「ウリバタケさんにはですね、このナデシコの整備班班長をしてもらいます」

「俺がか!?」

「ええ。それでアマツカさ「よぉっしゃぁぁぁ!! これで好きなだけ解体できるぅ!」……はぁ」


人選を間違えたかなぁと早くも後悔しているプロスをよそに上機嫌でスパナを振り回すセイヤ。

そしてヤシロは自分は何をすればいいのかなぁと思いつつも2人の対照的な様子を見ていた。



機動戦艦ナデシコ〜異界より来し者〜

第4話  〜初めての戦場〜


〜ナデシコ 格納庫〜

(ヤシロ視点)

「おらぁ〜! サボってねぇでエステの腕持ってこい!!」

「「「は、はい!」」」

「そっちはソフトの調整はどうだ!?」

「ようやく一機の調整が終わったところです」

「よぉし! あと一週間で出航予定だからな。それまでにここにある分の調整は済ましとけ」

「わかりました」

「おい野郎ども!! 俺らのミスでパイロットが死んじまうようなことのないように気を引き締めていけ!!!」

「「「「「おお――す!!!!」」」」

「すみません、ここのプログラムなんですが……」

「ん? ああ、ここは起動処理時に……」

「なるほど、わかりました」

「あと一週間で出航です。がんばりましょう」


俺とセイヤさんがこの戦艦ナデシコに乗艦してから今日で一週間が過ぎた。

あれから整備班のメンバーに紹介されたあと、俺は整備班班長補佐……つまりはセイヤさんの補佐に任命された。

訳を聞くとあの暴走行為を止められるということで選ばれたらしい。

はじめは若輩者として蔑まれたりしていたが、プログラミングの腕が認められたのか今ではそれなりに仲良くやっている。

そして……この一週間の間に整備班のほかのクルー達にも出会った。

若干青みがかった銀の髪に金色の瞳を持ち、ナデシコのオペレータを務めるわずか11歳の少女であるホシノルリちゃん。

元声優さんというこの場にあまり似合わない職業のナデシコの通信担当を務めるメグミ・レイナードさん。

元社長秘書とこれまたこの場に似合わない職業で、来た時からよくからかわれてしまうナデシコの操船担当ハルカミナトさん。

スカウトの時にプロスさんに同行していてこの艦では保安部に務めるらしいゴート・ホーリーさん。

ナデシコの食堂で毎回おいしい食事を提供してくれるコックのホウメイさんと、従業員のタナカハルミさん、ミズハラジュンコさん、サトウミカコさん、ウエム ラエリさん、テラサキサユリさん。

他にも軍から出向してきたというキノコ状の髪型とオカマ口調が特徴でナデシコでは副提督の地位についているムネタケサダアキ宇宙軍中将。

そして、第一次火星会戦の英雄であるフクベジン提督。

他にもパイロットと艦長と副艦長が乗艦することになっている。

……のだが、聞いた話だと艦長と副艦長の着任は3日前だったらしい。

連絡もないとプロスさんが愚痴を言っていたので本当のことなのだろう。

社長出勤という言葉があるけど艦長がしたらまずいでしょ。


「おらー! ヤシロ!! 仕事中にボーッとしてんじゃねぇ! 俺たちはパイロットの命預かってんだぞ!!」

「あ、はい!!」


セイヤさんの怒声にあわててタイピングを再開させる。

いつの間にか考え込んでいたらしい。今は仕事中仕事中……

・・・・・・

・・・・

・・



あれからしばらくはそれぞれの仕事に精を出し、俺もプログラムの調整をしていた。

起動処理用プログラム、動作補正プログラム、照準補正プログラム……

調整といっても実際には何度も実験と調整を繰り返さないといけないのでこれは仮の調整だが……

一時間ほどキーボードを打ち続けていると、正午を知らせる鐘の音(の電子音)が鳴り響いた。


「おおーし、各自キリの良いところにで昼休憩だ!!」

「「「「おーす」」」」

「んじゃお先に失礼しまーす」


まだ終わったわけではないが、昼食のときは約束があるのでセイヤさんの声が聞こえるとすぐに格納庫を出て行った。

別に急いでいく必要もないのかもしれないけど、自分から半ば無理やり約束させた挙句に破るわけにもいかないよなぁ。お腹空かせてるかもしれないし……。


「アマツカ整備班班長補佐、入ります」


まだ動いていないとはいえ、この艦は一応戦艦なのでブリッジに入る時には自分の担当部署を言うことにしている。

ここにいる人は皆知ってるけどね。けじめは大事でしょ?

