これは、ほんの小さくてささやかな願いから始まりました
ただ純粋な願いだからこそ奇跡が起きたのかもしれません
自分を想ってくれる人を幸せにしたい
自分の事を蔑ろにする人を救いたい
そんなささやかな願いだからこそ世界は優しくなったのかも
それではある奇跡の幕が開きます
RETURN to ANGEL
EPISODE:After World
著 EFF
「はぁ〜」
また溜め息を吐いてしまった。
自分でも感情を持て余していると判っているが……どうしようもなく時間が過ぎていく。
「どうしたら良いのかな?」
生理――次の世代を残すために必要な代謝機能が私の中には残っている。
「おかしいのわね……完全に使徒化したのに」
憂鬱になる。この機能があっても、相手がいなければ何の役にも立たない。
赤い海を見つめても誰も還ってこない以上……人類は死滅したといっても過言ではないのだ。
「……シンジにも残っているのかな」
呟いて自分でも自覚するくらい頬が赤く染まっていると感じてしまった。
「な、何を言ってるのよ! 散々シンジの事を傷付けたのに……」
胸が痛くなる……申し訳ないという感情がどうしようもなく、心を締め付けてくる。
シンジの所為じゃないと判っていたのに……傷付けるようなことばかり罵っていたくせにと今更ながら後悔に苛まれる。
一緒に暮らし始めるようになって二年の月日が過ぎた。
シンジに惹かれる自分と申し訳なさから来る感情ゆえに側に居てはいけないという自分がしのぎを削っている。
「私もシンジも身体だけは大人になったのよね」
形だけ大人というのが今の私達にピッタリの表現かもしれない。
人とのコミュニケーションで精神面が成長すると何かの本で読んだ事がある。
私達は未成熟なまま大人になったものだ。
「悔しいけど……辛い経験をしたシンジの方が大人なんだよね」
私は目指す目標があり、それに突き進むだけだった。
だけどシンジは望んだ訳じゃないままに苛酷な戦場に引き摺り出されて才能を開花してしまった。
「覚悟という言葉さえ教えられず……大切な友人を傷つけ、殺させる。
酷い親としか言えないわね」
親がいなかった私の親に対する幻想を完全に否定する存在がシンジの両親かもしれない。
理想を追い求め、子供に未来を遺すと言いながら子供を戦場に誘う母親。
「吐き気がする……賢い人なら未来を読みなさいよ」
妻を求める事に執着し、息子さえも道具として扱い……傷付ける父親。
「バカじゃないの! 生きてる人間を大事にしなさいよ」
シンジを家族と言いながら自分の目的の為に仕方ないという免罪符を掲げて戦う事を強要する女。
「仕方ないで済まさないで! 家族なら支えなさいよ」
シンジの周りの大人は彼を利用する事しか頭にないバカどもだった。
「誰も彼もが現実から目を背けて虚構の世界に逃げ込む……その結果がこれなわけ!」
真っ赤に染まった海を干上がらせて全部消してしまいたい。
「私じゃシンジを救えないのかな」
胸が痛くて泣きそうになる。
シンジは笑ってくれるが、その顔は本当の笑みには思えない。
「心の底から笑って欲しいの……そうすれば、この痛みもなくなるのに」
空を見上げてしまう。
俯いてしまうと涙が零れ落ちて……止まらなくなる。
泣き顔をシンジに見せて困らせたくない。
もうシンジの諦めきった顔は見たくない……何もかもに絶望したあの顔は嫌なの。
時々、彼女の沈んだ顔を見る事がある。
「ダメだな……僕は無力だ」
全ての使徒の力を得ても結局、僕は変わっていないと思い知らされる。
「彼女を幸せに出来れば……罪滅ぼしになるのかな」
僕の所為じゃないと言ってくれた彼女の真剣な眼差しに救われた。
ただ惰性のままに動いていた僕にほんの少しのきっかけをくれたエリィに報いたい。
「笑って欲しいのに……笑わせる事も出来ない。
本当に僕は無力でダメなバカシンジだよ」
流されるままでは何も救えないと理解したのに動けない。
動く事で彼女を傷付けるのを僕は恐れている。
「役に立たない知識ばかり手にして……どうするんだ?」
自分の身体の事は一度隅々まで調べてみた。
「これ以上は年を取る事はないし……この姿のまま永い時間を生きる事になる。
彼女とずっと二人か……気まずいままで暮らせるだろうか」
お互い遠慮するように気遣う事が増えている。
余所余所しい感覚のままで耐えられるだろうかという不安が頭に浮かんでは消える。
彼女はとても綺麗で輝いている。
「ずっと輝いていて欲しいのに……消してしまいそうで怖いよ」
