（ＢＧＭ 開発と整備の毎日 魔導巧殻より）
「じゃ起動言語はこれで、起動発言は今打ち込んだ通りだから。」
「なんだよこれ……歌詞か？ こんなもの謳ってる暇があるとでも思うのかい??」
「あくまでコレは気休めだ。オレの正体が分かった以上、使うのはただ一度きり、そもそも特攻前提の能力としてだ。」
「だからさぁ！ そんなことをしなくてもこの切り札切れば纏めて解決じゃないか!! ジルタニア？ 晦冥の雫?? 神殺し??? それが何だっているのさ！ 計測上これに敵う代物はディル＝リフィーナには居ない。発現余波だけで国が吹き飛び、神格者が纏めて冥界送りだ。それをこんなに制限付けて限定運用にする？ バカじゃないのか！」
「使ってどうする。オレは世界の敵になぞなる気はない！ これは明らかに他世界たる【哭璃】や【歪秤】と同じ『世界の敵』だ!! “覆い尽す外殻”にあるオレの今を揺り籠に写す代償、それでこの揺り籠が壊れるなら使わない。使うとしてもそれは人が奇跡で済ませる一度きりの途方もない対価にすべきだ。」
「そんなに超常が嫌か！ シュヴァルツバルト・ザイルード!!!」
「嫌だ！ オレは世界に責任なんぞ持ちたくない!!!」
沈黙が流れる。通算3日で三回もやった問答だ。思考連結故、話は早いが何かでこの話題に振れると怒鳴り合い同然の会話になってしまう。自重せねばと思っていても感情がついていかない。
結局の所、オレがオレまで含めてこの世界の才能の格差を嫌っているのが根本だと思う。だから肯定してしまえばメルキアは成り立たない。オレの望むメルキアは成立より続く『指導者と国民の連合帝国』、それを裏切る事になるんだ。もしオレが独裁国家や人間を人間と思わないような国で生まれ、この世界に転生していたらどうなっていたか？ 『聖なる父』が期待する『救世主』なんざ死んでも嫌だ！ とりあえず謝罪、
「すまん、熱くなった。」
「こっちこそごめん。そっちの世界観はこっちとだいぶ違うな。本来弱小種族たる人間族は力を求めるものだからね。
人でなくなるのが確実な道、でもそれを正面否定する変人が此処に居るとなれば驚きもするしイラつきもする。」
こちとら下っ端公務員だったからな。上を望まず負けもしない。その程度でそこそこの暮らしができる一般人だった。それが一国家の重大事に自ら関わるとなれば慎重になり自制もしてしまう。まだ考えに囚われているな。元に戻そう、えっと……
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
――魔導巧殻ＳＳ――
緋ノ転生者ハ晦冥ニ吼エル
（ＢＧＭ 学生たちの日常 創刻のアテリアルより)
「じゃ建造準備で中断してた魔導戦艦の流用は可能なんだな？」
今回大急ぎで祖霊の塔に戻ってきたのはこれが理由。手段は問題ない。どうやら転移能力に関しては真なる魔導巧殻たる『五騎の秘巧殻』に関しては前提の能力に過ぎないらしい。何の前提かと言えば言わずもがな、『対神決戦兵器』の意だ。彼自身が個人レベルならば転移の城門を創り出せるんだ。
神殺しがぶっ壊した中央管制室に代わり本来の中枢たる恒星間移民中枢艦【アルビオン】の制御施設に転移、ここから【エ・ギヌス】遺跡と言う名の【全自動建艦工廠】にアクセス。今ある資材とエイダ様が送り込んでくる資材を使って魔導戦艦量産の下準備たる試作艦建造を開始している。今はその設計段階だ。
「西領バーニエの工廠じゃ無理だろうけどね。こちとら先史文明期の全自動建艦工廠だ。資材さえなんとかできるならどうとでもなる。問題は搭載機と搭載運用システムかな？ こればっかりはルツの頭の中の記憶だけじゃリスペクトは無理だ。」
「
永久稼働電算装置ですら残ってないのか？ 搭載機は兎も角、カタパルトやアレスティングワイヤなんてオレのいた時代では既存技術になりかけていた代物なんだが？」
「そういうのを意図的に消した跡がある。想像はつくよ。かつての世界では政治的、今のディル＝リフィーナにとって神の危険視する禁忌たる先端軍事技術だ。考えてみても解るだろ？ 何故二つの回廊の
創生時、ルツがいう“現代兵器”が使われなかった？ 補給物資や物理法則の変化だけじゃない。ボクの想像だけどおそらく使えなくしたんだ。二つの世界の“神々”によってね。」
そこまでは懸念していた。ただ全く同じように他人に言われると確信に変わる。本来思考連結でオレの記憶を覗けるハリティが恐らくという疑問形を紡いだんだ。オレとは違う思考方法でそれに辿り着いた。と、なると創生に置いて絶対に避けて通れぬ懸案がある。人が創り出した『神』は現代兵器として扱われていない？ その時点で神々に独自て対抗できる力、神力を兵器に持たせるところまでイアス＝ステリナの人類は到達していたんだ。
兵器でありながら神の力を持つ、その存在は一種族……いや一柱のみだ。
「まさか世界融合後、古神と現神……彼らが真っ先に恐れたのは‥………」
ハリティが頷く、理由こそ解らないが
二つの回廊の終わり、その創生が明らかになっていく。それが何故オレが此処に
送り込まれたのか？ の理由でもある。
「ご名答、創生したての世界に概念として
制約が打たれたんじゃないかな？ 使われたのは神力。これに対抗するには同じ神力しかない。と、なると君が言う三神戦争は初め誰を標的として神々が事を起こし、そして失敗したか？」
「排除対象は
世界の創生者、機工女神か。余りにも強すぎるが故に神々は恐れた。世界という権能をもつ存在はあってはならない。だが機工女神はその眷属と共に姿を消し、神々を纏められる筈の圧倒的な
存在もまた世界を去った。故に中心軸を失った世界は神々の争奪戦の巷と化したのか。それが三神戦争の裏側。無惨なものだ。」
「シュヴァルツは機工女神は世界を見捨てたとでも解釈していそうだけど、彼女の今を考えればヒトも神もそれで生き残れたと言えるんじゃないかな？ 世界を繋げた機工女神、メルキアの流儀からすれば彼女は
人に人型を与えられた神――聖なる父――の嫡姫。」
自らに似せた
土塊が神を創り出す。機工女神の発現はヒトに期待する『聖なる父』の望んだものだったのだろう。だが
神の道具達としては堪ったものじゃないだろうな。もう依怙贔屓の類だ。
「エリザスレインが怒り、嘆くわけだ。天使は焔から作られた神の道具とオレ達の世界では言われてる。その道具を差し置いて土塊の似姿たる人が世界を創ったとも解釈されかねん。全天使が存在意義を失うわけだ。」
神殺しに喰われた
ポンコツ天使が記憶としてゲームで語られていた境遇を思い出す。道具は何時か捨てられるもの。ただその道具が意思を持っていたときその感情は如何許りか。脱線しまくりな会話を捻じ曲げて元に戻す。
