告げられた事実に少年は驚き 告げた女性はその事に苦しむ
真実を知る事の怖さを知り 逃げるのか立ち向かうのか
それは自分で選択しなければならない
流される事は何もしていない事になるだろう
そのツケは大きく痛みを伴うだろう
僕たちの独立戦争 第十八話
著 EFF
火星まで後数日に迫ったある日アクアは食堂が閉店直前に顔を出した
「アキトさん、とても大事なお話があるので少し時間を頂けませんか。
出来ればホウメイさんも立ち会って欲しいんです。誰か冷静に判断できる人がいて欲しいんです」
「俺はいいですよ。アクアさんが言うからには重要な事なんですよね」
「アタシもいいよ、明日の仕込が終わってからでもいいかな」
「はい、私も手伝いますよ。今日は訓練はお休みにしますから」
三人は厨房で作業を開始したが、ホウメイがアクアを見て
「いい腕だね、プロになれるよ。誰に習ったんだい、基本がキチンと出来てるね」
「……事故でナノマシンを移植した時、記憶の一部をクロノから貰ったんです。
知られたくない事も知ってしまいましたけど、笑って許してくれるんですよ。
私のせいなのに何も文句も言わずにただ優しく苦笑するんです」
「……悪い事聞いたね。だけどそのクロノって奴が許してくれるんだ、気にしない事だね。
気にしちゃクロノを傷つけるよ」
「そうですね、………でもいつも重いものを背負わされるんですよ。
どうしてあの人ばかりなんでしょうか、どうして………………」
泣きだすアクアにアキトは何も言えず、ホウメイは
「なら一緒に背負ってやんな、側にずっといればいいさ。
世界が敵になってもアンタは味方になってやんな。それがアンタの役目だね」
「はい、側でクロノを守りますよ。ホウメイさん」
そう告げると三人は静かに作業を続けた
しばらくして三人はテーブルに座り、アクアがアキトに語った
「まずアキトさんのご両親の事からお話しますが、最後まで落ち着いて聞いてください」
「アッアクアさん、親父達の事を知っているんですか。どういう事なんです」
アキトはアクアに詰め寄ろうとしたがホウメイに止められた
「テンカワ!アクアが言ったろ、落ち着いて最後まで聞けって」
「すっすいません!でも知りたいんですよ、親父達の事を」
アキトは椅子に座りなおしてアクアに聞いた
「オモイカネ、これからの会話は全て記録しないで下さい。
貴方には悪いけどルリちゃんにも内緒にね、あの子にはまだ知られる訳にはいかないんです。
ごめんなさい、友達のルリちゃんの為なの許してね」
『分かりました、アクア。五分前から食堂の映像はダミーに代えます、よろしいですね』
「ええ、ありがとう。オモイカネ、ルリちゃんをを傷つけたくないの……ごめんなさい」
『私にとって貴女も大切な友達ですから気にしないで下さい、アクア』
二人の会話にこれからの話がかなり重大な事だとアキトとホウメイは思った
「アキトさんのご両親はクーデターで亡くなられたのではありません。ネルガルに暗殺されました。
当時アキトさんのご両親はネルガルの研究員で火星のある鉱物の研究をしておられました。
これですが……見覚えがありますか」
アクアは二人の前に蒼い石を出した
「コレ、俺が持っていた石とそっくりですよ。………もう無いですけど」
「何の石だい、珍しい物だね。地球には無いのかい」
「はい、火星で発見されたチューリップ・クリスタルと言われています。
木星蜥蜴のチューリップと同じ成分で出来ています。これのせいで戦争が始まりました。
ご両親はコレの研究中にある技術を知り、それを公開し人類全体で共有しようとしましたが、
それを独占しようとしたネルガルと衝突し、結果殺されました」
「………どうして、どうしてそんな事で親父達が殺されるんですか」
アキトが苦しそうに呟く中、ホウメイが
「これのせいで戦争が始まったとは、どういう意味だい。分かる範囲でいいから教えてくれないかな」
その声にアキトが顔を上げ、アクアを見た
