「……ここは何処だ!?」
俺 シン・アスカは宇宙にいた筈だった。そう。メサイアであいつ等と戦っていて……。
しかし、自分が今いる場所はどう見ても地球のどこかだ。窓に映る青空を見てそれに気が付く。
だが……何故ここにいるのかが分からなかった。
俺は確かにメサイアにいた。
そして、レイにキラ・ヤマトを任せて俺はアスランのジャスティスと戦った。それはまさしく死闘と言ってもいい戦いだった。だが、互角に戦いを繰り広げてい
る中でジャスティスのリフターが俺のデスティニーの右腕を斬り落とす。そして、次の瞬間ジャスティスのビームサーベルがデスティニーのコクピットに迫る。
「ここまでか……?」
俺はその時死を覚悟した。だが……やられたのは俺じゃなかった。
ジャスティスのビームサーベルがデスティニーのコクピットに突き刺さると思ったその時、ルナのインパルスが割り込んで俺の代わりにジャスティスの攻撃を受
けたのだ。そして、数秒後……攻撃を受けた場所がエンジン部に近かったせいかインパルスは爆発した。
「ルナァァァッ!!」
この時俺は又失った。誰よりも護りたかった人を。自分の命よりも大切な人を……。
「……アンタだけは……許さない。殺してやる!!」
俺は怒りに任せて攻撃を仕掛けたが……錯乱状態になったアスランに俺もやられて落とされたんだ。
そして、落とされてから見たものは絶望だった。動かなくなったデスティニー。天上にゆっくりと爆発を繰り返しながら月面へと落下してくるメサイア。そし
て、死肉に這い寄るハイエナのように何機ものオーブ軍MS ムラサメがすでに抵抗する力を失っているミネルバを攻撃する光景。
「くそっ、動けっ!!動けよ!!デスティニー!!」
俺は必死にデスティニーを動かそうとする。だが、そんな俺を嘲笑うかのようにデスティニーは動かなかった。そうしている間にもムラサメのビームが、ミサイ
ルが、弱ったミネルバの船体を打ちのめす。
「止めろぉ・・・やめろぉ・・・止めてくれ・・・やめてくれぇっ!」
ミネルバの船体があちこちで火を噴く。
「 や め ろ ぉ ぉ ぉ っ !」
そして、ミネルバは、爆発と煙をまき散らしながら・・・・・・
「あ・・・うああああ・・・・・うああああああああああああっ!」
月面へと落下し、粉微塵に砕け散って、爆発した。おそらく誰も生きてはいないだろう。
「う・・・・・あああああああああ」
そして、それと同時にメサイアもその身を崩壊させながら、月面へと衝突し二度と動かなくなった。
「う・・・・・あああああああああ」
結局……俺は誰も護れなかった。
又……全てを失ったんだ。
「俺は絶対にアンタ達を許さない!!……許すもんかぁぁぁっ!!」
俺は泣きながら叫び誓う。あいつ等を絶対に許さない。絶対に認めないと。
だが、戦闘でのダメージのせいかそのまま倒れた。
……それからのことは分からない。気が付いたらこの場所にいたのだ。
最初はあのメサイアの攻防戦が全部夢でルナやヨウラン達が生きていることを期待したが……自分の身体に巻かれている包帯を見て現実に起こったことだと認識
する。
あの悪夢のような出来事も現実だと痛みと共に理解して思わず涙が出た。
だが、その時だった。
「……あらもう起きたの?早いわね」
ドアが開いて黒い髪をした女性がそう言いながら入ってきた。
機動戦士ガンダムSEED DESTINY
〜明日を求める者〜
PHASE−01 折れた心
「アンタ誰だよ……?此処はどこだ!?うっ……!!」
シンは黒い髪の女性に質問するが肋骨に痛みを感じて左手で胸を抑える。
「貴方死んでもおかしくないほどの酷い怪我をしているのよ。少しは安静にしなさい。で、さっきの質問の答えだけど……私の名前はセレーネ・マクグリフ。中
立組織DSSDのメンバーよ」
セレーネの自己紹介を聞いてシンは質問する。
