爆撃姫は出撃厨(ルーデルさんのお話)/第1話
プリキュアらの転生が目立つが、彼女らばかりが転生しているわけではない。
え? あなたがここに居ていいの? という人も意外な形で転生していたりする。今回はそんなお話――
「さて、出撃だ!」
意気揚々と、とある場所へ向かう1人の少女。歳の頃は外見だけならば、10代半ばか後半。実際は当時、20代半ばに達しつつある――
ポニーテールヘアの金色の髪に美少女と言って差し支えの無い可愛らしい顔立ちは凜々しくも見えた。
背は女性としては高め。ライダースーツのような衣装が体の線をある程度露わにしており、そこから見える体付きは一部を除いて引き締まっている。
その一部は女性の歩みに合わせて凄く弾んでいたが――
彼女の名はハンナ・ウルリッヒ・ルーデル。愛称は公には『ハンナ』だが、カールスラントにはその名前が多すぎて、そう呼ばれることは少ない。
むしろ、ファミリーネームの「ルーデル」のほうが通りがいい。あるいは現在の階級である『大佐』とも呼ばれている。
カールスラント(現・ドイツ領邦連邦。帝政カールスラント連合帝国とドイツ連邦の共同体)出身のウィッチであり、現在は諸々の事情でここ扶桑海軍横須賀航空隊に出向していた。
そんでもって彼女は満面の笑みを浮かべながら出撃すべく、自分の愛機にスキップのような足取りで向かっているのだが――
「いや、ルーデルさん。出撃の為の書類は出しましょうね。後々面倒なんですから」
「……ち――」
若い男性の一言にハンナは顔を背けながら小さく舌打ちしていたりする。
で、そのハンナに近付くのはアオイ シンジ――現在、とある事情からここ扶桑技研航空隊にいた。
そして、そのシンジ君。なぜか、ハンナをルーデルと呼んでいた。それはなぜか?
「いやいや、シンジ君。私の時代にはそんな物必要無かったぞ。まぁ、今はそういう事は部下などに任せてあるがね」
「あなたが年齢的にも本当に現役だった頃と違いますからね? ついでに言うとその時代もやり過ぎて、色々と言われてたでしょうに――
というか、今もやり過ぎでしょうが。つか、ウォーモンガー? いくらGウィッチでも一般人に騒がれたく無いのなら、やるべきことはちゃんとやってくださいね?
後、もう少し考えて動かしてください。壊しすぎて整備の人から怒られてたでしょうが」
「フハハ、あれしきの事。だが、機体は前線に耐えられるように設計されてるはずだろう? 整備と修理も簡便に出来るように――」
「だからって、程度があるでしょうが。まったく……後始末する身にもなってくださいよ?」
なんとか反論しようとするルーデルであるが、呆れた様子のシンジの正論を意に介さない豪放磊落さを見せる。
――さて、もう気付いている方もいるだろう。ハンナ・ウルリッヒ・ルーデルはドイツ空軍のタンクキラーで鳴らしたハンス・ルーデル大佐の同位体(平行世界の同一人物)である。
当人は『転生を繰り返した』ため『彼』の記憶も有しており、『オラーシャ帝国』(ロシア帝国相当)を『イワン共』と冗談めかして語る事が多い。
といっても嫌っているわけではないが、大抵の場合ではソ連が主敵になるため、ロシアの事はあまり好いていなかったりする。
『ハンス』が爆撃機乗りだったため、彼女も当然ながら急降下爆撃ウィッチの道を歩んだ。宮藤理論が確立される以前から飛んでいる古参で――
世代としては扶桑海事変時の『レイブンズ』の世代に相当するが、黒江より軍入隊の日が早いのと出会った時点では黒江より階級が上であった都合、黒江の先輩であり、圭子の後輩に当たる。
彼女は扶桑皇国空軍64戦隊内の外人部隊『魔弾隊』の隊長であると同時に、書類上は501統合戦闘航空団の管理責任者である。
とはいうものの、実務は64Fの隊長である加藤武子や元・海軍特務士官出身のご意見番的ウィッチ『赤松貞子』が取り仕切っており、暇である。
それで新兵器のテストパイロット募集をしていると知り、更にその新兵器はウィッチでなければ扱えないと知ると転生者である『Gウィッチ』(転生者かつ、永続的に魔力などを奮える者)とカミングアウトと共に意気揚々と志願。
素質もあったことで見事テストパイロットに選ばれたのだが……そこでその新兵器の開発に関わっていたシンジと出会い、そこで自分が『ハンス・ルーデルの同位体』であることを指摘される。
