流れは変わり始めた 少しずつ違う方向へ
その中で私達は歩いて行く その先をみつめて
よりよい未来になるか それは分からない
だけど自分で決めた事なら 全てを受け入れ認め
進んで行こう あの赤き星へ
僕たちの独立戦争 第十九話
著 EFF
―――クリムゾン造船施設―――
ジャンプアウトしたキャンサーから降りてくる技術者達にロバートは労いの言葉を述べていた。
「長期に亘る出張をしてくれて感謝する。
またクリムゾン技術者の教育に力を貸してくれた火星の技術者に感謝する」
頭を下げて礼を述べるロバートに火星の技術者も頭を下げていた。
クリムゾンの技術者も会長の様子に自分達がこの戦争を終わらせる為の重要な存在だと実感していた。
「いえ、こちらもクリムゾンの支援を受ける事が出来て感謝しています。
火星が独立した後も良い関係を築き上げましょう」
タキザワとロバートが握手をする光景に二つの星の技術者達もこの関係を続けて行きたいと思っていた。
その二人に近づく青年に気付いたタキザワがロバートに紹介した。
「ロバート会長、彼がクロノ・ユーリです。
火星宇宙軍の艦隊司令官になるA級ジャンパーの一人です」
「クロノ・ユーリです。
今回はクリムゾンのおかげで艦隊の再編が出来たので感謝しています」
「そうですか、こちらで建造した艦は役に立っていますか」
握手しながら話す二人にタキザワが話してきた。
「クロノ、ネルガルが動いたぞ。
ナデシコは現在ビッグバリアを通過してコロニーサツキミドリに向かっているな。
火星の状況はどうだ?」
「順調に進んでいますよ。
新型のエクスストライカーの機種転換は無事終わった。
生産数が追いつきませんがナデシコが来るまでには配備が完了すると思う。
戦艦もクリムゾンの協力の下で現在は特殊艦を含むと十五隻稼動しているぞ。
エドも一度時間があればロバート会長を火星に招待したいと言ってたよ」
「当面は無理だな、クリムゾンの建て直しもしなければならないからな。
もう一人の孫娘を鍛えないと大変な事になりそうなんだよ。
どうも甘やかしたみたいで……一度説教して自分の立場を自覚させんと」
溜め息を吐いて話すロバートにタキザワが何度も頷いていた。
どうやら二人は娘と孫の違いはあれどお互い心配性な事で共感していたみたいだった。
「では例の件を進めますか?」
「確かに荒療治が必要なのかも知れんな」
「どちらにしても環境を変える事は悪い事ではないですよ」
「その事ですが火星はいつでも迎え入れる事が出来るそうです。
後はロバート会長の決断次第です」
クロノが話すとロバートも真面目に答えた。
「もう少し時間が掛かるがいいかな」
「まもなく第二次火星会戦が始まりますので、その後が良いと思います。
いきなり戦場に送るのは危険だと判断します」
「それはネルガルが火星に到着する事で起きると推測するのか?、クロノ」
「そうです、タキザワさん。
木連の目的は火星を手に入れる事です。
今は仕方なく休戦していますが、ナデシコが来る事で火星に決断を迫るでしょう。
自分達に付くか、地球に付くかを」
「どちらにも味方しないとは思わないのか?」
「草壁は敵か、味方かで判断する人物です。
中立なんて認めませんよ、それに火星を手に入れてボソンジャンプを独占する事が目的なんだ。
休戦を破る口実が出来るので必ず攻撃を行いますよ」
「クロノ君の言う通りだな。
私も木連は動くと考えているよ。
木連の住民は物事を単純に考える傾向があるのではないかと我々クリムゾンは判断している。
おそらく草壁は私達を協力者などとは考えていないだろう。
いずれ利用する価値がなくなれば平気で切り捨てるだろうな」
「やはりそう考えましたか。
ずっと交渉してきましたが木連は戦略を間違えていると私は思っていました。
火星を攻撃せずに自分達の存在を公表して火星や月の独立を促して地球を孤立させるような方法が出来た筈です。
これなら連合政府も窮地に追い込まれて発言力の低下にも繋がります。
市民も連合政府を信用しなくなり、草壁の地球圏での発言力も大きくなる筈でした」
タキザワの方法こそ本来木連が取るべき戦略だと二人も思っていた。
この方法だと火星も協力した筈だからだ。
だが現実は違っていた、草壁は火星に殲滅戦を仕掛けて火星の住民を皆殺しにしようとした。
地球にも自分達の存在を明らかにせずに攻撃を始めた。
木連はまるで滅びる事を選択したような行動に出ているのだ。
「草壁がトップに就いた事が全ての悲劇に繋がったのかな」
「人望もあったはずだから、彼自身もそれなりの人格者だろうと思うな。
問題は彼を諌める人物がいなかった事じゃないかと私は思うよ」
クロノの疑問にロバートはそう答えていた。
二人はなんとも言えずに悔しい思いになっていた。
「まあ、私達に出来る事をしようじゃないか?
