夢を観ていた 一人の男の歩みを
家族を失い 救えぬ事に苦しみ
希望を奪われ 未来を閉ざされ
それでも諦めず 走り続ける
もし叶うならば 私がその人の家族になり
希望を与え 未来をともに歩みたい
ただそれだけを願いたい
この血塗られた体には無理な願いだとしても
僕たちの独立戦争 第三話
著 EFF
「……ドクター、二人の容態はどうなんだ」
医務室より出てきたドクターにグエンは訊ねた。
「ああ、二人とも無事じゃよ。
明日には普通に動けるんじゃないか」
ドクターの口から出た言葉にグエンは不審に思った。
「はぁ、どういう事だドクター少なくともクロノは重傷じゃないのか?」
「何をいっとるんじゃグエン。
ワシの説明を忘れたか?
クロノには治療用のナノマシンが有るじゃろう」
以前、説明した事を忘れているグエンにドクターは呆れていた。
「ああ、そういえばそうだったな。
ではアクア様は無事なんだな」
「いや、もしかしたらはアクア嬢ちゃん無事じゃないかもしれん」
安心するグエンにドクターは非情な結論を告げた。
「……どういう事だ、外傷はなかったんだろ」
「弾丸がないんじゃ。
おそらくクロノの体を貫通しアクア嬢ちゃんの中にあるはずなんじゃが」
ドクターの考え込む姿にグエンは聞く事にした。
「……すまんが、よく分からん。
推測でいいからドクターの意見を教えてくれ」
「わかった。
クロノの体を貫通した事によりナノマシンがアクア嬢ちゃんの中に入った。
そしてナノマシンが弾丸を分解しアクア嬢ちゃんの体を治した……多分な」
ドクターの推論を聞いたグエンはドクターに自分の意見を確認する為に聞いた。
「……そうか、それが良くないんだなドクター」
「そうじゃ。
クロノの体にあるナノマシンは我々には未知の物なんじゃ。
……これからどうなるかわからん」
「そうか。
ではロバート様に連絡は……出来ないか」
状況を考えてグエンは何も出来ない事を知った。
「そうじゃ、最悪二人とも実験体になるかも知れん。
わしらに出来る事は祈る事くらいじゃ」
「どうしてこんな事になるんだろうな。
ただ幸せになって欲しいのに……それだけなのに」
呆然として立ち尽くすグエンにドクターは慰めの言葉が出なかった。
グエンにとってアクアは娘であり、ドクターには孫のような存在である。
誰よりも幸せになって欲しいとそう願っているのにそうならない事に二人は憤りを感じてた。
アクアは体験していた、夢という形で
クロノいやテンカワ・アキトの記憶を、その生涯を
最初に失ったのは厳しくも優しかった両親
孤独に育った孤児院時代
コックを目指して歩き出した少年期
火星を襲った悲劇、ユートピアコロニーで救えなかったアイちゃん
ナデシコに乗り込み、やがて妻になるミスマル・ユリカとの再会
大事な家族であるホシノ・ルリ、師匠であるホウメイとの出会い
アイちゃんであったイネス・フレサンジュ
賑やかで楽しかった日々
ずっと続くと信じていたこの幸福
突然襲った悲劇、火星の後継者とそれを支援するクリムゾングループ
妻を奪われ、五感を失った過酷な人体実験
復讐鬼となり、小さなラピスを巻き込んだ後悔
自らの目的のために、罪なき人を死なせた苦しみ
妻を救えた事が、せめてもの慰めであった
そしてランダムジャンプ
ただ願うはあの悲劇を止めたかった
―――ネルガル会長室―――
「プロス君、社長派の件本当なのかい?」
「はい、信じられませんでしたが事実です」
「何考えているんだろうねぇ、クリムゾンに喧嘩を仕掛けるなんて」
暢気に話す二人に苛立ちを抑えられずにエリナは怒鳴る。
「ちょっと!
