その日、夕方にさしかかろうとした時間に林の中を何かを探すかのように歩く者がいた。
彼の名は衛宮 士郎。彼は何を探しているのか? それは後ほど語ることになる。
 ともかく、士郎は肩に提げたバックをかけ直し、再び何かを探して歩き回り――
「おや、こんな所で人に会うとはね」
 その者達に出会った。1人はくすんだ赤い髪をポニーテールにし、コートを着込んだメガネを掛けた女性。
もう1人は和服を着ており、その上に革ジャンを羽織る少女であった。
「え? あ、その……なんでこんな所に?」
「それはこちらが聞きたいのだがな。私達は仕事……だな。少々厄介な頼まれごとを受けてね。ここに来たわけだ」
 一瞬驚き、直後に戸惑いながら士郎が問い掛けると、メガネを掛けた女性が自嘲気味な笑みを浮かべながら答えた。
そう、彼女達がここにいるのはある仕事の為なのだが……それも後ほど語ることになる。
「で、君は?」
「え? えっと……その……」
 女性の問い掛けに士郎は戸惑うが、少しして意を決したかのように顔を上げ――
「ここに来れば、自分の夢が叶えられるヒントと出会えると聞いたものだから……」
「夢が叶えられる? なんだそりゃ?」
「それは――」
 話を聞くものの、わからない部分があって首を傾げる和服を着た少女。
それに対し、士郎は真っ直ぐに見据えながらその時のことを話し始めた。


 時間は遡り、昨日の夕方近く。士郎は夕飯の買い出しのためにマウント深山商店街に来ていた。
両親がおらず、育ての親である養父も他界し、今は一人暮らしをしている士郎としてはいつものことであった。
まぁ、一人暮らしといっても後見人のような人がいるし、同居人の如く来る人もいるので完全なとは言い難いが。
 それはそれとして、士郎はそんな人達にも夕飯を出すために丁寧に夕飯の材料の品定めをしていた。
しばらくして大方を買い終わり、さてどうしようかと考えようとした時――
「これ、そこの少年」
 ふと、声を掛けられて振り向いて……そこで士郎は固まった。
そこにいたのは占い師……らしき者であった。なぜ、らしきなのか?
路上で占いをする人が使うような台が置かれているので、そうなんだろうとは思う。問題なのは占い師らしきの方だった。
ひと言で言えば怪しいに尽きる。カラフルな中華帽を被り、まるぶちのサングラスをかけ、中華人民服を着ている男……
映画とかに出てきそうなエセ中国人風の男がそこにいたのだ。怪しいと思っても不思議ではないだろう。
「えっと……俺……ですか?」
「そうヨ。そこのあなたヨ」
 違って欲しいと思いつつ士郎は自分を指差すが、中国人風の男は片言っぽい口調で手招きしていた。
これに困ったのは士郎だ。なんと言っても怪しいに尽きる中国人風の男。自分としては無視した所だが……
性格のせいかそれも出来ずに困っていた。
「あなた、正義の味方の夢、叶えられそうカナ?」
「え?」
 だが、中国人風の男の言葉に士郎は思わず固まる。正義の味方……それは衛宮 士郎の夢であり、目指すもの。
しかし、その夢は親しい者など、ごく一部にしか話していない。決して、中国人風の男ような者に話していないはずなのに――
「なぜ……それを……」
「私、占い師。だから、わかる。それだけネ」
 戸惑う士郎に対し、中国人風の男は口元に笑みを浮かべつつ、なんでもないように答えた。
かといって納得出来るはずもなく、士郎は戸惑うばかりであったが。
「本当なら1回3000円だけど、今日は開店祝いで500円でいいヨ」
「え? ですが……」
「正義の味方になれる方法、知りたくないカナ?」
 中国人風の男の言葉に士郎は戸惑うが、次に出た言葉で固まってしまった。
確かに本音を言えば知りたい。士郎も正義の味方を目指して色々なことをしてきたつもりであった。
だが、確実になれたと思ったことは無い。だから、思わず知りたいと思ってしまい、士郎は占いの台の前に置かれていた椅子に座ってしまう。
「いらっしゃい。さて、あなたは正義の味方とはどんなものだと思うカナ?」
「え? えっと……困ってたり……危険な目にあっている人を助けたりすることだと……」
 中国人風の男に聞かれ、士郎は戸惑いながらも考えて答えるのだが――
「それは正義の味方ではないネ」
「え?」
 返ってきた言葉に士郎は固まった。確かに正義の味方と聞かれたら特撮ヒーローものや、士郎のような人のことを思い浮かべる者が多いだろう。
だが――
「それは必ずしも正義の味方でなくてもいいヨ。例えば、事故なんかで危ない時に助けるのは救助隊か消防隊ネ。
病気や怪我で危ない時に助けるのは医者だし、ひどい目にあってるのを助けるのは警察官ダヨ。すなわち、人助けでしかないヨ」
 次に来た中国人風の男の話に士郎は呆然としていたが、内心は衝撃を受けていた。
それこそが正義の味方のすること思っていたことが違うと言われたことに――
「それに正義の味方とはなろうと思ってもなれない。そういうものネ」
「え? どういう……ことですか?」
 が、中国人風の男の次に出た言葉で士郎は首を傾げる羽目になったが……
「そうね……例えばテロリスト。全てというわけではないが、彼らは信念と正義を持って行ってるらしいが……
果たして彼らの行いは正義といえるカナ?」
 中国人風の男の言葉に士郎は少し考えてから首を横に振った。士郎もテロリストのことはニュース程度のことしか知らない。
しかし、自爆テロに無差別テロなど、そういうのをニュースで見る限りでは正義があるようには士郎には見えなかった。
「例え、自分が正義の為に行ったつもりでも、周りの人達がそう思わなければ意味は無いネ。
下手をすれば悪と見られることもあるヨ。ま、正義の為にとか言って、周りのことを考えずに行動したら当然だけどナ。
正義の味方になろうと思ってもなれないとはそういうことネ」
 中国人風の男の話に士郎は考え込んでしまう。正義を行うことが正義の味方であると士郎は半ば考えていた。
しかし、時としてそれが悪と見られることがあると聞かされて、悩んでしまったのである。
「じゃあ……どうしたら……」
「まぁ、実のところそれほど難しい問題でもないのヨ。けど、それを話しても君は理解出来ないだろうけどナ」
「え?」
 悩む士郎であったが、中国人風の男の話に思わず顔を上げる。どういうことなのかを問おうとして――
「今の君はある考えに縛られてる。それを自分から考え直さないと、正義の味方にはなれないヨ」
 話す中国人風の男だが、士郎は理解出来ずに首を傾げていた。それを見た中国人風の男はため息を吐くが――
「これ……は?」
「明日、それに書かれている時間と場所に行ってみるヨロシ。そうすれば、答えの鍵となる出会いが待ってるヨ。
あ、そうそう。お泊まりセット持っていくのをお勧めするヨ。たぶん、泊まりがけになるだろうしナ」
 折りたたまれたメモ用紙らしき物を渡されて士郎は戸惑うが、渡した中国人風の男は意味ありげな笑みを浮かべて答えていた。
士郎は首を傾げるばかりであったが――
「これは私からの忠告ヨ。まず、他人だけじゃなく自分の命も大事にするネ。自分の命を粗末にする者は誰も守れないヨ。
それと突っ走るだけじゃなく過去を振り返ることネ。自分が何をしてきたのか、相手に何をしたのか、そういうことを振り返って確かめてみるヨ。
色んな人に聞いてみながらネ。これらは正義の味方には必要なことヨ」
「あ、はぁ……ありがとう……ございます……」
「ふふ、がんばるヨロシ。衛宮 士郎サン」
 中国人風の男にそう言われ、戸惑いながらもうなずいてから席を立つ士郎。実際の所、言われたことを理解出来ていなかった。
ただ、自分には衝撃的な話で戸惑っていたのである。そんな様子で去っていく士郎を中国人風の男は見送り――
ある程度離れた所で帽子とサングラスを取ると、そこから現われた顔はアオイ シンジであった。
「確かにあなたは色んな犠牲の中で生き残り……だからこそ、その命を大事にしなければならない。
それが理解出来なければ、正義の味方にはなれませんよ?」
 ふと、笑みを浮かべながらそんなことを漏らすと、シンジは占いの台と共に風景に解けるように消えていくのだった。
「あ、そういえば、あの人はなんで俺の名前を……そうだ、お金を渡してなかった……って、あれ? あの占い師は?」
 そのことを思い出して振り返った時にはシンジの姿が無く、士郎はしばらくの間戸惑いながらその場に立ち尽くすのであった。


