剣と剣がぶつかり、雄叫びと悲鳴が木霊する戦場――
そこには――まるで初めから用意されていたような――決闘場があった。
その決闘場で勝利を収めた元親は、倒した敵将の華雄に手を差し伸べていた。
元親は敵将である華雄に自軍へ入るよう勧誘したのだ。
元親の表情は華雄が仲間になる事を疑っていなかった。
「どうだ? 俺の所へ来てくれねえか?」
「…………私は――」
華雄が話そうとした瞬間、突如として元親と華雄を取り囲む雰囲気が変わった。
その変化を感じ取った元親は倒れる華雄に背を向け、辺りを警戒し始める。
すると――
「何だぁ……テメェ等は」
6人の全身白一色で統一された衣服を身に付ける者が、元親と華雄を取り囲むように現れたのだ。
その異様さに元親は敵対心を露わにするが、内心は気味悪がっていた。
だがその者達を見た華雄の表情は驚愕の色に染まっている。
「き、貴様等……どうして」
「華雄将軍……我が主からの命が下った」
「我が主の命により……貴殿にはここで死んでもらう」
「――ッ!?」
白装束からの言葉に、華雄は動揺を隠しきれない程にうろたえていた。
元親との戦いで傷ついた身体に鞭打ち、華雄はゆっくりと立ち上がった。
「ま、待て……私は……」
華雄は言葉を続けようとするが、先程の闘いの痛みが身体を襲い、続けられない。
そんな彼女の様子を見た白装束は冷酷に宣告した。
「使えぬ者は切り捨てるのが、我が主」
「だが、我が主は情け深い御方」
「味方には華雄将軍は長曾我部元親と立派に闘い、相討ちしたと伝える」
「それが我が主の身心なり」
白装束が両手に短剣を持ち、徐々に元親と華雄に迫る。
元親は華雄と白装束との関係は少し分からなかったが、1つだけ確信した事があった。
華雄は――――見捨てられたのだ。
「「「「死ぬが良い!!」」」」
「ちっ! そう簡単に死ぬかよ!!」
一斉に飛び掛かってきた白装束に向け、元親は碇槍を振り回す。
無論、その傍らに居る華雄を自分の所へ抱き込む事は忘れない。
振り回された碇槍が白装束2人の胸を打ち、引き裂く。
残った4人は体勢を立て直し、再び短剣を構えて元親と華雄に襲い掛かる。
元親は突き出される短剣を碇槍で上手く防ぎつつ、辺りを窺う。
自分達の方へ駆け付けてくる味方兵はおろか、敵兵の姿も無い。
戦場が余程混乱しているのか、それとも目の前の白装束の仕業なのか、それは分からない。
華雄を抱え込みながら闘うのは少し骨が折れるが、勝てない事は無かった。
だが味方兵に傷付いた華雄を預けて戦うと言うのが、元親の本心であった。
(くそっ……しょっぱい攻撃をしてきやがる)
白装束が繰り出す細かい攻撃に苛々しながらも、元親は碇槍で防ぎ、隙を見て反撃する。
反撃で突き出した碇槍が白装束1人の胸を貫き、絶命させた。
元親は急いで屍となった白装束を放り出し、攻撃を続ける。
「おい! 華雄さんよぉ、大丈夫か?」
「お、鬼ッ! 私を捨てろ! このままではお前も奴等に殺される!」
「嫌だね。今あんたを捨てたら、こいつ等の思惑通りになっちまうぜ」
「――ッ!」
「それにあんたとこいつ等の関係が知りてえ。どうもキナ臭えからな」
元親は白装束の1人が言った言葉が、ずっと頭に引っ掛かっていた。
『使えぬ者は切り捨てるのが、我が主』
その言葉は元親がよく知る男が口走っていた物と同じだった。
もしかしたらと言う考えが、元親を覆う。
(あんたなのか……毛利元就)
元親の内心の吹きと同時に振るった碇槍が、残った白装束を一気に薙ぎ払った。
大量の血を流し、物言わぬ屍となった白装束を元親は見つめる。
得体の知れない不安が元親を襲うが、元親はすぐにそれを振り払った。
暫く白装束を見つめてから、元親は抱えていた華雄を解放した。
