out side
「もう、遅いじゃないの」
「ごめん……ちょっと色々とあって――」
お昼休み。呆れた様子を見せる凜に士郎は頭を下げながら謝っていた。
まぁ、遅れたといってもほんの数分ではあるが……しかしながら、士郎が遅れたのは凜にも責任があった。
というのも士郎が凜と登校していたのは多くの生徒が見ており、その中には当然士郎のクラスメートもいた。
そのため、士郎は質問攻めにあっていたのである。なぜ、あの遠坂 凜と一緒に登校してきたのかと。
これには士郎は困ってしまった。本当のことを言えるはずも無いし、誤魔化そうにも上手い言い訳が思いつかない。
なので、偶然一緒になっただけということにしたのだが……クラスメートはそれで納得しなかった。
今まで接点が無いはずの2人がいきなり一緒に登校したのだから、それを疑問に思う者が多かったのである。
結果、士郎は今まで質問攻めに遭う羽目になり、抜け出すのに苦労したのである。
「まぁ、いいわ……結界のことだけど、何かわかったかしら?」
「あ、ええと……ごめん……俺、そこまで出来る程じゃないから……」
「そういえば、まだ見習いもいいところって言われてたわね……」
後頭部を掻きながら答える士郎に、問い掛けた凜は呆れた様子を見せていた。
その時に士郎が魔術を習っていた所を見たことを思いだして、顔が軽く引きつっていたが……
士郎の魔術は実用に耐えうる物を錬成するという、普通の魔術師から見れば明らかに異常な物。
なのに、士郎はその異常性をいまいち理解してないように見えた為、凜としてはむかついてしまうのである。
また、それ以外の魔術は見習い程度……もしくはそれ以下という士郎のちぐはぐさも凜のむかつきを募らせていたが。
「そういえば、そうだったわね……まぁ、私も人がいるからちゃんとした調査は出来なかったけど……
でも、それなりのことはわかったわ。結論から言うと……やっぱりマズイわね……この結界は……」
「そう……なのか?」
「ええ……詳しくはわかってないけど……私の見立てが間違いでなければ……結界の中の人達の命が危ないわね」
「な!?」
とりあえずその考えを置いておいた凜の話を聞いて、最初は戸惑った様子を見せていた士郎は驚愕に表情を歪めていた。
人の命が危ない……それは士郎としては見過ごせない事態であった。それは凜とて同じだ。
人の命もそうだが、これでは魔術の秘匿以前の話だ。もし、結界が発動すれば、騒ぎは免れない。
そうなれば、それが元で魔術の存在が露呈……なんてこともありえた。
だから、凜はなんとしても止めたかったのだが――
「なんとか出来ないのか?」
「結界を解くとなると難しいわ。見た所、宝具並みといってもいいくらいの精度だったから……少なくとも私だけでは無理ね……」
士郎の問い掛けに凜は悔しそうに顔をしかめる。
確かに結界は魔術師であれば簡単にわかるが、かといって稚拙な物かと言えばそうでもない。
凜の見立てでは結界はかなり強力な物だった。それこそ、並大抵の魔術師では張れないような――
宝具並みと称したのはそこからである。となれば、これを張ったのはサーヴァントかもしれないと考えたのだ。
同時にそれだけの結界故に、自分だけでは解くことは難しいと判断したのである。
「そんな……」
「人の話は最後まで聞きなさい。確かに私だけじゃ無理だけど、メディアやバゼット……スカアハ達もいるでしょ?
