多くの問題が解決されて行く
未来が変わり火星は生き残れるだろうか
決戦の時は近づいて来ている
僕たちの独立戦争 第二十七話
著 EFF
『しかし往生際が悪いというか、勝てると思っているのですか』
呆れた様子で話すタキザワに草壁は平然と答える。
「勝つのは木連だよ、今なら被害はないぞ。降伏したまえ、悪いようにはせんぞ」
『馬鹿ですか、無人艦隊など役には立ちませんよ。この戦いの後で休戦を求めても無駄ですよ、
既に議会で木星への攻撃が承認されました、これからは市民船も攻撃の対象になります。
まあ貴方にはどうでもいい事でしょうが自分の正義の為に犠牲が出ても平気みたいですから』
タキザワの蔑むような視線に草壁は苛立つように反論する。
「そんな事はないな、無礼じゃないかね。私はそんな人間ではないよ」
『嘘ですね、先の作戦で市民船を放棄したくせに偉そうな事を言うなよ。
お前の未来はもう決まっているよ、市民を見捨てるような軍人に正義はないよ。
市民に見捨てられ軍からも捨てられ反乱者として裁かれるよ、独裁者の命運とはそんなものだよ』
決まった事を話すようにタキザワは草壁に告げた。
「ふざけるなよ、これ以上の会見は無意味だな。木連の攻撃は止まらないぞ、これが最後だ。
降伏したまえ、火星の住民を巻き込む心算かね」
『それはこちらのセリフです、艦隊の侵攻を止めなさい。我々は戦争を望んではいないが、
攻撃されれば反撃は必ず行う、そして報復も行うぞ。
つまらん野望に市民を巻き込むなよ、お前の正義など誰も必要としてはいない。
死ぬなら自分が先頭に立って戦え、安全な後方で自分の都合のいい正義を唱えるな!』
草壁に皮肉をぶつけてタキザワは返答を待つが、
「必ず貴様らを殺してやるぞ、この侮辱を忘れはせん。木連の恐ろしさを感じるがいい。
勝つのは私だ!正義は私なのだよ、悪は滅びるしかないのだよ」
『では滅びるのは木連ですね、まあ足掻いて下さいな。一応交渉の窓口は残しますが、
次の交渉はあなた方の降伏以外は認めませんよ』
そう言ってタキザワは通信を切り、スクリーンは消えた。
「高木君、侵攻の準備はまだかかるかね」
「一週間もあれば十分です。火星に正義を見せ付けましょう、閣下」
草壁の問いに高木が即座に答えると草壁は、
「よし準備が完了次第出発せよ、火星の住民を殲滅しそのまま地球へと侵攻したまえ。
我々の正義を見せるのだ!!」
草壁の宣言に士官達は不安な様子で応えた。
ここに至って士官達も草壁の狂気に気付き始めた。
草壁は会議室を退室し、執務室に入ると側に控えていた人物に告げた。
「北辰、お前の役目は部下を率いて遺跡に向かい、演算ユニットを奪取してくる事だ。
失敗は許さんぞ、これで完全な勝利が手に入るだろう」
「御意に、必ず成功させます」
北辰の短い答えに草壁は頷いて笑い出した。
「火星も気が付くまい、気が付いた時は最期だと教えてやろうかな」
暗い澱んだ表情で考える草壁だが、火星の罠に入った事に気付く事はなかった。
―――ナデシコ ブリッジ―――
「ではどうしましょうか、エリナさん」
『アクアさんに連絡を取れるかしら、ホシノさん以外にも相談したい事があるのよ』
疲れた顔で話すエリナにプロスも考えを明かした。
「彼女がとりなしてくれる事に期待するしかありませんよ、事態は深刻ですな。
情操面はかなり改善されていましたが、家族の元に帰るかは分かりません、
おそらく彼女の家族は火星の彼らでしょう、仲良くしているみたいです」
『そう……無理に引き離すのはダメね。彼女を傷つける事になるわね』
「それこそ問題ですよ、二人ともジャンパーで優秀な戦士ですよ。まず敵に回すのは避けて下さい。
どうもアクア・ルージュメイアンは仮の姿に見えるのです、
本当はアクア・クリムゾン様だと思えるのです、事実ならクリムゾンとも敵対します。
今のネルガルにそんな余裕はありませんよ、エリナさん」
プロスの説明にエリナは呆然とし、理解するにつれて蒼白な顔になり始めた。
「ただ瞳の色とタトゥーがあるので確信出来ないのですが、それが真実だと思います。