「話を戻そう。現状では搭載機の発艦、収容能力はオミットさせるべきか？」
「そこまで言ってないよ。何故そんなに向こう側の
核分裂発電推進型戦略級航空機搭載母艦に拘るかなぁ？ あんなモノ、フル装備で出してみなよ？ 君がラスボスだぞ。」
笑い声が出てしまう。集中的にオレのやったゲーム情報検索するからなこの
魔導巧殻
「だけどこの世界でそれくらいの技術格差がないと戦う前から『負けだ負け！』と相手が諦めてくれない。何しろ勇者とか英雄が本当に一騎当千の世界だ。彼等の心を折ってしまうような代物でもない限り抑止力にならない。」
「待ちなよ、君の記憶で見たような20トン以上の巨体をたった50メートルで時速200キロ以上で撃ち出すなんて馬鹿な芸当はできない。でもこっちは魔法がある。牽引魔導索を使って搭載機を後ろから降ろして滑空させてから発艦。それで十分だよ。」
うーん代替案としては妥当だがそんなことを敵が許すと思うか？ 反論してみる。
「その状態が最も危険だぞ。バランスが後ろに引っ張られる。攻撃を受ければ母艦も搭載機もミッドウェーだ。」
「なにソレ？ ははぁ、そっちの世界の戦訓か。だけどさ、この世界の住人にその発想ができるかい？ それこそ『お前の頭どうなってんだ!?』だよ。」
確かにその発想にこちらの人間が至れるか疑問だ。オレの思考形態がディル＝リフィーナにとって異端なのは思い知らされてる。だがハリティの言葉に同意こそできるが人間という存在は侮れない。知識を集約できる国家なら時間が経てばその絡繰りに気付き、対抗策を練るだろう。ただこれ以上論議しても着地点が見えなくなる。先ずは段階的に、だろうな。
「解った、それで行こう。搭載機たる【歪竜・ペルソアティス】については組織培養からくる複製でいけるか？」
「実物が一匹あればいいよ。でもキミの伯父さんを納得させられるかい？」
ゲームでの魔導戦艦取り巻きユニットまで作る訳にはいかない。それこそメルキア帝国イコール魔導技巧で固定されてしまう。南領への政治的な譲歩だけでなく丁度良いバランスで推移しているゲームで言う“兵器魔術研究値”を歪めたくないのよ。
「先史文明製の魔導艦隊50個分よりはマシとでも説得するさ。オレは
魔法術式と魔導技巧、双方合わせてメルキアだと思っている。どちらかではなく繋ぎ合わせることでメルキアが今後も【貪欲なる巨竜】であり続けられる方がいい。」
「そのために先史文明ですら道具として使い捨てるのか。ルツの考えも理解できるな。神々の様に初めから嫌悪感で全否定するよりも、先史文明は過ぎた技術だが己達に等しく恩恵を与えるならば道具として容認する、そう神々や人々に納得させる。」
そうオレはこのプロジェクトの後、祖霊の塔を封印してしまう気でいる。どう見ても過ぎた力だ。今はあくまで緊急避難でしかない。その後も延々技術的な話題が続く。今日一日で
次世代の魔導戦艦を煮詰めることにしているからな。最後に恒例、欄の一番上の空いた箇所が意識の中で拡大される。ゲームキャラの名前いつも悩んで最後につける性格だしなオレ、ハリティも察したのか尋ねてきた。
「で、名前はどうするよ。やっぱり元の国の言葉からなぞるのかい？」
「向こうでは有名な船名を踏襲するのが普通だしな。ただあの国と直接関係あるような人名はなぁ……やはり形容詞か？」
一つ一つ思い浮かべる。帆走戦艦の時代、甲鉄艦の時代、大戦の時代、全ては思い出せない。有名どころからいくつか、その中からメルキアにて現在と未来に銘ざれるものは消していく。……ふと気が付いた。この壮大なる世界の主軸たる
神話のタイトル名、
「
戦女神……か。」
「アストライアは神名だよ？ 人名じゃないけどさ。」
いいや、アストライアを戦女神と言うには語弊がある。彼女は終始戦いを望んでいなかった。最後の最後、
最愛の人を
勇者と言う滅びから救いだそうとするまでは。比べて今のオレはどうだ!? ヴァイス先輩とメルキアの安寧を盾に諸外国に負債を押し付け、戦火を撒き散らす……
「戦狂い」
「？」
首を傾げるハリティの前でこれから作る【竜操魔艦】、いや設計図から見れば【双胴魔導戦艦】のネームシップを言う。その名前を聞いた彼は呆れ果てた声を上げた。
「その
銘か、悪意ある皮肉だね。」
そうさ、かつて其の国は
悪意ある皮肉をもって名を轟かせていたからな。さぁ銘付けよう。
平和の象徴たる銘を与えられながらやってきたことは真逆。敵味方、屍山血河の上に築かれた赫々たる不屈、『戦狂い』の銘を。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
（ＢＧＭ 抗争する闘志 魔導巧殻より）
【チルス連峰】、そこからザフハ中心部ハレンラーマ丘陵を見下ろせる窓から曇り空が見える。生憎の雨模様、しかしそれに悩まされる兵士達下級指揮官達とオレ達は違う。彼等は此処戦場で苦労する。オレ達はその上、ザフハから奪取した砦の中、円卓の上に政治と言うピザを置いてそれを奪い合う。
いるわいるわ、メルキア要人に加えアヴァタール五大国の代表者、ラウルヴァーシュ大陸の基幹種族のお歴々、この中から話に加える者とやんわり弾く者を別けなきゃならん。オレの隣にいるエイダ様が話しかけてきた。
「予定通り、といったところだの？」
うん、予定通りだ。
東領軍を先鋒に“アヴァタール連合軍”がグントラム大要塞を包囲して攻略。ネネカも大分抵抗したが結局鎖で亀甲縛りの挙句――冗談とは言えホントにやるなよヴァイス先輩――洗脳解除された。今頃ブラックホール胃袋でセンタクスのメイド嘆かせていると思う。
其の奥、此処たる
【チルス連峰】は莫迦王ことランドルフ率いる重装騎馬隊で蹂躙、山岳地形で重装騎兵？ 魔法在りだと地形効果なんて屁みたいなもんだ。そこから
北のドゥム＝ニール叛乱軍向けで西領軍が、東のハレンラーマ丘陵めがけて南領軍と親衛軍が、南のアンナローツェへの対ユン＝ガソル牽制として北領軍が雪崩込んでいる。諸外国軍は止めとなるザフハ首府・ハレンラーマ攻略を丸投げするつもりだ。
一捻りは加えておいた。これでは二月程度時間がかかるからな。そうアルフェミアが判断するのを誤魔化すのが目的だ。
「個人的にはエイフェリア元帥閣下には代理を立てて欲しかったのですが。」
渋い顔と言葉を作って見せるのはノイアスの凶刃に対し最も脆弱なのがエイダ様という事。先史文明期なら兎も角、メルキアの魔導技巧では超常共を止められない。まだ魔術師をそろえ本人も強大な魔術師である伯父貴や神格者に片足突っ込みかけてる
総軍司令、絶対的優位を容易く引っ繰り返しかねない天賦持ちのヴァイス先輩の方が対抗できるんだ。
こらこら鼻で笑い飛ばす……どころか外交攻勢掛けなくても。