ブリッジに入るとそこにはいつもと同じ3人がそれぞれの椅子に座っていた。


「あらいらっしゃい、今日もお迎えご苦労さま」

「こんにちは、ヤシロ君」

『こんにちはヤシロ』

「あはは、こんにちはです。ミナトさん、メグミさん、オモイカネもね。ルリちゃんもこんにちは」


入るとミナトさんとメグミさんが毎回声をかけてくれる。軍艦って訳じゃないけどこんな風にそれぞれの距離が近いってのは良いと思う。

それとナデシコの積み込まれているAIである彼「オモイカネ」ともこの艦のことなどでよく話すことがあるので割と仲良しだ。

彼らに挨拶をしながら最後の1人にも声をかけると


「3分の遅刻です」


2人とは温度が違う声音が返ってきた。なんか目線も微妙に冷たい……


「ごめんごめん、プログラムの調整に時間掛かっててね」


ルリちゃんの視線に思わず冷や汗を流しながら遅れたことを詫びた。

彼女も本気で怒っていたわけではなかったようで、頭を下げるとすぐに威圧感が消え去る。


「もういいです。昼ご飯を食べる時間がなくなってしまいます」

「そうだね。んじゃ行きますか」

「そうね、それじゃ行きましょうか」

「今日は何を食べようかなぁ」


そう、先ほど言った約束とはルリちゃんと一緒に昼食をとることなのだ。

というのも五日前に昼食をとりに食堂に行くと、食堂脇の自販機にカードを差し込んでいるルリの姿を見つけた。

その時は特に理由もなく単なる好奇心で聞いたのだが、話をしてみると普段からジャンクフードや栄養補助食品しか食べていないということがわかった。

その話を聞いた後は無性に可哀想に思ってしまい、強制的に食堂に連れて行って一緒に昼ご飯を食べることにした。

今思うと我ながら強引だなぁとは思った。

食堂に連れて行ったときは自分でも理由がわからなかったが、たぶん俺は人の料理の暖かさを知って欲しかったんだろうと思う。

食事とはただ単に栄養を補給するための行為ではない。

料理とは作る者と食べる者の会話であると何かの本で読んだことがある。

作る者は料理に想いを込め、食べる者はその想いを味として感じる。

ジャンクフードやカロリーブロックでは決して感じられない人の暖かさを感じて欲しかったんだ。

そんなこんなで一回目の昼食会は終わったんだけど次の日もカロリーブロックを買っているルリを見つけ、再び食堂に連れて行って一緒に食事をとった。

その時にゴリ押し気味に「一緒に昼ご飯を食べよう」という約束をしたのだ。

はじめてブリッジにルリちゃんを迎えに行ったときはミナトさんのからかいを受けたが、事情を話すとミナトさんも一緒に食べることになり、
せっかくなのでメグミさんもと4人で昼食をとることになった。

そんなことをつらつらと考えながら3人について行くと食堂にたどり着いた。

・・・・・・・・

・・・・

・・



(ルリ視点)

食堂に入ると先に食事をとっていた人たちが一斉にこちらに目を向けました。

初めの頃は向けられる熱のこもった視線が怖くて、メグミさんも驚いていたけどミナトさんだけは気づいていないのか平然としていました。

なぜ平然としていたかを尋ねてみると返ってきたのは「視線を先を辿ってみなさい」の一言だけです。

言われたとおり視線を辿ってみるとその先には一緒に食事のをとる約束をしたヤシロさんがいました。

ヤシロさんも浴びせられる視線の雨に頬から汗を流して顔を引きつらせています。

ヤシロさんに熱い視線を向ける男の人たち……なるほど、これが世に言うホ○なんでしょうか?