白装束に邪魔される前に問い掛けていた答えを聞きたかった。
「またお前に……命を救われたな」
華雄は自嘲気味の笑みで言う。
「……そろそろさっきの答えを聞かせてもらいてえな」
「…………そうだな」
華雄は片手で腹部を押さえながら、地面に突き刺さる戦斧を残った手で静かに持った。
元親は警戒をしなかった。華雄からは殺気が全く感じ取れなかったのである。
不用心と言われればそれで終わりかもしれないが、元親は華雄を信じていた。
「拾った命……そして今……助けられた命を……貴方に……」
戦斧を元親に手渡すと同時に、華雄は気を失って膝から崩れ落ちた。
元親は慌てて碇槍を放り出し、倒れた華雄を支える。
どうやら限界寸前まで、気力を振り絞って意識を保っていたらしかった。
「歓迎するぜ……華雄」
元親は気絶した華雄に向けて、言葉を掛けた。
◆
元親が華雄を保護した後、魏と呉の軍勢は再び前線へと兵を戻してきた。
大将である華雄が居なくなった今、水関が落ちるのは時間の問題である。
陣地へと戻った元親は愛紗、鈴々、朱里の3人に笑顔で迎えられた。
その出迎えを笑顔で返した元親は3人に先の一件の説明をし始めた。
華雄を自軍へと迎え入れた事、自分と華雄を殺そうとした白装束についてである。
華雄の件については愛紗が異を唱えたが、鈴々と朱里に上手く丸め込まれた為、事無きを得た。
そして今問題になっているのは、白装束の件についてである。
「ご主人様の命を狙うとは……奴等は一体何者なのか」
「現時点では不明です。それにご主人様だけでなく、華雄さんも殺そうとしたのですから」
朱里の言葉に、愛紗は唇を噛み締める。
元親が加えた華雄から詳しい話を聞こうと思ったが、治療中で聞けなかった。
「だが愛紗、急ぐ事はねえ。董卓軍の内情を知ってる華雄が仲間になったんだ。気が付いたら話を聞けば良いさ」
「は、はい……」
「華雄お姉ちゃん、結構強そうだったのだ」
鈴々も華雄を見てきていたらしく、素直な感想を述べた。
董卓軍で振るわれていた戦斧が、次からは長曾我軍で振るわれるのだ。
全員が頼もしく思わない訳が無かった。
「でも……なんで白い奴等はお兄ちゃんの命を狙うのだ?」
「分からねえな。俺は変態集団に恨みを買った覚えはねえぜ?」
元親がやや自嘲気味に言い放つ。
実際は1つの考えが浮かんでいるのだが、確信が無い為に皆には話していない。
「……この話はもう終わりだ。分からねえ事を考えるより、今を考えなくちゃいけねえ」
「はい。水関はもう落ちると思いますが、問題は次です」
「次……と言うと、虎牢関か」
朱里の口から出た不安そうな言葉に、愛紗が言う。
「この水関でさえ、落とすのに時間と兵力を浪費しました。これが虎牢関となると……」
「……もっと被害が出ると?」
朱里の言葉を愛紗が継いだ。
それに朱里は深刻そうな表情で頷く。
「はい、必ず出ます。だって総大将が袁紹さんですから……」
その確信を持った言葉に反論を言う者は何処にも居ない
現実にそうなのだから、反論の仕様が無いのだ。
元親達は不安を感じつつ、制圧されたとの報告を受けた水関を通り、虎牢関へと進軍した。
峡谷の道ばかりで、同じ景色が続いていると感じた矢先、それは姿を現した。
遙か前方にそびえ立つのは、見た目が水関と似通った建造物だった。
「あれが……」
「お察しの通りです……あれこそが都の玄関口。洛陽を守る最終関門です」
調べでは水関と虎牢関の両要塞は、見た目はとても似通っている。
だが強度にかなりの差があるため、正面から崩すのは至難の業らしい。
問題はこの難攻不落の要塞をどう攻めるのかである。
何故なら虎牢関攻略の方策を決めるのは、各軍勢から不評の袁紹である。