「そうもいくまい。一国潰すのにプラダの名が無かったとなれば妾は子々孫々から笑い者よ。勿論、ルツの懸念は十分に考えておる。だからこそ其処で不貞腐れておる
策謀元帥に頭を下げたのじゃからな。」
腕を組んだまま相対する席に顎を杓るエイダ様。そこにいるのは南領元帥たる伯父貴だ。大層不機嫌な声で返してきた。語彙からオレを非難するように見えてもそれを仕向けるエイダ様に向けての発言なのは明らか。
「祖霊の塔の借りはこれで返したと思って頂こう。それを仕掛けた甥に恩どころかとんだしっぺ返しを喰らったばかりでな。不機嫌にもなる。」
伯父貴流『なんか寄越せ』の定番セリフだ。何を欲しいかを伏せて相手にそれを誤解させ、より大きな対価をせしめようとする。エイダ様、鼻を鳴らしてカマ掛けに出たな。
「フン、クルッソの魔法石が欲しいと顔に書いておるわ。
新型魔物配合錬成過程でそんなに必要なら無理して先に進まずとも好いじゃろ？」
「何処ぞの若作りが
国賊とつるんでまでも
機密兵器を推し進めているのでな。焦りもする。」
「……どの口が言う。」
伯父貴とエイダ様、公式会議でなくともこれかよ。いや公式でない分、陰に籠った突き合いしてるし。パワハラ対セクハラなんて誰得の言い合いだよ。辟易して他の方向へ話しかける。
「そういえばアディ閣下は【竈の城】へ進撃していたと聞きましたが、こちらに戻られて良かったので？」
西領軍の目標はドゥム＝ニールの鎮定だ。ザルマグスこそ追い落としたが自領に立てこもりザフハ側に附いた。本来なら東進するメルキア東領軍を横撃するだけで良かったがまさかメルキア帝国軍に加えて残る四大国の連合軍揃い踏み。質量共桁外れの相手に籠城戦しか出来なくなったそうだ。これが抑止力という奴、遊軍を身動きできなくし結果、相手の選択肢を自ら狭めさせる。
「そろそろ若い者に任せるべきだと思うてね。サンテスやフィオ当たりを千騎長にしようかと考えておる。実戦はギュノアとアルフォニア任せだのぉ。其方の様に指揮官は指揮のみを行う戦理として正しい事を行っているに過ぎぬよ。アルベルトはカロリーネと主で組ませた方が良かろう？」
こっちもこっちで東領に対する西領騎長の浸透作戦かよ。話に割り込んできたのは、
「戦準備をないがしろにしているとしか思えませんね。傭兵ではなく常備軍、シュヴァルツバルト千騎長が言った戦理を評するならこちらの方が正しいと思いますわ。」
双方にこやかな顔でバチッという視線の火花が交錯する。いつも通りの西領ナンバーツーのアディ千騎長と北領ナンバーツーのコーネリア千騎長だ。
だぁぁぁっ！ 西南のトップ同士がこれなら西北のナンバーツー同士もコレかよ！ おまいらに学習能力はあるのか!? 問い質したいところだがどちらもメルキアだけでなく配下や部下達の尊厳すら背負って此処に居る。政治トップがそう簡単に譲歩しない、出来ないのはそういうことだ。
オレは例外、そもそも東領が事実上の新組織だしナンバーツーのオレが腰が軽すぎて傍目ヴァイス先輩の腰巾着だ。だからこそあけすけに首脳部のお歴々に頭を下げられるし借りも作ることもできる。首脳部から『昨今の若い者は』、部下達からは『舐められても仕方がない』の赦免状でお目こぼししてもらえるのが今のオレや東領だからな。それで本当に舐められないのは
現状帝国を継げるのが事実上ヴァイス先輩只一人というからだけなんだ。
ならば各元帥は部下達千騎長まで交えた今回の会議において皇帝になるヴァイス先輩に対してどう行動をとる？ ナンバーツーのオレを追い落とすのは
次期皇帝の不興を買いかねない。それに元帥各位ヴァイス先輩の御代では日陰に追いやられるか墓の中ということになるのは規定事項。ならば己達の“次なる”ナンバーツーをヴァイス先輩に近づけオレへの対抗馬、掣肘者として帝国中枢へ送り込んでくる。
南領のレイナデリカ、オレにやや近いが西領のアルベルト、北領に至ってはコーネリア千騎長の黒い手であり国内外の諜報結果をオレ専属で届けてくれるアデラ百騎長だ。それに値する公権力は一つ【東領元帥】。
「正直なところ先輩の即位後、東領をどうするかにおいては議論百出ですね。今の東領騎長達からしても。」
うわ、ボソリと言っただけなのに皆図星刺されたような顔でオレを見るなよ。つーかガルムス元帥、貴方も目だけ動かしてくるの止めてください。怖いですから！
「ルツ……会議で魔導砲弾ばら撒くな。」
先輩の注意に後ろ手に頭で腕組んで伸び。その反動で姿勢は正すが放言続行。これが本題へ進める合図だからだ。
「ヴァイスハイト元帥閣下、お気持ちは解りますが皆気にするからこそ牽制しあう。一向に話が進みませんからね。ここらで明らかにできることはやってしまいましょう。」
ちゃんと公式行事はオレも敬称使うからな。オレお前は私事とその延長線上のみだ。先輩に話の本筋を譲る。ちゃんと自前に突き詰めたからな。
次期四元帥をどうするか？ という現在に置ける帝国最大の懸案にしてアヴァタール全土を揺さぶる人事だ。実はこの会議場には対ザフハ戦参加国の将帥もいる。国家神殿構わずね。だから先輩『ばら撒くな』と釘刺ししてきたのよ。話の本筋は俺がやる。ルツは補足だけ頼む。という意だ。
内容はいたってシンプル、
西領、南領、北領は現元帥が次期元帥を推薦する。元老院の政治権力が失墜した今、帝都結晶化が解除されても軍部優先は当分変えない。そう、元老院の粛清と再編をヴァイス先輩がやり終えるまでは。だから先輩とオレは各領が余程変な人事をしない限り丸投げ承認で済ませるという譲歩をすることにしたんだ。ただ、東領は違う。ヴァイス先輩除く元帥各位はこの譲歩をした以上、東領の騎長の中から――特にオレ――東領元帥を選ぶと考える。オレでなければ一時的な腰掛ポストにして不適切の名で追い払い。己の意の通る人物を押し付けてくる。先程の三名がその候補という事。
もし、オレが東領元帥の場合は相当の対価条件、特に大陸航路での過剰なまでの譲歩を提示してくるだろう。そしてヴァイス先輩含め四元帥はオレがそれを非常に喜ぶことを知っている。
だからこそあえてオレ達は“シュヴァルツバルト・ザイルード東領元帥”を初めから削除することに決めたんだ。その代役として矛先に掛かる人物は三名、
エレン＝ダ＝メイル俗世代執行者、エルファティシア・ノウゲート陛下――勿論女王は退位
現ザフハ部族国総領、ネネカ・ハーネス首長――ただし現状捕虜兼客分
レウィニア神権国枠外代執行者、セリカ・シルフィル ――――即ち神殺し
うむ、そこまで先輩が話を進めた途端、オレ、それに自前に済ませたリセル先輩以外、会議室騒然状態だな。慌ててエイダ様も機密法楯にとって隔離状態にしてるし。あ……睨んでる。まー、レウィニアだけでなく五大国以外にも外交窓口を持つ西領にとって看過できない事態だろう。