同じ職場ですし、ヤシロさんもアルビノという変わった体質のようですが顔は整っていますし……。


「ホウメイさん、Bセットお願い」

「私はAセットをください」

「こんにちはホウメイさん。俺はチャーハンでお願いします」

「あいよ! ちょっと待っとくれ」


ヤシロさん○モ疑惑について考えていると、いつの間にかカウンター席についていました。


「ルリちゃんは何食べる?」

「それではチャーハンを」

「チャーハンもう1つお願いします!」

「は、はい!」


ホウメイさんは調理で離れていたのでホウメイガールズの1人に注文をしてくれました。

注文を伝えたホーメイガールズの1人、サトウミカコさんの顔が赤かったのを見ているとなぜかムカムカします。

それが態度に出ていたのか隣に座っているヤシロさんが心配げにこちらを見ていました。


「どうかした? もしかしてチャーハン以外が食べたかったとか」

「そんなことはありません」

「そお? なんか不機嫌そうだけど」

「何でもありません」

「そ、そお……」


普段どおりにしていると言うのにしきりにヤシロさんは尋ねてきます。

そんなに、今の自分は変なのでしょうか。

ミナトさんは何が楽しいのか私たちを見て笑っていますし、メグミさんはどこかうらやましそうにしています。

なんなのでしょうか?

そのあとは運ばれてきた料理を皆で食べました。

ヤシロさんたちは色々と話をしながら食べています。

私はその話を聞きながらときどき言葉をはさみながら食べていました。

ホウメイさんの料理は暖かくて美味しいです。

以前は必要分の栄養補給ができればそれでいいと思っていました。が、今では物足りなさを感じます。

あの時ヤシロさんに誘われなければこの暖かい料理を知らないままだったのでしょうね。

……ありがとうございます。

・・・・・・・・

・・・・

・・



(ヤシロ視点)