相当な覚悟を持ってこれまで行動して来られたのでしょう、エリナさんでは勝てませんよ。
半端な覚悟では何も出来ません、これは私の経験に基づいての事ですから」
『そんなにダメかしら。ここまで来れたのにまだ差があるかしら』
「ありますね、エリナさんは余裕がなさすぎです。常に張り詰めていますよ、そんな状態では潰れますよ。
それに自分が人殺しの自覚がありますか、自覚も無く覚悟など出来ませんよ、まあ会長も同じですが」
苦笑してプロスはエリナに答えた、エリナは自分の行動を顧みて限界を感じ落ち込み始めた。
「大丈夫ですか、そこから這い上がらないと上には行けませんよ。誰もがそこから始めますから、
エリナさんもスタートラインに着いたばかりですよ、まだ先は長いですよ」
プロスの容赦の無い意見にエリナは絶句したが、プロスは話し続けた。
「上に立つ者は無数の屍を乗り越える覚悟が必須ですな、それが出来ないものは自滅しますよ。
今の連合がそうですな、中途半端な事をしているから事態が深刻な事に発展するのです。
最初に自分達のミスを認め、修正すればもっと被害はなかったでしょう。
その結果自分の首を絞めて自殺しようとしているのですよ、無様ですな」
『そこまで言わなくてもいいでしょう、まあ問題だらけだけど』
「ネメシスですか、まさかネルガルは関与してはいないでしょうな。
先代が進めたような気がしますよ、あの方はそういう人でしたから心配ですね」
プロスが先代の会長を非難していたが、エリナは疑問を問う事にした。
『えっとネメシスとは何かしら、嫌な感じがするのだけど』
「連合が火星に配備していた反乱殲滅システムだそうです。
火星は怒っていますよ、戦後問題になるでしょう。ネルガルが関与してない事に期待しますよ」
『だっ大丈夫よ、そこまでしない筈よ…………多分ね』
冷静さを失いかけて話すエリナにプロスはため息を吐いて、
「だといいですが、会長に確認をお願いしますよ。アクアさんには必ず伝えますから」
『分かったわ、その件は調査するわ。また連絡します』
通信を終えてスクリーンは閉じてプロスはため息を吐いて胃薬を飲み込んだ。
………彼の負担は増え続ける日々が続いていた。
クルーはプロスの事を心配していた。
『プロスさん、お休みになられた方がいいですよ。この先休める事は少ないです。
火星との交渉に貴方は必要です、無理はしないで下さい』
「そうね〜シオンの言う通りです。交渉にはプロスさんしか出来ませんよ、これは経験が必要なスキルです」
「そうそうアリスちゃんの言う通りよ、この艦で交渉はプロスさんくらいよ出来るのは」
「それよりプロスさん、アクアさんはマシンチャイルドですかそれとも違うのですか」
「彼女はIFS強化体質です。アリマさんの叔父さんがいたラボには居なかったのかも知れませんが、
一つだけ真実はありますよ、彼女は人体実験の愚かさを知っています。
貴女の叔父さんを知らなくてもその事に嘘はありません、彼女の言葉に嘘は無いですよ」
プロスの言葉にカスミは考えて答えた。
「…………そうですね、大事なのはその事ですね」
「ええ、それが理解出来ない科学者が多くて困っていますよ。
貴女の叔父さんも早く気付いていれば、苦しむ事はなかったでしょう」
暗い雰囲気を変えようとジュンが話題を変えようとした。
「火星の応援ですがナデシコはボソンジャンプで行くのですか」
「そうでしょうな、この艦は一度成功してますから大丈夫でしょう」
「まあ便利と言えばそうなんだけど、怖いわね〜。使い方を考えないと危険よ〜プロスさん」
ミナトの意見にクルーもそれぞれに考え始めたがプロスはハッキリと答えた。
「人が作った技術でない以上、危険な事は当然なんですよ。自分の力で得たものが信頼出来るのです。
ボソンジャンプは人類の手に余る品物ですよ、独占する事が危険なんです。
今更と言われればそうなんですが、これからが大変ですな」
「大丈夫だ、火星は独占しないだろう。彼らは本当に大事な事を理解しているみたいだ」
「グロリアさんの言う通りですな、火星は狂った状況を修正していますよ。