「証拠は無いんですが、木星と地球との間で戦争が始まる前に事前交渉があったんですが、
ネルガルが火星のロストテクノロジーの独占を目論んで、交渉が決裂するようにしたんです。
木星も火星の技術を奪う為に戦争が必要だったのも事実ですが、ここで問題が起きました。
その事をアキトさんに告げる為にナデシコに乗る事も、私の目的の一つです」
「そうかい、テンカワの護衛もアクアの目的の一つだったのかい。………テンカワ聞いてるかい」
俯いて黙り込んだアキトにホウメイが声をかけるとアキトが
「火星のみんなが死んだのは、ネルガルのせいなんですね。
みんなが何かしたんですか、ただ火星で幸せに暮らしていただけなのにどうして………」
静かに泣き出すアキトにアクアが
「アキトさん、アイちゃんとお母さんは無事ですよ。何とか救助できましたよ。
問題はありましたが、アキトさんが助けたんですよ。
ユートピアコロニーの住民全員が死亡した訳じゃありません、生きてる人達もいるんです」
「そっそうなんですか、どのくらいの人達が生き残ったんですか!」
「二万人程ですが、軍の暴挙がなければ七割は救えたんですが悔しいです」
「軍の暴挙ってなんだい、フクベ提督の事かい」
「そうですよ。チューリップに戦艦をぶつけてユートピアコロニーに落としたんです。
それのせいで救助作戦に狂いが出てコンロン、アルカディアの二つにも救助が遅れたんです。
軍はこの事を隠しフクベ提督を英雄扱いして誤魔化したんですよ」
アキトが立ち上がり食堂から出て行くが、その前にアクアは立ち塞がり
「何処に行くんですか、フクベ提督に会いに行くのなら無駄ですよ」
「どうしてですか、アイツが何をしたか知っているでしょう。どいて下さい、アクアさん」
「会って何をします、殺すのなら止めませんが殴るだけなら止めますよ。
殺す覚悟はありますか、アキトさん」
アクアの鋭い視線に押されるようにアキトは下がり、ホウメイに椅子に座らされた
「物騒な言い方だね。そこまで言わなくてもいいんじゃないかい、アクア」
「平和な地球で生きていたアキトさんより、戦場で生きていた火星の人達の方が資格はありますよ。
人の話を聞かないのなら此処で止めてもいいでよ、アキトさん」
淡々と話すアクアにアキトはアクアを睨んだが
「フクベ提督は死にたがっていますから、殺しません。生きて地獄を見てもらいます。
それが火星の復讐です。罪も無い火星の住民を殺したんですからそのくらいはしてもらいます」
この言葉に声も出なかった
「話がそれましたが、これからが本題と言えますね。アキトさんの未来が懸かってますから」
「………俺の未来ですか、別にコックになれればいいんですが問題でも」
「………………このまま行けば、アキトさんはネルガルの人体実験の犠牲者になりますよ。
表向きは世界初の生体ボソンジャンプの成功者ですから」
「ボソンジャンプってなんだい。初めて聞く言葉なんだけど、テンカワが最初とはなんだい」
「これがご両親が発見された技術で、ネルガルが独占しようとしたものです。
アキトさんはどうして火星から地球に行きましたか、五分もかかる事も無く一瞬で着いたでしょう。
それがボソンジャンプです。
画期的な移動技術ですが、生物の移動が出来ないと思われたのですがアキトさんが成し遂げました。
まだネルガルに気付かれていなければいいんですが、ばれたら実験材料ですね」
そういうとアクアはC・Cを掴んで二人の前でジャンプした
「アッアクアさん、何処ですか!何処にいるんですか」
「ここですよ〜アキトさん。後ろですよ」
慌てる二人に厨房の奥にある倉庫からアクアが声を出して戻ってきた
「見ましたか、アキトさん。これがボソンジャンプです、ご両親の遺産です。
アキトさんはこの力で火星から地球に飛んだんです。捜すのに苦労しましたよ〜、
火星の何処かだと思ったんですが、地球にいるとは思いませんでした」
暢気に話すアクアに二人は呆然としていたが、ホウメイが
