(BGM  ……てへっ 天結いキャッスルマイスターより)


 「ええと、どこに置いてあるんだか?」

 必要な資材は搬入したはいいがもう倉庫に放りっぱなし積みっぱなし。オレの転生直後から必死になって記憶から手繰りだした各ゲームの情報ノートはどこ行った? 大丈夫、この世界に文章解読魔術は無い。むしろ書いた者の残留思念を呼び出してそれを投影するという方法もあるが態と意訳してるしボケツッコミ満載。エロゲの与太話としか思えないだろう。――――前言訂正、この世界がエロゲだから御伽噺になるだろうな。


 「お! あったあった!!」


 ユイドラ名産予定?【南方果実の空き箱】からオレの軍用雑嚢(キャリーバック)のひとつを持ち上げる。何故に錬金用の各種魔術糸をしまっている箱の中にあったんだ? しかも鳥の巣みたく同じく錬金アイテム銀色の羽までくっついて出てくるし。オレこんな汚部屋のようにしまい込むことは無いんだけど……ん? 箱の隅に人形??
 そのレオタードコス人形が大きい汗一筋垂らしたように見え、観念したのか言葉を並べる。


 「……じじじじじ――――っ?」


 即座にオレは彼女をひっ掴み甲板に飛び出した。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――



――魔導巧殻SS――

緋ノ転生者ハ晦冥ニ吼エル


(BGM  悲しみの雨 天結いキャッスルマイスターより)





 雨の中、全速力で舷側に突進。大リーガーの如く握った手を大きく振りかぶり……
 いきなり手が油壺の中に突っ込まれた感覚。バカな!? 魔術はかき消せる! 対処の暇なく彼女がするりと掌から逃げ出す。四つん這いでオレの袖を駆け下り背中に回る。


 「こ! こらっ!!」


 ハタキ落とそうとするが右へ左へ上へ下へ、狙いを定められない背後をいいことに這い(にげ)回る。そして盛大に。


 「じ――じじじじっ! じ――――じじじじっ!!」

 「アル閣下! 貴女蝉ですかっ!!」


 ドタバタなオレ達の狂騒に気付いたのか周囲に人が集まってきた。


 「アル閣下!」

 「あらあらあら?」

 「ほら御覧なさい。ちゃんと眷属として附いてくるでしょう?」

 「アル様……気持ちは解りますけどもう少し啼き(いい)様が…………。」


 こうなっては嫌も応もない。知らないうちに放逐という手は使えなくなった。今回の旅における幹部ともいえるシャンティ、キルヒライア、エリザスレイン、シルフィエッタに見られてしまったら闇に葬ることなどできない。え? アル閣下を抹殺?? 違う違う!

 
密航は重罪だ


 これは輸送に船舶を使う海洋国家だけに限らない。交易路を行き交う陸のキャラバンとしても同じなんだ。余程の理由がない限りその長の責任において商隊の安全を保たねばならない。食い詰め密航ですら商隊の負担になるしその密航者が強盗、襲撃の手引きをする場合もある。各国やセーナル神殿が目を光らせ、時には公路鎮定の為、軍が投入されてすらだ。だから密航者はその船長や隊商長が余程庇い立てしても碌な目に逢わない。

 
良くて放逐、悪けりゃ殺される。


 下働きとして奴隷同然でも附いていける。こんなものは幸運中の幸運だ。ゲームでこそ神殺しが隊商にくっついて地方を動くイベントがあったが無理だ。いや、神殺し故それが覆るだけという事。
 そもそも一都市や一国を気紛れで滅ぼしてしまうような超危険人物だ。彼の怒りを買いたくない、そして“護衛”として附いてくるだけで魔物や山賊の襲撃は気にしなくても良くなる。――超常が出て来たら諦めて神に祈れ――そんなところだ。
 船舶であれば処刑の常套手段がそのまま海に放り捨てられる。そしてウォースパイトは魔導戦艦、空中とはいえ船舶であることは間違いなくエイダ様はこの点で抜かりなく魔導戦艦基本法を制定していた。オレが【メルキアの比翼】を自称し、それが【ヴァイスハイトの比翼】を隠す方便に過ぎなくともそれはメルキアという法治に従っているという事。オレ達が周囲の耳目に晒されてしまった段階で、

 
オレはアル閣下を公式に処罰しなければならなくなる。


 オレは大きく溜息をついてアル閣下に話しかける。


 「もういいです。アル閣下、ポイ捨ては出来なくなりましたからちゃんと前に出てきてください。」


 恐る恐るといった風情で彼女が背中から軍服の前までしがみつき移動をした後、オレの前で浮遊し目を合わせる。


 「閣下、何故こんな事をしたのですか? 閣下が今回の御芝居を推察できたのは私にも解りますが何故ヴァイス先輩の元を離れるのです?? 魔導巧殻の在り様を忘れたとは言わせませんし、そもそも密航が重罪なのは知っているでしょう。」


 本来アル閣下が元帥代理としてオレに附いてくる。公的にはこういう解釈も可能なのよ。袂を分かったとしても御芝居の証拠と言い張ればいい。だが致命的な問題がある。

 
四体の魔導巧殻はアヴァタール外に出てはいけないのだ。


 実はここをメルキア帝国内だけから拡大させたのが皇帝ジルタニア。空恐ろしい奴だ。メルキアの防御兵器として魔導巧殻を諸国に認識させるのではなくアヴァタール内であれば攻撃兵器として認識させ結果抑止力を創り出す。思想やメルキアの流儀が違わなければオレやヴァイス先輩に出る幕は無かっただろう。話が妙な方向へ流れたって? 違う! この解釈を創り出せるほど法の適用範囲が広いんだ。
 これは国内法じゃない。エレン=ダ=メイルとドゥム=ニール、そして皇帝ジルタニアが結んだ国際条約なんだ。だから不味いなんてものじゃない。アル閣下をオレを処罰しない限りエルファティシア陛下もダルマグナ翁も双方の種族から突き上げを喰らう事になる。【黎明の焔】製作どころかメルキアがエルフとドワーフ諸王国から縁切りされかねない。


 「……」


 アル閣下は俯いたままだ。彼女らしい剽軽さも好奇心も漂わせずオレの前で浮いている。


 「まだメルキア領内です。今なら間に合う。戻ってあげてください。今のヴァイス先輩に貴女は必要です。」

 「…………」


 人形として、兵器として涙を流せない。いや、流してはならない彼女が泣きじゃくっているように見えた。


 「もしかして……ヴァイス先輩と何かあったのですか。」


 俯いたまま絞り出すような……彼女に似つかわしくない嗚咽が漏れだす。


 「わたしはカロリーネをころしてしまいました。ヴァイスをとめることもできませんでした。私は、わたしはやくたたずです。みんなにかわいがられるだけでなんにもできないやくたたずです!」


 その言葉に絶句する。いやカロリーネを死地に追いやったのはオレの咎、ヴァイス先輩はオレに拘泥した故の自業自得だ。アル閣下とは何の関係も無い。己を追い詰める必要等無い筈だ。


「アル閣下……!」


 いや、違う! アル閣下を追い詰めてしまったのは史実を知っているオレとそれを話され行動してしまったヴァイス先輩だ!! 【魔導巧殻・アル】に対しオレ達はひとつだけゲームと全く違う運用を取ってしまっている。