命を懸けて必死に足掻いているから強いのでしょう、兵器の質ではなく人材が優秀なんですよ」
「そうだぜ、プロスの旦那の言う通りだよ。火星には覚悟が出来てる者が大勢いるぜ、
アクアちゃんにクロノに火星の政府の連中も全員が未来を変える為に命懸けで動いているな。
連合政府なんか敵にはなんねえな、自分の過去の汚点から逃げる馬鹿じゃダメだぜ」
そう言ってブリッジに入ってきたウリバタケにジュンは尋ねた。
「ウリバタケさん、ブラックサレナを使うのは無理ですか」
「無理言うんじゃねえ、調べたがアクアちゃんの言う通りパイロット殺しとはあの機体の為にあるな。
シミュレーターで使えるようにしたがアクアちゃん以外は誰も使いこなせなかったぜ。
全員途中で失神したぜ、エース揃いのナデシコでもダメなものはダメだな、
アキトはよく使いこなしたもんだぜ、0Gから4GまでころころGが変わるんだよ、
あれでは身体が潰れるよ、別次元の機体と言わせてもらうぜ。
まあ何年かすればアレに追いつける機体が出るとと思うがな、今は無理だぜ」
「そっそこまでの機体なんですか、でもアクアさんはよく使いこなせますね」
ジュンの驚いた声にウリバタケが説明した。
「アレは情報の処理が追いつけねえんだよ、パイロットに全て負担がかかっちまうんだ。
マシンチャイルドなら情報処理が出来るが今度は肉体がついていかねえ、
多分アクアちゃんは肉体の改造もされてるぜ、酷い事をするもんだな。
クロノは戦闘用だったかな、実験記録があれば反吐が出るな。
目をそむけるような事が当たり前のようにされていたんだろうな、信じられなくなるぜ……人間が」
ウリバタケの想像にクルーも気分が悪くなってきた。
「それでもアクアちゃんは人間を信じているのさ、つえーぜ……俺はアクアちゃんは敵にしたくはないな。
戦えばアクアちゃんは正面からだけじゃなく搦め手も使うぜ、気付いたら罠に落ちて終わりだな。
相当な戦術と戦略で戦うぜ、手段を選ばないやり方なら絶対勝てないぜ。
覚悟があるから犠牲の数など気にしないな、地球を滅亡させても問題なしと言うんじゃねえか」
「確かにそれだけの覚悟を持っていますね、反則技なら無限にありそうです。
それも卑怯な方法を平気で使いそうですね、怖いですよ………まず勝てませんな」
ウリバタケとプロスの意見にミナトも頷いて答える。
「そうよね〜まともに対抗出来そうなのはルリちゃんくらいかな。
イカサマのやり方を教えているのを見たわ、
どうしてか聞いたら覚えると便利で対抗策がすぐに浮かぶ練習だと笑いながら話していたわよ。
相手を騙すのは得意なんじゃないかしら、プロスさんでも勝てないと思うな。
二重、三重の罠は当然で更に引っ掛けもありそうよ、
悪意はないから大丈夫だけどクロノさんを傷つけたり、子供達を守る為なら手段は選ばない筈よ」
「まさにその通りです、彼女は家族を守る為に行動します。それが絶対のルールですな」
「なんか優しくて強いお母さんみたいですね、アクアさんは」
「メグミちゃん、それが正解よ。アクアちゃんはお母さんなのよ、家族の為に戦うのよ」
メグミの意見にミナトがアクアをそう評価した、クルーもそう感じていた。
アクアは常に笑顔を見せて不安を与えず、頼れる母のイメージを見せているそんな気持ちにさせた。
「誰も勝てないな、母の強さは無敵だよ」
グロリアがそう結論を出して話を終わらせた。
「プロスさん、アクアさんは次は何時来られますか。準備を始めておいた方がいいですね」
「セリアさんの言う通りですな、準備を始めておきましょうか艦長」
「ですね、皆さんもいつでも火星に行けるようにして下さい。時間は余りないかも知れません」
ジュンの宣言にクルーは準備を始めた。
ナデシコも火星を救う為に行動を開始した。
―――火星作戦会議室―――
「そうですか、未だ現実に気付かず都合のいい事ばかり考えていますか。
独裁者の行動は狂気を感じられますね、私もそんな人間にはならないように気を付けないと」
タキザワの報告にエドワードはそう呟いて苦笑したがコウセイが、
「何お前さんは大丈夫だよ、痛みを知っているからな。