「驚いたよ、凄いもんだね。でもどうしてアクアがそこまで知っているんだい、おかしいね」
「火星にはテンカワファイルと言うアキトさんのご両親が残してくださった資料があるんです。
それを基に火星独自で実用化に成功したんです。そしてクリムゾン・グループが協力しています。
アキトさんは火星で降りられませんが、万一の時はクリムゾンに逃げてください。
保護してくれるように手配が出来ています。これも持っていて下さい」
アクアはアキトにC・Cとウエストポーチを渡した
「これは何ですか、意味が判らないんですが……」
「そのポーチはディストーションフィールド発生装置です。
一般の方とジャンプする時はフィールドが無いと死ぬ事になりますから使って下さい。
ジャンプはC・CをIFSでエステにアクセスする感じで起動させて、
ジャンプ先をキチンとイメージしてからジャンプして下さい。
イメージが出来ないと何処に飛ぶか分かりませんから、最悪死ぬ事になります。
他に聞くことがなければ、これで全て終わります」
アクアが告げるとアキトが
「……どうしてここまでしてくれるんですか、分からないんですが」
「簡単です。アキトさんのご両親は火星を救ってくれました、その恩を返す為に火星は動いています。
当面は何も知らないフリでいて下さい。
先程のフクベ提督の件のようにアキトさんの何も考えない行動で、
火星の住民全てが死ぬかも知れない事態になるかもしれませんから。いいですね、アキトさん」
「わっ分かりました。普段通りに生活しますから気をつけます」
「ああ、そうだね。アタシも気をつけるよ、テンカワは単純だからね。
その為にアタシも同席させたんだろ、アクア」
「………………すいません。アキトさんがしっかりした方なら良かったんですが………、
ホウメイさんを巻き込んでしまって」
「いいさ、馬鹿弟子の面倒は師匠のする事だからね」
苦笑するアクアに、ホウメイが苦笑しながら答えた
「俺はそんなにダメですか、アクアさん、ホウメイさん」
「ダメだね。周りが良く見えてないし、何でも一人でしようとしてるからね。
人を信じきれてないんだよ。臆病すぎるね」
「そうですね。鈍感で、朴念仁で自覚が全然ないから問題ですね」
「それもそうだね。コイツはまぎれもない女たらしだね、自覚はないみたいだけど」
二人のセリフにアキトは
「俺の何処が女たらしですか、俺はもてませんよ」
と反論したが二人は大きなため息を吐いた
「やれやれ、みんな苦労するね。どうなる事やら………怖いねえ」
「地獄に堕ちますよ、アキトさん。とりあえず修羅場はおきますね、ご冥福を祈りますよ」
「まあ、若いうちは苦労した方がいいかもね。早く覚悟を決めることだね、テンカワ」
「残念です、いい見世物になるのに見物できませんから。ホウメイさんは誰が勝つと思いますか」
「このままじゃ、勝者なしのドローだね。側で見るには面白いかもね」
「あの〜〜何の事か分からないんですが、覚悟って何っすか」
アキトの声に二人は笑い出したが
「教えて下さいよ〜、何が俺におきるんですか。勝者って何っすか」
こうしてアキトが理解できないまま夜は更けていった
―――クリムゾン ボソン通信施設―――
『地球の戦艦が火星に向かっているそうだが、どうする心算だね』
「仰る意味が理解出来ないのですが、何の事ですか。
こちらはアナタ達と違って暇じゃないんですが、分かるように説明して貰えませんか」
呆れたように草壁に答えるタキザワに
『クリムゾンから聞いてないのかね、地球の戦艦が火星に向けて進行している事を』
「そうなんですか、初めて聞きましたよ。つまり木連は戦艦一隻沈める事が出来なかったんですね。
随分偉そうな口を聞いてましたが、意外と無能な方が多いんですね」
嘲るようにタキザワは木連の士官達に話した
『無礼な口を聞くなよ、我々の力を知らない訳ではないだろう。謝罪しろ!』
その言葉を皮切りにタキザワを罵倒するが
