4回、5回と全体会議が繰り返され、個別会合や実務者協議など星の数ほど行われている。数日前の決定とあの悪夢のごとき秘密協約によって会議の流れは定まりつつあった。


◆◇◆◇◆



 1、ロシア極東地域における特別区での門戸開放、機会均等の実施。

 要するに満州・朝鮮からの一時的な警察力としての軍隊を除く日露両軍の即時撤兵と満州の中立化である。日本は既得権益としては戦った満州はおろか、朝鮮半島までも勢力圏としては放棄しなければならないことだ。日本にとって国防上における最低限の緩衝地域こそ作れたものの、半島を既得権益と考えていた国士連中から見れば憤激の余り倒れかねない内容。なにしろ軍ではないとはいえ経済的に半島にロシア資本が入ることが認められてしまったのだから。最悪この後の政治状況ではロシア軍まで入ってきかねない。そうすれば日露戦争は本当の意味で日本の負け戦になってしまうのだ。
 いや……すでに負けている。ロシア極東地域の一部として文言が盛り込まれた以上、列強は満州朝鮮をロシアの勢力圏として黙認しているのだ。


 2、日本帝国における戦役補償基金の設立

 賠償金を誰がどれだけ払うか? 内実こそ秘密会議で決まったことだが表面ではかなり揉めた。僕はあくまで賠償金としてロシアが払う体裁を取るように求め、ウィッテ伯爵は逆に樺太を割譲することで済ませようとした。
 嬢ちゃんの史実から考えれば妙な話とも執れるが、ロシア帝国としては自らを散々叩きのめした軍事技術が列強全てに無制限に拡散することを恐れたのだ。なにしろロシア帝国は総合では列強でも下位に属する。自分より上の国家が手の届かぬほど先に進んでしまうことを考えるならば少々の領土でその技術の管理権を得て、自らはほかの列強に高額で売りつけたい。自らも多額の戦費を使っていることを察すれば当然の反応だ。個別会合でロシア皇帝の裁可も得ずに打診してきた位なので伯爵の焦りは相当なものだったのだろう。
 結局、講和会議に参加した列強が分担して基金を創設し、日本国債の軽減に名を借りた軍事技術の特許料として支払う運びとなった。特許証書は武装中立で名高いスイスのジュネーブに置かれる。態々スイス連邦首相を呼びつけて条約にサインさせた程だから、隠された史実というモノから考えれば御国初めての多国籍間条約なのかもしれない。額は8億円、多くはないが帝国経済が一息つける程度にはなる。
 逆にポルトガル大使はあっさりと参加を辞退し身を退いた。一瞬せっかくの好機を何故? とも考えたがこれが二流に落ちた国の処世術なのだろう。おそらく裏で英国と利権の話、澳門(アモイ)とアフリカの植民地で何らかの有利な取引を得たに違いない。

『得るものはあった。欲を出して列強に目を付けられるよりはましだ。』

 さらに言えば隣国のスペイン王国、友好国であり、仮想敵であり、競争相手でもあるかつての海洋帝国に一歩先んじたことは大きいと大使は満足した可能性もある。なにしろスペイン大使はこの会議に呼ばれてすらいないのだから。会議に参加し、秘密を共有しただけでも大きな外交的勝利だ。


 3、日本の独立と安全保障の再確認

 一見、日本にとって当たり前のことを態々持ち出して来たのは業腹と言える。

 『日本は独立国です。植民地獲得に名を借りた侵略は許されません。』

 当たり前のことを欧州各国……つまり世界の代表者が世界に宣言することで、今までは侵略されても文句の言えない国だったことが強調されてしまったのだ。これは日本に【列強に入る資格なし、2流の国家として分を弁えよ】と公式で言われたに等しい。
 最後の文に対馬海峡の管理権とその担保としての大韓帝国からの巨済島の割譲が付属しているが外交としては完全敗北だ……畜生! 自称国士共は任那日本府の再建と浮かれるだろうがそんな状況ではないし、そもそもいったい何時の時代か!? と問い糾したくなる。


