(……なんで世界はこうも理不尽なんやろ)

天ヶ崎 千草は天才という才能あるものと凡人との差に……やるせなさを感じていた。

「…………心中お察しします」

隣には桜咲 刹那が今の千草の心情を思いやりつつ……耳に入らないように小さく呟く。

「変やな〜、なんでこう雄々しくというか……全然ファンシーや ないの?」

近衛 木乃香が千草の手解きで初めて作った式神は雄々しいほどの白虎だったが、本人には不評だった。
生まれたばかりの式神もいきなり主からの不評に何処か不満そうな空気を纏わせていた。

「ウチ、師匠みたいな可愛いのが良かったえ」

木乃香にとって式神とは千草が使っているような愛らしい姿がデフォみたいだった。

「…………その……誠に申し訳ありません!」
「あんたが頭下げるこっちゃないえ」

刹那が何とかフォローしようと声を掛けるも千草にはその思いやりが……痛かった。





麻帆良に降り立った夜天の騎士 課外授業

近衛 木乃香の陰陽師入門変?

By EFF




「……贅沢なワガママだな」

エヴァンジェリンの別荘での修行故に近くで見ていたエヴァンジェリンが呆れた様子で話す。

「これだけの力を持つ式神を生み出して何が不満なんだ?」

門外漢のエヴァンジェリンが見ても、木乃香が作り出した式神は力に溢れ……十分見事だと感じさせる強さがある。
エヴァンジェリンが白虎の式神の背を撫で付けて、何が不満なんだと問う。

「む〜〜、うちはこう……かわええ式神のほうがええんや。
 エヴァちゃんかて、チャチャゼロちゃんみたいなカワユイ従者がいるやん」

エヴァンジェリンの疑問に木乃香がむくれた顔で話す。

「チャチャゼロが可愛いだと?」
「そうやで、ちっちゃくて……カワイイえ」

エヴァンジェリンが「何を言っているんだ、コイツ?」と言わんばかりに顔を顰めるも木乃香は全く気にしていない。

「アレがカワイイのか?」

エヴァンジェリンが指差す先にはネギを相手に高笑いしながらイジメみたいな稽古をつけているチャチャゼロの姿がある。

「キャハハハッ♪」
「ヒィッ! ヒィィィ――――ッ!!」
「避ケネエト……細切レダゾ♪」

自身の身の丈よりも長い鉈のような剣とナイフを手に持ち、狂ったように笑う姿は殺戮人形にしか見えない。
聞いていた千草も刹那もエヴァンジェリンの思いと一緒なのか、真剣な顔で木乃香を見つめている。

「ちっちゃくて強くて、ええと思うで」

一応殺すなと指示を受けているチャチャゼロは峰の部分でネギを打ち上げる。

「ヒャッホゥ―――ッ♪ マダマダ俺ノターンハ続クゼ!!」
「あぅ! あぅ!!」

嵌め技みたいに打ち上げられて混乱中のネギにコンボを叩き込み続ける姿には愛らしさを感じ取り難い。

「斬刑ニ処スッテカ♪」
「ひゃっぅ!!」

地面に倒れ伏したネギの顔スレスレのところにナイフを突き刺してビビらせる。

「今日ノトコロハ、コレデ勘弁シテヤルゼ♪」
「はっはい〜〜」

気分爽快という感じで、もし汗を掻けるようなら"いい汗かいたぜ♪"と言わんばかりの空気を醸し出していた。

「…………あれがカワイイのか?」

エヴァンジェリンの不審そうな目に合わせるように千草と刹那の視線が加わる。
ホラー映画に出てきそうなキリングドール然とした雰囲気のチャチャゼロの何処が可愛いのか不思議で仕方ない感じだった。

「そうやで」

再度問うエヴァンジェリンに木乃香は即座に返事をする。

「…………お前は一度眼科に行くべきだな」
「なんや、ようわからんけど……うち、視力はええよ」

エヴァンジェリンが疲れた顔で話す内容に木乃香は不満げに告げ、

「……お嬢さま」
「刹那も苦労してんのなや……」

聞いていた刹那はどうフォローするべきか悩み、千草も感性の違いに苦悩していた。




微妙な空気を滲ませて木乃香は三人の目の前でもう一度式神を出してみせる。

「どうも〜ちびこのかで〜す♪」

三頭身くらいのちっちゃい木乃香が妙に軽い感じで現れる。
式神札の中でも一番簡単でレベルの低い簡易式神を使う練習を木乃香はしている最中だった。

「……こ、このちゃん?」
「は〜い♪ せっちゃん、元気〜〜?」

昔の木乃香を彷彿させる姿に刹那はフラフラと足を進ませて……ちびこのかの前に立つ。

「うわ〜〜い。せっちゃん、せっちゃん♪」
「……このちゃん」

懐かしさを刺激され、頬を摺り寄せて甘えてくるちびこのかを刹那はあっさりと受け入れる。

(なんて言うか…………癒されます)

