運命の時は来た 備えは出来ている

未来は変わり始めている この先は大きく変わるだろう

不安はあるが怖くはない 何故なら俺は一人じゃなく

共に戦う仲間がいて 帰る場所があるからだ



僕たちの独立戦争  第九話
著 EFF


「予定通りのスケジュールになりそうです。

 レオンの方は順調に行きますか?」

「こっちは問題ないぞ。

 ノクターンの防衛は何とかなりそうだ。

 ダッシュが持っている情報からノクターンとアクエリアが最前線になりそうだな。

 新しく開拓中のコロニーの住民はマーズとヘリオスに分けて避難させるぞ」

「了解した。

 地上はグレッグさんとお前に任せる。

 俺はユーチャリスUで軌道上の艦隊を撃破してそのままネメシス攻略を始めるよ」

エドワードの執務室にレオン、クロノの二人と会戦後の行動を相談していたエドワードがクロノに訊ねた。

「テンカワ・アキトはどうするんだ?

 予定通りなら地球にジャンプするが今なら保護できるぞ」

「いや、保護は出来ないな。

 イネス・フレサンジュ博士が消滅する可能性があるからな。

 彼女を失うとジャンプ関連の技術に支障が出るかもしれない。

 だから彼女の母親を救出に向かう事にするよ」

クロノの答えを聞いてレオンが複雑な顔をしていた。

「ユートピアコロニーの犠牲はどうにも出来ないな。

 だがその後の行動で救助できる人を増やす事は可能だぜ。

 仕方ないと思うより救える事に感謝しようぜ」

「そうですね。

 私達に出来る事をするしかないです。

 コンロンとアルカディアは救援はどうしますか?」

「それもクロノ次第だな。

 軌道上の艦隊を迎撃できるまではシェルターに避難してもらうさ。

 一応、開戦前にブレードを郊外の峡谷や山岳に待機させて、通信が入り次第防衛に向かわせるさ。

 その後は住民を全員アクエリアに避難させて、北半球は放棄するよ」

『現在、木連は無人艦隊を発進させようとしています。

 この事から交渉は決裂したみたいです。

 この映像をご覧下さい』

スクリーンに映る映像にレオンとエドワードは初めて見る木連の指導者に注目した。

『我々の願いは地球によって奪われた。

 もはや地球の横暴を許す事は出来ない!

 正義は我々に在るのだ!

 ここに宣言する!

 悪の地球人に正義の鉄槌を与えるのだ、烈、激我印!(レッツ、ゲキガイン)』

『烈、激我印』

二人は映像を見て三流のコメディーを見ている気分にさせられた。

「……一つ聞いていいか?」

「安心しろ、お前の言いたい事は分かっているぞ。

 みんな、本気で叫んでいるんだよ。

 冗談じゃなく本気なのさ」

レオンがクロノに確認しようと訊ねるとクロノからの答えを信じられない思いで聞いていた。

「クロノの記憶から知ってはいましたが、実際見ると疲れます」

コメントを避けるようにエドワードが告げるとクロノが話を続けた。

「ゲキガンガーって知っているか?」

「ああ、ガキの頃に再放送で見た事があったが」

「それが木連の聖典なんだよ。

 この国はアニメで動いている国といっても過言ではないな」

「冗談だろ、普通聖典というのはもっと神聖なものなんじゃねえのか?

