出逢いがあって別れがある

誰かを愛し 誰かを憎む

偶然と必然があり 人は選択する

俺は運命なんて言葉は嫌いだ

もし次があるならば自ら手で切り開いてやる



僕たちの独立戦争  第一話
著 EFF



ユリカを助け北辰との決着つけネルガルの月面ドックに戻った俺はラピスとのリンクを切ってもらい、

ユーチャリスで最後の出撃に出ることにした。

もって後半年……イネスさんに告げられて。

アカツキとエリナには悪いと思ったが、これ以上ラピスを俺の復讐につき合わせるわけにはいかなかった。

「ダッシュ周囲に敵艦の反応は在るか?」

周囲に浮かぶ火星の後継者達の戦艦の残骸を見ながらアキトはダッシュに聞いた。

『いえ、……敵艦全て沈黙しました。

 これで火星の後継者の残党は全て倒しましたね、マスター』

周囲を索敵したダッシュは敵艦の撃沈を確認してアキトに話した。

(終わったな、何もかも。

 結局、何も残らずに死んでいくのか。

 だがそれでもいいさ。

 元々先のないこの身体で生きていても仕方がないさ)

復讐の先には満足感も達成感も無く、ただ虚しさだけがアキトの胸に去来していた。

『マスター?』

ダッシュが不安そうにアキトに声を掛ける。

「……そうだな、苦労をかけたなダッシュ。

 お前には悪いことをしたな。
 
 ラピスのもとに置いてやりたかったが、すまんな」

復讐は終わったが虚しさだけしかなかったアキトはダッシュに付き合わせた事に詫びていた。

『……いえ。

 私はマスターと共にいます、最後まで……』

「そうか。

 なぁダッシュこれはただの愚痴だから答えなくても良いが、何が間違っていたんだろうな。

 こんなふうになっちまったのは、何処で間違えたのかな……」

後悔はしていなかったがもっと良い方法がなかったのかと思うアキトはダッシュに語りだした。

『……マスター。

 申し訳ありませんがいくつかの推論でよければお答えできますが、

 マスターには辛い事になりますが宜しいですか…………』

ダッシュはアキトに答えるべきか迷うように言う。

「………今更辛い事なんかないさ、ダッシュお前の意見を聞かせてくれ」

『……分かりましたマスター。

 これはラピスがいた時に協力して調べた事を元に推論したことです。

 全ての元凶はネルガルにあります』

「……どういう事だ?