こうなってしまった以上は次善の策を考えて対応しないと。
このままでは被害ばかりが増えていくみたいだからな」
ロバートの言葉に二人も頷いて話す。
「そうですな、我々に出来る事をする事にしましょうか?」
「その為にロバート会長のお知恵をお貸し下さい。
何も知らずに巻き込まれた市民を救う為に」
「勿論だよ、今回の件で連合と軍の体質を変える事に決めたよ。
ここまで酷いとは思わなかったからな」
呆れた様子で話すロバートに二人も納得していた。
「火星としても地球との戦争は回避したいので全面的に協力します」
「ネメシスなんて作るような政府は必要ありません。
この際、汚れを全部洗い流して風通しの良い政府になってもらいましょう」
タキザワとクロノの意見にロバートも賛成している。
ロバートの立場では火星に勝たれるのは不味いが、今の政府のままでは何れ火星と戦う状況になると判断していた。
その場合、地球の被害は今の戦争とは桁違いになる可能性もあるのだ。
(ボソンジャンプ……火星が実用化した技術を無効化する方法、又はこちらでも使用する方法を確立する。
どちらも難しいだろうな……ならば現状維持を優先しなければならん……か。
食糧の輸入も考えたが、火星は自給自足できる体制に移行しつつある……対応は慎重にせねば)
ロバートはクリムゾンの対応を考えると、アクアが持つパイプと自分が作るパイプの両立は必要不可欠になると考える。
(アクアのパイプは個人的なものだが、政府の中枢にも食い込んでいる。
そこにクリムゾンとしてのパイプがあれば……)
ロバートの脳裏にはクリムゾン会長としての立場で様々な思惑が蠢いている。
「では始めようか?
地球の再生と火星の完全な独立を」
内心の葛藤を隠してロバートは話す。
「「ええ」」
三人は場所を変えて相談していった。
……次の平和な時代を築く為に。
―――ネルガル会長室―――
「そうか、役にたっているんだね。彼女は」
『はい、正直ここまで動くとは思えませんでした』
プロスからの報告を聞いたアカツキはなんともいえない表情で話していた。
「でもスゴイわね。
パイロットとしても、兵士としても一流みたいだし、ウチに来てくれないかしら?」
エリナも報告を聞いてネルガルに欲しいと考えていた。
『無理ですな。
彼女はネルガルの裏を知っています、自分が実験体だった事を忘れないでしょう
それに彼女は火星宇宙軍の人間でクリムゾンに技術協力で地球に来たようです』
プロスの報告に二人はやはり火星とクリムゾンは繋がっていた事を知り納得していた。
クリムゾンの影響下にあったノクターンコロニーの件、クリムゾンの相転移機関の船の疑問がこれで繋がったのだ。
エリナはそれでも諦めきれないのか、
「そうかしら、ホシノ・ルリを使えば何とかならないかしら」
『……エリナさん、死にたいのなら構いませんが私を巻き込まないで下さい』
「じょ冗談よ、悪かったわ」
プロスの声に慌てて答えたエリナに、アカツキもプロスの意見に賛成している。
「そうだね。僕もまだ死ぬ気は無いよ、エリナ君。
できれば火星の機動兵器について詳しく教えてくれるとありがたいんだが」
『無理ですな、ブレードストライカーの事は教えてもらえるかもしれませんが、
他の事はダメでしょう。
彼女は火星の軍の技術者でネルガルの技術者ではありませんから』
「……そうだね。契約を盾にしたらヤバイしね」
脅迫で動かす事は出来ない……ネルガルの非合法実験施設の資料を押さえられているのだ。
(迂闊な事で彼女の機嫌を損ねるのは不味いしね)
『では火星へ向かい、遺跡とイネス博士を回収でよろしいですか』
「ああ、火星の政府の事は気にしなくてもいいよ。
力づくでも良いから彼等にはナデシコにどうする事も出来ないからね」
『本当によろしいのですか?
