あの後、藤島一味は関西呪術協会に引き渡す為、学園長の手の者達によってどこかへと連れて行かれた。
で、士達はというと、なぜか学園長らと共にフォトショップの前に来ていたりする。
というのも――
「もう、帰ってしまうのかい?」
「まぁ、いつまでもここにいるわけにもいかないしな」
 初老の男性――名を高畑(たかはた)・T・タカミチという。
その高畑の問い掛けに士は肩をすくめつつ答える。そう、士達は元の世界へ帰るためにここへと来たのだが――
「けどさ、帰れるのか? どうやって来たのかもわからないってのに――」
「多分だが、俺達がこの世界でやることは終わった。だから、後は帰るだけ。ま、そんな気がするってだけだがな」
 不安そうに問い掛ける雄介に士は顔を向けつつ答える。
士も漠然とそんな気がしているだけだった。でも、なぜか確信めいた物も感じていた。
自分達は元の世界に帰れると――
「わしとしては、もう少し詳しい話を聞きたかったのじゃがの」
「悪いが、俺達も何がどうなってるのかわかっていなくてね。さっきまで話した事以上のことは知らないんだよ」
 学園長の言葉に士はため息混じりに答えた。
自分達のことは怪人達のことも含めてここに来るまでの間に学園長達に話ている。
なので、自分達がなぜこの世界に来たのか? あの怪人達はなんなのか? そういったものは士達もわからないので、そうとしか言えなかったのだ。
「士……私もお前達の世界に連れていってくれ!」
「は?」
 と、何かを考え込んでいた麗華がいきなりそんなことを言い出した。
このことには流石の士も呆然としてしまう。というのも――
「いや、いきなり何言ってるんだ?」
「私はお前に色々と助けてもらった。それことは感謝してもしきれない。だから、なんとかその礼をしたいのだ!」
「気にしなくてもいいんだがな」
 真剣な眼差しの麗華に、問い掛けた士は呆れた様子で後頭部を掻いていた。
士もなんとなく呪いを何とか出来そうな気がしてやってみたにすぎない。
結果としては出来てしまったが、そういった経緯もあったので士としては別に気にしていなかったのだ。
 だが、麗華としてはそれで済ますわけにもいかなかった。
行き倒れた自分を助けただけでなく、妹との仲を取り戻してくれた上に呪いまで解いてくれた。
命の恩人というだけでは生ぬるいまでの恩。と、麗華は考えていたので、それをなんとかして返したいと考えていたのだ。
「そんな……お姉様……行っちゃうの?」
「う、すまない、麗葉……私は――」
「そうじゃの……士君、2人一緒に連れていってもらえんかの?」
「なんでだよ?」
 そんな彼女に泣きそうな顔でしがみつく麗葉を見て、麗華の決意が揺らぎそうになる。
麗葉としてもう姉と離れたくはなかった。騙されていたとはいえ、姉と別れた後にあったのは寂しさだけ。
そんなのはもう経験したくはない。そんな想いからの行動である。
 そんな姉妹を見て、そんなことを言い出す学園長に士はジト目でツッコミを入れる。
まぁ、あまりにも脈絡が無さすぎてツッコンでしまったのだが。
「困った話なのじゃがな……藤島が麗葉君を利用しようとしていたのは聞いておるかの?」
「それらしいことは言ってたな」
「そうか。どうやら、あやつは麗葉君を利用して関西呪術協会の長になろうとしていたらしい。
麗葉君の持つ魔力はわしの孫に匹敵する程にあるからの」
「俺としては、あんたの孫がどんなのか気になる所ではあるけどな」
「士……」
 ため息を漏らしつつも事情を話す学園長だが、聞いていた士はなぜかそんなことを言い出す。
そのことに望は恥ずかしそうにしながら肘で軽く士を小突き、刹那はなぜか苦笑していたりするが。
