in side

 さて、本気で忘れられてると思うが、俺達はこれでも学生である。
まぁ、時間のズレのおかげでボルテクス界に行きながら学校に通うなんて無茶も出来る。
そんな俺は学校の屋上で青空なんて見てたりする。というのも――
「平和だよなぁ……」
 なぜか、平和なことを実感してしまう。まぁ、俺達の世界は何か起きてるってわけじゃないしな。
なので、こうしてるとボルテクス界のことも夢のように思えてしまうが……あっさりとそうじゃないと思っちゃうんだよね。
なにしろ、幻想郷じゃあんなこと起きてたし。ああ、なんで俺があんなことに関わってんだか……
「どうしたんだ? 元気ないぞ?」
「俺のとっておき、見せてやろうか?」
 と、声を掛けてくる奴らがいる。振り返るとそこには2人の知り合いがいた。
のっぽでやせ形の方は大塚 克也。小太りで眼鏡を掛けてるのは岬 直貴。ちなみにクラスメートでもある。
「いや、遠慮する」
「そういうなって。今回のも凄いんだぞ」
「いや、頼むから深みに引きずりこもうとするな」
 直貴に肩を落としながらそう言っておく。こいつらもアニメとゲーム好き……というか、重度なオタクなのだ。
そのため、たびたび俺を引きずり込もうとする。アニメとかは好きだがそこまで足を突っ込む気は無いので、俺としては遠慮したいが。
「まったくだ。もう少し健全なことが出来んのか?」
「いやいや、お嬢。こういうのもいいんだって」
 と、やってきた女子生徒に克也はそんなことを言ってたりする。
この女子生徒の名前は榊原 美希。前にも言っていた俺の幼馴染みの1人でクラスメートでもある。
さて、気付いた人はいるだろうか? 榊原という性。そう、この学校の名前ともなっているのだが……関係大ありである。
つ〜のも私立榊原高校とは榊原グループという会社が運営している学校で……美希はそこの娘なのだ。
ちなみに榊原グループは多岐に渡って色んな会社を運営しているでっかい会社である。つまり美希は超お嬢様というわけ。
しかも、凛々しく整った顔立ちに腰まで伸びる黒髪をポニーテールにし、背も高い上にスタイルも抜群。
胸なんて理華と同じくらいにデカイし……更には掛け値無しの天才。勉強はもちろんのこと、運動もプロ並み。
しかも、本人曰く武術をいくつか習得してるらしい。なに、この完璧超人? そんなのってアニメやマンガとかの話だよね?
 そんな彼女がなんで俺の幼馴染みなんだろうか? いや、本気で疑問なんだけど。
そうそう、克也が言うお嬢とは美希のあだ名である。直貴もそう呼んでるが、俺と理華は普通に美希と呼んでる。
「お前達は……翔太も勉強や運動するなりすればいいだろうに。その方が健全だぞ」
「そっちも遠慮しておく……」
 美希にキッパリと言っておく。勉強はまだしも運動は本気で勘弁して欲しい。
ていうかね。ボルテクス界でドンパチやってるんだぞ。その上で運動なんてやりたくねぇって。
「まったく……まぁ、それはそれとして、ここ数日お前は元気がなさすぎる。何かあったのか?」
「あ〜……気にしないでくれ」
 と、断っておくが……まぁ、この辺りが美希の良さといったところか。
美希はしゃべり方こそ固そうなイメージを受けるけど結構気さくであり、こうして他人の心配もしてくれる。
お嬢様風とか吹かすのは本人としては嫌いなんだそうな。なので、この学校では美希は結構人気がある。
 それはそれとして、そういうのは嬉しいが……ボルテクス界のことなんて話せるわけ無いっての。ていうか、どうやって話せと?
ゲームと似た世界がありまして、俺達の世界共々とんでもないことが起きようとしてて、それに関わってますってか?
絶対に変な人だって思われるって。
「ああ、そういや公園の近くにある洋館の噂。聞いてるか?」
「あれだろ? 幽霊が出るって?」
 直貴の話に克也が乗ってくるが……ん? その洋館って、もしかして――
「それって、おれんちの近くの公園のか?」
「そうだよ。知らないのか? あそこに幽霊が出るって、結構有名になってるぞ?」
 克也はそういうが……おかしいな。あそこにそんな噂なんて無かったはずだけど?
「それって、いつの話だよ?」
「ん? つい最近だぞ? 夜中に人影が見えるとか、見てる人が結構いてさ。でな、ここからが面白いんだが――」
 直貴が答えつつ、怪談を話すように雰囲気を出したのだが……この時、俺は嫌な予感を感じていた。
思い出すと洋館の近くにある公園って、ボルテクス界と通じる穴がある所なんだよな。
その近くにある洋館に幽霊の噂が出た……いや、まさかな……
「実は興味本位でその洋館に入った人が何人かいるらしいんだけど、誰1人として帰って来なかったらしいぜ」
「ああ、それは本当らしいな。捜索のために警察も動いて、洋館を調べたらしいが……調べに行った警官も行方不明になってるらしい。
そのため、これ以上の被害を防ぐために洋館を立ち入り禁止にしたそうだ」
 直貴の話に美希がうなずいてるが……ビンゴかよ……
そういや、あの近くでパトカーやら警官がいるな〜と思ってたが、そういうことか。
とにかく、ボルテクス界の悪魔がその洋館に住み着いた可能性は高いな。
そういや、よくよく考えると当然だよ。幻想郷でも悪魔達がやってきて異界なんてもんを創り上げてたしな。
ボルテクス界に通じてる穴があるこの世界にも同じことが起きて当然だっての。
こりゃ、理華と一緒に行って調べておいた方が良さそうだな。
 なんてことを考えていたせいだろうか。この時、美希がこっちを見ていることに気付かなかった。


