草臥れた燕尾服にはこの寒さはちと辛い。帝都の乾いた冬と違いアメリカ西海岸の寒風は北極圏の重さを以って吹き付けると誰かが言った覚えがある。だから波は大荒れに荒れ、出航日としては最悪の環境だ。


 「小村さん小村さん!」


 真冬のニューヨーク埠頭、出港を告げる汽笛の鳴る中、大西洋航路を跨ぐ大型客船のタラップを一段飛ばしで駆け上がりながら同僚の金子堅太郎が近づいてくる。甲板に辿り着き片手で新聞紙の束を抱え込みながら座り込んでしまい、喘々と息を継ぐところから今日の日刊は首尾よく手に入れたようだ。座り込んでしまった彼に肩を貸す。


 「金子君……いゃ…………重い! 君は米国で肉を食いすぎたのではないのかね?」

 「御冗談を、金貸し相手に交渉して身も細る思いですよ。」

 「すまんすまん! 何しろわしゃあ5尺の小男だけに力は滅法なくてなー。」


 自虐的な言葉だが、欧米人の外交官にとっては底の知れない知恵を持つ道化に見えるらしい。だからこの口調を自分のスタンスとしている。それが僕・小村寿太郎……。






蒼き鋼のアルペジオSS 榛の瞳のリコンストラクト
 

第二章 外交破戒








 日清戦争の時も、今回の日露戦争と呼ばれるであろうこの戦でも外務官僚として動き回っているが、この小背故侮られたものだ。だが僕は生れてよりこの背格好を気に入っている。良く言うではないか『大男総身に知恵が回りかね』。最近は『エンペラーの小人(ノーム)』と綽名をつけられ警戒されているのが迷惑なほどだ。
 二人で客船のタラップが畳まれていく様を眺めながら。持ってきた新聞を広げる。本来、僕たちはこの亜米利加(アメリカ)合衆国の一保養地、ポーツマスにてこの国の大統領、セオドア・ローズヴェルト氏の仲介の元、ロシアと講和交渉を行う予定だった。米国も彼も講和を仲介したという名誉と実績は是非とも欲しい。
 なにしろ国力精強のアメリカ合衆国で足りないものは名誉と実績だからだ。彼の国がやっきになってそれを手に入れたがる理由は簡単、国力云々だけで国際政治は押し渡れないということ。たかが建国100年の実績無き新興国は仲間にすら入れてもらえないのだ。
 ここに世界の中心、大英帝国を始めとした欧州列強の作り出した巧妙なルールがある。王室外交等その典型的な例だろう。ルールを守らない国は文明人ではなく蛮族(バルバロイ)である。ルールを出し抜くは結構! しかしルールを守らないのは人間ではない。これが今の世の常識だ。そして彼の国アメリカ合衆国はそれを覆しかねない力をもつ。……これはルール違反ではない。力こそ正義(マイトイスライト)の【ルール】も存在するのだ。欧州列強が距離の差があるとはいえ新大陸の雄を敬遠する理由の一つでもある。
 では何故、圧倒的に弱小でありアジアの小国である我が国が相応の礼を受けるのか? これも簡単。2700年続く王朝と皇統、半ば張ったりだとしても欧州の原点ローマ帝国の時代から存続する国家に欧州人達は驚きと憧憬を覚える。他国の伝統を軽んじては己の伝統も誇れぬ、黄金の国ジパングの名も使えるだろう。
 話が逸れた。新聞の記事のいくつかから相違点を探し、記者の新聞社のそして世論の動向を探る。外交官として基本事項であると共にセンスを要求される作業だ。己の固まった頭では自分勝手な推測をしてしまう。心を空にし流れ込んで来る情報を頭で時計の歯車の如く組み立て答えを導き出す。