若い頃から出撃狂であるのはそのためで、『未来世界からの介入がなくとも、あがっても飛んでいた』とは当人の談。そして、負傷で片足を義足にしていたが、それも意に介さぬ『ウォーモンガー』
カールスラント一のウォーモンガーを謳われ、転生してますます酷くなっており、黒江からも『カールスラント最狂のお方』と太鼓判を押されている。
なお、余談であるがシンジがハンナをルーデルと呼ぶのは2人きりの時だけ。理由はシンジとしては何かしらの含みがあるようだが、肝心のハンナは戦い以外に興味がない朴念仁でもある――
それはそれとしてシンジの指摘通り、色々とやり過ぎかつ自分の機材の消耗、整備兵の労力を愛機に関しては考えないため、そのウォーモンガーぶりに顰蹙を買われている。
Gウィッチの中でも一番にウォーモンガーなのが彼女で、ガンクレイジーで鳴らす加東圭子にも『あの御仁はネジ外れてやがるぜ』と言わしめた実績を持つ。
その一方で、負傷で失った片足の再生を意に介さず、医療技術もGウィッチの能力である『空中元素固定』も使わず機械式義足を使う。
ちなみに本人曰く、『戦時だというのに、悠長に足を治療する時間などあるものか! とにかく出撃だ!』であり、ウォーモンガーすぎて周囲を閉口させている。
「じゃあ、なぜ”あれ”を作ったのだ?」
「あくまでも前線使用に耐えられる物を必要とされてたからですよ。なので、多少の無茶は効きます……ルーデルさんのような無茶は流石に想定外ですがね」
ふてくされた様子で問い掛けるハンナにシンジも半眼で答えた。新兵器とはなんなのか? という説明の前に開発の経緯を話させてもらおう。
ウィッチの世界では兵器の近代化……いや、『未来化』が著しく進んでいる。だが、一方で兵器不足という問題に陥ってしまう。
理由は兵器の未来化に前線の人員の教育やインフラ整備が追いついていかないからだ。いくら未来で実績がある物と言っても、大半がウィッチの世界では未知の兵器だ。
そのために数の問題、予備パーツの問題、前線修理の負担がのしかかっている。
21世紀水準でさえも、45年当時より技術があまりに進んでいるが故に前線にいる整備兵が『手に余る!!』とさじを投げ、前線で持て余してしまうケースが出ていた。
それで『レオパルト2主力戦車』だったり日本が投入を見送った『90式戦車』など、日本としてその辺りを考えた上で持ち込む戦車の世代を古くしたのだ。
また、新兵器の製造の為、元あった製造ラインを解体、もしくは停止する所もあったのだが、そのせいで武器や部品などの供給に問題が生じるケースもあったのである。
その解決策を扶桑は各方面に打診した結果、シンジが『前線でも充分に酷使出来る技術体系の兵器』をコンセプトに開発を開始――なお、余談ではあるが、当初は『んな無茶…』と各方面から言われていたりする。
それで造られたのが先程2人が話していた物で、名を『バイザーストライカー』――見た目は小型化された零戦……に見えなくも無い。
なぜ、そんな疑問形かと言えば、プロペラと尾翼系統が無い。さらに言えば、主翼も短いからだ。素人目にもこんなの飛ばないだろと思うような形である。
じゃあ、どうやって飛ぶかといえば、ストライカーのエンジンを使い、飛行魔法で飛ぶのだ。実はシンジは連邦(実は彼の設計)製魔力増幅器を使えばストライカーの性能を向上出来ると考えていた。
だが、一方で増幅された魔力に現行のストライカーでは耐えられないことは判明していたので、片手間で研究を進めていたのだが――
今回の扶桑の要請を受けて研究を本格化。結果として、前線での使用に耐えられる上に量産も容易なストライカーエンジンの開発が完了する。
むろん、ただ増幅された魔力に耐えられるようにしただけではなく性能も向上させているのだが、シンジはストライカーその物も開発することにした。
余談となるがこの時に彼の提供したモノを扶桑が数十年かけて研究し、第三世代宮藤理論を使うことで可変パワードスーツ化させ、その概念と運用思想を自家薬籠中の物としたのが第三世代以降のジェットストライカーに当たる。
なぜ、ストライカーの開発に乗り出したか? 実は航空ストライカーは装甲こそ製造時にはあるものの、怪異との戦いではいつしか『デッドウェイト』扱いされ、整備兵が外す事例が続発していた。