「ヴァイスハイト閣下、それはザフハのみならずエレン＝ダ＝メイルをメルキアが乗っ取り、神殺しまで抱え込むという野心の表れですか!?」
レウィニア神権国の代表であり水の巫女に最も近い神格者、レクシュミ・パラベルム閣下が警戒心も露わに質問する。そりゃそうだ。ゲーム知識を持つオレがメルキア首脳部に神殺しがレウィニアのエージェントであることをバラした。レウィニアの既得権益に同盟国である筈のメルキアが正面から喧嘩を売っているともとれるんだ。追加して別の声がかかる。声こそ柔らかいがオレは今度こそ表情を引き締める。今の状況で最も手強い相手、枠外に留め置き絶対に交渉に引き込んではならない。やんわり弾く筆頭格、
「エルファティシア陛下の了承は頂けるとは思えませんが？ ヒトと我等、不文律を崩すとも捉えられかねませんよ。少なくとも
エルフ国家群はそれを認めないでしょう。」
そう静かに言い放ったのは緑がかった艶やかな銀髪を後ろで纏めたルーンエルフの女性、最後の最後でザフハ潰しに加入してきた御仁だ。ええ！ この人が来るとは思いませんでしたよ!! 一人一国級の神格者。
白銀公
正直、俗世側にいるとは考えなかった。この会議の始まる前オレと先輩で頭を抱えた位。今回の策動の根本を圧し折れる大物だからだ。ゲームでこそ見えなかったが
エルフ国家群の一柱――エルフの筆頭ルーンエルフ、その更に筆頭故に『柱』、つまり現世では神と同格たる『聖下』の尊号を奉られる――。さらにエルファティシア陛下の師であると同時に神殺しの情婦、双方に圧力をかけられる存在と言うディル＝リフィーナ最強格の政治家なのよ。オレ達なんぞ鼻息一つで吹き飛ばせる。
「白銀公、仰ることも御尤も。ただ今回帝都結晶化からなる一連の騒動はその結晶の中に閉じ込められているジルタニア陛下の思惑である疑いがあります。その手が前東領元帥たるノイアス・エンシュミオスであることも確定しました。と、なると一時的とはいえ我等は別の御旗を掲げねばならなくなる。それでなければメルキアを真っ二つに割り、アヴァタールどころか中原全土が戦火と禁忌で破滅的状況に陥る可能性がある。俺としては大変面白くない。」
オレの口癖『面白くない』をヴァイス先輩が使う。これも合図だ。先輩の言葉にオレが続く。これは国家指導者が言ってはならない。何故なら国家の責任者がこれを口にするのは国家反逆以外の何物でもないからだ。だからナンバーツーの放言で済ます。
「ですので国際組織であるエルフ国家群の力をお借りしたいのです。御旗だけでなく特にその魔法術式を。ですがメルキアはそれに値する対価を用意できません。ならば、」
此処でヴァイス先輩に発言を譲る。この息の合わせ方が諸国に確信させる。ヴァイス先輩とオレ双方がオレ流である言葉、共犯者であることに。
「彼女個人を一時でも取り込み別の力を利用させることで対価とする。別の方面からもドワーフ諸国をこれに巻き込みます。彼等から魔導を取り込み魔法で返す。その結節点がメルキアとなるように。」
「そこまでして何をなさるつもりなのですか？ お二方。」
疑惑に満ちた言の葉を白銀公が向けてくる。今のオレ達の言葉からすればエルフとドワーフ、そしてメルキアの力を合わせ中原を制する帝国ができかねない。だからこそ二人で言う。
「「現皇帝、ジルタニア・フィズ・メルキアーナの完全排除。」」
本当の目的【闇の月女神・アルタヌー】は【要らない】なんぞ言えないがこれだけで円卓が今度こそ恐慌となった。エイダ様が『静粛に!』を連呼しているが効き目が無い。此処に居る全員グルになって
メルキア皇帝を潰すという提案ともとられる。
これでようやく本題に入れる。禁忌も含めてジルタニアの思惑を説明。初めてここでエルファティシア陛下がメルキアに来なければならない理由を説明する。哭璃の話まで進むと代表全員呻き声しか出てこない。もう国家国権で争っている場合ではない！ そう
国家指導者がオカルトじみた情勢を真剣に討議しなければならなくなったのだ。このままでは神々の世界、神骨の大陸と同じ事態にラウルヴァーシュ大陸が陥ると……
本来アルタヌーと同僚であるはずの黒の太陽神ヴァスタールの枢機卿ですら頭を抱えている。アルタヌーの思惑が成就すればヴァスタール神殿とてひとたまりもない。最後に己がかけた呪い故に此処に居る事が出来ない彼女、史実ルートにおけるエルファティシア陛下の末路を言い、それを阻止するためにオレ達が手を打っていることを話す。
……実はそんな方法は無い。だが呪いの解除方法は陛下が知ってるんだしもう最大敵手のジルタニアには意味が無いからとっとと自己解呪してもらうのが目的だ。皆で公然の秘密にしてしまえば禁忌もヘッタクレもない。
話を締めくくる。
「それだけのことを成してもらうエルファティシア陛下に対し半端な報酬では釣り合いません。吝嗇とメルキアが侮られるのは我等にとって我慢がならない。一国持って頂くことで報酬としたいと考えております。」
ザワザワと困惑の声だけが広がる。そう未だメルキア臣民どころか別種族国家の長でしかないエルファティシア陛下を引っ張る理由が解らない。そう【晦冥の雫】への対抗手段【黎明の焔】の知識が無い限りね。ん？ 机を軽く拳で叩いて発言したのは、
「諸国諸兄よ。其処の悪餓鬼二人の企み等見え透いておる。エルファティシア陛下が全面協力したとしても
報酬を求めることはない。そう踏んでおるのだろうて。あくまで
旧ザフハを含めた東領統治の神輿はネネカ・ハーネス。エルファティシア陛下は当て馬に過ぎぬ。そして大穴扱いの神殺しが儂への譲歩、違うか？」
帝国総軍司令の看破に顔色があからさまに変わったであろうオレとぴしゃりと額を叩いたヴァイス先輩。だめじゃん自らボロ出しちゃ……と自己ツッコミするが致し方が無い。
「ガルムス元帥閣下、東領は無条件降伏致します……で良いのでしょうか？」
肩を竦めて皮肉を言うオレを……
「知らぬわ、ベルの言うように姑息な知恵を巡らしおって。堂々と旧敵国の娘を東領に迎えると言え！
其処の新米の紐付きという事も含めてな。」
…………バッサリ。今度は先輩の顔色が変わりオレがぴしゃりと額を叩く。こちらの誘導方向を完全に読まれている、読まれているのだがガルムス元帥ここまで看破できるのか？ 武人としては第一級だが陰謀には無縁の筈。更に閣下が放言、
「帝国の未来がどうなるにせよ儂は今に満足しておる。さっさと神殺しと戦わせろ！ 悪餓鬼二人が儂がノイアス如きの下風に立つと顔に張り付けている以上、今以上に足を速めねばならん。」
「な！ ガルムス元帥!! いったいどこでそれを!!!」