 それがアニメだと……ふざけた国だな。

 こんな国と戦争するのかよ」

呆れてやる気が無くなっていくレオンにクロノが告げる。

「しかも命の重さを理解してない感じがするな。

 殲滅戦を仕掛ける危険性を理解してるのかどうなのか?」

「正直、怒りより虚しさが出てきたぜ。

 こんな連中に火星の住民は殺されるのか?」

「そうだ。

 正確には無人兵器に任せて自分達は高みの見物みたいなものだな。

 火星の住民は無人兵器に無差別に殺されていくんだよ」

それを聞いたレオンはクロノに向き直って、

「木連の本拠を攻撃する時は付き合せろ。

 火星に住民の苦しみを味あわせてやるぜ。

 ふざけた奴らに痛みと苦しみと絶望を見せてやる」

「止めておけ、レオン。

 俺がした時は何も残らなかったぞ。

 あとに残ったのは空っぽの心に虚しさだけが在っただけだな」

クロノが静かに話すとレオンは息を呑んでクロノを見ていた。

「復讐者として一万人以上の人間を殺して得たものが虚しさだけなんだよ。

 お前はそんな生き方を選ぶのか?」

目の前にいるクロノを見てレオンはクロノの苦しみの一端を知ってしまった。

自分は復讐者として生きていけるだろうか?

地獄へと堕ちる覚悟があるのだろうか?