「俺を助けてくれたことには感謝する。でも……ここは何処なんだ?俺は……メサイアにいた筈なんだが。イツツ!!」
「呆れた子ね。自分の身体の状態も構わず無茶するなんて……。」
呆れて溜め息をつく。
「ここは何処だという質問だけど……上手くは説明できないわね。私……いや私達もつい四ヶ月前に来たばかりだから」
「えっ!?」
セレーネのその言葉にシンは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。
「信じられないと思うけど此処は貴方がいた世界じゃない。分かりやすく説明すれば異世界ってことになるかしら」
セレーネはそう言って部屋にあるテレビを付ける。
『臨時ニュースです。昨夜未明に大西洋沖で行われた連合宇宙軍と木星蜥蜴の戦いは……。』
「えっ……?」
テレビのニュースから聞こえた『連合宇宙軍』、『木星蜥蜴』と言う聞いたことのない単語にシンは何も言えなくなる。そして、少しずつだが今自分のいる場所
が自分が元いた世界ではないと無意識に認めていた。そして、そのニュースを見てセレーネは……
「又木星蜥蜴が勝ったようね。連合宇宙軍もバカね。相手の方が自分達よりも圧倒的に強いってことを認めないで交戦するんだからまあ当然でしょうけ
ど……。」
呆れたように言う。そんな彼女を見てシンは……
「ちょ……これ何の特撮だよ?蟲みたいな機械が戦艦やロボットを襲っているけど」
セレーネに質問する。
「その蟲みたいな機械が木星蜥蜴よ。と言ってもそう呼ばれているだけで本当に木星から来ているのかどうかなんてハッキリしていないんだけどね」
セレーネはそう言ってシンの質問に答える。
「貴方にはまだ話さなければいけないことが沢山あるけど今は傷を癒すことだけを考えて。じゃあ……一週間後に又来るわ」
セレーネはそう言うと部屋から出て行った。そして、一人になったシンは……
「ここは本当に異世界なんだな……。それも戦争がある世界……。これからどうすればいいんだ。奴等と戦うことすらできないこの世界で……。」
天井を見上げながら只呟くことしか出来なかった。
シンのリハビリはセレーネの診察により一ヵ月後から始まった。だが……
「うっ……。」
全然進んでいなかった。
「ホラ、どうしたの!?もう貴方の怪我は殆ど治っているのよ。もう立って歩くことは可能な筈よ」
そう。シンの怪我はまだ完治しているわけではないがそれでも立って歩くことができるくらいには治っていた。しかし……
「……くそっ」
何度やっても上手くいかない。立って歩いてもすぐに倒れてしまう。それの繰り返しだった。そして、リハビリを始めてから3時間後……
「今日はもうこれくらいにしましょう……。」
セレーネはそう言って部屋を出ようとする。
「ちょっ……待てよ。まだできる」
「無駄よ。今のままじゃ何度やっても同じ。これ以上やっても時間の無駄よ」
セレーネはそう言って部屋を出た。そして……
「くそっ……どうしてなんだよ?どうして動かないんだよ!!」
シンは一人になってからそう言いながら悔し涙を流す。
「……やはりすぐには無理だったみたいね。まあ、元いた世界で大切なものを失った挙句この世界に来たのだからすぐには立ち直れないと思ったけど予想以上
ね」
セレーネはとある部屋で呟く。
そう。彼女はシンのリハビリが上手くいかない理由を理解していた。メサイアの戦いで大切な仲間を失い、気が付いたら異世界に来てしまったことによる精神的
なショックが彼のリハビリを阻害しているということに。
「でも……何とかしないといけないわね。このままじゃいつまで経っても社会復帰できないしそれに……。」
そう言ってこの部屋に保管されている白い機体を見る。
「この機体に乗れるのはこの世界ではおそらく彼だけだから……。」
そう言って部屋をあとにする。