彼女達と協力すればなんとか出来るかもしれないわ。最悪、結界を張った奴を倒すかして結界を解かせる手もあるし」
「あ、そっか……」
呆然としていた士郎であったが、凜の言葉にでそのことを思い出していた。
確かにメディアはかつてはキャスターのクラスで喚ばれたサーヴァントであり、魔術師としては破格の存在であることは士郎も知っている。
バゼットも封印指定の執行者で魔術師としてはかなりの腕を持っているし、スカアハなどの悪魔の持っている力も侮れない。
もっとも、式なら結界をあっさりとどうにか出来たかもしれないが、この時の士郎は気付くことはなかった。
凜も式の能力のことを知らなかった為に思いつくことも無かったし――
ともかく、彼女達と協力すれば結界をなんとか出来ると凜は判断したのである。
「でも、今は無理ね。一般人の生徒や先生達がいるし……夜にならないと誰かに見られる可能性が高いわね。
とりあえず、今はわかる範囲だけでも調べておくわよ」
「わかった」
凜の話に士郎はうなずく。
士郎としてはすぐにでもなんとかしたかったが、未熟な自分では……という思いが踏み留まらせていた。
だが、焦っていないわけではない。なんとかしたい。でも出来ない。そんなジレンマに心が揺れ動く。
だから、今は凜の言うとおりに出来る範囲でなんとかしよう……士郎は自分にそう言い聞かせていた。
それに君嶋さんも言っていたじゃないか。感情だけで動くなって――
などと考えている士郎を、霊体化しているアーチャーは睨むように見ているのであった。
この後、士郎と凜は昼休みが終わる寸前まで、結界の調査の為に学校を歩き回るのだが――
それを生徒達に見られた為に新たな疑惑を生むことになり……そして、それが決定打となって、ある事態を引き起こすことになってしまう。
そのことに士郎と凜は気付くことも無かった。
放課後、士郎は帰宅の準備を急いでいた。凜との話し合いの結果、帰宅してスカアハ達と合流。
事情を話し、可能ならばその日の内に事態を解決させようということとなった。
その為、なんとかしたいと考える士郎は帰宅を急いでいたのである。
なお、凜はアーチャーと共にすでに帰宅している。下宿の為に準備をするために一旦自宅に戻るためであった。
なのだが、実はこのことを士郎や翔太達に伝えるのを凜は忘れていたりする。
うっかり……も、あるのだろうが、早く解決しようという焦りが失念させていたのだ。
アーチャーはそのことに気付いてはいたが、あえて言わなかった。
まだ、答えが見つからないアーチャーは自分の願いを叶えようと考えたが為に……
なので、そのことを知らない士郎は一緒に帰るつもりで凜を捜しに校内を歩き回るはめとなった。
当然、見つかるわけも無く、何かあったのではと心配し始めた頃――
「なんだ?」
裏庭の辺りで何かの気配を感じた。もしかして、凜がいるのか? そう思い士郎がその場に行くと――
時間は少し遡り――
やや茶色がかった肩まで伸びる髪を持つ凛々しき顔立ちの弓道着姿の美綴 綾子は裏庭を歩いていた。
何をしているかといえば、ある人物を捜していた。その人物は美綴が所属する弓道部の副部長である。
なにしろ、学校に来ているはずなのにここ数日は部活に姿を見せないのだ。
その人物の妹に来るように頼んで欲しいとお願いしたのだが、効果は無し。
このままでは色々と問題があると美綴が自分でそのことを伝えようと探し回っていたのである。
幸いにして、その人物の後ろ姿を見つけたので追い掛けているのだが――
「おや、美綴嬢ではないか」
「あれ、氷室……それに三枝さんに蒔寺じゃない。ここでなにやってんの?」
その先で3人組の女生徒と出会い、1人の女生徒に声を掛けられて思わず聞き返してしまう。
1人は灰色がかった肩に掛かるまで伸びた髪にメガネを掛けた整った容姿をしている女生徒で氷室 鐘という。
もう1人は茶色の髪を肩まで伸ばした可愛らしいというのが似合う容姿をした女生徒で三枝 由紀香。
最後の1人は黒いショートカットにやや浅黒い肌の女生徒で蒔寺 楓。ちなみに3人ともジャージ姿である。
「うむ、実は蒔寺が気になるものを見かけたというのでな。一緒に探して欲しいと連れ出されたのだ」
「気になるもの?」
と、氷室は肩をすくめながら答えたのだが、要領を得ないために美綴は蒔寺に顔を向け――
「ああ、なんかすっげぇ派手な格好した女の人がいてさ〜。なんだろうと思って後を追い掛けたんだよ」
「だからといって、私達まで連れて来なくても良かろう?」
「あははは……」
なぜか両手を広げながら話す蒔寺に氷室は呆れていたが、三枝はそんな2人を見てか思わず苦笑してしまう。
しかしながら、美綴には蒔寺の話に首を傾げてしまう。どんな格好なのかはわからないが、派手というからにはそうなのだろう。
だが、それなら当然目立って噂になってもおかしくはないとは思うのだが……今の所、そんな話を聞いた覚えが無い。
「ところで美綴嬢はなぜここに?」
「ん? ああ、私は慎二を追い掛けて――」
「誰かいるかと思ったら、お前らか……」
などと考えていると氷室に聞かれたため、美綴は答えようとして……その声が聞こえてきた。
誰だろうと美綴達が振り向いてみると――
「慎二……?」
そこには青みがかった髪にややタレ気味な瞳を持つ、片手に鞄を持つ男子生徒がいた。
間桐 慎二……美綴が捜していた人物であり、同時に桜の兄でもある。そのはずなのだが……
美綴はその慎二の姿を見て首を傾げた。そいつは慎二のはずだった。
そのはずなのに……美綴には別人に見えたのだ。なぜ、そう見えるかはわからなかったが――
「慎二、あんた何やってんのさ? 部活にも来ないで……副部長なんだからやることはやってもらわないと――」
疑問は感じたものの、とりあえず言っておくことを言っておこうと美綴は歩み寄りながらそのことを言うのだが――
「え?」
そこでそのことに気付いて、美綴は足を止めた。何に気付いたのか?