「なんか、いそうだね……」
「そうだな……」
 で、真夜中。俺と理華は洋館の前にいた。門の所に警官はいたが、洋館はデカイ上にその敷地も広い。
なので、ここら辺に詳しい奴なら忍び込むことは簡単なのだ。それで問題の洋館を見てみたが……
幻想郷で感じた異界と似た雰囲気を洋館から感じる。ただ、こっちの方は若干弱い感じはあるけど。
「そんじゃ、とっとと調べようか」
「そうだね」
「ふむ、何を調べるというのかな?」
 理華に声を掛けて準備をしようとしたら、そんな声が聞こえてきた。
いや、待て。なんでいる? そう思いつつ振り返ってみると……
「まさか、お前達も肝試しなどというのではあるまいな?」
 美希がいた。その後ろには克也と直貴もいる。いや、なんでさ?
「なんでいるの?」
「ふん。あの話をしてた時にお前の様子がおかしかったのでな。もしやと思っていたのだが……その通りだったとはな」
「それにしてもなんだよその格好? コスプレか?」
「うっひょ〜。理華の格好エロくね?」
 ふんぞり返りながら答える美希。克也と直貴は俺達の格好が気になるようだが――
「どうするの?」
「今更、言って帰る奴らだと思うか?」
「そうだね」
 引きつった笑みを浮かべる理華。そう、付き合いが長い故にわかるのだ。
特に美希は絶対に引かないだろう。そんなわけで無視して準備をすることにした。
といっても、リュックに詰め込んだ装備を付けるだけだけど。あ、自分の世界にいる時は俺の防具はバッグに入れて持ち歩いてる。
あの格好で出歩くのは色々とまずいし。理華も同じように防具はバッグに入れてるしな。
で、穴の前でそれを装備すると。理華の場合は着替えになるが……言っとくが、覗いてないよ?
 ついでに言っておくと、今回洋館に来る時も防具をバッグに詰め、敷地に入ってから装備したけど。
「待て! それは銃ではないか! なぜ、そのような物を持っている?」
「後で話す。俺達から離れるなよ? 後、静かにしてくれ。警官に見つかる」
 どうやら、怒ってる様子の美希にそう言いながら、洋館のドアを開けて中へと入る。
「おい、待て! 話はまだ終わってないぞ!」
 で、追い掛けるように美希が入ってきて、次に理華。遅れて克也と直貴も入ってくる。
で、俺は入るなりGUMPを開いてある機能を起動させる。エネミーサーチという物で、GUMPから数十m内に悪魔がいないかを探索する物だ。
まぁ、探索といっても大雑把にしかわかんないけど……ちなみに悪魔がいなければ、エネミーサーチの欄は青く点滅する。
で、少しだけいると黄色。少し多いとオレンジに点滅し……いっぱいいると赤で点滅する。それで今は……赤が点滅していた。
「おい、それって確かゲームに出てくる奴じゃなかったっけ? なんで、そんなのを――」
「理華、ビンゴだ!」
 克也の言葉を遮るように叫ぶ。ちぃ! やっぱ、美希達を連れて来るんじゃなかったか!
今更後悔するものの、いくつもの物音が聞こえてくることでそんな暇は無いと判断。すぐさま召喚作業に入った。
「おい、どういう――」
「黙ってろ!」
 美希にも叫んでしまうが、聞こえてくる物音が近付いてくるのだ。すぐさまミュウ達を召喚する。
「な!?」
「「おお!?」」
 ミュウ達を召喚して美希は驚いてるが、直貴と克也はなんか喜んでた。流石はオタクか……いや、それよりも――
「お前達は逃げろ!」
「え? なんで?」
「いいから早く!」
 直貴は戸惑ってるが、いちいち説明してる暇が無い。なにしろ、人影が見え始めてるんだしな。
克也と直貴は首を傾げながらも玄関のドアを開けようとして――
「あれ? 開かない?」
「なんてお約束な!?」
 ドアをガチャガチャと開けようとする克也のひと言に思わずツッコミ。
まぁ、そのおかげで美希も直貴もヤバイことが起きてるとわかってくれたようだが――
「どういうことなのだ、翔太? それにこの者達は?」
「翔太! 来たよ!」
「話は後だ! 俺の前に出るなよ!」
 真剣な表情で聞いてくる美希だが、ミュウの声に俺は刃物と銃を構えた。
やがて、ゆっくりと近付いてくる悪魔達の姿が見えてくるのだが――
「おい、なんだよあれ……」
「あ、ああ……どっかで見たことないか?」
「ちぃ……話し合い出来ない連中ばっかじゃねぇか……」
 悪魔達の姿を見て後ずさる直貴だったが、克也は首を傾げてる。ま、女神転生とかデビルサマナーとかに出る悪魔とほとんど同じ姿だからな。
ゲームやってりゃ気付きもするか……それよりも問題なのは出てきた悪魔のほとんど……いや、全部が話し合いが出来ないということだ。
ボルテクス界でもそうなのだが、悪魔の中には最初から交渉が出来ない悪魔がいくつか存在している。
というか、話し合いにもならないんだが……ともかく、そういう奴らばっかりなのである。
 でも、幻想郷のこともあるし……ここがもし異界になってたら話し合いなんて、元から無理かもしれないけど……
「ど、ど、ど、どうするんだよ!?」
「とりあえず、ぶっ倒すしかないな。オニは俺と一緒に前に出てくれ! 理華とミュウ達は俺達の援護。それと美希達を頼む!」
「おうよ!」
「うん!」
「了解!」
「わかりましたわ!」
 完全に混乱してる直貴にそう言ってから指示を出し、オニや理華、ミュウとルカがうなずくのを見て――
「があぁぁぁぁ!」
「やっかましいわぁ!」
「おおりゃ!」
 オニと一緒に襲いかかってきた悪魔に飛び込んでいく。