「そうですな、アナタ達は民間人を殺すのが上手な軍人で、同じ軍人同士では弱かったんですね。
訂正しますよ、申し訳ありませんでした」
笑いを堪えながら話すタキザワに草壁が
『我々を侮辱するのかね。火星は開戦する気ならいつでもいいがな』
「その場合、死ぬのは木連住民ですかな。頭上に核の火の雨を降らせますよ、さぞ綺麗でしょうな。
近くで見れないのが残念ですよ、できれば特等席で見たかったな」
真面目な顔で答えるタキザワに、草壁は心で苦々しく思いながら平然とした表情で
『無理だな。二度も同じ手を喰らうほど木連はマヌケではない』
「そうですか、戦艦一隻沈められないのに……。アナタ達なら案外同じ手を喰らうんじゃないですか。
守りに完璧なものは無いですよ、歴史が証明してますし、
防空意識の薄い木連にそれだけの力がありますかな、一度試してみますか。
……いえ今回は止めときますか、用件はなんですか私の嫌味を聞きたいのならまたにして下さい」
通信を切ろうとするタキザワに草壁は
『待ちたまえ、今回はその戦艦をどうするか。火星に聞きたかったのだよ』
「今、知ったばかりですぐにはお答え出来ませんよ。確認の上で連絡しますよ」
『我々の情報が信用出来ないと言うのかね。無礼な者達だな』
「………おかしいのはアナタですよ。
何処の世界に敵の情報を鵜呑みに信じますか、ああっとすいません。此処にいましたね」
愉快に笑うタキザワに草壁は苛立つように
『いいだろう、一日待とう。明日の連絡で火星の返答を聞かせてもらうぞ』
「いいですよ、クリムゾンにも聞きますので大丈夫でしょう。
窓口の方に負担をかけるのは心苦しいですが、キチンとお礼はしましょうか」
クリムゾンの担当者に笑いかけるタキザワを見ながら通信は切れた
そこにシャロンをつれてロバートが入ってきた
「愉快だな。ここまで言えると気分がいいだろう、奴等を馬鹿にするのは面白いな」
「ヒドイですわね。ここまで偉そうに話すのですか、木連は何を考えているのでしょうか。
敵を作るのは上手そうですが、地球では長生きできませんわね」
「火星でも無理ですね。交渉が下手くそですね、生活環境の違いもあるのでしょう。
なんせゲキガンガーが聖典ですから、アニメが聖典では底がすぐ見えますな」
「空想と現実の区別がつかんのだろうな、だから危険な事なのだよ。
何をしても正義の一言で正当化するからな、その意味が分かるかシャロン」
「まるで昔の私のようですわね。クリムゾンの後ろ盾で好き放題していましたから」
「ただしスケールが違うぞ。彼等は既に火星で正義の名の下に130万人の人間を殲滅している。
このまま行けば被害は更に増え続けるぞ」
ロバートの声にシャロンは何も言えなかった
「どうするかね、戦争を回避するのは難しいぞ。ナデシコがどう動くかで状況が変わるな」
「ナデシコにはアクアさんが潜入してますが、………聞いてないんですか、ロバート会長」
タキザワが尋ねるとロバートが慌てて
「きっ聞いとらんぞ!何を考えとるんだ、アクアは。火星にいるもんだと思ってたんだが、
よりにもよってナデシコに乗艦するとは大胆すぎるな」
「よくバレませんね。……顔を変えているのですか、それとも素顔ですかタキザワさん」
「素顔ですが問題無いそうです。
自分は馬鹿な事をしたからネルガルも顔を知りませんし、絶対バレませんねと豪語してましたね。
理由を聞けば納得できましたが、………聞きますか」
「確かに顔は表に出てないから分かりませんが、それでもバレませんか」
「はい、種明かしを聞けば分かりますが、それ以外は無理ですね。
ネルガルなら完全な別人と判断しますよ、他でもそうしますね」
「それ程の変装なんですか、信じられませんわ。できれば私も使いたいですね」
「リスクは大きいですよ、何故なら後天的IFS強化体質になりますから問題だらけです」
「そんな事無理ですわ!マシンチャイルドは成功例はたった一つだけでネルガルにいるだけです。