昔はこうやって仲良くしてたなと刹那が回想しつつ幸せを感じていると、

「あかん! あかんえ、せっちゃん!!」
「ああ〜〜このちゃん!?」

嫉妬心を刺激された木乃香が慌ててちびこのかと刹那を引き剥がす。

「う、うぅ〜〜せっちゃん〜〜」

引き剥がされたちびこのかが小さな手を刹那に伸ばすと、

「お、お嬢さま……ちびこのかがかわいそうです」

刹那のほうも同じように手を伸ばしてちびこのかを求める姿に、

「せっちゃん! まだお嬢さま言 う〜〜」

嫉妬と不満が混じった顔で怒る木乃香の姿があった。

「……アホらしい」
「ホンマやな……」

痴話喧嘩の様相をみせる光景にエヴァンジェリンと千草が呆れた顔で見つめていた。

「…………ちびリィン……さぞ可愛らしいんでしょうね」

四人の給仕を行っていた茶々丸が何処かトリップしたような雰囲気でちびリィンを想像していた。



「う、うぅ〜〜……せっちゃん、そんなにちびこのかがええのん?」

頬を膨らまして木乃香は目の前の光景を涙目で見つめている。

「……癒されます」
「せっちゃん♪ 美味しいね」
「……このちゃん、ど、どうぞ」
「ア〜ン……もぐもぐ……美味しい♪」

刹那が自分のスプーンでオヤツのプリンをちびこのかに差し出す光景が目の前にある。
大きく口を開いてちびこのかは刹那が分けてくれるプリンを美味しそうに食べる。

「……うち、そんな事してもらってないえ〜。
 ずるい、ずっこい……なんでちびこのかばっかりなん?」

拗ねるように木乃香が呟く。
魔力の放出の練習にちびこのかを維持し続けるのは木乃香にとって……キツイものがあるみたいだった。

「ま、今更言うのもなんだけど、刹那のって重いのよね」

呆れるような視線を刹那に向けながらリィンフォースが呟くと、

「そうかもな。重すぎる愛理解を拒むんだろう」

エヴァンジェリンが何度も頷いて納得している。

「な、何を言っているんですか!?」

刹那が慌てて反論しようとするも、

「やはり"刹那"繋がりでしょうか?」

茶々丸の何処か惚けた意見に全員が肯定するように頷く。

「これでもしアーティファクトが七本以上の剣だったら……まさに刹那つながりね」

後日、刹那のアーティファクトが十六本の匕首と判明した為によって、この場に居る一同は刹那の愛が重いと決論付けたのは……お約束とも言えた。

「……なんや、よう分からんけど、重いのは否定できひんかもしれんな」
「ち、千草さんまで!?」

ガン○ム00を知らない千草も納得している事に刹那は衝撃を受けている。

「此処でのあんさんの師匠見ていると……否定できひんえ」
「…………」

千草の尤もらしい言葉に複雑な顔になって反論できない刹那だった。
葛葉 刀子(くずは とうこ)……次が婚期のラストチャンスと思い込み、必死な女性だった。




「…………」

じっと無言で自分の分身とも言えるちびこのかに嫉妬に近い視線を向ける木乃香。
そんな木乃香を見ながら茶々丸は何か思うところがあったのか……リィンフォースに尋ねる。

「リィンさんは式神使えるのですか?」
「え? 確かに出来ない事はないけど……?」
「後学の為に、もし差し支えなければ……見せて頂けないでしょうか?」
「? ま、まあいいけど……」