 
アル閣下を前線に出していないんだ。


 この際ドゥム=ニール守護騎としての戦歴は無視するとして彼女の初陣はハレンラーマのリ=アネス戦。センタクス中、いや三人の姉含めてメルキア中から愛され可愛がられていた彼女の『返すべき時』それが滅茶苦茶になった。
 己の失言がゲームオーバーを回避したとはいえカロリーネを死地に追いやり、そのせいでオレが狂った。それを救えたのか解らないまま、オレからの忠告を受けるも今度はフォートガード神聖宮でヴァイス先輩の暴走を止められなかった。
 戦場で人は変わるという。少年志願兵が僅か数か月の実戦で老兵すら醸し出せないほどの面構えで至言を吐く。そういった知的生物を敵とする過酷な戦場経験が無い為、彼女の言葉は届かなかった。だから彼女はゲームのように僅かな真面目モードでヴァイスハイトを動かせなかった。だからこそ彼女は全て自分が悪いと己を追い詰めるだけになってしまったのか。


 「わたしはメルキアにいてはいけません。もっともっとみんなをふこうにしてしまいます! シュヴァルツは【知っている】のでしょう!? わたしが『世界の敵』で在ることなど!!」

 「総員、第一種戦闘配置。オレが良いと言うまでだ。敵はアルクレツィア。」


 全員が弾かれたように散る。反射的に動いたのが大半だがエリザスレインは真実を察したのだろう。今こそ闇の月女神・アルタヌーが復活する最大のチャンスという事に。警報が響き渡り、ありとあらゆる魔導兵器が稼働を始め、障壁が展開される。手すきの者は甲板に散り周囲を警戒する。その慌ただしい中でオレは言葉を紡ぎ……


 「その通りです。オレに与えられた封印(しんかく)、アル閣下の御物(にくたい)、晦冥の秘巧殻アルクレツィアの御物(せいしん)、今その全てが揃う可能性が出てきた。閣下の密航が最悪の事態を引き起こしているとも言えます。」


 ……誤導する。実はこの状態でルクが仕掛けてくる可能性は限りなく低い。先ず第一にこちらに神殺しが向かっている。此処で復活したら即抹殺されるのがオチだろう。その余波でオレ達は勿論アヴァタール全土が崩壊するだろうが彼女が【ガイダル・ヴァースラフ】のよう自己満足が為に世界を破滅させるとは思えない。いや、最終的にはそうなるだろうが世界破滅まで至る事は無い以上手を出すにはリスクが高い。
 そして第二、秘巧殻の御物はルクの真なる墓から動けない。魔導巧殻のカテゴリーに入っているとはいえ未だ『自己保存行動可能な自律戦闘兵器』に達していないんだ。そしてその場所にウォースパイトが行くことは無い。ここは遥か北、【旧ザフハ領・朱灰の幽谷】上空だ。
 そして第三、そしてアル閣下が言いたい事、願っている事など解って居る。でもそれは国家からすれば我儘でしかないんだ。――彼女が兵器である限り。


 「それでも戻っていただけないのですか? アル閣下。」


 「愚か、そこな人形の覚悟も解らんか? 粗忽者め。」

 「「え?」」


 振り向く。そこにいる人影、蒼銀色の髪、蒼色の瞳。


 「ハイシェラ閣下、何故ここに?」

 天使の言伝(エリザスレイン)の御蔭でセリカが無理をして儂を送り込んだだけじゃ。主と同じく図体ばかり大きいから苦労はせんかったぞ? ついでにそこな悪趣味の極みたる船首像を見せられれば嫌でも解るわ!」


 同一次元分離体(エイリアス)か。ということは神殺しももうすぐ合流する。来た時点で戦闘態勢は解除しよう。……悪趣味と言っている時点でモロバレですけどね――閣下の正体。その閣下、オレの誤導を忽ち理論打破してしまう。


 「主が吐いた言葉、そのまま返してやろう。それが可能か? 今、主とそこな人形(アル)がアヴァタールを出てしまえばアルクレツィアの思惑は宙に浮く。永久に戻ってこねばここ数十年祖奴の策は止まったままじゃ。」


 その通りだが彼女がそれを良しとするか? そうなればアルクレツィアはまずメルキアを陥としにかかるだろう。オレが抜けアル閣下が抜け身勝手な各国の目論見に翻弄される。そう孤独の王座の中、ヴァイス先輩を変える――憎悪の支配者へと。


 「いいえ、決別と放逐、今回のオレの目的はアルクレツィアを迷わせる事です。彼女の手駒はあまりにも少ない。しかしオレのとる手が常に予想がつかないようオレは策の手を広げてきた。どれが真実か嘘か解らない。あるいは全部真実ともなればアルクレツィアは全てに妨害を行うか。あるいは全てを無視するか……」

 「馬鹿者、もっと良い手があるわ。一瞬で主の策全てを崩す……正気か?」


 オレは笑みを浮かべる。その答えを肯定するように。イアス=ステリナというこちら側の論理を知っていたならば察知できた筈。オレの望み、カロリーネの死で歪めてしまった『グランドエンディング』の正体が何なのかも。嘯く、


 「ザイルードの咎はザイルードが決着をつける。筋ではありませんか?」


 不穏な言葉に反応したのかアル閣下が怯える。


 「シュヴァルツ……あなたは何を考えているのですか? 今の()顔、あの時のヴァイスと同じくらい怖い。」

 「先程ヴァイス先輩の前で大見栄を切りました。最早オレがメルキアを使って果たす目的はこれだけに絞られたんです。『史上最大の兄妹喧嘩』。」

 「主の妹も狂っておるが主も大概じゃ! それで危機に陥る此の世が不条理にしか思えん!!」


 思いきり怒鳴られたけど呆れと解釈しとこう。少し詩的に言葉を選ぶ。


 「言うなればどちらもこの世界にとってのイレギュラー、弄陽と虚月の争いですからね。争いは個人レベルにした方が後腐れが無い。そして願わくばこの世界のマイナスをマイナスすればプラスにならん事を。」


 うん、正直『真なるルク』(アルタヌー)の胎動からオレの行動は神殺しセリカに負けず劣らずのタイトロープヒストリーと化している。だからこそ超常も迂闊に手を出してこない。『己の論理でしか世界と関わらない』なら『手を出した者が真っ先に破滅する』では話にならないからだ。現神や神殿も薄々は気づいているんじゃないかと思う。端的に言えば。『兄妹喧嘩は他所でやれ。』て事だ。


 「(まさか、狭間の宮殿開けて神の墓場でやるわけにもいかないだろう。現神としてはメルキア含めたアヴァタール全土と引き換えでも構わん位は考えているだろうな。)」


 そう考えながらオレ個人としての【魔導巧殻・アル】を連れていけない理由を言う。というかさ、いくらゲームでは無いからと言ってキーキャラクター兼メインヒロインが舞台ほっぽり出すのはどうなのよ?


