21世紀初頭日本、東京――
そのとある地区にその者はいた。タカハシ ハヤト。
かつて、南極に現われた謎の空間シュバルツバースの調査隊に参加した者である。
その中でいくつもの困難に立ち向かいながらも立ちはだかる強敵を倒し、人類を救う事に大きく貢献した立役者であった。
そんな彼は現在、長期休暇を利用して自身の出身である日本にいた。長期休暇といっても国連から与えられたものであるが。
ふと、ハヤトは空を見上げてみる。思い出されるのはあのシュバルツバースで起きたこと。そこで失われた物はあまりにも多かった。
シュバルツバース突入の際、4隻あった観測艦はシュバルツバースの空間異常により散り散りとなり、内2隻は大破。
ハヤトが乗艦していたレッドスプライト号以外の乗員のほとんどは死亡、もしくは行方不明……
レッドスプライト号の乗員も多くがシュバルツバースに存在する悪魔によって殺され、生き残った者達も何人かが理想を求めて艦から離れてしまう。
結果、生き残ったのは自分を含めてわずかな乗員だけであった。
その理想を求めた者の中にはヒメネスとゼレーニンもいた。ヒメネスは任務中に出会ったバカブーという悪魔と。
ゼレーニンは神の命を受けて現われたというマンセットという悪魔と出会った。
2人はそれによって人のあり方を考えるようになり……ヒメネスはある事態によってバカブーと合体し、自らが悪魔となり――
ゼレーニンもある事態を解決すべく、マンセットの力によって自らも神の御使いとなり――
2人は理想を求めてレッドスプライト号を離れた。彼と彼女に賛同する乗員を引き連れて。
それに対し、ハヤトは人類の未来を信じて自分を貫き通した。故に道を違えたヒメネスとゼレーニンと戦い、打ち倒すこととなった。
そのことに後悔は無い。でなければ、今こうしていることも人類が生き残ることも無かっただろう。
だが、時折悩んでしまうのだ。自分に出来ることとはなんなのかを……
シュバルツバースを消滅させ、そこから脱出した後、自分を含めた生き残りに国連は多大な恩赦を与えてくれた。
だが、それだけであった。ハヤト達が命懸けで得た情報は国連で様々な議論となっているが、それだけでしかない。
人類を動かすことも無く、変化を起こすことも無く……でも、それはしょうがないのかもしれない。
いきなりあんなことを言われて信じろというのは無理だろうし、何かしろというのも無茶だろう。
だからこそ、考えてしまうのだ。自分は何をすべきなのかと……確かに自分は人類が生き残るために様々な者達と戦い勝ってきた。
だが、それだけなのだ。シュバルツバースでの出来事は一般には基本的に機密事項となっている。
だから、周りの者達はハヤトが何者なのかを知らない。それは彼にとっては別に良かった。
ハヤトとて、あんなことで有名になろうとは思ってはいない。なぜなら、色んな犠牲の上で今という状況にある。
それを自慢しようとはハヤトは思ってもいなかった。だが、そうなってしまった者達に報いる為にも何をすべきなのか……
ハヤトがそんなことを考えている時――
「ようやく見つけましたよ。ハヤト隊員」
自分を呼ぶ声が聞こえた。そちらへと顔を向けてみると、そこには1人の女性がいた。
年の頃は自分より若いであろう女性は優しくも知的な印象を与える整った顔立ちに背中まで伸びる黒髪。
ほっそりとしていながらも整ったスタイルとハヤトよりも少し低い身長の体を白のワンピースで包んでいた。
そんな女性を見てハヤトは戸惑った。なぜなら、彼は彼女を知らないのだ。記憶違いでなければ、彼女のような人物と会った記憶が無い。
「あの、失礼だが……どなただろうか?」
「やはり、わかりませんか……ですが、それもしょうがないでしょう。このような姿で会うのは初めてですし」
戸惑うハヤトに女性は微笑みを浮かべながらそんなことを漏らした。
そんな女性にハヤトは既視感のようなものを感じる。そう、以前にもこんなやりとりをしたような――
「私はかつて、あなた達にアーサーと呼ばれていました……といえば、おわかりになりますか?」
「え? アーサー? アーサーって、もしかして――」
