都合のいい事を考える人に現実を見せましょう
あなた達の行った事がどれ程の愚行か知りなさい
その時に後悔しても手遅れです
何故なら奪われた痛みと苦しみをあなた達は知らないから
あなた達に手を貸すものはいないでしょう
僕たちの独立戦争 第二十一話
著 EFF
現在ナデシコは火星に向けて航行中です。
特に問題が無いので艦内は暇で皆さんだらけてますね。
アクアさんが注意を促しましたから大丈夫だと思いますが心配です。
「う〜ん、暇だね。ルリちゃん何かないかな〜」
「艦長、暇だったら書類の整理をして下さい。プロスさんに迷惑を掛けてはいけませんよ」
私が注意すると艦長は焦りながら話していく。
「えっと〜一応してるのよ。
でもね〜事務仕事って退屈なのよ〜、ルリちゃんもそうは思わない」
「良く分かりません、私の通常の仕事には書類整理に近いものが多いので別に退屈だとは思いませんが。
この艦のオペレーターの仕事は戦闘時以外は常に艦長がいう事務仕事ばかりですから。
そんな事ばかりしていると本当に艦長を解任されますよ」
私が自分の仕事内容を告げると艦長は反論できずにいるところへ、メグミさんがポツリと呟いた。
「暇なら艦内を見回りに行ってはどうですか?
暇なんでしょう艦長」
「メッメグミちゃんがいじめるよ〜〜、イジワル〜〜」
ブリッジから逃げ出す艦長を無視した私はメグミさんに、
「メグミさん、イジワルですね」
「………そうかな」
「そうですよ」
「そうかなぁ」
「そうですよ」
「そうかもね」
「メグミちゃん、何か艦長に言いたい事でもあるの。
代わりに聞いてあげるわよ〜」
ミナトさんが苦笑しながら聞いてきました。
「アクアさんの話を聞いてこのまま火星に行くのが不安で。
どうも艦長がいい加減な所が気になって」
メグミさんが今の心境を話すとミナトさんも少し考えて話す。
「う〜ん、
一度プロスさんに相談して注意した方が良いかもね。
アオイくんの意見はどうかな」
ブリッジにいた副長のアオイさんに相談すると、
「えっいたんですか、アオイさん。……気が付かなかった」
「そうですね。私も気が付きませんでした」
気付かなかったメグミさんは驚き、私は内心では動揺していたが表には出さないようにして話す。
「……ゴメンね(T_T)
影が薄くて。
確かに注意するべきだね、このまま戦闘になったらマズイよ。
クルーの心がバラバラだと支障がでるからね」
アオイさんはちょっと自分の影が薄い事に動揺しながら私達に話す。
「フ〜ン、少し見直したわ。
艦長を庇うかと思ったんだけどね〜」
「ユリカも真面目に仕事はしていると思うんですが、
クルーから見たら遊び呆けてるとしか思えないようではダメですね。
僕からも注意しますので、ムネタケ副提督にはしばらくは黙っていてください。
やっぱりユリカには叱る人がいないとダメなんでしょうか?」
苦笑しながら話すアオイさんにミナトさんが真面目に答える。
「そうね〜いいとこのお嬢さんみたいだし、自己中心のところがあるから直さないと大変よ。
敵を作るのは上手だけど味方がいないのは問題だしね〜」
「……そうですね、ミナトさんの言う通りですね。
軍であんな言動をしていたら敵だらけになりますよ。
ミスマルのおじさんでも庇えません」
ミナトさんの意見に軍の事を考えて話すアオイさんの顔は悲壮感が漂っていた。
それを見ながらミナトさんは話し続ける。
「違うわよ〜社会でもそれは言えるわね。
その点アクアちゃんは大丈夫ね。
しっかりしてるし周囲にも気を配っているし安心できるわ。
