out side
ボルテクス界における翔太の評価は大きく2つに別れる。
1つはウィルが言っていたように一流のサマナーであるというもの。
事実、翔太は他のサマナーが持っていないような仲魔を持ち、集める生体マグネタイトの量も飛び抜けている。
ただし、これらは翔太達の目的から出た副産物にすぎない。仲魔の方は偶然が重なったものと言える。
フロストやランタンは進化によって今の姿となったし、スカアハやクー・フーリンもシンジが仲魔にさせた。
シルフも合体事故が原因で人間台の大きさとなったのだし。
生体マグネタイトの方も探索場所が高位な悪魔がいる場所で戦っているためにより多くの量が集まりやすかったにすぎない。
で、もう1つの評価が噂はデタラメだというものである。翔太のレディースサマナーというあだ名もそこからきた比喩という面も強い。
なにしろ、仲間全員が女性型なのだ。そのタイプの悪魔をはべらせていかがわしいことをしている……と、思っている者もいる。
ミナスもそんな1人だ。翔太はそういう人間であり、悪魔にばかり戦わせていると考えていた。
なので、研修の話は彼女にとって渡りに船であった。なにしろ、それを実証出来ると思っていたのだ。
そう、思っていた。思っていたのだが……それは目の前の光景によって打ち砕かれることとなる。
「なんで、俺とバゼットだけなんだよ!?」
「文句を言っている暇はありませんよ」
文句を叫び声で漏らす翔太にバゼットは相手を睨みながらも両拳を構えていた。
現在、目的地に向かっている最中であり、悪魔の襲撃にあっているのだが……戦っているのが翔太とバゼットのみなのである。
余談となるが、現在ルカ、シルフ、モー・ショボーはGUMPで待機している。全員を出す必要は今の所無いとスカアハが言ったからである。
「ま、修行の代わりだと思え。それにそれくらいなら問題はあるまい」
「で、ですが……10体は無茶かと……」
腕を組むスカアハにウィルは顔を引きつらせながらそんなことを言ってみた。
なお、バゼットが参加しているのはリハビリ代わりに戦わせて欲しいと願い、スカアハにOKをもらったので参加していた。
それはそれとしてウィルの言葉通り、現在10体の悪魔が翔太とバゼットに襲いかかっているのだが――
「「ぐおぉぉぉぉぉ!?」」
「だあぁ!? やっかましいわぁ!?」
「ふん!」
「「があぁぁぁぁぁ!?」」
その内の1体が翔太にあっさりと切り裂かれ、もう1体がバゼットに殴り飛ばされた。
それでも次々と襲いかかるが、そのどれもが翔太やバゼットを傷付けるにいたらない。
まぁ、町から近い場所なのでそれほど強い悪魔が現われないことと、バゼットも封印指定の執行者として実力があるからこそ出来たことだが。
「す、凄い……仲魔の助力無しで悪魔を倒すなんて……」
「彼は……本当に人間なのですか……」
「凄まじいな……翔太の奴……」
この光景にウィルは驚きながらも戦いに見入っていた。噂通りの翔太の実力に感動していたのである。
一方でセイバーは戸惑いの表情を浮かべながら思わずそんなことを問い掛けてしまう。
そんな彼女から見て、翔太の戦い方はありえないとしか言えなかった。
戦い方は素人だ。動きから見ても才能の欠片も感じられない。なのに、振るわれる剣は悪魔を屠っている。
確かにただ振るわれているわけでは無いが……それでもあんな振り方で屠れることがセイバーにとっては信じられなかった。
それにセイバーもそれなりにではあるが魔術の心得がある。
そんな彼女から見て、魔術の補助も無しにあのような速さで動ける翔太は色々とありえなかった。人間なのかと疑ったのもその為である。
で、感心していたのは美希であった。見ない間に翔太がまた強くなっていたことに。
それを嬉しく感じる反面、どこか突き放されていくような感じがして寂しくもあったが……
で、ミナスはというと、呆然とその光景を見ていた。それで感じた感想はありえない……それであった。
確かにフォルマの合成によって強化された武器を持っている。かといって、悪魔とあそこまで戦えるかは話は別だ。
現にミナス自身、翔太のように戦える自信が無いのを自覚している。
ボルテクス界の者が悪魔に劣等感を抱くのはヴィクトル達が来るまで対抗出来る術がほとんど無かったことに起因する。
そのためか、サマナーとなった者もフォルマによって強化された武器を持っても悪魔と積極的に戦えない者が多かった。
近付けばあっさりと殺される……そんな考えがこびりついているために……
ミナスもそんな1人だ。故にそんな恐怖は無いとばかりに戦う翔太を妬ましく思っていた。
