「あれはお前の仕業か?」
「いえ、私は何もしていませんよ。士郎君以外にはね」
 ラシェーナの問い掛けにシンジは肩をすくめながら答えていた。
今、2人は士郎達から離れた上空で、宙に浮きつつ様子を見ていた。
最初は何かしらの気配を感じたラシェーナだけがいたのだが、いつの間にやらシンジが来ていたのである。
これに呆れながらもラシェーナは気になったことを問い掛けたのだが……
ちなみにラシェーナが言うあれとは、フロストエースの進化のことである。
シンジが何か仕掛けたかと思ったのだが……その前に凄く気になるひと言を聞いた気がした。
「士郎に何をした?」
「ちょっとしたアドバイスですよ。後は何もしていません。あ、剣にはちょっと小細工はしましたけど」
 顔を向けるラシェーナに、シンジはにこやかな笑顔で答える。
それを聞いたラシェーナはというと、微妙に信用していなかった。
嘘は言ってはいないだろう。だが、全てを話していない……そう思った為に――
問いただしたかったが今は士郎達の戦いを見るのが先かと思い、ラシェーナは諦めたように顔をそちらへと向けるのだった。


 さて、士郎達はというと、かなりの混戦模様となっていた。
「はぁ!」
 まず、バゼットはアーチャーと自身の仲魔であるカラステングやネコマタと共に悪魔と戦っていた。
本当ならランサーをなんとかしたかったが、2つの理由でなくなく諦めることとなった。
まずは自分の戦闘スタイル。バゼットは基本的にインファイター……すなわち、格闘を主体としている。
これだけならば問題は無いのだが、小次郎と共闘となると話は違ってくる。
初対面同士、しかも素手と刀という違いがあって、連携を取るのはかなり難しくなる。
その状態でランサーと戦うのはあまりにも無謀すぎた。
 もう1つはランサーと戦うことに躊躇いを感じていることである。
元々は自身のサーヴァントであるランサー。ここにいる理由も言峰の命令によるもの……
そう思うとランサーが不憫で……自分が情けなくて……戦うことが出来なかったのである。
その為、バゼットは小次郎にわびを入れてから、アーチャーと共に悪魔と戦うことにしたのだった。
 反面、アーチャーとしては助かっている。いかにアーチャーといえど、悪魔の群れを相手にするのは分が悪すぎた。
なので、いかに隙を見つけてライダーとバーサーカーを助けようかと考えていたのである。
2人を助ければ、そのまま共闘が出来るからだ。それもバゼットの参戦でどちらもやりやすくなり――
「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!」
 弓による射撃で前に出るバゼットの援護をしていたアーチャーが、悪魔の群れの中に撃ち込んだ剣を爆破させる。
「投影開始(トレース・オン)!」
 それによって悪魔の群れが怯んだ隙を見逃さず、すぐさま一振りの剣を投影し、弓につがえた。
狙うはライダーとバーサーカーを拘束する鎖。狙うは一瞬……すぐさま放たれた剣はライダーとバーサーカーの鎖のみを断ち切った。
そのおかげだろう。ライダーはようやく鎖の束縛から解き放たれ、バーサーカーも鎖を引き千切っていた。
「ありがとうございます……と、言いたい所ですが、他にやりようはなかったのですか?」
「悠長にしてる暇は無かったのでな。文句は後にしてくれ」
「アーチャーも前に出て! 悪魔が増えだしたわ!」
 どこか恨みがましそうな視線をを向けるライダーに、アーチャーは油断無く悪魔の群れに視線を向けながら答えた。
そこに凜が指示を出す。確かに新たに悪魔の群れがこちらに来るのが見えている。
「な、なんなんですの、あれは!?」
「後で話すから、あんたも手伝いなさい!」
 その異様さにルヴィアは戸惑いを見せる。見ようによっては怯えているようにも見えた。
そんな彼女に凜は怒鳴るが……凜としてもこの状況は舌打ちしたい気分である。
凜自身は格闘は出来るが、悪魔相手では流石に分が悪すぎる。
ガントは悪魔の種族によっては効果は高いものの、逆を言えば牽制にもならない時もある。
後は宝石魔術だが……凜の手持ちの宝石は2。これまで悪魔との戦闘で何度か使用した為とはいえ、あまりにも心もとなさすぎる。
使った分はシンジにでも請求してやる! とか考えつつ、凜はどうするかを考えていた。
 一方でルヴィアはただただ混乱するばかりである。
初めて見るボルテクス界の悪魔。見た目だけでも、その異様性を感じ取れた。
姿もそうだが、感じられる気配が明らかに普通ではない。それに明らかに魔術と違う何かを使っている。
もう1つは謎の男だ。こちらはたぶんサーヴァントだろう。それだけならまだ良かった。
しかし、男が放つプレッシャーはルヴィアが今まで感じたことが無い程に強く、その為に思わず怯えてしまう。
更にはあの無数とも思える数々の武器による砲撃。もし、士郎がなんとかしてくれなかったら、自分は跡形も無かったかもしれない。
そこでルヴィアは思わず士郎に顔を向ける。士郎はといえば、真剣な眼差しを男に向けていた。
その様子を見ていたルヴィアは、知らずに顔を赤らめていたのだった。
 さて、小次郎はランサーと戦っているのだが、今の所は互角の戦いをしている。
ランサーは小次郎と戦いのは今回が初めてなので、言峰が使った令呪の縛りを受けて全力が出せずにいる。
それでも小次郎と互角の戦いをするのだから、とんでもない技量であるのは間違いないだろう。
 一方で小次郎は次々と斬撃を繰り出していく。もっとも、これはバゼットのアドバイスによるものだ。
ランサーの槍は危険。宝具として発動させてはいけない。そう聞かされていたのである。
小次郎としてはどんな物か確かめてみたかったが、バゼットの表情からそれは危険と判断。
ランサーに宝具の発動をさせまいと斬り込んでいるのである。
「ち、やりづれぇな!」
「なに、この刀はただの業物なのでな。ちょっとしたことで折れる。だから、そうならないようにしているまでよ」
 槍を突くランサーに、小次郎はそれを刀で受け流しながら答えた。
事実、小次郎の剣は業物ではあるが、強度は日本刀とあまり変わりない。
刹那がこのかを助けた際に話したと思うが、日本刀はその形状から強度はさほど高くないのだ。
そして、小次郎は気などでそういった強化をすることが出来ない。故に刀で攻撃を受けるというのは出来なかった。
そんなことをすれば良くて刃こぼれ。下手をすれば折れてしまうかもしれない故に……
 また、これは両者共に言えることだが、決定打を打つことが出来ない状態でもあった。
ランサーは攻め込まれて、槍の宝具としての力を発動出来なかったために。
小次郎はそうすることで、宝具とも言える技の溜が出来なかったために。
千日手になりつつある2人の戦い。その行方は、どちらか決定的な隙を見せるかになっていたのだった。