 「だからこそアル閣下を連れていけないのです。オレは疑っています。アル閣下の御物とアルクレツィアの御物は共鳴するのではないかと?」


 そう流石にオレの策動全てを筒抜けにされては敵わない。その疑いがあるオレとアル閣下の接触はなるべく避けるべきなのだ。イウス街道がオレと彼女の最後の接触になる筈だった。
 一陣の風。それを堪えるとオレ達の前に神殺しがいた。見れば周囲に6体もの【歪竜・ペルソアティス】。ウォースパイトを取り囲み旋回しつつ周囲を睥睨している。戦闘態勢解除を下令。これでアルクレツィアの襲撃は意味の無い物になった。静かに歩きオレ達の輪に入った彼が言う。


 「シュヴァルツ、それは無い。それは神が神である証拠。いわば“私”(オレ)と同じモノになるという事だ。お前は【知っている】。(オレ)が覚えていない罪を……業を。」


 彼の蒼色の瞳が僅かに揺れている。それは彼の女神の剣(リブラクルース)の様、そして言葉遣いに交じるあり得ない一人称。反射的に片足を半歩引き、左腕を持ち上げ人差し指を額に着ける。メルキア貴族が礼法として用いる最上位にして神に肯んじないメルキア貴族によっては一生縁のない礼法。神への拝謁だ。少し考えその真意を咀嚼できた。


 「え?……あ!…………成程。そういった解釈が出来る訳ですか。感謝します。」


まさか……真逆、女神とその恋人双方の無意識だとしても神託に等しい代物を呈されるとはね。
 簡単な事だ。本来なら御物たる神核、精神、肉体は互いに引き合う。オレは大敗したあの封印戦でアルクレツィアに神核を使われた。ここで矛盾点が生じる。何故オレより神核が分離されなかった? または妹から精神が分離されなかった?? 聖なる父の神力が邪魔したともあり得るがそこで神殺しの在り様が問題なってくる。

 神殺しの肉体は正義の大女神アストライア。極端な話、セリカという魂は肉体と思考を変容させている術式に過ぎないことを。

 本来セリカの魂は強大なアストライアの肉体に振り回されまともな生存すらできないだろう。破滅した彼女の妹女神【慈悲の大女神・アイドス】の如き存在になっても可笑しくない。そうウツロノウツワの外殻【名状し難きモノ】だ。
 そうならずにアルクレツィアは存在している。たとえ魔導巧殻と言う元をたどれば神造技術という秘跡を用いているとはいえなにかが対価として存在している。そして此処で神殺しの言う対価が出てくるのだ。そう、縁と絆の物語(キャッスルマイスター)、その悲劇の結末にして本来のルートともいえる愁嘆場にて最悪の兵器と化した小さな女神が今際の際の言葉として紡ぐのだ。


 
「神を殺すとね、その人はとてつもない業を背負っちゃうんだ。」



 既にアルタヌーは()んでいる。ただその遺骸を汲んだ者はその業をも背負うことになる。その業とは何か? その答えはこの物語を飾るテーマソングにある。


――世界を満たす――に宿る業がオレの行動【宵闇の星拾い集め】。

――世界を欠けさせる――を継いだルクはアルタヌーの願いと言う業【闇の月満たされた祈り】。

――世界に在る――アル閣下の業は【揺るぎない闇その一縷の陽】。


……あれ? まさかヴァイス先輩も関わっているのか。歌詞からしてあの部分だがその解釈ということはあくまで前詞にかかる修飾となると【願う、迷いなき魂】か??


 それがメルキア中興戦争を神々から見た事象になるのかもしれない。溜息を吐き切れ始めた雲の隙間から届く月光を見やる。
 糞食らえ等と言えない。始まりに月を見て吼えた台詞は撤回せねばならない。ヒトの身であればそう言った我儘も許される。ただ【預言者】として無理矢理にでも定められたということはオレの意思に関係なくオレも業を背負っている証明になるのだ。
 さてここで問題。死した女神のバラバラに散じた絆と想い――業――は果たして同じものか? 関係者を集めきっちり話し判断させる。これは神代に関わる者全員が共通認識としておくべきだ。と……アル閣下が話し始めた。


 「わたしとシュヴァルツはちがいます。わたしはシュヴァルツのような己すら捨ててせかいを変えるようなつよい意志をもっていません。シュヴァルツはわたしのように小さなしあわせにまんぞくしません。」

 「そこらへんは【知っている】と経験故ですね。それに私はアル閣下のように能天気に笑える性質じゃないので。」

 「むー! ひどいです!!」


 アル閣下近くまで来てオレの頭をペチペチ叩き始めた。つまりはそういうこと。背負う業が違えばもはやそれは別人だ。神間通信なり魔法術式、魔導技巧なり繋げる力が必要だ。そしてそれでは個々を完全に繋げることなどできない。即ちアル閣下の情報が無意識でアルクレツィアに伝わる事は無い。


 「一応損得では納得しましょう。ですがメルキア法典魔導戦艦基本法からすれば、そして国際条約からすればアル閣下の出奔は明確な法令違反です。」

 「石頭じゃの。世界に冠たる【貪欲なる巨竜】(メルキア)、その国威を壟断する【時間犯罪者】とは思えぬ。」

 「『節度と言う詭弁』、全く逆の方向に使っていますわ。一国に拘っているような場合では無いでしょうに。」


 ハイシェラ閣下とエリザスレインの呆れた声に憮然とする。御芝居だからこそ戻るタネは用意しとかなきゃならんのよ。正直、最後の復讐戦争を始める莫迦王の目論見を読み切れない。必勝の策ある筈だ。彼でなくても三銃士筆頭『王妃』には。オレの読みならば、

 恐らく3か月後センタクス前面で決戦になる。ヴァイス先輩は窮地に立たされるだろう。

 それまでに戻らなきゃならん。今のアル閣下の行状は明らかにマイナス。どころか将来のメルキアにとって害になる。困ったもんだ。おや、シルフィエッタが意見を求めてきた。


 「シュヴァルツ様。こうしては如何でしょう? アル様の身柄を白銀公に預けるのです。レウィニア王都・プレイアでエイフェリア様と水の巫女様。その三者でまず己の策を決めるのでしたよね? ならば白銀公も同行している筈です。」

 「許す許さないの問題がありますが……アル閣下の身柄を一時的にエルフ諸王国(セレ・メイレム)に移してしまうという事ですか。御物の制御者たる【神懸るモノ】が元はルーンエルフで在ることを逆手に取るわけですね。」


 感心する。いわば白銀公の代理人としてまでアル閣下を一時的に格上げしてしまう。これならエルファティシア陛下も『遺憾』や『抗議』以上やる必要がない。自分達より上の存在が意志を押し通すのだ。エレン=ダ=メイルもドゥム=ニールも様子見という時間稼ぎができる。更にぶっ飛んだ意見が飛んできた。しかも今提案した当人から!