 4、大日本帝国の欧州国家への所属

 正直とんでもない話だ。嬢ちゃんの史実は愚か、世界や歴史のどこを探してもこんな奇天烈な文言はないだろう。しかし現実は容赦ない。オスマントルコ帝国より日露戦争の祝賀金名目でマケドニアがトルコの宗主権ながら日本の植民地として認められたのだ。
 しかもマケドニアの内、トルコ首府イスタンブールに程近い東マケドニア・通称トラキア地方に至っては大日本帝国領として併合し『大日本帝国欧州領』として成立する。欧州に正式な領土を持つから大日本帝国も立派な欧州の一員である――という屁理屈である。
 当然【本土】扱いなので国民を住まわせることが前提、まずは屯田兵とその家族・親族含めて40万人、先の国債の軽減が吹き飛んでお釣りがくる程の予算を組まねばならない。できねば我が国は二流どころか三流国家として扱われる。総理の桂さんにどうやって話せばいいものやら頭痛が止まらない。
 チャーチル卿は『要は情報の段階的開示と国民意識の誘導ですな。』と笑っていたが、その話からすれば既に手は打っているらしい。敵国どころか同盟国までにその謀略の手を伸ばす彼の国の強かさに怖気が走るほどだ。


◆◇◆◇◆



 思い返すならば講和条件としては悪くは無い。満州が国際委任統治とされ、表向きロシア軍は入る余地は消えた。ついでにロシアは極東地域における全海軍力の解体という枷を付けられたのだ。海軍がなければ海を渡り御国を脅かす事はできない。ウイッテ伯爵は強硬に反対したが、チャーチル卿から一言二言囁かれると押し黙った。彼の囁きの内容、『では交換条件に日本にクリミア半島を差し出しますかな?』
 出来る出来ないは兎も角、そんな事を講和条件に書かれたら間違いなく世界はロシアの大敗北、日本の大勝利と判断するだろう。つまり『その程度の事で世界を破滅させるつもりですかな?』と恫喝したのだ。
 そして日本は時の彼方の世界からすれば悪しき因縁と呼べる地を切り離す事が出来る。もちろん世界はこれを日本の敗北ととらえることは無く、日本は踏み止まったと評するだろう。列強各国の恫喝にも近い要求に屈しなかった日本という名声だ。その証拠が大日本帝国欧州領と対馬海峡の管理権、さらにロシア一国どころか列強中から払わせた賠償金という事になる。
 ただ御国が列強となる道は永遠に閉ざされた。現在列強と呼ばれる国家全てはもはや御国を甘くは見ない。他の列強を差し置いてでも警戒し監視する対象として見る筈だ。そう嬢ちゃんが為だけに…………


 二流――それが御国・大日本帝国に課せられた枷である。


 この会合の後、これらの試案は条文化されホーフブルグ講和条約として調印される。ウィーンの名をつけないのはウィーンで調印された条約が多すぎる事と、宮殿では外宮にあたるこの場所で行われたことで欧州の外の条約を印象付ける思惑があるのだろう。体面上、


 『ロシアと日本の辺境の争いを、態々欧州が取り持った。両国は感謝すべき。』


 こうしなければ白人列強が世界を制しているという幻想を維持できないのだ。


 
西暦1905年 8月 15日 ホーフブルグ講和会議調印
   


 
戦争は、終わった。とりあえずは…………
   





―――――――――――――――――――――――――――――






 講和会議の終了後、僕は各国大使と宮殿近くの酒場にいる。……と言っても元は貴族の館、豪勢な調度と品の良い酒肴、そしてなにより徹底した防諜対策が取られた隠し部屋だ。米国大使がバーボンのグラスを傾け話を切り出した。


 「では各種兵器のサンプルはシンガポールに移送、英米仏独の4カ国合同艦隊が護衛につきます。我が国は勿論、英国も直接護衛だけでなく間接護衛隊分、艦艇を増強するつもりです。」

 「了承する、途中寄港はセイロン、ポートサイド、ツーロン、スカパ・フロー。最終目的地はヴィスヘルムスハーフェンとアナポリス。そして我がリバゥ。」


 アルメニア産のブランデーが入った杯を揺らしながらウィッテ伯爵が頷く。


 「ドイツ大海艦隊とアメリカ大西洋艦隊はスカパ・フローで待機してもらいましょう。戦艦の持ち込みは許可しますが節度を守るように、交歓艦隊に名を借りて動くことを希望する。」


 チャーチル卿が紫煙を吹かしながら釘をさす。


 「ロシアの船不足は今に始まったことでもないので我が国が動きましょう。英米独では宣戦布告同然です。」


 フランス大使が飲み干したワイングラスを卓に置いて横へずらしボーイに返す。各自思い思いの酒を呷り雑談という名の策謀に興じる。通訳がいるが当然彼らは物扱い。国家間の機密を覗かねばならない以上、当分彼らは監視がつく。彼らを道具として全権大使としての最後の折衝、乃木希典(かれ)の処遇を話し合う。外交交渉において最も後ろ(くら)いモノ、秘密情報の共有と分配が始まる。