慎二の背後に誰かがいることに気付いたのだ。それを確かめようと美綴は顔を向け……顔をしかめた。
慎二の背後にいたのは女性だった。宝石のような輝きを見せる紫の髪を地に着く程までに伸ばし――
まるでモデルのような均整の取れたスタイルをしていたのだが……だが、美綴にはその女性が奇妙に見えた。
まず、着ている服が胸元から腰の辺りを包む黒い服……見た目的にはボディコンにしか見えないが……
それに両腕と両足にも包み込むように黒い布を纏っている。
それだけならばまだ派手な格好をした女性と言えるのだが……美綴が奇妙と感じたのは顔の方である。
なにしろ、瞳を覆い隠すように黒い眼帯が巻かれていたのだ。もし、それが無ければ綺麗な顔なのかもと美綴は思ったりした。
「あ〜! あの人だよ! 私が見た派手な人は!」
「あれが? 確かに派手と言えば派手だが……」
と、蒔寺が女性を指差しながらそう言い出し、氷室は納得しつつも首を傾げていた。
氷室もまた美綴と同じく女性から奇妙なものを感じていたのだ。
「まったくさぁ……なんで遠坂はあんな奴と一緒に……僕の方がいいに決まってるのに――」
「慎二?」
で、慎二はといえば額に手を当てつつうつむき、なにやらぶつぶつと漏らしていた。
その様子に美綴は首を傾げる。遠坂と聞こえたので遠坂 凜のことだろうとは思うのだが……
そういえば、凜が衛宮 士郎と一緒に登校してきたという噂を聞いたので、凜と仲が良かった美綴はからかいついでに確かめようとした。
もっとも、凜はさわやかな笑顔で誤魔化されてしまったが……そんな2人のことだろうかと美綴は考えたのだが――
「ああ、もう……むかつくなぁ……いいや、ライダー。あいつら襲って吸っちゃえよ」
「……わかりました」
と、いきなり顔を上げてそんなことを言い出したかと思うと、慎二にライダーと呼ばれた女性が美綴達に歩み寄り始めた。
「ちょ、ちょっと……襲ってって……あんた、何言ってんのよ!?」
「黙れよ……僕はむかついてんだからさ……ライダー、死なない程度に痛め付けてからにしろ」
「……はい」
慎二の言葉と歩み寄る女性の異様さにたじろぐ美綴。
そんな彼女を睨みながら指示を出す慎二に、ライダーは静かに答えながら歩み続ける。
「な、なぁ……あれってやばくないか?」
「あわわわわわわ……」
「確かに……だが……」
戸惑う蒔寺。三枝も戸惑った様子で見ているしか出来なかった。
逆に氷室は悔しそうな顔をする。出来れば逃げ出して助けを呼びたかったのだが、なぜかそれが出来ない。
もし、逃げたとしてもあっさりと捕まりそうな気がして……
「待て!?」
その時だった。誰かが叫びながらこの場に現われたのは――
「え、衛宮!?」
やってきた人物の姿を見て、美綴は驚いていた。
そこにいたのはかつて同じ弓道部員であった衛宮 士郎……その姿を見てか、美綴はなぜか嬉しさを感じてしまう。
士郎も気配を感じて来てみたら不穏な空気になっているのを見て駆け付けたのはいいが――
「慎二! お前、何をやってるんだ!?」
「衛宮か……まったく、なんでお前みたいな奴を遠坂は……僕の方がふさわしいと決まってるのに……」
今の状況に怒鳴る士郎だが、慎二はなぜか睨みつつぶつぶつと何かを漏らすだけであった。
なんだろうと士郎が思った時、美綴に歩み寄っていたライダーを再び見て、そこで気付いた。
もしかして、この女性はサーヴァントなのではないかと――