 「もう一つあります。フィアスピアの件です。シュヴァルツ様の保険、ファラ=レアロス精域葉が許す筈もありませんから。フィアスピアとアヴァタール、地方間全面戦争を防ぐには手出しができずそれより上のエルフ諸王国(セレ・メイレム)に泣きつかねばならないよう事を大きくしてしまうのです。何時目覚めるかも解らない【世界に在ってはならないモノ】(グアラクーナ)と今現実に在り、地方如きでは手も足も出ない三柱もの【世界の敵】(アルタヌー)、どちらを優先すべきなのか自明です。」

 「……随分と悪辣になったものですね。これもシュヴァルツの影響?」

 「嘆いてばかりではいられぬ。己を悔いた者はより強くなるということだの。『隷姫』すら例外ではないということじゃ。」


 シルフィエッタの言葉に得心しエリザスレインとハイシェラ閣下の言い様に希望すら覚えた。そう、皆変わっていける。祖霊の塔へ行く前にエリザスレインとシルフィエッタが女の闘いやってたか一方的に押しまくられていたように感じた。その押しまくっているエリザスレインが皮肉を言うまでになったのだからオレの言うシルフィエッタの総仕上げは旅の始まりで完了してしまったのかもしれない。アル閣下に問う。


 「アル閣下、貴女はこの御伽噺のお姫様(ヒロイン)です。皆に愛され己を信じ不幸な境遇にあっても挫けない。己の存在を対価にヴァイス先輩と共に世界を救おうとした……。」


 強い言葉で更に問う。彼女が動く、それはメルキア中興戦争が地方内乱から世界存亡の英雄譚へと動くという事。そしてその中心軸に彼女自身が飛び込まねばならないという事。


 「しかしそんな添え物を貴女は否定しようとしている。それはオレと同じこの御伽噺を違う地平へと導く行為【時間犯罪】を行うという意思です。言いましたよね? 『わたしは兵器でありモノです。』と。強くなりたい、役に立ちたい。その願いは魔導巧殻としては許されざることです。」

 「シュヴァルツ、それでもわたしは……」   彼女の口を挟ませず意思のみを問う。

 「それが許されるという事は貴女が魔導巧殻ではなく【主人公】になるという事です。その覚悟がありますか?」


 強制はできない。そもそも彼女が主人公として動いた時何が起こるか解らない。だからこそ覚悟はさせておく。事によってはオレが消え、この時点でメルキア帝国が滅び、惨憺たる荒野の中ヴァイス先輩とアル閣下、二人だけで【メルキア】を再建しなくてはならなくなるかもしれない。
 アル閣下は少し黙り、そしてはっきりと頷いた。これ以上は野暮だろう。その通りだ。主題歌における最後のフレーズ。この言葉はアル閣下の為にある!


 「では餞の言葉を。『揺るぎ無き闇、其の(・・)一縷の陽よ。閉ざされし()を、()導け!』


 ドクンと鼓動が跳ねる。思わず胸を抑え片膝をつく。


 「「「シュヴァルツ!?」」」


 皆の狼狽を他所に呆れる。意訳し巧妙に変えてもこれか。しかも最終フレーズだけで。オレと言う世界の敵、それがどれほどのものか実感できる。オレを送り込む其の時、その謡、歪めた今ですらそれを阻止せんが為、神力が稼働しかけた。気休めかもしれないが帰ったらハリティにもう一重防衛策を講じてもらおう。


 「大丈夫だ。これも切り札の一つに過ぎないからな。では許可が貰えることを祈ってプレイアに向かおう。もし出なければアル閣下はメルキアに差し戻すことになる。」


 緊張した心持でアル閣下がもう一度頷く。つまり己の道は己が切り開け、己の言葉で白銀公を説得して見せろ! と脅しをかけた。
 それに白銀公が肯んじなくても手はある。そこにいる神殺しには予め今回の行動を話している。勿論神殺しがオレ達に同道など以ての外。オレからしてもプレイアの次に訪れるレルン地方港町ミルフェ、カドラ鉱山こと未来の【カドラ廃坑】には絶対に近づかせるわけにはいかない。だからいくつかの依頼と共に別行動してもらう予定なのさ。
 『神殺しへの同道者にアル閣下が附いてきた。』世界中文句が言えない。そしてオレ達も彼をフォローしながら責任を押し付けられる。余りにも力と格が違うが故、オレ達ではレッドカードでも神殺しならラフプレーで済ます事が出来るんだ。
 メルキア外では法治より人治が大きいからこそできる荒業。そして神殺しの判断は『神治』に等しい。文句ひとつに神を持ち出させばならない事態は神殿すら及び腰になるだろう。オレは艦長室に戻る。アル閣下の合流は予想外だったがこれで手はさらに一つ増えたことになる。ふと見上げると夕暮れ、雨雲は消え青の月【リューシオン】が昇り始めている。思う、


 「(神殺しも、魔人帝も、世の主人公の殆どが赤の月を背景としていたな。)」


 何故オレには碧光が照らされるのだろう? 青の月リューシオンは処女神にて浄化の女神、この世界の秩序を司る神の一柱だ。オレ自身がラウルヴァーシュ秩序の改変者【時間犯罪者】を自任するなら赤の月ベルーラの方が余程似合う。自意識過剰だと思う。だがあのクロスポイントが激動の時代の中心軸であるならば……オレが既存秩序の終わり。その見届け人ということか?


 「200年後、この世の理、それが変わる発端がこのメルキア中興戦争。だからオレは送り込まれたのか? 【預言者】として。」


 扉を潜りオレは艦内に入る。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――


(BGM  高貴なる御所 戦女神VERITAより)



 「閣下、不敬にも度が過ぎます。侍従から聞いた話。卒倒するかと思いました!」

 「知ってる限り彼女くらいしか解らないネタなんだよ。正直叙事詩では判別がつかないから情交関係を整理できない。これはオレやメルキアの今後にも影響する。だからあくまでも駄話として聞いたのに。」

 「それで一発で済んだのは恩の字です。戦勝国の閣下の奴隷として祖国の大逆罪に問われるなんて願い下げです!!」


 散々に奴隷騎士【隷士】で在る筈のオビライナに怒られているのは仕方がない。ただどうしても聞いておきたかった。好奇心もあったんだが女性特有の問題だしな。エロゲーマー全員処女厨で在る訳でも無し。玄人に聞こうにもディナスティの先生では偏り過ぎる。何しろ教育者の立場だし教育するオレにも偏りがある。だから女性一般の問題として質問したんだけど。
 その答えは貰えたけど御土産同然で左頬に手形が付いてる。聞いた後、こめかみヒク憑かされながら近寄ってきて凄く好い笑顔で張られた。いやー石像への憑依体とはいえ【水の巫女】の右腕180度スウィングなんてゲームじゃお目に掛かれないだろう? え、何を聞いたって?? 答えがこれだから言わずもがなだが???