 「しかし、乃木大将(ゲネラール)がそんな単純に動きますかな? チャーチル卿の話は腹立たしい限りですが、あの崩れかけのバルカンを安定させる一点においては納得できます。しかし彼は大功を成した、次は政界と考えるのが普通でしょう?」


 ドイツ大使の懸念はドイツの国情そのものだ。彼の国は軍人と政治家を隔てる垣根があまりにも低い。兵営国家といわれる所以だ。それに僕は答える。


 「彼は将軍にすぎませんよ。政治家の素養もないし国を切り回すこともできない。一度台湾で失敗しておりますしな。意気盛んに赴任したはいいが、木っ端役人と大喧嘩の挙句、半年で辞表が届いたほどです。」

 「!……大丈夫ですかな? そんな素人を送り込むなどと。」


 僕の言葉に面食らったようにアメリカ大使が聞き返す。当然だろう? せっかく用意した舞台がすぐ倒れては困るのだ、この講和の真の意味がなくなってしまう。僕は大使を宥めるように話す。ふと、バーテンダーの後ろにある棚に目が入る。洋酒ばかりだ、越後の燗でもあると嬉しいんだがな…………


 「実務をやるのはわが国の官吏です。彼はただ傀儡として座っていさえすればいい。あなた方の国家と将軍を切り離す論にはもってこいでしょう? そして彼にはそれを覆せる素養もなければ実力もない。そして彼女も将軍と共に動くはずです。」

 「まった! それでは本質的に変わらないではないか。むしろ欧州にとって災厄の方がやってくることになる。」


 慌てたようにウイッテ伯爵が言葉を発する。極東が収まったら今度は欧州ロシアだ、状況はより悪くなると慌てる彼にフランス大使がこめかみをなぞりながら答える。さながら考え込む探偵の仕種だ。


 「彼女は逆に日本に残るかもしれませんよ。なにしろ人口100万に満たない小国で何ができます? 彼女は日本を勝たせるためにひたすら武器、弾薬、燃料を送り込み続けた。人間を送ってよこしたとはコムラは一言も言っていない。そして今のところ契約者は将軍だけと見た。」

 「左様、彼女はもしかしたら人間すら作り出せるのかもしれない。だがそれは解らない、だからこそ試させるのです。ないないずくしの植民地で彼女が何をするのかを。ボク等はそれを観察し必要な技術を要求すればいい。彼女も本望でしょう、なにしろ我々を150年間は導き発展させねば思い描く未来を得られないのだからね。」


 チャーチル卿の合槌に皆が納得する。呆れたようにドイツ大使が言い放った。


 「我等も傲慢になったものだ。150年後の子孫に無理難題を押し付けてのうのうと栄華を欲しいままとはね。」

 「栄華になればよいのですがな? 今から10年後、40年後世界は煉獄と化す。コムラの言う世界大戦によって、椅子から蹴り落とされる者は誰となりますかな??」


 フランス大使の警告はドイツ大使の視線の火花によって返される。なししろ欧州最大のライバル国同士、しかも2つの大戦の発端は彼らドイツ帝国なのだから。御度戯る様に両手を上げアメリカ大使が発言する。気楽な物言いは最終的な勝者が自らの国であることを僕の情報から確信したのだろう。


「アメリカオブナンバーワン! 良い響きですが彼女を相手するには些か心もとない。勢力争いは必要ですが一定の枠をつける必要がありますな。全国家が参集する組織を作りその中心で我々が全てを動かす、そんな物が必要と考えます。」

「またルール創りですか? とりあえず貴国が得たものを呑み込めねば信用なりませんぞ。私はともかく我が国はまだ貴国を列強とみなしていない。」


 ドイツ大使の揶揄を彼は軽く受け流してみせる。米国は豊かであるが実績はない。その点を鋭く突くドイツ大使に薄く笑いながら言葉を返した。


 「何れ解ることです。」


「二度の世界大戦、冷戦、地域代理紛争、非対称戦争、なるほど……」


 耳を擦りながら何か思案していたチャーチル卿がスコッチを呷り、そしてお代わりを頼みながら呟く。当然この呟きは皆を注目させる前座に過ぎない。全員の注目が集まると芝居がかった調子で発言した。


