in side

「はぁ……」
 学校の教室で今は昼休みの時間。俺は自分の席に座り、ため息を吐いていた。
昨日、無事にボルテクス界から帰って来れた訳なんだが、そこで色々と驚くことがわかった。
まず、この世界とボルテクス界とは時間にズレがあるらしい。いや、ズレと言っていいのか……
どういうことかというと、ボルテクス界では大体半日ほど過ごしてたはずなんだけど、俺の世界じゃ数十分程度しか経ってなかったんだ。
いや、ビックリしたね。家に帰ってテレビを見た時はさ。ま、それはそれで助かったんだけど……ただ、問題もあった。
例えば、今の筋肉痛とか。ボルテクス界で悪魔と戦った時に無茶しすぎたせいか、朝起きたら筋肉痛で体が動かせなかったんだよ。
あまりの痛さに鎮痛剤飲んだけど……それでもまだ痛む。で、ため息の理由はもう1つあって――
「GUMPとかどうすりゃいいんだよ……」
 思わず机に突っ伏す。そう、問題だったのがGUMPや武器だった。GUMPはまだ誤魔化しが効くけど……
武器はそうはいかない。だって、完全に銃刀法違反だしな。幸いというかリュックに詰め込んだんで、人目に付かずに帰れたけど。
今はクローゼットの中に隠してあるが……なんかの拍子で親とかに見られたらまずいよなぁ……
 それにミュウ達もどうしよ? 今はGUMPの中にいてもらってるけど……元々はこの世界に帰る手伝いをしてもらったようなもんだしな。
ボルテクス界に帰ってもらうかな? そうだ。その時に武器もボルテクス界に通じてる穴に放り込んじゃおう。そうすりゃ証拠隠滅出来る。
 でも、悩んでしまう。このままでいいのか? と……あれで終わったはずなのだ。なのに、首を傾げる。
なぜかはわからない。わからないから悩んでしまう。
「翔太。どうしたの? お昼も食べないで?」
「あ、いや……」
 と、近付いて来た女子生徒に言いよどむ。彼女は谷川 理華。俺のご近所で幼馴染みだ。
綺麗な顔立ちが背中まで伸びてる黒髪に良く似合い、スタイルも良い。なんだよ、その胸の大きさは……
成績も運動も良く、本当に俺の幼馴染みでいいんだろうかと思ってしまうんだが、本人は気にしてないらしい。
「いや、色々とな」
 とりあえず、誤魔化した。だってさ、ボルテクス界のこと、どうやって話せばいいのさ?
当然、理華も納得しなかったようで呆れた顔をしてる。
「もう、しゃんとしないと美希ちゃんに目を付けられるよ?」
「それは勘弁して欲しいな」
 理華に言われてため息を吐く。ちなみに美希とはもう1人の幼馴染みなんだが、そっちは機会があったら紹介しておこう。
美希は色々とうるさい……だけじゃないしな。
「ほら、お昼食べにいこ」
「へいへい」
 理華に引っ張られる形で連れて行かれる俺。この時、違和感のことを考えるべきだったのかもしれない。
俺としては終わったと思いたかったせいもあるかもしれないけど……


 で、放課後。これといったことも起きずに帰る俺。ちなみに帰宅部だ。
「大丈夫? なんか、本当に元気が無いけど……」
「いや、大丈夫だ……」
 なぜか一緒にいる理華に自分でもわかるくらいに渇いた笑みを向けていた。
まぁ、元気が無いのはGUMPのこともあるけど、やっぱりというか筋肉痛だ。少しマシになってきたけど、それでも痛いものは痛い。
でも、筋肉痛になった理由なんて言えるわけがないので……結局、耐えるしかないんだよな。誤魔化そうにも言い訳が思いつかなかったし。
「もう、しっかりしてよ。もう少しで夏休みなんだしさ」
「ああ……そうだったな」
 理華の笑顔を見て、ふと思った。帰ってきたんだという実感が再び湧いてきた。
今思うと、ボルテクス界での出来事は良い思い出になったかもしれない。そう考えることにした。俺は日常に戻ってきたんだから――
だからだろうか? 次に起きたことに頭が回らなかった。
「でさ、夏休みにどこか――」
「……は?」
 気が付いたら、理華が消えていた。消えた? え? なんで? 今まで目の前にいたよな?