が、これはミナスの勘違いである。翔太も本音を言えば怖いのだ。
心の天秤がわずかに傾いただけで、恐慌状態になってもおかしくないくらいに。
だが、それが出来ない。知っているのだ。今感じている恐怖など鼻で笑えるくらいにそれ以上の恐怖があることを。
感じているのだ。ボルテクス界が……ボルテクス界と繋がった世界が危ないということを……
このことを理不尽に思いながらも翔太は止まらない。死にたくないから……知り合った者達を失いたく無いから……
しかしまぁ……
「だぁ!? 団体で来やがったぁ!?」
「あれは流石に無理か……フロスト、ランタン、クー・フーリン、手伝ってやれ」
「わかったホ!」
「がんばるホ!」
「へいへい」
無理なものは無理なので悲鳴を上げることもあるが……まぁ、今戦ってる数の3倍近い数の悪魔が来たら当然かもしれない。
このことにスカアハは呆れつつも仲魔達に指示を出すのであった。なお、この光景を文とはたては熱心に撮影していたりする。
戦闘の方は程なく終わり、目的地の洞窟の入口に到着すると、翔太達は手分けをして件の悪魔を探すこととなった。
直後に悪魔と交渉するのを忘れていたバゼットが軽く自己嫌悪してしまう場面があったりするが……
in side
「で、見つからないと」
「すまない」
「いや、美希が悪いわけじゃないと思うけどな」
俺のつぶやきに美希が頭を下げるが、そんなことないとばかりに右手を振っておく。
目的地である洞窟の入口前に到着した俺達はそこで別れて、ジョージさんが言っていた悪魔を探すことにしたのだが……
誰も見つけることが出来ずにこうしてみんな戻ってきたと。
ちなみにウルスラさんとクノーさんのペア、美希に君嶋さん、香奈子さん、士郎にセイバーのペア、で残った俺達で探したわけだが――
「まぁ、この付近で見かけたという情報しかないからな。ここよりも離れた場所に行ってるか、もしくは……」
「もしかして、あの中にいるとかですか?」
腕を組むスカアハの話を聞いて、士郎が指を差しながらそんなことを言い出すけど……ありえなくはないのか?
「可能性はある。大型で獣型とは聞いてはいるが、どれほどの大きさなのかはわかっていないしな。
あの入口を通れるほどの大きさなのかもしれん」
「その可能性は高いな。獣らしい足跡が入口付近にいくつもある。何度も往復してるんだろう」
スカアハの話に同意するように洞窟の入口前でしゃがみ込んで地面を見ている君嶋さんがそんなことを話していた。
俺も近付いて地面を見てみると、なんかそれっぽい足跡がうっすらとだけど見えた。うっすらすぎて、形が良くわからないけどね。
「しかし……」
「どうかしたんですか?」
「いや、足跡の大きさが一定じゃないんだ。それに間隔が獣にしては……人の歩き方に見えるのだが……」
香奈子さんの問い掛けに首を傾げていた君嶋さんがそんなことを漏らしてたけど……どういうことだろ?
それはそれとして――
「これからどうするのかな?」
「そうだな……お前はこの洞窟に入ったことはあるのか?」
「一応……ただ、迷路みたいになってたから、諦めてすぐに戻ったけど」
ウルスラさんに問われたスカアハがそんなことを聞いてきたので答えておいた。
GUMPにオートマッピング機能があるんだから迷うことはないんじゃ? と、思った人もいるかもしれない。
確かに迷うことは無いんだけど、問題なのはどれくらい広いのかっていうことなんだよねぇ。
下手に奥に入って戻るのに時間が掛かって、出てみたら夜でした……というのはシャレにならんし。
あ、忘れてるかもしれないけど、夜になると悪魔は強くなる。だから、夜の時に戦うのは危険なんだって。
「そうか……よし、全員で中に入り適当な場所で散開し、手分けして洞窟内を探してみよう。
もし、何かを見つけたら散開した場所に戻ってくれ。探している悪魔がどんな奴かわかっていないからな。
捕まえようとして返り討ちに……なんてのは避けたい。いいな?」
スカアハの指示にうなずく俺と理華、それにウルスラさんとクノーさんに君嶋さんに香奈子さん。
確かにどんな奴なのかもわかってないしな。慎重になるのは普通か……
そんなわけで俺達は少し苦労しながらも洞窟の中に入るのだが――
「中は結構広いんですね」
士郎が辺りを見回しながらそんなことを言い出すが、確かに中は広いんだよ。
セイバーが剣を振り回しても大丈夫なくらいに。だからといって、戦闘は勘弁して欲しいけど。
「とりあえず、まずはその悪魔を探して――」
ぼこん
俺がこれからどうするのかを聞こうとした時、そんな音が……はて? なんだろうか?
