ふと目が覚めると見覚えのない、いつもと違う天井が目に映る。周りの景色を見つめると、どうやらここは病室のようで、自分の腕には点滴がうたれていた。
起きあがろうとすると全身に痛みが走る。全身に走る痛みに思わず体を押さえようとして、自分の身体に違和感を感じた。
自分の肌の色が変わっている。アジア人特有の黄色っぽい肌の色ではなく、まるで白人のような白い肌の色になっている。
それはまるで自分の身体ではないようで、焦った俺は痛む身体に鞭打って何とか現状を確認しようと辺りを見回す。
そしてベッドの横に置いてあった鏡に気付き、乱暴にそれを掴み、覗きこむ。
鏡に映る姿は17年共に過ごしてきた俺の顔ではなかった。
まるで見覚えのない顔、自分とは似ても似つかない他人の顔がそこに写っていた。
わけのわからない現状に混乱する頭を押さえ、俺は叫ぶ。
「なんじゃこりゃー!?」
俺の叫び声を聞いて駆けつけた医者と看護師は、何とか俺を落ち着かせると事情を説明してくれた。
どうやら俺の名前はレイス・リンテンドと言う名前の人間らしい。
間違いなく本来の俺の名前ではない、無論レイス・リンテンドという名も聞き覚えはない。
記憶にある本来の俺は間違いなく日本人、○○大学を目指している高校3年生であり、それなりにアニメやマンガやゲームが好きで、中でもガンダムやコードギアス、スパロボなどのロボットが出てくる作品が好きであったという事。
さらにその中でもスパロボOGが好きで、何回もプレイし、アルトアイゼンが一番のお気に入りの機体だったという事。
そして今思い出すことが出来る一番新しい記憶は、塾の帰りに家まで歩いているとき、突然背中が熱くなり、ふりかえってみると全身黒ずくめの怪しい男が立っている。背中に手をあててみるとナイフのようなものが刺さっていて、ようやく俺はこいつが通り魔で、俺がこの男に襲われたという事を実感した。
そこで意識を失ったようで、そこから先の記憶はなく、次に目を覚ましたときにはレイス・リンテンドという人物になっていた。
どうやら今俺がいるこの場所はやはり病院のようで、訓練中の事故が原因で体を激しく打ち、一週間ほど眠り続けていたらしい。
なんでも、俺ことレイス・リンテンドは軍学校に入っていて、KMFの騎乗訓練中にむちゃな突撃をしたせいで機体を壊してしまい、俺自身もそのとき頭を強く打って今まで眠っていたらしい。
KMFという単語を聞き、俺はここで自分がコードギアスの世界にいるのだと気づく。
今まで事情を説明してくれた先生は、いくつか質問をしてから「今はひとまず安静にしておきなさい」という言葉を残して病室から出ていく。
とりあえずまだ混乱しているが、自分がレイスになったということを自覚すると、俺ではない、レイスの記憶が頭に流れてくる。
その中にはレイスの人生がまるで走馬灯のように俺の頭の中を流れる。その記憶の中にはレイスが事故にあった時の光景も流れていた。そこから得たレイスの情報なのだが、どうやらレイスはKMFの操縦は上手い。
それこそ軍学校でも一目置かれるほどには腕がいいらしい。
しかし猪突猛進なところがあり、すぐ熱くなりやすい、そのせいで周りが見えなくなるところがあったせいで、常に彼は2番手以降の地位に甘んじていたらしい。
正直言って俺とは正反対とまでは言わないが、かなり性格が違うみたいだ。
これから俺はレイスとして生きて行かなければならないので、少し気をつけなければならない。
それから1ヶ月ほど入院をして今日ようやく退院。
看護師の方々や担当の先生が病院の前で見送りをしてくれている。
この人たちは記憶が混乱している俺を懸命に看護してくれた人たち、今でもすごく感謝している。
お礼を言って「また時間があれば遊びに来ます」と言って病院を後にして、俺は現在の居場所である軍学校へと向かう。
学校にもどるとレイスの知り合いであった生徒が心配してくれ、教官は俺にげんこつを喰らわせ、泣きながら俺の無事を喜んでくれた。
俺の所属するブリタニア軍士官学校。
軍に志願する者はこの学校で基礎課程をクリアし、その後パイロットコース、管制官コース、医療課コースなどのそれぞれの専門分野を修めると卒業となり、各地に広がるブリタニア軍基地に配属される。
第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアの提唱する超実力主義は当然この士官学校も例外ではない。