アクアにはタトゥーも目の色も何も変わっていませんよ。不可能です」
「アクアさんは自分でタトゥーを消せるし、瞳の色も変えられますよ。
普段は一般人、アクア・クリムゾンとして生活し、
火星とナデシコではIFS強化体質者、アクア・ルージュメイアンとして活動してますよ」
「………なるほどな、ネルガルでも判らんな。
まさかそんなイカサマがあるとは誰も考えんよ。相当な覚悟でそれをしたのだろう。
あの娘はどれだけの覚悟があるのか、わしには読めんな」
ロバートの呟きにシャロンは絶句し、タキザワは
「兵士としては一流、パイロットとしても一流、オペレーターとしても一流ですし
A級ジャンパーですからいつでも脱出できますよ」
と更に信じられない事を口にした
「すまんが人工ジャンパーが出来るなど聞いてはいないし、アクアは戦闘訓練などしてない筈だが、
どうすればそんなに多才な力が得られるのか知りたいが、これもテンカワファイルの成果かね」
「いいえ、ちがいます。事故でクロノのナノマシンが体内に侵入し、
その結果補助脳が形成される際にクロノの過酷な人生を擬似経験する事で得たモノだと聞いてます。
ボソンジャンプが時間跳躍できる事はお分かりですから何を意味するか判りますね」
「…………つまりクロノは未来でクリムゾンの人体実験の被害者でありその実験を体験したのかね。
よほど酷い実験を見ただけでなく経験したから歴史を変える事にしたのかね」
ロバートの考えを聞いたシャロンは
「ではクリムゾンの未来も知っているのですか、私達がどうなるのかも分かっているのですか」
「おそらくその通りでしょう。ですが最悪の事態を避ける為に今まで行動しているのでしょう。
でなければ命懸けで動いたりしないでしょう。自分の手を血に染める覚悟など出来ませんよ」
「そうだな、自ら行動する事で変えていったのだろう。
考えると全て最悪の事態を避けるように行動しているからな。
この戦争は相当タチの悪いモノだから判断を誤れば大変な事になるからな」
「そうですが、ここまでが限界だそうです。歴史を変えた為に流れが変わり始めたそうです。
この先は読み難いとクロノは言ってますし、我々も必要以上は聞かない事にしてますから」
「未来を知りすぎるのは危険だからな。それに囚われるのもマズイかな」
「クロノはそれを気にしていました。ですからいつもこれで良かったのかと考えてます」
「では聞かない事にしておこうか、シャロンもそのつもりでいなさい。
知れば命懸けになるからな、苦しみ続ける事になるだろう。
アクアもよくよく不運な娘だな。自由に生きたいが、出来ないような生き方を強いられるとは」
「大丈夫でしょう、クロノもいますし家族もいますし本人が幸せなら問題はないですね」
タキザワが暢気に言う事にロバートは
「それもそうですな。アクアが幸せなら何も問題はないな。
後はシャロンがいい男をつかまえて帰ってくれば最高かな」
「おっお爺様!どうしてそうなるのですか、真面目な話をしてたのではないのですか」
「何を言うか、お前が幸せになるには家族が必要だろう。
これは真面目な話だぞ。一人で生きていくのは辛い事だよ、シャロン。
喜びも悲しみも家族で分かち合いながら日々を生きていく事は素晴らしい事だよ。
だから誰よりも幸せになりなさい、シャロン」
真剣に語るロバートにシャロンは何も言えなくなった
ただ自分が祖父に大事に思われ愛されている事に声が出なかった
タキザワはその光景を静かに見守っていた
―――ナデシコ ブリッジ―――
レーダーに映る機影は全て青、友軍であった
「艦長、全て友軍機です。火星は無事生き残ってます、良かった〜〜」
メグミの嬉しそうな声にブリッジは歓声に包まれた
「メグミちゃん、火星に通信を『ナデシコが助けにきましたよ〜』ってお願いね」
ユリカの脳天気な声にアクアがポツリと呟いた
「助けになればいいんですが、足を引っ張る事にならないでしょうか。心配です」