ちなみにシンのリハビリが終了したのはそれから三ヶ月後のことであった。
リハビリ終了後から数日後……
「見せたいものがあるって言ってましたけどなんなんですか?」
シンはセレーネの指示で格納庫のような施設の前にいた。
「もうすぐ分かるわ」
セレーネはそう言ってIDカードを使って施設の扉を開ける。そして……
「さあ入って」
施設に入るよう言う。その言葉にシンは黙って従う。だが……
「な……何でこれがここにあるんだよ?」
施設に入ったその瞬間、そこに保管させていたものを見て驚く。
「どうしてフリーダムとデスティニーが此処にあるんだよ?」
シンが施設に入ったその瞬間に目にしたもの。それはかつて自分の宿敵であったキラ・ヤマトの愛機であり自分が倒した機体 フリーダムとヘブンズベース戦
からメサイア戦で使用した自分の愛機 デスティニーであった。しかし、フリーダムは完全な形をしているのに対してデスティニーは両腕も左脚もなく頭部も
破壊された状態だった。
「二機ともジャンク屋が回収したものを買い取ったのよ。何かの研究材料に使えるかもしれないと思ったから。それで、とりあえずは修復することにしてけ
ど……この調子よ」
セレーネは2機を見ながら言う。
「そうか。でも……俺をこの場所に案内したのはデスティニーを見せる為だけじゃないんだろ。そろそろ喋ってくれないか。アンタが何を企んでいるのかを」
すぐにセレーネに真意を問いかける。
「ええ、そうよ。でも、企んでいると言う表現はやめてくれない?私は研究者であって策略家ではないから」
「誤魔化すな!!いい加減喋ろ!!」
シンはそう言ってセレーネを睨みつける。
「……分かったわよ。では単刀直入に言うわ。貴方に……このフリーダムに乗って木星蜥蜴から地球を……この世界を守って欲しいの」
「えっ!?」
シンはセレーネの真意を聞いて驚く。だが……
「ふざけるな!!どうしてフリーダムに乗って戦わなきゃいけないんだ!!デスティニーでもいいだろ!!」
シンのその言葉を聞いてセレーネは横に首を振る。
「デスティニーは修復不可能な程破損していたからもう無理よ」
「!!」
セレーネのその言葉にシンは黙る。いや、黙るしかなかった。しかし……
「デスティニーがもう駄目だと……。ふざけるな!!俺があんだけ破壊したフリーダムだってここまで修復できたんだ。嘘を言うな!!アンタ……いやアンタ達
なら出来る筈だ。デスティニーを修復しろよ!!」
怒りを露にして言う。そんなシンにセレーネは……
「ごめんなさい。どうしても無理なの……。下手に弄るとエンジンが暴発する可能性があるから」
そう言って頭を下げる。
「……そうか。分かったよ。でも、今の俺はどちみち戦うのは無理だ」
「えっ!?」
「俺は……あの世界で誰も守ることができなかった情けない男だ。又、戦ってもどうせ同じだ。戦っても又誰も守れないと言う結果で終わりだ。だから……悪い
けどアンタ達の力にはなれない」
シンはそう言って施設を後にする。
「心が折れてるわね……。完全に」
セレーネは施設を出る彼の後姿を見ながら悲しげにそう呟くことしかできなかった。
それから一ヵ月後 DSSDの研究所前で……
「どうしても出て行くのね?」
「ああ。ここにこのままいても迷惑になるだけだしな」
「これからどうするつもり?」
「分からない。とりあえずは一応この世界を歩き回って色々見てみようと思う。右も左も知らない状態だけどどうするべきなのかが分かるかも知れないから」
「そう。悪かったわね。貴方を利用しようとして」
「いや、いいよ。アンタには色々と世話になったから。それにこの世界での戸籍等のデータも手配してくれたし感謝してる。それにこっちこそ力になれず悪いと
思ってる」
「そう言ってくれると助かるわ。でも……」
「分かってる。縁があったら又ここに来る」
「ありがとう。元気でね」