 「いきなりオトコのデカブツなんて突っ込まれては痛いですし血だってでますわ! 初めてでなくてもです!!」


 頂いた“御神託”がコレ。ま、必要な情報は頂いた。
 まずオレの計画が神の禁忌に触れることは無い。更にレウィニアが西領のバックアップに入ることも確約してもらった。問題は南領にエディカーヌ帝国がそしてユン=ガソルにマーズテリア神殿が近づいている点だ。全く厄介な。これでレウィニアの西領支援を『神殿勢力を関わらせない』つもりのオレが追認せねばならなくなった。エディカーヌは伯父貴のコントロールに任せざるを得ないとしても何故バ・ロン要塞攻略を容認しマーズテリア教会に掣肘を加えた一翼であるはずのユン=ガソルが今更教会と連携するのか? 事実ルイーネ嬢がレウィニア南方、宿敵エディカーヌ帝国との緩衝国家であるバリアレス都市国家連合にあるマーズテリア要塞教会に入った。しかもオレに見せつける様、堂々とだ。
 それともうひとつ、バタフライ効果と思っていたことも内実が読めたしな。このころフィアスピア地方・インラクス王国が滅亡する筈も無いんだ。滅亡するのは今から数十年は後。それが繰り上がったかと思ったが王族暗殺による滅亡までの前に前段階があったんだ。現在フィアスピア地方が次なる覇権国家を求めて戦国時代だという。インラクス王国滅亡の報はついにこの収拾をインラクス王族が諦め国外逃亡してしまったのが真相らしい。そして懸念すべき情報があった。
次なる偕主に最も近いのが王国西部ラウロソの領主、

 【ヴァーチェスラフ・ラウロソ】

 即座にオレは水の巫女経由で向こうのエルフ国家【ファラ=レアロス】に向け彼に警戒するよう促した。ゲーム設定では彼は【ドシュア隧道】を踏み抜き最悪の異界のひとつ悪魔門(デモンズゲート)に到達してしまう。魔人化の果ての討伐での混乱……これによるインフルース王国を初めフィアスピア地方の秩序再編成はかなり遅れるんだ。
 さらに問題なのはこの時代に丁度インフルース王国南部【凍河秘境】に都市ごとソロモン魔神が転移してくる。しかもそれを謀ったのがフィアスピア地方の同軸位相世界【鼓炎嘯】に封じられているソロモン魔神ベリアル。ホントあの地方、神様が多数動き回らないと世界滅亡のトリガーになりかねん。本来【時間犯罪者】として迂闊に踏み込んではならない場所なんだ。


 「(最終的には攻城型重装甲曾孫娘(リシュエンツェーリ)とグアラクーナ商会(チーム)が滅却するんだがラウロソ領主は史実通り此処で封印しておかないとね。)」


 それでも優先事項に組み込んだのはオレが史実に対し誠意を持つ為だ。あくまで変革するのはアヴァタールに限定したい。例えばルノーシュ海賊バトルロイヤル『珊海王の円環』をここで終わらせることだって出来るんだ。一種の悲劇だから此処で珊海王ガウテリオを倒し、第五次円環戦争を発生させないのも手。だが200年後、全ての登場人物の願いが宙に浮いてしまう。刹那的とはいえ魔人ラファエラの珊海王を倒すという目的は根本から消えてしまうんだ。某シスコン吸血鬼(アルヴィド・グロス)などもっと酷い。その姉君がガウテリオ共々消滅する危険が高いからな。


 「さて、これで聖下との話し合いも済んだし白銀公も説得できた。ようやくオレは外征にお墨付きを得られた訳だ。君もこれで御役目御免、家族とよく話し合っておくんだな。ローエン家に今潰れてもらっては困る。」

 「私の家の事などよりあの狂艦(ウォースパイト)の心配をしたら如何ですか? 西領元帥閣下が恥も外聞も無く首かっくんに走ったと聞きました。」


 三銃士エルミナに負けず劣らずのツンツン娘め。まー隷士契約まで至って“なにもなくてポイ”じゃ『女としての魅力なし』と侮辱してるのと同じだしな。
 ただ挑発には乗らない。オレはあくまでレウィニアとは距離を置きたいんだ。戦後を見通してね。彼女をフェルアノと同じポジションにするなど下策。あくまで一回きりの伝書鳩として扱い事を為す。何故恒常的外交ラインを作らないかと言えば本来のレウィニア外交窓口はエイダ様率いる西領だからだ。だからオレはエイダ様には躊躇なく貸し借りして関係を腐心する。これを同じ軸に伯父貴とエディカーヌ帝国がいるんだ。


 「ドレッドノート以上の切り札だからな。エイダ様は兎も角、諸外国には焦らしに焦らしてやるさ。どれだけオレの前に金とモノを積み上げるか見ものじゃないか?」

 「アル閣下も含めてですか……最低な男。」

 有能だなぁ。次席副官兼次席護衛役として欲しいところだけどぐっと我慢、

 「誉め言葉と受け取っておこう。」


  そしてアル閣下の合流は叶った。これによりフィアスピアへの征途は確定したと言っていい。本来アレを動かすべきじゃないがユン=ガソルの手が読めない以上『最強の兵器』を確保しておく必要がある。勿論後の時代の為『天賦の才持つ鍛梁師』を誘導する手妻をメルキアに残す必要はあるけど……天賦の才? そりゃ当然でしょ。彼どう見ても異常だ。ハーフエルフであっても神格者になったとしてもあの才能は御都合主義を持ち出さなければ語れない。彼やり方次第で二柱も神様救っちまうんだぞ。主人公としてはヴァイス先輩を凌ぎ、神殺しや魔人帝に匹敵すると言っていい。
 城下に出て広場に向かう。帝都インヴィティアや四領首府と違いレウィニア王都【プレイア】は騒がしくも気品のある街だ。待ち合わせの場所に向かうとシャンティが駆け寄ってきた。オレの護衛を担当するとはいえ水の巫女の神域など近づかせてもらえない。オレが神権に伺候するという格式の差があるからね。


 「どうした。」

 「……なんでもないです。」


 両目から滂沱の涙エフェクトというあの制作会社得意のポップ画像を彷彿させる顔でシャンティが答えるけど彼女の行動に割り込んで胸元で閉め様としてた蝦蟇口に交易用金貨を数枚放り込む。まー戻ってきた先にちびーズ――ルクにテレジットにセラヴィにメサイア――が新品の帽子被ってお菓子パクついてるからな。


 「あ! ありがとうござます!!」

 「子守の御駄賃だよ。迷惑かけたな。」

 「では閣下、これにて。」


 踵を返す彼女に一言。これが最後だろうからだ。


 オビライナ・フォル・ローレン。血を絶やすな。君の子孫、それが伝説の再開となる。それが如何に苦しい結末であろうとも彼等は幸せだった。」

 言える筈もない! 彼女の子孫、グレバイト・フォル・ローレンとラティナ・ティン・レウィニアの悲恋と破滅など。そしてそれをオレは違えることはできない。神殺しの真なる再生の物語(メモリアル)へ繋げる為に。
 彼女はそれには答えず去っていく。それを睨みつけているようなシャンティに妙な感触を覚えた。フォローしてみる。


 「気にするな。元々逢うこと無き女性だったんだ。むしろ【知っている】身としては救えない痛みを教えてくれた人だった。」

 「? いえ……そうではなく…………」

 「?」

 彼女が目を逸らすと逆にオレの方に向かって歩いてくる二人組がいた。アレで夫婦と言うから驚きだ。エイダ様並みの“のじゃロリ”系キャラにして西領の鍛梁師、ドワーフの血を引くフィオ技巧長とその師であり良人でもあるスキンヘッドの大男。まさかこんな場所で縁と絆の物語(キャッスルマイスター)メルキア中興戦争(まどうこうかく)とクロスするとは。