多分、無理だろうと感じていた。

自分とクロノの違いを知り、レオンは声が出なかった。

「クロノの言う通りですよ、レオン。

 だけどクロノも気をつけるようにして下さい。

 あなたに何かあればアクアは必ずあなたのように復讐者になる可能性があります。

 子供達もそれに引き摺られるようになるかもしれません。

 無茶だけはしないで下さい」

そんな事はさせないで欲しいと願うエドワードは真剣な顔でクロノに告げる。

「大丈夫だ、エド。

 アクアを悲しませる事はしないよ。

 ダッシュ、無人艦隊が火星に到着するまでにかかる時間は?」

『現在の速度から前史と同じ様に十二月になりそうです。

 ここまでは歴史は表面的にはそんなに変わっていませんが、これから変わっていくので注意が必要です。

 木連の目的は火星極冠遺跡ですので対策は立てようがありますが、

 地球に対しては皆さんの知恵が必要になると思います』

現状を説明するダッシュに三人は歴史を変える事に不安を感じていたがクロノが静かに告げた。

「一つだけ言える事があるな。

 俺は火星の悲劇を二度も見る気は無いぞ。

 その為にここにいるんだ。

 あとで恨まれる事があるかもしれんがな」

「私もあんな未来は見たくないですね。

 生き残ってもその先は更なる悲劇が待ち受けている未来など必要ではありません」

「まあ、このままいくとそうなるが俺達は変える為にいるんだぜ。

 文句なんざ聞く耳もたんな、俺は俺の意思でこの戦いに参加してやるから安心しな」

二人の声を聞いたクロノは頭を下げると、

「すまんな、力を借りるぞ」

二人も頷くと作業を再開した。

いよいよ第一次火星会戦が始まろうとしていた。

のちに火星独立戦争と呼ばれる戦争の火蓋が切っておとされようとしていた。


―――ノクターンコロニー実験施設―――


「いよいよ火星の独立を懸けた戦いが始まります。

 既に木連より無人艦隊が侵攻を開始しました。

 準備は万全に出来ていますか?」

集まった技術者達にアクアは告げるとリーダーが答えた。

「任せて下さい、アクア様。

 ブレードの準備は完了しています。

 最終調整を終えた順にマーズ・フォースへ供与しています」

「皆さん、まずは礼を述べます。

 ご苦労さまでした、皆さんの協力のおかげで火星の住民を一人でも多く救う事が出来そうです。

 本当にありがとうございます」

技術者達に頭を下げて礼を述べるアクアに技術者達も自分達の努力が認められた事を喜んでいた。

そして自分達の作ったブレードが火星を守ってくれる事を信じていた。

「アクア様、お顔を上げて下さい。

 まだ始まったばかりです。これからが本番です」

技術者の一人が話すと全員が次の準備をしなければならないと思っていた。

アクアは頭を上げると全員にこの後のスケジュールを話し出した。

「皆さんの中から何人かはこの後、地球に戻って頂き地球でのブレードの生産と整備に従事してもらいます。

 そしてこことアクエリアコロニーとで相転移エンジンの研究と量産化を始めてもらいます。

 オリンポスから技術者を徴用するのでその方達と共同になりますが、

 ネルガル、クリムゾンという企業の事は捨て置いてください。

 私達のするべき事は生き残る事です。

 彼らは本社から切り捨てられた状態ですので傷つけるような真似はしないで下さい」

「アクア様、切り捨てられるという事はネルガルも事前に知っていたのですか?」

一人が気付いて聞くとアクアは悔しそうに答える。

「いえ、この戦争を裏から手を回したのはネルガルです。

 もう少し早く気付けば戦争を回避できたのに」

笑顔を絶やさずにいたアクアが悲しそうにして回避できなかった事を悔やんでいると、

「ではネルガルは火星の住民を抹殺する事を考えたのですか?」

動揺しながらもリーダーが聞いてきた。

「ええ、自分達の支社の人間さえも切り捨てたんですよ。

 火星のトップだけが知っているだけでしょう。

 現場にいる技術者達は何も知らずに死んでいくところだったんです」

「分かりました。

 我々は彼らを迎え入れて彼らと共に協力して火星で生き残る為に戦います」

何も知らない彼らの事を思い、リーダーが告げると技術者達からも賛成の声が出てきた。

それを聞いたアクアはスクリーンにこれからのスケジュールを見せて話した。

彼らもそれを聞き、または意見を出して無駄なく活動できるようにして動き出そうとしていた。

生き残る、その事だけ思いながら……。


―――火星駐留軍 宇宙港施設―――


「フクベ提督、地球から緊急通信です」

オペレーターがフクベに告げるとフクベは、

「繋いでくれ」

と一言だけ話した。

オペレーターは通信を繋げると横柄な態度の男が話してきた。

『フクベ提督、急で悪いが調査して欲しい事が出来た。

 現在、木星方面より未確認の物体が火星に近づいている。

 隕石だと思うが調査して火星に衝突するようなら軌道を変えて欲しい』

「了解した、現場に向かわせよう」

『うむ、頼んだぞ』

それで通信が終わるとフクベが吐き捨てるように話した。

「珍しいじゃないか。

 真面目に仕事をするとはな。

 自分の出世しか興味のない男が」

「どうしますか、提督。

 アタシとしては偵察用の探査機を先行させてから戦艦を向かわせたいんだけど」

副官のムネタケがフクベに進言すると不審そうにムネタケを見て聞いた。

「何故だ、そこまでする必要があるのか?」

「普通はないですね。

 でも〜今の火星の状況を考えるとやばい気がするのよね〜」

どこか気の抜けた態度のムネタケにスタッフはうんざりしていたが、

「理由はなんだ」

フクベは簡潔に問うた。

「火星にある艦と人材のせいかしら。

 新鋭艦を地球に戻して、退役間近の艦を集めてるわ。

 自分達の子飼いの者を戻して、逆らう連中を来させるなんて不思議よね〜」

その言葉を聞いてフクベはムネタケの意見を採用した。

「よし探査機を先行させるぞ。

 準備を進めよ」

「万が一の準備をしておきましょうか、提督。

 何も無ければ臨時の緊急演習で誤魔化しましょう」

「そうだな、新兵の引き締めにはいいだろう」

フクベが賛成するとムネタケは火星に駐留する艦隊にスクランブルを宣言した。

スタッフもムネタケの意見に従い準備を始めた。

こうして前史では完全な奇襲であったが今回は多少は準備が出来ていた火星駐留艦隊であった。

次々と発進する艦を見ながらムネタケは考える。

(大丈夫かしら。まだ演習だと安心してるけど)