 何故ネルガルにあるんだ、アカツキには世話になりっ放しなんだがな」

アキトの疑問にダッシュは静かに語りだした。

『はいアカツキ会長ではなくネルガルという企業の体質にありました。

 ボソンジャンプの独占がすべての元凶である以上そうなります。

 演算ユニットの放棄によりマスターを含むA級ジャンパーを確保して、

 ドクターがいたこともその理由になります』

「……そうか。

 アカツキは計算したわけじゃないが……結果そうなったのか」

ダッシュが語る理由を考えたアキトは苦笑していた。

『……はい。

 それだけではなく第一次火星会戦が始まる前の木連との交渉でも社長派による関与があり、

 火星の住民が全滅した可能性があります』

「どういうことだ……何故そうなるんだ?」

意外な事を聞かされたアキトはダッシュに尋ねた。

『木連との交渉時に連合政府の高官に賄賂を渡し、開戦になるように仕組まれました。

 その結果、火星の住民3000万人が全滅になり、

  地球ではネルガルが相転移エンジンからなる技術の独占による蜥蜴戦争の独り勝ちに繋がりました。

 クリムゾンが火星の後継者と繋がったのもその事が原因でしょう。
 
 後発の企業としては多少の危険はやむを得なかったのでしょう。

 また後継者の育成ができなかったのも問題ではなかったかと思われます。

 シャロン・ウィドーリンは木連に操られていましたから』

その事を聞いたアキトはシートにもたれると目を閉じて呟いた。

「そうか……確かにこれはキツイな。

 すまなかったダッシュ。余計な事を言わせたな……」
 
『すみません。

 ……マスターこれからどうしますか後二回の戦闘が限界です。

 補給のために連絡をしますか』

ダッシュは現状を告げる。

「…………そうだな、アカツキに回線を繋げてくれ。

 ……確認だけしたいのでな」

疲れた様子でダッシュに伝えるとダッシュはその指示に従った。

『わかりました、回線を開きます。マスター』

スクリーンにアカツキの顔が出るといつもの軽い口調で話す。

『やあ、どうしたんだいテンカワ君。

 トラブルでも起きたのかい』

「聞きたい事があってな。

 第一次火星開戦の事前交渉にネルガルが関与したのは事実か、アカツキ」

一瞬動揺したがそれを判らせない様にアカツキは話し出した。

『それはないよ、そこまでしないよ。3000万人の命がかかっているんだよ〜。

 ひどいな〜テンカワ君は〜』

「やはり事実か、何故そんな真似をしたんだ。

 分かるだろう……自分のした事の意味を」

事実だと知ったアキトはアカツキに尋ねる。

『あれはどうする事も出来なかったんだよ、気付いた時は決裂した後だったんだよ』

苦い表情で話すアカツキにアキトは否定する。

「嘘だな、では何故火星の研究施設やコロニーに警告しなかった。

 事前に説明できれば被害を最小に出来た筈だ。

 それをしなかったのはお前の責任だろう。

 結局ネルガルはボソンジャンプを独占する為に火星の住民を生け贄にしただけさ。

 まあ俺も自分の目的の為にラピスを巻き込み、罪なき人々を殺したから責める事は出来んか」

自嘲気味に自分を責めるアキトにアカツキは詫びる。

『すまない、ネルガルは何も変わっていなかった。

 だけど君はもう戦う事は止めるんだ。

 これ以上は危険だよ、君の身体はもう戦闘には耐えられないだろう。

 僕が君を保護するよ、だから帰って来いテンカワ君』

アカツキの説得にアキトは首を振り答えた。

「……いや帰れないよ。

 俺は人を殺しすぎた、このまま死んで逝くさ」

疲れきった顔でアキトは答えた。

それを見たアカツキは何とか思い留まるように説得しようとした。

『馬鹿を言うなよ、テンカワ君

 ラピスやルリ君を見捨てるのかい、あの子達には君が必要なんだよ』

「ラピスの事はまかせるよ。

 ルリちゃんも大丈夫さ、ナデシコのみんながいるしな。

 俺がいると迷惑がかかるしな。

 ……多分これが一番いいんだよ」

自分のした行為を思い出してアキトは告げた。

このままアカツキの世話になる事は迷惑を掛ける事になると思っていた。

『艦長はどうするんだ。

 折角助けた奥さんを捨てるのかい、ヒドイな』

「……どうでもいいさ。

 知っているだろ、今更戻れない事は」

吐き捨てるような言い方のアキトにアカツキは迷うように話した。

『……だけど、いいのか』

「アカツキ、俺が死んだらダッシュをラピスに与えてやってくれ。

 ダッシュはもう少しだけ付き合ってもらう事になるからな。

 ……迷惑を掛けるのが苦しいが。

 お前には感謝しているよ。迷惑ばかり掛けたからな」

決まった事を告げるようにアキトはアカツキに話した。

『…………わかったよ、もう何も言わないよ。僕は』

魂が抜けきった抜け殻のように見えるアキトにアカツキは残念そうに話す。

アカツキにとってアキトは大事な友人であった。

ラピスやルリの為に生きて欲しかったが、生きる気力を失ったアキトを見るのが辛いと感じていた。

「……すまんな。

 お前は俺の一番の友人だったよ、アカツキ」

通信が切れて静かになるブリッジでアキトがダッシュに話す。

「……どうやら事実みたいだな、ヒドイもんだな。

 火星は所詮地球には道具にすぎないのか」

アキトの絶望する声にダッシュが尋ねる。

『マスター、ネルガルを攻撃しますか?』

「……無理だな。

 もう俺は何度も戦えるほどの力は無いよ。

 それにアカツキは友人だったからな。

 このまま静かに死んでいくよ。ダッシュには迷惑をかけるな」

どうにもならない事だとアキトはダッシュに告げて、全てが終わったと呟いた。

『そうですか……マスター。

 もしよければ戦略シミュレーションをやりませんか?
 