 
【水闘獣の針団】団長【アイヴァッキオ・ケーニヒ】


 あのハーフエルフの師匠(ディートヘルム)、その先祖とこういった邂逅となるとはね。





◆◇◆◇◆


(BGM  戦嵐をよぶもの 戦女神ZEROより)




 「へぇ……アンタがメルキア自慢の【宰相と公爵の懐刀】ねぇ。こんな若造とは思わなかったな。」


 野太い声と共にオレを睨みつける彼におどけて見せる。本来商売人の筈だ。儲け先に悪感情は持たせたくない筈。しかも妻の上司。自分に優位な商売の為、軽く右フックのつもりだろう。


 「ヴァイスハイト閣下の長年のツレでね。しかも宰相の甥ときた。分不相応だが背伸びしなきゃならん時もある。」

 「その東領元帥と()り合ったていうじゃねーか。しかもメルキア中から金とモノちょろまかして最新鋭魔導戦艦で堂々と国外逃亡。大逆罪どころか国家反逆罪で銃殺刑なんぞ御免だな。」

 「ちょっと! アーヴィ!?」

 その舌鋒に慌てるフィオ技巧長。だが彼の言葉で評価を一段階上げる。それでも会いに来たという事は少なくとも自分の商売に利があると考えている訳だ。さらにフィオ技巧長に口止めしてあり、いまだ公的には国家指導者級のみの機密事項【戦狂い】にまで言及してる。何処でその情報を得たのか? 彼の組織【水闘獣の針団】は鐡刀匠合に属する移動工房でありスパイ組織ではない。警戒と興味をそそられる。
 そしてメルキアの流儀もよくわかってる。皇帝やその係累の者を害する大逆罪よりも国家そのものを裏切る国家反逆罪のほうがメルキアとしては罪科は上。それを言い放ち、『裏を寄越せ』と揺さぶりをかけているわけだ。だが言質をこの程度で獲れると思うなよ?


 「意見の対立位あるさ。むしろメルキアが一枚岩なんて方が恐ろしいな。神々が無意味な怖れで戦争吹っかけてきても困る。」

 「40年前の話は聞いてる。だがなアレはどう見ても神殿のヘマだ。それを【貪欲なる巨竜】は最大限に利用した。今度は何を企んでる? 狙いはアヴァタール全土か??」


 んなモン要らんわ。ただし広義の意味では正しいともとれる。暈したうえで概念的な物言いをしてみるか。


 「過分な評価だな。だがヴァイス先輩も、オレもそんなことは望んでない。中原の繁栄……そしてヒトがヒトで在り続けること。そんなところだ。」


 彼がポカンとした顔をした後、破顔する。いやもう爆笑に近い。何がツボに入ったのか解らん。膝をつき腹を抱えて笑う彼にこっちが困惑してしまう。

 「いや、大したもんだわ。フィオから聞いたがな……メルキアでぶち上げた技術帝国構想、魔法術式と魔導技巧の両立、出鱈目な奴だぜ! お前の夢、オレも賭けさせて貰うぞ!!」


 彼が握手をしようと手を伸ばし……


 
「だから、死にな。」



 
え?





◆◇◆◇◆


(BGM  牙を剥く咎人  冥色の隷姫より)



 目の前に現れた彼の袖がそれに隠され腕に据え付けられた暗器【零距離機軸弩】ごと分断される。何が起こったかオレも理解できない。辛うじて見れたのは靄をまとわりつかせた左からの手刀……手首スナップからの真空剣(メイデン・ブレード)!?


 「ギャッ!」

 「グアッ!」

 「ゲヘッ!」

 「ヒッ!」

 「ガアッ!?」

 同時に上がる周囲の悲鳴、地面に叩きつけられる鈍い音と絶叫。慌てて周囲を警戒すると四人の男達が倒れ伏し、そいつらに各々の武器を突きつけて這い蹲らせているちびーズ。――メサイアちゃんだけ魔術だけどゲームでのあの子得意の暗黒衝撃喰らったら大概の人間お陀仏だしな――最後にオレの目の前で割り込みをかけ腕を分断された男(アイヴァッキオ)を投げ飛ばして這い蹲らせたシャンティ。
 騒ぎを聞きつけて警邏の兵も私服姿のレウィニア騎士も集まってくる。当然オレは味方な筈のフィオ技巧長に魔導拳銃(エケホース)を突きつけている。


 「フィオ・ケーニヒ技巧長、これが西領の答えか?」

 「ち! 違う!! 違います!!!」


 必至になって否定する彼女だがオレは冷たい目を向ける。レウィニアの警備兵が捕縛したのは彼ら夫妻の方。当然だ、外交交渉に来ている国家要人を暗殺などその国のメンツにかかわる。事実今までオレが市中を歩いていた間もレウィニア第一軍の騎士が陰に日向に居たしな。やれやれ、それに甘えて油断したのはオレだけだったか? 去った筈のオビライナが駆け戻ってきて指揮している。


 「ザイルード卿、ご無事で?」


 ちゃんと公私の区別はつけられるもんな。オレと確執があっても『レウィニア貴族』として出来る子なのよ。だからこそ彼女の解放条件に水の巫女とのパイプを提示しそれを彼女は貴族派の力を利用して実現させた。私人としてなら側近として用いたい程だったんだ。――血狂いだけは何とかしてほしかったけどね。
 彼等を引き立てようとオビライナが荒っぽく立たせる。他の暗器が無いか警備兵がオレの間に壁を作りアイヴァッキオ・ケーニヒの服をはぎ取った時、


 「(なんだと!)」


 彼の二の腕の裏筋。そこに描かれた刺青、その形をオレは【知っていた】。まさか……そんなことがあり得るのか? 彼らの子孫か血族にしてグアラクーナ商会の重鎮、ディートヘルム・ケーニヒが縁と絆の物語で敵方に回る可能性などあり得るのか?? 驚きを隠し挑発から情報を引き出そう。


 歪められたファスティナ神聖語(げんだいまほうご)、まさか『悪シキ一族』の係累だとはな。だがオレを殺して御前等に何の得がある? 取り込むならまだ解らんでもないがな。」

 「困るんだよ……」


 は? 何のことだ?? 困る困らないで一工房主がオレを殺す。何言っているんだコイツ。


 「本物に出てこられちゃ困るって言ってんだよ! このクソ野郎が!!」


 そうか……そういう意味か。だから魔導巧殻(このゲーム)に彼がいた。魔物配合を行うためのモンスター集めで意外なことに役立っていたのが彼だ。魔導技巧師でありながら対精霊戦のエキスパート。その職業、魔導技巧師を鍛梁師に置き換え、歪められた現代魔法語と掛け合わせれば彼の所属が判明する。
 おそらく本来の狙いは皇帝ジルタニアが独り占めした皇帝家の遺産――即ち金に飽かせて突き進んだメルキア100年以上もの禁忌の知識。それがいつの間にやらオレと祖霊の塔という桁外れの存在で上書きされ国家も神殿も超常共すらそっちを向いてしまった。

 彼等の願い、人が人であり続けることという【独立】はそれを阻み敵視する現神達(そんざい)からも見捨てられてしまったんだ。

 え? 敵対的な存在が無視してくれるのであれば良いじゃないかって?? そうじゃないんだ! 彼らは神への憎しみを糧に今迄生きてきた。その思想を捻じ曲げ、自己満足に堕してもそれを守ってきた。後200年程度だろう? 彼らの復讐の物語(キャッスルマイスター)が始まるのは。

