僕たちの独立戦争  外伝2
EFF


―――ホシノ・ルリの火星日誌―――


「…………つまり、嘘だったんですね」

冷ややかなジト目で睨んでいるルリちゃんに私とクロノは居心地が非常に悪かった事は言うまでもなく。

『ご、ごめんね、ルリ。

 ホントの事を教えたかったんだけど、ルリの事が大事だったから』

複数のウィンドウで謝罪の言葉を出しながら、オモイカネが慌てて謝っている。

「いえ、理由が分かったのでこれ以上は文句はいいませんが、ちょっと悲しいです」

「そうね、理由はどうあれ、私はルリちゃんに嘘をついた事に変わりはありませんから。

 ですがこれだけは憶えておいて、貴女が生まれる為に犠牲になった命の為にも必ず幸せになる事を諦めないで」

そう、これだけは決して間違いではないのだ。

どんな形であろうと、生まれてきた以上は幸せにならないといけないと私はクロノに教えてもらった。

ルリちゃんにも幸せになる権利があるのだ……誰の為でもない、自分自身の為に。

「いいんでしょうか?」

ルリちゃんが上目遣いに聞いてくるが、私は優しく微笑んで話す。

「当然よ、前にも言いましたが、貴女は私の大事な妹です。

 私とクロノはいつだって、貴女の味方になりますよ」

「そうだな、ルリちゃんには迷惑かもしれんが、その事は譲れないから我慢してくれ」

苦笑して話すクロノに、私は拗ねるように見つめている。

「むぅ、ルリちゃんは立派なレディーにするんですから、安心して下さい」

「何を言うかと思えば、俺はアクアを信じているさ。

 アクアがいれば、ルリちゃんは人の痛みが理解できる優しい女性になるよ……アクアのようにね」

信じているとクロノに言われて、私は嬉しいやら恥ずかしいやらで顔が紅潮していく。

「……本当にアキトさんにそっくりです。

 姉さんも大変な人を好きになったんですね」

「そうね――って、姉さんと呼んでくれるのですか?」

思わず振り返り、ルリちゃんを見つめる。

ルリちゃんは真剣な顔で私とクロノを見つめると話す。

「形はどうあれ、お二人は私より年上のIFS強化体質に変わりはありません。

 だから兄さん、姉さんと呼ばせて頂きます」

その事がとても嬉しくて、思わず私はルリを抱きしめて話す。

「あ、ありがとう、ルリちゃん。……これからも一緒に生きて行きましょうね」

「え、えっと……はい……姉さん」

クロノは私達を優しく見つめながら笑っている。

クロノが知る……ルリちゃんとは違うが、それでも幸せになって欲しいと願っているのだろう。

複雑な思いでいるのが感じられるけど、今はこの幸せを大事にしていきたいと私は感じている。

……だから微笑んで一緒に歩いて行こう、愛すべき家族と共に。

「さあ、みんなが待っているわ♪

 これから、この火星でみんなと一緒に家族として生きていきましょうね」

ルリちゃんと手を繋いで歩き出して行く。

隣にはクロノが居て、そして子供達が居る。

血の繋がりよりも、大切な絆を築き上げていくのだ……幸せになる為に。


正直、ナデシコに残る事が不安だった。

アクアさんがいない生活が寂しいものになると感じていたが、たった二日ほど居ないだけで部屋が寒いと感じられたのだ。

私は弱くなったのだろうかと感じた時、初めて人になったのかもしれない。

アクアさん……いや、姉さんと此処で生きていくと告げられた時、嬉しくてたまらなかった。

まさか……泣くなんて思わなかった、しかも嬉し泣きなど初めての事だった。

姉さんがナデシコに乗った意味なんてどうでも良かった。

正体もそんなに気にはならなかった。

「寂しかったんです、姉さんがいない部屋は」

呟いた言葉を聞いた姉さんは私に微笑んで囁く。

「ふふ、それが人間なのよ。

 寂しいと感じる心がある……貴女は人形じゃない、私の大事な妹のホシノ・ルリよ」

その声が私の心に心地好く響く……嬉しさで胸を温かくする。

繋いだ手の温もりが気持ち好かった。

「さあ、これからルリちゃんはセレス達のお姉さんになるから仲良くしてあげてね」

「……私がお姉さんになれるでしょうか?」

「まあ、失敗する事もあるし、喧嘩する事もあるかもしれないけどね。

 それでもいいのよ、最初からダメだなんて後ろ向きに考えるより、相手ときちんと向き合う事から始めていくの」

「向き合うですか?」

「そう、あの子達だって不安なの……ルリちゃんに嫌われないかと思うとね。

 だから少しずつ近づいていけばいいの。

 自分を見て欲しいなら、相手もきちんと見ないと……これは恋愛でも同じ事よ」

「……恋愛に関してはよく分かりませんが、とりあえずは話し合えということですか?」

「そういうこと♪

 ナデシコで私がルリちゃんと仲良くなる為にした方法もその一つよ」

姉さんの意見を聞いて、姉さんがナデシコでしてきた事を思い出す。

(そういうやり方も一つの手段ですか?