「戦争……戦争、戦争! あぁ賢明であれ人よ、愚かたれ人よ、と古来よりの詩人は宣いましたな。」



 皆が訝る。先ほどの言葉、それ自体は既に僕の口から話され、それがどんなものであったかも知識として僕が教えている。僕らが歩んでいく未来の戦争のカタチ、


 「どうしました?」


 伯爵の疑問にお代わりのスコッチのグラスを少し傾けてから彼は発言する。


 「何、彼女が何をしたいのかなんとなくね。彼女は戦争を欲している。

 「!!!!!!」


 ここにいる誰もが一度は考え首を振った事柄。いくら彼女が人でなかろうと生命である。遙か高みから見下ろし、手を伸ばして命を弄ぶ。己の行く末や政治家、あるいは英雄と呼ばれる何かに急き立てられるように戦争を行ってきた今までの物とは明らかに異質なモノ。それを行える――いや、行う傲慢が許されるのは――改めて皆が否定しようと口を開きかける前に彼は決定的な結論を放った。


 「当然でしょう? 悪しき慣例ですが科学技術を発展させ我々人類がこの世界に支配権を確立するのに最も役立つモノ、それは戦争です。何が目的かは知りませんが彼女は戦争を起こしたいのですよ。人間が150年間発展できる程度の戦争をね。」


 首を振りながらフランス大使が発言する。彼が先ほどまで探偵のように考え首を振っていたのはもしかしたらその考えに至り否定し続けていたのかもしれない。


 「恐ろしい話だ……だが合点がいく。日本と言う国家に短絡的な力を与えるには無敵の兵器を与えて暴れさせればいい。それを我々が手に入れ模倣、発展させる。日本を増長させ潰すにも都合がいい。なにしろ日本の科学技術ではそんな兵器を使えても作ることはできない、まして研究など。」


ここまで派手に話をさせて聞いていない訳はないだろう……と思う。ウィーンに来てから何度か感じていた気配、酒と煙草の匂いの中にわずかに柑橘の香りが混ざっている。僕はカマをかけてみた。


「……と大使達が密談を交わしていますが本当のところどうなのです? それによっては各国とも協力には(やぶさ)かでないようなのですが?」


 両肩を軽く竦めて花瓶に生けてある花々を見る。その前のカウンターに嬢ちゃんがいた。ただし、姿は薄い、半透明どころか輪郭すらぼやける程の薄さが数個のランプしかない薄暗い照明の中揺らめいてる。


 「驚きました。……とだけ言っておきましょう。」


 驚嘆の声、しかし僕らが顔を見合わせたのはそんなことではなかった。僕らは通訳、ないしは相手の国の言葉で雑談と続けていた。しかし彼女はここにいる各国大使の母国語を他の大使の母国語を聞かせぬまま同時に伝えたのだ。いったいどうやったらそんな芸当ができるのか!? 彼女は少し上機嫌な声で話を続ける。大使達固有の母国語で他国の言葉を聞かせぬまま、


 「これなら私“達”の思惑とも整合性がとれそうです。北海に犯人を用意しますので存分に復讐なさるが良いでしょう。それと…………」


 未来の言葉でいえばマッチポンプと言うらしいが見事なまでの手際の良さだ。おそらく標的を沈めても彼女は痛くも痒くもない。そして各国海軍は同時に参加する名誉を得て国内での声望を高められるだろう。この中の誰かが真実を暴露しても彼女は意に返さない。国家が一個人に手も足も出ないという事実に加え、彼女はどの国家にも属していない。つまり暴露した大使とその祖国が馬鹿を見るだけなのだ。公私にわたって害をなすというリスクを求めるのは外交官でなく夢想家(ドン・キホーテ)に過ぎない。
 さらに念を押して【秘密基地】まで用意してくれるらしい。列強連合艦隊が其処に突入し放棄された基地から技術資料を押収、新兵器の開発を促進させる。我々にとっても彼女にとっても万々歳といったところか? 出汁にされるノルウェー王国が気の毒なくらいだ。最後に彼女はこう繋げた、


 「私を驚かせたお礼にひとつだけ忠告を。あなた方が2回目の大戦を戦う時代の最終局面、私達が誤起動する事件が起こりました。幸い一瞬でしたが私達の外見がその時代の戦闘艦なのは……そういうことです。」