前にも体感したことがあるような浮遊感は? えっと……地面、無くなってない?
「なんでさぁぁぁぁぁぁ!?」
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!?」
「うわあぁぁぁぁぁ!?」
「シロウぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「わあぁぁぁぁ!?」
「いやあぁぁぁぁ!?」
うん、地面が無くなってました。なんでさ!?
で、当然の如く落ちる俺。しかも、理華にシロウ、セイバーとウィルにミナスも一緒に。
というか、俺達どうなるの〜!?
out side
「翔太!?」
「待て!?」
いきなり地面が崩れて穴が空き、落ちていった翔太達を助けようとクー・フーリンが飛び込もうとしたが、それをスカアハが止めた。
その直後、周りの壁も崩れてその穴を塞いでしまう。
「そんな……どうして……」
「脆くなっていたか、はたまた私達が探している悪魔の仕業か……ともかく、降りれそうな所を探すぞ」
「こいつをぶっ壊した方が早くないか?」
「馬鹿者!? この状況でそんなことをしたら、私達まで生き埋めになるぞ!」
戸惑う香奈子だが、スカアハは冷静にそんなことを考えていた。
直後にクー・フーリンから出た意見に怒っていたが……まぁ、当然だろう。
穴を塞ぐ岩を砕くにはかなりの威力が必要となる。そんな物を岩が崩れた場所で使ったらどうなるか?
衝撃でまた崩れる……なんてことも十分にあり得た。
「翔太は……無事なのか?」
「確かに……もしかしたら、大変なことになりますよねぇ……」
「わからん。それを確かめるためにも降りられそうな場所を探すんだ」
戸惑う美希と真剣な眼差しの文にスカアハはそう答える。もっとも、スカアハ自身も焦ってはいたが。
というのもただ落ちただけでなく、穴を塞ぐ形で岩が落ちたのだ。下手をすれば翔太達が生き埋めになっている可能性もある。
だから、なんとしても探し出さなければならない。故にスカアハは知らずに走り出していた。
翔太の無事を祈って――
「翔太……無事でいて……」
「お兄ちゃん……」
それはミュウとアリスも同じであり、フロストとランタンにメディアも言葉にしないだけで同じ想いであった。
in side
「あたた……大丈夫か〜……」
「な、なんとか……」
「つ〜……セイバー……は?」
「私は無事です、シロウ」
「ボクも……です……」
「もう……なんなのよ……」
仰向けにぶっ倒れたまま声を掛けると理華、シロウ、セイバー、ウィル、ミナスの順で声が返ってきた。
とりあえず、みんな無事らしい。結構な高さから落ちたと思ったんだが……痛いだけで済んだのってラッキーじゃね?
「あつつ……しっかし、みんなとはぐれちまったか……」
「どうするの?」
「とりあえず、合流した方がいいだろ。その前に――」
起き上がりつつそんなことを漏らしたら理華に聞かれたんで答え、GUMPを取り出す。
スカアハに言われてルカ、シルフ、モー・ショボーはGUMPの中にいる。何かあってもいいように喚び出しておくか。
「翔太様、大丈夫ですか?」
「痛いだけで怪我とかはしてないと思うけど……ウィルは仲魔はいるよな?
とりあえず、何があってもいいように喚んどいてくれない? ミナスも頼むわ」
「あ、はい」
「え、ええ……」
心配するルカに答えつつ、俺はウィルとミナスにそんなことを頼んでおく。
まぁ、何が起きてもいいようにしたいというのが本音だ。スカアハにも散々言われてるからな。
というか、経験からとも言うけど……俺の場合は。
で、ウィルとミナスは仲魔を喚び出すんだが……ウィルはノッカーとタンガタ・マヌ。ミナスはピクシーのみ……
「すいません……実はその……交渉とかは苦手でして……」
「あ〜……気持ちはよっくわかるよ……俺も苦手だしな……」
頭を掻きつつすまなそうにしているウィルだが、それはしょうがないと思うぞ。
ていうか、交渉があっさりと出来る人の方が異常だと思うのは俺だけだろうか?
