「う〜ん……」
 ここは衛宮 士郎の世界にある、士郎の家……の中にある道場。
そこで士郎はあぐらを掻きながら悩んでいた。何に悩んでいたのか? それは彼の前に置いてある二振りの剣にある。
シンジにもらった剣なのだが……奇妙なことに『投影で創られた剣』なのである。
士郎が持つ魔術特性であっさりと解析出来た為にわかったことだが……問題なのは『それ』だけなのである。
投影で創られたただの剣……どうして、そんな物をシンジが渡したのか……それがわからない。
「そうですね。ほとんど答えなのですが、教えておきましょう。これはあなた自身。
あなたの力であり、あなたを映す鏡でもあります。あなたが望めば、この剣はそのままあなたの力となる。
ただし、ただ望めばいいというわけではありませんがね」
 疑問に思ったので、シンジに聞いてみたが……返ってきたのは、先の言葉なのであった。
で、士郎はというと……理解出来ていなかったりする。しかし、それは無理もなかった。
自分が望めば、そのまま自分の力となるとは言われたが……色々と試してみたものの、剣はなんの変化も見せない。
何が足りないのか? 考えてみるが……わからない。
「どうしたものかな?」
 ふと、そんなことを漏らしながら、剣を持って士郎は立ち上がるのだった。