ちょっと目を離したけど、その間に視界の中からいなくなるなんて普通無理だぞ!? ホントになぜ!?
なんてことを考えてたら、なんか見覚えがある物が……って、あれってボルテクス界に繋がってる穴じゃねぇか!?
なんで? なんでここにあるのさ!? って、消えた!? 消えたよ、マジで!? て、待て……
あそこに穴があった。で、さっきまでその穴の所に理華がいなかったか? え? 何? もしかして、理華がボルテクス界に行っちゃったとか?
なんでさあぁぁぁぁぁぁ!? て、混乱してる場合じゃねぇ!?
「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!?」
 思わず叫びながら駆け出す。向かう先は家。筋肉痛なんて気にしてられない。
なんでかはわからないが、理華はボルテクス界に行っちまったのはほぼ間違いない!
ボルテクス界に行ったらどうなるか? そんなのは俺自身が経験してる。俺は運が良かったけど……
だから走る。理華をそのままにしておくのは嫌だから……知り合いがいなくなるのは、嫌なんだよ!
「あ、翔太。お帰り〜って、どうしたの?」
 家に着くなり、俺は母さんに返事を返さずに部屋へと飛び込む。そして、GUMPや武器を詰め込んだリュックやジャケットを引っ張り出し――
「うぐ!?」
 ここに来て筋肉痛が再びひどくなる。さっき走ったせいか……でも、我慢……と、思った時に魔石が入った缶が視界に映る。
まさかなと思いつつ、ダメ元で魔石を砕いてみる。砕くことで魔石から光が出て……痛みが引いた。
マジで筋肉痛にも効くとはな。魔法万歳って所か? て、んなこと考えてる場合じゃない!
手早く着替えを済ませ、ジャケットを着込み、リュックとウェストポーチひっさげて部屋を飛び出る。
「わりぃ! 出掛けてくる!」
「え? 翔太、そんな格好でどこへ――」
 母さんの言葉を最後まで聞かずに家を出て、向かうは公園の林の中。まだあるか?
不安を感じながら公園の林の中に入り……あった! 穴はまだあった。すぐさま穴に飛び込み、ボルテクス界へ出るとすぐに武器を装備する。
だが、ここであることに気付いた。まず、銃の弾丸の残りが心許ないということ。弾丸を詰めたマガジンの残りは2つ。
弾丸のストックはまだあるけど、マガジンに詰めなきゃいけない。時間が無いかもしれないのにそんなことをしてる暇なんて無い。
それに魔石の残りも2個ということ。体力も回復出来る魔石ばっかり使っていたのがこんな所で裏目に出るなんて……
いや、まさかまたここに来るなんて思ってもいなかったしな。幸いというか、治療薬は8個と余裕はあるけど――
仕方無いと思いつつ、俺はGUMPを操作してミュウ達を召喚する。
「ふぅ〜……まったく、COMPの中は狭くて嫌ね。で、どうしたの? なんか、慌ててるみたいだけど?」
「俺の知り合いがボルテクス界に飛ばされちまったんだ! 探すの手伝ってくれ!」
「え? ちょっと待ちなさいよ、翔太!?」
「待ってくれんかのぉ〜」
 ミュウに答えてから駆け出す俺。頼む、無事でいてくれよ!