「なに、母親似の可愛い娘じゃよ。どうじゃ? もし、良かったら見合いなぞ――」
「さっさと先を話せ」
「せっかちじゃの……ま、麗葉君の持つ魔力は関西呪術協会の長になれるだけの物ということじゃ。
藤島はそれを利用しようとしたようじゃが……どうやら、それを考えておるのが藤島だけではないらしいのだよ」
「嫌な話だ」
 冗談交じりの話をそでにされて呆れつつもそのことを話す学園長。
先を促して話を聞いた士は呆れた顔をするが、望や雄介は複雑そうな顔をしていた。
望や雄介でも今の話で麗葉がどんな状況に置かれているのかわかってしまったのだ。
それ故に彼女のことが不憫に思えてしまったのである。
「今回のことで天寺家には関西呪術協会の手入れが入るじゃろう。
それを狙って、麗葉君に近付こうとする者もいるじゃろうな。そして、今の天寺家ではそれを防ぐことは不可能じゃ。
麻帆良にいてもらうという手もあるが、今の状況ではそれも難しくてのぉ」
「なるほど。手が出せない所へ行かせようってわけか」
「うむ……中には麗葉君を操ってでもと考える者もいないとは限らん。せめて、ほとぼりが冷めるまではそうした方がいいと思ったのじゃ」
 ため息を漏らしながら問い掛ける士に、話していた学園長はどこか沈痛な面持ちでうなずいていた。
士も権力者達が色々ととんでもない事をしていたというのはテレビで見た程度だが知っている。
それを考えると学園長の話もあり得ない話では無いと考えたのだ。
もっとも、学園長としては麗華達がここにいることで孫の護衛に影響が出るのではと懸念していたりもする。
それを言ってしまうと姉妹の気分を害するとわかっていたので、あえて言わないでいたのだが。
それはそれとして、姉妹を連れて行くにしても問題があるとすれば――
「そういうことなんだけど、どうする? 叶さん?」
「そうねぇ。お店の手伝いはしてもらうけど、いいかしら?」
 振り向いて問い掛ける士に叶はどこか軽い調子で答えていた。
ちなみに叶。学園長を初めて見てもこの調子であった。大物なのかはたまた――
まぁ、叶としては麗華と麗葉が困っているようなので、それ位ならという考えで答えていたりする。
「だ、そうだ」
「え、あ、す、すまない。世話になる」
「ありがとう。お兄様!」
 再び振り返る士に麗華は戸惑いながらも頭を下げ、それにつられて麗葉も笑顔になった。
が、そこで士は訝しげな顔をする。というのも、聞き流せないひと言を聞いたからだ。
「なんで、お兄様?」
「だって、お兄様はお姉様の恩人なんだよね?」
 思わず問い掛ける士に、麗葉は首を傾げながら答える。
その仕草が年相応の可愛さがあったものの、士としてはなぜか頭痛を感じる返事だった。
彼としては恩人になったつもりはない。勝手にやったらそうなった程度のことでしかなかった。
しかし、麗華と麗葉はそうは思ってはいない。勝手にやったとはいえ、士に文字通り救われたのだ。
感謝の念を抱いてもおかしくなかったのかもしれない。麗葉の場合、それが呼び方に現れたのである。
「いいじゃないか、別に」
「まったく……そんじゃ、そろそろ帰るか」
「て、しつこいようだけど、どうやって帰るの?」
 思わず笑ってしまう雄介にため息を吐きつつ、士はそのことを言い出す。
しかし、望は不安そうな顔をしていた。帰ると行ってもその方法がわからなかったからだが。
「店にみんなが入れば帰れると思うがな」
「思うって……本気かよ……」
 士の言葉に流石の雄介も顔をしかめる。いかに士の言うことでもそれで帰れるとは思えなかった。
それなら昨夜帰ってきた時にはすでに帰れるはずだからである。
「まぁ、俺達がやることをやったから、帰れるって気がしてるだけだが」
