新たな舞台の幕が開く

それぞれに歩む場所は違えど

生きていくという事に変わりはなく

自身を守るのは自身と頼れる仲間の力のみ

道を切り拓くのは誰か

それはまだ判らない



僕たちの独立戦争  第九十七話
著 EFF


軍からの依頼というか、嘆願のような形でネルガルにシャクヤクの前線配備の話が出ているとプロスが話している。

強制的に徴用したいが以前同じような事をしているので二度もすれば確実に地球上の企業を敵に回しかねない。

企業にしてみれば、自社製品を買わずに奪うなど言語道断。連合政府もスポンサーである企業との敵対は避けたい。

そこで縁故という物を使ってミスマル提督からの願い出る次第になったのだ。

「断って下さい、プロスさん」

あっさりとプロスの意見をユリカは却下する。ブリッジにいたクルーは真面目なユリカにちょっと吃驚していた。

「よろしいのですか?」

「構いません、戦艦一隻増やしたくらいで勝てると考える人には付いて行けません。

 火星も戦線に出ます……シャクヤクと同程度か、それ以上の戦艦が数隻出てきます。

 プロスさん、死にたいですか?」

状況を冷静に分析して、ニッコリと説明するユリカにどっちが本当の姿なんだとクルーは考え込んでいる。

普段の不真面目な姿がここ数日見られないのだ。何か変なモンでも喰ったのかと思っている様子だった。

「判りました、本社にもその旨を伝えておきます。

 試運転もしていないシャクヤクをいきなり全力稼動は出来ないと本社には話してもらいます」

プロス自身はシャクヤクを出す気はないし、本社も出したくないと言うのが本音なのだ。

現場の指揮官のユリカが出せないとはっきりと告げた以上はその方向で進めるのが最良だと考えたのだ。

「いいの? ユリカ」

「出てもいいけど、多分ナデシコ級は真っ先に標的になるよ。

 一対一なら勝てる方法も考えられるけど……袋叩きには勝てないよ、ジュンくん」

前回の火星での失敗を話すとクルーも考えさせられた。

ナデシコ級の戦闘能力は高いが、あくまで一隻の戦艦と考えて行動しなければならない。

ムネタケ個人の伝手で回ってきた木連の資料もグラビティーブラストが無敵の矛ではないと証明している。

「宇宙だから連射は出来るけどね……それでもキツイかなと思うの。

 ほら、あの時は木連も有人機はなかったでしょう。でも今回は有人機があるの」

「そっか、防空体制にも注意しないと不味いんだね」

「うん、皆が戦艦落としている間に近付かれると多分ダメだと思う。

 特にあの大きい機動兵器が来れば全員で相手をしないとダメだから」

ジンシリーズの事を話すとジュンも反論しなかった。

攻撃方法はシンプルだから困る。ボソンジャンプで移動して戦艦をフィールドの内側に入り込んでから破壊するだけ。

エステで近付いてもジャンプで別の場所に出現するからどうしても反応に遅れる。

パターンらしきものはあるが取り付いたら死ぬとクロノが話していたのだ。

近接戦闘が出来ない以上はエステの持ち味が活かせないのだ。

「ウリバタケさん、あれのフィールド撃ち抜ける武器って直ぐに作れますか?」

「ちょっと難しいぞ。相転移エンジン搭載の機動兵器だからな、フィールドもかなり強力だ。

 大口径のレールガンならいけるかもしんねえけど、エステに持たせられるような小型な物はねえぞ」

ユリカの質問にウリバタケが技術者として無理だと告げた。

パイロット達も中距離から長距離での戦闘で撃破する方法を考えてるが良い案は出そうにないようだ。

「あっ、一個だけ在るけど……やっぱダメだ」

「何ですか、それ?」

「またアンタ、変なモン作ったんじゃないわよね?」

「変なモンとは失礼だな、提督。

 エステ2の開発段階から派生させた俺のオリジナルだよ」

ウリバタケのオリジナルと聞いて開発班のメンバーは顔を顰めていた……絶対やばいブツだと思って。