「慎二……お前、マスターなのか?」
「は? 見てわかんないの? でも、ということは衛宮も参加者ってことでいいんだよな?」
「え、あ……」
疑問に答える慎二が笑みを浮かべるのを見て、士郎は自分の失態に気付く。
ここには美綴達がいる。彼女達は一般人であり、聖杯戦争のことや魔術師のことなんて知らないだろう。
そんな彼女達の前で話すようなことでは無いと士郎は気付いたのだ。
実際、話を聞いていた氷室は訝しげな顔を向けていた。
「それなら話は早いや。ほら、出せよ。いるんだろ? サーヴァント……出さないと……あいつらがどうなるかわからないぜ?」
「く……」
にやけた顔を向ける慎二を士郎は悔しそうに見ていた。この時、士郎に君嶋の言葉が思い出される。
「いいか? まずは状況を見る。これは戦場だけでなく、あらゆる場面で大事なことだ。それから何をすべきなのかを考えろ。
それとお前は1人で馬鹿をしそうだから言っておくが……1人で無理だと思ったら頼れる者に頼れ。
確かに無茶なことをしなけりゃならない時もある。だが、だからといって無謀なことをしてもいいということにはならない。
無茶と無謀をはき違えるな。ルーキーはそれがわからずに失敗をして犠牲を出したり命を粗末にしたりするからな」
(慎二はなんとかなる。でも、あの女性は……どう見たってサーヴァントだ……今の俺じゃ……敵わない)
君嶋の言葉を思い出しながら、士郎は今の状況をそう考えた。サーヴァントに敵わないのはわかりきっていた。
以前、セイバーの剣の稽古をしてもらったことがあったのだが、その時に士郎はセイバーとの差を見せつけられてしまった。
なにしろ、自分の竹刀がまったく当らないのだ。なのに、セイバーの竹刀は面白いように自分に当っていく。
そんな前例があるだけに、士郎は自分ではライダーに敵わないと判断した。
もし、翔太達と会う前の士郎ならば、セイバーを呼ぶことを躊躇ったかもしれない。
実際、躊躇いは感じていた。だけど――
「馬鹿か貴様は! 自分の命を粗末にして、誰かを守れると思ってるのか!?」
ボルテクス界にいた時、士郎は悪魔の攻撃を受けそうになった君嶋さんを守ろうとして逆に突き飛ばされたことがあった。
なお、その時襲ってきた悪魔は君嶋によってあっさりと倒されたが……
君嶋にしてみれば、今のは士郎に守ってもらうほどでは無かったのだ。
それはそれとして、そのことに士郎は問い掛けた。人を守るためには命を賭けるものではないのかと。
だが――
「じゃあ、聞くが……ある者を戦場から助け出す途中、お前はその者をかばって撃たれ死んでしまった。
それでその者は助かったと思うか?」
君嶋に逆に聞かれた士郎は思いますとうなずくと、今度は殴られてしまった。
「馬鹿者! 俺は言ったはずだ! 戦場から助け出す途中だと! つまりは戦場のまっただ中だ!
自分が死ねば残るのは助け出した者だけになる。
もし、その者が戦うことが出来ない状況でそんな所に1人にされたら、生き残れると思うのか!?」
怒鳴る君嶋の言葉に士郎は呆然と聞いていた。といっても、内心は衝撃を受けていたが……
というのも士郎は自分の全てを賭けて守るのは当然だと考えていたのだ。だが、そんな考えで守れるほど現実は甘くはない。
「いいか? ただ守るな! 守ると決めたら、最初から最後までやり通せ!
そして、何をどうすればいいのかを考えろ! 独り善がりな考えはするな!