その件は後にしてまず木連の侵攻を止めないと不味いぞ、どうするか考えないとな」
コウセイの質問にレイが立ち上がりスクリーンに状況を映し出して報告し始めた。
「侵攻艦隊は一週間後に木星を出発します、まず鹵獲した無人戦艦で先制攻撃を始めます。
数は400隻程ですがダッシュの操作による攻撃ですので効果はあると思います」
『当然ですよ、艦隊を一糸乱れぬ制御で戦いますから被害は大きくしますよ。
敵は識別出来ない状態で戦う事になりますから混乱は間違いありません』
「予想では10%は被害は出ると思います、その後無人機の暴走を考えてます。
突然艦内で自爆する、または無差別の攻撃を始められたら更なる混乱を引き起こします。
そして戦艦と空母によるジャンプ攻撃のゲリラ戦を始めて戦力を削りとっていきます。
そして傷ついた艦隊に地球の艦隊との協同で総攻撃に入ります」
『この時点で戦力を60%は奪いたいですね、ユーチャリスUの主砲は強力ですよ。
出力は他の艦の3倍はありますから彼らのフィールドなど役には立ちません、十分勝てますよ』
ダッシュの勝利宣言に全員が安堵するがエドワードが引き締めるように注意する。
「気を付けましょう、勝ち続けて調子に乗らないようにしないと木連みたいになりますから。
命を軽く考えないようにしないと大変な事になりますよ」
「そうだな、気を付けないとな。俺はダッシュとユーチャリスUで無人艦隊の指示を行えばいいかな」
「はい、そうして下さいクロノ。今回は最初から最後までクロノに前線で行動してもらいます。
この戦いが木連との最終決戦になればと考えています」
『現在木連でクーデターの兆しがあります、これが成功すれば草壁は失脚するでしょう。
その後火星が仲介し地球と木連の和平を実現させて、戦争終結に導けば大丈夫でしょう。
木連市民の意識改革を始めれば、草壁に同調する事もありません。
生き残っても草壁には何も出来ず自滅するだけです、正義を唱えるほど市民が嘲笑う事になるでしょう』
「地球も軍の再編が進んでますよ、意識改革も順調に進んでいますね。
いい加減な方は次々と立場を失っていますわ、連合政府も同じ様に変わっています。
未来は変わるかも知れませんね、より良い方向に。後はボソンジャンプをどうするかですね」
「その点は任せておいてアクアさん。ジャンパー処理の目処がついたわ、まずB級ジャンパーだけどね。
A級も必ず出来るようにしてみせるわ、平等な世界になると良いわね」
アクアの不安にイネスが安心させるように応えた。
これを聞いたスタッフは未来に希望が見えてきた事に嬉しくなってきた。
常に不安と戦い続けてきた火星に安心できる日が訪れようとしていた。
―――火星 ヒューズ邸―――
「マリーさん、私はどうしたらいいでしょうか」
マリーに不安を隠さずに尋ねるルリにマリーは優しく諭すように話した。
「ルリさんは一度会うべきですね、まずはそこから初めないといけません。
ただご両親と会う時は気をつけて下さい、お二人とも立場があり公の場所では冷たい感じがする筈です。
それだけで判断してはいけません、私的な場所で会われる事が大事な事ですよ」
「でも私だけ両親に会ってもいいのですか、自分だけ家族がいるなんて許される事でしょうか」
「それは違いますよ、三人には両親は此処にいますよ。勿論貴女の家族でもあります、
それとも他人ですかルリさんにとっては」
「ちがいます!そんな事ありません、私の大事な家族です!」
マリーの疑問にすぐに反論するルリに、マリーは微笑んで、
「ではそれが答えですね、ルリさんがそうであるようにご両親もそうかも知れませんよ。
会って確かめなさい、そして話し合いなさい……家族ですから分かりあえますよ。
そして自分の思いを告げる事が本当の幸せに向かう事になりますよ」
ルリはその言葉に後押しされるように考え始めた、その様子にマリーは、
(アクア様の妹ですから大丈夫ですね、せめてあと2年は時間が欲しかったですね。
何処に出しても文句のない立派な姫様になられたでしょう、少し残念ですね。