実力のある生徒は飛び級が認められ、即戦力として戦場に送られ腕を振るうことが出来る。
エリートは華々しくデビューすることができ、その実力を遺憾なく発揮することが出来る、そしてそれ以外は遅れて卒業し、すでにデビューを果たしているその強者の下で駒のように働かされる。
このようにブリタニア軍は皇帝の提唱する超実力主義を体現しているのだ。
俺は入学1年目にして、パイロットコースの上位を争うほどの実力があるらしい、というのはすでに情報として知っているが、実際にはどうなのだろうか。
あくまで上位に食い込めるのはレイスの力であり、俺の力ではない。
俺がレイスになったことで、もしかしたらKMFが扱えなくなっているかもしれない。
そんな漠然とした不安を胸に、俺は学校にもどってきて、まずはじめにKMFの騎乗訓練を試した。
周りはもう少しゆっくりしろと止めてくれたが、これから生きて行く上で必要なことなので、その静止を振り切って訓練を行った。
だが、結果から言うとその心配は杞憂だった。
レイスの体は俺が考えた通りに自由自在に動いてくれ、俺がKMFに慣れるまで30分もかからなかった。
まるで何年もこの機体に乗り続けてきた感覚が俺の中に広がる。
その感覚はレイスのものなのだろう、それが俺の中に継承されているのか。
一通り動かして機体から降りるとパイロットコースの担当教官がこちらに近づいて来る。
俺の目の前まで来て、にこりと笑うと、拳骨をお見舞いされる。
あまりの痛みに俺は頭を押さえるが、教官は関係なしに話を始める。
「レイス、体はもう大丈夫か?まだ病みあがりなんだからあまり無理はするなよ」
教官は俺の心配をしてくれていたらしい。
ただ口よりも先に手が出るのはどうかと思う。
「はい、もう大丈夫です、心配かけて申しわけありませんでした」
俺は姿勢を正して教官にお礼を述べる。
「とりあえず一週間は激しい訓練は控えて体調を整えておけ、一週間後からはまた俺がみっちりと鍛えてやる、覚悟しておけよ」
そういうと俺の返事を聞く前に笑いながら他の生徒の元へと行ってしまった。
レイスの記憶の中のあの教官はとても厳しく、まさに鬼軍曹の体現者というような記憶があるので俺は少し頭が痛くなる。
そして時がとまるわけもなく一週間後がやってきてしまった。
俺は訓練に行きたくなくなってきたのだが、それを見越してか教官は俺を見つけるとすぐに訓練室へと連れて行かれる。
そして俺はKMFのシミュレーターに乗っている。
「これより訓練を開始する、まずは連携を確認しその後3対3の模擬戦を開始する、なおこの模擬戦に敗北したチームは罰として俺特製の気合ジュースをプレゼントだ」
気合ジュース、それはパイロットコースの恐怖の対象で、あれを飲んだ生徒はなぜか話し方が片言になり、教官に絶対服従となり、気がついてもその間の記憶がなくなると言うまさに催眠ジュースのようなものだ。
そんな物を飲んだら俺はまた死んでしまうかもしれない、それだけは避けないといけない。
幸い生徒数は18人でチーム分けはランダムにしてなるべくバランスが良くなるようになっているので、めったに1位から6位が同じチームになる事はない。
現在俺は3位ということになっているので周りとしっかり連携を取りさえすれば、そうそう負ける事はなく隙を見て各個撃破しようと思っていた。
しかし今回はそのありえないことが起こってしまう。
Aチーム、俺(3位)、12位、16位
Bチーム、1位、4位、5位
Cチーム、2位、11位、18位
Dチーム、6位、10位、15位
Eチーム、7位、13位、14位
Fチーム、8位、9位、17位
Aチーム対Bチーム Cチーム対Dチーム Eチーム対Fチーム
このチーム分けを見た瞬間、俺はめまいが起こり、他のチームのメンバーも哀れむような目で俺たちAチームのメンバーを見ていた。
対戦表の発表を見たあと、俺がひとりで頭をかかえていると、見るからにナルシストで性格の悪そうな男が近づいて来る。
「やぁ、リンテンド君、どうやら僕たちBチームと試合のようだね」
こいつの名前はジャック・ライアット。
パイロットコースでの順位は1位である。
こいつの家は子爵家でこいつは親の権力を自分のものだと勘違いしていて、強いものには媚びへつらい、弱いものには高圧的な態度を取る、まさに権力に溺れ腐敗した貴族を代表するような人間で、口にこそ出さないが、こいつは周りからも嫌われている。