怪異のビームに有効ではないとされたためだが、そこにティターンズの航空優勢確立によって状況は一変。ミサイルの破片すら防ぎようのない外板のみでは生存率が低下する事例が多発していた。
44年時の接触以来の制空戦闘での劣勢はそこにあった。ウィッチは基本、ストライカー以外は着の身着のままの状態である。
守りは基本、ユニット部の装甲を外した場合は完全に魔力頼みであったのだが、怪異相手ならまだしも無数の銃弾と砲弾が飛び交う戦場では、魔力だけで防ぎきるのは芳佳クラスのウィッチでさえも無理に近い状態であった。
そこでシンジは今回のバイザーストライカーを開発。ウィッチとストライカーをまるごと装甲で包み、なおかつ魔力と併用することで防御力を確保。
また、魔力増幅器によって性能が向上したストライカーによって速力こそジェット機に少しばかり劣るものの機動力は初期のジェット機は完全に上回っており、なおかつかなりの積載量を持つ。
それこそ、黎明期ジェットストライカーは比でない性能となってしまった。
なので、バイザーストライカーの翼は一般的な『揚力を得る為のもの』では無く、武装を設置するための物であった。
ルーデルはこの機体に炸裂弾と徹甲弾などを混ぜた構成のバルカン砲と両翼にマイクロミサイルランチャーを複数、また後方の敵機対策に操縦席後方にも対空火器を連装で搭載した機体を使っていた。
この対空火器はどうやって操作するかは後ほど説明したいと思う。ちなみに他テストをしているウィッチからのバイザーストライカーの評判はいい。
大きさ的にバイクに近い形の乗り込みとなるが操作感覚はストライカーとさほど変わらない上に想像以上に防御力が高まったからである。
また、今まで扱えなかった重火器も扱えるようになるのも評判が高い理由となっている。なお、このバイザーストライカーとは別に陸戦用に魔導エンジンを積んだ装輪車の開発も行われている。
こちらは戦車砲をメインに各種副砲などの火器を搭載しており、元々の装甲の上にウィッチが乗り込むことで魔力によって攻撃力共にと防御力の上乗せが可能。
装輪車なので機動性も高いとここまでならバイザーストライカーと変わらないが、性質上複数人が乗り込むことが前提となっていた。
魔導エンジン搭載なので搭乗員の1人はウィッチであることが必須となるが、それさえクリアすれば他の搭乗員は一般兵でも構わないため、こちらも評判は上々。
現在は搭乗員が最低1人でも動かせるように開発が続いている。
と話が脱線してしまったが、ハンナは今日もテスト機を駆って出撃としようとしたわけだが――
「あ、言い忘れてましたが、ルーデルさんの機体は予備も含めて現在修理中で出撃は無理ですよ」
「はぁ!? おい、前線でも使用に耐えられる機体なんだろう!? なぜ、まだ修理中なんだ!?」
「あなたが壊すからでしょうが……ご丁寧に予備機とパーツまで壊してるので、回せるのが無いんですよ」
「そんなことはどうでも良いわい!!」
シンジからの思わぬ発言に激怒するハンナ。このウォーモンガーぶりが上層部が『扱いにくい』と愚痴る理由だが、『飛べば古傷は傷まん』という謎理論で飛び続けている。
彼女が平和になった後の時代に、片足を治癒したかどうかは定かでない。ただし、48年の東京パラリンピックには出場した記録が残されたという。
ともかく、危険度の高い行為を嬉々として行う都合、被弾率は高めのルーデル。バイザーストライカーの防御力で無事ではあったが、機体の方はそうもいかない。
いかに防御力があろうとも被弾しすぎれば破損するのは当然である。そんなわけで急降下爆撃の権化であり、空戦もこなせるのでハンナは機体の破損率も高い水準だった。
まぁ、そんなわけなのでシンジの言葉通りの状況になってしまったのだが……
「急いで他の者の機体を持ってこい!!」
「無理ですよ。壊されるのわかってて貸してくれる人はいませんし、許可も出ないでしょうね。 あなたならそれでも直談判に行っちゃうのでしょうが、それもダメですからね?」
それでもなんとか出撃しようと食い下がるハンナであったが、シンジの言葉に顔を引きつらせていた。
余談となるがハンナは接し方こそフランクではあるが、シンジにはどこか苦手意識がある。どういうわけでシンジだけには自分の押しが効かないというのが理由の1つなのだが。