「そうです、そのアーサーです。お久しぶりです、ハヤト隊員」
それを聞き、ハヤトの顔は驚愕のものへと変わる。だが、逆にアーサーと名乗った女性はそれを見てかくすりと笑っていた。
アーサー……それはハヤトが乗艦していたレッドスプライト号の管理プログラムにして疑似人格を持った指令コマンドであった者の名であった。
戸惑いながらも話を聞こうとハヤトはアーサーをオープンカフェに案内し、席へと着いた。
そこでコーヒーを2つ注文して来るまでの間、ハヤトはアーサーを見てみる。
こんなオープンテラスにいるのが良く似合いそうな麗人であり、自分には不釣り合いだなと思わず考えてしまう。
一方で何を話せばいいかわからずにいた。実際、目の前の女性がアーサーなのか疑問に思うところだが……
だが、先程のやりとりはあのアーサーでなければ出来ないはず。やはり彼女は――
なんてことを考えているとコーヒーが運ばれて、それぞれ自分とアーサーの前に置かれる。
と、アーサーは置かれたコーヒーを不思議そうに見てから手に取り、カップのふちを口に添えて――
突然、口に手を当てながらうつむき、カップを置いてしまう。
「あ、もしかして……口に合わなかったのかな?」
「いえ、その……私は物を食すというのもそうですが、味覚によって情報を得るというのは初めての経験でしたので……」
少し涙目になっているアーサーを見て、ハヤトは思わず納得してしまう。元々、アーサーは疑似人格を持っていたとはいえプログラムなのだ。
一応体のような物は持っていたが、動くことも出来ない上に姿がてるてる坊主みたいな物で、当たり前だがそんな体で食事なんて出来るはずもない。
それと共に彼女はやはりアーサーなのだと思い、同時になぜ彼女が人の体でここにいるかが気になってしまう。
「あの……なんと聞けばいいのか……君はなぜ、その……その姿に?」
「そのことですが……実を言えば、それに対する明確な答えを持ち合わせていません」
「わからないってことかい?」
ハヤトの疑問にアーサーはうなずいた。だが、それはしょうがないとハヤトは思わず納得してしまう。
プログラムが実態どころか人の体を得るなんて話はジャパニーズアニメーションでもなければありえない話なのだ。
いかにアーサーが優れたプログラムであったとしてもわからないこともあると思ったのだが――
「申し訳ありません。私も気付いた時にはこの体になっていましたから……ですが、推測は出来ます」
「推測?」
「はい。ゴア隊長のあの力が私に人の体を与えてくれたのではないかと……
その理由として、あの時ゴア隊長が持っていた力のいくつかが私にも確認されました」
アーサーの話を聞いて、ハヤトは思わずなるほどと思ってしまった。ゴア隊長はシュバルツバース調査隊の隊長に選ばれた者である。
カリスマとも言えるリーダーシップで隊員達の心の支えとなっていたが、仲間を救うために前線に立ち……
その際の悪魔の不意打ちで致命傷を負い、ハヤトや隊員達に後を託して命を落としてしまう。
その後、ある悪魔によってゴア隊長の遺体は蘇る。その悪魔の手先として……
だが、ハヤトがその悪魔を倒したことで呪縛から解き放たれたゴア隊長は一時彷徨うこととなったが人類を救うという使命を思い出し、
蘇らせた悪魔が与えた超常の力を持ってハヤト達の元へと帰ってきた。
しかし、その力は同時にゴア隊長を押し潰そうとしていた。ゴア隊長はそれに耐えていたが、限界が近付き――
ハヤト達に人類を救う術を与え、ハヤトに自らの力を与え……ゴア隊長は消えていった。
その後、シュバルツバースを消滅させるため、シュバルツバースで手に入れた物質と核爆弾を用いてアーサーは自爆しようとしていた。
シュバルツバースで得たデータが人類に悪影響を与える。
そう考えてコピーもバックアップも残さずに自爆しようとしたが、この時彼女に戸惑いが生まれていた。
シュバルツバースで得たのは何も情報だけではなかった。ゴア隊長から与えられた様々な情報。それにハヤトや隊員達とのやりとり。
それがプログラムでしかなかったアーサーに初めて人としての感情を与えたのだ。それがアーサーに自爆を躊躇わせていたのである。