自分が死んでもなんてことは絶対に考えるな! それは見捨てているのと一緒だからな!」
怒鳴りながらも言い聞かせる君嶋の言葉は士郎にとってある意味新鮮であった。
士郎は守るということだけを重要視していたため、何をどうするべきなのかを深く考えたことがない。
実際、ゲームでもそれが元で危険な目に何度も遭っている。
それは自分の命をあまりにも軽く見過ぎているためにそうさせていたのかもしれない。
だが、そうではないと君嶋は教えた。君嶋は士郎の考えが許せなかった。
君嶋が昔傭兵だったのは以前話したが、傭兵といっても難民など戦争の被害者を守る側としてだ。
そこで君嶋は色んなことを経験してきた。時には避難民を守るべき軍隊が意図的に攻撃してきたことさえあった。
その時の理由が敵対部隊だったからと聞いた時にはふざけるなと言ってやりたかったが……
ともかく、守るというのは簡単な事ではない。守るべき対象をどのようにして守っていくべきか。
また、想定外のことにはどうやって対処していくか……そういったことを考えなければならない。
確かに士郎にはそのような経験は無い。だが、それを差し引いたとしてもあまりにも考えがなさすぎる。
それが君嶋には許せなくて怒鳴ったのである。そして、それは士郎に通じた。
君嶋のような怒りを受けた事が無かったからかもしれない。
だから、士郎には新鮮に思えて……考えを改めさせるきっかけになった。
それ以降、士郎は君嶋の傭兵時代の話を聞くようになる。戦場で何が起きるのかを知るために――
そういった経験があったおかげか、士郎は1人で突っ走ることをかろうじて思いとどまる。
もっとも、内心はすぐにでもそうしたかったのだが――
「来てくれ! セイバァー!!」
だが、ここにいる知り合いを守るためには自分だけではダメだとわかっていた。
だからこそ、士郎は覚悟を決めて左手を掲げ、その名を呼ぶ。それと共に左手の甲にあった令呪の一角が輝き――
「何事ですか、シロウ!?」
輝きと共にセイバーが姿を現した。
「美綴達を守りたいんだ、力を貸してくれ!」
「なるほど……わかりました!」
士郎の言葉にセイバーはライダーを見て、状況を判断して鎧を纏った。
「なんだあれ!?」
「人が急に現われたり、変身したり……これではまるで……」
そんな光景を蒔寺は思わず指差しながら驚き、氷室は睨むようにして見ていた。
一方で美綴はあまりの状況に三枝と同じようにして戸惑っていたが――
「へぇ、それが衛宮のサーヴァントか……ライダー、そいつを殺せ」
「わかりまし――」
「ちょいと待ってくれねぇかな?」
なぜか楽しそうな慎二がそんな指示を出し、ライダーがそれに返事をしようとした時にそんな声が聞こえてくる。
その声へと誰もが顔を向け――
「な!? ランサー!?」
士郎は驚いてしまう。そう、そこにいたのはランサーであった。
「わりぃが、セイバーは俺がやらせてもらうぜ」
「なんだお前!? 邪魔する気か!?」
ランサーの言葉に慎二は睨みながら怒鳴っていた。
せっかく面白そうなことになりそうなのに、それを横からかすめ取られたような気がしたからだ。
「勘違いするな。俺はセイバーとやり合いたいだけだよ」
それに対し、ランサーはつまらなそうな顔をしながら答える。
実を言えば、ランサーとしてはこのような形でセイバーと戦うのは本意では無い。
しかし、令呪によって全てのサーヴァントと戦わねばならないということ。
そして、言峰が令呪を脅しに命令した為に、やり合うしかならなくなったのである。
「そういうことだからよ……相手してもらうぜ、セイバー!」
「く!?」
襲い来るランサーの槍を剣で受け止めながら士郎から離れてしまうセイバー。
「なんだよ……まぁ、いいや……それでどうするんだい、衛宮?」
「く……」
ランサーに睨みを向けるものの、一転してにやけた顔を向ける慎二に士郎は思わず後ずさってしまう。
なにしろ、いきなり窮地に立たされてしまったからだ。今、この場でライダーと互角に戦えるのはセイバーだけだろう。
だが、そのセイバーはいきなり現われたランサーと戦う羽目になっている。
セイバーは今まで翔太達と行動を共にしていたのだが、それがランサーを寄せ付けさせないことに繋がっていた。