 out side

 その状況を美希は信じられないような目で見ていた。
「があぁ!」
「ええい! 湧いてくるんじゃねぇ!」
 襲いかかる悪魔と戦う翔太。なぜ、彼があのような刃物と銃を持っているのかも気になるが……
それよりも美希には翔太の動きが気になった。なぜなら――
「ぐおぉぉ!?」
「うわっと!? あぶねぇじゃねぇか!」
「ぐぎゃあ!?」
 動きがメチャクチャなのだ。
美希から見れば刃物はただ振り回しているようにしか見えないし、足運びといった動きもただ動いているようにしか見えない。
ただ振り回し、ただ動き回る。それだけのはずなのに戦えている。それが美希には不思議でたまらないが――
「マハラギ!」
「うっとしいわね! 翔太! デカイの撃つからそこから離れて!」
「おおよ! オニ!」
「わかった!」
 魔法を放つミュウの横でアサルトライフルを撃つ理華だが、フォルマと合成された刃物とは違いアサルトライフルは普通の物だった。
それゆえか悪魔達にはあまり効いておらず、仕方なく魔法を使うことにしたのだ。
そんな理華の声に翔太はオニに声を掛けて、共にいた場所から離れ――
「アギラオ!」
「ぐぎゃあ!?」
「ぐおぉ!?」
「あぎゃあぁ!?」
 纏まっていた3匹を魔法の炎で焼いた。
「ちょ!? 何今の!? 魔法かよ!?」
「すげぇ!? なんで使えんの!?」
 その光景に直貴と克也は興奮していたが、美希はその時にあることに気付いた。美希の背中に刃物があることを。
美希は基本的にアサルトライフルか魔法による支援が主である。刃物は近付いてきた悪魔に対する牽制用で持っているにすぎない。
故に今まで使わなかったのだが――
「借りるぞ!」
「あ、ちょっと!?」
 半ば奪い取る形で理華が持つ刃物を抜き取ると、理華は翔太の元へと駆け寄り――
「はあ!」
「ぐぎゃ!?」
「て、なんで来るの!?」
「加勢する! はぁ!」
 悪魔に斬りかかる美希に翔太が驚くが、美希はといえばそのまま別な悪魔へと斬りかかる。
「あ、待て!? 飛び出すな! ああ、もぉ!?」
 止めようとする翔太だが、美希には声が聞こえていないようで止まる気配が無い。仕方なく、翔太は美希へと駆け寄る。
この時、美希は混乱していた。幼馴染みが銃刀法違反な武器を持っていた挙句に美希曰くバケモノ……悪魔と戦う。
翔太を幼い頃から知る美希にとって、それは信じられないことの連続で……
彼女が知るのとはかけ離れた姿を見せる翔太に戸惑いと混乱を感じていたのである。
でも、この状況をなんとかしたくて、理華の刃物を奪い取る形で悪魔へと突っ込み――
「ぐおぉぉぉぉ!?」
「な!?」
 だが、混乱したまま戦っていたせいか、悪魔が横から襲いかかってくることに気付くのが遅れた。
このままでは、美希は悪魔の爪に切り裂かれていただろう。
「ぐぅ!? どけぇ!!」
「ぐぎゃあ!?」
 そうはさせじと翔太が突っ込み、悪魔を切り裂いた。
「あ、は……」
 その光景を見て、美希は呆然としてしまう。何が起きたのか、一瞬理解出来なかった。
それでも翔太が助けてくれたとわかって、安堵するのだが――
「く……この馬鹿……人の話……聞けよ……」
「え?」
 しかし、翔太の様子に気付いて戸惑う。何かおかしいと美希が思った時――
「な!?」