ただちょっと言い方がきついけど火星の事を知っているせいだと思うから大丈夫だと思うのよ。
私達がいい加減な事をしない限りね」
艦長とアクアさんと比べるように話すミナトさんにアオイさんはなんとも言えないような顔をしていた。
このまま行くと二人が衝突する事態が起きそうなので困っているのだと私は思う。
その時、自分はどう行動すればいいのかとアオイさんは悩んでいるのだろう。
クルーの半数はアクアさんに従うと思う。
アクアさんはクルーにきつい事を言うが間違った事は言ってないのだ。
艦長の場合は言動や行動で問題が起きる気がする。
クルーが民間人ばかりなのでそれ程問題にはなっていないが、軍なら間違いなく問題になるだろうと私は判断する。
一度、副提督とプロスさんに相談するべきかもしれないとアオイさんの様子を見て私は考えていた。
アオイさんが考え込み始めるとメグミさんもミナトさんも作業を再開したが、
「……ミナトさん、私もアクアさんみたいになれますか?」
私はミナトさんに尋ねる事にした。
そんな私にミナトさんは少し驚いていたが、すぐに楽しそうに話してくれた。
「大丈夫よ。
女の子はね、理想が大きければ大きいほどいい女になれるのよ。
ルリちゃんの場合はアクアちゃんを追い越して正面に向かい合って互いに笑いあえるのがいいわね。
アクアちゃんは喜んでくれるわよ。
その為に色々教えるだけじゃなく、考えさせるの。
自分で考えて行動できる一人の女性になって欲しいのよ。
だからたくさん聞いて、教えてもらい、考えなさい、それが一番嬉しい事よアクアちゃんは♪」
内心ではルリが話してきた事に驚きと嬉しさを感じながらミナトは普段のアクアの様子を思って話した。
アクアは必要以上にルリに近づく事はしないが、大事な事はしっかりとルリに教えていた。
側で見ていたミナトはルリとの付き合い方を知り、同じ様に接していた。
その効果が出てきたのか、ルリはミナトに対して警戒を解いてきたのだ。
これも多分アクアちゃんが話したんだろうと感じていたが、嬉しい事には違いないので感謝する事にした。
「……はい、そうします。
そしてアクアさんを超えてみせます」
ミナトさんの話す意味を考えて私が告げるとミナトさんは楽しそうに笑っていた。
「いい話ですな。
ところで艦長は何処に行かれましたか?
書類の決裁が出来ないんですが……職場放棄ですか困りましたな」
ブリッジに現れたプロスさんが艦長を探したが、艦長はいなかった。
「おかしいですな。今日はブリッジでの勤務だと思っていたんですが。
はて、予定が変更されていましたか」
記憶違いだったかと迷うようにしているプロスさんに私は艦長の居場所をオモイカネに聞く。
「オモイカネ、艦長を見せて」
『判りました、ルリ。艦長はこちらです』
映し出された光景にプロスさんのこめかみに青筋が浮き上がった。
『アキト〜、聞いてよ〜メグミちゃんがイジワルするんだよ〜』
『だぁ―――!
仕事の邪魔をするなー。あっち行けよ、ユリカ!』
アクアさんに言われて乗員名簿を見た艦長はは幼馴染のテンカワさんの存在を知って謎の王子様発言をしていた。
これには何故かアオイさんもショックだったが、アクアさんのただの幼馴染ですよと言った事を聞いて安堵していた。
しかし仕事中のテンカワさんに抱きつき、厨房の仕事の邪魔をしている艦長を見ると動揺しているようだ。
以前、僕はユリカの何なんだろうと呟いていましたが、艦長にとってはただのお友達だと私は思っている。
「艦長、いい度胸ですな。
仕事もせずに他の方の仕事の邪魔ですか?
