術式を展開させると、眩い光と共に俺の意識は遠のいていくのであった。
薄っすらとした意識の中、流れる力に逆らわず唯一の弟・アルフォンスの体を思い浮かべながら。
「…ん、ん?」
そして、気づくと見知らぬ場所に居た。
そして辺りを見回し此処が見知らぬ場所だと気付く。
「ここは…?」
白色の無機質な壁で囲まれた部屋…テーブルなどの家具(?)を見れば食堂らしい事はわかるが、
こんな場所は俺は知らない。
という事は、
「世界を超えちまった…?」
としか考えられない。
もっとも、前に行った場所とは大分違うようだが…俺の世界に無い様式ならまずその可能性が高いだろう。
「…アルはどうなっただろう?」
前に行った時もどうやって戻ったのかハッキリ覚えていないのだ。
戻れない事を覚悟した俺は、ただ一つの気掛かりであるアルフォンスの人体練成の結果が気になった。
だからだろうか。
背後から何者かに接近されていた事に気付かなかったのは。
「ちょっと! それ、リョーコお姉さまの物なんだから食べないでよねっ!」
「うわぉ?! 誰だお前?!」
背後からの大声に心臓が飛び出るかと思うくらい吃驚した俺は、すぐに振り返って相手を確認する。
そこには…俺より小さい女の子がトレイを持ってこっちを見ていた。
「それはこっちの台詞だよぉ」
プゥッと頬を膨らませながら言うと、また俺の方をジッと見る女の子。
「な、なんだよ…別に食べようとした訳じゃないって」
「よかった〜。 えへへ、ごめんね怒鳴っちゃったりして」
「いや別に…」
本当に嬉しそうな笑顔を見せる彼女に思わず照れてしまう…。
俺の周りの女は、こんな笑顔をする奴はいなかったしなぁ。
っと、こんな事している場合じゃない!
現在の状況を把握しないと…そうだ。
「なぁ、ちょっと聞いてもいいか?」
「え、何?」
「ここ、どこだ?」
…大丈夫?みないな表情をされたのはちょっと悔しかった。
『ルリちゃ〜ん、点呼よろしく〜』
ユリカの唐突な発言に、ルリは小首を傾げる。
「点呼、ですか?」
『そうっ! 点呼、前にならえっ! いちっ』
ニンマリと笑みを浮かべたユリカは、まず自分から声をあげる。
『にぃっ』
その次にアキトが続くもんだから、順番的に私だろうと思ったルリは、
「…さん」
と、小声で言うと照れ隠しのように通信ウインドゥを閉じるのであった。
『なぁぁにぅぃぃぃx?! 一人多いぃぃ?!』
ウリバタケの声量と合わせて拡大化するウインドゥ。
「オモイカネの勘違いなんじゃ?」
それに少々引きながらジュンはルリに訊ねるが、
その質問が気に食わなかったのか、少しムッとした表情を浮かべるルリ。
「…オモイカネはそんな馬鹿じゃありません」
「じゃあ一体…?」
『ちょっと誰か来てくれよ!』
突然、ナデシコ食堂料理長のホウメイが通信を開く。
「ど、どうしたんですか?」
『…食堂に、変なのがいるんだよ』
ともかく早く来いとの事なので、
ゴートとプロスペクター、それにジュンはこぞって食堂へと走るのであった。
しばらくすると、俺を中心に人だかりができた。
あの女の子の話によると俺が現在いる場所、つまり此処は『ナデシコ』という場所らしい。
で、俺は侵入者ってとこかなぁ…この状況は。
「突然だが、貴様を拘束する!」
「…はぁ?!」
何時の間にかやってきた、下っ端とは違い【いかにも】っってのが数人俺の前に立ち、
その中の一番ゴッツイのが放った初めての言葉がこれだ。
「ちょ、ちょっと待て!! いきなりそれか?!」
「む? 何時でも捕縛可能な侵入者相手にそれ以外の言葉があるか?」