食堂で食事をとったあと3人をブリッジまで送り、格納庫に戻っていった。

なんて言うか……食堂に行くたびに睨まれるのは勘弁して欲しい。

ミナトさんなんかふざけて腕を絡めてくるし……まぁ、気持ちよかったけど///

ルリちゃんも少しずつ会話に参加してくるようになったし、彼女にはもっと人の優しさを知って欲しい。

格納庫に戻ると周りからの痛い視線を無視して途中で止めていたプログラムの調整を再開させた。


「よぉ、相変わらずうらやましいことしてんな」


しばらくタイピングしていると顔全体にニヤけた表情を浮かべているセイヤさんがやってきた。

またか、とそちらに顔を向けることなく調整を続けながらいつもと同じことを言ってみた。


「なにがですか。プログラム調整なら変わりますよ」

「んなことじゃねぇよ」


適当の返すとニヤけた顔が憮然とした感じに変わったのがわかる。


「冗談ですよ」


4人で食事をとることになってからはお馴染みのやりとりに俺としてもうんざりしていたので話を変えようとセイヤさんの方に顔を向けた。

……が、その視線はセイヤさんの顔に向けられることはなかった。

その視線の先には何故か歩いているエステバリスが……


「セイヤさん」

「俺が言いてぇのはなぁ。両手に花どころかってなんだよ、俺の後ろになんかあんのか」

「いや、エステバリスってIFSがないと動かないんだよね?」

「ああ!? んなの当たり前だろうが。お前だって仕様書には目ぇ通したろ」


突然の出来事に事態を認識することができずにセイヤさんと会話を続ける。

今も珍妙な動きを披露しているエステバリス。

我先にとエステから離れる作業員たち。


「じゃあ、あれは何で動いてるんです?」

「なにがうご……い……」


この騒音と、俺の様子がおかしいことに気づいたのか背後に振り向き、途中で止まるセイヤさん。


「な、なんじゃこりゃ―――!!!」


セイヤさんの叫び声が聞こえたのか珍妙な動きをしていたエステバリスのスピーカーから声が返ってきた。


『これが外部マイクか? こいつスッゲーな! まさか本物のゲキガンガーに乗れるとは思ってもいなかったぜ!!』<サイズ変更+2>

「お前は何勝手に人のエステ動かしてんだ! さっさと降りろ! だいたいあんた誰だ!!」

『なにぃぃ! それじゃアンタが国分寺博士なのか!? すっげぇ!! まさか博士に会えるとは! ここに来てよかったぜぇ!!!』<サイズ変更+ 3>

「国分寺博士って誰だよ……もう誰でもいいからさっさと降りろ!!」

『では遅ればせながら紹介をしよう。この俺が! 無敵の正義のヒーロー!! ダイゴウジガイだぁ!!!』<サイズ変更+4>


微妙に成り立っていない会話のキャッチボールをしているセイヤさんといまだにクネクネ動いているエステバリスを遠巻きに見ていると後ろからプロスさんと見 慣れない同い年くらいの青年がやって来るのが見えた。

向こうもこちらに気づいたのか足早に近づいてくる。


「アマツカさん、これはどういうことですか? なぜエステバリスが動いてるんです?」

「え〜っと、たぶんパイロットだと思うんですけど……勝手に乗っちゃったんです」

「パイロットですか? パイロットの着任予定は3日後のはずですが……」

『いや、ほんとにマジでスッゲーよな! 一足早く来た甲斐があったぜ!!』<サイズ変更+2>

「……だそうですよ」


パイロットから来た答えを顔をこれ異常ないというほど引きつらせているプロスさんと事情を飲み込めていないのか唖然としている青年。

またプロスさん落ち込まないといいけど……いくら腕が一流でもこれはないんでない?

騒然としている作業員たちを尻目にいまだに暴れまわるエステバリス。


「レッツゴー! ゲキガンガー!!

 飛べ!! スペースガンガー!!

 トドメは必殺ぅ 〜〜〜ゲキガンブレ――ド!!!」



よく分からんがなにやら歌いながら珍妙なポーズをとっているエステバリス。

なんというか俺らが苦労して組み上げたのでやられていることにフツフツと怒りがこみ上げてきた。

周りを見渡すと皆思うことが一緒なのかエステの搭乗口にいるはずのパイロットを睨んでいる。


『ここにいる諸君は最大の幸運を得た! 見よ! このガイ様の超スーパーウルトラグレ〜ト必殺技!』

「ちょっと待てぇ! 何するつもりだてめぇ!!」


セイヤさんの必死の制止の声も、無茶苦茶ハイになっているであろうパイロットには届かなかった。

彼の叫び声に合わせてポーズを決め、


『ガァ〜イ! スーパーナッパーーー!!!』


自称「彼の必殺技」とともに右手を突き上げ片足つま先立ちで静止するエステバリス。

Q.このようなバランスの取れない姿勢で静止すると?

A.倒れます。


ドグラガシャーン!!