「本当かよ?」
「おい、士」
 それに対して士は肩をすくめてこたえるものの、雄介はやはり訝しげな顔をするだけであった。
そこにエヴァンジェリンが声を掛けてきたので士は顔を向けていた。
「私もお前に呪いを解いてもらったからな。その礼をしたい所だが、あいにく何をすればいいか思いつかん」
「別に構わないんだが。エヴァの場合は気が付いたら巻き込んでたみたいなものだし」
「それでもだよ。私の気が済まん。だから、またここへ来い。その時までにお前への礼を用意しておく」
「ま、縁があったらな」
 真剣な眼差しで話すエヴァンジェリン。普段の彼女を見るとそうは思えないが、エヴァンジェリンは義理堅い所がある。
そんな彼女だからこそ掛けられていた呪いを解いてもらったことに感謝してるし、礼をしたいと思っていたのだ。
それに対し、士は肩をすくめながら答えるしかなかった。士にしてみれば偶然の結果でしかないし、礼を言われる必要も無いと考えている。
第一、この世界に来たのも偶然のような物だった。だから、またこの世界に来れるわけではない。
この時、士はそう考えての言葉であった。
「ああ、待っているぞ」
「やれやれ……それじゃ、行こうか」
「あ、士」
 それでも笑顔で答えるエヴァンジェリンに士は呆れながらもフォトショップの中へと入っていく。
それに慌てて付いていく望。雄介と叶も頭を下げてから店へと入っていく中、麗華は学園長と対峙していた。
「このたびはご迷惑を掛け、申し訳ありませんでした」
「構わぬよ。結果的には大事には至らなかったし、わしらは何もしておらんからの。まぁ、あちらに行って迷惑を掛けんようにの」
「はい、それでは」
 学園長の言葉に頭を下げていた麗華は再び頭を下げてから麗葉と共にフォトショップの中へと入っていく。
そして、ドアを閉めるとフォトショップ全体が光に包まれ――
それが消えると共にフォトショップの店舗もその場から消えていたのだった。
「異世界から来たというのは……本当だったんですね……」
 その光景を刹那は他の者達と一緒に呆然と眺めてしまう。
転移を可能とする魔法があるが、今のは魔法では無いのは刹那でもわかる。
なぜなら、魔力や気を一切感じなかったからだ。魔法無しで転移というのは刹那としては聞いたことが無い。
だから、士達が異世界から来たというのを半信半疑であったのだが、今ので確信出来たのである。
「そういえば、エヴァ。呪いは解けたけど、これからどうする気なんだい?」
「そうだな、ああ言った手前だ。士達がまたここに来るまで麻帆良にいるさ」
 その一方、顔を向けて問い掛ける高畑にエヴァンジェリンは不敵な笑みを浮かべて答えた。
呪いが無い以上、エヴァンジェリンは自由の身だ。それこそ、麻帆良を出て世界中を回ることだって出来る。
しかし、エヴァンジェリンは留まることを決意した。確かに士に一方的にした約束のこともある。
だが、それ以上に――
「私にしかない光か……ああ、見せてやるよ。お前が来るまでにきっと――」
 決意を秘めた瞳でエヴァンジェリンは空を見上げる。
いつか再び来るであろう士に自分の光を見せる為に、彼女はそうして生きていこうと決めたのだった。
そんなエヴァンジェリンを茶々丸は静かに見守っていたが、逆に刹那は羨ましそうな顔をする。
自分にエヴァンジェリンのような決意が出来るのだろうかと不安を感じながら。
「にしても――」
 一方、学園長はあることを思い出しながら、右手で髭を弄っていた。
思い出すのは響鬼に変身した士のこと。あの響鬼の姿に学園長は見覚えがあった。
あれは鬼の郷と呼ばれる所で鬼と呼ばれる者だけがなれる姿。それになぜ士がなれたのか?