いや、確かにそうだがよ。
「ほらほらゴートさん、此処は軍ではないのですから落ち着いて。
さて、貴方は何者でどこから来たのですか?」
ちょび髭眼鏡のおっさんがゴッツイのを黙らせると、尋問を開始した。
此処で逆らっても無意味なので、俺は素直に答えることにした。
「…俺の名前はエドワード・エルリック、自分でも何故此処にいるのかわからない」
「ちょっと!名前以外答えてないじゃないの!!」
「しょうがねーだろ! マジでわかんねーんだからよ!」
違う世界から来たって言っても馬鹿にされるだろうしよ。
「ふむ…ではエドワードさん、何故この此処に?」
喧しい女を宥めながら、ちょび髭が俺に尋ねる。
「俺が聞きたいくらいだよ。 だいいち、此処ってどこにあるんだよ」
「…は? 此処がが何処、と言いますと?」
「いや、どこの地方にある地名なんだって」
俺のその質問にちょび髭を含み、取り巻きも驚いた表情を見せる。
小っちゃいのは「コイツ馬鹿?」みたいな顔してやがる…、後で覚えてろ。
「あー…じゃあ質問を変えましょう。 貴方はどうやって此処に来ましたか?」
「それも知らない、気付いたらここに居た」
「エリナさん…彼、もしかすると…」
「ええ、多分そうね。 でも、これはちょっと事情が違うみたいね」
小声で何か言ってるが、まぁ俺に関する事だろうな。
「では最後の質問です。 どこからきましたか?」
こいつらの聞き方からして、俺がこの世界の住民でない事薄々感じているのか…? 仕方ない。 言ってしまおう。
「薄々感づいているんだろ?…どうも俺は、あんた等とは違う世界の人間のようだ」
「「「!!!」」」
「え〜〜〜!!!うっそだ〜〜〜!!!」
3人はともかく、このガキ…
とにかく、この中では俺は侵入者だと言う事には変わりないので俺は独房に連行されることになった。
で、さっきまで話をしていた連中に周りを囲まれ廊下を移動中だ。
話を聞くに、どうも『ナデシコ』と言うのは戦艦の名前なんだそうな。
俺の世界では戦車くらいしかなかったが、戦艦ってのはそれより更にデッカイんだろうなぁ。
それは良いとして、情報収集だな。
「なぁ、俺が言った言葉信じてるのか?」
「別世界から来た…と言う話ですか? 俄かには信じがたいですが、イネス女史の話によると
可能性としては皆無では無いとの事ですし、、ボソン反応も観測されてますから…まぁ半々って所ですかね」
「あんた等の話し振りからすると、どっから人が瞬間移動する技術は存在するのか?」
「え、はい。 我々はそれをボソンジャンプと呼んでいます」
ボソンジャンプ、ねぇ。
「で、戦艦『ナデシコ』は、このボソンジャンプを制御すると言われている『遺跡』を巡る戦争を止めるべく、
あちらこちら転々と戦って最後には遺跡を宇宙の何処かに投棄してきたワケ」
きつそうな女が親切にも今の状況を教えてくれた。
こいつらって案外抜けた奴等ばっかだけど、大変な事に巻き込まれて…ん?!
「っておい! 遺跡を投棄?! 重要な物なのに、そんなんでいいのかよ!!」
「艦長が決めた事だし、私は知らないわ」
「そうですねぇ、艦長がお決めになった事ですし」
「そうだな」
「だね〜」
「…あ、あの何もユリカばっかに責任押し付けるのもどうかと」
…艦長を信頼しているのか、もしくは只の馬鹿なのか…?
って今、遺跡がボソンジャンプを制御しているって言ってたな…?!
つまり俺は、元の世界の扉に入ってこちらの世界の扉 ――つまり遺跡を介して抜けてきたって事だよな。
と言う事は俺が帰る為には…っ!