演習と考えて余裕があるスタッフを見て、この先の状況の推移を想定していた。

「ムネタケ、どう思う」

「多分、戦闘になるわ。

 それも負け戦になる気がしますね」

スタッフに気付かれぬように話すフクベにムネタケは自分の意見を述べた。

「その情報を何処で手に入れた」

「火星に在住している人物からね」

肩を竦めてフクベに伝えるムネタケはそれ以上は分からないと動きで教えていた。

フクベは考えるとムネタケに告げる。

「最悪の事態も想定しておけ。

 火星の住民の安全を最優先する」

「了解しましたわ。

 では私が後詰で提督が率いて脱出を考えて下さい」

「逆ではないのか?」

「火星には大事な友人がいるんですよ。

 その家族を守りたいのです」

告げるとムネタケはブリッジを離れて後方の部隊へと移り、準備を始めようとしていた。

「変わったな、いや元に戻ったか」

フクベはムネタケの背中を見ながら昔のムネタケを思い出していた。


―――木連作戦会議室―――


「閣下!本気でこの作戦を行うのですか?」

海藤武雄大佐は目の前にいる草壁春樹中将に聞いた。

草壁は海藤を見て周囲にいる士官達を見ながら宣言した。

「当然だよ。

 我々の怒りを地球に見せるのだ!

 虐げられてきた我々の苦しみを教えて、正義が我々にある事を見せつけるのだ!」

その言葉に士官達は口々に正義を叫んでいた。

「しかし、火星に殲滅戦を仕掛けてどうなります。

 もし火星が生き残れば、木連に怒りを向けてきますよ。

 火星など無視して地球を直接攻撃して火星とは対話をもって移住を優先するべきではないのですか?」

海藤がこの作戦の危険性を訴えるが自分達の正義に酔いしれている士官達には届かなかった。

会議が終了して士官達が引き上げる中で海藤は草壁の行動に不安を感じていた。

海藤は席を立つとある場所へと向かった。


「失礼するぞ。

 村上さんはいるかい」

小さい料理屋に入ると海藤は店の人間に尋ねると、

「おう、ここだよ」

奥の部屋に一人の男が座っていた。

海藤はそこに行くと向かいに座り、二人は話を始めた。

店の人間も気を利かせて部屋の障子を閉めた。

村上重信は海藤に確認の為に聞いた。

「お前の顔を見る限り良い方向へは進んでいないみたいだな」

「ああ、最悪の方向に進んでいるぞ。

 戦争が始まるぞ、火星になんと殲滅戦を仕掛けるそうだ」

「そうか、草壁も本気でやる気なんだな。

 無駄な事をするもんだ。木連を残す為に戦争を選択するとはな」

村上が呆れるように話すと海藤が分からずに聞いた。

「どういう事だ、木連を残すとは」

「経済を研究しているから分かるんだが、地球と和解しても木連は地球の経済に飲み込まれて消滅するのさ。

 なんせ人の数も考え方も多種多用だ。

 環境の劣悪さも原因の一つだな、若い奴らは木連を捨てて地球や火星に移住するだろうな。

 そうなれば木連は自然消滅するさ。

 草壁はそれを避けようとする為に戦争を選択した筈だな。

 あいつが昔のままなら大丈夫だと思うが少し様子がおかしい気もするんだが」

村上が海藤の質問に答えながら木連の現状と草壁の心情を伝えると少し不安な顔を見せた。

「確かにおかしいな。

 何か焦っている部分があるぞ。

 それにお前の意見を聞いて思ったんだが目的と手段が変わってきているみたいだな。

 木連を残す為の筈が木連を消滅させるような行動になっているぞ。

 殲滅戦なんて戦争終了後、どういい訳しても責任追及は免れんぞ」

海藤が村上の不安を裏付けるように話すと村上も頷いていた。

「あいつ、もしかして自分が地球を支配すれば問題ないとか考えたんじゃないだろうな。

 いくら遺跡の恩恵があっても限界があるんだ。

 勝ってもその頃には遺跡が壊れるかもしれんのに無茶な事をしているな」

「もしかしてその為に火星がいるんじゃないか?

 草壁は火星に遺跡に匹敵する何かがあると思っているんじゃ」

二人がそう結論を出した時に障子を開いて一人の青年が入ってきた。

「自分も聞きたいですな」

「秋山か?