虎牢関の前方に陣を張った連合軍は虎牢関攻略に際し、袁紹軍本陣で各軍の代表者が軍議をする事になった。
「ちょっと曹操さん! 貴方の軍が後ろに下がるとはどう言う事ですのッ!」
「ふん……当たり前でしょう。無能な盟主の命令に従ってたら悪戯に兵を失うばかり。付き合ってはいられないのよ」
曹操の言葉に袁紹が顔を真っ赤にして歯軋りをする。
「む、無能ですって……ッ!? この私を無能と言いますの!」
「その問いをわざわざ肯定してあげないと理解出来ないの? やはり無能ね」
「キィーーーーッ!! むかつきますわ、この小娘!」
曹操は水関での痛手が大きいから後曲に下がるらしい。
連合軍の中でも強国である魏が下がると言う事は、これから立てるであろう策が大きく変わる。
それは駄目だと袁紹が反発した結果、今に至るのだ。
元親は2人が繰り広げる子供の喧嘩に、溜め息を吐いた。
「それはこっちの台詞よ。私の可愛い兵達が貴方の無能のせいで傷付いているんだもの。いい加減にして欲しいわ」
「そんな物、私のせいではありませんわ! 貴方の部下が無能なのではなくて?」
「私の部下が無能? ……なかなか面白い冗談を言ってくれるじゃないの」
袁紹の物言いに曹操は鼻で笑い飛ばすが、目は全く笑っていない。
このまま続くと思われた2人の言い争いだったが、見かねた公孫賛が止めに入った。
「2人共! その辺で止めておけよ。それに今から攻める虎牢関を守っているのは董卓軍が誇る狂気の武将、呂布だぞ。この2つをどうにかする為の軍議なんだから、言い争いをしてる暇はないだろ!」
公孫賛の言い分に2人は悔しそうな表情を浮かべつつも、押し黙った。
相変わらず事態の収拾の上手さに元親は拍手を送りたくなってくる。
「実際どうするのだ。ここで戦を長引かせては我が軍は不利だぞ」
今まで黙っていた孫権が唐突に口を開いた。
その言葉に黙っていた袁紹がいつもの調子で言う。
「ふん。どうするも何も、私の中では既に策など出来ていますわ。この小娘が邪魔をするから策が発表出来なかっただけです」
「あら。何か愚策でも思いついたの?」
「ええ勿論…………って、誰が愚策ですの!」
再び2人の間の空気が険悪になっていく。
これを感じ取った公孫賛がまたも割って入った。
「はいはい。怒るのは良いから」
「くっ……ま、まぁ宜しいですわ。ここは伯珪さんのブサイクな顔を立てて──」
「だからお前はいつも一言多いんだっての!」
止めに入った公孫賛も言い争いに加わりそうになってしまった。
その様子に溜め息を吐いた元親は、やる気が無さそうな感じで吹いた。
「何でも良いから、とっととその策とやらを聞かせな。いつまで俺等にガキのお芝居を見せる気だよ」
元親の言葉に袁紹と曹操の表情が怒りの色が浮かぶが、すぐに収まった。
袁紹は1度咳払いをした後、口を開いた。
「宜しいですわ。私の策と言うのは長曾我部軍に有り、ですわ!」
「…………ああ?」
突然袁紹に自分の軍の事を言われ、元親は思わず呆けた顔をしてしまう。
「華雄を討ち取ったのは貴方なのでしょう? ならば貴方が呂布を討ち取れば、この戦は勝ったも同然ですわ!」
袁紹は何を言っているのだろうかと、元親は呆れた。
それ以前に袁紹軍には自分が華雄を討ち取ったとの報告が入っているらしい。
この分だと他の軍にもどのような報告が入っているのかは知らないが、似たような物だろう。
この連合軍の情報網はどうなっているのだろうか。
元親は本気で考えたくなってくる。
「あら……それは素晴らしい愚策ね」
「そうでしょう……って、愚策ではありません!」
「…………我が呉軍は後方に移る」
深い溜め息を吐いた孫権は、本陣から出て行く。
「あ、ちょ、仲謀さん! 勝手な行いをされては困りますわ!」