ともかく、ハンナはやり過ぎていたのだ。それこそルーデル時代と同様に……そのせいでハンナは『機材クラッシャー』と技術部から睨まれる存在となっていた。
といっても、シンジとしてもこの状況は好ましくは無い。今、ハンナが睨まれるのは『いつものこと』だとしても困るのだ。
もし、ハンナが転生者だとヤバい方面にバレれば、それを利用せんとする輩が現れるのが目に見えているが理由である。
黒江達が既にプリキュア勢を活用している時期でもあったのでそれほど気にする必要も無いように思えるが、『ルーデル』の同位体というのが問題なのである。
これがバダン辺りに知られたらどうなるか……シンジはこの辺りは考えないようにしているのだが。
「なぁ、なんとかならないか? 良識に反しない限りであって、なおかつ可能な範囲ならばお礼は何でもするぞ」
「ん〜……そうですねぇ……」
拝み通しつつも、思わずに見とれそうになるほどの艶やかな顔を見せるハンナ。出撃のためにはなんでもする。それが彼女である。
そんな彼女の顔に視線を向けつつ、顎に手を添えていたシンジは考え込んでいた
ハンナは501の管理責任者である上級将校。それでいて、44JV(44戦闘団)をまるごと扶桑に移籍させた功労者の一人。
既に大佐にまで登り詰めており、更にGウィッチなので実のところルーデルの無茶は技術士官には睨まれるにしろ、『通ってしまう』
そこがGウィッチに与えられる特権であり、周囲に嫉妬されるもとでもあるが、連合軍統合参謀本部公認の特権である。
そこを考えるとわかるのだが……これは利用出来るか? とも考え始め――
「しょうがないですねぇ……別口で開発していたのがありますので、それの予備機を回しましょう。武装に関してもルーデル、いえ、ハンナさん好みの物がありますし」
「おおぉ!!? 感謝するぞ、シンジ!!」
シンジの言葉に歓喜したハンナは思わず抱きしめていた。ハンナにしてみれば出撃出来ないというのは死活問題に等しい問題だったのだ。
なにしろ72時間出撃しなかった場合、禁断症状が出るほどで、それを抑えるため登山やスキーを始め、パラリンピックを目指していたりしていたのだし。
故にそれを叶えてくれたシンジへの感謝へのハグであったが――
(後で怒られませんかねぇ?)
抱きしめられてるシンジはハンナのあれこれを感じつつも、そんなことを考えていた。そう、この時ルーデルは聞くべきだったのだ。
シンジが求めるお礼がなんだったのかを……このことにハンナが頭を悩ませることになるのは後日談となる。
なお、1945年時点でも、ファーストネームの『ハンナ』と周囲から呼ばれないのは同じ部隊に『ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ』がおり、被りが発生しているからでもあった。
また、カールスラントにはファーストネームがハンナであるウィッチが無数にいるため、ファミリーネームで区別をつける事が習慣化しているからでもあった。
そこはお愛嬌である。
あとがき
というわけでみなさんお久しぶりです(あとがき執筆時2019年9月)
スピンオフ『それは混ぜては危険なモノ』『あいつがガンダムを造り直したら、こうなりました』以来ですが……何やってたかというと、仕事で自律神経やっちゃいました^^;
仕事上、早朝と昼の気温差を毎日もろに受ける状態がまずかったらしく、軽いながらも睡眠障害とか起こしてました。
今も眠りが浅かったり、やる気が出せなかったりと……まぁ、病院通いで治療中な身です。うん、時には10度以上の気温差はマジでキツイです……皆さんも気をつけましょう。
後、もう一方のスピンオフの方ですが……書いてはいます……進んでないけど……これの後編もいつになるやら……
それはさておき、今回の話は909さんの話でこういうのもあっていいんでね?という考えで書きました。
それ以外にありません(おい)でも、909さんはノリノリで加筆修正してくれました。
ハンナさんの性格、ほぼ909さんによるものになってますしね。そんなわけで次回を……いつになるかわかりませんが、お楽しみに。
うん、書くよ……書くんだよ……お仕事のお休みがあったら――
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m