「「「「「…………」」」」」


いい感じに周りを巻き込んで派手にぶっ倒れたエステにさすがに声もでない。

俺ら以外にも、先ほどからブツブツつぶやいているプロスさんは本格的に沈みだし、ついてきた青年は呆然としている。

エステの状態の確認をしなくちゃならないし、なによりこんな馬鹿げたことにエステを傷つけた馬鹿野郎の顔を見なくてはならない。

俺もムカついているがやばいのはセイヤさんだ。あれは本気で切れている最悪殺してしまうかもしれない。

整備班全員で取り巻くように近づいていくと徐々に搭乗口が開き中からいかにも熱血野郎とわかる暑苦しい顔の男が顔を出した。


「だっはっはっは! わりぃわりぃ! ちょっとミスっちまったよ!!」


そのまったく反省の色のない発言に全員の顔にはっきりと青筋が浮かび上がる。


「でもマジですっげ〜よな! 手足が思ったとおりに動くんだぜ!!」


いまだに今の状態を理解していない気違いが自らの喜びを語り始めた。

やべ、まじでムカついてきた……。


「ただ、このフォルムがなぁ、どうせならもっとゲキガンガーに近づけないと俺のテンションが……」


ブチッ


「「「「「ふざけんなごらぁ!!!」」」」」


気違いの発言に周りの人たちが手に持っているものを投げつけ始めた。

ここにいるものたちは整備班なので持っているものはスパナやレンチ、プライヤーなどそれなりに重量があり思いっきり殴れば人も殺せるばかりだ。

俺も常に持ち歩いている工具セットの中からスパナを取り出し投げつけた。

無事に殲滅し終わった後はセイヤさんの指示で気違いを引きずり出し、足を見てみると骨折しているようなので数人で医務室に運ばせることにした。


「あの……」

「んあ?」



俺は横たわっているエステバリスの主に地面に打ち付けた右半身を状態を確認しようとしていると、先ほどからいた青年が遠慮気味に声をかけてきた。


「さっきのパイロットがあの中に宝物を忘れたから取って来いって」

「宝物? ん〜まぁそれなら取ってきていいよ。ただあまり計器には触らないようにね」

「は、はい」


さっきの洗礼に萎縮したのかどこか怯えた様子で話してくる。

まぁ、さっきのは怖いかもなぁ。まぁ彼もクルーなんだしおいおい直るか……。

そう思い腕の状態を確認するために外すように声を上げようとした瞬間、艦内を揺るがす衝撃が走った。

何度も響く衝撃に周りは何事かと辺りを見回している。

これはただ事じゃないよね……。


「どうやら木星蜥蜴にここのことが知られてしまったようですね」


その声にプロスさんに目を向けると、いつにない真剣な表情で顔を上に向けている。

上……天井?……違う! 地上!!

地上が襲われている……人が死んでいく、地上だけじゃないここも襲われる可能性が高いだろう。

この艦の性能を見た限りではたしかにずば抜けた性能を持っているけど……起動もしていない今の状態では何もできずに落とされるぞ!


「うわぁぁぁぁーーー!!」



突然聞こえた叫び声に顔を向けるとそこには緊急起動を果たしたエステバリスが立ち上がろうとしていた。


「んな!?」


エステが動いてる? いったい誰が操縦してんだ!?


「そういえばテンカワさんはIFSを持ってましたね」


プロスさんの声に思い浮かんだのは先ほどの青年。


「何する気だ! さっさと止まれ!!」


こちらの静止の声など聞くわけもなくエステバリスは大型用エレベータに乗り込んだ。

馬鹿たれが……何がしたいんだか知らないけど死ぬぞ!

地上に向かっているテンカワとやらに悪態をつくとまだ片腕を繋げていないエステに向かって走り出した。


「おい! ヤシロ!!」

「さっきの馬鹿を連れ戻してきます!」


まだ完全に調整も済んでいないエステに乗り込んだ。


「エステバリス緊急起動! 起動シーケンス1〜20まで省略! 離れてろ!!」


散っていく職場仲間を尻目にもう一台の大型用エレベータに乗り込むと同時に地上へのボタンを押した。

・・・・・・・・

・・・・

・・



(ブリッジ・ルリ視点)