 out side

「はぁ、はぁ、いやぁ!?」
 理華は走っていた。訳がわからないまま、何かから逃げるように。
いきなり体の感覚が消え、翔太の姿も消えたかと思った次の瞬間には見知らぬ場所にいた。
何も無い、草原とも言える場所に。突然の事に理華は混乱したのは仕方がないだろう。
なにしろ、なんの前触れも無く一瞬で見たこともない所に来てしまったのだ。これで普通でいられる者など、まずいない。
 しばらくして理華は歩き出した。何がどうなっているのかを確かめようとしたのだ。
まだ混乱していたが何もしないわけにもいかず、それに何かわかるかもしれないと思い……歩き回ってる内にそれは現われた。
最初はそれがなんなのかわからなかった。見ようによってはぬいぐるみにも見えた。でも、襲いかかってきたことでそうじゃないことがわかり……
後はただ、逃げるしかなかった。混乱と恐怖でわけもわからないまま、襲いかかってくる者から逃れるために。
 だが、それもいつまでも続かない。
「きゃ!?」
 何かに足を引っかけ転んでしまったのだ。
「う、つ……は!?」
 痛みに耐えながら立ち上がろうとして気付く。あれはすでにすぐそばにいた。
逃げようにも立ち上がる間に襲いかかってくるのは目に見えている。
「あ、ああ……」
 恐怖で体が震える。もうダメだと思ってしまう。なぜ、こうなってしまったのかわからない。
このまま自分はどうなるのか……考えたくもない。
「いやあぁぁぁぁぁぁ!?」
 襲いかかってくるそれを見て、理華は顔を背けながら悲鳴を上げる。
その時、なぜか翔太の顔が浮かんできて……心の中でなぜかごめんと謝ってしまう。そんな時――
「させるかあぁぁぁぁぁぁ!?」
「うがあぁぁぁぁぁ!?」
 突然聞こえてきた叫び声と悲鳴。でも、叫び声には聞き覚えがあった。
その声の主を確かめようと理華は恐る恐る顔を上げ――
「大丈夫か?」
 心配しながらこちらを見る翔太の姿を見るのだった。後に理華は語る。
あの時の翔太はまるで物語に出てくる白馬に乗った王子様のようだったと――


 in side

「はぁ……はぁ……わりぃ……周り見ててくれ……」
「了解しましたわ」
 理華に襲いかかっていた悪魔を倒した後に女性の姿をした悪魔にそう言ってから、地面に座り込んでしまった。
彼女は天使エンジェル。理華を捜し回ってる際、事情を知って仲魔になってくれた悪魔だ。
それはそれとして、俺は座り込むと治療薬を取り出して傷に塗り始める。
「あ、翔太……怪我、してるの? え? 大丈夫なの?」
「ああ、一応な……」
 理華はまだ混乱してるみたいだが、こっちを心配してくれる。だが、状況的に結構ヤバイ。
まず、魔石が切れた。ボルテクス界に来るなり俺はあちこち駆け回ったんだが、当然というか悪魔が襲いかかってくる。
理華を捜すことばかり考えていた俺は邪魔だとばかりに行く手を遮る悪魔だけを倒し、突き進んでいたんだけど……
その先で運悪く悪魔の集団にぶつかってしまったんだわ。
その数の多さに逃げだそうとしたけど、囲まれちゃって……ミュウ達の助けもあってなんとか逃げることは出来た。
でも、その時にやられまくったせいで仕方なく魔石を使い……エンジェルを仲魔にする前にも戦闘があって、そこで使い果たしてしまったわけ。
 魔法で治してもらう手が無い訳じゃないけど、悪魔の集団から逃げる際にミュウも魔法をかなり使ってて、魔力切れ寸前なのだそうだ。
エンジェルも治療魔法を使えるが……ふと、GUMPを取り出して開き、マップを見てみる。
困ったことにここからだと穴までは結構距離があるみたいだ。町の方は……それなりってくらいだけど、こっちの方が近い。
このまま穴に向かうより、町に行って魔石とかを買いそろえた方が良さそうだな。
「ねぇ、翔太……ここ、どこなの? それにこの人達……なんなの?」
 なんてことを考えてたら理華にそんなことを聞かれた。やっぱ、話さなきゃダメだよなぁ……
なんてことを思いつつ、GUMPをしまってリュックから弾丸を取り出す。銃の弾丸もマガジンに込めた分はすでに使い切っていた。
改めて込め直すけど……確か残りが50発で、マガジンには15発込められるから……マガジン3つと余り5発か……
余りの5発はどうしよ? マガジンに詰め込んでおこうかな?