「大丈夫です、ユリカの作戦は上手くいきますよ。もう完璧です」
「あんなの作戦じゃありませんよ。バクチでもないですし、なりゆきまかせですね」
ルリの声にクルーが全員頷いたがユリカは
「どこが〜ナデシコが敵を全て撃破して火星を救う、もう完璧ですよ〜〜ルリちゃん」
「もういいです。艦長がダメ人間と理解しましたから好きにして下さい」
「ウ〜ン、アクアちゃん。見事に立派に育てたわね、火星で降りても大丈夫ね。
ルリちゃんは私にまかせてね。必ずアクアちゃんを超えさせてみせるわ」
「ルリちゃん、約束するわ。必ず会いに行くから元気でいてね。
次に会う時は私を追い越すくらいの素敵なレディーになっててね、楽しみにしてるわ」
「はい、アクアお姉さんも元気でいて下さい。でないと私………………」
泣きそうなルリを抱きしめてアクアが
「大丈夫よ、艦長じゃないんだから大船に乗ったつもりでいなさい。直に会いに行くわ」
優しく囁いたが
「失礼ですよ、アクアさん。私のどこに問題があるのですか、馬鹿にしないで下さい」
と雰囲気をぶち壊していたがクルーは
(何を言うかと思えば事実でしょう)
と口には出さずに二人を見守っていた
「艦長、火星より通信が入ってきています。繋ぎますよ」
『聞こえますか、こちらは火星連合軍です。そちらの所属と目的をお答え下さい』
「は〜い、こちらは、地球連合 ネルガル重工所属 機動戦艦ナデシコで〜す。
そして、私が艦長のミスマル・ユリカで〜す V(ブイッ)」
『……そうですか、私は火星連合軍所属エリス・タキザワ中尉と言います。
失礼ですが連合軍ではないのですね、…………出来れば地球に帰ってもらえませんか。
試作艦一隻で、しかも民間人の指揮する艦など意味がありませんし戦力になりませんね』
エリスが簡潔に意見を述べたがユリカが
「失礼な事言わないで下さい!この艦は地球の最新の技術で生み出された最強の戦艦です。
何も知らないくせに偉そうな事を言わないで下さい」
『確かに地球では最強ですが火星では老朽艦ですね。
見た所、グラビティーブラストが単発式の一門だけで、他の武装はミサイルだけですね。
ディストーションフィールドもそれほど強力ではありませんし、
戦艦と言うより駆逐艦と言うべきでしょう。火星に自殺しに来たんでしょうか』
エリスが意見を述べるとブリッジが唖然としたが
「いや〜これは手厳しい。これでもネルガルが誇る新型艦なんですが、
我々も遊びに来たわけではないので、我が社の社員だけでも地球に返したいのですが」
『わかりました。ではディモスにある衛星港に誘導しますので付いて来て下さい。
おそらくシャトルで火星に降りる事になると思います』
「いや〜出来ればこの艦で降りたいのですがダメでしょうか」
『それは政府の方と交渉して下さい。私には権限はありませんので』
「そうですか、ではそうさせて頂きます」
『はい、お願いします。それとお久しぶりですねアクア少佐、よくご無事で………心配しました』
「そうね、エリスも元気そうで良かったわ。皆さんも無事かしら」
『ええウチの連中はそう簡単にくたばりませんよ。
クロノ大佐はディモスにおられるので、元気な所をお見せして下さい。
それでは後ほどディモスで会いましょう、少佐』
通信が切れると全員がアクアに目を向け、プロスが
「アクアさん、火星軍の方でしたんですか。道理で戦艦や機動兵器に詳しい筈ですね。
何の為に地球には行かれたんですか、出来れば教えて欲しいんですが」
「…………地球にいたクロノから連絡がありまして、私用で来ました。
ネルガルが非合法に生み出し人体実験をしていたIFS強化体質の子供達の救出ですよ。
20人から30人の子供達が犠牲になり、たった3人の子供しか救えませんでしたが………、
昔と全然変わりませんね、ネルガルは平気で人を犠牲にしてるのですから」
アクアの声にブリッジの全員がプロスの返事を待ったが黙りこんで何も言わなかった
「アクアさん、その子達を火星に行かせたのはネルガルから守る為ですか」