 確かに強引でもなければ、離れ過ぎでもない……少しずつ触れ合っていくやり方。

 姉さんは私を見てくれた……私もまた姉さんを見ていた。

 ではセレス達も私を見てくれるなら、私も同じようにセレス達を見ればいいんですね)

簡単のように思えて難しい事だけど、私は始めようと思う。

(失敗しても大丈夫……間違えれば、姉さんとクロノさんが教えてくれる。

 二人を信じて一歩を踏み出そう……それでいいですね)

不安になって繋いだ手を力を込めると、姉さんは私を見つめて優しく微笑んでくれる。

その笑顔で私の心に小さな勇気の火が灯る。

そして歩き出す……家族になる人達と共に。


目の前のルリちゃんは俺が知るルリちゃんとは違う。

(代償行為かもしれんが、それでも幸せにしたい)

アクアと笑い合っているルリちゃんを見て……そう感じる自分が居る。

(アクアに知られると悲しむだろうな……いや、お説教が待っているか?)

レオンと話し合う度に後ろ向き過ぎると注意される。

(自分ではそう思わないんだが、周囲から見るとそう思われるのだろうか?)

自問自答しても答えなど出ない事は分かっているが、それでも考えてしまうのだ。

(いつか……この感情に区切りがつくといいんだが)

逆行した者にしか理解できないと感じながら、俺は二人の後に続く。

(まあ、余裕があるから感じるのかもな。

 俺はいつも余裕などない状況で選択を迫られてばかりだったから)

ナデシコでの過去を思い出して苦笑する。

かつてのクルーを見た所為で、懐かしくも苦しいのかもしれない。

(しかし、もう一人の自分を見ると、やっぱりダメ人間なのかもと思うと凹むぞ)

複雑な思いでかつての自分を見た。

(俺って本当に朴念仁なんじゃ……いや、そんな事はない……多分……)

そう思っている時に、レオンが声を掛けてくる。

「よぉ、お嬢も元気そうで何より。

 で、こっちがお嬢の大事な妹の姫っちか?」

「……姫っちって私の事ですか?」

不思議そうに聞いてくるルリちゃんにレオンは楽しそうに話す。

「おう、お嬢の妹だから姫っちだ。

 俺はレオン・クラスト、これでもまだ二十代の若手指揮官って奴だ。

 お嬢の子供達はおじちゃん呼ばわりするから、ちょっとブルーが入ったお兄さんだ」

「は、はあ(なんかウリバタケさんに似た雰囲気の……変な人ですか?)」

「ふむ、お嬢の仕込が良ければ、将来美人で気立てのいい姫さんになるぞ。

 クロノが親馬鹿だから、相手の野郎は大変だな、こりゃ」

レオンが楽しそうに話す。

「俺はそこまで過保護でもなく、親馬鹿でもないぞ」

「……何処がだ?」

「そうですね、ちょっと妬けちゃいますね。

 クロノは子供達に甘いですから、ルリちゃんが心配で仕事が手につかなくなると困りますね」

「おいおい、もう少し信用してくれ。

 さすがに凹んでいる所に止めを刺さんでくれ」

ジト目でアクアがクロノを見つめる。

(だって……クロノって子煩悩というか。

 ええ、子供を大事にするのはいいんです……でも、もう少し私を見つめて欲しいと言うか。

 …はっ!、何を考えているの、アクア?