違和感の正体に気付き驚倒のあまり叫ぶ。ガルムス元帥がノイアスに洗脳され東領に襲い掛かる事実――それをガルムス元帥自身が知っている！ 一体どうやって!? オレの疑惑に気付いたのか追い打ちのように嘲られた。
「あの女の話した断片に過ぎぬ。シュヴァルツバルト・ザイルード、主が話したそうではないか？ 『儂では魔導兵器と化した
前東領元帥に勝てぬ』とな。そしてそれはクルッソにてあの女が証明した。」
馬鹿な、ばかなバカな馬鹿な！ それを聞いたのは只一人、宮中にてそれを話したのも唯一人！ それ以上に恐ろしい事実が垣間見れる。
クルッソ-ヘンダルム間にあった違法研究施設――猫砦――でオレは飛天魔族の攻撃を防ぎながら徐々に戦局を覆していった。それを勝利とはいえ根底から神槍タウルナによって崩してくれたのがこの御仁…………もしその全てがあの飛天魔族とガルムス元帥の狂言であったのなら？
「ガルムス元帥、詰問になりますがお許し頂きたい！ シュヴァルツの話では……」
「主を見定める、儂はそう言った筈だぞ。己の部下もまた己の力の一端、素奴の出来の悪さはそのままメルキア新皇帝の急所となることを知れ！」
ヴァイス先輩とガルムス元帥の激しい言葉の応酬が繰り返される中、オレは今までのガルムス元帥のゲームでの行動、そして現実での行動を天秤にかける。
確かにおかしい、ガルムス元帥はゲームに置いて度々ヴァイス先輩をお供にモンスター討伐へ繰り出す。そういったイベントクエストが多数存在していた。しかし現実にはそんなことは不可能だ。政戦両略を行わねばならないヴァイス先輩にとっていくら転移門でスキップが可能でもそんな危険な真似はさせられない。オレを初め東領総掛かりで止めるだろう。
しかしここで問題が出る。ゲームでのヴァイス先輩とガルムス元帥は思想的に極めて近い、いや、今後明らかに近くなるんだ。イベントクエストの議論でも、合間のおちゃらけ会話を見ても解る。
政策面でエイダ様の考えに傾倒し、感情面でリセル先輩含めて伯父貴への敬愛を含めても決断と言う一点に関してはガルムス元帥の影響が強い。
素早く頭の中に線を引く。ヴァイス先輩とオレを配し、その周囲に残る三元帥とノイアス、その下に各魔導巧殻、ノイアスの下には闇の月女神とジルタニアを配して相関図を構築する。その相関関係を思い描く。あ、これは…………そういう事なのか？ ゲームでのヴァイス先輩のプライベートを政治的に再脚本化して同じ結果を求めようとするのならば、今ガルムス元帥が行っている事は依然バーニエ城でやった値踏み、それがまだ続いているというか絶賛値踏み中ということなのか？
となると相関関係の矢印の向きを変える。あの虐殺の時、エルミナとオレの言い争いに割って入り双方を面罵したナフカ閣下、『リューン
の駒の一つ』オレはこれに騙されたかもしれない。意図的に『リューン
も駒の一つ』、黒幕はナフカ閣下でもリューン閣下でもない。
ベル閣下とガルムス元帥
そうなれば恐るべき図式が組みあがる。偶然とリバウンドに過ぎないと思っていたが今回の復讐戦争、いくらセンタクスがユン＝ガソルの電撃戦で陥落したとしても親衛軍と北領軍が報告と同時に反撃できるわけがない。
オレがチート同然に軍組織や兵站を進めていても政治的に一手遅れる筈だ。しかしあの時双方とも陥落と同時に動き出した。それが
史実と違うヘンダルムとクルッソの失陥と同時の奪回作戦。つまりジルタニアは東領元帥としてのノイアスを切り捨てて見せ、ガルムス元帥は次の東領元帥たるヴァイス先輩をオレ含めて代理として使えるか見定める。伯父貴たるオルファン元帥はオレ達の背中を押しセンタクス開放のお膳立てをする。三人がこの状況を読んでいたことになる。いや読むというよりう誘導したとも取れるのだ。
こうしてみれば三人ともグルに見えるが己の最終的な目標のために互いに互いを利用したと考えるのが正しい。それが伯父貴の放った皇帝暗殺とジルタニア自ら謀った帝都結晶化で魔導と魔法の対立が表面化、三元帥でヴァイス先輩を見定めるというガルムス元帥の思惑は宙に浮いてしまった。
だからこそゲームや現実における
最初の四元帥会議でガルムス元帥が気分を害し退席したのか。己独自でヴァイス先輩が皇帝足り得るか見定める。ベル閣下がその手足になりリューン閣下、ナフカ閣下と共に先輩達だけでなくその裏方たるオレの事も見定めていた。メルキアの重みを背負えるか？ と言う一点において。
「閣下のやっていることは明らかに背信行為だ！ 国外の敵と示し合わせメルキアを混乱させようとしている!!」
「何をもって背信か？ 現に主は現皇帝を排除しようとしているのだろう?? 理由はどうあれ国家転覆を企てているのはヴァイスハイト・ツェリンダー、主よ。」
帝都結晶化以降、排除されたノイアスを除く三元帥はヴァイス先輩以外の皇帝候補を認めていない？ いやエイダ様は別か、エイダ様にはまだ外孫と言う点で国外から旧メルキア皇族を引っ張るという手がある。つまり伯父貴、オルファン・ザイルード元帥が推したヴァイス先輩をガルムス元帥が見定めて立太子として扱う。エイダ様を枠外に置くことで真っ先にエイダ様を帝国元帥から追い払う気だ。
ただ、それはオレ達の目指すものと異なる。何故なら伯父貴はヴァイス先輩の即位後程なく冥界送りになる。それをガルムス元帥は知らない。こればかりは病と寿命故どうしようもないんだ。ガルムス元帥の策ではエイダ様を排除する前に伯父貴が死んでしまう。こうなるとまたもやガルムス元帥の思惑は宙に浮いてしまうんだ。彼が権力主義者でないことくらいオレでも解る。しかし結果はヴァイス先輩と退任したとはいえガルムス前元帥の二巨頭体制。オレ達は勿論ガルムス元帥だって望んじゃいないだろう。エイダ様？ ルート通りならノイアスに弑されている。
「両元帥閣下、少し宜しいですか？ それに諸国の皆様にも聞いて頂きたいことがあります。」
「「「「？？？？？」」」」」
幾ら腹の探り合いとはいえ不毛な論戦やってた先輩達と困惑する諸国代表の視線がオレに集まる。
「ま、メルキア国内のごたごたはこれからでしょうが、一つ方針を提案させて頂きましょう。」
息を吸い込む。まさかこんな事態になるとは。オレが巨大化したメルキア帝国を
国家機関と言う組織が如何に効率良く運営するかを考え『よりまし』な選択肢として頭の隅に留め置いたもの。
「帝国を別けませんか？」
「それは現皇帝と新皇帝で内乱を行うという意味ではなさそうだな、甥よ？」
「はい、だからあえて帝国と言いました。メルキアを別けろなどオレとて口が裂けても言えませんから。」
伯父貴の砕けたツッコミにオレは冗句を飛ばして真意を告げる。いや、先輩初めエイダ様、ガルムス元帥、諸国のお歴々まで視線で、
「「「「（お前は何を言っているんだ？）」」」」