「それって銃じゃない!? なんでそんなの持ってるのよ!?」
「あ〜……なんというか、落ち着いて聞いてくれよ。ここはボルテクス界という異世界でな。一応人間はいるが、悪魔が住む世界なんだよ。
んで、その悪魔は人間に襲いかかってくる。実は昨日、俺もボルテクス界に飛ばされてな。
元の世界に帰るためにはどうしても悪魔と戦わなきゃならなかったから、こうして銃を持ってるんだよ」
 弾丸を見て驚く理華に、マガジンに弾丸を込めつつ話し始めた。まぁ、かなり端折ってるけど。
「それって、本当なの?」
「詳しいことは帰れたら話すよ」
 まぁ、やっぱりというか疑われた。ただ、一から話すと長くなるしな。それに銃は死んだ人からかっぱらいましたなんて言ったら……
うん、これは言わない方がいいな。
「じ、じゃあ……この人達も悪魔……なの?」
「安心しろ。ミュウ達は俺の仲魔だ」
「ミュウ?」
「私の名前よ」
「きゃ!?」
 俺の話を聞いて首を傾げる理華だったけど、ミュウがいきなり近付いたんで驚いていた。
「もう、失礼ねぇ〜」
「いや、初めての人なら驚くと思うぞ。普通は」
 不機嫌そうなミュウにそう言っておく。俺も驚いたしな。
「本当に……仲間なんだ……」
「ああ。安心した?」
 答えるんだけど、理華としては複雑そうな顔をしている。ま、無理もない。
俺も初めてここに来た時に襲われた悪魔と同じ悪魔が仲魔になった時には、色々と複雑なものを感じたしな。
「それで、これからどうするのですか?」
「とりあえず、町に行こう。今の手持ちじゃ穴に向かうのはキツイし。あ、そうだ」
 エンジェルに答えてから、俺はリュックからナイフを取り出し――
「これ持ってろ。守ってやるつもりだけど、一応身を守れる物があった方がいいだろうしな」
「え? あ、あ……うん……」
 理華は恐る恐るナイフを受け取った。無理はしないつもりだけど、念のためということもあるし。
さてと、余った5発はマガジンに入れて銃にセットして……立ち上がり、右手に刃物を持つ。
とりあえず、悪魔に会わないように町に向かうしかないか……どうやって?
 思わずそんなことを自問して、深くため息を吐いてしまう。ああ、無事に帰れるんだろうか。俺達……


「く、はぁ……はぁ……」
「翔太!? 大丈夫なの!?」
「今、治療を!」
「翔太!?」
 なんとか悪魔の群れを倒したんだが、その直後に俺は膝を付いてしまう。そこに理華やエンジェル、ミュウが駆け寄って来た。
なんというか、人を守りながら戦うってのはかなりキツイ。理華にナイフを持たせているが、それで戦えというのは無茶なのは俺自身がわかってる。
だから、自然と理華の前に出なきゃならないんだが……そうなると悪魔の攻撃を喰らいまくる。それでダウンしたわけ。
エンジェルに治療魔法を掛けてもらいながら治療薬を塗り込んでいる。治療魔法のおかげか体力も回復出来たけど……
「なぁ……なんか、おかしくないか?」
「確かにのぉ……悪魔どもがなにやら殺気立っているように見える」
「でも、おかしいよ。今日は満月じゃないんだよ?」
 ノッカーがうなずき、ミュウは首を傾げてる。そうなんだよ。襲ってくる悪魔の様子がどうもおかしい。
昨日のだと、襲ってきた悪魔の中には逃げ出す奴もいた。まぁ、不利になったからとかだと思うけど。
でも、今日は違う。なんか、鬼気迫るというか……逃しはしないって感じで襲ってくる。
逃げようにも中々逃げ切れないで、逆に別の悪魔の群れが来ちゃった……なんてこともあって、こっちは消耗する一方。
おかげで治療薬も残りは3つ、銃の方も今のマガジンと5発しか入れてないマガジンしか弾丸がない。でもまぁ……
「あと少しで町だしな……あそこに入れりゃなんとかなる」
 立ち上がりながら遠くで見える町に顔を向ける。あそこに行けば休むことだって出来るし、魔石なんかも買える。
見えてる限りじゃ、歩いてすぐだし……もう大丈夫だと思ってもいいかもな。
「ほら、行くぞ」
「う、うん……」
 怖がってる様子の理華に声を掛けて歩き出す。そう、町はすぐそこ。そう思ったのがまずかったのだろうか……
『見ツケタ……』
「はい?」
 なんか、声が聞こえて立ち止まる。すると俺達の前で何かが集まっていき……
「え?」
「な、なにあれ……」
 大いに戸惑った。理華も同じみたいだけど。というのもさ、俺達の前に悪魔が現われたんだよ。
しかも、今までの奴とは違って体はデカイ。俺達より二回りはでかくないか?