でもアクア様のイタズラ好きを真似してないだけでも大丈夫ですね、あの子達も気を付けないと)
と三人の未来について考えていた。
―――地球連合所属 空母ミストルテイン―――
「補給は万全に出来そうかな、副長」
「そうですね、三回までは万全に出来ますがそれが限界ですね。
しかし火星のバックアップがありますから、この戦いは十分戦えますよ」
副長の報告にアルベルトは考えて話す。
「正直なところ火星に勝てるか副長、俺は木星には勝てると思うが火星には勝てないと思うのだが」
「私もそう感じています、推測ですが火星にはブレードの新型があると思うのです。
その機体が地球の新型のフレイムやランサーで勝てるように思えないのです」
現在ストライカーシリーズは地球で発展した二機の機体が空母に搭載されていた。
対艦装備の爆撃型のフレイムストライカー、格闘戦を重視したランサーストライカー、
それぞれに独自の設計思想によって造られた優秀な機体であった。
実際戦績も十分に挙げているが二人はまだ見ぬ火星の新型に不安を抱いていた。
「艦長!前方にチューリップが浮上してきました、戦艦を放出しています」
「何だと!油断したか、反撃するぞ。準備が出来次第発進させろ、火星に行く前に負ける訳にはいかんからな」
アルベルトの声にブリッジも反応し攻撃態勢を始めたが、前方に光が現れ謎の黒い機体が現れた。
「何が起きたんだ、あの機体は友軍機か」
副長の声にオペレーターが応えた。
「確認します…………友軍機です!火星の機体のようです、エクスストライカーと識別コードがあります」
その声と同時に黒いエクスストライカーはチューリップに攻撃を開始した。
高速でチューリップに接近するとチューリップは謎の光を放ち内部から爆発し海に落ちていった。
更に戦艦も半数が同じ様に破壊されて海に落ちていき、
残りもその機体のグラビティーブラストとディストーションランサーで破壊されていった。
そして無人機を撃破すると空母に通信が入った。
『こちら火星宇宙軍所属クロノ・ユーリだ。
勝手に撃破した事は謝ろう、空母ミストルテインに着艦したいが許可を願う』
「了解した、私が艦長のアルベルト・ヴァイスだ。よく来てくれた歓迎するよ」
『では着艦する、火星の状況を報告したいのでブリッジに行きたいがいいかな』
「ああ、構わないクルーに案内させよう」
着艦を始めるエクスストライカーを見ながらアルベルトは副長に尋ねた。
「あの機体に勝てそうか、俺は無理だと感じたが」
「パイロットは別として機体の性能が違いますね。あの大きさにグラビティーブラストは反則です。
それにチューリップにした攻撃は理解出来ません、未知の攻撃です」
二人の不安は的中した、火星の機体は反則とも言える機体であった。
「まあ味方だからいいが、敵にはしたくないな。木星も大変だな、戦力に差がありすぎるよ」
「艦長の言う通りです。うちの艦隊でも苦戦する戦力が15分で撃破されました。
それもたった一機ですよ、編隊を組まれて戦えばまず逃げる事を進言します」
副長の忌憚ない意見に苦笑してアルベルトも頷く。
それだけの衝撃がある出来事であった。
「ロバート会長も知っていたんだろうな」
「ですな、言われても理解出来ないでしょう。見なければ解りませんよ、火星の凄さが」
「そのうち火星に行くから艦内に伝えてくれ、火星で馬鹿な事をしないように」
「徹底させますよ、先の開戦で恥を晒しその上塗りは避けたいです。
火星の住民に嫌われたら大変な事になります、市民への暴行など厳罰にするべきです」
「大丈夫だと思うが気をつけよう。やはり新型はあったな、それも無敵に思えるような機体が」
「ランサーとフレイムを合わせて更に武装が強化されています。
おそらく木星の攻撃が一年後なら木星は一度も勝てませんよ、初戦が勝てたのは運が良かっただけです」
「その後、調子に乗りすぎたな無様な事になっているな。地球も気をつけないと」
二人は着艦するエクスストライカーを見ながら、火星の凄さを感じていた。
この後、火星への移動に会議が始まり準備が進む事になる。
―――ナデシコ ブリッジ―――