そんな疑問が学園長にはあった。

 この時のエヴァンジェリンと刹那はまだ気付くことは無かった。士達との再会が意外に早く来ることに。
そして、学園長は思ってもいなかった。その鬼の郷に士が関わることに――


 一方、士達はフォトショップの中に入ると店が光に包まれ、それが消えたかと思うと目の前に見慣れた風景が広がっていることに気付いた。
「ほ、本当に……帰ってこれたんだ……」
その光景を見て、望は呆然としながらも内心は嬉しさのあまり泣きそうになる。
一時は本気で帰れないと思っていただけに、この事実はとても嬉しかったのだ。
「ここが……士達の世界……なのか?」
 一方で外の景色を興味深そうに見ている麗華。彼女としては異世界に来たという実感は薄い。
なまじ、魔法を知ってるだけに場所だけを移動しただけように思えたのだ。
そんな中、士はテレビの電源を入れる。映ったのは士達がいつも見ている番組。
「どうやら、時間的には麻帆良に行った時とあまり変わらないみたいだな」
 放送されている番組を見て、こちら側の時間を計っていた。
麻帆良に行って戻ってくるまで、元の世界では数分しか経っていない。その事実に士は訝しげな様子を見せる。
「戻ってこれたからいいけど……結局、あれってなんだったんだ?」
「そのことに関して、話さなければなりませんね」
 戻ってこれたことにほっとしながらも、出てきた疑問に首を傾げる雄介。
そんな彼の疑問に答える声が聞こえ、士達は慌てて振り向いていた。なぜなら、その声には聞き覚えがなかったからだ。
振り返ってみると、そこには1人の青年がいた。ズボンにシャツというラフな出で立ちに、穏和そうな顔立ちに黒い短髪という姿。
そんな青年の姿に士達の思いは1つだった。すわなち、何者なのか?と――
「あんたは?」
「そうですね……今はあえて、メッセンジャーと名乗っておきましょう。まずはいきなり異世界へ行かせたこと、申し訳ありませんでした」
 士の問い掛けにメッセンジャーと名乗った青年は頭を下げた。そのことに士と叶を除く皆が訝しげな顔をする。
「どういう……ことなの?」
「私達は見たかったのです。士さんが突然あのような状況下に置かれたら、どのような行動をするのかを」
「俺としては勘弁して欲しかったがな」
 戸惑い気味に問い掛ける望に、青年は静かに答えると士は呆れた顔をする。だが同時に、今の話に疑問も感じていたが。
士達が異世界に行くことになったのは彼が……正確には彼らなのだろうが、関係していることはわかる。
では、なぜそんなことをしたのかと疑問に思ったのだが――
「そして、あなた方がしてきたことは私達が思った以上に好ましい物でした。これならば、あなた方に託してもいいと我々は判断いたしました」
「託す……とは?」
「あらゆる世界の未来です」
「え? なんだ!?」「なにこれ!?」
 麗華の問い掛けににこやかな笑顔で話していた青年は真剣な表情になって答えた。
それと共に起きた変化に雄介と望が驚愕する。なぜなら、自分達の周りが宇宙空間のような景色に変わったからだ。
そのことに麗華や麗葉も声には出さなかったものの驚きの表情を見せている。
「あなた方が行った麻帆良のように、この世にはあらゆる可能性によって生まれた世界がいくつも存在します。
本来、それらの世界は互いに干渉することはありませんでした。あいつらが現れるまでは――」
「あいつら?」
「あなた方が戦った怪人です」
 青年の話に合せるかのように宇宙空間にいくつもの地球が現れ、そのいくつかの地球が紅く染まっていく。
その光景に内心は驚きながらも比較的冷静だった士の問い掛けに、話していた青年は真剣な表情のままで答えていた。
「正確にはその者達を束ねる存在ですが……その者があらゆる世界に干渉し、滅ぼして自分達の物にしようとしています。
そのことによって本来干渉しあうはずが無かった世界同士が干渉を初めてしまったのです」
「それって、大変なことになるんですか?」
「下手をすれば……存在する世界全てが消滅する可能性もあります」
「な!?」
 青年の話に合せるようにいくつもの地球が重なるように集まり、やがて大爆発を起こした所で風景がフォトショップの店内に戻る。