 ……驚かすなよ、仕方がないな。

 だがここでの事は」

「分かってますよ。内密にしておきますよ。

 こちらの方は誰ですか?」

秋山はもう一人の人物を見て海藤に尋ねると、

「村上重信だ、よろしくな」

「自分は秋山源八郎です。

 海藤大佐の部下の一人です」

障子を閉めて入ってきた秋山は村上に自己紹介をすると海藤に話した。

「流石に殲滅戦は不味いと思い、閣下に進言したんですがダメでした。

 諦めて帰る時に大佐を見て追いかけたら、ここに入ったんで一緒に飯でも食おうと来たら」

「俺達の話しを聞いたんだな。

 仕方がないな、ついでに村上さんに経済について教えてもらえ。

 この人は木連で草壁に次いで経済の事に詳しい奴だ。

 経済を知れば、この戦争の危険性も草壁の行動も理解できるぞ」

海藤は秋山に話すと村上は秋山に経済について教えていった。

この事が木連の未来を左右する事になるとはこの時点では誰も知る由もなかった。


―――地球 連合軍司令官室―――


「これで口うるさいフクベを黙らせる事が出来るな。

 あとは木連に勝利して名誉を得るだけだな」

椅子に座り自分の事だけを考えている男こそ連合軍司令官だった。

権力争いだけに力を発揮して軍人としては無能とも言える存在でもあった。

この戦争で私腹を更に得ようと目論んで、本来は連合政府を諌める立場なのだが相乗りしていた。

戦争が起きる事で市民への被害を考えずに自分の事ばかり考える男が軍の最高責任者だという事が、

地球の政治の浄化機能が崩壊している事だと誰も気付いていなかった。

このまま行けば火星の被害は最悪なものになるがこの世界ではそうはならないだろう。

彼はこれから自滅へと進む事にまだ気付いてはいなかった。

これからこの世の春を謳歌しようと考えていた。


「しかし連合政府も酷かったが、軍も最悪だな」

「どうしてこんな男がトップにいるんだ。

 他の連中は何をしていたんだ」

クリムゾンSSは呆れるように話していた。

連合と軍の内部調査を始めてから彼らは地球の腐敗を何度も見せ付けられていた。

その度に平和による弊害を感じていた。

この戦争が始まれば泥沼の戦争になると思っていたがロバートの様子から違うと確信できた。

「会長は地球の大掃除を始めるみたいだな」

「そのようだな、俺もこの件に関しては不満はないな」

「火星が一枚噛んでいるみたいだが、どう思う?」

「それについては良く分からんが、この戦争で火星が生き残ると会長は考えているみたいだ。

 どうも地球からの独立を考えて極秘で行動している感じだな」

「会長は火星に協力する事が将来的にクリムゾンの為になると思ったみたいだな。

 地球に見切りをつけたのかな」

「いや、それはないだろう。

 ただ火星に貸しを作るつもりだろう」

「それが正解かな」

「この前な、グエン前リーダーに連絡を取ったんだが。

 その時に言われたんだよ、クリムゾンの内部が変化するから注意しろとな」

「確かに変わってきているな。

 会長と社長が対立する事が増えてきている事もその一つか」

内部の事情を知る二人はクリムゾンの変化に気をつける反面、安心していた。

「社長は相変わらず権力志向だが、会長は変わられたな」

「悪くはないがな、風通しが良くなってきたからな。

 非合法な活動も少なくなって楽になってきたいるし、次の事も考えておられるみたいだな」

「次か……。

 誰が次のトップだと思うんだ」

「社長じゃないな。

 孫のどちらかになるのか?」

次のリーダーを考える二人は想像できなかった。

現在、シャロン・ウィドーリンとアクア・クリムゾンの二人の孫娘がいるがどちらも問題があったからだ。

シャロンは強引な手法でトラブルも多く、後始末が増える事が想像できた。

