死の形を具現化した黒光りする銃口が差し向けられる。
一人につき2発づつ。16発入りの弾倉を丁度打ち尽くし、マガジンをイジェクト。新たなマガジンを装填し、奥へと足を進める。途中、床に転がって いる注射器を拾った。
銃声を聞きつけて逃げまどう研究者たち。地下研究室は、広大な空間を間仕切りで幾つかのラボに区切ってある。出入り口はひとつしかない。その彼等 に情け容赦なく銃弾を撃ち込む。瞬く間に弾倉が空になる。中には銃で反撃を試みる者もいたが、その弾丸がこちらの身体を捕らえる事はない。逆に銃弾2発を ワンセットで撃ち込まれ、白衣を紅く染めていった。
地下には、それほど多くの研究者が詰めていたわけではなかった。10分も経つと、動いている人影はひとつだけになった。カツ、カツと無機質な足音 だけが響いている。
と、計器類の物陰から小さな影が飛び出した。瞬時に拳銃を構え――トリガーを引く指の動きが止まった。
影の正体は、小さな少女だった。年齢は5,6歳。長い、空色の髪が揺れている。その面影には見覚えがあった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その少女に目を奪われた瞬間、背後から白衣を着た男が銃を構えて飛び出す。少女を囮にしたのだろう。その銃口は自分と――延長上にいる少女に向け られている。
とっさに床を蹴る。ただし銃弾を避けるためではない。飛び出した少女を抱きかかえ、守るように銃口に背を向けた。
男は錯乱しているのか、がむしゃらに銃を乱射した。狙いも何もあったものではない。それでも、幾つかの弾丸が背中に撃ち込まれるが、耐弾マントに 弾かれて致命傷には至らない。少女を抱えたまま物陰へと飛び込むと、銃を逆手に構え直し、弾幕が途切れた瞬間を狙って身を踊り出す。
とうに弾切れになっていた拳銃の引き金を、なおも執拗に引き続けている男。その顔に、絶望が浮かぶ。
発砲。
眉間に風穴を空けた男がくずおれる。その様を見届けた後、腕の中にいる少女に視線を向けた。
明らかに常人とは異なる空色の髪。琥珀色の瞳。それは、遺伝子操作を施されたマシン・チャイルドたる証。
その顔さしは、彼の半身――ラピス・ラズリに似ていた。