鬼気迫るというところまでは行かないが、茶々丸が微妙な空気を漏らしながら頼んでくる。
リィンフォースがそんな茶々丸の様子をいぶかしみながら式神を出すと、

「こんにちわ〜ちびリィンです♪」

ちびこのか同様の三頭身くらいの幼いちびリィンが茶々丸の前に現れた。

「…………グッジョブです。ちびリィンさん、プリン食べますか?」
「は〜い、食べる〜〜♪」
「ではご用意いたしますので少々お待ちを」

何処か蕩けたような幸せそうな微笑を浮かべて茶々丸は光の速さの如く瞬時に用意していく。

「む〜〜スプーンが重いです〜〜」

スプーンを持ち上げるのに苦労しているちびリィンに茶々丸が優しく話す。

「ご安心を……私が代わりに…………ア、ア〜ン」

茶々丸がスプーンを持ち、プリンを切り分けてちびリィンに与えようとする。

「ア〜ン…………美味しいね」

差し出されたプリンを口一杯に頬張って幸せそうな顔で食べるちびリィンに茶々丸は、

「…………これが癒しという物なのですね」

何か満たされたような気持ちになってトリップしていた。
ガイノイド――茶々丸、癒しという感情を覚えた瞬間だった。



むぅ〜と頬を膨らませて不機嫌さを隠さずに木乃香は刹那に目を向けている。

「…………(幸せです)」
「すぴ〜〜」

ちびこのかの頭を膝に乗せて昼寝させている光景は木乃香には不満タラタラだった。
そしてその隣でもエヴァンジェリンが茶々丸に鋭い視線を向けている。

「…………茶々丸」
「嫌です」

エヴァンジェリンが何を言いたいのかを察した茶々丸が即座に拒否する。

「……イイ度胸だ」

茶々丸の膝を枕にしてお昼寝中のちびリィンの引渡しを拒否する行動にエヴァンジェリンの額に青筋が浮かぶ。

「……みゅ〜〜」
「あ、あぁ……まさに今私は癒されていると確信しています」

寝言を呟くちびリィンの髪を優しく梳きながら茶々丸は満足げに微笑む。

「グ、グゥゥゥ……さっさと代われ!」

自分もちびリィンを膝に乗せて可愛がってみたいと思うエヴァンジェリンが起こさない程度の声量に抑えて吼える。

「ケケケ♪ ザマァネエナ」
「うるさいぞ、チャチャゼロ」

最古の従者は何時も自分が不利な状況になってくるとチャチャ入れしてくる。

(やはりチャチャと銘を入れたのが……失敗なのか!?)

頼りになるはず?の従者なのに、よくよく考えると主を屁とも思わない言動が多い。

「…………魔力供給を削って、倉庫にでも仕舞っておくべきかな?」
「ソリャネエゾ!? コンナニモ尽クシテイルンダゼ!」
「だったら、もう少し主を敬え!!」

取っ組み合いのケンカに発展しそうな雰囲気の主従に茶々丸が静かな怒りを見せる。

「……お静かに。ちびリィンが目を覚まし ます」

言葉自体はいつもの茶々丸だが、纏う空気は……言い知れようもない翳を醸し出して真っ黒に染まっている。

「……あまり私を困らせるようならば、 ガーリックをふんだんに使った御馳走を用意致します。
 フ、フフフ……姉さんの秘蔵の御酒も処 分しましょうか?」
「ほ、本気か!?」「イ、妹ヨ……ソコマデニ染マッタカ!?」

エヴァンジェリンが驚愕の顔で、チャチャゼロが成長したなと言わんばかりの様子で茶々丸を見つめる。

「……ちゃ…ちゃ〜〜……ちゅき〜〜」

寝言を呟き、甘えてくるちびリィンに茶々丸は蕩けるような微笑を浮かべている。

「…………これが萌えと いうものですか。
 クス、クスクスクス……この幸せを奪おうとする者に慈悲も寛容も容赦も……必要ありません」
「ちゃ、茶々丸!?」

必要とあれば、マスターに対しても裏切りを是と告げそうな気配を振りまく茶々丸にエヴァンジェリンは驚きで震撼する。

「…………壊レタカ、妹ヨ」

チャチャゼロも妹が自分とは違う方向に壊れていると感じて……複雑な気持ちだった。


後日、ちびシリーズの使用を緊急時のみと木乃香、リィンフォースに厳命する千草とエヴァンジェリンだった。

「ま、まあ、私に使う分には構わんがな」

ツンと拗ねるような言い方でリィンフォースに告げるエヴァンジェリンだが、

「フ、フフフ……今夜はマスターの大好きな玉ねぎとニンニクを用いた料理をご用意します」

エヴァンジェリンの死角か ら話を聞いていた茶々丸は……何処までもかっ た。


この夜、真祖の吸血鬼の悲鳴が麻帆良の地に響き渡ったかどうかは誰も知らなかった。


第二、第三のブラック茶々丸が降臨する日は……不明である。
真実は図書館島最深部にあると言われ、誰が書いたのか、未確認の……麻帆良黒歴史書――第三章に記されていた。


ちなみにライトニングバーサーカーに関する記述は第二章だと噂されていた。

また、この書を読むと一ページに付き、寿命を百日増えるらしい。

ただし、一ページ読む毎に……非常に心的ストレスが加算されて、心身ともに疲弊するとの未確認情報が入っている。

結局読んでも寿命が延びる事なく、加速度的に心的ストレスの影響で削られるとも言われている。

大司書長曰く、「発見次第、封印してください」との通達が闇情報として流れている。

この書は決まった場所になく、図書館島内の何処かに突然現れるらしい。

「う〜ん……全く以って、困った本です」

何時も笑顔を絶やさない大司書長クウネル・サンダースを以ってしてもこの本の事を話す時だけは笑みを隠してしまう。

ある意味、呪いの書に近しい性質の本であった。

第四章が、黒木乃香編と言うのは定かではないが……。

また最終章、黒ネギ編まで読みきった強者は……存在しなかった。

人の暗黒面を読み続ける為に、人間不信へと陥る……図書館島探検部でも触れる事を危険視する禁書だった。


―――クス、クス……私の愛は気高きものであります(By 黒茶々丸)





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EFFです。

よくよく考えるとちびせつなは出るけど、ちびこのかって……出ないな。
そんなわけで一つ出してみようかと思い立って書いたけど……何故か、茶 々丸が出てきた(あっるぇ〜〜??)
ま、まあ、これはこれでオッケーと開き直る事にします。

それでは本編も楽しんでください。



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