地球は認めてはいませんが、火星は独立した自治体です。
このような暴挙を認める事はないでしょう。
それに相転移機関の事を考えると火星には戦艦があるかも知れませんよ』
プロスが慎重な意見を述べる。
スキャバレリプロジェクトはどうも不確定要素が多いとプロスは考えている。
(クリムゾンの動きが非常に気になります。
火星にネルガルの行動を報告している可能性もありそうで)
「確かにあるかもしれないけど、まだ一隻か二隻ほどよ。
今なら火星に強引な手段も取れるわ」
「そういう事だよ。出来れば強引な手段はしないで交渉で上手く運んで欲しいな」
『……分かりました。では一つお願いしたい事があります』
「何かな」
プロスの雰囲気が変わったので、アカツキも真剣な顔で聞く。
『本社に実験資料が残っているのなら調べて欲しいのです。
アクア・ルージュメイアンが実在の人物なのか?』
「それって……どういう事?」
エリナが不思議そうに尋ねる。
アクア・ルージュメイアンは実在しているのに何故確認するのだろうかと聞きたそうにしている。
『ネルガルで生まれたのかを知りたいのです。
マシンチャイルドである事はこちらで確認しましたが、ネルガルで生まれたとは限らないでしょう』
「メイドインクリムゾンって事かい?」
端的に告げるアカツキの意見にプロスも頷く。
『ええ、もしそうならクリムゾンには他にもいる可能性があります。
それもホシノさんより年上の』
プロスの意見を聞いて二人は顔を顰めている。
あり得ない事が起きた可能性があるというのだ。
『一応は確認しておりますが、崩壊した施設の資料など幾らでも書き換えられます』
「了解したよ。こちらでも追跡調査しておく。
エリナ君に任せてもいいかな」
「分かりました、手配しておきます」
『では、お願いします。
どうも上手く行き過ぎている気がするのです。
まるで罠に飛び込んでいくような感じがするようで』
順調だった計画に不安要素が増えている事をプロスは懸念している。
独占していた筈の技術が火星を通じてクリムゾンに流れている。
火星には何かあると考えるのだ。
「こちらでも気をつけるよ。
特にクリムゾンの動向には十分注意する」
アカツキの言葉を聞いてプロスは通信を切る。
だが彼等は何も知らない、火星がネルガルの行動を知り尽くしている事を。
そしてネルガルが罠に入って来るのを待っている事に。
(都合のいい事ばかり言ってますわね。
まあ、こちらとしてもその方が扱いやすいので助かりますが、それに私の事は絶対に判りませんけどね)
アクアがプロスの通信を聞いてるとはプロスも気付いていなかった。
既にナデシコの管制はアクアが押さえている……通信を盗聴する事も可能な状態にまで。
秘匿回線であるが、ナデシコから発信している以上はアクアが聞く事も出来るのだ。
《よろしいのですか?、こんな事をしても》
《本当は良くないけど、私の目的の為には必要な事なの》
《それは一体……》
《いずれ教えるけど、今はダメなのよ。
私はルリちゃんに幸せになって欲しいの。
その為にこの艦に乗ったの、あなたとルリちゃんを救う為に》
理由は明かせないというが、アクアの真摯な言葉を聞いてオモイカネも従う事にする。
オモイカネにとってはルリと同じくらい大事な友人だったから。
《……分かりました、協力します》
《ごめんなさい、迷惑をかけますね》
《いえ、あなたも私の大事な友人でルリの友人でもあります。
私もルリの為なら協力は惜しみません》
《ありがとう、オモイカネ。
火星に着いて機会があれば子供達とお話しましょうね。
みんなもあなたの友達になってくれるから楽しみにしてね》
《はい♪》
《向こうにはあなたの仲間が三人いるわよ。
みんなもあなたが来るのを待っているわ》
《楽しみです♪》
《では宇宙に出たら索敵レベルを最大にしてサツキミドリに行きますよ。
木星蜥蜴は相転移エンジンに反応するからサツキミドリに危険が迫るかも知れませんから》
《はい、では索敵レベルを最大にしておきます》
こうしてアクアの指示でナデシコは油断する事なくサツキミドリに向かう事になる。
……前史とは変わりだした世界がどうなるのかは誰にも分からない。
―――クリムゾン造船施設 会議室―――
手渡されたレポートを読んで、ロバートは顔色を変えていた。
それだけの事がテンカワファイルに書かれていた。
「……信じられないが、事実なのだろう。人体実験に遺伝子改造か…気分のいいものではないな。
ネルガルはどうしているかな」
「志願制で実験を続けています。失敗しかありませんが、いずれ気付くでしょう。
その時が問題になるでしょう……火星の誰かが犠牲になると思います」
「……そうだな、このレポートは良く出来ている。まさに預言書といえるな」
(アクアが気分が悪くなったというだけの事はある。
ボソンジャンプが……時間移動だというなら火星が事前に対応できた事も理解できる。
だとすると既に歴史は変わっているのか?)