「な、何か文句はありますの?」
「確か、サマナーになったばかりだっけ? それじゃあ、しょうがないと思うけどね」
「くぅ〜……」
睨んでくるミナスにそう言っておくが……更に睨まれた。まぁ、言ってて怒らせて当然かと思ったけどね。
それはそれとして、早くみんなと合流しようと思ったんだが……
「ショ、ショウタ……あ、あれを……」
なんか、セイバーが俺の後ろを指差している。なんか、顔が引きつっているように見えるんだけど。
あれ? なんだろ? すっげぇ嫌な予感がするんですけど? こういうのって、アニメやマンガとかじゃ良くあるパターンじゃね?
なんてことを考えつつ振り向いてみたら……でっかい何かがいました。ていうか、なに?
気になったんで顔を上げてみたら、これまたでっかい顔が……ええと、白いライオン?
で、でっかすぎね? ちょっとした家くらいあるよ? ていうか、こいつなに?
『ようやく気付いたか……愚鈍な人間よ……』
うっわぁ〜、しゃべってる〜……なんか、変な感じに聞こえるけど……
ん? 待てよ……大型で獣型の悪魔……一応獣型だし、喋ってるから悪魔だと思うけど……
「ええと……もしかして、最近ここら辺をうろついてる悪魔って、あんたのこと?」
『なんのことだ? ここへ来たのは最近だが……ああ、妙なちょっかいを掛けてきた人間を返り討ちにしたことはあったがな』
聞いてみたら、悪魔は首を傾げつつもあっさりと答えてくれました。
うん、こいつか……確かに大型で獣型の悪魔だな……でもね、でっかすぎるよ!?
大型ってレベルじゃ無い気がするんですけど!?
「で……どうしてここに?」
『ああ……最近、なにやら騒がしくてな。うっとうしいのでここに来た。
ここら辺は静かなのでな。ゆっくりするにはちょうどいい』
とりあえず、落ち着いてどうしてここにいるかを聞いてみたら、悪魔は呆れた様子を見せながら答えてくれました。
よし、話し合いは出来る。俺としてはこんな悪魔と戦闘というのは勘弁して欲しいからな。
だって、明らかに強そうだよ? 気配とかもそんな感じだし。仲魔全員で行かないと負けそうな気がしてならないんですけど。
「じゃ、じゃあ……町に何かする気は無いと?」
『無闇に襲う趣味は我には無い。我がテリトリーを犯す者がなければ……な』
その辺りのことも聞いてみると、悪魔はこっちを見ながら答えてくれました。
そ、そうか……それならいいんだ。そうとわかれば、もうここに用は無いな。
「そうなんだ……ははは……それを聞ければ十分だよ。じゃあ、俺達はここで――」
『ちょっと待て』
どうにかして、ここを去ろうとしたら悪魔に呼び止められました。
なに? なんか、嫌な予感しかしないんですけど? なに、その睨むような目は?
『我はテリトリーを犯す者がなければ……と、言ったはずだが?』
「ええと……事故みたいなものなんだけど……ダメ?」
悪魔のひと言に嫌な予感が大的中と嘆いてみたり。一応、反論してみるとけど……
『殺す気は無い。少々痛い目にあってもらうだけだ』
「いや、テリトリー犯すとかそんなつもり無いんだけど!? ていうか、やる気満々!?」
立ち上がる悪魔に思わず叫んでしまったけど、俺は悪くないよね?
ていうか、なによこの展開は!? 俺達何かしましたか!?
『我は魔獣ケルベロス! 我がテリトリーを犯す者よ! その身を持ってつぐなうがいい!』
「やっぱ、この展開かぁぁぁ!?」
ケルベロスと名乗る悪魔に思わず大絶叫。いや、予想は付いてたけど、流石に勘弁して欲しいよ!?
あとがき
そんなわけでスカアハ達とはぐれてしまった翔太達はケルベロスと戦う羽目に。
果たして翔太達はどうなってしまうのか? 次回はそんなお話になります。
ケルベロスの強さに苦戦を強いられる翔太達。しかも、翔太は仲間を助けたばかりに大ピンチに。
その時、理華と仲魔達に変化が……しかし、それはある問題も生み出すことに……
そして、ケルベロスとの戦いの行方は? そんなお話です。お楽しみ〜
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