 士郎達が自分達の世界に戻ってきた際、一緒に付いてきたラシェーナ。
士郎の師としてシンジに紹介された彼女だが、そのため一緒に住むことになってしまい……士郎はそのことを悩むはめとなった。
その中で一番悩んだのは藤村 大河にどう説明するかであったが……これは意外にもあっさりと解決してしまう。
「スカアハさん達の引き継ぎですか?」
「正確には士郎君とイリヤちゃんの関係を今後どうするか……その調整です」
 切嗣に怪しい所は無かった……そう前置きした上で、ラシェーナは藤村に自分がいる理由をそう話した。
その光景を士郎達は顔を引きつらせて見ていたりする。
士郎達の前ではどこか尊大のような話し方なのに、今は丁寧な言葉遣いをしている。
しかも、表情もそれっぽく見せているのだから……あんたは本当にドラゴンか? と、凜が思ってしまっても、仕方が無いのかもしれない。
まぁ、ある意味凜の猫被りと同じなので、どっちもどっちと言えるかもしれないが……凜はそのことに気付いてない。
 それはそれとして、ラシェーナも一緒になって始まった生活だが……士郎の悩みとは裏腹に順調なものであった。
元々、シンジによって一般常識などは教わっていたらしく、家事の方も教えればこなしていた。
入浴やトイレも最初は戸惑ってはいたが、わからないことはちゃんと聞いてくるので、士郎としてもほっと胸をなで下ろしていたのだった。
 師としての方は、主に戦い方や自分が見てきた物を士郎に言い聞かせるのが主である。
時には組み手をしてはいるが、士郎が軽くあしらわれるだけで終わってしまう。
もっとも、これは士郎は悔しがっている様子は無い。むしろ、流石はドラゴンだと感心してしまう程だ。
 そんなこんなでラシェーナと過ごしていたある日――
「そういえばさ……あなたはなんで士郎の師なんて引き受けたの?」
 日曜の昼食時、凜はふとそんなことを聞いてしまう。
数日間過ごすことでラシェーナの人柄のような物がわかり始めたため、出会ったばかりにあった警戒心はかなり薄らいでいる。
そして、だからこそ疑問に思うのだ。ラシェーナはただ者ではない。ドラゴンだからだけでなく、別の何かがあると感じていたために。
「そうだな……興味があったというのもあるが……脅されたというのもある」
「脅された……あなたがですか?」
 どこか忌々しそうな顔をするラシェーナの言葉に、セイバーが驚愕といった表情を見せていた。
たまにだが、セイバーはラシェーナと組み手をすることがあるが……今まで一度も一撃を与えられたことが無い。
まぁ、流石に魔術などを使えなかったのもあるが、それでもラシェーナの実力の高さにセイバーも流石だと思っていたのだが――
「あれは……シンジは純粋な魔族だからな。なんの準備も無しでは、いかに私でも足下にも及ばん」
「純粋な……魔族?」
 ラシェーナの言葉に首を傾げる凜。聞いたことの無い単語故、意味をつかみかねていたのだ。
「それは悪魔とか、そういう類の存在……ということですか?」
「は、そんなのはあれの前では子供だましだよ。あれは……あれはより純粋なものだ。
全ての束縛を解き放ち、精神のみへと昇華した者……それがあれだよ……」
 問い掛けるライダーに、ラシェーナは忌々しいといった表情を変えずに首を振りながら答える。
しかしながら、やはり士郎達には理解出来ず、訝しげな顔をしたり、首を傾げていたりする。
「つまりは……どういうことだね?」
「そうだな……お前達に一番わかりやすいのは……『根源』により近い存在……と、言えばわかるかな?」
「な!?」「嘘!?」「そんな……まさか……」
 仕方なくアーチャーが問い掛け、ラシェーナが答えるが……そのことにアーチャーだけでなく、凜やバゼットまで驚愕する。
それにイリヤやセイバー、ライダーも声には出さなくとも、その表情で驚愕していることがわかる。
『根源』……それは正確な名では無いが、魔術師ならば目指すべきもの……だからこそ、魔術師たる凜達が驚いたのである。
それはたやすく……いや、その言葉すら陳腐に思えるほど途方も無く……故にそれに到達出来るものではないのだから……
「それも正確とは言えないが……そういうものだ」
「ふむ、だとしたら疑問なのだが……魔族というからには、危険ではないのかね?」
 ラシェーナの話にアーチャーはそんな疑問を口にした。
確かに魔族と言えば、誰もが何かに仇なす存在を思うのは当然だろう。
「確かに本来の魔族……しかも、純粋な者となれば、全ての滅びを望む存在だが……あれはそんなことは望んではいないらしい。
話を聞く限りだが、あれの上の存在の命で動いてるようだからな。少なくとも、私達に仇をなすようなことはしないとは思うが……」
「ちょ、ちょっと待って……上の存在って……なに?」
 どこか呆れた様子で話すが、そこに凜が待ったを掛けるように問い掛けた。
あれの上の存在……すなわち、シンジの上司みたいなのがいるというのか? と、凜は思ったのだが――
「神族にしろ魔族にしろ、お前達風に言えば会社のような縦社会だ。
会長を頂点に社長、専務……力の差ごとにそういった格付けがされる。
あれがどれほどの位置にいるかはわからんが……かなりの上の存在であることは間違いないだろう」
 ラシェーナの言葉に士郎達は息を呑んだ。どこか怪しい……だけど、侮れない存在だと、シンジのことを思っていた。
だが、蓋を開けてみれば、とんでもない存在であったことに戸惑いを隠せない。
一方でラシェーナにはある疑問があった。というのも――
(あれの上の存在は本当に魔族か? 魔族だとしても命令がおかしすぎる上にあれも自由に動きすぎている。
かといって、神族でもあるまい……それ以前にあれは魔族なのか?)
 ラシェーナの知る限り、魔族とは全てを滅ぼし……そして、自分達も滅ぼそうとする存在のはずである。
しかし、シンジの行動を見る限りではそういったことを行っているようには見えない。
かといって、神族にしてはやり方が遠回りすぎる。確かにおかしいのだが……何がおかしいのかがわからない。
「ところで脅されたというのは?」
「ん? ああ、あれはだな……」
 セイバーに聞かれたことで正気に戻ったラシェーナは、その時のことを思い出しながら話し始めた。