 2196年当時の技術による火星の住民を一人でも救う方法を私と探しませんか…………』

無駄な事かも知れないがアキトに生きて欲しいと願うダッシュは話す。

「そうだな……人を殺すよりも救うほうがいいな。

 あまり時間はないが最期くらいはいいかな」

ダッシュが自分を気遣ってくれている事を思い、アキトは付き合う事にした。

『そうですよ。

 マスターは今まで走り続けてこられました。

 たまには歩くのも悪くないです』

「……ありがとうダッシュ。

 じゃあ少し眠ってから始めような…………」

目を閉じて休むアキトにダッシュは話す。

『はい、マスターおやすみなさい……』

ダッシュはアキトが幸せになってくれる事を願っていたが、叶わない現実に憤りを感じていた。


―――地球・ネルガル系列総合病院―――


明るい日差しのなか、ユリカの見舞いに訪れたルリは、

「失礼します、ユリカさんお体の調子は如何ですか」

「あ〜ルリちゃん、久しぶり!

 元気だった!も〜退屈、早く退院したいよ〜」

笑顔でルリに答えるユリカにイネスは呆れるように話しだした。

「何をいってるの、二年もコールドスリープしていて演算ユニットと融合してたのよ。

 検査くらいで文句を言わないで頂戴、何かあったらどうするの」

イネスがユリカ叱るがユリカには効果も無く。

「えーだってホントに検査、検査で退屈なんだもん。

 ルリちゃんからもイネスさんにいってよ〜」

入院生活に飽きたユリカはルリに助けを求めたが、

「ダメです。検査はきちんと受けてください。

 万が一何かあったらアキトさんが悲しまれますよ」

「そうよ、ホシノ・ルリの言う通りよ。

 何の為にアキト君が頑張ったと思ってるよ。このくらい我慢しなさい」

ユリカの我が侭に苦笑するルリだったがユリカの声に驚いた。

「えーホントに退屈なんだよ。

 アキトはさ〜屋台が忙しいのかちっとも来ないしさ〜、

 ひどいと思わないルリちゃん。

 ラーメンよりもユリカの見舞いにくるようにいってよ、ルリちゃ〜ん」

その一言がルリにはとても理解できず、イネスは冷めた目でユリカを見ていた。

「な、何を言ってるんですかユリカさん「ホシノ・ルリ」イ、イネスさん」

「ちょっと何か買ってくるわ、さっ、ホシノ・ルリ行くわよ」

「イ、イネスさん」

イネスはルリの手を掴むと廊下に出て、中庭に連れ出した。

「ど、どういう事なんですか?

 イネスさん、教えて下さい!」

イネスに慌てて訊ねるルリにイネスは非情とも言える宣告をした。

「結論から言うわ。

 ミスマル・ユリカはテンカワ・アキトを愛していなかった。

 ……それだけよ」

「そ、そんなどうしてそうなるんですか?

 アキトさんがどれだけ苦労したかユリカさんが知らないだけじゃないんですか」

今までの状況を考えてユリカが何も知らないだけではないのかとルリは言う。

「……違うわ。

 ユリカさんが愛しているのは王子様よ。

 つまりアキト君じゃないのアキト君に理想の王子様を重ねていただけなの。

 アキトはそんな事はしませんって今までの行為すら認めていないのよ」

イネスの言葉にルリはアキトの戦いは何だったのかと思う。

(そっそんな……ではアキトさんは何の為に戦ったのか、

 これでは報われないではないか……

 許せない何の為にアキトさんを諦めたのか、

 何の為に結婚を祝福したのか……

 人を憎むという事が始めて理解できた……)

踵を返しユリカの病室へ向かおうとしたルリをイネスの冷めた言葉が止めた。

「止めておきなさい、ホシノ・ルリ。

 何を言っても無駄よ」

「どうしてですか! 

 アキトさんが何の為に自分を犠牲にして戦ったんですか!

 こんなの、こんなの認められません! 

 ひどい、ひどいです」

ルリの目には大粒の涙が溜まり、ボロボロと零れ落ちていった。

泣き出すルリを抱きとめてイネスは泣きやむまで待ち続けていた。

落ち着いたルリにイネスは状況の深刻さを教えた。

「私やエリナが言っても理解しなかったのよ。

 あなたが言っても無理よホシノ・ルリ。

 それよりもあなたにはやって欲しいことがあるのよ。

 とても大事な事なのアキト君を捜して欲しいの。

 それも…大至急ね」

「どういう事ですか、イネスさん。

 アキトさんはネルガルで保護していないんですか?」

ルリがイネスに聞くと、

「それがね、ユリカさんがアキト君を愛していない事を知っていたみたいなの。

 それでも自分の妻で火星の人たちを救う為に無理をしていたみたいで終わったら死ぬつもりなのか、

 ラピスとのリンクを切って一人で出ちゃたの。

 だから急いで捜さないとマズイの」

告げられた事実にルリはイネスに叫んだ。

「そ、そんなどうして行かせたんですか!