早くブリッジに来て下さい。
書類の決裁が溜まっているので片付けて下さい」
これにはプロスさんも庇う気がなく、怒りを滲ませて話していた。
それを見た艦長は、
『はっはい、プロスさんすぐに戻りますから、ごっごめんなさ〜い』
慌てて駆け出す艦長を見ながらプロスさんは謝っている。
「ホウメイさん、テンカワさん申し訳ありません。
仕事の邪魔をしまして、今後こういう事が無いように厳重に注意しますのでお許し下さい」
『まっいいさ、テンカワがきちんと注意すればいい事だしね』
肩を竦めてプロスさんに話すホウメイさんにテンカワさんは反論する。
『ホウメイさん、俺は注意してますよ。
アイツが聞かないんです』
『お前さんのは注意じゃないよ。
アクアに言われたろ優柔不断だと、優しいだけじゃダメなのさ。
嫌いとハッキリ言う事も必要さ、でないといつまでもこのままだね。
お前さんが艦長が好きならいいが、艦長はお前が好きなのか疑問だけどね』
『ホウメイさん、どういう意味ですか?』
ホウメイさんの言葉にテンカワさんが聞いてくると側にいたサユリさんが少し近づいて聞き耳を立てていた。
ホウメイさんとブリッジのミナトさんはそれに気付いて楽しそうに感じているようだ。
『これもアクアの意見だけどね。
艦長はお前さんを見てないよ、理想の王子様にお前を重ねて見ているだけだってさ。
言われてみるとそう思えるフシがあるからね、よく見ているよ、アクアは。
……あまりいい環境で育ってないね、そんな事が判るなんてさ。
何かに怯えながら生きてきたんだろうね、常に周囲に気を配るなんてあの年頃では難しいさ』
ホウメイさんの意見に誰も言えなかった。
以前聞いたアクアさんがいた施設の事かと私は考えている。
(想像以上に酷い所だったのかもしれません。
アクアさんが話してくれたラピス達のいた施設以上だったのかも)
アクアさんが見せてくれたラピス達の写真を見た私は初めて見る同じマシンチャイルドの子供達に興味を抱いていた。
"ルリちゃんが火星でお姉さんになってくれると嬉しいな"
アクアさんが楽しそうに話してくれた事が心に響いているのかもしれない。
(家族……私にもそんな存在がいる)
マシンチャイルドとして作られた私には家族などいないと思っていた。
(もしかしたら火星に行けば、私はマシンチャイルドではなく、一人の人間ホシノ・ルリとして生きていけるのかも)
私がそんなふうに考えていると、ホウメイさんが話していた。
もっとアクアさんの事が知りたいと思い、私は会話を聞いている。
他の人から聞くアクアさんの事を聞いてみたいと思うのだ。
『まあ、プロスさん。艦長の件はまかせるよ、アクアの事は内緒にしといてくれ。
みんなに聞かせるもんじゃないしね』
「そうですね、艦長の件は了解しました、皆さんも内緒ですよ」
プロスさんの声に皆さんが頷いている。
「でもアクアさんの考えが正しかったら怖いですね。テンカワさんがかわいそうですよ」
メグミさんの発言にミナトさんが考えて話した。
「ウ〜ン、当たっているかもね。
艦長に聞いたんだけど、どうもアキトくんを美化してるな〜と思ったんだけど……そうかもね。
副長は地球での幼馴染だけど火星のアキトくんの事聞いた事あるかしら?」
ミナトさんの質問にアオイさんは昔の事を思い出しながら答えた。
「……いえ、ナデシコで初めて聞きました。この10年一度も聞いてないです」
「そう、とりあえずこの件は内緒ね。いずれ判ると思うし確証も無いからね」
ミナトさんのセリフが終わると同時に艦長がブリッジに戻ってきた。
「プップロスさん、すぐに仕事を終わらせますから任せてください」
「では艦長、急いで片付けて下さい。
溜めなければすぐに終わる物なんですからキチンと仕事をして下さい」
プロスさんが艦長にお説教をするのを見ながらメグミさんはアクアさんがいない事に気付いて、
「そういえばルリちゃん、アクアさんは何処に行ったんですか。
ブリッジにいませんけど、……まさか艦長のせいで体調を崩されたんですか?」
その言葉に艦長は反応して勝手な意見を述べる。
「メグミちゃん、どういう意味ですか?
アクアさんが居ないのは私のせいじゃありません。きっとサボリですね」
「アクアさんは艦長と違いますよ。今日は副提督とシミュレータールームに行かれていますよ」
私が艦長の言葉にムッとしてアクアさんの事を話した。
(ん?、どうして私は反論したんでしょうか?)