 そんな事では母親失格ですよ)

「う、うう……」

「ど、どうしたんだ、アクア?」

涙目になっていくアクアに俺は焦る。

「分かってねえようだな。お嬢はお前に構って欲しいんだよ。

 この二ヶ月、離れ離れだったんだろう。

 姫っちのおかげで寂しくなかったけど、側にいる時くらいは甘えたいんだろ」

愉快愉快と笑うレオンにアクアは黙りなさいと言う意味合いの視線のビームを放つが、レオンは気にしていない。

「そ、そうなのか?」

「えっ、えっと……その…まあ…………はい」

挙動不審に視線を彷徨わせていたアクアが消え入りそうな声で顔を赤くして俯いている。


「馬鹿だなぁ、寂しいなら言えばいいのに」

クロノさんが姉さんを優しく抱きしめているのを見ながら、私はレオンさんに聞く。

「あの二人って、いつもああなんですか?」

「おうよ、あれが火星名物のバカップル第一号だ。

 姫っちも馬に蹴られん様に気をつけろよ」

姉さんが甘える光景にチクリと胸が痛くなる。

(もしかして嫉妬ですか?……そんな趣味はない筈なんですが)

「ん、大事な姉ちゃん取られて、独占欲が顔を出したのか?」

「うっ、……そうなんでしょうか?」

にやけるレオンさんの声に私は顔を曇らせている。

「ちなみにセレスとラピスも姫っちと同じように怒る時があるぞ。

 パパを独占しちゃダメ――とか、ママは私の――とかな」

その一言に私のプライドはダメージを受けている。

(セ、セレス達と…同レベルですか……)

「オッ、痛恨の一撃だったか?

 まあ、気にすんな。姫っちはこれから大人になるんだから」

くくくと笑われながら、私はレオンさんと話す。

「やっぱり子供なんでしょうか?」

「まあ、大人でもないし、子供というには冷めているってとこか。

 何にせよ、姫っちはこれから火星で暮らしていくんだろ。

 なら自分が望む大人って奴を目指せばいいさ……違うか?」

「そうですね、そこから始めないといけないんですね」

「そういうこった」

この人はマシンチャイルド―ホシノ・ルリではなく、アクア・ルージュメイアンの妹のホシノ・ルリとして見てくれている。

そう思うと嬉しいと感じる私がいた。

「いい面構えになってる。

 人形じゃない……生きようとする人間の顔だ。

 お嬢も新しい家族が増えて嬉しいだろう?」

「ええ、大事な妹ですから立派に育ててみせますよ」

「そういうのはそんな格好で話していては威厳がなくなるぞ」

レオンさんがニヤニヤと笑いながら、クロノさんに抱きついている姉さんに話す。

「いいんです、クロノは私の力の源なんです。

 こうやって補給しているんです」

拗ねるような言い方で姉さんはレオンさんに抗議している。

クロノさんはといえば、姉さんを優しく受けとめて苦笑している。

「さて、ルリちゃん。俺とアクアはもう二、三日したら一度地球に行く予定なんだ。

 だから此処での生活について分からない事があれば、ラピス達か、マリーさんに聞いて欲しい。

 すぐに帰ってくるけど、俺もアクアも火星での仕事で忙しいからね」

「地球へですか?」

「ああ、ネルガルの非合法実験施設からIFS強化体質の子供達を救出するのさ。

 だから帰ってきたら、ルリちゃんの負担を増やすかもしれないけど……ゴメンな」

胸中に複雑な思いがあるのだろうと私は思う。

(悪い人じゃない……怖い感じはしますが、姉さんが好きになった人です。

 多分、優しさを隠す為に黒い服でいるのかもしれません。

 優しいだけじゃ、誰も救えない……と姉さんが以前に話してたんです。

 この人も傷付いても立ち上がってきた……強い人なんでしょうね)

私の頭を撫でるクロノさんの大きな手が印象的だった。


二人が仕事で火星を数日離れる事になり、私は妹になるセレス、ラピスと弟のクオーツとエドワード邸で暮らす事になる。

「ルリ姉ちゃんってさ、おしゃれとか気にしてないの?」

ラピスが不思議そうに聞いてくる。

セレスも同じ思いなのか、私を見ている。

「服なんて、機能性さえ良ければ問題ありません」

はっきりと答えると、二人は何故か呆れた様子で私を見ている。

「なんかおかしい事を言いましたか?、マリーさん」

二人の様子を見て、側に控えているマリーさんに尋ねると、

「……色々問題がありますが、今ルリさんに話しても理解できないかもしれませんね」

こめかみに浮かぶ皺を解きほぐすように指で擦っていた。

「ルリさんは自分を見せるという事に無頓着なようですから」

「見せるですか?」

「はい、綺麗な自分を見て欲しいとか、誰かに見せたいという気持ちがありませんので」

「必要ですか?」

「ええ、必要ですとも。誰かに見られるという事を気にする事で、自分を見つめ直すことも出来ます。

 ルリさんもラピス達も必要以上に注目を集める事になるでしょうから、見栄えという事も考えないといけません。

 望んだ事ではございませんが、そういう点も考慮しないと」

マリーさんの言いたい事はなんとなく理解した。

マシンチャイルドという事なのだろう……その容姿ゆえに目立つから気をつけろと注意してくれているのだろうと思う。

(元々、目立つならいっそ目立ったままでいろという事ですか?)