 「しかし厄介なことになりましたな。欧州列強はいざ知らず米国、さらに中立国にまで広がっているとは。」


 米国有数の大新聞を開きながら金子が呟く。新聞の中折に挟み込まれた風刺画、世相や国家、人物を盛大に皮肉ってみせる蒸気時代の1コマ漫画である。一枚の紙に日本ではとても庶民に使い捨てで配れない数色刷りのカラーで山羊の角を生やした乃木大将が小さなロシア人を土鍋に投げ込んでシチューにしながら『次の具材は何だ?』と読者に宣している画、またあるものは陛下と乃木大将が丸い地球の裏側から顔を覗かせ欧州に向かって手を伸ばしている画。
 民族の特徴をよく描いた欧州人達が震えあがり、頭を抱えながら怯えている様はコミカルだがこれが欧米列強庶民の気分をよくあらわしたものであろう。吹けば飛ぶようなアジアの小国が多少遅れているとはいえ国力強大なロシア帝国をコテンパンに叩きのめしている。既にロシア帝国は常備兵の数割を失っているのだ。数にして30万人以上、普通の国ならとっくに講和を持ちかけるか下手をすれば降伏しているだろう。
 そう、異常なのだ! 彼らが見下している有色人種が白色人種に連戦連勝し、自分達の常識を覆しつつある。購読者目当ての大衆紙(タブロイド)ならともかく、大新聞ですらこんなものを挟み込むというのは。その事実が脅威としてアメリカ民衆の下層から上層へむけて【快進撃】している証拠だ。そして各新聞社のスポンサーや購読層から各国の傾向を予測する。その事実はひとつ、


 既にアメリカ合衆国に中立を期待することはできない。


 何故か? 唯でさえ民意の強い国だ。遠く太平洋を隔てているとはいえアメリカ市民は危険な隣人を容認しない。それが有色人種国家なら尚更、なにしろ有色人種の現地民を搾取、凌虐して国家を打ち立てた前科がある。彼ら新大陸人の有色人種への侮蔑と優越感の裏側には恐怖と被復讐心が隠れているのだ。そしてどの新聞もどの新聞も一様にこんなものを挟み込むのは合衆国政府が自らの国で講和会議ができなくなりつつあるという現実を如実に表している。
 何故か?? この亜米利加合衆国という国が欧州からの移民で成り立っている。世界地図から見て狭い欧州の中でも様々な民族、言語、文化が混在する。それを合衆国という枠組みで纏めているのが現状。そして地方新聞は様々な元移民の言語とアイデンティによって購読者層をがっちりととらえている。英語とWASPの論理に則ったこの国の大新聞は実は国外に興味を持てる中流から上流の人々の物だ。
 その地方新聞、大衆紙までもが一様に同様の風刺画を挟み込む。つまり国家、民族と言う枠組みを越えて日本脅威論が広がっている証拠ということになる。唸っている金子に僕はおどけて見せる。


 「で、我々は大統領閣下に投げ捨てられてウィーンくんだりまで行くわけだ。」

 「講和会議がどこで行われようがあまり関係が無いのでは?」


 大西洋航路の客船、そのデッキでしゃがみ込み新聞を広げている二人、どう見ても不審者に見える僕たちに声をかけてきたのは……可愛らしい日本語だった。しかも聞き覚えのある。


 「橙子嬢ちゃん?」

 「はい」


 コクリと首を傾げ米国少女の他所行きドレスに身を包んだ乃木将軍の孫娘が其処にいた。(けぶり)のボンネットが可愛らしくこちらに寄ってくる。上背は僕よりさらに低いが、この2年全く彼女の背格好が変わらない。育ち盛りの子供時代など無く、凍りついた幼さのような雰囲気……ある意味神秘的とすら思えるモノを持っている。心底驚いたがそれを隠し、いやそれすら道具として話しかけた。


 「驚かせんで下さい。いつ此方へ?」

 「先ほどです。ポーツマスだろうがウィーンだろうが会議は変わらないでしょう? どうして小村の小父様はそんなに渋い顔をなさるの?」


 居住まいを正し思考を紡ぐ。この娘、絶対に侮ってはならない。初めて帝都で会った時よりその深謀は危険とすら感じているほど。そして彼女が何故ここ居るのかすら疑ってはならない。最近思ったのだが彼女は時間や距離といった概念すらないように感じるのだ。一言一句を吟味して答える。