アクアは性格に問題があり、その能力もまだ見ていないからだ。

「第三の人物がいるのかな」

「それもありえるな。

 社長の女癖の悪さを考えるとその線もあるな」

「まあ誰が継いでも問題がないようにしているから大丈夫だろう」

「そうだな、会長もその事を考えて動いているみたいだな」

二人はそう結論付けると仕事に集中した。

この仕事に就いてから様々な変化を客観的に見ているのである意味毎日が面白く思えていた。

……彼らが歴史を見ていくのかもしれない。

そう思える光景だった。


―――アクエリアコロニー 会議室―――


ここにはオリンポス、北極冠を除く全てのコロニーの市長を含む責任者が集まっていた。 

「本日お集まりの皆様に重大な事をお伝えしなければなりません」

エドワードが沈痛な表情で告げた言葉に全メンバーは何事かとか不思議に思っていた。

「……エドワード、お前さんがそこまで言うならかなり深刻な事態が起きてるな」

全メンバーで最年長のユートピアコロニー市長コウセイ・サカキが口を開いた。

他のメンバーは二人の会話を聞くことにした。

「はい、コウセイさん。

 先日クリムゾンから連絡があり確認しましたが……事実のようです」

「クリムゾンに知り合いがおったのか、エドワード。

 それで何が起きた」

少し意外そうにコウセイが聞いた。

「はい、火星全土を巻き込んだ大規模な殲滅戦が始まります」

エドワードの爆弾発言に会議室はどよめいた。

「どういう事だ。

 何故分かる最初から説明してくれ、でないと理解できん」

コウセイの発言に会議室は静寂を取り戻した。

「先月、連合政府と木連との交渉が決裂した。

 この為まず木連は火星に無人兵器を送り込んでくる事になる。

 この事をアクア・クリムゾンから連絡が入り確認の為、

 探査機を飛ばしたら木星方面から大規模のチューリップ型の戦艦群を発見した。

 速度を計算すると後2日後には来る事を確認した」

エドワードの後ろにいたバイザーを付けた青年――クロノ・ユーリ――が答えた。

「木連とは何だ。人類は火星までしか進出してないはずだが」

コウセイの発言にエドワード以外の者達が頷いたがそれにクロノが答えた。

「木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家反地球共同連合体、

 略して木連だ。

 100年前、月の独立派の子孫達が木星に辿り着き生き延びた者達が来るだけだ」

「すまんが、歴史では独立は平和に解決したはずなんだが違ったてことかな。

 誰だなお前さんは」

コウセイの疑問を一つずつ答える青年に知らない者が見つめると、

「……クロノ・ユーリだ。

 オブザーバーとしてこの会議に参加している。

 よろしくな、爺さん」

「……コウセイだ。

 それでクロノ、お前さんは真相を知っているんじゃな」

「当時、月の独立派はマスドライバーと核による武力での独立を掲げたが連合政府の介入により分裂、

 武力派は火星に逃げ込んだが連合政府はそこに核を撃ち込んだが逃げ延び、

 木星で遺跡、奴等はプラントと呼んでいたな。

 それを発見し生き延びたが、

 やはり過酷な環境なので地球と仲直りをして火星に移住したいのだが地球がその交渉を潰して、

 その結果怒った木連が戦争を選択して火星の住民を皆殺しにして火星を我が物にする事になった。

 連合政府はやがて独立しかねない火星を切り捨てようとしているので、

 アクア・クリムゾンが俺にエドワードに連絡するようにと言ってきたので確認して此処にいる」

淡々と告げられるクロノの言葉にメンバーは理解すると、慌て始めたがコウセイの言葉に落ち着きだした。

「クロノ、戦争が始まるのに逃げない所を見ると何か策があるのか?