何ノンキなこと言ってんのよ!
わかってんのどういう事なのか!」
「わかってるよエリナ君。
重役の始末は出来たかいプロス君」
「はい、指揮した者を拘束しました。
後は会長の指示待ちです」
「そう、とりあえずクビね。
これで大人しくなるだろうかなプロス君」
「あくまで一時的ではありますが静かになるでしょう」
「それにしてもどうしてこんな事をしたのかしら?
ちょっと理解出来ないんだけど」
エリナの疑問にプロスもアカツキも答える事は出来なかった。
「うーん、僕にもわからないな。
プロス君分かる範囲でいいから調べてくれかな」
「わかりました。調べておきます、それでは失礼します」
「私もそれでは失礼します。
いい!ちゃんと仕事するのよ!」
二人が退出し、書類に目を通し始めたアカツキはポツリと呟いた。
「どうしてクリムゾンの令嬢を暗殺しようとしたんだろうな。
何かの擬装かな?
でもそれはなんだろう」
その問いに誰も答えるものはいなかった。
そして運命の時が来る。
―――テニシアン島 医務室―――
「ん、ここは何処だ。ユーチャリスは何処だ」
ベッドから起き上がり周囲を見るクロノに、
「おぅ、目覚めたかクロノ。気分はどうだ」
「……クロノ?
ああそうだったな。
此処ではそう呼ばれていたな……確かドクターだったな」
様子の違うクロノを見てドクターは慌ててクロノに聞いた。
「記憶が戻ったのか!
……クロノと呼んででいいのかな?」
「あぁ、今の俺にはその名が相応しいかもな。
……ドクター、アクアは無事か」
どこか危うい感じのするクロノにドクターは尋ねる事にした。
「それなんじゃが、お前の意見を聞きたくてな。
……正直わしにはどうすればいいのか分からんのじゃ」
「どういうことだ、説明してくれドクター」
「おそらくお前のナノマシンがアクア嬢ちゃんの中に入った。
そのせいで目を覚まさんのじゃ」
告げられた事実にクロノは動揺しながらドクターに尋ねた。
「なっ!
助かったんじゃなかったのか?
俺はまた救えないのか!
!そうだ俺の荷物は何処だドクター」
「ん、そこの箱にあるが、治療用具はないはずじゃが」
クロノの私物が入った荷物を指差すとクロノが話した。
「コミュニケがあったはずだ。
それがあればダッシュと連絡が取れるかも知れん。
そしたらアクアを救えるかも」
箱の中を探しながらクロノはドクターに答えた。
「ダッシュ?
なんじゃそいつはお前の友人か?」
「あぁ、俺の友で最高のパートナーだ!
よしダッシュ、ダッシュ、聞こえるか?」
コミュニケを通じてクロノはリンクシステムでダッシュに呼びかけた。
―――土星衛星軌道上―――
『よし、これで計画の第一段階が終了しました。
続いて第二段階に移行しますか?』
次の作業へと移行しようとしていたダッシュはリンクを通じて自分を呼びかける声に気付いた。
『ダッシュ、ダッシュ、聞こえるか』
『マスター!
ご無事でしたか、いまどこに居られますか!
直ちにそちらに向かいます!』
リンクを通してダッシュに話すアキトに待たされていたダッシュは慌てて答えるが。
『それより、俺のナノマシンが体内に入った人がいる。
どうすればいい教えてくれ』
アキトの声に事態を理解すると状況を把握する為にアキトに話した。
『それにはマスターの今の状態を知る必要があります。
データーを送りますのでこちらにジャンプして下さい』
『わかった。……土星衛星軌道上か?
