奇しくも戦闘装甲に換装した零号機の稼動実験がラミエルの襲来と重なったのは歴史の修正力かとリツコは埒もない事を考えていた。

「実験中止だ」
『私が出ます』
「ダメだ、まだ戦闘に耐えられん」
『問題ありません』
「命令だ」
『……はい』

この後の展開を知っているレイは初号機の代わりに零号機で加粒子砲を受け止めようと思っていたが、ゲンドウに強硬に反対されて不満だった。
スタッフは息子のシンジは訓練もロクにさせずに戦場に放り出したのに、レイを庇うゲンドウに憤りを感じていた。

(リンは私が守りたいのに)

リンはレイにとって得難い友人という存在になっていた。彼女の為に力になりたいという願いがレイにはあった。

『葛城一尉……威力偵察を』
「そんな事は私が決めるわ、レイ」
『ですが……』
「黙って見てなさい。日向くん、状況を」

ミサトはレイまで自分の領域に口出ししてくるなんてと腹立たしく思う。

「は、はい。現在、第三新東京市に侵攻中の使徒ですがUN軍、戦略自衛隊の双方は通常火器の効き目がない為に……」
「攻撃はしてないのね」
「……はい」

言葉を濁した日向を気にせずにミサトは画面の使徒を睨みつける。

「今度は八面体ね」
「どうやって浮いているのかしら……ATフィールドの応用?」
「サードダッシュは?」
「後10分で到着します」

青葉から報告を受けたミサトはリツコに確認する。時間通りにリンが到着して発進準備は進んで行く。

「リツコ……初号機はすぐに出せる?」
「出せるけど……偵察しないの?(はあ、せっかく警告したのに)」
「その為に出すのよ」
「ダミーバルーンを用意してるんだけど」
「そんなの必要ないわ」
「……言っておくけど」

区切るようにしてリツコはミサトにニッコリと笑みを浮かべて告げる。

「損害出したり、リンに怪我させたら……私の実験に付き合ってもらうわよ」
「ひゅ、日向くん――ダミー使うわよ!」
「りょ、了解!」

リツコの実験――その言葉にミサトは一瞬にして作戦を変更する。
と、隣に居るリツコと目を合わせられない……否、合わしていけないとミサトの勘が警告の鐘を激しく鳴らしている。

『出ましょうか、オバサン?』
「や、やめて! 実験はイヤなのよ!」
「失礼ね。ちょっと……ハイになれるだけよ。そうね……日向君が代わりにする?」
「じ、自分も結構です!」

ニヤニヤと笑いながらリンが発進を求めようとするとミサトが慌てて止める。
不機嫌な顔で日向に参加するかと問うリツコに日向は即座に断る。

『副司令に毛生え薬でも作ってあげたら……誰かさんの所為で気苦労が耐えないと思うし、そのうち禿げると思うな。
 それとも……もう手遅れだったりして』
「リ、リン!!」
『何よ、オバサン。
 オバサンだって常々思っていたんじゃないの。
 司令の所為で副司令のストレスが溜まっているんじゃないかって……ストレスの所為で禿げるんじゃないかと』
「そ、そんな事思ってないわよ!」

リンの言葉が発令所に響くとスタッフは視線をある場所――冬月の髪――に集中させる。

「作戦中だ……私語は慎みたまえ」
『……ヅラ?』
「ヅラではない!」
『そう、繊細そうに見えるけど……司令に付き合えるんだから、心臓に毛が生えるほど長い友なのね』

リンのこの一言にスタッフが慌てて冬月から目を外し、顔を戻して作業に集中するが……その肩は震えていた。
司令の相手が出来るほどの人物なのだ。毛が薄くなる訳ないと言われても、冬月ヅラ説を出されて気分がいいとは言えない。

「か、葛城さん、ダミーを出します」
「ええ、出しなさい」

これ以上、危ない話題を続けられるとヤバイと判断した日向は叫ぶようにしてミサトに告げて本題に戻ろうとする。
ミサトにしても自分が冬月ヅラ説を言ったように思われると後が怖いから日向の意図に乗る。

「……ヅラなのか?」
「たわけ……そんな訳なかろう」

隣にいるゲンドウの確認する声に冬月は疲れた声で返答する。

「大体だな。貴様が私に仕事を押し付けるのが悪いというのを自覚しろ」
「……問題ない」
「ユイ君に対する言い訳、自分で考えろよ」
「俺を裏切るのか?」
「自分の不始末くらい、自分でケリ着けろ」
「…………」
「お前は昔から都合の悪い時は全部人に押し付けたな」
「…………」
「一度くらい、自分で片付けろ」

冬月はそれだけ告げると正面の画面に目を向ける。
下ではダミーバルーンの用意が進み、発進が始まろうとしていた。


RETURN to ANGEL
EPISODE:7 ヤシマ作戦(改)
著 EFF


射出されたダミーバルーンが第五使徒――ラミエル――に接近した瞬間、

「も、目標に高エネルギー反応!」
「なんですって!?」
「円周部を加速中! 収束します!」
「粒子砲……光学兵器ね」

ピラミッドの底辺同士を合わせた八面体の姿の使徒からビームが照射されるとダミーバルーンは一瞬にして破裂した。

「で、ミサト。作戦はどうするの?」
「へ?」
「先日言ったでしょう。次の使徒は遠距離戦の可能性が高いから事前に作戦を立案しなさいって」
「え、えっと〜〜」
「呆れた……考えてないのね」

