この日は、私の誕生日です。
まもっとも…私が本当に生誕した日なんてわかりっこないから、便宜上、この日にしているだけなんですけどね。
で、です。
お祝い事の好きな皆さんは、私の為にパーティを開いてくれました。
本来は宇宙軍の仕事が入っていたんですが、そこはミスマルの小父様が手を回して休暇になったそうです。
…そこまで気を使っていただくのも悪いと言ったのですが、小父様が言うには
「娘の為にこれくらいでもしてやらんと、ワシの気持ちが収まらないんだよ」
だそうです。
こんな私でも、例え義理だとしても娘と扱ってくれる事に…私は喜んで小父様の厚意を受けることになり、
パーティに出席となったのです。
ウリバタケさん、ミナトさん、ユキナさん、ジュンさん、リョーコさん、イズミさん、ヒカルさん、
メグミさん、ホウメイさん、ホウメイガールズの皆さん、そしてハーリー君、タカスギさん等。
皆さんお忙しい筈なのに、わざわざ足を伸ばしてくれました。
ネルガル系の人は来てませんでした。
何かあるのか…それとも、私にアキトさんの事を聞かれるのが嫌だからなのか…。
流石の私も、この雰囲気をぶち壊すような真似はしませんのに。
そして、ユリカさんも―――。
「ふぅ」
パーティがお開きになり、皆が帰った後私は一人ボンヤリとテラスに立っていました。
どうも先程から気持ちが暗い方向へと沈んでしまいます。
「……まったく」
何となく皆から貰ったプレゼントを眺めると、どこかホッとする自分がいました。
到底、誕生日プレゼントに送るものでは無い物ばかり…そういう所に、変わらない物を感じたからかもしれません。
「でも、段々と変わっていくものですよね」
そう、変わらない物などない。人だって物だって、少しずつ思いや形を変えていくのだから。
チャリ
プレゼントの中で、唯一私の興味を惹いたロケットを手に取ってみる。
ついていた紙を見ると、どうやらタカスギさんかららしい。
流石と言うかなんですが、贈り物に関しては一流ですね。
どこかの落ち目とは大違いです。
「ふふふ」
その落ち目とタカスギさんを比べて、思わず笑ってしまいました。
夜も更け、辺りが暗くなってきたのを感じた私はテラスから望める星空を見上げました。
満天の星空、あの空の向こうの何処かにアキトさんがいるのでしょうか。
「アキトさん…」
日に日に強くなっていくこの想いは、あの遺跡での別れの時からドンドン増し、
好きから愛に変わっていくのにも大して時間が掛からなかったのでは無いかと思います。
好きと愛の違いが、私にはまだ良く分かっていませんが…私はアキトさんの傍に居たい。
どんな時も、その時の想いを共有したい…そう思うのです。
「アキトさん、私は…」
私は、思わず零れそうになった言葉を飲み込んで溜息をつきました。
誰かに聞かれたら、恥ずかしいですしね。
さて、明日から通常勤務が始まるのでそろそろ眠ることにします。
パァァァ
「えっ?!」
部屋に戻ろうと振り向くと、私の眼前にボソンの燐光が煌めいてました!