「ネルガルの小型相転移エンジン搭載の新型よ。

 何とこいつはグラビティーブラスト搭載だぜ」

「マジかよ、博士?」

「おうよ…………でも使ったら自爆するがな」

ガイが嬉しそうな顔で聞くがウリバタケが未完成だと告げると全員がガッカリしていた。

「チャージに問題があって、放熱処理がちょっとな。

 あと大きさも小さく出来なかったんだよ」

ウリバタケも悔しそうに話している。改造屋のプライドがあるのだろう。

「発射する前にドカンだ……今後の課題だな、こりゃ。

 もし完成してれば、あのライトニングに匹敵は無理だが木連のデカブツには対抗出来たかもな」

「見せてもらえるかしら?」

エリノアが聞いてくると、ウリバタケはコミュニケを使ってスペック表と試作の機体を見せた。

「エックスエステバリスって名前で作ってる」

「確かに放熱に問題があるわね」

「だろ……戦艦クラスなら大丈夫なんだが」

「エステじゃちょっと無理ね。

 でも、グラビティーブラストを外せば大きさはダメだけどスタンドアローンは出来るんだ」

「元が月面フレームだからな」

「小型のレールガンでも出力を上げれば何とかならないの?」

ムネタケの問いにウリバタケが答えた。

「砲身が持たない……多分、連射したら暴発するぞ」

「そうなの?」

「ああ、発射後、急速に排熱しねえとダメだ」

「残念ね、使えそうに思ったんだけど」

「大きいのそのまま使ったらダメなの?、ウリピー」

「……固定砲台ね、死にたいのヒカル?

 多分、エステの機動力がダメになるわよ」

「ゲッ、そんなのヤダ」

ヒカルの考えにイズミがダメ出しをする。宇宙空間で機動力の無いエステでは的になりかねないので全員が嫌がった。

「すぐには出来ないって事で良いですよね?」

「おう、エクスストライカーがあれば、すぐに出来るけどな。

 あれこそエックスエステバリスのお手本だから部品欲しいんだよ」

「無茶言うんじゃないわよ。

 あれを相手にするの……正直、艦長の意見は一理あるのよ」

ムネタケがユリカの意見を尊重している。クルーも火星を相手にするという事に気付いて不安な顔に変わっていた。

エクスストライカーの戦闘力は火星で見たのだ。ナデシコ級だって撃沈できる能力を持つ対艦攻撃機だった。

「待てよ……もしかして火星版ゲキガンガーを敵に回すのか?」

ガイは今頃になって気付いて驚いている。

「火星版ってなんだよ?」

「あん、木連のデッカイ奴がゲキガンガーに似てるんだが……知らなかったのか、博士?」

「そういえば、どっか似てるね。

 ちょっと不細工な感じだけど」

「ヒカルもそう思うのか?

 俺もあれはバッタモンかと言いたいぜ……もう少し格好良く作れよな」

「だよね〜、変形機構は違うけど火星のライトニングはヒーロー機だよね」

「そうなんだよ、俺もライトニングに乗りてえんだよ。

 あれこそヒーローが乗るに相応しいと思うぜ」

「まあ、乗りたいっていう気持ちは分からんが、俺も分解してえんだよ」

ウリバタケが二人の会話に乱入すると完全に話が脱線して行った。

「ま、まあ……とりあえず不参加にしておいて。

 アタシも試運転もしてない戦艦を出すのはちょっと困るのよ。

 一応大丈夫だと思うけど……新規に変更した部分もあるんでしょう。

 その部分が大丈夫か、ちょっと不安なの」

ムネタケも同じようにプロスに告げる。

シャクヤクの性能はカタログから把握しているが新しく採用している機能は試運転をしてからでしか判断できないのだ。

「火星宇宙軍を相手にする点を私も考慮してませんでしたが、よく考えれば宣戦布告したので戦う可能性はありますな」

布告した時点で何時火星が攻撃してくるか、判らないのだ。

(シャクヤクまで落とされたら大赤字は決定的ですな)