何故と私は考えていると皆さんはアクアさんの行動を聞いてくる。
「そうなんだ、ルリちゃん。
艦長の尻拭いで倒れたのかと思ったんだけど、違うんだ」
「それもありえますが試作の対艦フレームのチュートリアルを兼ねてパイロットの皆さんと意見交換されています。
何も言わなくても仕事をしてくださるので非常に助かっていますよ。
ですから艦長も自分の仕事はきちんとして下さい。
ムネタケ副提督は本気で艦長を変えようかと考えておられますよ」
メグミさんの意見にプロスさんが答えると艦長が、
「仕事はしてますよ、ねえジュンくん」
アオイさんに聞こうとすると艦長にアオイさんは顔を逸らして何も言わなかった。
これには艦長も焦っていたようである。
「ちょ、ちょっとジュンくん。どうしたの?」
「悪いけど事務仕事をしてない以上、僕にはなんとも言えないよ」
アオイさんの一言に艦長もさすがに不味いかと思い、焦っているようである。
「自覚が無いのも問題ですね、艦長。
出航から今まで何度問題を起こしましたか?
その大半を彼女が解決しているんですよ。
ある意味彼女が艦長と錯覚しているクルーもいるんですよ。
もう少し艦長の自覚を持って行動して下さい」
プロスさんも火星に着く前に艦長としての自覚を持って欲しいので注意している。
「プロスさん、私は真面目に仕事してますよ。失礼ですね」
「ではこの書類の山は何ですか?
遊んでないで仕事して下さい。では行きますよ」
プロスさんに引き摺られてブリッジを出て行く艦長を無視してメグミさんが、
「ルリちゃん、シミュレータールームを見せて欲しいけどダメかな」
「……いいですよ。オモイカネ、受信オンリーで見せてください」
『……後で怒られても知らないよ、怒ると怖いよアクアは』
オモイカネの意見に私は考え込んでから伝える。
「……そうですね。その時はメグミさんのせいにしておきましょう。
いいですね、ミナトさん」
「そうね、メグミちゃんが言い出したから問題なしね」
苦笑するミナトさんを見てメグミさんが慌てて、
「スッストップ、アクアさんって怒ると怖いんですか。
でしたらやめましょう、危険は避けるべきです」
「そんなに怖いんですか?
でもどうして知っているんですか二人とも」
アオイさんがそれとなく聞いてくるのに対してミナトさんが知っている事を伝える。
「この前、整備班のウリバタケさんがお風呂に覗き穴を作ってね。
それでアクアちゃんが整備班のメンバーの半分を叩きのめしたの、素手でね」
「スッスゴイですね、ムネタケ副提督の言う通り白兵戦も出来るんですか?
でも残りのメンバーはどうしたんですか?」
アオイさんが更に聞こうとしてミナトさんを見ると口を押さえて笑いを堪えながら、
「胸にね『僕等は風呂場を覗いた馬鹿たれです』のプラカードをぶら下げて、
食堂の掃除をやらされたのよ〜、見た人みんな笑っていたわよ〜」
「ええ〜〜私それ見てないです。
……見たかったな、そのシーン」
メグミさんが残念そうに言うと私はアオイさんの反応を見るために記録していた映像を見せる。、
「これですか、メグミさん」
ウィンドウに映し出したその光景を見てアオイさんが青ざめた顔で、
「むっ惨いですね、ここまでしますか」
「当然ですよ、覗きは犯罪です。これ位は当たり前ですよ」
とメグミさんは言い切りメグミさん以外の女性クルーは頷いた(無論、私も頷いている)。
その様子にジュンは思った。
(逆らうな、危険が待っているぞ。会話を変えて逃げろ〜、逃げるんだ)
どうもナデシコに乗り込んでからというもの、危機回避のスキルが上昇しているような気にさせられる。
(もしかしてこの船は僕にとって試練の場所なのかな?
ああ、こんなふうに考えている事が現実逃避だったりして)
今日もブリッジは平穏な一日であったと私は艦長から預けられた航海日誌に記録しておく。
概ねナデシコは順調に火星へと進んでいる。
―――シミュレーター ルーム―――
「―――以上ですが、何か質問はありますか?」
スクリーンに映る新型の対艦フレームの説明を終えたアクアはパイロットの四人に聞いた。
「特に問題はないわね。
アクアちゃんに聞くけど、この機体は火星にある主力機に匹敵するの?」
ムネタケが尋ねると四人はアクアを見ていた。
軍人としての立場から尋ねるムネタケにアクアは、
「いえ、勝てませんよ。
だってエステバリスには致命的な欠陥がありますから、これは少しだけ欠陥を改善した機体ですよ」
あっさりと答えるアクアに全員が驚いていた。
「ど、どこに欠陥があるんだ!?