光は段々と人の形を成していき――
「あ、ああ…」
そこから現れたのは、私が恋焦がれていた人。
「…久しぶり、ルリちゃん」
「アキト、さん」
背が高くなって少し雰囲気が変わっていたけど、昔と変わらない笑みを浮かべるこの人は、、
何度も幻として見た虚構ではなく、現実の、本物のアキトさんだった。
「アキトさんっ!」
もう二度と…離れたくなくて、居なくならないで欲しくて…私はアキトさんに思いっきり抱きついた。
ここまでしたら流石のアキトさんでも私の気持ちに気づきますが、もうどうでもいいです。
ぽん
唐突に、アキトさんは必死で抱きついていた私の頭に手を乗せ、もう一方の手で抱き返してきました。
思わずアキトさんの顔を見上げると、アキトさんは少し困った様な笑顔を浮かべて口を開きました。
「泣かないで、ルリちゃん」
「え?…あ、私…」
知らないうちに、私は涙を流していたようです。
なんだか恥ずかしくなったので、アキトさんの胸に顔を埋めて顔を隠して文句を言うことにします。
だって、きっと私が涙を流した理由は…
「…アキトさんのせいですよ」
「ご、ごめん…」
さり気無くアキトさんの服で涙を拭くことも忘れてません。
「今日は、ルリちゃんに話しておきたいことがあって来たんだ」
私が落ち着いた頃合を見計らって、アキトさんが私に話しかけてきました。
ジッと私を見詰めて話すアキトさんに、私も見詰め返します。
「…自分でも気づいていると思うけど、軍内部でルリちゃんを危険視する声が高まっているんだ」
「はい」
それは、まぁ何となく気づいてました。
だからといって、私にはどうしようも出来なかったんです。
電子の情報を操作できても、人の心までは操作、できませんし。
「何時、軍の手が君に伸びるかわからない…だから俺は君を守る事にした」
「……」
アキトさんが一緒に居られるってのは嬉しいんですけど、こんな事で一緒ってのはちょっとアレですね。
そんな微妙な私の気持ちを読み取ったのか、アキトさんは苦笑いして言葉を続けました。
「そして、さ。 俺はイネスさんの治療のおかげで5感がちょっとだけ戻ったんだ。
まだリハビリが必要な段階だけど」
声色から、本当に嬉しそうな感じが伝わってきます。
でも、その話が先程の話とどう繋がりがあるんでしょうか?
「…けど、5感が戻っても俺がやった罪は消えない。
出頭しようかと思ったけど、アカツキ達に止められて――」
アカツキさん、ナイスです。
「俺は、また消えることにした」
「え?」
アカツキさんへの賛辞の途中で告げられた事実に、私は思わず固まってしまいました。
「アキトさん、私を守るって言ったじゃないですか!!
隠れて守るなんて無しですよ!…だったら、意味がありません…」
そう、意味が無いんです…そんなの、嬉しくありません。
「ルリちゃん、俺の話はまだ終わってないよ」
またしても私の頭を撫でて、アキトさんは話を続けていきました。
「俺は治療を続けながら、君を守る事にする。
その治療にはナノマシーンの遠隔操作が可能な程のIFS強化体質の人が必要なんだ」
「でしたら私が適任な筈です」
機器さえあれば、ナノマシーンの操作程度可能です。
アキトさんは私の言葉に頷くと、私の肩に手を掛けました。
「そうだね…だから俺、ルリちゃんにお願いしたいんだ」
「は、はぁ」
なんか治療の為だけに私を必要としている、みたいに聞こえますが…
いえ、アキトさんはそんな人じゃないです!
「何年掛かるか分からない。もしかしたら何十年も掛かるかもしれないけど…それでも一緒に来てくれるかい?」
「……え、一緒に来る?ってどういう事ですか?」
「ルリちゃんを守る為に、手っ取り早くルリちゃんも一緒に消えてもらうからね。
一緒に居れば、俺は君を守れるから」
そういう事ですか…って、思わずスルーしてしまいましたが、
『何十年も』って事は…それってもしかしてプロポーズ、なんでしょうか?
…いえ、きっとアキトさんの事です。自然と口から出てきた言葉に違いません。
なぜなら、あまりにも唐突すぎるからです。…私としては嬉しいことなんですが、納得がいきませんし。
けど、これはチャンスです。
…今、勇気を出して、私の気持ちを言葉でも伝えておいた方がいいかもしれません。
「アキトさんっ、私は貴方の事が好きです!愛してます!…ですから、何時までも一緒に居ていいですか?」
自分でも分かるくらい頬が紅潮しているのが感じられます。
私の唐突な言葉にアキトさんは驚いた表情を見せましたが、すぐに笑みを浮かべて私に答えてくれました。
「よかった…OKしてくれて」
「ほぇ?」
と言うことは、先程のは本当にプロポーズだったという事ですか?!