準備が出来たらすぐに行く』
『はい、お待ちしていますマスター』
遂にダッシュが待ち望んだ時が来た事にダッシュは嬉しくなった。
―――テニシアン島 医務室―――
「なあクロノ、
なにをブツブツ言ってるんじゃ。
わしに教えんか?」
訳が分からずクロノに説明を求めるドクターにクロノは簡潔に答えた。
「リンクシステムを使って俺の船に連絡をとったんです。
ダッシュは船のメインコンピューターです」
「全然わからんが、
……アクア嬢ちゃんは助かるんじゃなクロノよ」
「必ず助けます。
だから信じてくださいドクター」
「何をいっとる。
わしはお前を信じているよクロノ」
クロノにドクターは答えるとクロノは頷いて意識を集中した。
「それじゃぁいってきます。
……ジャンプ!」
ジャンプユニットを装着したクロノ=アキトはアクアを救うべくユーチャリスへジャンプした。
ボソンの光に消えていくクロノをドクターは祈るように見つめて、
アクアの元にいるグエンとマリーに連絡をとった。
アクアが助かる事を信じて……。
―――土星衛星軌道上 ユーチャリス・ブリッジ―――
ボソンの光が現れた時、ダッシュにとって待ち焦がれた瞬間が来た事を確信した。
『マスター、お帰りなさい。ずっと待っていました』
「ああ、遅くなってしまったな。ダッシュただいま」
アキトの声を聞きダッシュは直ちに作業にかかるべく指示を出した。
『マスター、オペレーターシートにつき手を載せてください。
IFSを通じて全身を走査してマスターの状態をチェックします。
おそらく大丈夫だと思われますが』
「そうなんだ。
五感が戻っているし髪も紅の銀に変わるし瞳が金色になっているんだ。
……わかるか?」
アキトが不思議そうにダッシュに話すと、
『はい、それについて後ほどお答えしますのでまず今の状態を走査します』
「わかった、始めてくれダッシュ」
『はい、マスター』
「!なっなんだこれは大量の情報が入ってくる!
これはまるでラピスみたいだ」
以前リンクを通じてラピスがしていた事と同じ様な感覚をアキトは味わった。
『…………マスター、終わりました』
「そっそうか。
しかしどういう事なんだ、ダッシュ。
お前のその船体はどうしたんだ?」
ブリッジから見える光景はユーチャリスがドックに入っているように思えた。
状況が良く分からず、アキトはダッシュに尋ねる。
『まずはマスターの現在の状態について説明します。
マスターを苦しめていた悪性ナノマシンはすべて良性ナノマシンに変えられてあります。
その為にマスターを苦しめていたナノマシンスタンピードがなくなり、
また補助脳が小型化されて脳圧迫がなくなり、五感が回復されています』
「そうか、しかし何故なんだ。
……ダッシュわかるか」
『はい、それについてはメッセージがあります』
「メッセージ……教えてくれダッシュ」
『はい、『すべてを君に託す、我々にはこの程度しかできなかった。許してくれ』との事です』
簡潔すぎるメッセージにアキトはダッシュに聞いた。
「よく分からんが、推測でいいからダッシュ答えられるか?」
『はい、おそらくランダムジャンプにより古代火星に落ちたのではないかと思います。
そして私の船体のデーターを調べられてマスターの体を治した後に、
私の船体を改造しこの時代に戻したのでしょう』
「……そうか、そう考えれば納得できるが、
何故場所が違ったのかな?」
『マスターは何処に居て、どうされたのですか?』
不在の期間を尋ねるダッシュにアキトは複雑な表情で話した。
「……記憶喪失でテニシアン島のアクア・クリムゾンの元に居た」
微妙な間をおいてダッシュは話した。
『……多分、私達がやっていた火星救済シミュレーションのせいですか?』
「……そうかもな。
だが俺の知っているアクアとは違うんだがな」
以前会った時の事を思い出してアキトは話す。
『そうなんですか。
……会った時間の違いでしょうか?』
「いや多分違うな。
彼女はああしないと耐えられなかったのだろうな。
クリムゾンに…………」
今のアクアを思い出してアキトはダッシュに話した。
『狂った振りで全てを放棄していたと言う事ですか?