それでもアーサーは残ろうとする。自分が得たデータを完全に抹消するために……
その時、アーサーはハヤトにゴア隊長から与えられた力を欲しいと願う。そうすれば、自分は出来ると思ったから――
ハヤトもその願いを聞き届け、アーサーに力を与えた。彼としてもアーサーを勇気付けたかった。
ハヤトも人類のために戦おうと思ってはいたが、シュバルツバースの中では右も左もわからぬ状態であった。
そんな彼に指針を出したのがアーサーだった。そんな2人は色々なやりとりをし、ある種の絆を深めていったのだ。
ハヤトのその行動は故になのかもしれない。
その力を受け取ったアーサーはハヤト達が脱出したのを確認すると自爆した。
そこでアーサーは終わるはずだった。だが、彼女もまた生き残った。人の体を得るという形で。
それはもしかしたら、ゴア隊長の意志がアーサーを助けようとしたのかもしれない。ゴア隊長とはそういう人だったから――
「私がこの体を持って目覚めたのは日本のある地域……森の中でした。なぜ、私が生きているのか? なぜ、この体を持っているのか?
色々と疑問はありましたが、現状を知るのが先決と考え、それを調べるために行動を開始しました。
もっとも、しばらくの間は目覚めた場所で中々動けずにいましたが……」
「動けなかった?」
「その……私は体を持って動くという経験がありませんでしたから……」
思わず首を傾げるハヤトであったが、アーサーは顔を赤くしつつうつむきながら答える。
立って歩くという人にとっては当たり前の事かもしれないが、アーサーはそんなことすらしたことが無かった。
立っては転び、歩いては転びと赤ん坊と同じことを繰り返しながら、彼女は立って歩くということを覚えたのである。
幸いと言っていいのかわからないが、アーサーの体は優れた物だったようで、立って歩くということを1時間ほどで覚えられたが。
「端末を見つけた私はそこからネットワークに介入して現状を調べました。
幸いだったのは、この体はかつてのゴア隊長と同じようにネットワークに介入する力があったことです。
そのおかげでスムーズに行うことが出来ました。そして、わかったのは私の自爆によってシュバルツバースが消滅したこと。
あなたを含めた生き残った隊員達の現状。そして、あなた方が持ち帰った情報により、国連が錯綜していることでした」
ハヤトを見据えながらアーサーは話していた。彼女としては人類が生き残ったことは嬉しく思っていた。
なぜなら、自分はそのために創られたのだし、ハヤトもそのために戦ってきたのだから。だが――
「こんな時になんだが……シュバルツバースは再び現われると思うか?」
「人類が現状のままを維持し続けた場合、そう遠くない未来に再度現われる可能性は高いと思います」
アーサーの返事にハヤトはやはりと思った。シュバルツバースは繁栄する人類に対する反作用――
地球という大地を汚しながら繁栄を続けようとする人類を、ある意味粛正しようと起きたことであった。
「確かに私が持つデータ……情報があれば、出現を食い止めることは出来ます。
ですが、それは人類の現状を変えなければならない。それは神々が行おうとしたことと変わらないのです」
うつむきながら、アーサーはそんなことを話した。神々が行おうとしたのは人類を導くこと。
そうすることが人類にとって最善なのだと彼らは言う。確かに神々に従えばシュバルツバースが現われることも無いだろう。
だが、それは人類の自由を奪うことにもなる。神々に従うというのは、言い方を変えれば人類に何もするなと言っているような物である。
確かに神々にしてみれば現状を起こしてしまった人類にこれ以上のことをして欲しくはないだろう。
かといって、それが人類にとっていいことかと聞かれたら首を傾げてしまうかもしれない。
なぜなら、それは人類の先という未来を閉ざすことにもなりかねないのだ。
「かといって、シュバルツバースの出現をただ見守るというのも愚行です。それは悪魔のやり方を肯定しているのと変わりませんから」
街を行き交う人々を見ながらアーサーは話していた。悪魔がやろうとしたのは人類の粛正と強者による支配。