 話は続く、


 「私達を正常に起動させたければ阻止することです。それが正しいのか間違っているのかは私達では判別できませんが。」


 そして輪郭すらもかき消え彼女の腰掛けていたカウンターには僅かばかりの銀色の細かい砂が残された。


 「さて紳士諸君! 我等が焦がれた淑女の声を聞いた感想はどうですかな?」

 「まさしく、五大洋に君臨する鋼鉄の大海魔(リヴァイアサン)! しかし驚きましたな。声からすれば少女としか思えん。」

 「いまから海魔女(サイレーン)に惑わされるとは器が知れますな? 海の底に大喜びで身を投げるかと思いましたぞ。」

 「そして我等は第三大悪魔の使徒たる栄誉を勝ち得たわけだ。教皇庁にでも知れれば磔刑間違いなしですな!」

「彼女によってバチカンが失われた大陸(アトランティス)になるのが先でしょう?」


 チャーチル卿の芝居がかったセリフと共に口々に皆が感想を述べる。世界を、国家を、世の理すら(わら)う彼等の前で僕は一層暗澹たる思いに捕らわれていた。


 「我が国は生き残れるのだろうか?」      ………と。





―――――――――――――――――――――――――――――






 全てが終わり各国大使が帰国の準備を進める中、ウィッテ伯爵は大急ぎで大日本帝国との外交折衝をセッティングしようとしていた。公式の外交なら問題はなかったのだろう。だが彼は秘密交渉、即ち密約を望んでいた。訝る補佐官や随員の見当違いの意見に厳しい視線と絶え間ない叱責を送る。


 「君たちは何もわかっていない! 日本帝国が叩きだされて次に何が来るのか解っているのか? 日本と言う狼を追い出したら今度はアメリカという禿鷹がやってくるのだ。こちらの方がより性質が悪い! コムラとすぐに連絡をつけろ、満州に日本の資本を入れ対抗させるのだ。表向きロシアの資本と言い切れれば奴らも無理強いできまい。急げ!」

「閣下、本国よりお電話が……」


 不機嫌な顔をして伯爵が電話に出る。その顔が見る見るうちに青ざめ受話器がカーペットに落ちた。うわ言のように彼が声を絞り出す。


 「ウクライナで未曾有の凶作!!!」


 終わった筈の戦争が思いがけぬ惨禍を引き起こそうとしていた。







あとがきと言う名の作品ツッコミ対談




 「ども、とーこですっ!ようやく日露戦争終了っと♪本来ここまでが閑章だったのに伸びたわねぇ〜。」


 削りに削ってコレだからねぇ。チャーチル閣下とエンヴェル将軍、山田さんの駆け引きは入れたかったけど橙子に直接の関係はなかったからすぱっと切った。延々チャーチル閣下視点で彼無双になりかねなかったから読者を飽かせてしまうと考えたのさ。またトルコ宮廷についても資料が少なすぎてこれも断念、さらに登場人物が増える上脇役の脇役ばかり作ることになるからこれも切り捨てた。だから閑章文5話近くあったのを1話少なくできたのさ。


 「でもさーケマル君(ケマル・アタチュルク)まで切る必要性無かったんじゃなの?第4章でもでるキャラと規定されてるしここらあたりで顔出しだけでも?」


 う〜ん、物語構成で蛇足になりかねないから切ったのさ。彼が政界で活躍するのは第2部あたりからだから現状では不要なキャラだしね。其れに史実でもかれが名を挙げたのはWW1と希土戦争だからまだ出番は先と考えた訳だ。名前だけでも出そうかな?とは思っているけどね(笑)


 「でも今回の講和条約、日本にとって実質有利な講和じゃないの?大陸から手を引けたし日本本土は絶対的な安全圏になって諸外国から干渉受けにくくなったわけだし万々歳だと思うんだけど?」


 ちょっとまった!とーこ?今、21世紀の日本の現状からみて講評してないか?それじゃダメだよ。現状からみて有利か不利かと判定しないと。短絡的と考えるのは表面だけしか見てない証拠。未来なんて誰も解らないんだから一枚でもカードを手に入れないことには話にならないのさ。今回ホーフブルグで扱われた真相は大日本帝国をどの立ち位置に持ってくるかが争点なの。端的にいえば史実では「列強末席」だったのに今回は「2流国筆頭」に下げられた時点で外交上完全敗北だね。