困惑するミサトを見て、リツコは深いため息を吐いて呆れていた。
事前にヒントを与えたのに対策を練らないとはどういう心算なのか……本気で戦う気があるのか、問いたくなる。

「いや、まさか、本当に遠距離戦が来るとは思わなかったから」
「あのね、ミサト。策を練ったけどダメになる時はあるわ。でもいつか使える時があるかもしれないでしょう。
 立案して保存しておけば、良いだけでしょう……作戦を立案するのが仕事なんだからサボらないで」
「ゴ、ゴミン」
「ダミー用意してよかったわ。初号機が壊されていたら作戦に使用出来なくなる可能性もあるのよ」
「そ、そりは困るんだけど」
「いい加減、汚名を返上しようとなさい。さっさと使徒の能力を調べて」
「リ、リツコ、何処行くの?」

発令所から出て行こうとするリツコに聞くミサト。リツコは振り返らずに答える。

「零号機のチェックよ。一機より二機あれば楽でしょう」
「お、お願いね、リツコ」
「ええ、完璧な調整をしておくわ。マヤはここで分析に協力して……結果を送って」
「は、はい」
「それからミサト、作戦立案したら、こっちに回してから司令に出して」
「なんで?」
「技術的におかしな点がないか、先に確認したいのよ。
 いきなりこれを用意しろと言われても対応できないと困るでしょ。
 それから技術部も賛成しているって話せば楽に許可されるから、都合がいいでしょう」
「そういう事なら出来たら送るわね」
「お願いね」

要件を全部告げるとリツコは発令所を出て行く。

「うっし、日向くん始めるわよ」
「分かりました」

気合を入れなおして行動しようとするミサトだがスタッフは不安を隠せない。
リツコが遠距離戦の可能性を事前に示唆したのに対策を練らないという事を聞かされて不安にならずにはいられない。
何故、こんな人が作戦部長なんだという疑問だけがどうしても残り……ゲンドウへの不審が更に深まるだけだった。


「ヤシマ作戦になるのかしら?」
「それで良いと思うけど……一部変更だけどね」
「何を変えるの?」

ケージの片隅でリツコとリン、レイの三人が話し合っている。
整備班達はリツコの指示を聞いているので作業に専念して、順調に零号機の再調整を行っている。

「ポジトロンライフル使える?」
「調整済だけど使用するの?」
「ラミエル姉さんってあの姿だと一箇所だけ死角があるの」
「何処なの?」
「ボーリングドリルのある真下は撃てない。そこでレイの出番よ」
「私の?」

自分の出番と聞いてレイはリンに尋ねる。

「防御じゃないの?」
「それはダメ。零号機が壊れるし、レイが傷付くのは嫌だから」
「……レンジ外から牽制ね」

レイの役割をリツコはそう考える。

「つまり狙撃するまでの牽制なの?」
「私は防御……オバサンに手柄を譲るわ。但しオバサン次第だけどね」
「どういう事かしら?」
「戦自から運用システムも全部借りられるように共同戦線にすれば、オバサンがトリガーを握れるわ。
 オバサンなら自分の手で倒せるならネルフの面子を重要視するかしら…………多分、しないわ。
 私は万が一に備えてATフィールドで足りない三秒間の防御よ」
「なるほどね。確かに三秒間のフォローはリンじゃないと不味いわね」
「ダメ、リンは私が守るわ」

レイは危険な役目は自分がすれば良いと思っているから防御は自分の仕事だと話す。

「ATフィールドの出力は私のほうが上だから……私は大丈夫」
「でも……」
「レイ、今のあなたは予備体はないの……私は友達を失いたくない」
「そうね、リンの言う通りよ。レイ、あなたの代わりはいないの……命を粗末にしても誰も喜ばないわよ」

諭すようにリツコは告げるが内心では柄じゃないのよねと思いながら自分はホント不器用だと苦笑する。

「それにレイが下から加速器を破壊すれば防御しなくてもいいのよ」
「そうね、攻撃する事でリンを守れるわよ」
「……分かりました」
「一応、接近戦用の武器を用意して、加粒子砲が破壊された時点で力の全てを防御に回しながら回復に徹する筈だから。
 それとバッテリーの増設も」
「バッテリーの増設はすぐに出来るわ。それと武器はスマッシュホークとソニックグレイブで良いかしら?」
「上等よ。ホントは……マゴロク・E・ソードだっけ、剣が得意なの。
 お父さんは赤い海から知識を吸収して、ママと戦った時に練習して何でも使えるようになったけどね」
「……碇君は強いの?」