 さて、士郎はといえば――
「疾くと去ね、雑種!」
「させるか!」
 叫ぶ男に士郎が駆け寄る。男が何をしようとしたかを気付いた為に――
「ゲート・オブ――」
 男が右手を挙げた瞬間、士郎も左手に持つ剣を振りかぶり――
「伸びろ!!」
 叫ぶと共に一気に左腕を振るうと、士郎の言葉通りに剣が伸びた。
いや、それは正確では無い。伸びたのは伸びたが――
「な!?」
 挙げた右手に何かが巻き付いたことに男が驚く。巻き付いたのはVの字にいくつも分割され、ワイヤーで繋がれた士郎の剣。
いわゆる蛇腹剣という物だ。いつの間にそんな物をと思いつつも、男はその拘束を解こうとするが――
「これは!?」
 なぜか解けない。いや、男にとってはそんなことは些細なことだった。
問題なのは――
「なぜ、エルキドゥと同じことが!?」
 そう、この蛇腹剣はライダーやバーサーカーを拘束した力を持っていた。
といっても、その力は鎖と比べると格段に落ちる。それでも男に拘束を簡単に解かれない位はあった。
「ちぃ! 小癪な真似を――」
「でぇい!!」
「な!? く!!?」
 なんとか拘束を解いた時には士郎はすでに間合いに入り、右手の剣を振り落としていた。
男は驚きながらも左腕で防ぐものの、鎧に深い傷が付く。
「ざ、雑種がぁぁぁ!?」
「余所見してんじゃねぇぞ!」
 そのことに激昂した男が士郎を攻撃しようとするが、そこにフロストエースが真横にいて――
「爆砕拳!!」
「ごはぁ!?」
 スキルによる拳で頬を殴られた男はたまらず吹っ飛んでしまう。
それでも倒れることなく着地し――
「貴様、我の頬を――」
「はぁ!」
「な、ぐ!?」
 フロストエースを睨もうとするが、そこにセイバーが斬り込んできたために、
男は驚きながらも細長い円錐状の剣をどこからとも無く取り出し、その剣を受け止める。
「そいつに攻撃をさせるな!」
「おおよ!」
 そこに突っ込む士郎に、フロストエースも返事をしながら突っ込んでいく。
士郎がそんなことを言い出したのは男の力が侮れなかったからだ。
なにしろ、無数とも言える武器を放つことが出来、その武器もほとんどが宝具級という異常さ。
更には男が今持っている剣がなぜか解析が出来ず、得体がしれなかったのもある。
どちらにしても男に攻撃させてはいけないという勘が働き、そんなことを言い出してしまったのだ。
「はぁ!」「おりゃあ!」
「ぐぉ!? 貴様らぁ!!?」
 斬りかかるセイバーと殴る掛かるフロストエースの猛攻に男は怒りをにじませていく。
その一方で士郎は準備を進める。あの男を倒すためにはただの攻撃ではダメだと感じていた。
あの鎧を貫ける力を……その想いと共に士郎は蛇腹剣になっていた左手に持つ剣を元に戻す。
その直後、剣の峰同士を合わせると重なり合い、融け込むかのように形が変わって一振りの大剣となる。
しかし、士郎はその大剣を地面に刺した。これでは足りないからだ。あの男の鎧を貫くには――
「投影、重装(トレースフラクタル)!」
 だから、士郎は二振りの剣をもう一度投影し、今度は柄尻同士を合わせた。
すると今度は士郎の身長ほどもある弓へと変わる。といっても、剣の姿をした弓といった所だが――