周囲を警護してくれるガードの皆さんに分かり易いようにしろという事なんだろうかと考える。

……後でマリーさんと二人っきりで話すと苦笑いされた事が……不思議だった。

「クオーツくんのバカ――――!!」

「またですか……困ったものですね」

サラちゃんの叫びが聞こえてくるとセレスとラピスが立ち上がっていた。

「「ちょっと行ってくるね、マリー」」

「はい……クオーツの方は私が参りますのでご安心を」

この光景も大分慣れてきた……慣れというものが恐ろしいと感じる自分がいるのは新鮮だった。

「……大変ですね、グエンさん」

もう一人、側に控えていたグエンさんに話し掛けると、

「気にしたら負けだぞ……慣れる事が肝要だな」

何処か諦観したように私に答えていた。


「クオーツ、もう少しサラちゃんに優しくしてあげないと」

「ええ〜、サラちゃんだけを大事にするのは無理だよ〜」

「無理って……サラちゃんが嫌いなんですか?」

「ううん、大好きだよ。

 でもミリアちゃん達も大事な友達なんだもん」

マリーさんがクオーツに注意しているのを、側で見ている。

朴念仁というのが、この子を見て……理解できた。

同じ家で生活しているサラちゃんが好きな事は重々承知している。

それでも他の女の子達も大事にしているので、サラちゃんが焼き餅を焼くのだ。

そういう事を繰り返すと普通は嫌われる筈なのに、何故か?クオーツは嫌われていない。

喧嘩ばかりしているが、サラちゃんを大事にしているのだろう。

サラちゃんもその事をなんとなく分かっているから、嫌いになれないのかもしれない。

そんなふうに私は思っている。


二人が帰ってきた――セレス達より幼い四人の子供と一緒に。

「姉さん、この子達って?」

「ええ、みんな……貴女の資料から生まれた子供よ」

泣き疲れたのか、涙の後が顔に残っていた。

複雑な感情が私の胸に渦巻いている。

(私が居たから、この子達は苦しんだのでしょうか?

 私という成功例がなければ、この子達もラピス達も苦しむ事はなかったのだろうか?

 どうして命を弄ぶ事が出来るのだろう?)

「ルリちゃん、思いつめてはダメよ」

アクア姉さんが優しく抱きしめて話す。

「貴女の所為じゃないの。

 だから自分を傷つけるのは止めなさい」

「……でも、こんなの…悔しくて、悲しいです」

胸が痛い――人体実験という言葉が私に痛みを与えている。

知ろうとしない事は罪だと姉さんが言った事を今……感じている。

(私という成功例が出来たという事実が……より優れた存在を作ろうと研究者が考える事は当たり前のことだった。

 どうしてその事に気付かなかったんだろう)

周囲に無関心だった事が悔やまれる。

分かっていても出来る事はないかもしれないが、知っていれば何か出来る可能性も少しはあるのだ。

「泣くのはお止めなさい。

 ルリちゃんはこれからしなければならない事がたくさんあるの」

アクア姉さんが泣いている私に諭すように話してくる。

「この子達を憐れんではダメよ。

 何故ならこの子達は私とクロノが幸せにするから。

 だからルリちゃんにも協力して欲しいの……この子達のお姉さんとしてね」

「お姉さんですか?」

「そうよ、この子達に家族の温もりを教えてあげて欲しいの。

 この火星でみんなが笑って暮らせるようにしたいのよ……ダメかしら?」

アクア姉さんの声に私は首を振って話す。

「……ダメじゃないです。

 お姉さんがくれた温もりを……私もこの子達に教えてあげたい。

 道具じゃない、人として生きて欲しいです」

この思いは決して譲れないと私は思う。

(たった二ヶ月でしたが、それでもアクア姉さんは大切な事をたくさん教えてくれた。

 今度はアクア姉さんとクロノさん、そしてラピス達と一緒に教えたい)