 ラシェーナは楽しみは人を見ていること。人ほど多種多様な存在はあまり見られない。
だから、見ていた。見ていて飽きることは無かった。人は短い周期で様々な変化を見せるから――
むろん、醜い争いをすることもあった。それもラシェーナには楽しみの1つであったが。
願わくば、そばでその変化を見てみたかった。経験もしてみたかった。だが、それは出来ない。
この時のラシェーナは人の姿になることが出来ない。
それにドラゴンのままで行けば、人を驚かせ……下手をすれば牙を剥かれることになるかもしれない。
人を見ていたためにそう予測したラシェーナは、ただ静かに遠くで見守ることを決め……その時が来てしまった。
ラシェーナはドラゴンである。しかしながら、幻想種だけでなく生物種としての意味合いも持つ種族であった。
だから、寿命が存在し……それが今、尽きようとしていた。
徐々に体から力が抜けていく……だが、ラシェーナには不思議と恐怖は無かった。
長く生きた為か、達観したからか……それはわからないが……
ただ、心残りがあるとすれば……わずかな間でもいい。人を側で見てみたかった……そんなひと言を漏らした時、それは現れた。
「なら、私のお願いを聞いてはくださらないですかね?」
 それがいつ、そこにいたかわからない。声を掛けられるまでは、そこにいたことすら気付かなかった。
そして、それとは敵対してはならないと本能が告げていた。すれば、あっさりと殺されるとわかってしまったから――
それはそれほどまでの気配を見せていたのだから……仕方なく、ラシェーナはそれの話を聞くことにした。
だが、聞いている内に興味を持ってしまった。衛宮 士郎というあり方と、その未来の可能性の存在。
「その方が別の未来を歩む所を見てみたいとは思いませんか?」
 それの言葉の意味を、最初は理解出来なかった。確かに未来の可能性の存在はあまりにも悲しすぎる。
どうにかしたいと思わないわけでもなかった。だから、どうする気だと聞いてみて……返ってきた言葉に歓喜してしまう。
それは士郎を別な未来へ歩む為の師としての役を与え、なおかつ自分に力も与え、生きながらえさせてくれるというのだ。
更には人の姿になれるようにしてくれるという。この提案にラシェーナはうなずいていた。
士郎にも興味はあったが、なにより人が側で見ることが出来る。念願だった事が叶うのだ。
そんなラシェーナの反応を感じ取ったのか、それは笑みを浮かべ――


「そうして、私はここにいるというわけだ。まぁ、今にして思うと……脅しよりも興味本位というのが強かったと思うよ」
 などと、ラシェーナは呆れた様子で話すが、士郎達は戸惑いを隠せずにいた。
ドラゴンに様々な力を与えることが出来るシンジ……それがどれほどのものなのか……
考えてしまうと不気味さが際立ち……だからこそ、戸惑いを隠せずにいたのだった。
『お話の途中で失礼ですが、エネミーソナーに反応有り。北東4kmです』
「え? あ、行かなきゃ!?」
 その時、士郎が持つGUMPのAIの報告に、士郎が慌てた様子で反応した。
シンジによってGUMPに施されたAI。士郎の魔術のサポートの為に付与された物だが……
同時にGUMPの機能補佐も行ってくれるため、士郎としては非常に助かっている。
 ちなみに魔術のサポートの方だが、魔術を使う時は楽になったと士郎は実感している。
その一方で、「なんでこんなので魔術のサポートが出来るのよ」と、凜が爆発したことがあったが……
 まぁ、それはそれとして、AIの報告にすぐさまその場所へ向かおうとする士郎達。
一方、ラシェーナはふと庭へと顔を向け――
「ふむ、一波乱……あるか?」
 何かを感じ取っていたのだった。



 あとがき
え〜と、まずは……ごめんなさい。ちょいと体調を崩したりして、執筆が進みませんでした。
なので、今回は短めになっております。しばらく、こんなことが続くかも……
それはそれとしまして、今回はシンジの正体にちょっと触れてみました。
実際は魔族とは違った者なのですが……ま、それはいずれ書くこととなります。
明らかにチートっぽいですが……まぁ、その辺りはスルーして頂けると幸いです(おい)

さて、次回は悪魔の対処のために急ぐ士郎達。その先であるお嬢様に出会い――
というようなお話です。次回をお楽しみに〜……もしかしなくても、3部構成になるかもしれない(おい)



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