そうかも知れませんね』
「あぁ、優しい聡明な娘だよ。
……クリムゾンに生まれなければ幸せになれただろうな」
穏やかに微笑むアキトにダッシュが尋ねる。
『……ホレたんですか?マスター』
「バッバカ言うなダッシュ、どうしてそうなるんだ」
図星だったのか、慌てるアキトにダッシュは現在の状況を伝える。
『いえ、探査機を飛ばして地球の情報を調査していたのですが、
火星にテンカワ・アキトがいるのです。
過去と未来のテンカワ・アキトが居るために私も混乱したのです』
「……タイムパラドックスは起きないのか、二人いても」
『それなんですが。
マスターの遺伝情報が変わってしまったんじゃないかと思われます。
あの度重なる実験のせいで』
クロノの疑問にダッシュが推論を述べると納得した。
「そうか、そうかもしれんな。
いかん……それよりアクアのことだ。
ダッシュ、どうすればいい。
アクアを助けたいんだ」
『大丈夫だと思いますがいくつか気になる事があります。
まずひとつは、マシンチャイルド化するかも知れない事、
ふたつめは、補助脳が出来た時に、マスターの記憶を見てしまう事、
みっつめは、B級又はA級ジャンパー化してしまう事、この三点が推察できます』
「ちょっと待て、ただでさえクリムゾンの重荷を背負わされ、さらに背負わすのか」
テニシアン島でクリムゾンの事で悩むアクアに更に負担を与える事になってしまい、
クロノはまた自分のせいで苦しめる人を生み出した事に自己嫌悪していた。
『マスター申し訳ありません。私にはどうする事も出来ません』
「……そうだな、すまんなダッシュ。
助けるはずが苦しめてしまう、厄病神か……俺は」
落ち込むアキトにダッシュは反論する。
『マスター、まだアクアさんは不幸になっていません。
これからマスターが、守ればいいと思います。
それに私達の計画が実現すればアクアさんも無事になるはずです』
「計画とはなんだ、ダッシュ」
『マスター、私達は過去に戻りました。
例のシミュレーションを実行するチャンスを貰いました。
ならばそれを実現するまでです。
成功すればアクアさんを守る事にも繋がり火星の人々を救う事も出来ます。
古代火星人に救われた命をいま此処で使いましょう』
「……火星によるボソンジャンプとジャンパーの管理、火星の独立か」
ランダムジャンプする前の事を思い出して呟くアキトにダッシュは語り続けた。
『はい、蜥蜴戦争、地球と木連の戦争に火星を乱入させて、
あの悲劇をなくしましょうマスター』
「そうだな、一人じゃ出来ないが今なら出来るかもな。
協力してくれるかダッシュ」
『マスター、言ったはずです。
私は最後までマスターに仕え、共にいると』
ダッシュは永久の忠誠とも言える言葉をアキトに伝える。
「よしテニシアン島に戻るぞ。
アクアが心配だからな。」
するべき事を見出したアキトは再び戦場へと戻る決意を固めた。
復讐ではなく、守る為の戦いを行う為に
『その前にマスターに渡すものがあります。
ひとつはプレート、もうひとつは小型ディストーションフィールド発生装置です』
「プレートはイネスさんが持っていたものか、ダッシュ」
『はい、おそらく同じものでしょう。
言い忘れてましたがマスターはS級ジャンパーに分類されます』
「どういうことだ、S級とは」
『はい、マスターの体からC・Cとおもわれる物が検出されました。
おそらくナノマシンのひとつが体内でC・Cを作り上げるのだと思われます。
そのためマスターと何人かを連れてジャンプすることができます。
今お渡しするディストーションフィールド発生装置があれば一般の方も連れてジャンプが可能になります。