艦内に響き渡った衝撃に、オモイカネから出して得たデータをブリッジクルーに伝えた。


「敵襲。場所はナデシコ頭上の佐世保宇宙軍基地。バッタ・ジョロ合わせて約300です」


その声を聞いたブリッジクルーは各自の席に座り各部への連絡や状況確認などおのおのの仕事をこなしていく。

初戦にして突発的な事態にも大した混乱もなく配置につけたのはたしかに一流と言えるかもしれません。

艦内各部署への通達をメグミさんが、艦内の現状報告をゴートさんがそれぞれ行っています。

そんな中、ただ1人騒いでいるのが……


「ちょっと! さっさと迎撃しなさいよ!」

「どうやってですか?」

「ナデシコの主砲で敵を焼き払うのよ!」

「ナデシコの主砲は艦の機構上、前方にしか正射することはできません」


副提督を名乗るのなら艦の基本的な性能くらいは理解していてもらいたいものです。


「そ、それなら稼動できる砲塔をすべて地上に向けて一斉射撃よ!」

「地上にいる人たちはどうするのよ?」

「すでに全滅してるわ!」

「非人道的ですねぇ」

「生きるか死ぬかのときに人道なんかどうでもいいでしょ!」

「地上に向かって斉射した場合、私たちも瓦礫の底に沈むことになりますが?」

「キィーーー!!!」


キノコさんの考えないしな作戦にブリッジクルーは全員で否定しています。

思い通りに行かないからって叫ばないでください。うるさいキノコです。

その一切を無視しているフクベ提督が3日も遅刻してきた艦長にどうするか尋ねています。


「この地下ドックから海底ゲートを通り、その後浮上して主砲のにより殲滅します」


なるほど、さきほどまでとは違い毅然とした態度で方針を決めるユリカさん。

さすがは、地球連合大学主席といったところでしょうか。


「でも相手が一箇所にまとまってくれてないと殲滅はできないわよ?」


そうです。ここは地球、大気が存在します。

このナデシコに搭載されている相転移エンジンは真空中で力を発揮するため大気中では本来のエネルギーを出すことができません。

よってこのエネルギーを大量に使う主砲「グラビティブラスト」は連射ができないということです。


「エステバリスを一機囮になってもらい、木星蜥蜴を一箇所に集めてもらいます」

「え! それじゃパイロットが危険です!」

「このままでは全員生き埋めかやられるか全滅は必至です。ここはパイロットを信じます」

「でも!」


なにやら反対意見が出ているようですが私も言わなくてはならないことがあります。


「先ほど来たパイロットならば現在医務室で治療中です」

「「え?」」

「現在動けるパイロットはいません」


現状報告に流れてきた情報をもとに医務室の映像を映し出すと足にギブスを付け、全身に包帯を巻いている男が寝かされていました。


「ルリちゃん、この人が?」

「今艦にいる唯一のパイロットです」

「それじゃ「搬入用大型エレベーターが動いています!」え!?」


メグミさんの声に2台のエレベーターの映像を映し出すとそこにはなにやら挙動不審気味に肩を動いているピンク色のエステバリスと片腕がない黒に近い藍色の エステバリスが地上に向けて移動していました。