 もう戦う必要がないのに、どうして!」

イネスは悲しい顔でルリに答えた。

「お兄ちゃんは優しくて責任感がありすぎるから。

 だから……」

「そっそうですね……。

 だれよりも優しい人だから……」

「それにね、目的を遂げた時が怖いの。

 張り詰めていた糸が切れるように、お兄ちゃんも……」

「それって、まさか!」

「そういう事よ。今までは復讐がお兄ちゃんを支えていたけど」

「わ、分かりました!」

イネスの声を遮るようにルリは叫ぶ。

アキトを知る二人は今のアキトを考えるとそれ以上は言えなかった。

誰よりも優しい人が傷つき絶望しか残されていないと知っていたからだ。

「……エリナがナデシコCを用意してくれているわ。

 だから……お願いね。ホシノ・ルリ……」

「わ、分かりました必ず連れて帰ってきます。

 だから治療をお願いしますね、イネスさん」

「まかせなさい、全力を尽くすわ。さ、急いで」

「はい!」

走り出したルリの背中を祈るように見続けるイネスだった。



―――ユーチャリス・ブリッジ―――


「……やはり火星単独では無理があるな、地球の企業の力が要るな」

アキトがダッシュから与えられた情報を見て話すと、

『そうですねマスター。

 この場合クリムゾンの支援を受けるべきだと思います』

ダッシュも同じ意見だがネルガルではなくクリムゾンの支援を受ける事を告げた。

「何故そう思う、ダッシュ。アスカやマーベリック社ではダメなのか?」

アキトの疑問にダッシュが答える。

『この時点でクリムゾンは木連と地球との間の窓口のような関係が見られます。

 そのため木連の攻撃が殆どありません。

 そしてネルガルの台頭により造船関係の施設に余裕があります』

「なるほどそこに相転移エンジンの船を造らせるんだな」

『はい、状況によっては地球側初の相転移船ができる事になります。

 この事でクリムゾンがネルガルに対抗できる存在になります』

「だがエンジンをどうするクリムゾンに造れるか?

 機動兵器は大丈夫だが……」

アキトがダッシュに問題点と告げるとすぐに答えを出してきた。

『その為にボソンジャンプを見せ札に使い、技術者を火星に連れてきます』

「……さっき言った火星の独立によるジャンパーの管理に繋げるのだな」

『はい、マスターは何でも一人でやろうとしますが一人で出来る事は限られてます。

 より大勢の人の力があれば出来る事がたくさんあります』

「……俺もまだ子供だったんだな。

 耳を塞いで見えるものしか見てなかったとはな。
 
 ……今頃になって気付かされるとは」

自分の行為を反省するアキトにダッシュは、

『……申し訳ありませんマスター。

 余計な事を言いました』

「いや、気にするなダッシュ。気付かず死ぬよりは、マシ…グ、グハッ、ガハッ」

血を吐き出しナノマシンの暴走に苦しむアキトに、

『マスター!』

「だ、大丈夫だ、ダッシュ。少し休めばまだもつよ」

『……マスター、ドクターに連絡を取りましょう。

 私はマスターに生きて欲しいです』

「……悪いがそれは出来ない。

 俺はいくら自分の為とはいえ人を殺しすぎた。

  自分だけ助かるわけにはいかない」

アキトの言葉を聞いたダッシュは自分の望みが叶わない事を悔しく思っていた。

『マスター……』

「俺が死んだらエリナに連絡をとり、

 ラピスを俺の代わりに守ってやってくれ…………」

『……マスター!!

 後方に大型戦艦確認! ナデシコCです!』

「サレナで出る!

 後は任せるぞ、ダッシュ」

『……わかりました、マスター気をつけて』

「ふっ、まだゲームの続きをしないとな……」

心配してくれるダッシュにアキトは話し、ダッシュもそれに応えた。

『はい!』



―――ーナデシコC・ブリッジ―――
 

「艦長、前方小惑星帯にユーチャリス発見しました!」

ハーリーがルリに伝えると、

「第一級戦闘配備!