 だが此処に居る大馬鹿野郎(シュヴァルツバルト)が全部覆してしまう。

 神すら一知性体として扱い、対等に話ができる『本物の独立』へ世界を導く【預言者】。今までの論理を未来まで含めて否定し、覆さんと試みる【時間犯罪者】が此処に居る! “本物”の【世界の敵】によって自分達の怨念も苦衷も絶望すら“無かった事”にされてしまう。
 言うなればテロで処刑動画投稿して世間を注目させようとしても皆、話題の芸能人の動画に釘付け、下手すりゃクソコラで揶揄される。そりゃ憎しみしか湧かんわ……そうか、彼らはこの時代には解って居たんだな。己達の存在がもう“偽物”に過ぎないことを。

 ならば叩き潰す。破滅の後の創生へ己を繋げられるのかは彼等次第だ。

 「困るねぇ? そりゃアンタ等【魔シキ封錬ノ匠】(あシキいちぞく)からすれば横から手柄を掻っ攫われるからな。だがその怒りに何の意味がある? 結果オーライだろうが! んな神と世界皆殺しなテロリズムなんぞ止めてフィアスピアの本拠【毒腐の盆地・ヴィネヘデス遺跡】か亡命先の【ベルガラード王国】で商売でもしろ。こちとら魔導技巧を掣肘出来る識者がいないせいで現神共から睨まれてんだ! お前らが対抗者にならんとこっちが困るんだよ!!!」


 「テ!? テメェ!!」


 罵声の理由など御見通しだわバカめ。秘密結社【魔シキ封錬ノ匠】、その本拠から理念まで全部公然とバラしているからな。これでは闇勢力の本拠ベルガラード王国も、浸透しつつあるフィアスピア地方諸勢力も庇いきれなくなる。というか嬉々として弾圧に掛かるだろう。そしてオレの外交パーティや交渉での話を裏付ける。これでオレは現神からすれば【世界の敵】でありながらディル=リフィーナ側に立つという証拠になる。さらに煽る、


 「オレから見ればお前等はそれほどの価値があるんだよ。それを何だ? つまらぬ嫉妬で八つ当たりか、えぇ!? 神を殺すなら、世界を破壊するなら! もっとマシな神の殺し方しろよ!! もっとマシな世界創り直せよ!! 自己陶酔で粋がってんじゃネェ!!!」


 事実そうなんだ。彼らの正統な血は『神力を言語力として変換できる』んだ。簡単に言えば神が制約を受け入れさえすれば、そして彼等がその保険を用意できるのであれば人と神が同じ目線で世界を感じ、同じ目線で世界を導く事が出来る。恐らく某駄女神に初めに施された処置はこれなんだろう?――少なくともあの物語でガイダルが施そうとしていた処置は父親たる精域神パライアが許さない――正しく神と言う論理に屈しない『神殺し』、そしてヒトが神と言う圧倒的上位者から『独立』を叫べる力だ。
 そして神を概念的な支配者から大いなる力持つ一知性体としてディル=リフィーナに根付かせられる可能性を秘めている。双方が力を合わせればこの世界は円環の願い(シルフェニア)すら超える理想郷への第一歩を踏み出すことができるだろう。この世界になってから何度も降臨したであろう【預言者】達……彼等のみが【知っている】残酷な秘史。この――

 
恒星規模球殻内包多元世界(ディル=リフィーナ)


――の真実に一歩迫れるんだ。
 引き立てられていく彼等を見て思う。まーこちらも困ったことになった。フィオ技巧長が裏切るとはな。彼女自身知らなかっただろうが暗殺と言う手をオレに導く腕であったことは事実だ。これでは『最強の兵器』をオレの望む形で起動させられない。もしかしたらあの停時結界にオレが触れたら勝手に封印解除かもしれんが嫌だぞオレ、駄女神こと『ウザかわ天縁神』のノリについて行けるかっつーの! 体中かっくん攻撃されてやっと気づく。


 「隊長? 夢の中から出てきてください!」

 「「「「おきろーおきろー!」」」」

 シャンティとちびーズに急かされてオレはウォースパイトに戻る羽目になった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――


(BGM  約束の剣 戦女神ZEROより)



 「全く……戦後たっぷりと借りを返してもらうつもりがこれか?」


 西領が開発したアル閣下の装備や最強の兵器を現状のまま稼働させる手妻、表向き邪聖剣の資料とした研究成果を渡されながらもエイダ様に毒づかれた。先日の再会での『戦狂い見せろー!』の首かっくん攻撃は周囲へのブラフ。西領が魔導と言う餌で東領を完全に取り込んだと周囲に思させたかったのだろうがその鎖とも言うべき最優の技巧師が裏切って居ました。エイダ様、裏面でならオレに大きく貸しを作ってしまったことになるんだ。


 「エイダ様に非はありませんよ。オレだって呆けていたくらいですから。もうシャンティを護衛として手放せませんね。本当に良くできた娘だ。」

 「水の巫女がイソラのアークパリス神殿で話を通してくださるそうじゃ。これでシャンティも背後を機にせずとも良くなる。しかし戦狂い乗組員、超常以外全部信用が置けなくなってしまったのが痛いところだの。」


 水の巫女経由で光陣営の現神に話を通し、シャンティへの調略を阻む。少なくとも神殿独自でオレに直接危害を与えれないようにするんだ。これで国家や神殿は表向きオレを害しようとは言えなくなる。だが、
 トンと鋭い音と共にテーブルに指を当てオレ達の注目を集める。たいそう不機嫌な声で捲し立ててきた。演技とはいえ美人さんがやると迫力あるな。


 「制約を課すべきですわ。そもそも禁忌にヒトが関わるなど論外です。今回のシュヴァルツの征途が禁忌を丸ごと呑み込んで消化してしまう代物である限り幾ら技巧があろうとも只人がそれに触れる等以ての外です!」


 厳しいエリザスレインの言葉にバツの悪い顔をオレはしてるんだろう。オレの油断でウォースパイト全乗組員――殆どがメルキア四領の精鋭騎長――を疑わねばならなくなったのだから。そもそもエリザスレインはこの征途にオレは兎も角メルキアを関わらせたくないように思える。全部己の配下とすげ替えるよう提案してきてもおかしくない。ただ、それを強行すればオレだけでなく猜疑を抱いた現神まで敵に回しかねないから妥協案、全乗組員に制約を課し己の意のままになる手駒にした上でメルキアの影響を断ち切る気だな。これは面白くないので疑念を以って牽制する。