「てなことがあって……」
「明らかに怪しいな。そいつは」
「しかし、正義の味方ね。君も難儀なものを目指しているな」
 士郎が話し終えると聞いていた和服の少女は呆れており、メガネを掛ける女性も士郎を見ながら呆れていた。
それに対し、士郎も照れくさそうに頭を掻いていたりしたのだが――
「そういえば、お二人はどうしてここに?」
「まぁ、ある意味君と同じかな? おっと、そういえば名乗って無かったな。私は蒼崎 橙子。こっちは両儀 式だ」
「あ、衛宮 士郎です」
「衛宮?」
 ふと、そのことに気付いた士郎が問い掛けるとメガネの女性こと橙子が答える。
それを聞いてから、自分も名乗っていないことに気付いた士郎が名乗るのだが、それに橙子がなぜか首を傾げていた。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。まぁ、私達の場合は仕事で来たんだがね。あれは2週間前になるか――」
 士郎に聞かれて返事をしてから、橙子は懐からタバコを取り出して火を付け、軽く吸うとそのことを話し始めたのだった。



 あとがき
というわけで今回の幕間はなんで士郎達があの場にいたのか? の士郎編でした。
今回は短いですが……仕事とか本格的に再開すると執筆速度がねぇ……
その辺りご了承してくださると助かります^^;
で、今回はシンジ君が何気に登場してます。まぁ、最近の彼はこういう暗躍系で考えることが多くて――
さて、次回も幕間です。今度は橙子と式に何があったのか? まぁ、シンジの仕業だったりしますが。
どんなことをしたのかは次回をお楽しみに〜



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