で、顔は牛とか動物のようにも見えるが、体は普通に人の形をしてる。
そして、感じる迫力がハンパ無い。すっげぇ威圧感を感じる。
『見ツケタ……我ラガ目的ヲ邪魔スル者ヨ』
「は? 邪魔? え? 邪魔って何!?」
 て、いきなり変なこと言われたよ!? 邪魔って、俺何もしてないよ!? 目的すら知らないのに!?
「何かしたの?」
「いや、知らないよ!? 俺だって初めて会ったし!?」
 理華に聞かれても当然わからない。いや、本気で何? 俺、あいつに何かしたか!?
『忘レタトハ言セナイ。我ガ配下ヲ倒シタコトヲ……』
「は? 配下? 配下って……あ……」
 言われて首を傾げそうになるが、そこで思い出す。昨日、帰るために穴がある所にたどり着いたら、襲ってきた悪魔がいたんだけど……
もしかして、配下ってあいつのこと? 確か、目的がどうとか行ってたような……って、ちょっと待てや!?
「おい、待てよ!? あれはあっちからいきなり襲いかかってきたんだって!? 大体、目的とか言われても俺には何のことだかわからないんだぞ!?」
「そうよ! 言いがかりはよしてよね!」
 思わず叫んでしまったが、ミュウもそろって反論してくれる。いや、マジで言いがかりだし。
『黙レ! 我ラノ邪魔ヲスル者ニ死ヲ!』
 って、聞く耳もたずですか!? というか、いきなりぶっ放してきたぁ!?
「おわぁ!?」
「きゃあ!?」
「いやぁ!?」
 悪魔がぶっ放した魔法が俺達の目の前で炸裂し、為す術も無く吹っ飛ばされる俺達。
「うぐ!?」
 そのまま地面に激突するように倒れた。くそぉ……何がどうなってやがんだ……
こっちは何もわからないってのに……
『マズハオ前カラダ』
 と、あの悪魔が右手をこっちに向けてくる。その手には魔法の光が……やべぇ、逃げれ――
「だめぇ!?」
 そんな時だった。理華が俺の前に立って……あの悪魔の魔法の直撃を受けた。
「きゃ――」
「理華ぁ!?」
 吹っ飛ばされる理華。そのまま地面に倒れ……動かなくなった。
「てめぇ!?」
 それを見た俺は立ち上がり、あの悪魔に向かって銃をぶっ放す。何度も引き金を引いて――
『ウルサイ奴メ!』
「ごわ!?」
 だが、銃はまったくといっていいほど効いてない上に、払いのけるように振られた悪魔の腕に突き飛ばされ、地面に倒れた。
「うぐ!?」
 しかも、今ので銃を落とした挙句、左腕に激痛が走る。これって、骨が折れたか……く、いてぇ……
「あ、ぐ……」
 が、そんなことも構わないと悪魔は俺の首をわしづかみにして持ち上げやがった。
「ぐ、あ……くぅ……」
『我ラガ邪魔ヲシタコト、後悔シナガラ死ンデイクガイイ』
 なんてこと言いながら、悪魔を俺の首を締め付けてくる。く、そぉ……意識が……こん、な……ところ……
「ええい!?」
『ヌゴォ!?』
 そこにミュウがナイフを持って飛び込んできて、悪魔の右目に突き刺した。
『ガアァァァァァァ!?』
「あぐ!?」
 ナイフが突き刺さった右目を左手で覆い、俺を落とす悪魔。
「翔太! 大丈夫!?」
「ああ……ありがとよ!」
 ミュウに礼を言ってから立ち上がって駆け出す。もう、ぶち切れていたんだ。理華のこととかそういうので。