俺にはわかんねえぞ」
リョーコが叫ぶとパイロットも機体の説明を聞いて問題ないと判断していたので、アクアの意見には納得できなかった。
「確かにこのサイズでは性能は飛び抜けていますが紐付きですよ。
艦隊の直衛しか出来ないじゃないですか?
戦艦や空母を前線に配備させて危険に晒す機体の何処が優秀なんですか?
しかも単独では満足に動けない機体など運用に困るじゃないですか?」
五人に解り易い説明するアクアにウリバタケがメカニックとして納得していた。
「まあ、アクアちゃんの意見は分かるよ。
だからコイツには新型のジェネレーターが内蔵しているんだな。
この方法なら多少は単独での活動時間も延びるからな」
「その分、少し機体が大きくなりますけどね」
苦笑して話すアクアにムネタケは聞く。
「でもクロノが操縦していた機体はそんなに大きさが変わらなかったわよ。
なんかエステバリスに似ていたような気がするわ」
「アレは試作機です。
性能を重視したせいでパイロットを選ぶ機体になりましたよ。
操縦できるのは生体強化されたクロノか、私くらいですね。
パイロット殺しの異名が付きましたよ……欠陥機ですね」
「まあ、それなら良いけど。
アレが火星で量産されていたらナデシコなんて図体がでかいだけの的になるわね。
木星の艦隊をたった一機で翻弄するし、戦艦さえ撃沈するのよ……吃驚したわよ」
ムネタケの言葉にパイロットは驚き、ウリバタケはその機体を分解したいなと思っていた。
「でも軍はその事を知らないみたいですけど」
「当然じゃない。
私達を罠に嵌めた連中に教える義理はないわね」
アクアの疑問にムネタケははっきりと告げるとアクアは頷いていた。
「その点は感謝していますよ。
おかげで地球は火星を舐めきっていますからね、戦争になれば痛い目を存分に見てもらいますよ。
先制攻撃で地球を火の海に変えようかしら?」
「良いんじゃないの、地球は戦争をしてるって実感してないから目を覚ますにはいいかもね」
この戦争が始まってからの地球の対応の不味さに憤りを感じていたムネタケは火星の行動に文句を言う気はなかった。
地球には危機感がないのだと思っている。
ビッグバリアのおかげで負けてはいるが被害が深刻なものとは言えないのだ。
しかも上層部は何かを隠しているとムネタケは確信していた。
連合市民も危機感がなかった事が災いして火星の事をそれ程気にしていなかったのも問題だった。
この戦争が終わった後、火星は地球に謝罪を求めるだろうと思うが地球は謝罪などしないだろう。
(本当に地球は何を考えているのやら)
この頃、ムネタケは地球の行動に呆れる事が多くなってきていた。
そんなムネタケとアクアの会話に全員がついて行けなかったが、この艦で大人の部類に入るウリバタケが話してきた。
「あ〜〜物騒な会話はそこまでにしてくれ。
まだ火星と地球が戦争になったわけじゃねえんだ」
「でもウリバタケさん、ナデシコがどう行動するかで火星と戦争になりますよ。
ナデシコを開発したネルガルは火星に最悪な事をしましたから怨まれていますよ。
プロスさんも会長に聞かされていないみたいですから、どうなる事になるか?」
プロスとの会話を思い出して話すアクアにムネタケが聞いてくる。
「それってこの戦争にネルガルが関係している事なの?」
「別にネルガルだけじゃないですよ。
連合政府も連合軍も関与してますので、地球全体が火星を裏切ったようなものですね」
「どんな馬鹿をやらかしたのよ、地球は。
相当やばい事をしたのね」
アクアの話から相当やばい事をしたと判断したムネタケは火星に到着した時の事を考えて、
いくつかの対策を講じようと思っていた。
「まあ、それについては火星に着いてナデシコを降りる前に話しますよ」
「そうね、アクアちゃんは火星までの片道だったわね。
でもホシノさんはどうするの?