 ハーリーくんはナデシコCの管制、防空を任せます。

 サブロウタさんはアキトさんの足止めをお願いします」

ルリが指示を出すとサブロウタが答えた。

『あいよ、ちょっとキツイがまかせてくれ。

 ハーリーは艦長の足ひっぱるなよ』

「サ、サブロウタさん、何いってるんですか!」

慌てるハーリーを見ながらサブロウタは発進する。

『ハハッ!

 そんだけ言えれば大丈夫だな。タカスギ出るぞ!』 


「ルリちゃんか……。

 ダッシュ、システム掌握される前に一撃を加えこの空域から離脱するぞ!」

スクリーンに映るナデシコCを見ながらダッシュに指示を出した。

『わかりました、マスター。

 ナデシコCより通信があります、どうしますか?』

ダッシュの報告にアキトは躊躇いながら答えた。

「……つないでくれ」

『お久しぶりです。アキトさん、戻ってきてくれませんか?』

スクリーンに映るルリを見て、アキトは冷たく声を返す。

「何のようだ。

 今更戻って今度は地球の奴等の人体実験に付き合えと」

『そっそんな事は絶対にさせません。

 どうしてそんな事になるんですか?』

アキトの話す内容にルリは分からず答えるが、アキトはどうでもいいように話す。

「俺は犯罪者だからな人権なんかあるのかな。

 捕まれば死刑、助命されてボソンジャンプ実験のモルモットかな」

嘲笑うように話すアキトにルリは叫んだ。

『だからどうしてそうなるんですか、

 私もイネスさん、エリナさんもほかの皆さんもただ帰ってきて欲しいんです』

「…………なぁルリちゃん、ユリカには会ったか」

突然話題を変えたアキトにルリは動揺しながら話す。

『えっええ、会いましたよ。

 元気になられてアキトさんに会いたがっていましたよ』

動揺するルリを見て、アキトは静かにルリに叱る。

「……嘘はダメだよ、ルリちゃん。

 イネスさんに聞いただろ、俺達のことは……」

『……やっぱり知っていたんですね』

イネスから聞いた事を思い出してルリはアキトに話した。

「ああ、それに気付いた俺はそれでもいつかは家族になれると思っていたがな……」

何か他人事のように話すアキトにルリは不安を感じていたが話を続けた。

(声に張りが無いように思えます。

 イネスさんの言う通り、アキトさんは……いえ、そんな事は絶対に認めません)

ルリは自分の中の不安をかき消すように叫ぶ。

『だったら帰ってきて下さい!

 私じゃダメですか私じゃ家族になれませんかアキトさん……』

目に涙を浮かべてアキトに話すルリにアキトは苦笑して、

「ありがとう、ルリちゃん。

 でももう遅いんだ……俺は帰れないんだよ。

 ……だからお別れだ」

そう話すとアキトは通信を切った。

儚い笑みを見せて通信を切るアキトに、ルリは何としても助けたいと願い行動する。

『アッアキトさん!