「ふん…………」
袁紹の言葉に耳を傾けず、孫権は本陣を出て行った。
それに続き、曹操や他の諸侯も本陣を出て行ってしまった。
最終的に本陣に残ったのは元親と公孫賛の2人のみ。
そんな状況に袁紹は、突然元親の方へ鋭い視線を向けた。
「くっ……こうなったら本当に貴方が何とかしてみせなさいな!」
「ふざけんな。仮にもあんたが総大将だろう? 総大将なら総大将らしく、自分の軍で攻め行ったらどうなんだ」
「私の軍が出陣するまでもありませんわ。董卓軍の華雄を討ち取ったのは貴方なのでしょう!? ならば呂布も簡単に討ち取れますわ!」
まるで子供の屁理屈のような言葉に元親は心底呆れた。
つまり総大将の軍は絶対に出陣しないと言っているのと同じなのだ。
「あんたそれでも総大将か!! 俺等に文句を言う前に、まずテメェ自身の行いを改めたらどうなんだ!!」
「なんですって!! それが総大将に言う言葉ですの!」
「総大将だろうが何だろうが、言いたい事は言わせてもらうぜ。俺は我慢って奴が大嫌いでね!」
「ま、待て2人共!! これ以上言い争いは……」
公孫賛が元親と袁紹の間に割って入ろうとするが、2人はもう怒り心頭状態。
横からの公孫賛の声など、まったく耳に入らなかった。
「もういいですわ! 総大将として命じます。長曾我部軍は先鋒として虎牢関に攻勢を仕掛け、呂布を討ち取ってしまいなさい!」
「その命令を俺が素直に聞くとでも思ってんのか?」
元親が微笑を浮かべつつも、袁紹を睨んだ。
対する袁紹は顔を伏せている。
だが彼女は静かに笑っていた。
「あらあら……総大将の言う事が聞けないんですの? ならば仕方がありません。連合軍全てで長曾我部軍を包囲殲滅しますわ」
「――――ッ!? テメェ脅す気か……」
「あら? 脅しなどではありません。駆け引きと言ってほしいですわね」
袁紹は鬼の首を取ったかの如く、元親を見下すような眼で見ていた。
公孫賛は事態の展開に付いていけず、絶句していた。
「さあ、どうしますの? 攻めに行くか、殲滅するか、どちらが良いかはもうお分かりでしょう?」
「……ああ、そうだな」
元親は手に持つ碇槍を軽く振るい、袁紹に突き付ける。
「――ッ!?」
「な……ッ!?」
元親は溢れんばかりの殺気を解放した。
その殺気を向けられた袁紹は膝が震え、崩れそうになる。
「もう我慢の限界だ……あんたを捻り潰す!!」
元親は碇槍を振りかざし、袁紹の頭目掛けて振り降ろそうとする。
だが正気に戻った公孫賛が、元親の背中に組み付いた。
「落ち着け長曾我部ッ!」
「──ッ! 離せ公孫賛!!」
「駄目だ! 気持ちは分かるけど、それだけはやっちゃ駄目だ!!」
「俺の気持ちが分かるんなら離せ! この野郎は俺の……!!」
公孫賛は怒り狂う元親の背中に、必死に組み付く。
それでいて公孫賛の声は、悲しみの色に染まっていた。
「頼むから……長曾我部のそんな姿……私……見たくないよ……」
「…………」
「私と初めて会った時みたいな……長曾我部でいてくれよ……」
「…………」
公孫賛の眼から零れた涙が、元親の広い背中に1つ1つ落ちる。
彼女の必死の言動に、元親は唇を噛みつつも、ゆっくりと碇槍を下ろした。
「長曾我部……」
「…………くそっ!」
元親は本陣の中央に置かれたテーブルを蹴り飛ばし、走るように本陣から出て行った。
後に残ったのは元親の殺気に腰を抜かした袁紹と、涙で眼を赤くした公孫賛だけだった。
◆
元親が出て行って暫くの時間が経ってから、公孫賛は本陣を出た。
周囲を見渡してみると、近くの岩にもたれ掛かっている元親の姿が眼に映った。
「長曾我部……」
公孫賛は元親に駆け寄り、心配そうな表情で問い掛ける。
元親の表情は重く、暗かった。