頭の痛い状況に巻き込まれたとロバートは思っている。
火星との接触がなければ、クリムゾンは間違いなく木連に協力していた事が分かる。
その場合、真実が白日の下に晒された時は間違いなくクリムゾンは崩壊していたのだ。
(アクアが後継問題の事を懸念していたのも、コレが関与していたんだな。
リチャードもシャロンもリスクなど気にしないだろう……どちらも強引に物事を進める傾向があるからな)
事前に回避できると思うと安堵するが、ますます自分の立場が重くなると考えるロバートであった。
(シャロンについてはなんとかなるが、リチャードについては……あ、頭が痛くなるな。
とりあえず木連と火星の担当から外しておくか。
火星は理性的に行動しているから、おそらくテロ行為などしないだろう。
シャロンとアクアを火星に送り込む事は間違いではないな。
まずはパイプ作りから始めて……先の長い話になりそうだな。
ネルガルに対抗してウチも火星に支社を作る事も……不味いな、この戦争自体を考え直さないと。
ボソンジャンプ……ネルガルも厄介事を人類に持ち込んだものだ。
てっきり火星で開発した技術だと考えていたが、まさか古代に生息していた人類外の技術か。
つまりこの戦争は借り物の技術で戦うのか……呆れたものだな。
一応火星はクリムゾンに損をさせない方向で動いてくれているから良いが、クリムゾンの損を覚悟せねばならんかもな)
火星に協力せざるを得ないとロバートは考える。
草壁の性格を知った以上は安易に木連に付く事は危険なのだ。
安易に力を貸しても感謝などしないだろう。
草壁は独裁者に近い性質があると心理分析班からの報告がある。
クリムゾンなど地球人でありながら木連に協力する裏切り者として平気で切り捨てる可能性が高い。
(人的損害…どちらかの陣営が滅びるまで続く戦争など企業は望みはしない。
クリムゾンもそれは当たり前の事だ……馬鹿共のおかげで終わらない戦争になる。
政府も何処まで信用できるか……いっそ切り捨てて)
「預言書ですか?、……そうかもしれません。
最悪の事態に向かう可能性があり、それを避ける為のものですから」
クロノとタキザワが押し黙り考え込むロバートに話しかける。
二人はロバートがクリムゾンの状況を正確に把握していると思うと安堵していた。
きちんとリスクを計算できる人物だと判断すると会話を続ける。
「君達がクリムゾンと接触したのはネルガルに対抗するためかね」
「……それもあります。木連とクリムゾンの事も関係があります。
木連もまたボソンジャンプの独占による支配を企てているからです」
クロノの声にロバートは考えて話す。
「……確かに君の言う通り、木連は危険だがクリムゾンも君達の技術協力がなければ木連についただろう。
全てはボソンジャンプの独占か、ネルガルも木連もそこに辿り着く訳だな」
「その通りです、ロバート会長。
木連は正義の為という理由で人体実験を始め、いずれ人工のB級ジャンパーを生み出すでしょう。
その意味を理解せずに……彼等は犠牲者の事など考えないでしょう」
「そうだな、彼等は草壁に踊らされているだろう。
あの男が木連を支配している人物で……まさに独裁者だな。
このままだと犠牲は増えるばかりで、どうなる事になるやら」
タキザワの後に続いたロバートの声にクロノが現状を告げる。
「今の木連との交渉は全て偽りの物になるでしょう。
まずは地球からの独立を優先します。
地球にとって木連は知られてはいけない過去の負債です。
それを公表する事で地球を混乱させて時間を少しでも稼ぎます」
「なるほどな、確かに木連は地球のアキレス腱だな。ネルガルもこんな事になるとは思わんだろうな」
「地球も考えが浅はかです。過去を消す事など不可能な事に気付いていません」
「いずれ木連が有人兵器で戦場に現れた時、前線の兵士達にどう説明する心算なのか、
隠せると思っているんでしょうか?」
タキザワとクロノの意見に、
「真実を知られた時、市民の反応が怖いな。
最悪、殲滅戦を仕掛けた木連を許す事は無いし、
政府に対しても過剰な反応をするだろう…………泥沼だな」
この後に起きるだろう状況を推測して答えるロバートにクロノが、
「木連はこの危険を理解していません……草壁は手段を間違えました。
おそらく巨大な軍事力を手にした事で変わったのかもしれません。