強引に連れ去るなら協力してもいいわよ」
ムネタケの言葉にアクアは躊躇いながら話した。
「……それも考えましたが、無理ですね。
この艦は私やルリちゃんがいないとダメなんですよ。
そういうふうに作られた戦艦なんです。
極端な言い方をすればマシンチャイルドを道具にして、閉じ込める牢獄ですね。
それにオモイカネも連れて行かないとダメなんです、あの子にとって大事な友人ですからね」
どうにもできずに悔しそうに話すアクアにオモイカネが話す。
『申し訳ありません、私のせいで』
「あなたのせいじゃないのよ。
ルリちゃんは大丈夫よ、生き残る為に必要な事は全部教えていくから。
あなたはルリちゃんを守ってね」
『はい、必ずルリを守りますので安心して下さい』
「大丈夫よ、私はあなたを信じているわ。
だからナデシコを降りる事が出来るの」
「まあ、アクアちゃんが決めたんなら仕方ないわね。
アタシも気をつけておくわ」
ムネタケが話すとアクアは話題を変える為にパイロットに告げた。
「お願いしますね。
では皆さんには訓練してもらいますよ。
火星で死にたくはないでしょう、遊ぶ半分でしないで真剣に訓練して下さいね」
「でもよ〜火星にそこまでの戦力があるのか?
正直なところ信じられねえな」
リョーコの疑問にアクアは楽しそうに話した。
「少なくともリョーコさん程度のパイロットは何人もいますよ。
私より強い人は地球にはいませんけど、火星にはいますよ」
クロノだけではなく、一流のパイロットも火星には居る。
(レオンさんは元軍人でしたし、マーズ・フォースのパイロットの皆さんもいい腕でした。
私もクロノの経験の擬似経験で結構出来るようになりましたけど……まだまだ甘いって言われましたし)
火星では五指に入るパイロットの立場にアクアはいたのだ。
当然知らないナデシコのパイロットのリョーコは、
「ふざけんじゃねえぞ!
俺より強い奴なんて軍にいるくらいだぞ」
アクアが火星にいるパイロットの実力を考えているとリョーコのプライドに火を点けたのか、少し怒ったように話す。
「じゃあ、試してみますか?」
アクアの挑発にリョーコは乗ってくる。
「おう、やってやろうじゃねえか」
「では宇宙空間でいいですね。
0G戦にしますか、対艦フレームにしますか?」
「ふっ対艦に決まってんだよ」
「本気ですか?」
アクアの呆れた声にリョーコは、
「たかがエステの改造機にビビル訳ねえだろ」
そう告げるとリョーコはシミュレーターに乗り込んだ。
「まあ、いいでしょう。
己の未熟さを知るには無様な姿を晒した方が理解できるでしょう」
そう呟くとアクアもシミュレーターに入っていった。
「本気でする気になったわね。
スバルの冥福でも祈ろうかしら」
ムネタケの一言にヒカルが不安そうに尋ねる。
「あの〜副提督。それって…」
「ん、言葉通りの意味よ。
アクアちゃんはああいう自信過剰な人間を叩きのめすのが好きなのよ。
思い出すわね、火星で部下達を叩きのめした日の事を」
目を閉じて懐かしそうに話すムネタケにウリバタケが嫌そうな顔をしていた。
「アンタも馬鹿な事をしたわね。
対艦の事がなければ地獄を見ていたわよ」
ウリバタケの顔を見ながらムネタケは事実だけを話していた。
「ちょっと待てよ、あれで手加減したのか?」
「当然じゃない、あの程度で済んで幸運だったわよ。
部下達なんてしばらくまともな食事ができなかったわ。
どんな技かは知らないけど胃が痙攣でもしてたのか、固形物が入ると吐くのよ。
その日と次の日の食事は満足に出来ずに病人用の流動食みたいな状態よ」
それを聞いていたパイロットの三人はリョーコの不運を確信していた。
「南〜無」
イズミが手を合わせてリョーコの冥福を祈る姿が印象的だった。
『なっなんだ――――!』
リョーコの叫びが始まると全員がモニターを見ていた。
「えっと……これって何?」
ヒカルはモニターを見ながらリョーコの機体の動きに呆れるような言い方でウリバタケに聞いてきた。
「あん、あれだろ。
ちゃんとした訓練もせずに乗るからだろ。
何を聞いていたのか知らんが、馬鹿につける薬はねえよ」
「博士っ!