「パイロットに繋ぎたまえ」


フクベ提督の声に両機に通信を繋げると


『うわ! な、なに!?』

『ん? ルリちゃんがいるってことはブリッジにつながったのか?』


茶色の髪の男性と白銀色の髪と紅眼をこちらに向けている男性がディスプレイに映し出されました。

片方は初めて見た人ですが……なぜあなたが乗っているんですか、ヤシロさん。


「君たちは何故ナデシコの起動兵器に乗っている。所属と名前を報告したまえ」


本来パイロットではない人が操縦しているという事態にもフクベ提督は落ち着いて身元照合をしています。……さすがですね。


『エステバリスおよびナデシコ整備班班長補佐アマツカヤシロです』

『あ、今日からここでコック見習いとして働くことになったテンカワアキトです』


報告された所属にブリッジクルーは驚いているなか、審問は続いています。


「それでは何故この緊急事態に無断でエステバリスに乗っているのかね」

『え、えっと……』


何やら後ろめたいことでもあるのかテンカワさんは目線をあちこちに向けながら口ごもっています。

その様子にもう一度聞き直そうとフクベ提督が口を開きかけると、


「どう「あ〜〜! アキト!! アキトだ!!」

「「「ぐぁ!!」」」


突然の大声に周りの人たちは耳を押さえています。……かくいう私も耳が痛いです。


「ユ、ユリカ……」

「なんでなんでぇ〜? なんでアキトがこんなところにいるのぉ?」

「それはお前に「ああ! わかった! ユリカを助けてくれるために来てくれたんだね!!」」

「いや、ちが「わかってる! さすがはユリカの王子様だね!!」」

「人の話を「それじゃ囮はアキトに任せるね! 信じてるから!」」

「い「10分たったらここに敵を集めておいてね!」ちょブツッ」


言いたいことだけ言ってユリカさんは通信を切ってしまいました。

テンカワさんの様子だとユリカさんの言っていることとは違うように思えたのですが……


『あのぅ』


あ、そういえばヤシロさんもいるのを忘れていました。

先ほどの口撃のダメージでしょうか? いけませんね、しっかりしなくては。


「このような事態だ、君ともう1人に10分間時間を稼いで欲しい」


今の状況を考えるとたしかに最低でも10分はかかりますね。


「ヤシロさん! 危ないから降りてください!」

 
地上の状態を知っているだけに心配なんですね、メグミさん。


「死んじゃ駄目よ。必ず還って来なさい」


ミナトさんも今の状況では真剣ですね。

 
「君、操縦の経験はあるのかね?」

 
そういえばそうですね。動かしているということはIFSがあるということなのでしょうが。

 
「困りましたな・・・整備班に危険手当は書いていないのですが」

 
いつの間にいたんですか、プロスさん。


「無理はしないでください」


一緒にお昼ご飯を食べた人、料理の暖かさを教えてくれた人、そして、私の心を暖かくしてくれる人。

まだ約束は続いているのですからちゃんと還ってきてくださいね、ヤシロさん。

ヤシロさんは何か考えていたのか私たちの声を目を瞑って聞いていました。

何を思ったのか口元を歪めると閉じていた瞼を開きました。

そこには真っ赤に染まって、どこまでも澄んでいる瞳をこちらに向けて


『わかりました、できるだけのことはします。』


決然とした声と共にヤシロさんを乗せているエレベーターは地上に到着しました。

・・・・・・・・

・・・・

・・



(ヤシロ視点)

「このような事態だ、君ともう1人に10分間時間を稼いで欲しい」


時間を稼いで欲しいって稼いだ後はどうなるんですか、提督。


「ヤシロさん! 危ないから降りてください!」

 
俺も帰りたいけどね、その前にあの馬鹿を連れて帰らないと。


「死んじゃ駄目よ。必ず還って来なさい」


もちろんですよ、ミナトさん。

 
「君、操縦の経験はあるのかね?」


本格的な操縦は今回が初めてです、ゴートさん。

 
「困りましたな・・・整備班に危険手当は書いていないのですが」

 
いつの間にいたんですか、プロスさん。


「無理はしないでください」


あはは、ここにいる時点でもう遅いんだけどね。

ちゃんと還ってくるよ。一緒に昼食を食べる約束を破るわけには行かないしね。

それぞれの言葉を聞きながら情報をまとめると

1、地上には木星蜥蜴が襲い掛かってきている

2、ナデシコの発進までには時間がかかる

3、その間俺とテンカワが囮となって時間を稼ぐ

4、稼ぐ時間は10分

本格的な操縦なんかはしたことがないが、思い通りに動くようだしこの機体のスペックや機能はよく知っている。

どちらせよこのままだと蜥蜴とは戦闘を始めることになるだろう。

断わる以前に確実に囮になるな。

その結論に思わず苦笑しつつも了解の意を伝えておいた。

不思議だ……なんでこんなに落ち着いているんだろう……今から死に最も近い場所に行くというのに頭の中は今までにないくらい研ぎ澄まされている。

なぜここまで落ち着いているのかはわからないが好都合だ。

今なら……いける!!

ヤシロが覚悟を決めるのと同時にエレベーターの扉は開いた。






〜あとがき〜

こんにちはコヒルです。

第4話どうでしたでしょうか。自分ではここまで早く更新できたことに驚いています。

ただ長さの関係上中途半端なところで終わってしまいました。

なるべく早く続きを書こうと思うのでお待ちくださいませ。

次回は木星蜥蜴とヤシロ、アキトペアの初戦闘ですが短くなってしまうかもしれません。

戦闘風景などは大の苦手なので(汗)

なんとか頑張りますので次回も読んでいただければ感謝です。

それではまた次回お会いしましょう。



感想

TV第一話まで来ましたね〜

つうか、フォントサイズ変更してなくて申し訳ない(汗)

感想今頃ですけど、まだ時間も無いんでちょっと短めです。

えと、話はいい感じで進んでますね。

ルリは少し主人公を意識するのが早い気もしますが…

その辺りも面白く設定できると良いですね。

さて、ヤシロ君に取って初めての見せ場ですが…

どれくらいの強さなのか、気になりますね〜

最強なのか、普通なのか、徐々に成長していくのか、色々想像してしまいます♪

ヤシロ君の場合整備班の能力も+されますから、応用利きそう。

今後も期待しております♪




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