「な、なぁ? その遺跡って、今から回収するって出来ないのか?!」
「え?急に何を…」
「いいから! 出来るか、出来ないのか?!」
俺の言葉に、女は難しい顔をして答えた。
「貴方が何故それを必要とするかはわからないけど、回収は無理よ。
補助ブースター全開、それもエネルギーが枯渇するまでランダムで方向を変えながらステルス航行していくから
この広い宇宙であんな小さい物を見つけるなんて、今更無理よ」
「な…なんだって?」
女の言葉に、眼の前が暗くなるのを感じ俺は思わずよろめいてしまう。
「ちょ、大丈夫?」
「あ、あぁ悪ぃ」
すぐ横に居た女の子が肩を貸すような形で俺を支えてくれた。
「(な、なんなの? コイツの腕…)」
「…大丈夫か。 顔色が悪いぞ?」
「何か、今の話で気になったことでも?」
「…詳しい話は省くが、どうも俺は還る場所を失ったようだ」
何故か、その言葉に女の子が反応した気がした。
ボソンジャンプに関係し、別世界からの人間という可能性があると判断された俺は、
捕虜扱いから一転して難民扱い…になったそうで、念の為医務室でチェックを受けることになった。
「…診断結果だけど、まぁ特に異常は無いわね」
「そうですか。 …別世界の人間という件については?」
同伴していた眼鏡親父 ― 後で聞いた所、プロスペクターというらしい ― が、女医に尋ねる。
「血液中からナノマシンは一切検出されなかった上、採取した遺伝情報からデータベースを検索してもHIT無し。
極めつけは義手と義足ね。 完全にこちらでは使われていない技術だわ」
そう言った女医は、再び珍しそうに俺の義手を眺める。
俺の世界ではこの型しか無かったが、この世界には別の技術が使われているのか。
ちなみに俺は上着を脱いで上半身裸…って、今気付いたんだが、
あの時俺は上着は着ていなかったんだが、何故此処にきてからは上着を着ているんだ?
う〜ん、謎だ。
「なぁ、そろそろ離してくれないか?」
悩んでも分からないと判断した俺は、俺の義手を掴んで離さない女医に言う。
つーかそんな噛り付くように見るなよ! なんか怖ぇ!
「…ねぇ」
「なんだよ?」
「それ、分解させなさい! そして私に説明させなさい!!」
「きょ、拒否する!」
「待ちなさい!」
「離せぇ!?」
どこにそんな力があるのか分からないが、俺の義手から絶対に手を放さない女医と俺は診察台の上で揉み合いとなった。
「いい加減放しやがれ!!」
「嫌よ! 貴方こそ、さっさと義手を差し出しなさい!」
「分解して戻らなかったらどうするんだよ!」
「その時はその時よ!」
「だー!話にならねぇ! 離せっ」
「んっ!? よくもやったわね! 秘技イネスクロー!!」
「うぎゃぁぁぁあ!!や、やめろ!!!」
「…何、してんの?」
「「 へ? 」」
医務室の入り口から聞こえてくる声に、俺と女医は同時に声を出しそちらに視線を向ける。
するとそこには、廊下で俺を支えてくれた女の子が呆然とこちらを見ていた。
・・・・・・
何故か微妙な静寂が医務室を流れ、呆然と突っ立ってた女の子は何時の間にか顔を真っ赤にしていた。
「…不潔」
「「は?」」
「お二人とも、仲が良いのは結構ですがせめて人の見ていない場所でお願いします、はい」
「「…!」」
落ち着いて気がついた。
俺:上半身裸でイネスに馬乗りされて押えつけられている。
イネス:暴れたせいか、白衣が脱げかけて頬を真っ赤にして…妙に色っぽかった。
「…とりあえず退いてくれ(///)」
「え、えぇ。 ごめんなさい(///)」
お互い改めて現状を認識すると恥ずかしいもんだ。
「じと〜…」
「「な、なんだよ(なによ)?!」」
半目でこちらを睨む女の子にハモッて叫ぶ俺とイネス。
すると女の子はフンッと鼻を鳴らすと、今気づいたように視線を俺の義手と義足に持っていく。
「…それ、どうしたの?」
「あ? これか? これは義手と義足だ。
機械鎧
スゲーだろ?と義手を振り回してみせると、女の子は首を振って答える。
「違うよ! それをつける原因の事を聞きたかったのよ」
「ん…これをつける原因ね」
思わず俺はあの日の事を思い出す。
「ユキナさん、そう言うのは無闇に聞くものではありませんよ」
「あ、ごめんなさい…」
「いや気にするな。もう昔の話しだし、吹っ切れたからな」
な?と落ち込む女の子 ―― ユキナにそう言って俺は一区切り置いてしゃべる。
「これは、禁忌を犯した俺の罪さ」
「え、どういう――(何これ…私…)」
「(…まだ若いのにこの表情、そこまで重い出来事が…)」