「あれが士郎の新たな力……ということかな?」
「ええ、士郎君の想いを形にする剣です。早い話、その場に応じた形の剣に出来るんですよ。
また、その気になれば、剣に概念を持たせることが出来ます。といっても、簡単に出来ないようにしてますけどね。
それでも、宝具を投影するよりは遥かに負担は軽くなりますよ」
 上空で見ていたラシェーナが問い掛けると、シンジはにこやかに答えていた。
シンジが士郎に与えた剣は、士郎の想いに反応してその姿を変えるという物。
例えば、相手を拘束して動きを止めたいと思えば、先程の蛇腹剣となって巻き付いたりなど――
剣という姿を大きく崩さなければ、あらゆる姿へと変わることが出来るのだ。
もっとも、士郎に一定以上の想いがなければ、形を変えられないようにしている。
これは士郎の増長を防ぐ為でもある。下手に力を与えると、アーチャーのようになる可能性もあるからだ。
そちらの方は一応対策を立てているが……士郎に与えた剣の特性のもう1つが概念付与というものである。
これは名の通り、士郎の剣に概念を持たせるという物だ。
先程、男が使った鎖には、神性を持つ者に対し制約と拘束力が高まるという概念があった。
それを解析した士郎は鎖を元にして剣を蛇腹剣にしたのだが、その際にその概念も付与されたのである。
シンジがこのようなことをしたのは、宝具を投影した際に起きる負担からである。宝具が持つのは何も概念だけではない。
どのようにして造られたか……どのような歴史を辿ったのか……使い手はどんな者だったのか……
そういった記憶も含まれている。その他にもあるが、それらが投影の際に負担となっている。
その負担を出来る限り減らすために、概念だけを持たせるようにしたのだ。
 ただ、こちらの方も形状変化と同じように、一定以上の想いがなければ出来ないようにしてある。
また、今の士郎では付与出来る概念は格段に落ちた物しか出来ない。
これは慣れと士郎の成長によって改善されるようにはなっているが……
「まったく、便利なようで不便だな」
「士郎君は急ぎすぎている所がありますからね。どこかで抑えを作っておかなければなりませんよ」
 呆れるラシェーナに、シンジもため息混じりに答えた。シンジの言うとおり、士郎は時折先走ってしまう傾向がある。
それを抑える為の対策の1つが、あの剣なのだが――
「しかし、それだけでなんとかなるのかな?」
「なりませんよ。ですから、あなたや彼女達が頼りなのですがねぇ」
 ラシェーナの問いにシンジは肩をすくめながら答えた。これで士郎を改善出来るとは思ってはいない。
むしろ、悪化させる危険性が高いとも言える。だからこそ、士郎には改めて見てもらわねばならない。
自分やその周りにあるものがなんなのかを――



 あとがき
ええと、まずは……今回も遅れて申し訳ありません。
やはりというか、4日間連載は厳しいものがありますね。
それに冬になって仕事が厳しくなりましたので……うん、なんとかしないとね。
さて、次回はいよいよ士郎編最終回。男との決着はどうなるのか? ランサーと小次郎との対決の行方は?
しかし、そこにシンジとラシェーナが現れて……というようなお話です。
あ、言っときますが、シンジとラシェーナが謎の男(正体バレバレ)とランサーを倒したりはしませんからね。
そんなわけで、次回をお楽しみに〜……今度はいつ頃出来るやら……



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