の嵐だから。さてガルムス元帥の値踏みを終わらせ、諸国にオルファン元帥の近々の死を知らせず、ヴァイス先輩にはもう皇位につけるのは俺しかいないと覚悟を決めさせないと。指で一つテーブルを叩いて、
「先ず今回の問題はジルタニア排除の後、ヴァイスハイト元帥が皇位を継承するに値するか？ というガルムス元帥の御懸念から始まったことです。状況証拠しかありませんがそれは今回の復讐戦争より始まっている。オルファン元帥、ガルムス元帥、どうでしょうか？」
伯父貴は沈黙で返し、ガルムス元帥は鼻息一つで返す。明白に肯定されれば厄介だ。逆にこの話そのものを諸国は疑ってしまう。
「そこで私、シュヴァルツバルト・ザイルードから見たヴァイスハイト元帥閣下の在り様ですが……どうにも危なっかしい。勿論元帥閣下が将来メルキアを中興させた名君になることは確信しておりますがそれは今ではない。」
「耳の痛い話だな。」
「ならシャッスール・ド・シュヴァリエで竜族の長に立ち向かってくださいよ。本当に肝を潰しました。」
先輩の茶々に大真面目でオレが反論し先輩が大いに閉口して黙る。誘導とはいえいい反応だよ先輩。血統良く有能なれどもまだまだ若輩の熱血漢という誤解を諸国に与える事が出来る。裏で悪を謀り、呑むのがオレと注目させる。静かに本題に入る。
「諸国の皆様にも理解して頂けていると思いますが、今回のメルキアの“一騒動”はメルキア一国に留まらず最低中原全土のパワーバランスを改変する代物と言えます。しかし、これはメルキアの方針をめぐる表面だけのものでしかありません。」
「ここで魔導か魔法か……の論理か。随分飛躍し過ぎじゃの？」
「エイフェリア元帥閣下、それですら表面でしかないのです。どちらにせよ魔導を即時全面禁止すればメルキア崩壊ですからそれを提唱するオルファン元帥閣下も短兵急には事を運ばないでしょう。歪竜にせよ閣下の魔導戦艦にせよ技術革新という大枠から見れば打ち上げ花火でしかありません。」
「千騎長がぶちあげた双方がその当人からすれば目くらましの道具か。メルキアの全魔術師と技巧師が叛乱を起こしかねんな。」
「オルファン元帥閣下、叛乱なら良い方なのです。全魔術師と技巧師が選択を迫られる。
メルキアの技術革新を世界が共有するのか……はたまた世界と共有するのか？」
「宜しいですか？ 私もメルキアを注視してきましたが技術革新という視点でそれを見るシュヴァルツバルト千騎長は我々と全く違った目を持っているとしか思えません。もう少し噛み砕いて説明して頂けませんか?? 今の二つの言葉、全員から見ても同じものにしか思えませんから。」
エイダ様に伯父貴、白銀公の言葉に答えながらオレは言葉を選ぶ。短文で済むように。
「失礼しました、簡単に言えばこうです。メルキアはどういった方針で諸国に技術を広め、そして諸国の技術を学んでいくか、です。」
立て続けに、
「オルファン元帥、以前四元帥会議で『魔法は普遍技術。故に双方が監視し、糾し合い、禁忌に近づくことない。』と、仰られたとの事ですが？」
彼が頷くと、
「魔導もそれに含めてしまいましょう、魔導は一見禁忌に近くありますが本質から見れば『秘印術を公式化』するという魔法術式でしかないのです。つまりどちらも使う人間の素養という違いでしかない。だからこそ別けます。
諸国の技術を吸収し総覧する国家組織と、諸国へ技術を供与し普遍化する国家組織へ。」
「……………………」
半分くらいが何を言っているのかが解らないという顔で三分の一がオレの言っていることを頭で理解しようとしている顔、残りはオレの真意の前に愕然をしている顔かな？ オレが言うのは巨大帝国と化すメルキア帝国を諸国の脅威としない
総合技術センターとしての国家像だ。
まだ魔法にせよ魔導にせよ門外不出とか禁忌とかという煽り文句で思考停止し【利権】という現代国家においてすら手の施しようがない怪物になる前、いや、直前ともいえる状況だ。この時点で魔法にせよ魔導にせよ選択して共有する場所をメルキアにしてしまう。
メルキア自体がその力を示すまでもなく、メルキアと聞けば誰もが万物をより良き方向に変える先進技術の学舎として世界中の人々が意識できる存在まで格上げしていく。どの国も技術の集積地としてのメルキアを無視できない。またメルキアもどの国をも技術吸収の対象にせねばならないため無視することはできない。それが双方にとって強大な抑止力になるんだ。世界に魔導技巧は無い？ 残念。その萌芽はある。フィアスピアの『悪シキ一族』などその典型だ。狂気の産物とはいえある意味魔導技巧すら上回る人類の根源技術でもある。ゲームでは見えないだけでまだまだあるだろう??
軍事的な抑止力なぞ問題にならない。メルキア一つとっても諸国の進歩を総覧する技術国家への攻撃は全世界の進歩への攻撃と意識される。此処まで説明すると参加者全員頭抱えてる。そりゃ発想そのものが『お前の頭どうなってる？』レベルだし。剽軽に自分で自分の顔を指さして言う。
「そうは言いましても、いきなりこんな狂人の戯言を真に受けない方がいいですよ。先ず第一にそういう方針の国家を作って一人の皇帝、二つの政府をヴァイスハイト“皇帝陛下”にやっていただければと思います。故に『帝国を別けませんか？』なのです。将来これと言った血筋や将来性のある人物を選び出し、複数皇帝による皇帝団を組織、東西帝国を合議によって治めてもらう。狂人の戯言が本当の意味で生きるのはそこからですね。」
「東西帝国？ つまりルツは帝都、西領、南領で西帝国、北領、東領、ルモルーネ、ザフハで東帝国と分割ラインを引き、それぞれを元帥位クラスが統治し、そのまとめ役に俺がなるという事だな。」
うわー、先輩のこういうとこ抜け目がないんだ。こっちが東西と口滑られただけで戦略上どうやってメルキアが脅威と思われず侮られもしない線引きをすればいいか解ってる。しかもその区分けなら西帝国にラナハイムとユン＝ガソル、東帝国にエレン＝ダ＝メイルとアンナローツェが入ることなど先刻承知だろう。笑って答える。
もう放言でいいや。
「先輩、ぶっちゃけないでくださいよ。つまり御方々にはメルキアは丸抱えの巨大帝国になる意思等無い。その証拠がオレの考えと国元に伝えて頂きたいのです。正直伯父貴とエイダ様、もう時間の問題ですから西は揉めますよ。」
西領と南領が割れれば諸国は認識する。【貪欲なる巨竜】は己すら喰らい新しい価値観を生み出すと。……と考える間もなくお二方から、
「「お前こそぶっちゃけるな！」」
エイダ様と伯父貴の同時ツッコミ。理解が追い付いてきたものが助け舟を出しオレの考えが広がっていく。驚倒の連鎖、国を支配と言う論理で語ることなく管制するというドンデモが此処に居た。