ルリが静かなブリッジに声を出し、アクアに尋ねた
「クロノを先に火星に行かせて、私はクリムゾンの仕事を手伝っていたの。協力のお礼を兼ねてね。
だからルリちゃんも人体実験されそうだと感じた時は、迷わずクリムゾンに逃げなさい。
私の名前を出せば必ず助けてくれるわ。ロバート会長は必ず味方になってくれるから」
アクアの声にルリが頷き、ミナトが
「……アクアちゃんも苦労してるのね。そこまでしていたのネルガルは」
「ええ、先代の会長も酷かったですが、今の会長はそれを超えていますよ。
……自覚がないですから酷いものですね。
そのくせ自分は実験に反対している人道主義者を気取っていますから、反吐が出ますね」
アクアの意見にプロスが
「…………そこまで仰らなくても、根は優しい方ですよ」
「プロスさんはこの戦争の裏を知らないから言えるんですよ。知れば私の言葉が納得出来ますよ」
アクアの断言した意見にプロスが
「どういう事ですか、…………よく分かりませんが」
「戦争が始まる直前、政府のある仕事に携わった人物が殺されました。事故となっていますが殺人です。
ここまで言えばプロスさんも察しが付くでしょう。後は自分で確認してください」
「………………まさか、ですがそんな事は……しかし」
考え込むプロスにアクアは
「もし事実ならどういう事か判るでしょう。先代を超えた意味も……」
その言葉の意味を理解したプロスは動揺し
「そっそんな馬鹿な…………すいません、席を外さして貰います」
ブリッジからふらつく様に出て行った
「アクアちゃ〜ん、ユリカに教えてくれないかな〜全然判んないから〜」
場の空気が読めないユリカにアクアが
「お断りします、黙秘権を行使させて貰います。それでも聞きたいのなら実力でかかってきて下さい。
全力で相手をしますので死ぬかもしれませんね、艦長は」
殺気をユリカに向けて、にこやかにアクアは告げた
「アッアクアちゃんのバカ〜〜」
ユリカは負け惜しみのセリフと共にブリッジから逃げ出した
「覚悟も無いのに私にケンカを仕掛けるとは馬鹿ですね、艦長は。
………残念ですね、ここで処理出来れば後顧の憂いが無かったんですが、
もう少し優しく挑発すれば良かったかしら、ルリちゃんはどう思うかしら」
「そうですね、でも艦長の事ですから気が付きませんね。
愚鈍な方で空気が読めない馬鹿ですから、これより緩ければ意味が無いですね」
「そうそう、無理よ。アクアちゃん、艦長の事だから今頃アキトくんに泣き付いてるわよ〜」
ミナトの意見に全員が頷き、アクアが
「馬鹿ですね、そんな事をすればする程、嫌われる事が理解できないのは憐れですね」
「そうですね、自己中心の考え方がヒドイですね。アキトさんもハッキリ言えばいいのに」
「おや〜〜メグミちゃん、そうだったの〜ミナトお姉さん知らなかったわ〜。
アクアちゃんは知ってたの〜」
「ミッミナトさん!何を言ってるんですか。そんなんじゃないですよ!」
「そうですね〜、意識してるのが三人で、他に気になる程度が三人程といったところですね。
あとアオイさんが気になる娘が一人いますよ、ミナトさん」
「そうなんだ〜、でもよく見てるねアクアちゃんは」
「人間観察は趣味ですね。色々面白いですよ〜、
もう少し時間があれば周囲を煽って修羅場を見学したかったですね〜。
ホウメイさんも見るのは楽しいね〜と言ってましたし、残念です」
「そうだね〜、アキトくんって前に聞いたクロノさんとそっくりね。
まさかホントにいるとは思わなかったわ〜〜。自覚の無い女たらしなんて」
「…………そうですね。メグミさん、苦労するけど頑張って下さい」
「でっですから違うんですよ〜、聞いてくださいよ〜」
メグミの声が続くなか、ルリは
「アクアお姉さん、ミナトさん、ナデシコはどうしますか。ゴートさんが困っていますが」
「ルージュメイアン、このまま火星に向かって大丈夫か。
先程の会話からナデシコは歓迎されてないようだが危険ではないか」