 振り向いた翔太の姿を見て絶句する。翔太は腹部を爪で引っ掻いたような形で切り裂かれ、それを銃を持つ手で押えていた。
あの時、悪魔の爪の方がわずかに早く翔太に届き、切り裂いていたのだ。
「あ、ああ……」
 そのことに気付いた美希はよろめく。自分のせいだ。自分が飛び出したせいで、翔太は――
「翔太!?」
「翔太様!?」
「理華! ミュウ! あの廊下にいる奴らをぶっ飛ばせ! いったん逃げるぞ!」
「あ、うん!」
 翔太の様子に理華とルカが驚く中、翔太の指示にミュウは一瞬戸惑うが、すぐさまうなずき――
「いくよ! マハラギ!」
「ええ! アギラオ!」
 魔法を放つミュウの声にすぐさま正気に戻った理華も魔法を放つ。その放たれた魔法の炎は途中で混ざり合って巨大な炎となり――
「ぐぎゃあぁぁ!?」
「ごがあぁぁぁ!?」
「ぎゃあぁぁぁ!?」
「うがあぁぁぁ!?」
「え? なんで?」
「また……」
 爆炎となって悪魔達を焼き尽くす。
その光景に自分達が放った魔法に起きたことに戸惑う理華であったが、ミュウは以前にも似たことがあったことを思い出していた。
「今だ! 逃げるぞ! 美希、早くこっちに……くぅ!」
「馬鹿野郎! 無茶しすぎだ!」
「あ、翔太!?」
 指示を出す翔太であったが、傷が思った以上に深かったせいか膝を付いてしまう。
それにオニが駆け寄り、それに気付いて正気に戻った美希も駆け寄る。
「大丈夫なのか!?」
「そんなことより……早く逃げるぞ……」
 心配する美希だが、翔太はそう言い放つ。確かに今ので廊下にいた悪魔はほぼ一掃されている。
逃げ出すなら今しかなかった。
「オニは翔太を! ほら! 早く来て!」
「あ、わかった!」
「ま、まってぇ!?」
 翔太が言いたいことに気付いた理華は仲魔に指示を出しながら声を掛ける。それに克也はうなずき、直貴は慌てて後を追う。
「邪魔よ!」
「どきなさい!」
「邪魔しないで!」
「そうだよ!」
「お引きなさい!」
「ぐおぉぉぉ!?」
「ぎゃあぁぁぁ!?」
 それでも悪魔は襲いかかるがミュウの魔法と理華の銃撃、それにルカとモー・ショボー、アプサラスの魔法と攻撃に吹き飛ばされるように倒されていく。
そのまま掛け進む翔太達はある一室に飛び込み、ドアを閉めてしまうのだった。
 その途端、悪魔達の動きは止まり……どこかへと行ってしまうのだった。まるでその部屋に近付くのを恐れるように――




 あとがき
というわけで、ついにもう1人の幼馴染み登場です。完璧超人なのは私の趣味です。(おい)
さて、拍手での指摘ですが、魔法の名前の間違いは私の確認不足でした。申し訳無いです。
後、設定の方ですが誤って修正前の物を送ってしまいました。本当に申し訳ありません。
次回の投稿で修正したのを送るので、それまではこのままです。
いや、追加とかもあるのでその方が良いと思いまして^^;

さて、翔太達の世界で起きている異変。果たして、翔太達はどうなってしまうのか?
次回は解決編&新たな世界へ。新たな世界はまたしても翔太の知る世界で――
さて、どこなのでしょうか? ヒントは有名なマンガです。
ではでは、次回にて〜。



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