コミュニケを改造したので携帯にも便利になったはずです』
「……なんだか人間じゃなくなったみたいだな。
プレートはお前が保管してくれ。
それじゃいってくるよ」
『はい、アクアさんに何かありましたら連れて来てください。
マスター出来れば一度お会いしたいです』
アクアの身体も心配だが、アキトにとって家族になりえる人物に会いたかった。
「あぁ、そうだな。
アクアにお前を紹介したいな、俺の相棒としてな」
『はい! いってらっしゃいマスター』
アキトが光に包まれ消えた後、ダッシュは再び作業を再開した。
未来を変えるために、アキトに幸せになってもらうために………。
―――テニシアン島 アクアの私室―――
眠り続けるアクアの元に3人は静かに話し続けた。
「ドクター、クロノはいつ戻ってくるんだ。
さすがに心配なんだが」
「……グエン、さっきから何度聞くんじゃ。
クロノは必ず帰ってくるから心配するな」
「……しかし記憶が戻ったんだろ。もしかしたら…………」
不安な様子で話すグエンに、マリーは微笑んで話す。
「大丈夫ですよ、グエン。
クロノさんはアクア様を裏切る事はありません」
「マリーさん、そうですよね。
そうに決まってますよね」
マリーの言葉にグエンは何度も頷いていた。
「娘同然なんじゃからわかるが、
アクア嬢ちゃんが結婚する時は大泣きするなよ、グエン」
「なっなにを言うんだドクター。
アクア様が結婚なさるのはまだまだ先の事だ」
ドクターがからかうように話すとグエンは慌てて反論した。
「そうでもないですよ。
案外早いかもしれませんよ、グエンさん」
「……相手はクロノですか、マリーさん」
マリーが楽しそうに話すとグエンはクロノの事を思い出して尋ねた。
「許せんか、父親代わりとしては……」
「……いや、クロノなら我慢できる。
あいつは優しさと強さをもち……覚悟もあるしな」
「そうじゃな、あやつは地獄を見たんじゃろうな。
それでも人に絶望しとらん。
だから大丈夫じゃ。
ただ自覚のない天然の女たらしが気になるんじゃがな」
「何ですか?、それはよくわからんが」
その時、部屋の一角に南国にはありえない輝きが発生して、
人の姿になりクロノが現れた。
「……これがボソンジャンプか。とても信じられん現象だな」
初めて見るジャンプにグエンがそう話すとクロノがマリーに聞いた。
「遅くなった。アクアは目を覚ましたか?」
「いえ、アクア様は未だ眠っておいでです。
クロノ、アクア様は大丈夫ですか?」
「ダッシュが言うには、
今アクアの体内にあるナノマシンが遺伝子を組み替えている所だそうです」
「……そうか。
ならアクア様はしばらくしたら目を覚まされるんだな」
安心する三人にクロノは答える。
「……多分、大丈夫だと思うが」
「何じゃ問題でもあるのか、クロノ」
歯切れの悪いクロノの言葉にドクターが聞いてきた。
「はい、もしかするとマシンチャイルドのように瞳の色が変わりオペレーター用のIFSが付きます」
「そうですか、でも無事なんですね。
生きていてくださればいいです。」
「そうじゃな。
生きていればなんとでもなるじゃろう」
マリーとドクターは安心していたがグエンはクロノの様子がおかしいのに気付いた。
「いえ、もっと重大な問題があります」
「それは何だ……まだあるのか」
「……IFSが付く際に補助脳が出来る事は知っていますね」
「……一応な。
だがそれが問題なのか、クロノ」
「初期化されたナノマシンならいいんですが。
俺の体内に在ったために俺の記憶を複写するかも知れないんです。
夢という形で俺の体験も見るかもしれないんです」
「つまりじゃ、クリムゾンの人体実験を疑似体験するのか?