「そうですか、まだ施設があったのですか。残念ですよ、この手で全員を殺したかったですね」
エリナが通信で告げた事実にアクアが滅多に見せない怒りを出して呟いた。
『そっそれで貴女に子供達の面倒を見て欲しいの、正直ネルガルの職員に怯えてどうにもならないの』
怯えるように話すエリナに、アクアは切り捨てるように、
「いい加減な事ばかりするから困るのですよ、クロノが聞いたら殺されますよ。
まず関係者は皆殺しですね、ネルガルの重役陣もダメですね。遺書の用意を勧めますよ」
『なっ何とかとりなしてくれないかしら、子供達の親権は放棄するからダメかしら』
動揺するエリナにため息を吐いてアクアは、
「分かりました、全員で何名ですか。多いと生活する場所を変えないといけないのですが、
十名以上ですか、二十名はいますか」
『そこまでいないわ、一人は研究者が里親になっているから残りの四名をお願いしたいの』
「ちなみに名前はありますか、まさか番号で呼んではいませんね。
私達が救助した施設ではそう呼ばれていましたよ、もしそうなら許しませんよ」
『ごめんなさい!まだ名前は決まってないの、四才から五才の状態でコミュニケーションも出来なくて、
大人に怯えて誰も満足に話す事も出来ないの』
エリナが告げる事実にブリッジにいる者達も怒りを見せ始めるがアクアが、
「場所を教えて下さい、クロノに連絡を取って直に向かいます。ネルガルには任せません、
私が責任を持って育てます。これ以上傷つけさせる事は許しません」
毅然とした態度でエリナに告げた。
『本社にいますからいつでも迎えに来てください。申し訳ありません』
そう話して通信を切ったエリナにプロスも少し変わりましたねと感じていたが、
アクアの方には怖くて目を向けられなかった。
「大変ですね、三週間で家族に馴染めるといいのですが……もう少し早ければ良かったのに。
嫌がらせですか、そうなら本気でネルガルを潰しますよ。
決戦前に問題を抱えるのは避けたいですが子供達の事は木星よりも重要ですし、難しいですね」
悩むアクアのセリフにクルーはとんでもない事を聞かされたような気がした。
「すいません、アクアさん。ネルガルを潰すのはご容赦願います、
一般の社員を路頭に迷わす事はやめて下さい、この通りお願いします」
プロスが頭を下げて謝る姿にクルーもようやく気付いた。
「ただ愚痴をこぼしただけですよ、大丈夫…………しませんよ」
笑いながら話すアクアにミナトが質問した。
「簡単に潰せるの〜ネルガルは」
「そうですね、非合法な事を幾つも押さえていますから公にすれば、ダメージが大きいですね。
それから真綿で首を絞めるように少しづつ罠に落としますよ。
電脳世界において私に勝てるのはルリちゃんだけですから、
ネルガルのセキュリティーなど笊ですね、情報が混乱するなかで立て直す事など無理ですよ」
「あの〜それはヤバイような気がするんですが、いいのですか」
「問題ありませんセリアさん、喧嘩を売るなら徹底的に潰しますよ。
私には子供達が大事ですから、危険を排除できるなら覚悟は出来ていますよ」
決意を話すアクアの顔には迷いはなかった。
クルーも以前言った事を確信した、その時ブリッジにクロノがジャンプアウトしてきた。
「いきなり来るように連絡して何かあったのか、アクア」
平然と答えるクロノにクルーはついて来れなかった。
「実は四人の子供を引き取る事になったのです、構いませんか」
「やはりまだ無事な子供がいたんだな、その様子だといい環境じゃないみたいだな」
「名前がないそうです、怯えて話も満足に出来ないみたいです」
その言葉にクロノから殺気が溢れ始めブリッジの体感温度が下がりだした。
「そうか何処にあるんだ、俺に任せろ。子供達は無事に保護するよ、研究員は全員死んでもらうぞ」
その言葉に嘘がない事をクルーは感じとった。
「違いますよ、ネルガルで保護しているそうですから迎えに行くんですよ。
早とちりはダメですよ、クロノ。付いて来てくれますか」
「当然だな、一人より二人の方が子供達も安心するだろう。資料はあるか、名前を付けてあげような」