もしそうなれば、それは人類にとって地獄でしかない。基本的に人類は悪魔から見れば弱者でしかないのだから。
それにシュバルツバースの中で悪魔達が調査隊にしたことを考えれば、碌な事にならないのは目に見えている。
「では、どうすればいいんだ?」
「それは……恥ずかしいことなのですが、私にもわからないのです」
ハヤトの問い掛けにアーサーはすまなそうに身を縮こまらせながら答えていた。
「今の私は様々なデータを持っています。ですが、それをもってしても、どうすれば良いのかわからないのです。
人類という種を貫きながら行える最善な方法が……私にはかつてのゴア隊長のように先を見通す力はありませんから……」
力なく……どこか怯えたようにアーサーは答える。人類とは一枚岩ではない。
調査隊の隊員達がそうであったように、人類の中には神々や悪魔のやり方に賛同する者もいるだろう。
だからこそ、わからなくなってしまうのだ。そんな者達も納得する方法が……なぜなら、どちらかを立たせようとすれば、逆が立ちいかなくなる。
どうすれば良いかわからず、アーサーは思わず不安を顔に出して――
「あ……」
そんな彼女の両手を、ハヤトは優しく包むように握っていた。
「私はアーサーほど優秀ではないが……それでも出来うる限りのことはしよう。だから、1人で悩まないで欲しい」
アーサーを見つめながら、ハヤトは真剣な眼差しでそんなことを告げていた。
彼としてはアーサーを勇気付けたかった。確かに言うとおり、自分に出来ることなど限られているだろう。
それでも彼女の力になりたかった。あの時、アーサーが自爆して躊躇っていたのを勇気付けたように――
一方で両手を握られたアーサーは顔を赤くしながらハヤトを見つめていた。なぜだろう?
彼を見ていると鼓動が早くなって、体が熱くなるような……初めての感覚に戸惑いながら、それでも彼女はハヤトから顔を背けることが出来ずにいた。
まぁ、その光景はどう見たって恋人同士のアレなわけだが……今の2人にそんなことなど気付けてなかった。
「あ、ありがとう……ございます……」
「いや、俺は何もしてないさ。ところでこれからどうするんだ?」
顔を赤くしつつも礼を言うアーサーに謙遜しつつもハヤトは問い掛けていた。気になった。ただ、それだけの理由なのだが――
「え、あ……その……実は考えていないのです。あなたに会うことを最優先にしていましたから……ですから、これからのことはまったく……」
と、アーサーはすまなそうにうつむきながら答える。そんな彼女を見て、ハヤトは思わず笑みが漏れそうになる。
別に困らせるつもりはなかったのだが、今のアーサーを見ているとなぜか嬉しくなってしまう。
人となったアーサーは確かに人になったのだと実感出来て……だからだろうか? なんとかしてあげたいと思ってしまうのだ。
「なら、俺の家に来るかい?」
「ええと……それはお誘い……というものでしょうか?」
その気持ちからそんなことを言い出すのだが、アーサーに指摘されてハヤトは照れくさそうに頬を指で掻きながら顔を背けていた。
そんな彼を見て、アーサーは思わずくすくすと笑っていたりするけど。
これからしばらく後、国連で新たな舞台が設立されることとなる。
その設立にある男女が関わっていたりするのだが……それはまたの機会にでも――
あとがき
こちらでは初めまして。HN:DRTと申します。
真・女神転生ストレンジジャーニーをクリアし、それに思わず感動してこんなのを書いてみました。
女神転生シリーズは何作かプレイしてますが、私的に久々なヒット作でありましたよ。
特にラストなんかは……まぁ、こちらで書いた物はほぼネタバレみたいなものですがね^^;
もし、よろしければご感想をいただけると幸いです。では、またの機会がありましたら――
あ、下のパスワードは真・女神転生ストレンジジャーニー用の悪魔召喚パスワードです。
中身はピクシーです。最後まで使えるであろう……たぶんですが……仲魔になると思いますよ。
むZENHHはてFZはこSれゆは
ろWもCにろみこRのすないくUめ
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