眠る――私にとっては妹達である子供達を見ながら、私は強くなりたいと思う。

(こんな理不尽な事を二度と行わせない為に。

 そして大切な家族を守りたいから)

「力が欲しいです。

 こんな理不尽な行為を止めさせる……力が」

「なら、私が教えてあげるわ。

 その代わり……条件があるけど良い?」

姉さんが真剣な顔で私に聞くと、私はすぐに頷く。

「条件はたった一つ……私が教えた力でむやみに人を傷つけないように注意すること。

 力っていうのは使い方次第で際限なく人を傷つけていくの。

 だから力を使う時は常に注意して欲しいの……ルリちゃんが今感じる痛みと悲しみを他の誰かに感じさせないようにね」

姉さんが悲しそうな顔で、諭すように語りかける。

その顔に私の胸に痛みが走る。

「……力の使い方って難しいのですか?」

「ええ、とても難しいの。

 安易な気持ちで簡単に使うと後で必ずしっぺ返しを喰らうのよ。

 だから知らないうちに誰かを傷つける事もあるから、気を付けないといけないの」

そう話すと姉さんは私の手に自分の手を重ねて話し続ける。

「私の手って血だらけなの。

 勿論、後悔なんてしてないけど、ルリちゃんには血に染めて欲しくないっていうのが本音よ。

 だけど大切なものを守りたいって願う以上は、傷付く事もあるし……自分の手を汚す事もある」

「綺麗事ではないのですね」

「そうなの、相手だって大事なものを失いたくはないと思っている事もあるの。

 だから力を使うのは最終段階にして、分かり合えるように話し合う事から始めて欲しいの。

 無論、分かり合えない相手もいるわ。そんな人達を相手にする時は仕方ないと思うけど……。

 それでも暴力という形で使って欲しくないって思うのはいけない事かしら?」

「多分、間違っていないと思います」

真っ直ぐに私を見つめて話すアクア姉さんに、私は目を逸らさずに見つめる。

アクア姉さんはいつも大事な事は私の目を見て、向き合って話す。

私が理解しているのか、見極めているのだ。

理解していないと判断すると、様々な角度から自分の考えを述べて私に考えさせる。

安易に正解など教えずに私に考えさせる事で判断力と理解力を鍛えているのかもしれない。

(おそらく、自分に何かがあった時に、私が自分で行動して生きられるようにしているのだと、ミナトさんは話していた。

 戦場に立つ以上、絶対などという言葉はないのかもしれない。

 私を鍛える事で万が一の備えをしているのでしょう)

常に最悪の事態を想定して、動揺しない様に気を付けるのが大切な事だと話してくれた。

(力を持つ危険性を幾度も話してくれました。

 それを理解した上で聞かれているのでしょう……ならば逃げてはいけないし、怖れてはいけない)

目を逸らせば教えてくれないと、私は判断した。

やがてアクア姉さんは溜め息を吐いて話す。

「ここで楽な生き方も出来るのに……茨の道を歩もうとする…貴女は馬鹿です」

「それは姉さんも同じでしょう。

 私が馬鹿なのは姉さん譲りです」

「そうかしら?」

「そうです」

「なら、私が教えてもらった事を全て教えてあげるわ。

 前に話したでしょう、「知らない事は恥じゃない、知ろうとしない事は罪だと」

 これって私にたくさん大切な事を教えてくださった先生の言葉なの。

 貴女にも大切な事を一杯教えるわ……そして立派な淑女になりなさい」

「はい!」

アクア姉さんの声に私はすぐに返事をする。

(立派な淑女になれるかは分かりませんが、私はこの火星で家族と共に幸せになるために生きていく。

 その為に必要な事を教えてもらいます、姉さん)

私はその誓いを胸に秘めて、姉さんから学ぼうと思う……守りたいものを守る為に。

……姉さんはそんな私に微笑んでいた。

その笑みは温かく優しい顔だった。









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EFFです。

時系列は第三十二話の後くらいですかね。
前史ではルリちゃんは他のマシンチャイルドの事は知らなかった。
劇場版でハーリー君に会うくらいだった筈です。
当然、非合法な生まれで酷い扱いを受けていたラピスの事など知ってはいないでしょう。
このSSではクロノの逆行でルリちゃんは知って行く事になります。
自分よりも年上のマシンチャイルドのアクア?と出会う事で成長していく。
そして同じ存在であるラピス達と出会い、守りたいと思う感情が出てくる。
守りたいが故に力を欲し、学ぼうとする過程を書いてみました。

それでは本編でお会いしましょう。



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