 「エリザスレイン。オレは万能無敵ではないし君の言う預言者としては失格に近い。オレの暴論に過ぎんが預言者は自己犠牲に酔えなければやってられない代物だ。」


 ここでカマを掛ける。


 「否定したイグナート、求め歪んでいったガウテリオのようにな。」

 「…………」


 濁したな。流石に【知っている】と挑発すべきではないと悟ったか。各々のゲームキャラと実際の人物像、特に希求目標にずれがあるんだ。おかしいと思ったのさ。何故ゲームでは破戒の魔人・イグナートが初期から竜族に近づくという政治謀略を駆使できたのか。珊海王・ガウテリオ、彼が全てを手に入れてすらゲームに無い『欲した物では無い』と伝説に綴り深海へ消えていったのか。
 彼女は【知っている】のだ。このディル=リフィーナに現れたオレの先輩達【預言者】の軌跡を。彼女が予知を権能に加えているかもしれないと思っていたが、彼女の真なる任務――それは己を裏切(かみとな)ってまで『聖なる父』に殉じようとする【選定者】が彼女の本分なのかもしれない。


 「エイダ様、少なくともフィオ技巧長の代役はいないのですね?」

 「あぁ、【真なる鍛梁師】が茄子畑で採れれば苦労はせぬわ。」


 茄子ってナスって! エイダ様メイド天使の関連用語言うの止めてください!! 噂をすればなんとやらですから――それはさておき、
 縁と絆の物語でも真なる鍛梁師は主人公だけだしな。魔術を駆使する技師、これが鍛梁師。だが長年の勘や経験で魔術無しの技師も鍛梁師を名乗れる。というかこっちが多数派だ。つまりフィオ技巧長を外すことはできない。ならばエリザスレインの言う通り彼女に関しては制約を課すべきだろう。そしてオレが悪を呑むべきだ。何をやるかは当たり前、ただオレではスキル的に無理。エリザスレインに頼って恣意的に手駒を捻じ曲げられては厄介だし意思すら捻じ曲げるあの魔術は自己防衛とお遊戯なら兎も角、本職に任せないと危険だ。そしてその空前絶後の本職が隣にいるならば。


 「神殺し、依頼受けてもらえるだろうか?」

 「面白くはないな。」


 其処でオレの台詞を使いまわしますか貴方? ただ安心する。この方は嫌なら嫌ではっきり拒否してくる。諧謔を交えた答えは彼らしい『報酬はあるんだろうな?』の意味かもしれない。知ってか知らずか彼は残りの言葉を続ける。


 「だが(オレ)のいない間にシュヴァルツが死んでいたというのはさらに面白くない。妄信まで浸食しない程度ならなんとかしよう。しかし未だ理解できない。本当に冥府の門に御物があるのか?」


 少し前に創ったカードを前倒しで切り彼に話を合わせる。


 「あぁ、そろそろ話そう。君も行った事のあるケレース地方次元近郊地帯にある死者の魂が向かう場所【冥府の門】なんだが……その中に流れる川をイーナコスと言われているらしい。これがステュクスなら可能性は無いが彼の女神が此処で生まれたと考えるならば御物があっても可笑しくない。何しろ先代闇の月女神【古神・イオ】の生誕地。そして未だ成らぬとはいえそこに因縁浅からぬ『雷の子』(セリカ)がやってくる。そこにいるのは二人の少女達、槍手たる守護霊(リタ=セミフ)幼女魔神(ナベリウス)だ。」


 これで何をすればいいか神殺しも悟っただろう。あーぁ、完全に御機嫌斜めになっちまった。それを他所にテーブルの短剣が大爆笑。


 「此奴、今ディル=リフィーナに遊星墜し仕掛けおったわ! よくぞそこまで知りえるものよ!!」

 「推察に過ぎませんよ、魔剣ハイシェラ殿。」


 過分な評価有難うございます。オレだっていくつかの神話をちゃんぽんにして可能性の一つくらいで考えたからな。それがハイシェラ閣下にお墨付きを貰えれば可能性はぐっと増す。とりあえず神殺しを宥める。


 「別に彼女達にイグナートの禁呪【賦胎錬成の外法】みたく御物を孕ませろなんて言って居ませんよ? 三人の精気と魔力を集約し冥界を探査すればいい。イオの御物が消滅しているならとっくに月晶石もリプディールから無くなっていますからね。」


 魔躁巧騎計画の第一段階がこれだ。如何に動力源を用意しようとそれを月女神の力に変えるには対応した御物が必要だ。アル閣下の中で蠢く真なる御物【晦冥の雫】は破壊する。ならば代替物を用意せねばならない。闇の月女神を冠されていた先代の死んだ御物こそ適任だろう。
 それを神殺しに依頼するのも必然、アルクレツィアが介入する余地を無くさせる為だ。だから彼女はオレを狙う。オレの創り出す動力源を潰せばオレの策は破綻してしまう。態と隙を見せあの飛天魔族を絡め捕り彼女の『手』を潰す。『相手の弱点を叩け』は戦略シュミレーションたるこの物語ならば鉄則だ。


 「なら条件を加えさせて貰おう。」


 え? ハイシェラ閣下、何かあるんですか??


 「ケレースの魔はこちらに任せよ。」


 ケレースの魔……あぁ成程、このゲーム、アペンドで彼女裏ボスとしてケレースからアヴァタールに侵攻してくるからな。ゲームじゃ大したことなくても魔神、上位悪魔や飛天魔族、一国を亡ぼせる魔獣わんさと連ねて軍団を編制してた。アレゲームの制約『神を極力介入させない』がないとオレやエイダ様伯父貴が強化した今のメルキアですらひとたまりもないんだ。
だが実際彼女は此処に居る。そして代わりに代役がケレースにいる。そう

 
深凌の楔魔が四位、グラザ



 「主の戯言で癇に障ったわ。儂の代役があの小物とはな。シュタイフェの方がまだ楽しめるわ!」


 吹き出しつつ尋ねる。しかしグラザとハイシェラ閣下が面識在りなんてゲームで見えていない部分でどれ程あるんだろうか。


 「そのシュタイフェ閣下は何処に?」


 彼女の副官としてケレースを統一寸前まで導いた魔神を尋ねてみる。彼がグラザの副官だと厄介だ。


 「知らぬわ。奴も奴で主と同じく面白いことに目が無いからの? どうせなら儂の目の前に奴を引き出して観よ。この中興戦争さらに面白くしてやるぞ。」


 念を押すように、


 「のぅ? 【ヴァイスハイトの比翼】。」

 「機会があれば……ですね。先ずは当面の問題を片づけてからです。」


 やれやれ、強者至上主義のハイシェラ閣下らしい。オレの思惑が全て上手くいったとて『主一人の功ではないぞ!』と掣肘してきた。彼女単体ですら『メルキア如き』になるからな。いや現神の神律(規律)に縛られぬ【時女神・エリュア】故にか。


 「ではこれにて解散しましょう。エリザスレインの言う事も尤もですが全員を疑ってはきりがありません。フィオ技巧長を潰した後、神殺しと閣下はケレースへ。我等は……」


 始まりの地へ……このゲーム開発会社の第一作の舞台へ。未だ衰退の予兆すらない地へ、そう


 「(オレはやはり預言者ではない。一つの夫婦を引き裂きいかなる背景があろうとも良人を獄へ繋ぎ妻を潰して利用する。)」


 レルン地方ミルフェの街、カドラ鉱山……いや未来の【カドラ廃鉱】その最深部


 「(その外道にならねばヴァイス先輩を救えない。アル閣下を救えない。メルキアを救えなどしない。)」


 ヴィーンゴールヴ宮殿


 「妹を止めれ等しない。」


 最後だけ昏い想いが残る。



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