「唐突でごめん。 けど、俺なりに色々と考えた結果がこれなんだ」
困惑気味な私をフォローするように、アキトさんは言います。
「あ、アキトさん…何時から…?」
「…君の気持ちに気づいてから。あの時から俺は君に惹かれていたのかもしれない」
それって、あのボロアパート時代からって事ですか。
「そして、自分の想いに気づいたのは…ユリカがああなってからだ。
――改めて聞くよ、ルリちゃん。俺は君の事が好きだ、愛おしいと思っている。…一緒に来てくれないか?」
途中恥ずかしいと思ったのか、話をソコソコに切り上げてアキトさんが聞いてきました。
そんな問いに私は――
「はい、喜んで」
喜んで了承しました。
「そうだ…今日はルリちゃんの誕生日だったね」
そう呟くと、アキトさんは私をテラスの方へと引っ張っていくと夜空を指差しました。
「?」
指を指した方向をジッと眺めていると、夜空に一つ、二つ、三つと星が流れていきました。
「…綺麗」
どうしてこうもタイミング良く、流れ星が降ってきたんでしょうか。
「サレナとユーチャリスの残骸だよ…。誕生日プレゼント、こんな事しかできなくてごめんね」
済まなさそうに謝るアキトさん。
私はそんなアキトさんの手を取って、温もりを感じながら答えました。
「いえ、凄く嬉しいですよ―――だって」
流れ星も感動しましたが、それ以上に…
「アキトさんが帰ってきて、傍に居てくれるんですから」
「最高のプレゼントです」
人生の中で、一番最高の笑みを浮かべた…鏡を見ていませんが私はそう確信しています。
「…ルリちゃん(///)」
だってアキトさんったら、急に真っ赤になるんですもの。
そうしたら私もなんだか恥ずかしくなっちゃったじゃないですか…。
「…アキトさん(///)」
いつの間にか、満月が照らす元でお互い見詰めあい…
「行こうか」
「はい!」
ゆっくりと近づいて…口付けを交わしました。
「「……」」
私はファーストキスの余韻を味わいながら、アキトさんを見上げます。
アキトさんは頷いただけですが、私にはそれだけで次の動作が分かりました。
「「ジャンプ」」
二人、言葉を合わせて…私達はボソンの光に包まれていきました。
「『S級テロリスト、テンカワ・アキトの死亡』 『宇宙軍最年少美少女艦長ホシノ・ルリ少佐、暗殺される』…だそうですよ」
「うん、うまく世間を誤魔化せたな」
ご丁寧にも、ネルガルがかなり手を回していたらしく、私の命を狙っていた軍人を巧く誘導し、
私がアキトさんと去った後、私の部屋を爆破させたらしいです。
現場検証においても、ネルガルの巧みな情報操作で私が死んだという『証拠』まででっち上げたそうです。
そして、暗殺を行った軍人さん達は全員然るべき場所へ立たされる事になったそうな。
「これで、静かに過ごせるな」
「皆さんには悪い気もしますけど…」
黙って居なくなったので、皆さんには本当に悪い事をしたと思います。
え? 私達が今何処に居るか…ですか?
「父さん母さん…ごめんな、テンカワの姓は名乗れなくなった。代わりにアマノザキと名乗る事にした」
私達は現在、火星・ユートピアコロニーのアキトさんのご両親のお墓前にいます。
その…あれです。『ご報告』というやつです。
私の左手の薬指には、C.Cで飾られた指輪が嵌っています。
あ、いけません。
私はアキトさんに倣って、お墓に手を合わせました。
「…じゃあまた来るよ」
スッと立ち上がったアキトさんは、火星の空を見上げました。
特に何も無いですが、私も一緒に空を見上げました。
澄み渡った空が続いているだけですが、私達は無言でただ空を見上げ続けました。
「アキトさん、これからどうするんですか?」
「小さな料理店を始めようかと思っている…いいかな?」
「いいですね」
「腕が完全に戻るまで、辛い日々になると思うけど…大丈夫かい?」
「その時は二人で何とかして乗り越えればいいだけですよ」
「そう、そうだね」
「アキトさんも、リハビリは辛いものになりますが…大丈夫ですか?」
「ああ、任せてくれ。 もし辛くなっても、ルリ…君が傍に居てくれるから…耐えられるさ」
「はい!アキトさ…いえ、アキト…これからもずっと一緒に」
「ああ、一緒に」
一日で書き上げた為、ボロボロです( ´Д⊂ヽ
精神も、文面も。
ユリカはどうなってるの? ラピスはどうなったの?
その他にも色々と疑問はありますが…そこんとこはスルーしてください(爆
あくまで七夕記念!<ルリ誕生日記念SS>ですから、ルリ重視になってます。
こんなへぼい文でも満足した方がいれば、幸いです。
皆様からの受けが良かったor私にやる気が出れば、続編がでるかも…?
では、今回はこのへんで。