【宰相と公爵の懐刀】皆それを囁き合う。正直な話、こんなものは近代国家になれば否応なく思い知らされる。
こっちじゃ独裁者ですら一人で国を纏めることなんて不可能な時代だ。それほど複雑怪奇な組織こそが国家。
オレがディル＝リフィーナを俯瞰し、オレの世界から比べて決定的に劣っている点を挙げるとすればコレだ。ここまで文明や文化が至っても国家組織がトップダウン一辺倒。なまじ領主、国王や神官長といった選ばれた者がハイスペックでありそれでないものはすぐ淘汰される。これに慣れているから日々複雑化し進歩していく社会に耐えられた。封建社会ならね。
しかしメルキアが好例である官僚化の始まりともいえる王権独裁制（絶対王政）辺りまで進んだ国ならばその壁にぶつかって居る筈だ。これが帝国主義化、市民社会化、そして民主化と流れれば流れる程、乖離は甚だしくなり最悪持てるものと、持たざるもので憎悪の連鎖からなる対立が起きかねない。
もしかしたら帝国四領と言う個人的忠誠からくる連合状態、それにメルキアの嫡子と庶子の問題も態とハイスペックな人間を選別するために制定されたのかもしれないんだ。
だからオレは嫌うのよ。このままでは能力の格差が能力への差別として定着してしまう。『人それぞれに役割がある』、そのために個人スペックに頼らない『組織』を主軸に『一人の天才より多数の組織』を国家の基幹にする。『皇帝と国民の連合帝国』だからこそ可能な手なんだ。
これを踏まえて本題に入る。ガルムス元帥の御蔭でひっちゃかめっちゃかにされたが御蔭で白銀公がメルキア連合帝国そのものへの翻意を要求することだけは避けられた。三割成功ってとこかな？
「では、これよりメルキアによるザフハ併合。その道標（ロードマップ）を説明したいと思います。諸国諸兄の皆様、配られた資料の第一項を御覧ください。」
さてさて久々のプレゼンテーションだ。南領でやったナンバーツー同士なんて砕けたものだったからもしかしたら転生以来か？ 散々絞られた諸先輩や上司達の言葉が聞こえる。それを振り切りながらオレはザフハの現況、そして今後各国の争奪戦の巷と化すザフハ-アンナローツェ国境間を走る大陸公路へ誘導していく。アンナローツェの裏切りを逆用し一気に対ザフハで集結した連合軍の矛先を変えるように。
「（ハレンラーマ攻略、カロリーネを先輩につけるか。その方がオレへの疑惑を敵味方に気付かせない囮役になる。）」
ふとそう思った。
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（ＢＧＭ 森羅万象 幻燐の妃将軍2より）
「さて、手短に。」
「そんなに急いでいルの？ 当面あレで北領元帥は動ケないのに??」
「あぁ、いよいよ本格始動だ。ルモルーネ併合、ラナハイム紛争、ザフハ崩壊、此処まではオレが言う中興戦争の前半戦。所要時間以外なら三流戦略家でもできる。特にメルキアと言う超大国の国力を前面に出した戦い方なら必然ともいえる結果でしかない。」
小姓に変装したぺたん娘睡魔ことミリアーナの言葉に頷いて資料を手から離す。支度部屋で休憩という事で2時間ほど開けてある。支度部屋と言っても飲み物や軽食位は常備、交渉から交渉へ渡り歩く人間の武器庫と言っていい。だから細々とした世話を焼くために小姓同伴なのよ。――男装睡魔だけどな。気になっていた報告を急かす。
「じゃ、アンナローツェ王国の情報から。
リリー姐さんが感謝してたよ。シュヴァルツが懸念してた娼家と傭兵隊長のラインを洗った結果は予想通り。間にユン＝ガソルの密偵が入ってた。グスタフ・クルップって知ってる？」
「【知っている】。アンナローツェ前国王が雇っていた密偵だな？ ユン＝ガソルの
潜伏諜報員だったか。まだ生きているな？」
ミリアーナの頷く顔を確認しながら……やれやれ、所属は兎も角、ゲームで見えない姓がよりによってそれかよ。厄介な、神殺しの縁者【転生者】にして後の【第二使徒】、マリーニャ・クルップの直系先祖だと不味い。
「姐さんからそれ聞いて来いって。このラインを繋ぎ直さないとアンナローツェ宮廷情報工作はユン＝ガソルに筒抜け。処分は私にやらせて？」
あ、思ったより怒っている。彼女剽軽なイントネーション使うけど怒り出すとそれが消える。さらに陰湿なまでのイジメに走るからゲームのプロフィールだけに頼るのは危険と思ったくらいだ。
オレとしては今回の対象、御当人が男だから精気云々も含めてと思ったが、それ以上に対アンナローツェ諜報活動の統括でありながら前任者に倣ってこの陥穽を見逃しかけた……と言うのがあるんだろう？ その結末がユン＝ガソル国家承認への各国圧力に変わる一手になったのはもう判明している。原因も陥穽もオレとはいえ情夫にして上司の顔に泥を塗ったことに責任を感じているに違いない。
これも元の世界から考えれば逆転現象だ。
職務と言うプライドを持つデキる女達にとっては男の上司を庇えない事は一瞬にして立場と男女の関係を失いかねない。
諜報の世界でも女の、いや女故に陰湿かつ激烈な競争原理が働く。睡魔としては異端な彼女からしても、オレが
嗜好で贔屓より出来る出来ないで贔屓している方が部下を御し易いという事かもな。……体型は兎も角、オレとしては若奥様的印象が好みなんですが。
「彼の家系図を精査できれば考えてもいいが、できないならやめた方がいいな。」
「どゆこと？」
「彼の子孫に神殺しの縁者がいる。それも家族たる第二使徒の立場でな。」
「シュヴァルツ得意の【知っている】だね。聞いたよ神殺しに絶対に手を出してはならない理由。不味いな、裏切りを一拍遅らされると元帥閣下が。」
アンナローツェの裏切りに関してはミリアーナにも可能性として話してある。その兆候をユン＝ガソル、いや『王妃』の一存で操作されては堪らない。一瞬の内にバッドエンドになりかねないんだ。ただこういった場合、諜報組織では常套手段が存在する。彼らの存在を『より得のある』と彼等が思えるラインに移し、急所を塞ぐんだ。そして飼い殺しないし調略、結論を先に言う。
「格上げだな。」 オレの言葉に目を見開くミリアーナ
「奴をメルキア側に引き抜く、我等の次の狙いがアンナローツェであることの証拠としてな。傭兵隊長はユン＝ガソルとの直接的なパイプを持たない限り諸手を挙げて喜ぶさ。３月も待命扱いにすれば否応なくメルキア内で諜報活動せざるを得なくなる。肝心のアンナローツェが開戦しちまうからな。そうすれば監視もやり易いだろ？」
「あッくどーイ！」
ミリアーナが思わず娼家の声音に戻った後、改めて真面目な顔をする。
「そのアンナローツェだけド、未だに先手の気配ないかな？ ガウ近郊に居る第一総騎軍、アニヴァ駐留の第二総騎軍も動いてない。ルツが警戒する