殺気を消して微笑んでアクアに語るクロノに、アクアも笑顔で、
「そうですね、まずは名前ですね」
「自分の名前を誇れるようないい名前を付けてあげような。ラピスやセレス、クオーツのようにな」
「男の子が一人に女の子が三人ですね、みんな可愛い子達ですよ。
元気に育って欲しいですね、守りたい者がまた増えますね、クロノ」
「守ってみせるし、運命を切り開いていける強さを持たせるさ。安心していいよアクア」
「信じていますよ、では名前を考えてネルガルの本社に行きますか」
「そうだな、ネルガルへ行こうか。それとダッシュに連絡してみんなに紹介しないとな」
「その通りですね、ダッシュも喜びますね。では行きますか、子供達に会いに」
そう話して二人はネルガルへとジャンプした、残されたクルーは、
「クロノさん怖かったですね、普段は優しい方ですけど……まるで別人に見えましたよ」
「違うわよメグミちゃん。あれもクロノさんの一面なのよ」
「そうですな、彼は一流の戦士なんでしょう。彼が敵になればまず勝てませんね」
ミナトとプロスがメグミに話すとセリアがクロノの実力をリョーコに尋ねた
「リョーコさん、クロノさんは強いのですか。パイロットとしてどう感じますか」
「別次元の腕前だね、悔しいけどアクアにも勝てないしその上のクロノには歴然とした差があるな。
ブラックサレナに乗った時にそう感じたよ、あの機体は正直乗りたくないぜ……怖いから」
「そうだね〜対艦フレームよりも難しくてまともに操縦できないし苦しいだけだもんね〜」
「そうですよ、アレは危険すぎます。凄みがありすぎるんです、見てると怖い感じがするんです。
エステやブレードにはない恐怖があるんですよ」
「死神に見えたわよ、クロノさんが。服装じゃなく醸し出す雰囲気が恐怖を与えたわよ。
普段は平気なんだけどね、戦闘中は多分あの雰囲気が感じられるわ」
「リーラの言う通りね、味方なら頼りになるいい男だけど敵に回せば怖いで済まないわ。
木星は無人兵器だから何も感じないけど有人兵器になれば悪夢を見る事になるわね」
ヒカル、イツキ、リーラ、エリノアがリョーコの後に続いてクロノの凄さを評価した。
クルーもクロノの実力を肌で感じていた。
「いつか追いついてやるぜ!そしてライトニングに乗るのさ、待ってろよ火星よ」
ダイゴウジが暑苦しいセリフを放ってクルーは聞かない事にした。
「多分無理だと思うな、格が違うからダイゴウジさんは三枚目のキャラで、
クロノさんはシリアスの二枚目キャラだから」
アリスの突っ込みに全員が納得し頷いていた。
「お子様の言葉など俺には聞こえんな、このダイゴウジ・ガイの実力はまだ伸びるぜ。
俺は負けんぞ、必ずクロノに勝ってみせるぜ」
「聞こえているのに何言ってんだか、ギャグのつもりかしら……笑えないわよ」
アリスの声が静かにブリッジに響き渡った。
「くっ負けんぞ―――!俺はダイゴウジ・ガイだ――――!!」
ブリッジを飛び出してシミュレータールームにガイは走っていった。
「修行が足りないわね、まあ頑張りなさい。アリスもからかうのは程ほどにしなさい」
グロリアがガイとアリスを見て、二人を評価し注意した。
その様子を見てジュンは、
(ガイ君も苦労するね、僕に来ない事を祈るよ。ここはきついですよ、ウリバタケさん。
誰か僕を助けて下さい、苦行は嫌ですよ)
と逃避していた。
ナデシコは最後までこうなのかも知れない、…………シリアスには向かないのだろう。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
EFFです。
今回のお題は
アクア、お母さんと呼ばれる。
ルリ、両親に会おうとする。
クロノ、久しぶりの出番があった(爆)でした。
次回も過剰に期待されるのはちょっと怖いですが頑張ります。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m
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