「(いやはや…彼も苦労してますな)」
シンとした医務室の中、俺は言葉を続ける。
「まぁ詳しく言っても分からないだろうから省略するが、
死んだ母親と消えた弟を無理に求めた代償、ってところだな」
「ど、どういう事? 省略しすぎよ」
「そこんとこ俺もどう説明したらいいかわからないから聞かないでくれ」
おそらくこの世界でも錬金術は存在していないだろうから、詳しい話をしてもわからないだろう。
鎧に魂を定着とか、信じられないだろうしな。
…って、空気重っ。
「まぁこの機械鎧で色々助かってるし、あまり気にしてないぜ俺は」
あの事件があったからこそ、色々な体験をしたし色々な人と出会い、
色々な想いをしった。 俺は、結構いい思いをしたと思っている。
「けど、思い出したくない事を話せてごめん…」
「いいっていいって!」
話しすぎて慣れてきてるし。
「私の方から、その部分にはあまり触れない様に皆に言っておきます」
「そうね。幾ら気にしてないからって言っても、何度も辛い思い出を思い出すのは
精神に結構なストレスを与えると思うわ」
最後にイネスがそう言うと、俺に服を手渡す。
「お、ありがと」
「それにしても結構鍛えてありますなぁ」
「ん……、まぁ一応軍人だったし、それなりに」
「嘘?!」
「貴方、今何歳?」
唖然とする一同。
「16だ。 ちょっと特殊な事情でな、軍に入って色々とやってたんだ」
「うっそ! 私と同じくらいだと思ってた」
「私もそれくらいだと思ってましたが、はい」
「意外だわね、私もそうよ」
「豆って言うな!!!」
「「「 (誰も言ってないけど) 」」」
と、数分話をした後俺の今後の対応は難民扱いと言う事を知らされた。
のでプロスさんが俺の部屋を案内するそうなので、医務室から移動した。
出て行く前に、イネスが機械鎧を後でチェックさせろとまた言っていたが、
これも故障する可能性もあるので知識のありそうなイネスに任せてみようかと思い、
後ほど行く事に決めた。
「着きましたよ。 ここが貴方の部屋となります」
お、考え込んでいる内に着いたらしい。
「このカードをこちらのスリットに通すと鍵が開く仕組みになっておりますので」
とカードを手渡れた俺は早速やってみる。
ピッ シャー
「おお、自動で開いた」
驚きの技術だな…てか楽。
「出来ればそのお部屋でジッとしていただければいいんですが…」
「あ、やっぱり?」
俺ってば身元不明の怪しい人間だからなー。
そんな人間が艦内をウロウロしたら流石に困るだろうな、警備とかが。
「誰か同伴者が居れば別ですけどね」
と言うとプロスさんは俺に腕時計の様な物を手渡す。
「これはコミュニケと言って、一種の通信機です。
これでココの機能を使って誰か適当な人物に頼んでみてください」
頼んでみてくださいって…怪しい部外者と同伴したがる人っているのかよ。
「大丈夫ですよ。 此処のクルーは他の人と大分ずれてますから」
俺の心を見透かしたように喋るプロス。
ってか、コミュニケどこから出したんだ?
「なんなら私が一緒に行ってあげようか?」
と付いてきていたユキナが俺にそう提案する。
そうだなぁ…見知らぬ人に迷惑かけるのもあれだし、ここはコイツに頼むか。
「じゃあ、そんときには連絡するからヨロシクな」
「よ、ヨロシク(///)」
ニッと笑顔を浮かべて頼んだ後、俺は個室に入る。
お、勝手にドアが閉まった。
…とりあえず、寝て、歩き回るのは明日にしよう。
備え付けのベッドに倒れこみ、妙に疲れてた為か俺はすぐ夢の世界へと飛び立つのであった。
「……」
「いやはや、若いっていいですな〜」
「なによぅ!! げしっ(///)」
「ひらりん♪ …いえいえ、恋せよ若者って事ですよ」
「な、何言ってるのよもう!! ガシッ(///)」
「ひょい♪」
つづく
ちゃんと続くかな?!(続かせろよオイ)
とりあえず、ユキナはヒロイン確定ですな。
ちなみに、ストーリーはアニメ終了後と劇場版を繋ぐストーリーTHE BLANK OF 3YEARSをメインとしています。
ナデシコは遺跡を飛ばすために、遺跡を搭載した…メインブリッジを太陽系外へと飛ばすんですが、
この辺記憶があやふやです。
メインブリッジを飛ばしたんだと思うんですけど、ストーリーが進むにつれ、
ゲームでブリッジでの情景が描かれてるんです。
あれがサブブリッジなのか…どうなんだろう。形は一緒でしたけど。
もしかしたら、ナデシコの一部のブロックに遺跡を搭載して飛ばしたのか。。
どっちだろう…。わかんねぇ(,,゚Д゚)