『グ、グゥ……オ、オノレ……キサ、ガァ!?』
 振り返った悪魔の額に向けて刃物を突き立てた。悪魔が頑丈なせいか、先っぽが刺さる程度だったが――
「うおおぉぉぉぉぉ!!」
『グオォォォォ!?』
 関係無いとばかりに力を込め、更に深く刺そうとする。その甲斐あってか、少しだけ深く刺さった。
それによって悪魔は膝を付き、苦しんでいた。たく、頭に刃物刺さってるってのに……悪魔ってのは非常識だよな……
なんてことを考えながら、落とした銃を拾い上げてマガジンを交換する。残り5発。普通に撃っても効かないだろうけど――
『グゥ!? 良クモヤリオグ!?』
 何かを言おうとした悪魔の口の中に銃口を押し込む。躊躇いなんて……無かった。
「ハッキリ言っておく……俺はお前らの目的なんて知らない……だからなぁ……訳わかんないこと言って……襲ってくるんじゃねぇ!!」
『ブゴォ!?』
 叫ぶと共に全弾を悪魔の口の中にぶち込んだ。そんなことすれば当然悪魔の頭が吹き飛び……そのまま砕け散ってしまった。
「はぁ……はっ……はぁ……あぅ……」
「翔太!?」
「翔太さん!?」
「大丈夫かの?」
 それを見届けると、俺はそのままうずくまるように倒れてしまう。仲魔達が駆け付けてくれるが……もうダメ……動けねぇ……
いくら傷を治したり体力を回復してたりしても、今まで散々やられたのが一気に来たって感じだな。
「今、治療いたします!」
「それよりも……理華を……」
 助け起こしてくれるエンジェルにそう言ってしまう。倒れたまま動かない理華。
明らかにヤバイのがわかる。俺はまだ大丈夫だが、このままじゃ理華が――
「無駄だよ。彼女は助からない。あいつの力を受けたんだからね」
 そんな時、周りの雰囲気が一変した。
「あ、ああ……あぁ……」
「うぁ、あ……ああ……」
「ああぁぁぁぁ……」
「あ、あぁ……」
 いつの間にいたのか、俺の前に1人の少女が立っていた。
まるで人形のように整った可愛らしくもある顔立ちにウェーブが掛かった地面に付きそうなくらい長い黒髪。
その髪の上にはこれまた黒い髪飾りが置かれている。小柄で真っ黒なゴスロリドレスを纏っていて、一見すれば本当に人形にも見えそうな少女。
だが、そうでないのはこの場にいればわかる。存在感がシャレになってないのだ。あの悪魔すら子供だましに思えるくらいの存在感。
圧迫感すら感じられて、思わず怖いと思ってしまう。事実、ミュウ達も少女を見て振るえているし、俺も歯の根が合わない。
「あいつの力はね、魂を砕いてしまうのさ。いくらこの世界に死人を生き返らせる術があるといっても、魂を砕かれてはそれも意味を成さない」
 そんなことを言いながら、少女は理華に顔を向ける。でも、言ってることを俺は理解したくなかった。
それって、理華が助からないってことか……ふざけんな! そんなの……そんなの認めねぇ!
「だけど……彼女は強き魂の持ち主だったようだ。わずかながらに魂が残っている。もっとも、それも長くは持たないだろうけどね」
 少女はそう言って、今度はこちらに顔を向け――
「それにしても……ボクとしては君の方が驚きなんだけどね?