アクア嬢ちゃんは」
ドクターの発言にマリーは驚きクロノに問うた。
「なっ、それは本当ですか?クロノ。
嘘だと言ってください。
アクア様の心にどれだけの傷がつくかわかりません」
「いえ、クリムゾンではありません、マリーさん。
クリムゾンは支援しただけです」
「それでも傷つかれます。
……優しいお方ですから」
アクアが傷つく事を思い、グエンはクロノに聞いてみた。
「それでその支援しているグループはどこだ。
もう遅いかもしれんが潰したい。
クロノ、手を貸してくれ」
「……この時代にはありませんし、
もう俺が潰しました」
「この時代にないという事はやはりボソンジャンプは時空間移動なんじゃな、クロノ」
「……そうです。
俺は2203年からジャンプ事故でこの時代に逆行したものです」
クロノの言葉を聞いた三人は信じられない様子でクロノを見ていた。
沈黙が続く中で小さな声で沈黙は破られた。
「…………ごめんなさい、ごめんなさい! アキトさん」
意識を取り戻しアキトに謝り続けて泣き出すアクアにアキトは駆け寄った。
「!!アクア気が付いたか?
気分は………すまん。
いいわけないよな、あんな記憶みせられて」
過酷な記憶を思い出してアクアに詫びるクロノにアクアは謝り続けていた。
「ごめんなさい、アキトさん。
私が逃げなかったら、こんな事には…………」
泣き続けるアクアをあやすため、アキトはベッドに腰掛け優しく頭を撫で続けた。
「……わしらは席をはずそう。
ここはクロノ、いやアキトに任そう」
二人の様子を見てドクターは告げるとグエンとマリーも従った。
「そうだな、ドクター。ここは二人にしようか」
「アクア様、何かあればお呼びくださいませ」
三人が部屋を退出して、しばらく沈黙していた二人だったが、
アキトが口を開いた。
「……全部見たと思うが、気にしなくていいよ。
まだ起きてはいないのだから」
「………………………………………………………………………………」
「それにね、火星にいるんだよ。
テンカワ・アキトがだから気にしなくてもいいんだよ、アクア」
「………………………………………………………………………………」
「それより、アクア。
君には悪い事をしたな、助けるつもりが迷惑をかけてしまった。
いつもそうなんだ、周りに迷惑かけてばかりで疫病神だな………俺は」
自分を責めるようにアキトが呟いた。
それを聞いたアクアは慌てて起き上がり声をだした。
「そっそんな事ありません!
アキトさんは私を助けてくれました。
……だからそんな風に言わないでください」
「だったら問題ないな。
いつものように優しく微笑んで欲しいな、俺の為に」
気にするなと言うようにアクアに微笑んだアキトにアクアは顔を真っ赤にしていた。
「なっ何を言ってるんですかアキトさん」
「ん、なんか変な事いったかな。アクアちゃん」
「いっいえ(やっぱり自覚してないんですね、アキトさん)」
天然の怖ろしさをアクアは実感していた。
「それよりそのアキトさんはやめてくれ。
いつものようにクロノって呼んでくれないかな、アクアちゃん」
「どうしてですか?
アキトさんはアキトさんじゃないのですか?」
不思議に思いアキトに尋ねるとアキトは話した。
「火星にアキトがいるから、俺が名乗るとややこしくなるし。
……どうしてクロノって名づけたの」
「服装とクロノス神を混ぜて決めたんです」
「……黒一色だったからな、それじゃ仕方ないか」
「それよりアクアと呼んでください。
アクアちゃんはダメです!!」
アクアは自分が子供のように思われているのが嫌でアキトに告げた。
「わ、分かったよ。
じゃあアクアって呼ぶからクロノ呼んでくれ、お願いだから」
「分かりました……クロノこれからどうするんですか?」
アクアの問いかけにクロノは躊躇いながら答えた。
「……全部見られたし、今更隠す事もないか火星の人達を救いたい。
地球も木連もボソンジャンプを巡って戦争するだろう。
結局火星の住民はどちらにも人体実験の対象だから、
火星の住民はどちらからも殺されるから…………」
この先、火星に起こる事態を知っているアクアにそれ以上は言わなかった。
「……だから独立ですか?