レイはかつての友人であるシンジの事が知りたかったので尋ねる。

「桁違いというか……雲の上の住人。正直、追い着けるか……判んない。
 ママや、ゼル姉さんには追い着けるかもしれないけど……」
「ゼル姉さん?」
「第十四使徒ゼルエルよ。私の師匠でママとタメ張るとっても怖くて強くて頼れるお姉ちゃん」
「確かに覚醒した初号機でないと勝てなかったわね」

過去の使徒戦を思い出して、ネルフの懐まで一気に力技で攻め込んだ使徒だったとリツコは判断する。

「アスカも私も勝てなかった」
「新生して更に強くなっただけじゃなく、黙々と腕を磨いたの。
 ママもライバルだと判断して、暇があれば模擬戦するんだもん……付き合わされる私はもう大変だったんだから。
 二人の相手すると生傷が絶えないし、気を緩めると大怪我するから」

うんざりするようにリンが話す。正直、あの二人の相手をする時は油断すると死ぬ可能性もあるから気が抜けずに往生した。

「なんて言うか……戦乙女と狂戦士を足して、更に二乗させたみたいなものよ。
 二人ともスイッチ入ると手加減しないから……お父さんが止めてくれなかったら絶対死んでたもん。
 と言うよりお父さんが居たから手加減しなかったかも知んないけど……娘相手に手加減なしはヒドイよ」

プーと頬を膨らまして拗ねるリンにレイは途惑い、リツコは常識外の親子に頭を痛めている。

「そりゃあ、強くなれたけど、もう少し……愛が欲しかったわ」
「そんなに強いの?」
「ATフィールドの応用はママが上だけど、出力はゼル姉さんが上。
 技のママに、力のゼル姉さん相手は疲れるし、命懸けって感じになるんだから。
 ホント、周囲の地形が変わるんだよ……ジェノサイドウォールなんて地形が平らになるんだよ」
「ジェ、ジェノサイドウォール?」
「うん、ATフィールドを槍の穂先に集束させて、地面に突き立てると音速の衝撃波を壁みたいに発生さて薙ぎ払うの。
 最低でも二層のATフィールドが展開できないと半端じゃなく痛いの」

リンは近くにあったパイプを掴んで、床に突き立てて薙ぎ払うと振りをする。

「この範囲の向こうの全てが衝撃波で破壊されるの」

突き立てた地点から薙ぎ払いが終わった地点までの扇状の範囲の先が有効範囲だとリンが告げる。

「衝撃波とATフィールドの壁で押し潰すから更地にするのは便利だけどね。
 エヴァサイズでやったら第三新東京市は半日持たないよ」
「そんな物騒な技は……極力使わないで」
「初歩だよ。二人にとってこれが初歩なの」

リンの声にリツコの頬は引き攣っている。ATフィールドを攻撃に転用すると、とんでもない事になると想像したようだ。

「あなたも使えるの?」
「一応、初歩は全部使えるよっていうか……無理矢理、身体に叩き込まれたの」
「他にもあるの?」
「時間は無限にあったから、それぞれ得意技があるよ」
「……そうなの」
「うん、私は勉強中だったからまだ無いけど」
「リ、リン……もしかして母さんにもあるの?」

嫌な予感を感じずにはいられないが、一応リツコは聞いてみる。

「ナオコお姉ちゃんのは戦闘向きじゃないけどあるよ」
「……そう、あるのね」
「聞きたい?」
「何となく嫌な予感がするから……聞きたくない」
「そうだね。リツコお姉ちゃんには天敵みたいな技だから聞かない方が良いよ」

含むような言い方のリンにリツコの興味は刺激を受ける。

「私の天敵か……興味あるわね。聞かせてくれるかしら?」
「ナオコお姉ちゃんがリリンだっていうのは理解してるわね」
「ええ、私とは違うのは判断できるわ」
「今のナオコお姉ちゃん……頭の中、マギが五台くらいあるようなものなの」
「そ、そうなの」

マギが五基あると言われてリツコは驚いている。

「ウル姉さまの能力は知っているでしょう」
「ええ、マギがクラッキングされたのは覚えているわ」
「それの応用で自身の分身をデジタル化して送り込んで、誰にも気付かれずに支配下に置くわ」
「Bダナン防壁は効くの?」
「効かない。物理的に遮断しない限り、あらゆる防壁も通用しない。
 電脳世界においてナオコお姉ちゃんは無敵……ウル姉さまとお父さんくらいしか対抗できない」
「と、とんでもないわね」
「本人は自身のコピーは作りたがらない。対応を間違うと自分とは違う結論に達して敵対しかねないから。
 複製した時点から経験する事で個性が出てくるから思考も変化していく」
「……そうかもしれないわね」

同じ経験をしても微妙に変化するのが人間なのだ。安易に複製を作っても味方になるとは限らない。

「己の敵は己自身なんて面倒だって」
「私もそれは嫌だわ」

ナオコとユイの影を相手にしてきたリツコはナオコ本人を相手にするのは今は避けたいと考える。
試練として立ち向かう時はまだ先であって欲しいと願う。

「よくよく考えると私って母さんとユイさんの作った物を改修しただけなのよね。
 そろそろオリジナルの研究でもしようかしら」
「全部終わったら時間がたくさんあるよ……今のリツコお姉ちゃんなら自由な発想も出来ると思うな」