勝つ事が出来ると判断したから、ここまでの暴挙が出来るのでしょう」
「……そうだな、クロノ君の言う通りだろう。彼は狭く異常な世界で生きてきた。
その為、自分こそが絶対の正義でそれ以外は認めないだろう。
正義と悪、この二つしか今の彼にはないのだろう。
これは危険だぞ、彼はいかなる暴挙も正当化するだろう。そして彼に踊らされる木連も危険だ」
二人の意見にタキザワが、
「この戦争を終わらせるには木連の市民、軍人の意識改革も必要ですね。
今の草壁が和平を唱えても信じる事が出来ませんし、
草壁の失脚を待つまでどれだけの犠牲が出るか、………怖いですね」
「変えるには木連の敗北が必要ですね。
負ける事で草壁のカリスマを壊し、木連の犠牲者が出ればいいかも知れませんが……」
「そうだな、クロノ君。それは賭けだぞ、最悪……更なる暴挙があるかも知れんな」
「そうです、ロバートさん。問題はそこにあります、木連に攻撃しても草壁が責任を取らず、
木連内部にいる敵対勢力に責任を押し付けて抹殺を謀る事も考えられます」
「クロノ、そこまで……するかもしれんな。
邪魔な火星住民を皆殺ししようと計画する人物だからな、まさに独裁者だな」
「そうだな。……クロノ君、火星の戦略を話せる範囲でいいから聞かせてもらおう。
まずはそれからだな、木連の事は私達ではどうにもならんが火星の事は出来るだろう」
「はい、ロバートさん。これから火星が独立する際に起こる、
地球の政府の考えと行動について、貴方の意見が聞きたいのです。
これは連合政府とのパイプがあるクリムゾン会長としての経験が必要ですから」
こうしてロバートの意見を交えて火星のこれからの行動の指針が出来ていった
この会議により火星の方針が定まり、クリムゾンの援助による独立への道が開かれた。
―――ナデシコ ブリッジ―――
「無事にビッグバリアを通過したわね」
「そうですな、副提督のおかげです」
ムネタケとプロスは安堵して話していると、
「酷いですよ〜副提督は。
ユリカに恨みでもあるんですか〜?」
「そんなもんないわよ、アンタがいい加減な事をしなければしないわよ」
涙目のユリカの文句にムネタケが答えるとクルーも頷いていた。
「何がですか?」
「アンタが連合政府に喧嘩を売ろうとしたからでしょ!」
ユリカの疑問にムネタケは叫んでいた。
「そんな事しませんよ〜」
「本当に何を考えているのよ。
どうしてネルガルはこんな人物を艦長にしたの」
ムネタケはプロスに向かって聞くとプロスも焦っていた。
「いや〜士官学校で首席の方なんですが」
「そうなのです。ユリカは首席なんですよ」
胸を張って楽しそうに答えるユリカに、
「……馬鹿?」
とルリが端的にアクアに尋ねるとブリッジは静まりかえってしまった。
ルリから見れば、おかしな言動ばかりが目立つユリカが理解できないのだ。
「う〜ん、ちょっとそうねぇ……確かに真面目に仕事しているようには見えないけど」
アクアも返答に困っている。
ユリカは真面目に仕事をしているはずだが、傍で見ていると遊んでいるとしか見えない事も事実。
フォローするべきか迷っているのだ。
「ま、まあ、これから相転移エンジンの全力稼動を行いますのでハルカさんとホシノさんは準備をお願いします」
静まりかえるブリッジの雰囲気を変えようとプロスは慌てて話題を変える。
「オッケーいいわよ」
「準備は出来ています」
プロスは二人の声を聞いて頷くと始めようとしたが、
「なんで全力稼動するんですか?、プロスさん」
ユリカの声にクルーは呆然としていた。
「実はアクアさんから相転移エンジンに関する指摘がありまして、それで全力稼動させる事にしたんです」
疲れたように話すプロスにユリカは納得して、
「そうですか、じゃあ始めて下さいね」
と微笑んで話すがクルーは大丈夫なのかとプロスを見ていた。
これにはプロスも焦っていた。
「副長、アンタに期待するわよ」
「え、ええっ」
ムネタケの言葉にジュンは焦っていた。
(……ダメかも知れない)
クルーの意見が一つになっていた。
『こっちはいつでもいいぞ』
ウリバタケの声にユリカが答えた。
「では全力稼動を始めて下さい」
「りょうか〜い、行くわよ〜」
「分かりました」
楽しそうなミナトと対照的に呆れているルリの様子が印象的だった。
『アクアちゃんは火星の機動兵器の事詳しいんだよな?』
ウリバタケの質問にアクアは、