 あるのなら協力するぞ」

この瞬間、アクエリアコロニーのメンバーでエドワードを除く者達はクロノが火星でしてきた行動を理解した。

「今更、軍に言っても信じてもらえませんし、制宙権は向こうに奪われるでしょう。

 我々は軍とは独自に行動するしかないです。

 軍の開戦と同時にシェルターへの避難を始めてください。

 現在アクエリアコロニー守備隊に新型機動兵器を配備中です。

 終了次第、各都市に救援に向かいます。

 またマーズ・フォースに協力を要請して機動兵器を供与。

 現在、各コロニーの郊外に待機中です」

『よお、こっちの準備は出来てるぜ。

 クロノ、予定通り軍の撤退後にコロニーの防衛を始めるぞ』

レオンの通信を聞いた者達はクロノが周到な準備をしていることに気付いた。

「そうか準備が出来ているのは予想していたのかな、クロノ」

「交渉決裂の裏でネルガルが動いていたそうです。

 『もう少し早く気付けば良かったのに』と本人が言ってました」

「……それでオリンポスと北極冠を呼ばなかったんだな。

 彼等はネルガル系列だからな」

「おそらく彼等は避難民の受け入れも認めないでしょう。

 ですから呼びませんでした。

 上層部はネルガルですから……一般の人には悪いんですが、知られると不味いので」

辛い事を話すクロノにコウセイもそれに気付き納得した。

「確かにそうなるな、お前さんはこれからどう予測する」

クロノは大画面のスクリーンにタイムスケジュールを見せて答えた。

「おそらく進入角から第一波がコンロン、アルカディアのコロニー来ると推測します。

 このため両コロニーの住民は救援後アクエリア、マーズに避難して貰います。

 おそらく未曾有の混乱があるので注意してください。

 各コロニーもその点を注意して下さい。

 また開拓中のコロニーの住民も避難させていくつもりです。

 これからは時間との戦いになります。

 手元の資料で不備がないか確認後、それぞれコロニーに戻り作業を開始して下さい以上です」

『こっちは準備は出来ている。

 一部の部隊は既にコロニー内で待機しているぜ。

 俺達は大型のコロニーの救助を優先しないで小型のコロニーを中心に避難を誘導しながら迎撃する。

 コンロンとアルカディア、ノクターンまでで精一杯だ。

 アクエリアの部隊にユートピアは任せるぞ』

レオンは自分達の役割を説明すると行動を開始した。

「そういう事ですので分からない事があれば私に聞いてください。

 クロノはグレッグさんと直ちに救援準備を始めてください。

 あまり時間がありません」

「ああ、エド任せてくれ。

 グレッグさん急いで編成を始めよう、早いほど助かる人が増える」

「おう、クロノ急ごう。

 お前が来た理由が分かった以上全面的に協力するぞ」

クロノの行動に疑問を持っていたグレッグはこれを知って疑惑から信頼に変わりだしていた。

「すまん、言えれば良かったんだが誰も信じんだろうし、

 俺も起きない事を願っていたからな」

最悪の事態にならない事を期待していたクロノを慰めるようにグレッグは話す。

「……そうだろうな、私も今なら信じるが以前なら信じん」

二人が退出する中、コウセイがエドワードに尋ねた。

「のうエドワード、あやつは何者じゃ。かなりの修羅場を潜っているようだが」

「詳しい事はいずれ話しますが今は内密にして下さい」

「わかった。今は聞かんがわしはあやつとアクア嬢を最後まで信じるぞ。

 あの二人は得にもならんのに、わし等に協力してくれる。

 だから信じるそれだけじゃ」

その声に周囲の者が頷き、会議を進めていった。



いま此処に火星の生き残りを懸けた、戦いが始まった







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

第一次火星開戦が始まります。
変わりつつある未来にクロノは何を思うか?
クリムゾンをアクアは変えていくのか?

次回を期待されるのも怖いですが頑張ります。

追記事項

大筋は変えずに火星会戦までの経緯を書いてみたんですがどうでしょうか?
地球側と木連側の動きを入れてみたんですが。

草壁を知る人物を出す事で草壁の心情も少し出してみました。
クリムゾンSSから見た連合の状態も悪くはないと思うんですが(汗)




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