コストカッターとしてのプロスの勘が絶対に出すなと警告している。

赤だ、赤だ、赤だと五月蝿いように頭の中に響いていた。

二人の意見及びプロスの赤字になる事は控えましょうという意見を聞いたアカツキは重役会の意見も参考する為に尋ねた。

重役会もシャクヤクはネルガルの最後の砦だと言って戦場に出すのは止めようと言う。

万が一撃沈されたら建造費が無駄になるので元を取るまではダメだと反対意見が殺到したのだ。

ネルガルの戦艦が4隻も戦場に出て負けましたでは企業イメージが大きく崩れるからやめようという意見も出た。

クリムゾンの戦艦は不慣れな地上で結果を出しているが、ネルガルはまだ勝利という結果は初陣のみで出していない。

ナデシコは火星で失策を起こして送り返された。

コスモスは木連に強奪されて結果を出せなかった。

ユキカゼは試作艦だから除外するとして、カキツバタがダメだった時の起死回生の手段として出したいと言うのだ。

「なんか……世知辛いわね」

「言ってる事は間違っていないよ……イメージは損ねたくないから」

アカツキとエリナはため息を吐いて、重役会の意見を採用した。

宇宙軍とすれば強制徴用も考えたが、連合議会が止めろと言うので歯軋りして我慢する。

連合議会にしてみれば、報道されたら間違いなく致命的な事になるのだ。

民間企業から強奪なんて冗談じゃないと考える。企業から総スカンを喰らえば、勝っても戦争を継続し難くなるのだ。

戦争中だから何をしても良いという政府など援助したくないと言われると立ち行かなくなる。

こうしてシャクヤクは地上勤務という形で完成後、遊撃艦として予定通り地上で行動する事になった。

幾つかの禍根を残しながら……。


―――火星アクエリアコロニー エドワード邸―――


「似合う?、パパ、ママ」

ラピスがクロノとアクアの前でクルリと一回転して学校の制服姿を披露する。

火星には私学はなく、一貫した教育制度の公立校だけが存在していた。

授業料、その他は全て税金で賄い、高校までの授業料は必要なかった。

ただ、高校に通うかどうかは選択式で通信教育で自分のペースで勉強して大学に通うという方式も採用している。

その為、高校に通わずに復興作業に協力しながら大学に進むという子供も多数存在していた。

自分達の街を直したいという思いがあるのだ。その願いを無碍にする事は政府も出来ない。

高校は予定よりも人員が少ないという事態に人件費が浮いて良かったのか、悪かったのか、悩む政府であった。

「可愛いわよ、ラピス。

 さすがはママの娘よ♪」

「うん、よく似合っている。

 これなら友達もたくさん出来るな」

二人が褒めたのが嬉しいのか、ラピスは楽しそうにクルクルと回っていた。

「ずるいよ〜〜一緒に見せようと思ったのに」

少し遅れてセレスも二人の元にやって来る。

「セレスも似合っているぞ」

「ええ、とっても可愛いわよ」

「えへへ〜〜♪

 ありがとう、パパ、ママ」

二人の感想を聞いたセレスは嬉しそうに微笑んでいる。

「今日から新学期になるから違和感無く溶け込めそうだな」

「ええ、たくさんお友達作るのよ」

「「うん♪」」

「お父さんはもうすぐお仕事でちょっと家に居られないけど、帰ってきたら友達紹介してくれると嬉しいな」

「まかして、パパが吃驚するくらいたくさん作るから」

「帰ってきたら吃驚させるよ」

ラピスとセレスはクロノに約束している。クロノは楽しみにしていると言って二人の頭を撫でていた。


「う、うう〜〜、結構きつくなってきたわね」

「大丈夫? お姉ちゃん」

悪阻が始まったのか、口元を押さえたシャロンを心配そうにするカーネリアンとガーネットを伴って部屋に入って来た。

「きついですか?」

シャロンの後ろから部屋に入って来たマリーが聞く。

「……ちょっとね」

「では食事の量を減らして、数回に分けて食べるようにしましょう。

 昔、お母様も同じようにしておられましたから」

「お母さんもきつかったの?」

「はい、ですがとても嬉しそうでした。

 時々愛しそうにお腹を撫でておられました」

「そっか……なんか嬉しいな」

アクアが生まれる前にシャロンの母親の世話をした事があるマリーが当時の事を話す。