「軍機に引っ掛かるので教えられませんよ」
『そうなのか。残念だな』
ウリバタケは残念そうに話すとアクアは楽しそうに伝える。
「そのかわりに対艦フレーム作りませんか?」
『ほう、どんな機体だ?』
ウリバタケもアクアの言葉に改造屋の血が騒ぐのか聞いてきた。
「砲戦フレームをスリム化してOG戦に近い形にして、
小型のジェネレーターを内蔵して、ある程度バッテリーでの活動時間を延長させる事も可能な機体ですよ。
ジェネレーターを新型に換装しますので出力も倍増しますからレールガンの搭載も出来ます。
その名の通りの対戦艦用のフレームです。
重力波スラスターに一本化しますので、大気中でも使用できますよ」
『かーいいねえ。面白そうじゃねえか』
「ただしパイロットの皆さんにはきちんとした訓練が必要ですよ。
初心者用のエステじゃないですから」
『という事は完全な軍用機だな』
「そうですよ、プロスさんどうしますか?」
アクアがプロスに尋ねるとプロスは予算を聞く事にする。
経費が掛からないようなら始めても問題がないと判断するようだった。
「いいでしょう。必要な経費を教えて下さい」
「予算はこのくらいですよ」
アクアはプロスに予算と資材についての説明を表示したウィンドウを提示して説明する。
「砲戦から改造するのでナデシコに搭載されている物をそのまま流用します。
サツキミドリに補充用のパーツがあれば補給時間も短縮できます。
ジェネレーターだけは新規に開発しますが、
基礎設計は出来ていますのでウリバタケさんが改造していただければ火星に到着する前に完成しますよ。
対艦攻撃機はネルガルもまだ設計していないでしょうから便利になると思います」
アクアの説明にプロスは新型フレームの開発費が浮くと判断している。
現状のパーツを流用するという事は量産も可能だと考えたようだ。
「……問題はありませんね。
ではサツキミドリでこの分の補充もしますので滞在時間を延長するかもしれません。
その場合は交代制で皆さんにも休憩してもらいます」
プロスの発言にクルーは喜んでいた。
「ですが艦長はお仕事がありますので休み無しですよ」
「ええ〜そんなのないですよ〜」
「当然です。書類を溜めておられるでしょう。
それを片付けてもらいますよ。
サツキミドリの責任者にも挨拶をしてもらわないと」
「うう〜ジュンくん、代わりに書類整理してくれないかな〜」
涙目でジュンにお願いするユリカにムネタケは、
「ダメよ、自分の仕事は自分で処理しなさい。
副長もするんじゃないわよ。
自分の仕事一つ満足に出来ない人間なんか艦長には相応しくないわよ。
あんまり世間を舐めるのもいい加減にしなさいよね。
それが嫌なら艦長を降りてもいいわよ。
さっさと艦を降りて実家に帰ったら」
と辛辣な発言をしていた。
「うう〜わかりました〜」
泣きそうな声で話すユリカにムネタケは呆れていた。
「いいわね、副長。アンタも甘やかす事はしないように」
「は、はい」
「艦長の為にも心を鬼にしておきなさい。
今はいいけど軍に復帰したら、こんなふざけた言動していたら孤立するわよ。
アンタもずっと側にいるわけじゃないから甘やかす真似はやめときなさい。
自分の事は自分でしないような無責任な人間は軍には要らないのよ」
言い方こそきついがムネタケはユリカの為に言っていると理解したジュンは頷いていた。
クルーも艦長の為だと思ってこの件は何も言わない様にした。
まもなくナデシコはサツキミドリに到着しようとしていた。
―――クリムゾン会長室―――
「お爺様、用件はなんでしょうか?」
シャロン・ウィドーリンは焦っていた。
この戦争が始まってからクリムゾンは内部の改革が始まっていた。
非合法な手段を減らして活動に制限を受けていたシャロンは自分の立場に不安を覚えていた。
自分のやり方が強引である事は承知していたが自分の立場を考えると結果を出さないと不味いと思っていたからだ。
「うむ、お前に聞きたい事があるのだ」
「聞きたい事ですか?」
「ああ、お前はクリムゾンを継ぐ気はあるか?」
「え、ええ、ありますが」
突然聞かれてシャロンは焦るが、しっかりと答える。
「では訊ねるが、お前の部下はお前に従っているのか?」
「どういう意味ですか?」
ロバートの言葉の意味が判らずにシャロンは聞き返した。
「つまりお前個人に忠誠を誓っているのか?