バ・ロン要塞の第三総騎軍と龍人リ＝アネスもネ。その第三総騎軍に悪い知らせダよ。」
「ランラメイラからだな。どうした？」
「マーズテリアのバリアレス分遣隊が入った。数は少ないけど政治的に不味いカナ？ 指揮官はイソラの聖戦士。」
「遂に来たか、神格者
シルフィア・ルーハンス。」
マーズテリアが介入してくる手駒と考えるなら此処だろうと見当はつけていた。バリアレス都市国家連合、悉く張り合うレウィニアとエディカーヌの間にあって多様な宗教勢力が存在している。当然世界最大の軍閥であるマーズテリア教会も要塞神殿を保有している。そこに彼女がいるという事も。
「いぁ聖戦士様って……まさか!?」
昇神したか？ の疑いにそれ以上をぶつけてやる。
「そうだ、シャンティの姉君にして後の魔人帝の妃、170年後に起こる幻燐戦争の女傑だ。これが彼女の試練かもしれないな？ 不老不死の使徒、神格者への。」
「ゲぇ！ まさかシュヴァルツ、シャンティぶつける気じゃないヨね？」
オレがニィッと笑みを浮かべるのにミリアーナもドン退きしやがった！ 姉妹対決？ 問題無いと思うぞ。権力争いや家督争い、こっちの封建社会じゃどこもかしこもそれが起こり、たかが一家族のもめ事が国家間戦争にまで拡大した例もある。陰惨にはしないつもりだけどぶつかり合ってくれた方がいい。特に現状、彼女の武力に対抗できる駒が厳しいんだ。
「その通り。今彼女が神格者ではなさそうだが、対抗できそうなのがメルキア内でも五人しかいない。竜殺し・ギュノア百騎長、破天荒・アルフォニア百騎長、帝国総軍司令・ガルムス元帥、天賦・ヴァイスハイト東領元帥、そして
飛燕の後継・シャンティ。自由になるのは彼女だけだ。」
この順番で引っ張り出せる難易度が下がると思えばいい。つまりシャンティを出さなければいきなり総大将たるヴァイス先輩に押し付けざるを得ないんだ。竜族相手にあんな無茶した挙句今度は神格者候補に勝っちまったら大騒動必至、だから下準備する必要がある。意を察したのかミリアーナが先回り。
「準備しろってコトね。何が何でもバ・ロン要塞から聖戦士様も引っ張り出す。そして龍人と二虎競食の計を謀ル。
傭兵団長に聖戦士には手を出さす監視役として龍人について行かせるように誘導するヨ。」
流石にシルフィア嬢もリ・アネスの条約破りを看過できないだろう。しかし女王を守るため彼女が逡巡するはずもない。暴走したリ・アネスを止めるため聖戦士とメルキアが共同で討伐の形になれば万々歳だ。勿論それを理由としたアンナローツェ侵攻には逆上して刃向かってくるからその会戦をバ・ロン要塞で『決闘』の形式でやるのがいい。勝てばよし、シャンティが負けたとしても別方面からヴァイス先輩率いる連合軍がアンナローツェ首府たる【フォートガード神聖宮】を踏み潰す。勿論ユン＝ガソルも自らの取り分を確保するために動く。双方の競争は
ダメ王女ごと玉座を押さえてしまえばあっさり片が付くだろう。彼女には宮内で先輩に引っ叩かれるオチで問題ないしな。
流石にゲーム通りの展開はダメと先輩方にきつく言ってある。ゲームじゃ演出で済んでもアレは王族を処遇しないというのと同じ、つまり化外同様の行動だ。
いくら相手に非があったとしても公衆の面前で王族を殴っちゃならないのよ。
「それともう一つ、バ・ロン要塞対峙後戦力を振り向ける。目標は、」
「セーナル神殿領、街道や拠点情報、神官共の内情は調べていルからね。神官共が厄介だけどイウス街道の御領主様が気が利くから楽な仕事だヨ。」
聞いてみると笑いだしたくなる。フォーウェイン男爵、ゲームでダメ王女の施策に面従腹背を貫き傭兵隊長と謀ってアンナローツェの裏切りを発動させた一人。ん？ 成程そっちもか！
「そっちも洗い直してくれ。恐らくユン＝ガソルの二重スパイが紛れ込んでいる。」
「うへぇ！ なんなのヨあの国、兵器産業ばかりの脳筋国家と思っテたら。」
「
『王妃』を侮るな、と言ったところだ。」
そりゃ今までのイウス街道沿いの策謀を振り返るとな。ザフハ-アンナローツェ-ユン＝ガソルの国境地帯だ。恐らくあの貴族は三国から適度に旨みを引き出しているのだろう？ それは悪いとは言えない。資産を肥やし宮廷で力をつけ国政に意のまま操る。貴族は大なり小なり考えてないと競争に負け零落してしまう。
元帥各位の腰巾着として専横を振るうオレなんてその筆頭だろう？
それが許容されているのはオレの美学とメルキアの利益が一致し、理と利で帝国を動かせるからに過ぎない。そしてイウス街道はまだ帝国領ではない。
だから潰す
テーブルの上の地図、イウス街道を指で鋭く叩く。
「言い直すがセーナル神殿領は戦後措置だ。それより優先すべきはイウス街道沿いの中小貴族共。反国家法のもとに拘束した上、
フォートガード神聖宮陥落と同時に蹂躙戦に移行する。」
「オルファン元帥から傭兵団借りといた方がいいね。フェイスの所からも引き抜く？」
蹂躙戦が何を意味するか彼女も即座に理解する。殺人強姦破壊略奪上等、貴族も平民も無差別に巻き込む外道の戦だ。絶対に国軍にされられない。これは倫理面より『美味しい思いができる』という強烈な嫉妬になるのよ。男と女以上に対象外の部隊から見ればね。故に風紀が乱れ軍紀が崩壊する。だから枠外人員に行わせそれを報酬とするのが普通だ。各々の
正規軍には『雇われ犯罪者共』『獣の兵隊』と侮蔑されるよう印象操作すら行なわれる。
実はこれを最も好みそうな魔族の国家であるエディカーヌ帝国がアヴァタール五大国では最も厳正な規律を持つ。他人のふり見てもあるだろうが
闇夜の眷属の大国、その自尊心にかけて化外とされる行為を下に見る国民性だ。うんアンナローツェ傭兵団も解体するから再就職の目は残しておくか。
「使える奴がいたらランラメイラに連絡させろ。そいつ中心に一隊作ってメルキアの為に汚れ仕事ができるか見てやる。オレも出る。」
「お嬢様お姫様あやしてばっかで欲求不満とか？」
いきなり炸裂するミリアーナの茶々に憮然。
「ないわい！
この瞬間で面従腹背の売国奴共を潰さないと次の機会が無い。だから徹底的にやるのさ。」
「じゃラギールにも話しつケとく。でもさぁ〜」
今度はにんまり笑ってオレのズボン弄り始めるミリアーナ。
「おいコラﾏﾃ」
「まタないよー、せっかく二人きりなんだシね〜。」
あぁぁ……こうなるか。睡魔族を裏仕事に使えば御褒美と言えばコレだもんな。そのまま仮眠用のベットに押し倒された。半分は本能に任せて、もう半分は別の事を考える。アンナローツェがこの期に及んで対メルキアシフトを引いてない。亡国を狙うフェイスの仕業が…………それとも？
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