 タカスギさん、ハーリー君、足止めお願いします。

 私はユーチャリスのシステムを掌握します!』

「『了解(しました)』」

ルリが指示を出すと二人は作業を開始した。


高速でナデシコCに向かうブラック・サレナの前に現れたタカスギの機体は、

「アルストロメリアか………」

アキトのブラック・サレナを元に作られた機体がアキトの前に立ち塞がってくるという皮肉な事に苦笑する。

『テンカワさんよー、うちの艦長泣かすんじゃねぇ!』

サブロウタの声にアキトはたった一言冷めた言葉を告げる。

「誰かと思えば人体実験を推奨している木連の軍人か、

 邪魔だから退いてくれ」

『ふっふざけたことぬかすな、俺はあんな連中とは違う!』

自分が草壁達と同じだと言われたサブロウタは叫びながらブラック・サレナに接近した。

「気にするな、軍人どもはいつもかわらん。

 正義という大義があればなんでもするからな」

アキトはそう答えるとアルストロメルアを迎撃しようとした。

アサルトキャノンを連射しながら接近するアルストロメリアだが、

アキトのブラック・サレナの機動力の前には何の意味もなかった。

逆に正確無比なハンドガンの射撃にシールドは破れ、手足は破壊されかろうじて浮いている状態だった。

「チクショウ! どうしてなんだ!」

コンソールを叩きながらサブロウタは叫んでいた。

サブロウタにとってナデシコは憧れだった。

自分が始めて戦った船であり、敗れた船だった。

アキヤマに民間人で構成された船だと聞かされた時は信じられなかった。

そしていつしか、ナデシコに乗ってみたいと思っていた時に、

ナデシコBの乗船が決まった時はとても嬉しかった。

そしてホシノ・ルリに会い、いつか彼女の心の傷が癒える日が来ることを願っていた。

だが現実はとても無情なものだった…………


サブロウタのアルストロメリアを無力化した。

アキトはハーリーの防空網を突破しナデシコCの相転移エンジンを大破させ、

ユーチャリスへ帰艦しようとしたアキトにナノマシン・スタンピードが発生した。

『マスター!

 ご無事ですか!マスター!』

「ああ、大丈夫だダッシュ。

 すまんが着艦を誘導してくれ着艦後、直に此処から離脱する」

慌てるダッシュにアキトが大丈夫だと告げるとユーチャリスをサレナに向かわせた。

この時サレナを回収するためにナデシコC近づいたユーチャリスに対してハーリーが攻撃を仕掛けた。


ハーリーにとってアキトは恋敵であり、手加減する必要はなかった。

そして状況を詳しく知らないハーリーにとってアキトがいなくなれば、

ルリが悲しむ事もなくなり、全てが上手くいくと考え、

ルリもいずれは褒めてくれると信じていたからだった。


ダッシュにとって最も警戒するべきはルリとオモイカネであり、

ハーリーはそれほど警戒していなかった為にこの攻撃に対して対応が遅れてしまった。

更に被弾した箇所が悪かった。

『相転移エンジン一番被弾、ジャンプユニットに損傷、

 ジャンプシステム異常発生、マスター申し訳ありません!

 ランダムジャンプが発生します!』

慌てるダッシュにアキトは落ち着いて話す。

「そうか………ナデシコCから離れてくれ。

 ルリちゃんを巻き込むわけにはいけない。

 ナデシコCに連絡を……」

『分かりました、マスター』

アキトの指示でナデシコCから離れるユーチャリスにルリは通信を繋げる。

『ア、アキトさん大丈夫ですか?

 今から救助に向かいますから待っていてください』

アキトを気遣うルリを見て、苦笑しながらアキトは告げた。

「………ダメだ、ルリちゃん。ジャンプシステムに異常が発生した。

 ユーチャリスはこのままランダムジャンプに突入する。

 早く離れてくれ」

告げられた事実にルリは衝撃を受けていた。

『そ、そんな嫌です!

 やっと会えたのにまた離れるなんて嫌です、アキトさん! 

 せっせめて私だけもそちらに』

「ダメだよルりちゃん………ナデシコCのみんなを危険に巻き込んじゃいけない」

『で、でもアキトさん』

告げられた事実にルリは目に涙を浮かべてアキトを見るが、アキトは遠くを見るように話す。

「……ルリちゃん、ラピスの事お願いしてもいいかな。

 どのみちこの身体では長くは生きられないんだよ。

 ユリカには無理だが、ルリちゃんならラピスの家族になれるはずだから頼むよ。

 俺にとってルリちゃんが大事な妹なら、ラピスは娘みたいなものなんだよ。

 勝手な事を言うが頼んだよ」

ルリに遺言を告げるようにアキトは儚い笑顔で話していく。

それがルリにとっては耐えられない痛みを伴っていく。

『ま、待って下さい、アキトさん!!』

泣きながらアキトに向かって叫ぶルリを見ながら、アキトはダッシュに謝った。

「ダッシュすまないな、

 …………結局お前をラピスの元に帰してやれなかった」

こんな状況でも自分の事を後回しにするアキトにダッシュは告げる。

『……マスター言ったはずです。

 私は最後までマスターのもとにいると』

そんなダッシュにアキトは苦笑しながら話した。

「そうか…………出来ればもう少しマシな未来にしたかったな…………」


ボソンの光が輝いて消えた

この時よりテンカワアキトの姿を見た者は誰もいない

だが彼らの長い戦い旅ははまだ終らず始まったばかりであった








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EFFです。

指摘を受けた部分を直しながらの改訂版です。
今回は火星の住民の総数の間違いを直す事にしました。

では次回で会いましょう。




感想

EFFさん改訂版第一回は10本連続投稿!
感想は10本目に入れさせていただきます。


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