対する元親は彼女の顔を一瞥してから、口を開いた。
「すまねえ……あんたには凄い迷惑を掛けちまったな」
「気にするなよ。私さ、お前の事を全部理解した訳じゃないけど、仲間思いの良い奴って事は分かってるから」
「そうか。もしあそこで袁紹をぶっ殺してたら……あんた、俺を軽蔑したか?」
「ああ、したね」
公孫賛は悪戯っぽく笑った。
とは言え、元親は笑っていられない。
これから敵の主戦力を一身に引き付けなければならないのだ。
「仕方ねえ……言いにくいが、野郎共にこの事を伝えに行かなくちゃな」
「ああ、その事だがな……私が袁紹に条件を突き付けてきたぞ」
「条件?」
「そうさ。長曾我部の軍だけ戦わせる訳にはいかないからな」
公孫賛が元親に、自分が袁紹に出した条件を1つ1つ言った。
それ等を聞く度に、元親の暗かった表情が生き生きとしてきた。
「――公孫賛……あんたやっぱ最高だぜ! うちの軍師ならきっと良い案を思いつく!!」
「そ、そうか……良かった。少しでもお前の手助けがしたいからな」
公孫賛が頬を赤くしつつ、笑顔を浮かべる。
「さっそく陣に戻って報せなくちゃな。ありがとな、公孫賛」
「あ、ああ……頑張れよ!」
元親は笑顔で公孫賛に手を振りながら、自分の陣地へと戻って行った。
その後ろ姿を公孫賛は見えなくなるまで見送った――
◆
「あ、お兄ちゃんお帰りー!」
「おう。ただいま」
元親が陣地に戻ると、鈴々が笑顔で駆け寄ってきた。
元親は鈴々の頭を撫で、正面に居る愛紗と朱里に視線を移す。
「お帰りなさい、ご主人様。それで軍議はどうでしたか?」
「ああ、それなんだけどよ……」
元親が軍議での内容を話すと予想通り、全員が怒った。
元親はそれを宥めると、先鋒を務めるに当たっての条件を言った。
勿論、公孫賛が提案してくれた物であると言っておく事は忘れない。
「それで公孫賛将軍が出した条件とは一体何なのですか?」
「まず各陣営から兵士と武器、兵糧とかを出してもらう事。もう1つ、俺達が敵を引き付けている間に他の各軍が虎牢関へ向けて攻撃する事だ」
「ふむふむ、成る程……」
元親の言った条件を聞き、朱里は顎に手を添えて考え込む。
元親はその様子を少し不安になりながらも見守る。
「どうだ朱里。お前なら良い案が浮かぶと思って命令を受けたんだが……」
「はい。大丈夫です」
朱里が満面の笑みを浮かべた。
その笑みを見て、元親はゆっくりと問い掛ける。
「なんか役に立つか?」
「はい。役に立つどころか、これで勝てる見込みが立ちましたよ」
朱里の言葉に、全員が彼女に詰め寄った。
「勝てるって、どうやって?」
「水関の意趣返しをするんです」
「……成る程、それは良い考えだ」
朱里の言葉の意味をいち早く理解した愛紗が微笑を浮かべる。
続いて元親も意味を理解し、意地の悪い笑みを浮かべた。
その中で1人、いまいち理解出来ない鈴々が首を傾げる。
「つまり私達が先鋒として敵さんを釣った後で、他の陣営の動きに併せて素早く後退するの」
「そして曹操と孫権の陣営に全てを押し付ける訳だ。水関で私達がやられた事をやり返すのだ」
「おおッ!! 朱里って頭良いのだ!」
朱里と愛紗から詳しい作戦の詳細を聞き、鈴々もようやく理解した。
全員が理解した所で元親達は作戦内容を吟味し、軍議が終わる。
その後に袁紹軍の本陣より遣わされた伝令が、兵士の編入が開始されたと報告を入れてきた。
それが終わり次第、すぐに出陣しろとの事らしい。
元親は伝令を見送り、愛紗達に向き直る。
「さあて、これからまた大変だぜ」
「はい。ですが、必ず勝利は我等に」
それから後、準備が整った元親達は虎牢関に向かって出陣した。
これから先に待ち受けるであろう激戦に、一種の不安を抱きながら――