 「この講和を全世界が注目せざるを得ないからですよ。たかが新興国の一地方都市(ポーツマス)でなく欧州の王都【ハプスブルグのウィーン】を会場とするあたりローズヴェルト大統領も大した意気込みとみていいでしょう。だからこそ容易ない事態と考えているのです。御嬢ちゃん?」


 これだけで彼女は本質を察する。日本軍の暴れぶりが世界の注目を浴びていること、その行動をロシアではなく欧米列強が脅威と感じていること、講和会議場とホスト国が異なること、そして彼女の【組織】が注目を浴びざるを得ないこと。最後の『御嬢ちゃん』は無邪気にそれを我々に押しつけた事への皮肉というものだ。
 クスリと笑うと嬢ちゃんは一枚の写真と紙束をポーチから取り出す。それを金子に渡すと言葉を続けた。ひとつは御国とロシア帝国の戦争計画書――今となっては国家破産計画書――だ。そして写真は海上をあり得ない速度で疾駆し、光線砲でロシア艦艇や商船を焼き払う【ウネビ】のシルエット、内容を見て絶句している金子からそれらを受け取りざっと目を通す。彼女がいきなり結論を言いだした。……結論じゃない、これは御国すら覆せない決定事項だ。


 「少し揺さぶりをかけてみましょう。バルト海と黒海を荒らします、特に2つの要塞港を。私達が東洋だけに存在すると思わないようにすればロシア皇帝も音を上げるでしょう。」


 つまり彼女の組織を仄めかせろ……と言う事か。交渉しこれを止められるのは僕・小村寿太郎だけだと。ロシアの内海ともいえるバルト海最奥、黒海沿岸……ここでロシア商船、軍艦が沈み続ければロシアは海への出口を失う。特に欧州への穀物輸出港であるオデッサ、欧州の文物の輸入港であるペテルブルグに閑古鳥が鳴けば経済への被害は甚大になる。そしてそれを阻止する事はロシア一国は愚か全世界総掛かりでも不可能だ。ただモヤモヤした懸念が頭に浮かび、少し考えた上で口にする。


 「しかし良いのですかな? 御爺様にはちゃんと話をしましたかな??」


 皮肉めいた冗談のつもりだった。彼女の正体や行動、ありえる未来については乃木将軍と彼女自身の口から聞いている。そして乃木将軍との個人的な飲み屋での会話から彼の考えそのものも聞いた。
 僕はハリマンとの密約を守るつもりはなかった。彼には借款をはじめ多大な恩義があるが満州を得なくしては御国の将来は成り立ちえないと考えたからだ。時は帝国主義! 植民地なき国は即座に二流の烙印を押され自らの身を守ることすらままならなくなる。それがアジアの一小国ならなおさらだ。彼にはロシアから少量でも奪う賠償金から金を返すつもりでいる……そう考えていた。
 しかし、あの話を聞いた直後から考えを変えた。『驕れる者久しからず』とはこのことか。御国に富をもたらす筈の満州を騒乱の地に変え、挙句、出来もしない喧嘩を買うことしか頭に無くなり全てを失った。我等の後を継ぐはずの者の馬鹿さ加減から考えるならばこう言うしかない。

『列強の器ではない』

 そう考えを分かち合った乃木将軍が彼女を危ういと評していたのだ。そうちょっとした出来心のつもりだったが……
 彼女への効果は覿面(てきめん)だった。顔色が変わり感情的に(まく)し立て、席を蹴ったのだ。追いかけようと船内に入ったが既に彼女の姿は影も形も無い。僕らしくもなく大仰に溜め息をついて声をかけるが……姿を現さないか。仕方がないと諦めてデッキに戻ると、あっけにとられた金子が待っていた。散らかした新聞が海風に煽られ舞い飛んでいく。


 「小村さん? 今のは……」

 「金子君、ウィーンでの会議は想像以上に厳しいぞ。」    渋い顔で答える。


 恐らく橙子嬢と乃木閣下の間で何かあったのだろう。祖父相手に『しりません! あんな奴!!』もないものだが信じがたい事態が起きたと考えてよさそうだ。大西洋へ出ていく船の舳先を荒波が襲う度、僕はその姿が御国の行く末を現しているような気がしてならなかった。