その話を聞いて疑問を感じた雄介だが、話をしていた青年が沈痛な面持ちで答えたことに驚愕する。
望や麗華も同じ顔をしていた。話を聞いているととてもではないが信じられる物ではない。
しかし、異世界に行くという体験をしただけに、頭ごなしに否定も出来ない。
それ以前に話のスケールの大きさに驚いていたのだが。
「あなた達でなんとかするとか出来なかったのかしら?」
「本来ならば、そうしなければなりません。
ですが、我々が行った場合、世界に多大な影響を与えてしまいます。世界とは、その世界に存在する全ての存在の為にあります。
いくら全ての世界の消滅を防ぐ為とはいえ、余程の事でも無い限りそれらに悪影響を出すようなことをするわけにもいきません。
そこで私達はあなた方にその者を止めてもらおうと考えました」
「ちょ、ちょっと待ってよ!? なんで士達がそんなことしなくちゃならないのよ!?」
 叶の問い掛けに青年はうつむきながら答えるものの、それを聞いた望は慌てた様子で問い掛ける。
良くは理解出来なかったが、聞く限りでは自分達では出来ないので士達にやって欲しいと言っているように思える。
そのことが望には理不尽に思えたのだ。
「それに止めるって、あの怪人と戦うことなんでしょ!? そんな危ないこと――」
「聞きたいんだが……そのことが俺に関係あるのか?」
「え?」
 なんとかやめさせようとする望であったが、それを遮る形で士が真剣な表情で問い掛けてくる。
そのこと麗華は思わず顔を向けてしまう。確かに士の言うことはもっともだった。
でも、望には士が別のことを聞こうとしているように見えたのである。
「それは……今はお答えすることは出来ません。
ですが……いずれ行く、どこかの世界で知ることになるとだけは言っておきます」
 それに対して青年は沈痛な面持ちで答え、そのことに士はため息を漏らす。
自分が望む答えを得られなかった。となれば、青年が頼むことを引き受ける義理は無いのだが――
「やれやれ、信じがたい事もあるが……それはおいおい確かめればいいだろ」
「お、おい……やる気なのかよ?」
「怪人が出たのは間違い無いしな。それに言ったろ? 俺はやりたいと思ったからやってるってな。
もしかしたら、厄介なことが降りかかってくるかもしれない。そうなる前になんとかした方がいいと思ったんだ」
 戸惑う雄介にこめかみを指で掻いていた士はそう話した。
実感がまだ薄いために信じがたい所もある。しかし、何かがありそうな気がしたのだ。
士はその何かを確かめようと考えたのである。
「で、今すぐ行けばいいのか?」
「いえ、あなた方にも生活があります。それを出来うる限り守る為に行くのは1週間ごと。
この日、この時間帯に行ってもらいます。それとお気付きでしょうが、異世界で数日過ごしてもこの世界では数分の出来事です。
ですので、時間的なことはお気になさらなくても大丈夫ですよ」
「それは喜んでいいのかわからんな」
 青年から返ってきた言葉に問い掛けた士は呆れた様子でため息を吐く。
確かにそれなら時間的なことはあまり気にしなくていいのかもしれない。
だが、どこか手放しで喜べない感じがしてしまうのだ。
「それと――これはささやかな物ですが、これからの生活にお役立てください。
それでは士さん……いえ、ディケイド。全ての世界の未来を……お願いいたします」
 何かをテーブルに置いた青年は真剣な顔を向けると、その言葉と共に頭を下げた。
その後、青年は頭を下げたまま景色に融け込むかのように消えてしまう。
その光景を呆然と見る望達だったが、士は青年が置いていった物を手に取って見ていた。
「こいつは麗華と麗葉の戸籍か? それに通帳とハンコにカードね。ん? 麗華の免許証もあるな」
 見てみると書類は麗華と麗葉の戸籍のようだった。確かめてみると2人は叶と望の遠い親戚ということになっている。
後、一緒にあった麗華の免許証の住所がフォトショップがある住所になっていた。
で、通帳一式は最寄りの銀行で使える物だったのだが――
「つ、士……こんなのもらっちゃって……いいのかな?」
「まぁ、麗華と麗葉の物を買ったりしなくちゃならんし、色々と入り用は出来るだろうしな。