対艦フレームってそんなに凄いのか?」
ウリバタケに聞くガイに、
「まあ、お前の言い方にすればゲキガンガー3からゲキガンガーVに変わったようなもんだな。
あれは完全な軍用機だよ。
エステバリスは素人でもそれなりに動くが対艦フレームにはそんな常識は当てはまらねえよ」
「そ、そうなのか。俺の機体はゲキガンガーVになるのか」
「訓練しなけりゃ飾りになるけどな」
モニターを見ながらガイに話すウリバタケに、
「フッ、任せてくれ。
俺は乗りこなして見せるぜ」
そういってシミュレーターに入るガイにウリバタケは話す。
「いいか!
手順をきちんとクリヤーするんだぞ」
『まかせろ、お?おぉぉぉ―――――』
「……ダメかもしんねえな」
ガイの機体の様子を見ながらウリバタケは呟いていた。
「リョーコ、先に逝くのね。
私も直に逝くから待っていてね」
「イズミ……そのセリフはちょっと」
イズミのセリフにツッコミを入れながら二人もシミュレーターに入っていった。
「何とかなりそうかしら?」
『さあ、時間はありますから間に合うと思いますよ』
『なんで、オメエは簡単に操縦できるんだよ!』
荒れ狂う機体に振り回されているリョーコはアクアに叫ぶと、
『判りませんか?』
『わかんねえから聞いてんだよ!』
必死に機体を制御しようとするリョーコにアクアはなんでもないように答えた。
『簡単ですよ、火星の主力機のブレードストライカーの方が操縦が難しいからですよ』
『マッ、マジなのか?』
『きちんと訓練して下さいね。
火星で死ぬ予定なら構いませんが』
アクアの言葉にパイロット達は火星の怖さを知って真面目に訓練しようと考えていた。
『なあ、アクア。
こいつを乗りこなしたら対戦しようぜ』
『いいですよ、リョーコさん。
但し私は火星で降りますから急いで下さいね』
『大丈夫だよ、間に合わせて見せるぜ』
リョーコはアクアとの対戦を目標に訓練を始めた。
火星に到着するまでに乗りこなすと全員が真剣に思っていた。
―――火星作戦指令所―――
「訓練のほうは順調に進んでますか?」
「ジャンパーに関しては大丈夫だな。
予定通りの数は確保できるぞ、エド」
「パイロットのほうもなんとかなるぞ」
「いよいよ火星解放作戦を出来るだけの戦力が揃った事になるな。
レオン、クロノ、ご苦労さんだったな」
「そうでもないぞ、グレッグ。
これからが本番だぞ、手順を間違うと大変な事になるな。
クリムゾンとの連携のおかげで上手く行きそうだが、慎重に進めていかないと」
「クロノの言う通りだな。
俺は地球と一戦してもいいが、出来うる限り回避したいと市民が決めたなら従うさ」
「しかし意外な結果でしたね。
火星の全市民に事実を公表して火星の戦略を話した時は反対も大きいと思ったんですが」
「確かに私もそう思いました。
やはり木連に関しては被害を受けたので報復を望んでいますが、
地球に関しては現状維持というのが市民が狂気に向かっていないと言う事ですな。
ただネルガルの戦艦がどういう行動をするか次第だと私は思います」
グレッグの意見に三人も頷いていた。
「なあ、クロノ。
ナデシコだったかな、ネルガルの戦艦はどう動くと思う」
「……そうだな、レオン。
政府を認めたらネルガルの目的に反するからな、向こうは火星の政府など認めんだろう。
こっちの言い分など気にもしないで好き勝手に動くんじゃないかな。
俺達が戦艦で包囲すれば従うが、そんな事をすればこっちの思惑とは違う展開になるからな」
レオンの質問にクロノが答えると、
「いい気なもんだな、何様のつもりなんだよ。
こっちが下手に出てると思ったら大間違いだぜ」
ネルガルのしようとする行為など認めんと告げるように怒りを見せていた。
「まあ、好きにさせてやれ。
自分達の思惑通りに動いているように見せて、実は罠に嵌ったと感じさせるほうが効果的で楽しいぞ。
地球にもこの際痛い目を見させるのも悪くはない。