―――――――――――――――――――――――――――――






 春も近いというのに今年の冬は長い。合衆国国政の中枢にして最高権力者である大統領官邸たる白亜の宮殿(ホワイトハウス)、その執務室のひとつで私、セオドア・ローズヴェルトは散らかしてしまった書類を片付けている。
 原因は簡単、先ほどまで私を説得していた大使共を帰らせた後、自らの決定に吐き気を覚えて机上に丁寧に積まれた書類に怒りを叩きつけただけだ。思わず机に両手を付き言葉を絞り出す。


 「コムラ、済まん……。」


 勝者には勝者の報酬があり。敗者には敗者の枷が科せられる。戦争というものは古今東西、万古不変そういったものであり紆余曲折すらするもののその結果を動かすべきではない。たとえ過剰、過小と騒がれてもだ。しかし、私が決定しサインしたモノは……


 勝者から全てを奪い、しかも未来にまで枷を嵌める代物だった!


 私自らこの国全てを牛耳る独裁者なら話は違っていただろう。例えばロシア皇帝、『皇帝怒りたもう、神罰したもう』。しかし私は合衆国大統領なのだ。独裁者でなく合衆国国民における総意の代弁者でしかない。その国民が日本を恐れ、何とかしろと要求している。支持率がこのところ低迷し、法案も予算も思うようにならない。そんな現状にポーツマスの講和を主催したという功績は特効薬になる筈だった。
 しかし今、それすらも危うい。国民の声を無視して日本優位の講和を進めれば、議会は国民の声を無視した私を大喜びで弾劾し大統領の座から追い落とすだろう。だからこそコムラを名誉の文句でウィーンに追い払い、彼が船中にいる間に中立国たる信義を踏みにじる真似を行った。
 大使たちはポーツマスでこの草案の宣言をした後、合衆国の軍艦でコムラの船を追い抜いて一足先にウィーンへ到着する。彼が全てを知るのは手遅れになった後だ。
 一枚の書類に思わず目を留める、アーサー・マッカーサー・フィリピン総督の報告書。彼は日本軍の戦備や実力を調べ、恐るべきかつ我々が見習うべきものと結論付けた。彼らは50年進んでいるとまで言い切ったのだ。そして彼の息子が遭遇した異常事態、実存主義者であり宗教とほとんど縁のない彼が神の御業とまで書いた所業、それを目にした息子を替え玉を仕立ててでも至急帰国させ会見の時間を与えて欲しいと知らせて来たのだ。最後に彼はこう結んでいた。


 『ジェネラル・ノギと大日本帝国を切り離すべきである。我等が祖国(ステイツ)に彼がいるべき場所などないのかもしれない。それでも彼が背負った力と責務は一国の長の重みが小石のごとき軽さに感じるほどのものである。この重みに耐えられるのはあの大陸人と祖国だけであろう』……と。


 片づけ損ねた一枚の紙が床にある。私がサインした文書の写し。ドイツ、フランス、ポルトガル、そして我が国、協賛国としてオランダ、スペイン、イタリアの名すらある。ここに加わっていない主要国は今回の戦争の当時者である2カ国とあの大陸人の大帝国、交渉国のオーストリア帝国位なものだ。そして忌々しいことにあの大帝国(ブリテン)は大使をここに寄越すのではなく。大使館の一書記官をここに送り込んで来た。その意図は明らか、


 『そちらに加わることは無いが黙認はする。』


 実に大陸人らしい2枚舌外交(ダブルスタンダード)。外交は言葉を賭け金としたポーカーとはいえ、同盟国たる日本帝国を己の最高のタイミングで裏切りしかも彼らに恨みを持たれないよう手を打つ悪辣さに再び吐き気がこみ上げてきた。震えながらその紙を持つ。最後に書かれた私のサイン…………
 しかし私はその書類にサインした。合衆国は常に正義を追求する、それが大陸人達から血をもって自由を獲得した我等の願いだからだ。しかし、それには一定の条件が付随する、即ち合衆国の利益を考えてという一点だ。それを行うのがアメリカ人でありアメリカ合衆国大統領と云うべき者なのだ。
 紙を持ったまま窓辺に近づき、未だ雪の消えない大統領府の庭に目を向けながらもう一度私は声を震わせる。