「それは大丈夫でしょう。火星は地球と友好な状態を維持したい筈ですから、
余程の暴挙をしない限りは撃沈はしないでしょう」
「撃沈できる程の戦力があると思えんのだが」
「……いやそうでもないぜ。
アクアさんがくれたブレードのシミュレーターをやればやる程、火星の実力が見えるからな。
ナデシコ一隻じゃヤバイと思うぜ、せめて五隻か六隻あれば何とかできるかな」
「ヤマダか、随分まともな事を言うな………大丈夫か。疲れているのなら医務室へ行け」
「ダイゴウジだ!俺は真面目に思った事を言ってるだけだ、失礼だぞ」
「……おめえが言うから問題なんだよ、
おおっあれがブレードストライカーか、…………何か武装が違うし形も違うか」
「そうですよ、アレはエクスストライカーですね。どうやら配備が間に合いましたか、
これで木星蜥蜴に勝てますね。火星の恨みを知る事になるでしょう」
「…………あっあれはまさか、博士!見てくれゲキガンガーがあるぜ。俺の夢があそこにあるぜ」
ガイが指差す先にエクスストライカーより一回り大きな機体があり、それを見たアクアは
「ライトニングナイトですね。技術者の皆さんが頑張って相転移エンジンの小型化に成功しましたね。
各機に二基の小型相転移エンジンを搭載し合体後、
六基のエンジンを使いますから、ナデシコの倍以上の出力が見込めますし、かなりの戦力になりますね」
アクアの解説に火星の戦力が地球より充実している事が明らかになるにつれ
ナデシコを否定したエリス・タキザワの意見が真実である事に気付いた
「とりあえず、アオイ副長がディモスまで指揮を執って下さい。
その後は艦長に任せるしかないでしょうね、不安ですが私はここで降りる事になりますから」
「元気でね、アクアちゃん。ルリちゃんは私が面倒を見るから」
「はい、心配はないですね。ミナトさん、また会いましょう」
「ここまで楽しかったですよ、アクアさん。お元気で」
「はい、ホウメイさんに頼んでおきましたので、料理を習って勝ち残ってくださいね、メグミさん」
「ルージュメイアン、世話になったな、礼を言う。お前なら大丈夫だな」
「ゴートさんも気をつけて下さい」
「アクアさんにはユリカ共々迷惑を掛けましたが、これからは気をつけます」
「大丈夫ですよ、アオイさんなら立派にやれますよ。一度ユリカさんと離れて自分を磨いて下さい。
きっといい経験になりますし、自分を見つめ直す事も出来ますよ」
「まあ、何だ。世話になりっぱなしだが、その内返すよ」
「暇になったら火星に来て下さい。ウリバタケさんの好きな改造が出来ますよ」
「アクアさん、礼を言うぜ。おかげでゲキガンガーにのれる夢が叶うかも知れないんでね」
「そうですね、地球に戻ったら戸籍の氏名変更をするんですよ。ヤマダさん」
「わかってますよ、ダイゴウジ・ガイとして再びアクアさんの前にやって来ます」
「ルリちゃんには別れの言葉はいりませんね」
「………………はい、また会えますからね。きっと超えてみせますよ」
ルリを優しく抱きしめアクアは
「ええ、楽しみにしてますよ。約束は叶えるためにあるから必ず会いに行くわね。
私の大事な妹のルリちゃん」
「はい、絶対です。約束ですよ、………お姉さん」
泣き出しながら告げるルリをあやす、
アクアの前に衛星港が見え、静かにナデシコは火星に到着した
2197年2月、後に第二次火星会戦と呼ばれる戦いの幕開けであった
だが今はその事を誰も知らない
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。
遂にナデシコが火星に到着しました。(長かったな〜待たせすぎたかな)
次回はクロノは活躍できるのか?
出番のない子供達に活躍の場面はあるのか?
ルリちゃんの本領発揮の機会はあるのか?
ご期待ください(爆)
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