なぜなら、そのような状態でセイバーに戦いを挑めば、自動的に翔太達とも戦わねばならなくなる。
そうなれば、ランサーの敗北は必死となるだろう。それは言峰としては歓迎出来るものではない。
なので、セイバーが翔太達から離れるか、1人になるのを待つために監視していたのだが……
いい所でそのような状況になったので、言峰はランサーに命じて襲撃させたのである。
また、これは言峰の愉しみも含まれていた。士郎の状況を見るに正義感から一般人を守ろうとしていたのだろう。
故にセイバーを呼んだのだろうが、それを邪魔すれば士郎はどうなるのか――
「はは! やるじゃねぇか、セイバー!」
「く! そこをどけぇ!?」
槍と剣で打ち合うランサーとセイバー。戦いは互角に見えた。
それではダメなのだ。早く、士郎の元へ行かなければ……
だが、その焦りもあったのか、ランサー巧みな動きにセイバーは攻め込めないでいた。
この状況に士郎は顔をしかめてしまう。サーヴァントに戦いを挑むには明らかに分が悪すぎる。
だから、どうすればいいかと考えるが……いい手が思いつかない。
その様子を小鳥を使い魔にして見ていた言峰は愉悦を浮かべていた。彼は見たかったのだ。今の士郎の姿を。
助けはしばらくは来ないのはわかっていた。なにしろ、翔太達は学校から離れた所にいる。
急いだとしても数分は掛かるだろう。来た時には手遅れだろうが……と、愉しそうに考えながら……
この時、言峰は気付かなかった。いや、知らなかったと言えるかもしれない。
理不尽とは、誰の身にも起こるということを……自分が理不尽を与える立場だっただけに――
「くそ!」
美綴達を守るために戦うことを決意した士郎は魔術を使おうとして――
「だあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「え?」
いきなり聞こえてきた悲鳴に顔を上げる羽目になった。
「ぐほぉ!?」
「きゃっ!?」「ぶべ!?」
そして、なぜか翔太が落ちてきて地面に激突し……遅れて落ちてきた理華に潰されていたが……
そんないきなりなことに誰もが顔を向けて呆然としまう。ランサーやセイバーですら、戦いの手を止めて思わず顔を向けるほどに。
「く……ええと、メディアさん……なんで落とされるかな?」
「ごめんなさいね。慌ててたものだから、出る場所を間違えちゃったみたい」
「わざとっぽく聞こえるのは気のせいですか?」
ゆっくりと降り立ちながら気にした風も無く答えるメディアに、顔をなんとか上げて問い掛けていた翔太は顔を引きつらせていた。
「翔太……さん? なぜ、ここに?」
「あら、セイバーがいきなり消えたんですもの。何かあると思うのは当然でしょ?
だから転移してきたのよ。まぁ、急いでたから、ちょっと失敗しちゃったけど」
「ちょっとなのか、これ?」
呆然とする士郎にメディアが呆れた様子で答えていた。
いきなりセイバーが消えたのだ。それが出来る方法を考えれば、士郎に何かあったと考えるのは当然である。
まぁ、町中で消えた時には肝を冷やしたが……下手すれば大騒ぎになるのは目に見えていたし。
幸い、認識阻害を常時展開していたので一般人には気付かれずに済んだが……
そんなメディアに対し、翔太はジト目を向ける。確かに転移には何かしらの準備は必要になる。
だが、今回は急いでいたために準備のいくつかを省略したのだが……まぁ、それで出る場所を間違えたのは嘘ではない。
ただ、翔太と理華の落下を食い止めるのが遅かっただけである。メディアはそれを話す気は無いが……
あとがき
そんなわけで今回は士郎君の成長日記でした(おい)
完全とは言えませんが、考え方が少しだけ成長しました。
しかしながら、ランサーの乱入に窮地に……と思ったら、翔太達も乱入。
さて、どうなることやら……そんなわけで次回はバトル……になるのか?
というのも、翔太がとったやり方が……というようなお話です。
拍手と感想掲示板に感想を頂き、本当にありがとうございます。
ですが、レスを返せなくて本当に申し訳ありません。これを書いてるのもギリギリな状況でして……
時間が出来ましたら、出来うる限り返すようにいたします。
そんなわけで、次回をお楽しみに〜
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m