彼女に惹かれている自分を自覚すると、どうしようもなく怖くなる。
壊れてしまったアスカの姿が脳裡に浮かび……汚してしまった自分の醜さを思い出してしまう。
「……最低だよ。こんな僕だから……世界をダメにしたんだ」
僕の身体にはまだ生殖機能が残っている。
「こんな機能はない方が……良いんだろうな」
彼女を汚す恐れのある機能はない方が安心できる。
「もう失いたくないんだよ……カヲルくん。
僕はまた君のように失ってしまうのかな。
多分、今度失ったら本当に狂うかもしれないし、独りになるんだろ。
それが僕の罪であり、罰なのかな」
僕は不安を隠して、彼女と向き合う自信がない。
この胸の内を曝け出して話せば……楽になれるかもしれない。
臆病な自分を未だに克服できない。
助けを求める事は出来ないし、助けを求める資格は失っている。
「希望は何処にもないよ……苦しいだけさ」
僕を希望と言ってくれた二人はいない……あるのは赤く染まり僕の声を無視する海だけだった。
日に日に口数が少なくなって行く。
お互い遠慮しあって、悪循環を起こしていると判っているのに改善できない。
「私って強くなれたのに……弱くなったのかな?」
マギに向かって話しかける。
使徒の身体と共生していたので劣化がなく今も残っているシステム。
この世界で私達以外に動いている存在に縋っている自分の弱さを恨めしく思う。
「シンジに縋れば良いのかな」
(そうね。シンちゃんは臆病で優しいから)
「誰?」
(赤木ナオコよ……何の因果か、復活したというべきなのか……幽霊なのか)
苦笑しているような響きの思念波に正直驚いていた。
「お願い! シンジを救いたいの……私じゃ救えないから力を貸して!」
(ごめんなさい……ここから動けないから)
藁にも縋るような思いで願う私に申し訳無さそうに声が響く。
(でも、あなたなら救えるのよ)
「無理よ!」
ヒステリックに叫ぶ私に彼女は告げる。
(シンちゃんはね、はっきりと言わないと気付かない鈍チンさんなの。
たった一言で良いの……心の底から想う気持ちを正直に打ち明ければ応えてくれるわ)
「でも、私……傷付けたから」
(大丈夫。シンちゃんは優しいから気にしていないし、あなたを大切に思っているわ)
彼女の声にどうしようもなく頬が火照ってしまう。
「私の事……大切に思ってくれてるの?」
(ええ、あなた、まだ乙女でしょう)
「そ、それは……そうだけど」
女になっていないと言われて恥ずかしくなる。
(シンちゃんね……まだ子供を作る事が出来るの)
「え? ええ?」
頭の中が真っ白になっていく。
もしかしたらと思っていた希望が叶う可能性があった。
「シンジに……家族を与える事が出来るの?」
(あなたが側にいるだけでも救われているのよ)
困った子ねというニュアンスが混じった思念波がどうしようもなく身体を火照らせる。
「シンジの救いになっているの?」
(ええ、自信を持ちなさい。あなたは数少ないシンちゃんの懐に飛び込んだヒトなのよ)
どうしようもなく歓喜の声が全身から溢れ出そうとしている。
シンジの救いになれると思うと落ち込んでいた気持ちから一気に舞い上がってしまう。
(シンちゃんも罪作りね。こんなに可愛い子を悲しませるなんて。
よし! ここはお姉さんが一肌脱ぎましょう♪)
こうして私は赤木ナオコというブレーンを得てある計画を実行に移す事になる。
後から思い返してみると恥ずかしくなる行為だったと思い、ナオコの口封じを即座に決定していた。
特に娘の耳には絶対に入れないように気をつけようと決意していた。
……まさか、ナオコの明るい家族計画なんていう作戦を実行したなんて誰にも知られる訳には行かないのだ。
黒歴史は闇に葬ってこそ意味があるとはっきりと理解した私だった。
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どうもEFFです♪
前置きはリリカルなのは調?で書きながら……中身は痛い系?と思わせてオチを作る。
十八禁、もしくは十五禁バージョンも有りかと思いながら書かない。
もしかして私って極悪人?
アダルトバージョンは出しても良いのか迷いますし、書けるかどうか不安です。
エロじゃねえとか、リビドーが足りないぞとか、言われるとダメージが大きいので。
まあ……反響次第では考慮しますので(あまり期待されると困りますが)
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