「窓辺の陽だまりの中で元気に育ってくれると嬉しいと話しておられました」

「良かったね、シャロンお姉ちゃん」

「ええ、ありがとうカーネリアン」

「ね〜赤ちゃんって、いつ生まれるの?」

「まだ半年くらい掛かりますね、ガーネット。

 時間をかけて、お腹が大きくなりますから」

「大変なんだね」

「そうね、生まれたら仲良くしてくれる?」

「うん、私お姉さんになるから」

「私も〜♪」

ガーネットとカーネリアンが楽しみだというように笑顔で話す。


「ママ、ルリお姉ちゃんとお揃いで似合うでしょう♪」

「ええ、似合うわサフィー。

 ルリも可愛いわね」

「えへへ〜〜、お揃いだね」

「ええ、可愛いですよサフィー」

「ありがとう、お姉ちゃん」

ルリとサファイアが一緒に入って来て、アクア達に制服姿を披露していた。

中学、小学校と通う場所は違うが制服は同じなのでサファイアはご機嫌のようだった。

「でも、姉さんいいんですか?

 私は別に中学に通わないで姉さんの仕事を手伝った方が……」

「ダ〜メ、ルリには友人を作って欲しいの。

 それにもう少し大人を信じて欲しいわ……ルリ一人に頑張ってなんて、ちょっと悔しいから」

「大人の意地ですか?」

「ま、そんなところね。どうしても手が足りない時はルリの力を借りるわ(まあ、その前にジュールをこき使うけど)

 その時は力を貸してね?」

とんでもない事を思いながらアクアがルリに話す。

「当然です」

「私もルリお姉ちゃんの手伝いするよ〜」

「ありがとう、サフィー」

「えへへ〜〜♪」

アクアがサファイアの頭を撫でながら微笑むとサファイアは嬉しそうに笑っている。


「モルガ〜〜、準備は出来た?」

「おう、こっちは大丈夫だぞ。

 オニキスは大丈夫か?」

「う、うん」

「お、似合ってるぜ、二人とも。

 友達たくさん作ろうな」

「「うん」」

制服に袖を通して部屋を出た三人はアクア達の元に向かう。

「クー兄、何処行ったの?」

「サラちゃんとこだよ。今日から同じ学校に行くから一緒に家を出ようって言いに行ったんだ」

「そうだった。クオーツ、この頃気合入って練習してたよな」

「みんなは僕が守るって言ってたよ」

「そいつは負けらんねえな。俺ももっと強くなってみんなを守るんだ」

「今度は僕も守るよ」

「ぼくも〜〜」

「4人いれば、無敵だぜ。

 それにジュール兄もいるから完全無欠かな」

「でも、ジュール兄……ルリ姉とママに弱いよ」

「……それを言うなって、オニキス。

 兄貴がかわいそうだろ」

「なんか、僕たちって女の子に弱いような気がするね」

「そうなんだよな……何でだろ?」

三人の会話を聞いていたグエンは、

(そりゃ間違いなく、クロノの所為だぞ……ふ、不憫な)

確実にクロノの影響を受けていると思い、心の中でクロノ家の男子の女難を思い……涙していた。


「サラちゃん、ジェシカおばさん、似合う?」

「ええ、よく似合ってるわ」

「……クオーツくん、格好良いね」

クオーツの笑顔にドキドキしながらサラは答える。

地球に行った際に髪の色が変わった時は吃驚していたサラだったが、クオーツは気にしていないので無理には聞かなかった。

帰ってからは前にも増して優しい気がするし、何処か逞しくなった気がするから不安は増すばかり。

(うう〜〜、どうしよう?

 クオーツくん……モテるんだろうな)

ただでさえ強敵揃いなのにまだ増えるの?と思うとサラは複雑な気持ちになっている。

不安な様子のサラを見ながらジェシカはというと、

(あらあら……サラも大変ね。

 でもクオーツくんと出会ってから自己主張するようになってきたからいい感じね。

 私としてはサラにアドバイスしながら生暖かく見守ろうかしら)

娘の苦労を側で見ながら、やきもきする様子を愛でようと思っている様子だった。

「これからもサラの事よろしくね」

「うん、サラちゃんは一番の友達だよ♪」

「ク、クオーツく〜ん(T_T)」

「あらあら♪」

ナデシコのクルーが見ていれば副長のジュンのようだと思うだろう。

(無邪気な言動とはかくも恐ろしいものだな。

 若さ故という事……か)