自由な発想――その言葉は確かに今の自分には当て嵌める事が出来る。
リツコは既に二人の仕事を認めた上で、自分独自の新しい研究がしたいと願えるから。

「レイも全部終わったら色々やってみると良いよ。
 私もたくさんやりたい事があるから一緒にしようか?」
「……いいわ。リンと一緒なら」

リンと一緒に何かをするというのはレイにとっても嬉しい事だった。
このまま行けば、サードインパクトは起きない。そしてレイの心は起こしたいとは思っていない。
リンと仲良く友達として一緒にいたいという願いがレイの中にハッキリと根付いた瞬間でもあった。

「それじゃあ、よろしくね、レイお姉ちゃん♪」
「お、お姉ちゃん?」
「そ、レイは婆さんの遺伝子を基に生まれたお父さんとは異父兄妹だから叔母さんだけど叔母さんなんてレイに失礼だから」
「た、確かにそうなるわ」

レイの出生の秘密を知るリツコはシンジとレイの関係はその言葉がピッタリだと考える。
当然、レイとの関係は叔母と姪になるが、叔母さんと呼ぶにはレイは不適格だと思う。
精神的にレイはまだ幼いし、女性が叔母さんと呼ばれるのは愉快な事ではないと年齢を気にするリツコはそう感じている。

「お姉ちゃんじゃ……ダメ?」
「……いい」
「学校とか人前ではレイって言うけど、リツコお姉ちゃんとか、信用できる人の前じゃレイお姉ちゃんにするね」
「……問題ないわ」

何故か心が温かく……満たされた気分になったとレイは思う。
自分より遥かに強いリンが甘えてくれると思うとレイの中に保護欲というものが湧き上がってくる。

「全部終わったら、もう一人のレイお姉ちゃんもサルベージして何処か遊びに行こうね。
 小さいまま一人でコアにいるのは寂しいと思うから」

リンの言葉にレイはもう一人の自分の事を思い出している。

「……そうね」
「幼いままだから、レイお姉ちゃんの妹みたいな存在だよ」
「私の妹?」
「そうだよ。今は眠っているけど双子みたいな存在」
「私も家族がいるの?」
「うん、だから零号機を傷付ける真似はしないで。
 あそこにはレイお姉ちゃんの家族がいるから……レイお姉ちゃんが守ってあげないと」

自分には家族なんていないと思っていたレイはリンの言葉に衝撃を受けていた。

「自分が予備体に移行した時の記憶ってあるの?」
「……よく思い出せない」

リンに指摘されて、レイは衝撃を受けた状態で上手くまとまらない頭の中で思い起こす。

「魂を二つに分割したの……多分、まだ生きている状態でインストールされたの」
「そ、そんな……」
「でないと記憶がないって理由が説明できない」
「確かにそうね……記憶は記録として残る筈だからおかしいわよ」

リツコもリンの指摘に納得できると考えて支持する。

「多分、仮死状態のままで蘇生させずにインストールしたの。
 今も死の恐怖に怯えて、泣いているのかもしれない……シンクロ出来るレイお姉ちゃんが助けてあげて。
 私でもシンクロ出来るけど……ヒゲがシンクロテストさせないと思うから」
「…………そうね。まだ諦めていないなら不安要素は回避すると思うのが妥当な線だわ」

リツコは、ゲンドウがリンを零号機に乗せるとは思えない。
万が一零号機に細工されたり、中にいるもう一人のレイに接触されると不味いと考えるかもしれない。

「どうしたらいいの?」
「今は何もしなくても良いの。出来る事はただ一つ、零号機のコアを守る事だけよ。
 全てが上手く行けば、サルベージで救い出せるから」
「……分かった、リンの言う通り零号機は私が守る」

もう一人の自分が、家族が零号機にいる――レイにとってそれは重要な事だった。
自分が守るべきものをハッキリと自覚したレイは決意を新たにして戦おうと思っていた。


同じ頃、発令所では使徒を私の手で倒すという暗い感情に囚われている葛城ミサトが目の前の大画面を睨みながら指示を出していた。

「ダミーバルーンを出して」
「了解」

ミサトの指示にダミーバルーンのエヴァ初号機が射出されて、ラミエルに向かって進んで行く。

「高エネルギー反応あり!」

青葉が状況を話すと同時にラミエルからの加粒子砲が一瞬にしてダミーバルーンを貫いていく。

「次っ!」

ミサトの指示に山間部から無人の自走砲が出て来るとすぐさま砲撃を行うが、ラミエルは目視出来るほどの強力なATフィールドで防御すると返す刀で加粒子砲 で反撃する。

「第12自走臼砲消滅!」
「なるほどね」

しばらくするとリツコがケージから戻ってきて状況をマヤに尋ねる。

「ATフィールドは視認出来るほど強力な物を展開出来るわね」
「はい、先輩。攻撃は自動的に迎撃してますけど、威力はエヴァ用のポジトロンライフルより上です」
「現在はドリルブレードでせっせと穴掘りか……どうするのミサト?」