「コムラ……済まん…………。」





◆◇◆◇◆






 この翌日、米独仏葡蘭西伊7カ国によるポーツマス宣言が発表される。それは日露戦争において戦場となっている満州・朝鮮半島の国際共同管理を謳ったものだった。しかしその実態は…………欧米列強による日本帝国の中華大陸全てからの締め出し。時の大英帝国は即座に不快感を表明、だが、反対でないことを言質にして各国は行動を開始する。




―――――――――――――――――――――――――――――






 真冬の凍りつくようさ寒さの中、霧を纏い海から現れた魔物が街を襲う。極寒の最中にフィンランド湾の厚い氷塊を突き破り姿を現した艦、帆船と近代軍艦の折衷作のような最新鋭とは云えぬ軍艦によってロシア最大の軍港都市クロンシュタットは業火に焼き尽くされつつあった。
 第2太平洋艦隊(バルチック艦隊)が出港し僅かな軍艦しか残っていない軍港を断続的に光の刃が襲う。光が煌めく度にロシア海軍の軍艦が、舷側を艦橋を砲塔を切り裂かれ屑鉄の塊として水底に沈んでいく。次々と発射される各種掃射弾頭が上空で展開し電磁波、熱波、プラズマを街に浴びせ建物ごと人間を焼き払っていく。


 「ロシアバルト海海軍基地の覆滅終了……黒海方面も順調、状況確認の後、大西洋ロシア国籍船への攻撃を開始。」


 ウネビそっくり……いやウネビそのものといってよい艦の甲板で橙子が呟く。橙子? 何故彼女がアメリカ沖合、日本本土、黒海、そしてバルト海にまで同時に存在しているのか?
 そう、コアユニットA248-343-300Hの索敵ユニットはナノマテリアルを追加し既存の設計プログラムを施すだけである程度その形状を変えることができる。“橙子”を救いそして取り憑いた索敵ユニットもその一つ、ならばこの取りついた素体の生体設計図(DNA)をベースに自らの代弁者を作り出せばよい。コアユニットの通常の機能だけでも20を超える索敵ユニットを常時展開できる。現状、ナノマテリアルは自らの艦を構成していたものを構成素材再構成(リコンストラクション)して使わざるを得ないが、もともと人間が作り出した数万トンの超大型戦闘艦を模し得る量をこの世界に持ち込んでいる。たかが人間の重量で40キログラムにも満たない橙子の質量など誤差の範囲内だ。


 「ペテルブルグ攻撃は却下。」


 首都攻撃を行えばロシア帝国の戦争指導は不可能になり日本帝国が勝利する。その日本帝国もロシア全土はおろか満州すら呑み込めないのは明らか。結果、講和という戦闘停止を経て日本帝国の限定的勝利をもって戦争は終結するものとコアユニットは想定している。多国間戦争という彼女の祖父の言動が懸念として挙げられるが通信手段すら稚拙なこの時代において状況をコントロールするプレイヤーは存在しない。そして外交という概念は我々に実装されていない。


「元の時代なら情報収集も楽なのに。」  思わず“彼女”の口調になる。


 我等にとって大海戦時の情報収集は楽なものだった。無機基盤の上に構築されたコンピューターでは我等の本体かつ中枢である量子コンピューターに敵わない。そもそも戦う前から人類の繰り出す兵器を無力化できていた。ハッキングによっていくらでも人類の情報を得られたのだ。しかも人類に気づかれることすらなく!
 しかし、この時代にはそんなものはない。人工衛星どころか無線や電話線が最新技術の時代なのだ。本来の霧としての役割上、コアユニットは過去のデータを大量に保管しているが、人類……というか人そのものが動き回って情報をやり取りする時代ではリアルタイムで動く状況に対応しきれない。なにもかもが遅すぎるのだ! 正直、人類に合わせて状況を動かすことが出来ていないのが現状である。
 こうして私、橙子が思考をコアユニットの主人の如くトレースも珍しいことではない。もともと私たちの意識は一つでありその分割しても情報、意思が共有される。例外は融合の果てに不可逆の存在となってしまったオリジナルだけだ。
 ウネビが通常状態に復帰したとの報告を受け潜航を開始する。今度の目標は大西洋……戦争は終わっていない。