娘の苦悩の日々はもうしばらく続きそうだとエドワードはコーヒーを飲みながら感じていた。

本日から新学期――子供達も新しい日々が始まる。

ちなみにルリの制服姿の映像はピースランドに送られ、国王夫妻はしっかりとその姿を鑑賞していた。

そしてアクアの子供達というトラブルメイカーを受け入れた学校はこの日より心休まる日は遥か彼方へと遠ざかる。

教師にとって規格外という子供が如何に手強いか……それを自覚する日が近付いていた。

今はまだ嵐の前の静けさがあり、火星は一部を除いて穏やかな日々が続いた。


―――れいげつ―――


「申し訳ありません。これは明らかに自分の責任です。

 責は自分が取りますので部下達には寛大な処分を」

佐竹が草壁に頭を下げている。

「君の責ではない……こちらにも落ち度はあった。

 して被害は?」

「IFSが十二個奪われ、操作パネルが同数奪われました。

 人員は偶々その場に居合わせた研究者四名が殺害されました。

 また警備していた者も六名が死亡しました」

部下を失った佐竹は怒りを表に出さないようにして話すが内心では怒っている。

「私の暗殺が失敗した時の保険だと思うか?」

「可能性はある……年寄りの仕業だな。

 辰が追跡してるが……」

草壁の問いに村上が状況を伝える。草壁の警護に注意が向いていた隙を突かれて困った様子だった。

「もう遅いという事か……佐竹君、他に被害は無いな?」

「新型に関しては大丈夫です。あれは特機という事で管理項目を別にして厳重にしていますので。

 IFSに関しては飛燕にいずれ搭載する予定でしたので管理を緩くしていたのが災いになりました」

苦々しい顔で佐竹は草壁に報告している。

佐竹が留守の間に研究施設に侵入し、機密であるIFSを奪った賊がいたのだ。

最重要とまではいかないかもしれないが強奪された物が物だけに三人は複雑な表情でいた。

「何処で使うかは読めるぞ」

「此処に強襲しようという連中にだろうな。

 月臣達に回しはしないだろう……自分達の事だけを優先する連中だ」

吐き捨てるように草壁が告げる。厄介な問題が起きたので苛立っている感じだった。

「そうだな、遺跡から戦艦を増産させたから数的には上だが……辰の手勢を煙に撒く連中だ」

「厄介な連中かもしれんな」

「市民を避難させるべきなんだが……動かすとこっちが知っていると思われる」

「こっちが知らない振りをして不意打ちが出来なくなるのは困るな。

 市民を守るのが使命だというのに……無様だ」

「そう言うな、所詮人の身で出来る事など高が知れている。

 最善を尽くすのが俺達の仕事だぞ」

「ああ……そうだな。

 佐竹君、新型は北辰の部隊に優先で回してくれ。

 今現在、木連でIFSに最も慣れているのは彼らだ。

 要の部隊としたい……可能か?」

二人の会話を聞いていた佐竹に尋ねる。

「問題ありません。試作機の問題も全てとは申しませんが改善しております。

 順次優先して月に送ろうとしていたのでそちらを一時遅らして緊急配備します。

 月には飛燕用のIFS変更用の部品を優先させます」

「……高木君に苦労を掛けるな」

「火星が宣戦布告した……暗黙の了解だが支援してくれる可能性もある。

 まだ悪い方向には進んではいないぞ」

草壁の自嘲めいた呟きに村上がそう悲観するなと言う。

「まずは目の前の問題を片付ける……両名の知恵を借りるぞ」

「「はっ!」」

村上、佐竹の二人が気合の入った返事をする。

進攻中の元老院の艦隊を撃破する為に三人は様々な角度から意見をぶつける。

第二幕の始まりだった。


「申し訳ありません、隊長」

「烈風の責ではない。我の油断だな……これは」

本陣の警備を任されていた烈風は先の失敗に身を縮めていた。草壁の警護に注意を払いすぎて機密を奪われたのだ。

北辰の信頼を裏切るような真似をしてしまったと後悔していたが、北辰は気に病むなと言う。

烈風はまだ自分は未熟だと痛感している様子だった。