「アンタもな。あまり研究に夢中になって身体壊すなよ」
シンはそう言ってセレーネと別れた。
だが、この時彼は気付いていなかった。
自分がもう既にこの世界の戦争に関わっていることに。
そして、一年後に行われることになるスキャパレリプロジェクトに自分が参加することにも。
ちょうど同じ頃木星のある場所では……
「……話からすると君は異世界の人間であの機体も君の世界で造られたものだと」
軍服らしき服装をした中年が金髪に赤い軍服の青年に問い質す。
「ああそうだ。だが、乗っ取ろうとしたりデータをコピーしようとしたりしないことをお奨めする。あの機体……デスティニーインパルスはコーディネイターで
ある俺にしか操縦不可能だからな」
金髪の青年はそう言ってフッと笑う。そんな彼に中年もとい木星連合軍のトップ 草壁春樹はギリッと歯軋りをする。
「随分と余裕だな。君は自分の置かれている立場が分かっているのかね?」
草壁はそう言って金髪の青年に銃を向ける。
「ああ、分かっているさ。と言っても痛い目を見たのは貴方の部下の方だが」
金髪の青年はそう言って自分達の周りで倒れている軍人達を指差す。全員血は流しているが気絶しているだけだ。しかし、これが金髪の青年の実力を嫌でも再認
識させる。だが、このままでは埒が空かないと思ったのか今度は金髪の青年の方が話を切り出す。
「今までの状況からしてどうやら貴方がこの軍のトップのようだが」
「ああそうだ。木星連合の軍の総司令 草壁春樹だが」
草壁はそう言って自己紹介をする。
「そうか。ならば単刀直入に言う。俺を貴方の部下にしてくれないか?」
「何っ!?」
草壁は金髪の青年のその言葉に驚く。
「俺はとある人間を探している。だが、困ったことに俺はこの世界については何も知らない。だから、その人間が何処にいるのか調べるには苦労することは確実
だ。そこで取り引きだ。俺が貴方の部下になる代わりに貴方は俺が探している人間についての情報を定期的に提供して欲しい。まあ、その場合はデスティニーイ
ンパルスは返してもらうがな」
「……。」
「それに俺は元いた世界で所属していた軍ではエリートパイロットだったのですよ。提案を飲んでも損はしないと思いますが」
草壁は金髪の青年の提案をどうするべきか暫く考える。味方になってくれれば確かに心強いがいつ裏切るか分からないと言う危険性もあるからだ。そして……
「分かった、君の要望を飲もう。たった今より君を、私直属の特務部隊隊長に任命する。追って命令あるまで待機とする」
金髪の青年の提案を飲む事にした。
「はっ、ありがとうございます。これよりマーレ・ストロードは待機に入ります」
金髪の青年 マーレ・ストロードはそう言って敬礼し待機任務に入る。だが……
「ひとつ質問するが君が探している人物とは何者なのかね?」
草壁はマ―レに彼が探している人物のことについて質問する。
「俺自身がこの世で最も殺したい男です……。」
マーレは質問が気に入らなかったのか刺々しい表情で答える。そんな彼に草壁は……
「き……気に障ったか。それはすまなかった。ではもう一つ質問する。その人物の名前を知っていれば教えてくれないかね?名前が分かれば調べ易いのでな」
今度はその人物の名前を尋ねる。その質問にマーレは……
「シン・アスカ……。」
と小声で答えそのままこの施設をあとにした。
あとがき
「どうも菩提樹です。最初に説明しますがこのSSでは原作とは違ってシンは全てを失っています。
このSSは原作の「SEED DESTINY」第49話から分岐していると考えて下さい。
一応今回のお話では「ナデシコ」第1話の一年前のお話でしたのでルリ達ナデシコのクルーは登場しませんでしたが次回に登場させます。
次回はいきなり一年後のお話でナデシコ初戦闘のお話の予定をしていますので。
ルリやアキトの登場はそれまでお待ち下さい。
それでは〜。」