「でもさー?名を捨てて実をとるとか鶏口となるも牛後となる勿れとかとかあるし今の大日本帝国考えればマトモな位置じゃない?作者の考えでも日露戦争以後無理して無理して突き進んだ挙句が太平洋戦争の大敗北だから身の程としてはいいと思うけど?」


 ほら!またまた21世紀の日本の現状からみて講評してる。(苦笑)その無理すらもうさせてもらえないんだよ?日露戦争以後日本の財政事情が苦しくてWW1が無かったらデフォルトした可能性があるという話は知っているよね?それを打ち消し続けたのが日露戦争勝利という実績だったのさ。だから諸外国から援助や妥協も受けれたし日英同盟をネタに外交上列強として扱ってもらえた。今回はそれらがすべてパー。「裏は兎も角表面では自分でやった戦争だから自分で始末(借金)はつけなさい。」とか「世界に挑む無茶がわかったのならこれからは大人しくしてなさい。世界はうちら(欧州列強)で動かすから。」2流国という世界に影響を与えることが出来ない立場が自国の安定と引き換えにどんな不安を巻き起こすか身に沁みてもらおうと思っている。


 「でも列強から考えれば臭いものには蓋的な論理になってるよ?傲慢の裏側が霧への恐怖なんて洒落になってない(他人事)」


 むしろ霧と交渉できるのが日本でなくじーちゃまだけと誤解している点が大きいかな?列強は悪魔(霧)と契約できるのは1人だけと固定観念を持っている。悪と善は外面的な数を除けば一対の存在でなければならないとしているんだ。もし霧が無差別に契約を始めることが知れ渡ったらもはや霧は悪どころか絶対的な善に成り変ってしまう。それによって悪に落されかねない世界中が大混乱に陥ることを列強は何よりも恐れたのが真相かな?


 「この作者概念的なモノ持ち出しているよーなんとかしてー(悩)」


 そこまで深く考えなくてもいいと思うし、そこに突っ込んだのはとーこの自爆じゃないの?(笑)ともかく大日本帝国は2流の烙印を押され英米仏露伊墺の列強ラインから落ちて西蘭土葡白の筆頭辺りに収まるわけ。国力的な順番は変わらないだろうけど国際政治にかかわるにはどっかの列強を当てにしなければならないという自国の維持を最優先に考えなければならない国家になるのは間違いない。もう連盟で人種差別撤廃法案なんて言う権利すらないよ。下手すれば某半島の連盟での独立要求のように列強にせせら笑われるのが席の山になると思う。


「?西蘭土葡白??蘭はオランダで土はトルコで……あと解んないよ!!」


 西はスペイン、葡はポルトガル、白はベルギー、列強には及ばないけど国家生存のための資源を持ち平時経済を自国だけでもギリギリ回す事が出来る国。これがフェリが規定した2流の条件かな。ある程度の豊かな領土や植民地を持ち列強に一言ぐらいは物が言えることも含めている。北欧諸国を抜いたのはいくつかカテゴリー的に違う点があるからだね。北欧諸国全て集めれば列強級の力にはなる……まず無理だけど(スカンジナビア帝国が成り立たない理由から)


 「ピクピクしたいよー(泣)この件は投げ!(怒)で最後だけどついに私の大チョンボだぁ〜ここまで収拾つかなくしてどうするのよ?」


 最初から収拾つかなくなるよう組んでいたしね。これでコアユニットも安易な国家制圧兵器を使用できなくなる。でも考えてみれば恐ろしい事態だよね?世界大戦フラグ総崩れ。元凶のドイツがいきなりパグラチオン以降の独ソ戦状態になるから我ながらトンデモなことしたと思ってるよ。


 「持ちこたえられるの?このままドイツまで崩壊したらマジでゲルマン民族の大移動の再現よ?」


 流石にそこまではならないね。飢えた民兵と民衆の無秩序な集団だから正規軍に勝てるわけはない。ゲリラですらないしね。でも数百万の民衆が殺到する対象国の財政なんて滅茶苦茶になるよ。正直ドイツ帝国が列強に残るのかさえも危ういぐらい。


 「……それでゼークトおじちゃまにあのドイツ始まって以来の悪行を押し付けるわけか。」


 まった!何故そこでツッコミ砲を!!


 「正史で御遺族いるんだよね……ここまでやって只で済むと思う?(にたぁり)」


 いやだからフィクションであって……(逃げ腰)


「制裁開始!!」(轟音と悲鳴が交錯)



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