「しかし、これほどの手の者が居たとは……少々意外だったな」

「彼の者が切り札だと思っていたんですが……」

以前、北辰が倒した人物が元老院の中で一番だと烈風は思っていた。

既に一番は仕留めたから油断していたのかもしれないと反省しているようだった。

「……狂犬だな。殺さずに侵入できたのに殺しておる。

 敵味方の区別がない連中かもしれぬな」

侵入経路と逃走経路を見た北辰が断言するかのように話す。

「見境のない連中と使うというのは年寄りどもも焦っておるようだ」

「焦りですか」

「月臣が思った以上に使えんと判断したんだろう。

 確かにあやつは子供と変わらんな」

「雷閃から聞いております。指揮官が指揮を放棄するという馬鹿やったそうですね」

呆れを含んだ声で烈風が話す。その表情はマヌケだなと言っている様子だった。

「そんな人物を頭にするとはボケが始まったんでしょうか。

 後始末が大変だと思いますが」

被害を抑えて勝つというのが名将だと烈風は考える。そういう意味では月臣はダメだと思っているのだ。

仮に勝てた後の被害総額は非常に頭を抱えるだろうと感じていた……無論、負ける気は微塵もないが。


宇宙空間で軽快に起動している飛燕。

「ふん、便利な物だな」

「反応速度も悪くないですな」

飛燕の操縦方法をIFSに変更して試している男達。

れいげつから強奪したIFSを自分達の身体で試している様子で飛燕の動きは柔軟で鋭さを秘めているみたいだった。

「悪くないが……この色は変えるぞ。

 こんなあほらしいゲキガンカラーなんて俺達の柄じゃねえな」

「強硬派の正義被れのガキなら喜ぶが……殺し合いに玩具はいらねえよ」

『頭、そろそろこの場から移動します』

「そうだな……そろそろ血を見たくなってきた。

 一番近いのは何処だ?」

『連中の勢力圏から外れた所に街が一つありますぜ』

街――市民船のもう一つの名称である。

「決まりだ、行くぞ」

男は暗い笑みを浮かべると飛燕を加速させる。

この男達がした事は強硬派、元老院にとって重大な結果を齎す事になろうとは誰も……知らない。


―――シャクヤク食堂―――


夕食をと取る為に食堂に入ったグロリアとセリアの元にプロスがやって来る。

「少しお時間よろしいですか、グロリアさん?」

「何かあったの?」

「ちょっと確認したい事があるのですが……」

向かいに座っているセリアの方を気にするように話すプロスにグロリアは、

「言っとくけど、私……産業スパイじゃないわよ。

 まあ、交友関係を調べたら気になると思うけどね」

あっさりとプロスの聞きたい事を話すグロリアに呆気に取られたプロスだった。

「産業スパイって、貴女そんなやばい事してたの?」

「……してないわよ」

セリアが何やってんのよと言うが、グロリアはやってないと否定していた。

三人の会話を聞いていたクルーは吃驚して、三人を見つめていた。

「確かにマーベリックの会長とは知り合いだけど……貸し借りとか無いし、仕事の依頼も無いわよ」

「確かにそうですな。我が社に入社されてから疎遠のようですし」

ナデシコでのアクアの一件以来、シャクヤクに配属された社員の背後関係を調査したのだ。

グロリアが軍でトラブルがあった事は知っていたが、マーベリックとの関係については今になって判明した。

その調査結果を話すプロスにグロリアは近況を話す。

「メールの遣り取りはしてるけど、配属先とかは言ってないわ。

 で、今頃確認するなんて……何が目的なの?」

剣呑な目でプロスを見つめるグロリア。

プロスはグロリアが腰を浮かして、身体の重心を戦闘状態に移行したので慌てて話す。

「お、お待ち下さい。言い方が足りませんでしたね。

 申し訳ないんですが、会長さんにコンタクトを取って欲しいんです」

「無理、あの人公私混同しないから」

にべも無く告げるグロリアにプロスは困った顔をしていた。

「提携とかしたいの?