それともお前の後ろ盾の私の影に従っているのかと聞いているのだ」
「そ、それは……」
聞かれた内容にシャロンは満足に答える事が出来なかった。
(私に従ってはいるがそれは仕事上であって、私個人に従っているとは思えなかった)
「今は大丈夫だが、私に何かあればお前は後ろ盾を失うぞ。
その時にお前個人に従う者はいるのか?」
いきなり先の事を言われてシャロンは焦っていた。
動揺するシャロンを見ながらロバートは不安げに見つめていた。
「どうやら私の責任だな。
お前には不自由なく生活させたのが間違いだったのかな」
「お、お爺様」
すまなさそうに話すロバートにシャロンは慌てて話そうとしたが、
「リチャードのいい加減な所を注意するべきだったな。
お前にもアクアにも苦労をかける事になってしまった。
シャロン、もう一度尋ねるがクリムゾンを継ぐ気はあるな」
「……………」
ロバートの持つ迫力の前にシャロンは気圧されて何も言えずにいた。
「お前が後継者になるには必要なものが幾つもあるぞ」
「そ、それは……」
「まずは信頼の置ける部下を持つ事だ。
お前をサポートして、時には諌める事も出来る人材だな。
次にお前自身の覚悟だ。
トップに立つ者は時には非情とも言える決断をしなければならない。
今のお前にそれが出来るか?
そして長期に亘るビジョンを持つ事だ。
これらを兼ね備えた人物にお前はならないとクリムゾンを継いでも誰かの傀儡になりかねんぞ」
シャロンはロバートの話す内容を考えると自分には足りないものばかりだと思っていた。
「お前は私のような冷たい玉座に座るのか?
周囲から恐れられる存在になりたいのか?」
ロバートは今の自分の状況を話してシャロンに聞くがシャロンは何も言えなかった。
「お前の人生だからそれでも構わんが、私の経験だとそれは辛いものだぞ」
シャロンはロバートの顔を見るとそこには疲れた顔の祖父の顔があった。
「お前は何を望んでいたのか、よく考えなさい。
今すぐ答えは出さなくても構わない。お前が幸せになる事を第一に考えなさい」
「……お、お爺様」
「私の望みはお前もアクアも幸せになって欲しいだけだ。
クリムゾンを継ぐ事で幸せになれるのなら構わないが、継ぐ事で不幸になるのなら継がなくてもいいんだよ」
どう答えていいのか、分からないシャロンは呆然とロバートを見ていた。
シャロンもまた自分の未来について考えなければならないと心の何処かで感じていた。
―――ナデシコ食堂―――
「ルリちゃんは何を食べたいかな?」
厨房にいるアクアがルリに聞くと、
「よく分かりません」
「じゃあ、お姉さんに任せてね♪」
「は、はあ」
不安そうに答えるルリを気にせずにアクアは調理を始めていた。
「へえ、中々いい手つきだね。テンカワよりも上手かもね」
アクアの調理を見たいたホウメイはそうコメントするとアキトは、
「そ、そりゃないっすよ」
と弱気な事を言っていた。
「今のアキトさんよりは上手ですからね。この先は分かりませんが」
アクアは手元を狂わせる事なく楽しそうに話していた。
アクア自身の技量は未来のアキトから受け継いだものであり、
テニシアン島でクロノと一緒に料理する事で覚えなおしたようなものである。
(まぁ、最初のほうは……ノーコメントです)
疑似体験では万全ではなかったとアクアは実証しているのだろう……何度も練習の末に会得したらしい。
ルリはアクアの注意を受けてから少しだけ食事に関しては気をつける事にしていた。
また時間のある時は食堂でアクアと一緒に食べる事にした。
アクアは無理に会話をせずにルリが尋ねてきた時に答えたりする事で少しずつ距離を近づけていった。
ルリも強引に自分に近づかないアクアに少しずつ警戒を解いてきた。
同じマシンチャイルドと呼ばれる存在だったから安心するのか、
自分の知らない事を教えてくれるからか、ルリには判らなかったがアクアといる時は楽しいと感じていた。
時々、アクアが魘される事が少し気になったが無理に聞いてもダメだろうと思っていた。
「はい、ルリちゃん。召し上がれ」
ルリの前に置かれた料理を見てルリはアクアに尋ねた。
「これはなんですか?」
「チキンライスよ。一度ルリちゃんに食べて欲しかったのよ」
楽しそうに話すアクアにルリはスプーンを握って食べる事にした。
「では頂きます」
「はい、召し上がれ」
二人はそう話すと食事を始めた。