くれるって言うんならもらっとけ。あって困る物でもないし、犯罪ってわけじゃ……たぶん無いだろ」
 通帳に記載されている金額を見て、顔を引きつらせる望に士は呆れた様子で答えた。
なお、通帳に記載された金額が色々とありえなかったとだけ言っておこう。
「それで麗華達はどうするんだ? 下手すると大変な事に巻き込まれそうだが?」
「構わんよ。元より、士に恩を返すために一緒に来たのだ。それが出来るとなれば願ってもないことだ」
「ま、しょうがないよな」
「ちょ、雄介まで……」
 士の問い掛けに麗華は真剣な眼差しで答えると雄介もそうだと言わんばかりにうなずく。
そのことに雄介まで賛同するとは思わなかった望は困惑していた。
そんな彼女に雄介は真剣な顔を向け――
「もしかしたら、大変な事なるかもしれないんだろ? それが本当なら、俺もなんとかしたいんだ」
「ま、どの道どうなるかは、次に行くかもしれない世界で確かめればいいさ」
 そんなことを言う雄介。その横で士は肩をすくめながら答えた。
このことに望は悩んでしまう。納得出来るわけがないし、今までのことを考えると危なすぎる。
それを考えると望としてはやって欲しくは無かったのだが――
「ま、俺だって死にたくは無いからな。そうなりそうなら、逃げるまでだ」
「士……」
 あっさりとした様子でそんなことを言う士に、望は複雑そうな顔をする。
でも、内心はほっとしてもいた。今の士の姿はいつもと変わらずにいたのだから。
「ともかく、話は来週ってことで。今は麗華と麗葉の物を買わないとな。幸い、お金もあることだし」
「あ、うん。そうだね」
 士の言葉に望は笑顔でうなずく。
同居人が増えたのだから、その為に必要な物は買わなければならないだろう。
そんなわけで麗葉に望のお古に着替えさせて、みんなで買い物に行くこととなった。
その先で麗葉が目を輝かせていたり、麗華が下着売り場で困った顔をしていたりしたが――


 それから1週間はあっという間に過ぎていった。
麗華と麗葉の部屋を用意したり、麗華にフォトショップを手伝ってもらったり。
ただ、絶世の美女とも言える麗華が手伝ったことでフォトショップに来る客が増えたりした。
麗葉の方は小学校に行くことになった。本人は渋っていたものの、年齢的に行かなければ色々と問題になる。
ただ、手続きの関係上、行くのは来週からとなってしまったが。
そんなわけで1週間経った今日。リビングに全員が集まっていた。
「あのさ……もしかして、異世界に行くのって……お店ごとなのかな?」
「前回のことを考えると、そうなるだろうな」
 少し悩んだ顔をしながら問い掛ける望に士は肩をすくめながら答えた。
その時、麻帆良の時に現れた垂れ幕の上にもう1枚の垂れ幕が落ちてくる。鈍い輝きを放つその垂れ幕を見て、士と叶以外の皆は息を呑んだ。
その垂れ幕に描かれていたのは真っ赤な夕日の下にある荒野。しかも、その荒野に無数とも言える様々な剣が突き立っている。
その異様な光景に士と叶以外の者達はどこか恐怖を感じてしまうのだった。


 一方、夕暮れ時のある学校の校庭で、男子生徒と思われる体操着を着た赤毛の少年が1人で高跳びをしていた。
その少年が跳ぼうとしているのだが、跳べずにバーを落としてしまう。
それを何度も繰り返し……それでも少年は諦めずに跳び続ける。
その光景を2人の少女が見守っているとも気付かずに――


「やれやれ、次の世界はどんな所なんだろうな?」
 垂れ幕を見た士はため息と共にそんなひと言を漏らしてしまう。

 新たな世界に来た士達。そこで起こる出来事は果たして――




 あとがき
ネギま!の世界での出来事を解決し、元の世界へと戻った士達。
しかし、その先で待っていたのはあらゆる世界の消滅の危機を知るというものでした。
が、士は自分の為にそれを防ぐことにしたようですが。
そんなわけで新たな世界へと向かう事になった士達ですが、次の世界はどんな所なのか。
次回は新たな世界に来た士達。そこである少年と出会いますが――
そんなわけで次回またお会いしましょう〜



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.