 だったら正面からぶつかった方が良いわよ。裏口は好きじゃなさそうだしね。

 提携話をするんなら早くした方がいいわよ……火星から技術提供を受けるみたいだから」

「本当ですか?」

「だってあの人……アクアさんの師匠よ」

絶句するプロス……痛いほどの沈黙が訪れていた。

プロスにしてみれば、そんなパイプがあるとは予想していなかったみたいだ。

「北米の反戦運動ってあの人の仕掛けだと思うわ。

 連合のお膝元だから派手にはしてないけど……手際が良過ぎるから」

グロリアの推測を聞いてプロスは唸っている。確かに北米の反戦運動は急速に勢力を増していた。

てっきりクリムゾンか、アスカが関与していたと思っていたが。

「マーベリックでしたか……参りましたな。

 提携して造船施設を借りたいと考えられたのですが」

ネルガルの台所事情では新型艦を建造するのが難しい。

調子に乗って相転移機関の換装を一手に引き受け過ぎた為にドックの都合がつかなくなったのだ。

アスカ、クリムゾンとの提携は難しいので消去法でマーベリックの施設を借りようと計画した。

借りたドックで換装作業をして、空いたネルガルの専用ドックで建造しようという話が出ている。

表から動くのではなく、裏から動いてクリムゾンの目を欺く予定だったから、個人ルートから会談したかったらしい。

だがその考えはいきなり座礁しそうだった。

「諦めた方がいいわよ……あの人って人体実験する連中が嫌いだから。

 私との付き合いも其処だしね。

 軍から放逐されて……殺されかけた時に手を差し伸べてくれたから。

 その恩もあるし、嫌いじゃないのよ。

 だからあの人が手を貸してって言われると断れないのよ……まあ、私を頼るほど困っている人じゃないけどね」

グロリアは苦笑して話す。ここ何年かはトレーニングはしているが実戦はしていない状態なのだ。

実戦の勘は鈍り、一般人よりはマシとしかグロリアは考えていない。

「ご謙遜を……貴女ほどの方を当てにしないという事は無いでしょう。

 うちのSSに所属して欲しいくらいなんですから」

「冗談止めてよ……現役引退したから錆び付いているわよ」

現役じゃないとグロリアは言うがプロスは謙遜だと思っている。

「まあ、どうしてもって言うのなら繋ぎをとってもいいけど……」

「いえ、やはり正面からぶつかるようにしておきます」

「船……降りて退社しましょうか?」

「そこまでして貰わなくても構いません。

 降りられるとマーベリックですか?」

プロスが尋ねるとグロリアは少し考えてから答えた。

「そうね……火星に行こうかしら、幸い連絡先聞いているから。

 これ、地球に置いとくと不味いでしょう」

手の甲のIFSをプロスに見せて話すグロリアにプロスは困った顔で話す。

グロリアが所持しているIFSは火星の最新型の物だから、欲しがる者は大勢いるのだ。

戦艦の中だから警備は安全だが、外に出ると色々面倒な事が起きる可能性をグロリアは指摘する。

「それがありましたな」

「表向き4人だけでしょう……色々問題があるから火星に避難するのが一番だと思うわ」

迂闊だったと考えるプロスに最善の方法だとグロリアは告げる。

「はっきり言うけど……まだ監視されていると思うわ」

「はあ〜〜、その可能性は十分ありますな」

「ええ、ペテン師の弟子はやっぱりペテン師よ」

グロリアの感想にプロスは虚ろな笑みを浮かべる。クルーは苦労しているんだなとプロスを見て感じていた。

「現状維持で行きましょうか?」

「そうして頂けると助かります」

いずれ火星の製品として発売されると思っているので無理に確保しても意味が無く……後が怖い。

このまま配属した状態で自分が監督すれば問題ないとプロスは思っている。

負担は増えると思うが彼女から情報が得られる可能性もある……ただし情報は吟味する必要があるが。

頭と胃が痛くなる話が増えたと考えるプロス……彼の胃が耐えられるか、それは誰にも分からない。









―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。

地球連合、木連の第二幕、火星の子供達の新しい生活というのを絡めてみました。
月奪還の名目で強引にシャクヤクを使いたいが出来ない連合宇宙軍。
元老院の新たな部隊に備える草壁達。
狂気を纏って戦場に出ようとする謎の男。
進軍前の日常の一時を迎えているクロノ達。
そして不安要素を抱え込んで頭を痛めるプロスとまあ、多角的に書いてみたんですが上手く行ったかどうかは不明です。

それでは次回でお会いしましょう。


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