大画面に映るラミエルを見ながらミサトに作戦内容を聞いてみるリツコ。
立案された作戦は既に知っているが、リンの修正案を上手く受け入れさせないと不味いので慎重に伺っている。

「う〜ん、策はあるけど……ウチにあるポジトロンライフルってATフィールドを撃ち抜ける?」
「無理ね。戦自の自走陽電子砲なら可能だけど」
「じゃあ、借りてくるしかないか」
「そうね(ミサトの借りるって意味は強奪と変わらないけどね)」

徴用と聞こえは良いが、結局は特務権限を振りかざして他人の成果を勝手に奪うのと大差はない。
人の思いを踏み躙る行為だが世界を救うという免罪符を振りかざしているミサトはなんとも思わない。
そんな行為が怨みを買っていると理解出来ないから、ネルフは傲慢で敵を生み出し続けている。
リツコはとんでもない組織に入ってしまったと後悔しているし、さっさと逃げ出したい気持ちもある。

「陽電子砲による狙撃作戦なのかしら?」
「まあ、そんなとこね」

自信満々にミサとは口頭で作戦内容をリツコに告げる。
聞かされたリツコはやはりヤシマ作戦かと思うと一部変更させるべくミサトだけに聞こえるように場所を発令所の隅に移す。

「なによ、こんな場所で?」
「一つ確認したいの。この陽電子砲だけど、改造してエヴァで狙撃させるの?」
「そうだけど」
「何でそんな面倒な事をさせるのよ」
「め、面倒って?」
「戦自と共同作戦にして運用システム全部借りたらミサトの手で仕留められるわよ」
「ホ、ホントなの?」

リツコの意見にミサトは驚いた様子で聞き返す。ミサトにすれば、自分の手で倒せると言われたら俄然興味が出る。

「冗談言うほど暇じゃないわ。ミサトの作戦だと多分、成功率10%切るけど、一部変更すればもっと跳ね上がるわよ」
「そ、そんなに成功率低いの?」
「使徒が高エネルギーに反応しないと思うの? 多分反応して先制攻撃を喰らう可能性が高いわ」
「そ、そんなのやってみなきゃわかんないでしょうが」
「出たとこ任せはやめて。防御はSSTOから代用する盾を製作するけど長くは耐えられないわ。
 先制攻撃に失敗すれば防御させる気でしょうけど、再チャージまで持たないと予測する」
「で、リツコの代案は?」

技術的な視点でリツコから難しいと言われてミサトは不満ながら聞いてみる事にする。
リツコの意見を聞くのは自分の作戦で倒せないから不満だが、自分の手で倒せるという点はとても魅力的なのだ。

「さっきも言ったけど、共同作戦で戦自の面子を上手く持ち上げて運用システム全部を借りるの。
 ミサトが頭を下げるのが嫌なら日向君にでも行かせればいいでしょう」
「……そうね」
「要はミサトの手にトリガーがあればトドメが刺せるわよ。
 多分ね、あの使徒だけど下には撃てないと思うの。撃てれば一気に侵攻出来るけど、してないから」
「……ありえるわね」

盲点だったとミサトは考える。平面に考えていたから上下を上手く活用しなかったと考えている。
もっとも指揮経験の乏しいミサトでは航空兵力を上手く活用する事は出来ないから上下の概念はないだろうとリツコは思う。

「で、零号機で攻撃中の使徒に下からポジトロンライフルで加速器を破壊して、ミサトがとどめでどう?」
「あのガキはどうするの?」
「ミサトの防御よ。万が一の時は接近戦させるけど上手く行けば必要ないわ」
「……悪くないわ」

ミサトにすれば、リンに妨害されないと思うと俄然、自分の手で使徒を倒せる事が出来ると考える。

「この場合、チャージ中に攻撃が始まるとマギに再計算させてから発射させるからリンにはATフィールドで防御ね」
「こっちの攻撃がバレるというの?」
「可能性は高いと考えるのは間違い? それに大電力だから何度も耐えられないと判断するけど」
「つまり一撃で決めろと?」
「そうよ。無駄撃ちは無しの一発勝負ね」
「面白いじゃない、一発で決めてやるわ♪」

自分の願いが叶うと思うとミサトは機嫌良く作戦の変更を決定する。
今度こそ誰にも邪魔されずに自分の手で使徒を葬る事が出来ると思うと嬉しくて嬉しくてハイになってしまう。
そんな道化師のミサトの様子を見てリツコは、

「無様ね」

と伝家の宝刀の一言を誰にも聞こえないように呟いていた。

「日向君、悪いけど戦自との共同作戦で行くから陽電子砲の借受を頼むわね」
「共同作戦ですか?」
「ええ、向こうの陽電子砲を借りるから面子を立ててあげないとね。
 共同作戦なら向こうも文句は言わないし、運用システムもテスト出来るから向こうも協力してくれるわ」
「確かに一から作るより楽ですね」
「そうよん♪ これならエヴァ二体も別々に保険として配置できるでしょ」
「了解しました。それでは自分が行けば良いんですね」
「ええ、これから細部を詰めてから司令に報告するけどね」