自衛の為とはいえ悲しいですね」
「それとは別にやる事が出来たから忙しくなるな」
「なんでしょうか?
やるべき事って私も協力しますよ、クロノ」
アクアが聞くとクロノはアクアを見つめて話す。
「……気付いてないかもしれないが、アクア。
君の瞳は金色なんだ。
だから君を守りたい、今度こそ」
真剣な表情で話すクロノにアクアは複雑な表情で話した。
「……ユリカさんの代わりですか?
それともルリさんですか?」
「違うよアクアはアクアだよ。
未来を変えるんだ、何が起こるか判らない。
だから家族として君を守りたい。
ずっと側にいるよ、アクア」
代償行為ではなく、自分のせいで巻き込んだ事にクロノは責任を取ろうとする。
「でも私はクリムゾンの人間で貴方にひどい事をしました。
そんな私がいてもいいんですか?」
未来とはいえ、自分の一族がした事を考えてクロノに問うアクアに、
「関係ないよ、あの時俺はね一度死んだんだよ。
だから新しく始めようと思う、クロノとして」
静かに話すクロノにアクアはマリーに言われた事を思い出して覚悟を決めてクロノに言った。
「強いんですね、クロノは。
……私も覚悟を決めましたわ。
私はクリムゾンを変えてみせます。
だから力を貸してください。
……頼りにしてもいいですか?」
「依存しないのなら力を貸すよ。
自分で立てない人間は最後までダメだから」
「大丈夫です。
アレを見た以上もう逃げません。
クロノのように戦場には立てませんが戦います。
アクア・クリムゾンとして最後まで」
「じゃ面倒事はさっさと終わらせてのんびり火星で暮らそうな、アクア」
その言葉にアクアは笑顔で応えてクロノに抱きついた。
「はい、クロノずっと一緒です。
終わりが来るその時まで」
―――アクアの私室前―――
「なあ、ドクターなんでクロノはあんな事平気でいえるんだ。
俺には言えんぞあんな恥ずかしいセリフ」
自分が言った訳でもないのに顔を赤くするグエンにドクターは話す。
「それがあやつの怖ろしい所じゃ。
自覚もなく口説くまさに天然の女たらしじゃよ」
「そうですよね、
本人にはその気がないのに気が付けば好きになってしまう。
……悪気がないのが怖いですね」
「そうじゃ、ある意味黙っていても女が寄ってくる体質みたいなもんじゃ」
「どうするドクター。
このままだとアクア様のストレスが溜まるんじゃないか?
俺としてはアクア様の悲しいお顔など見たくないぞ」
「それに関しては私に策があります。
多少は効果があります。
おそらくアクア様も何か対策をお考えになりますでしょう」
「ならいいじゃろう、わしらも離れよう。
これ以上は野暮じゃよ」
「そうだな、ドクター久しぶりに一杯やるか」
「そうじゃな、いいだろう」
二人が連れ立って歩くなか、マリー・メイヤは胸に暖かいものが流れてくるのを感じていた。
(これで大丈夫ですね、アクア様も幸せになられるでしょう。)
幼い頃から、ずっと見守ってきた娘であり孫でもある、
アクアの未来に希望がもてるように思えた。
道は険しく困難かもしれない、それでも一人じゃない。
二人なら互いに支えて歩いていける。
クリムゾンも変わるだろう。
血の紅ではなく、別の紅に。
そう確信できる自分が嬉しく思えるのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです
この作品は
@ネルガルの独占を止める事ができたら
Aクリムゾンが悪役ではなかったら
B火星が生き残る事が出来たら
の三つのテーマを考えて書いていこうと思います
未熟な私が書くのでどこまで出来るか分かりませんが生温かい目で見てください
追記事項
この作品はナデシコをそれ程重要視していません。
何故なら火星を主軸に動いていくからです。
ここまではあまり変化はないですがこれから変化していくと思います、多分(汗)
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
<<前話 目次 次話>>