あとがきと言う名の作品ツッコミ対談


「どもっ!とーこです。いよいよ始まりました第2章!!なんだけど、ナニコレ?舞台も話も全然違うじゃん。」


ども、作者です。続いて2章を拝読していただいた読者の皆様に感謝の極みです。(土下座。)んー日露戦争における戦闘シーンは1章で終りだよ。長春進撃も対馬もスルーした。ついでに樺太侵攻はなくてウラジオストク前面に2個師団くらいが陣を敷いてる。ロシア極東軍単独ならほぼ詰みの状態だね。何しろ兵士がいても兵站も将校団も壊滅したから長春は明け渡してハルピンに雪隠詰めになってる。日本軍も同じく、金がない兵士がない補給が届かないでこっちも攻撃不能。1905年1月で事実上戦闘が停止してしまった。結果、ローズベルト小父さんの仲介だけで双方講和の席に着いた筈だったんだ。


「でもポーツマス講和会議は成らなかった?」


そ、日露戦争で第二次世界大戦のような国家総力戦やったようなものだからね。規模は同じでも内実が桁違い。太平洋戦争でいうなら開戦その日にアメリカ西海岸が何故か日本陸海軍占領下になった位あり得ない状況だからアメリカで講和会議どころじゃなくなったわけだ。


「そして今章の主人公は小村寿太郎全権大使かー。よくもまぁ有名人ばかり出てくる作品だこと(呆)」


途中でじーちゃまに代わるけどね(汗)戦争を終わらせるためには彼が出てこないと話にならないから、金子さんや高橋さんもちょい役で出番がある。渾名とかは作者の創作だけど「坂の上」であくの強いキャラだったから其れを参考に動かすのは楽しかったね。


「でもなんでこっちの橙子sが奉天の状況をアップデートしてるのよ? たかがオリジナルの暴走を組み込む必要はコアユニットには無いんじゃない?」


コアユニットの目的は戦争の実装なのは解るよね。彼女の戦争はまだ終わっていない。奉天で感情プログラムと凍結を打ち破って“橙子”が顔を出したけどこれはコアユニットにとって完全な予想外かつ喜ぶべき出来事だった。彼女は霧の力を覆したのさ。本来人間ならば警戒すべき存在と見るけど霧にはそもそも生存本能がない。そして伏せてはおくけど人類評定で問題となった事項を橙子が可能性という形で突破点になるのではないか?と思考したわけだ。適当に選んだだけの少女がとんでもないジャックポッド(大穴)だったわけ。だからコアユニットは最優先で彼女の行動及びこれからの一生を解析し続けることにした。彼女からあらん限りの戦争を引き出す。それが国家間戦争だろうが家庭内戦争だろうか交通戦争だろうか構いはしない。彼女の一生は戦争に縛られ続けることになる。


「交通戦争って意味が違う。」


あ、それは洒落のつもり(←菓子盆激突w)アタタ……だからこそここで外交戦という世のSS作家様方がやることはない筈のモノをやるつもり。実際難易度は一章と比較にならんし読者の皆様方がついてこれるか微妙なところだけど割とサクサク進んで面白いところだけ抜粋して構築しているから読み物としてはいけるんじゃないかと思ってる。
だからちゃんと橙子も今後外交戦を戦う必要性があるし今のうちに勉強しときなさい、とーこ?


「うわ読者どころか花の10歳児にこんな無茶言うよこの作者。」


ま、勉強であって参加ではないからいいんでない? 流石にこの時点で正体明かせば世界が潰れちゃうしね。そんな感じでちょろちょろ橙子が見え隠れするから。」


「さてっと♪作者が無茶苦茶にした日露戦争、どう始末つけるのか?ツッコミの冷や水用意して頑張りますね〜。」


1章11話暴走とか12章独白(毒吐く?)とかイレローイレローと砲口突きつけて脅していたヒロインに言われたくないやい」


「作者脳内妄想をリフレインすなー!(←菓子盆乱舞ww)」



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