司令への報告という最大の関門があるが、リツコが言うには初号機の被害がゼロになるなら許可するだろうと話している。
それを聞いてミサトは作戦の成功率を正確に出して欲しいとリツコに頼んでいる。

「出たわよ。ネルフ単独で行う作戦は8.7%ね。
 マギの分析では賛成2、条件付で賛成1でネルフの損害は大きいわね」
「……思ったより低いわね。修正案はどう?」
「全会一致で賛成。成功率73.21%。被害も最少で抑えられるわ」
「うっし。日向君、悪いけどプライドは捨てて説得して、あの子達、二人の負担を軽くしたいから。
 女性の私が言うより角が立たないと思うのよ」
「分かりました」

何となくミサトの言い分が日向には理解出来る。女性士官で自分達より下の年齢のミサトの命令では不満に思うかもしれないが、男性の自分が頭を下げればまだ マシかもしれないと考える。
子供二人に危険な事をさせているのだ。自分が頭を下げて上手くまとまるなら我慢しようと日向は思っている。

(ホント、偽善者ね。自分が格上だと思っているから格下の士官に頭を下げたくないのが本音じゃない……ミサト。
 そして自分の手で使徒を倒せるなら、ネルフの面子も気にしていない……随分、身勝手ね)

ネルフの存在意義は単独での使徒との戦いでもあるのに自分の願いを優先して、その意義すら放棄している。
日向あたりは感激しているようだが、リツコは自分の欲望を優先するミサトに呆れていた。


この後、ミサトは司令と副司令を説得して共同作戦という形でヤシマ作戦(改)を敢行する。

「良いのか? 碇」
「損害はない。今はそれで良い」
「戦自が調子に乗らねば良いがな」
「同じ手が何度も通用すると思うのか」
「確かに無理だな。同じタイプの使徒は二度と出ないからな」
「初号機の損害がなければ良い」
「委員会が騒がないか?」
「問題ない。ドイツから荷物が来れば、ほぼこちらの手中になる。
 第一、予算の事で文句を言う以上は被害を最少で済ます事に文句を言われる筋合いじゃない」
「……槍はどうする?」
「リリスに使わねばならん」
「時間の確保は必要だから仕方ないが……リリスが納得するかね」
「…………問題ない。赤木博士に説得させる」
「……赤木君も大変だな」

自身で説得させるのは無理だと考えるゲンドウがリツコに任せると話す。
冬月は此処にはいないリツコの負担を思うが、自分がしないからまあいいかと考えている。
リリスにロンギヌスの槍を使用するのは自分達は仕方がないと思うが、リリスが協力するかは判断できない。
端末であるリンに言い聞かせるのは自分達では荷が重すぎるから、比較的懐いているリツコに説得させるのは妥当な線だと思っている冬月。


「電力を日本全体から集める……周波数の調整も大変なんだけどね」

リツコはアバウトな作戦内容を修正しながら、作業を進めている。
ミサトはこの作戦で自分の手で仕留めると意気込み……真面目に作業を見守っている。

「救いは陽電子砲の調整はしなくても良い事かしら?」

戦自も共同作戦という形で一応の面子が付くので技術者を大量に送り出してくれた。
ネルフの技術者と共同で組み立てを行い、運用システムもマギとリンクさせてより精度の高いものへと改良している。
臨時発令所の席に座りながらリツコは戦自からの出向者に礼を述べる。

「今回は本当にお世話になります」
「いえいえ、こちらも大電力での運用という滅多に出来ない運用データーが得られますから悪くないです」
「そう言って頂けると本当に助かります」
「此処だけの話なんですが……ウチの新型機の武器に運用しようかと上層部は考えているんで渡りに船だったんです」
「そうですか……確か、陸上戦艦トライデントでしたか?」

前回はそんな兵器があったと思い、探りを入れてみるリツコ。ミサトは少し興味を持ったのか、聞き耳を立てている。

「それは廃案になりました」
「あら? もっといい案が出来たんですね」
「みたいです。上は相当乗り気なんですよ」
「結構な話じゃないですか。日重が協力するんですか?」
「そこまでご存知なんですか?」

リツコがかなりの情報を得ていると思い、ネルフの諜報もやるではないかと判断している。

「JAでしたか……核動力搭載はちょっと不味い気もしますが使えそうなんですね」
「核は使わないそうで、超電導バッテリーとシステムの開発に成功したらしいんです。
 なんでも容量は桁違いで、コンパクト化に成功したらしいから後は量産化を急いでいる所だそうです」
「景気のいい話になりそうですね。ネルフとしても超電導バッテリーは内蔵電源に活用したいものですわ」
「これで日本の景気も、もう少しマシになると良いんですが」
「全くですわ」

和気藹々と話すリツコにミサトは焦れるような視線で見つめている。

(何、ノンキに話してんのよ。確かに今回は共同作戦だけど、次からはまたウチだけで戦うんだからね)