食事中は二人とも静かに食べているので誰も言わなかったが食事が終わるとサユリが尋ねて来た。
「あの〜アクアさん。そんなに食べても大丈夫なんですか?」
二人の前にあるのはチキンライス一人前にナデシコ定食二人前だった。
おおよそ女性一人と少女の二人で食べるには多いと思われていた。
周囲のクルーも食いすぎなんじゃと思っていたが、
「食べないともたないんですよ。
私やルリちゃんは体内にあるナノマシンが通常のIFSと違って多いので栄養を盗られますから」
「そうなんですか?」
「私は成長期を過ぎたんでもう少し抑えても大丈夫ですが、ルリちゃんはこれからですから付き合っているんですよ。
でも成長期を過ぎても燃費の悪さは変わりませんけど」
苦笑するアクアに質問したサユリはどう答えるか迷っていた。
「利点もありますよ、サユリさん」
「どんな事ですか?」
「太りにくいんですよ。太っても食事の量を少し減らすだけで直に痩せるんです」
それを聞いた女性スタッフは羨ましいと感じていた。
「でも一度に食べれる量は決まっていますから一日三食ではなく四食くらいになりますね。
おかげで我が家の食費は……」
アクアが言葉を濁らせるとクルーもどうフォローするべきか判断に困っていた。
「それではアクアさんの家は大変なのですか?」
「育ち盛りの子供達ですからね。つい報酬の多さに目が眩んで地球に行ったら戦争が始まって……」
生活臭の漂うセリフだったが、アクア自身は楽しそうだった。
「子供達には沢山食べて元気に育って欲しいですからね。
ルリちゃんも食べないとダメですよ。ここできちんと食べて運動もしないと大きくなれないわ。
人ってね、ある程度は運動もしないとダメなの。
今のルリちゃんは実験、実験で身体を動かしていないでしょう。
ある程度は体力も強化されているけど、鍛えておいて損はないわよ。
綺麗なモデルさんだって毎日きちんと運動してスタイルを維持しているの。
ルリちゃんは今から努力すればきっと美人さんになるわ。
お姉さんが断言するから、ね!」
微笑んでウィンクするアクアにどう答えればいいのか……判断に悩むルリだった。
「さてブリッジに戻りましょうか?
一応オモイカネには索敵レベルを最大で警戒してもらっているけど心配だからね」
「そうですね、アクアさんの予測が正しければ戦闘が起きる可能性があります」
食事を終えた二人は席を立ってブリッジに向かおうとする。
「そうなのかい、アクア」
「ええ、私はサツキミドリに着く前に攻撃を受ける可能性があると考えたんです。
もしそうなると危険ですよ、ホウメイさん」
「どうしてだい?」
「実はナデシコには0G戦フレームが無いんですよ。
予定ではサツキミドリで搬入するみたいで……。
どうも木星蜥蜴は相転移エンジンに反応するみたいですから急がないと」
アクアが告げるナデシコの現状にクルーも納得していた。
「ムネタケ副提督といい、アクアさんも苦労していますね。
メグミさんから聞いたんですけど、艦長が連合政府に喧嘩を売ろうとしたらしいですね」
「……その件に関してはノーコメントです、サユリさん。
ですが火星で同じ事をされると危険ですよ。
火星は地球の横暴に怒っていますから冗談でも過剰に反応しますよ。
なんせ防衛は出来ない、救助も出来ないのに独立は認めん…なんてふざけてますから」
アクアの言い分にはクルーも連合政府の横暴さには呆れていた。
都合のいい事ばかり言う連合政府に付き合いきれないと感じていた。
「ですから皆さんも火星での行動には注意して下さいね。
火星が友好的な態度で行動してもナデシコが強引な事をすれば、火星としてもきちんとした対応にでますから。
いくらナデシコが優れた戦艦でも火星全てを相手にして勝てるかどうか?」
クルーに注意を呼びかけるアクアに全員が危険な航海になると予感していた。
ナデシコはまもなくサツキミドリに到着しようとしていた。
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EFFです。
クリムゾンの祖父と孫の会話を入れてみました。
アクアとルリのナデシコでの生活を入れていこうと思っています。
しばらくはナデシコメインになるのかな?
では次回でお会いしましょう。
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