ちなみにこいつは俺が平民の出でありながら、俺が自分よりも注目されている事が気に入らないのか、何かあるとすぐに俺に突っかかってくるので正直迷惑だ。
「そうみたいだな」
何となくめんどくさかったので適当に返事をすることにした。
「は、今回の模擬戦は選考のバランスが少し悪くなってしまったようだけど、まぁ運が悪かったと思ってあきらめるしかないね」
厭味ったらしいその言葉はケンカを売っているんだろう、だがいちいちこんなことに乗っていたらきりがない。
適当にあしらうことにしよう。
「あぁ、まるで意図的に仕組まれたかのような組み合わせだな」
「そ、そんなことあるわけないじゃないか、ははは」
当たり障りのない返答を返したのだが、どういうわけか目の前のこいつは酷く動揺したように慌てている。
まさか本当にこの試合は仕組まれたもの・・・
そんなわけないか、第一訓練生であるこいつにそんな事ができるはずもないだろう。
ましてや教官たちがそんな事に加担をするはずないし、気のせいだろう。
そう考えて、この事はこれ以上気にしないことにした。
それは置いておいて、明らかにこちらをバカにしたような態度で接してくる。
正直俺も腹が立つ、こっちも少し挑発してやろうか。
「まぁこれだけBチームに有利な状況なんだ。もしこれで負けたら恥ずかしくて訓練出て来れなくなるだろうな」
自分でもやすい挑発だなと思ったのだが、目の前のこいつは簡単に食いついてくる。
「まぁ万が一にもそんな事はありえないが、もしそんな事が起こったら僕は君のいうことをなんでもきいてあげるよ」
負けるわけがない、本当にそう思っているのだろう。
一寸の躊躇もなくそう返してきたこいつは、自身満々な態度を崩さない。
これは是非負けた時の顔が見てみたい、すこしやる気が出たので、こいつに賭けを持ち出す事にした。
「じゃあ負けたほうは訓練用のKMFの整備と掃除でもすることにでもしようか?」
すでに勝ちを確信しているこいつは、あっさりとこの賭けに乗った。
そしてバカみたいに高笑いながら自分のチームのもとへと戻って行った。
これで賭けは成立、後はBチームを負かすのみ。
今回はチーム戦、チームメイトの協力は不可欠、よって俺はチームメイトにある作戦の提案を行う。
俺の提案を受けた2人は俺の考えた作戦に協力してくれると約束してくれた。
これで準備は万全、そしてついに模擬戦の時間になり、俺たちはそれぞれのシミュレーターにのりこむ。
さて、この世界に来てから、シミュレーターながらもついにKMFでの実戦だ。
「それでは模擬戦を始める、AチームvsBチーム、開始!」
教官の声を合図に俺の後ろに待機していた2人の機体が動き始める。
俺は逸る気持ちを押さえながら、操縦桿を握りしめ、ペダルを強く踏み込んだ。
<ジャック>
僕には気に入らないやつがいる。
そいつの名前はレイス・リンテンド。
彼は僕を差し置いて周囲から注目されている、僕はそれが腹立たしい。
何故一番である僕を差し置いて・・・ムカつく、ムカつく、ムカつく!
だから彼が訓練で失敗して入院した時は鼻で笑ってやった、所詮お前はその程度なんだよ、と。
だが、彼が戻ってきてから周囲の目は更に彼に集まっていった。
だから今度こそリンテンドに恥をかかせようと、次の模擬戦で彼を徹底的にやっつけるために、ある教官に金を握らせてメンバー選考に細工をさせた。
そして今、対戦表を見て頭を抱えているリンテンドを見つけた、更にプレッシャーをかけてやるため彼に近づき声をかける事にした。
彼もこの組み合わせには参っているようで、いい気味だった。
だが僕の企みなどお見通し、とも取れる発言には、まさか気づいたのかと思ってかなり焦ったが、どうやら違うようでほっとした。
彼は言葉を強くして、何とか平静を保とうとしているのだろう。
普段は言わないような安い挑発を仕掛けてくる。
聞いていて安い挑発だなと思ったが、この組み合わせで負けるわけない。
すると彼の方から賭けを持ち出し、僕はそれに乗った。
これで彼に恥をかかせ、自分の評価をあげる絶好の機会を手に入れることができた、やる前から勝利が決まっている。
最高の気分で模擬戦を向かえる事ができそうだ。
彼が悔しそうな顔をしながら掃除をするのを想像すると、今から楽しみで笑いを抑える事ができなかった。
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