ミサトは自分の手で倒せるから仕方なく協力させてやっているとしか思っていない。
だからリツコのようにフレンドリーに話をしていると苛々するのだ。

「これってオフレコにして欲しいんですが、エヴァンゲリオンが人造使徒ってホントなんですか?」
「あら、何処からそんな噂を?」

周囲のネルフスタッフが硬直している中でリツコは平然と流して質問を質問で返している。

「変な話ですけど、あのATフィールドは何なのかという話題が良く議論になるんです。
 使徒が使えるものを、何故エヴァは使えるのかという疑問が出るんで技術者の一部ではこう結論付けたんです。
 "毒には毒を持って制す"と……もしかしたらエヴァは人が作り出した人造使徒じゃないかと」
「あらあら、根も葉もない噂ですわね」
「私自身は生き残る為に何でも使うというのは間違いじゃないと考えますよ。
 要はサードインパクトを起こさなければ問題ありませんし、技術者としては未知なる可能性は興味深いです。
 まあ、無理に聞く気はありません。機密というものはどの組織でもありますからね」

そう告げると別の話題に変えてリツコと技術者同士の意見交換を始めている。
ミサトはそんな二人を見つめながら、諜報部は何をやっているのよと怒鳴りたくなっていた。
機密が駄々漏れという事態にネルフスタッフは動揺し、エヴァによるサードインパクトという可能性を指摘されて不安になっている。
戦自からの技術者達は否定しないリツコにエヴァが人造使徒だと確信すると同時に上層部が危惧するネルフとその上位組織、人類補完委員会によるサードインパ クトの可能性を考えている。
当面は諜報関係者が忙しくなると両者は思っている。
ネルフは機密を洩らせないという守りから、戦自はエヴァの機密を知って対策を練らねばならない。
今回は協力関係にあるが次は戦う可能性もあると戦自は考え、ネルフは対人など想定してないから……考えていないというよりも対人経験の少ない葛城ミサトに は思いつかなかった。
両者とも腹の内は見せないようにしながら順調に作業は進行していく。


「予定通り、ヤシマ作戦(改)になったか……ホント、自分の手で殺せるなら何でも利用するわね」

仮説の更衣室でリンはミサトの身勝手さに呆れている。
レイは予想到達時間に合わせて、下で待機中だった。
プラグスーツに着替えてリンは時間を一人で待っている。

「独りは寂しいよね……お父さんはこれを千年耐えたんだ」

リツコもレイもいないという時間が寂しいと感じてしまう。
周囲に人がいるから不安は特にないけど、お父さんは人の存在すら感じられない赤い海の世界で独りで居たと思うと本当に凄いと感じてしまう。

『リン、そろそろエントリープラグに入って』
「了解」

手元の通信機からリツコが指示を出す。
リンは気持ちを切り替えて戦いに臨む……戦いに迷いを持ち込む事は死を意味するとママが何度も真剣な顔で告げたから。
いよいよヤシマ作戦(改)の始まりだった。


仮説発令所では時間通りに作戦が始まる。

『只今より、0時00分00秒をお知らせします』
「作戦スタートです!」

時報と共に、日向が告げる。

「ミサト、日本中のエネルギーをあなたに預けるわ」
「任せて、外しはしないから」

リツコからの報告にミサトは陽気に答える。バイザー型の照準器を取り付けて真剣な表情で照準を見つめている。

「第一次接続開始!」
「第1から第803間区まで送電開始」
「電圧上昇中。加圧域へ」

発射シークエンスが開始されると、仮説発令所の中は一段と緊張と喧騒に満たされる。

「全冷却システム、出力最大へ」
「温度安定、問題無し」
「陽電子流入、順調なり」
「第二次接続」

『全加速器、運転開始』
『強制集束機、作動』
『全電力、二子山増設変電所へ』
『第三次接続、問題無し』
(――来る……本気の一撃が来るね)

リンはラミエルお姉ちゃんの明確な攻撃の意思を感じていた。
確実に高エネルギーを集めている場所に砲撃を行おうとしているとリンは思う。

『来るわよ! 再計算の準備を始めて。
 レイは予定通り下からお願い』
『分かったわ』

リンの通信と同時にラミエルの加速器が反応している。

「使徒、加粒子砲の発射体制に入りました!」
「ミサト、良いわね。先に撃たせてから攻撃よ!」
「分かってるわ」
「レイ、リンが受け止めると仮想照準をセットして射撃、加速器を狙って」
『了解』