あいつは下っ端もいいところなんだけど、それでも人間が倒せるような奴じゃない。なのに、君は倒してしまった。
あまりにも脆弱な……そこらにいる人間と同じくらい……いや、もしかしたらそれ以下かもしれない脆弱な魂なのに……
そんな君があいつを倒した。それは奇跡みたいなもんなんだよ。いや、馬鹿にしてるわけじゃない。純粋に賞賛してるのさ」
 なんて、楽しそうに言ってくれるが、こっちは嬉しくとも何ともない。
事実、何も出来ないのだ。体はマジで言うことを利かないし、武器だって離れた所に落ちている。
あいつは殺そうと思えば、俺達をすぐに殺せるんだろうが……
「ふふふ、そんなに睨まないで欲しいね。そうだ、彼女を生き返らせてあげようか?」
「は?」
 いきなりの少女の言葉に戸惑う。え? 理華を生き返らせてくれる? どういうことった?
「もちろん、ただでとはいかないけど。あ、安心していいよ。ボクの話を聞いて欲しいだけさ」
 なんて、少女は言うんだが……話を聞くだけ? 絶対に裏がありそうなんだけど……
「わかったよ。どんな話かはわからねぇが……理華を……助けてやってくれ……」
 俺はそれに従うことにした。というか、拒否権なんて無いようなもんだしな。
情けないと思うならここに来てみろ。絶対に逆らえないって……でもまぁ、話を聞くだけで理華を助けてくれるんだから、安いもんだろうしな。
「ふふふ、素直な者は好きだよ。それじゃ、約束通り」
 そう言って、少女は右手に小さな光を生み出すと、その光を理華の胸へと飛ばして――
「あ、あ……うぁ……あれ?」
「理華……くっ」
「あ、翔太!」
 胸の中へと吸い込まれるように光が消えていくと、理華が目を覚ました。駆け寄ろうとしたが、体が痛んで上手く動かせない。
ミュウが心配そうに俺の顔の横に飛んできたけど、構わず理華の元へ行こうとする。
「え? あ、しょう……た? 私……あれ? え? ええ?」
「大丈夫か……理華……」
「それはこっちの話で……ところでその……あの人は一体……」
 近付く俺に理華がそんなことを聞いてくるけど、その声にはおびえが混じっていた。まぁ、あんな奴の存在感を感じたら当然かもな。
「さてな……で、話ってなんだよ……」
「翔太……ちょっと、凄い怪我じゃない!? どうしてこんな……」
「ふふふ、そんなに殺気立たないで欲しいな。そんな難しい話はしないから」
 なんとか理華の元に来れたが、そこで膝を付いた。ダメだ、本気で限界……理華に体支えてもらわないとマジで倒れる。
で、あいつはといえば、面白そうに笑って――
「このボルテクス界は近い内に崩壊する。繋がった世界もろともね」
「は?」
「え?」
 一瞬、少女の言っている意味がわからなかった。理華も戸惑って……待て。あいつは今なんて言った?
ボルテクス界が崩壊する? は? 崩壊? ……確か、他にも……そうだ、繋がった世界もろとも……
繋がった世界? それって、俺達の世界のことか!?
「おい! どういうことだ!? それって、俺達の世界まで壊れるってことなのかよ!?」
「壊れる? いや、消滅と言っていいかもね。でも、崩壊を止める方法もある。
ボルテクス界が崩壊するまでに、いくつもの世界がボルテクス界と繋がることになる。その繋がった世界に崩壊を止める鍵があるんだ」
 本気で楽しそうに語る少女。この時になって俺は気付いた。話を聞いてもらうなんて、そんなのは建前。こいつの本当の狙いは――
「さて、これを聞いた君達はどうするのかな? ふふふ……楽しみにしてるよ」
 そんなことを言い残し、少女は消えた。あの野郎……始めからこのつもりかよ……
「翔太……どういう……ことなの?」
「知るかよ……」
 戸惑っている様子の理華に、俺はそうとしか言えない。
あいつはあんなこと言って、俺達がどうするのかを見て楽しむつもりなんだ。この時はそう思っていた。
だから、これが全ての始まりだってことに……今は気付く事も無かった。



 あとがき
さて、ヒロインの登場ですが、なにやらとんでもない事態になりました。
繋がった世界もろともボルテクス界が崩壊するとはどういうことなのか?
そして、ゴスロリ少女は何者なのか? 翔太はどうするのか?
次回はそんなお話です。そして、異世界へ……ではでは、お楽しみに〜



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