それよりクロノ、木連に宣戦布告して攻撃するのは良いが何処を攻撃するんだ?」
グレッグの問いにクロノは攻撃目標を話す。
「アクアのおかげで草壁の手駒である山崎の居場所が判明した。
奴の潜伏先を攻撃して木連の兵器開発を遅らせる事にするつもりだ。
このまま奴を生かすと未来で火星の住民が人体実験に遭う可能性がある。
それだけは何としても回避したいな」
クロノから聞いた未来を思い浮かべて三人はこの作戦に失敗は許されないと思っていた。
最悪の事態を回避する為に四人は意見を出しあい、火星を生き残らせる方法をぶつけ合っていた。
ここでの意見に火星の作戦立案者達の意見を併せて、木連攻撃作戦が生み出されていく。
―――ネルガル開発室―――
「で、開発スタッフは決断したの?」
エステバリスの新しいパーツの機動データーを取り終えたエリノアがリーラに聞いてきた。
「相当動揺しているわね。
ナデシコから送られてきた対艦フレームの設計図と緊急提言を見てから塞ぎ込んでいる者が多いわ。
なんせ苦労の末に作ったエステが軍用機に向かないなんて言われたのよ。
上層部もショックを受けてたみたいね」
「でも資料を読むと反論できないです。
小型化は間違いではないですが、単独での作戦が出来ないのは……問題かもしれません」
ミズハが二人に話すと軍での使用にはキツイものがあると判断していた。
「それに訓練の必要性もあるから大変よ」
「そうね、この機体なら問題は解決しているけど出力が増大したから」
「IFSがあれば誰でも活用できるとは言えなくなるわね」
リーラとエリノアの二人が現場での意見を述べるとミズハも話す。
「でも凄いですね。二度の操縦でエステの欠点を指摘するなんて」
「そうね。でも開発スタッフには嫌味にしかならないわ。
自分達の苦労を嘲笑うかのような意見を述べられたから」
「たまにはいいでしょう。
この戦争が始まってから上層部は都合のいい事ばかりしているからいい気味よ」
エリノアの意見にリーラが上層部を批判するように話していく。
「困ったものだな。
エリナ君はどう思う?」
会長室でアカツキがプロスから送られてきた資料を読んで苦笑していた。
「残念だけど、彼女の意見は間違っていないわ。
クリムゾンがブレードストライカーを使う理由も理解出来たから」
悔しそうに話すエリナにアカツキは尋ねる。
「この機体だけど作るのかい?」
「作らざるを得ないわよ。
このままだとクリムゾンの一人勝ちになるもの」
「そうだね、エステの欠点を改善しないといけないな」
アカツキの意見にエリナは不安そうに話した。
「火星ってどこまで知っているのかしら?
この機体のジェネレーターね、バッタとジョロから作られた感じなの。
彼女がこれを利用する以上、火星は木連の事を知っているのね」
「不味いね、このまま火星に行っても危険な気もするけど中止は出来ないよ。
イネス博士は我々にとっても重要な人物だからね。
もし火星から僕達のした事を聞かされていたらどうなるか」
二人は少しずつ火星に対する認識を変えようとしていた。
火星が真実を知っていればネルガルそのものが報復の対象になると判断するからだ。
自分達のした行為を考えると火星は必ず報復すると思う。
「……黒の復讐者か」
アカツキの呟きを聞いたエリナは誰かが自分達を狙っている事に不安を感じていた。
二人の側に少しずつ暗い影が近づいている事に気が付き始めたようだった。
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EFFです。
残念な事に木連の事は書けなかった。
次回に書きますので安心して下さい。
少しずつ地球と木連を書いていこうと思います。
では次回でお会いしましょう。
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