リツコが一通りの指示を出すと同時にラミエルの加粒子砲が陽電子砲に向けられた。

「リン!」
『大丈夫、任せて』

初号機は盾にATフィールドを纏わせて完全に加粒子砲を受け止め、徐々に周囲の影響のない部分への受け流しを始める。

『最終安全装置、解除!』
『砲撃システムスタンバイ!』

自走陽電子砲の安全装置の表示が切り替わる。

「地球自転、及び重力の誤差修正プラス0.0009」
「電圧発射点まで、あと0.2」

限界まで力を振絞る変圧器は火花を散らし、ケーブルは各所から煙を吹き上げる。

「第七次最終接続。全エネルギー、陽電子砲へっ!」
「レイ、始めて!」

リツコの指示にレイはポジトロンライフルを仮想照準に従って発砲する。
零号機から撃ち出された陽電子は加速器に命中して、ラミエルの身体を揺らす。

「再計算、完了しました!」
「これで終わりよ」

マヤの言葉を聞いたミサトは照準が完全に合わさった瞬間にトリガーを押した。
零号機のポジトロンライフルより遥かに大出力の陽電子砲が一直線にラミエルの身体を貫き、ドリルブレードを自重で折り……その巨体の地響きを聞かせながら 第三新東京市に落下した。

「パターン青、反応ありません」

青葉の報告にスタッフ全員が作戦の成功を知り一息吐いている。
ミサトは願いが叶った事に満足して笑みを浮かべている。

『初号機、使徒の殲滅を接近して確認するわ。ついでに残骸を搬入口に移動させるね』
「お願いするわ。これで貴重なサンプルが手に入るわね」
『ある程度、解体して降ろすよ』
「マヤ、映像をこっちに回して。
 リン、解体の指示を出すから従って」
『いいよ』
「先輩、映像回します」

送られてきた映像からリツコは解体の指示を送る。リンはプログナイフで指示通りに解体を始める。

「見事ですな。次の準備の為に無駄なく行動する」
「ええ、使徒はこちらの都合には合わせてくれませんから」

技術者の一人が感心したようにリツコに話す。

「出来れば、サンプルを分けて頂きたいが……あの司令では無理でしょうな」
「そうですね……上の意向でもありますから」
「いえいえ、こちらも陽電子砲の試射が出来たので非常に助かりました。
 電力さえ集めれば、使徒を打倒出来る事も判りましたので新型機の開発の参考になりました」
「それは良かったですわ」
「ええ、ATフィールドを展開、中和可能で年齢制限のない機体……ファントムの出番もありそうです」

技術者の声にネルフのスタッフは驚愕の顔で見つめる。
エヴァのアドバンテージが完全に失ったと予想できるのに……リツコは笑みを浮かべて話す。

「ふふ、それは楽しみですわ。お手並み拝見と言わせてもらっても構いませんか?」
「勿論ですよ。では、その時をお楽しみにして下さい」

そう話すと技術者達は笑みを浮かべて撤収の準備を始める。
今回の共同作戦で陽電子砲の運用データーは揃える事も出来た。新型機にも応用できると思うと大収穫と言えた。

「リ、リツコ……随分、余裕あるけど、大丈夫なの?」

コソコソとミサトがリツコに聞いてくる。

「余裕なんてある訳ないでしょ……向こうのハッタリに動揺してどうするのよ」
「ハ、ハッタリ〜〜?」
「そんな簡単にATフィールドを実用化出来たら苦労しないわよ」
「そ、そうよね。し、心配して損したわね」
「そうね(シンジくん達の嫌がらせの機体名はファントムか……ちょっと楽しみかも)」
「ったく〜イヤミ言う暇あったら、こっちに協力すれば良いのよ」

憤慨するミサトにリツコはからかうように話す。

「でも、本当に出来ていたら……ミサト、失敗したかもね」
「なんでよ?」
「だって、パイロットに志願出来たら自分の手で戦えたわよ」
「……あ」

そ、そうかもとミサトはリツコの指摘で気付いた。もし事実なら自分の手で戦える機体を手にする事が出来るのだ。

「使えるなら徴収しようかしら?」
(ホント、身勝手で意地汚いわね。もっともこれ以上は向こうも情報を出さないから戦場で見ると思うわよ)

冷ややかにミサトの声を聞きながら、戦自が真実に辿り着くと思うと愉快になる。
前回と違い、戦自はゼーレに踊らされずにネルフを攻撃対象として認定して対策を練るだろう。
そしてエヴァに対抗できる機体を量産して立ち塞がるかもしれない。

(でも、リンやレイにアスカが怪我するのは嫌かもね。これもリンと相談して対策を立てないと)

レイが還って来た以上はアスカも同じように帰還した可能性もある。
事態の推移を慎重に見極めねばとリツコは考える。
シンジ達の嫌がらせは既に始まっている……ゼーレも今までのように影響力を維持出来るか分からない。

(命懸けの知的ゲームになるわね。ま、それも楽しいかも……前回の知識を有効に活用しつつ上手く立ち回って見せるわよ)

世界を裏から引っ掻き回すシンジを思うと世界が色褪せていると感じていた自分が馬鹿に見える。
次は何が起きるかと思うと本当に楽しみだとリツコは考えていた。











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どうもEFFです。

いよいよ本格的に内容が変わるかもしれません。
次はジェットアローンの出番ですが……別物になるかもしれません。
エヴァじゃねえと言われると怖いですが、逆行系は情報がものを言うと思うのでエヴァが好きな方は読まない方が良いかも。

ま、そんなこんなで次回もサービス、サービス♪




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