雪の降る季節。
この季節に、好き好んで戦を起こすような者は少ない。
寒さを凌ぎ、治める領土が無事に春を迎えられるようにと尽力する。
……ただ、とある国の太守は、護衛をたった一人だけ連れて、馬を走らせていた。
「政宗様、どこへ向かわれるおつもりですか?」
「ついてくりゃ分かる」
吐く息は白く、顔を撫でる風は冷たく痛い。
にも拘らず、政宗は北を目指して馬を走らせる。
「……ところで政宗様?」
「Ah?どうした、小十郎?」
「懐にお入れになっている物は、何ですかな?」
「Ah……こ、これは、だな……」
どうにもばつの悪そうな表情。
詰まる所、小十郎に内緒で手に入れた代物らしい。
「政宗様……帰ったら、色々と伺いたいことがございますので……」
「(チッ、面倒なことになったぜ、まったく……)」
そう思いつつも、馬を進める速度は変わらない。
気がつけば、日の本の最北端にある村へとたどり着いていた。
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「えっと……あいつは、と……」
馬から降り、キョロキョロとあたりを見回す政宗。
「誰かお探しですかな?」
「まぁな」
暫くすると、目的の人物が見つかったらしい。
政宗は速足でその人物に向かって歩いていく。
「おお!これは政宗殿!」
「もう来てやがったか、真田幸村!」
「……真田?政宗様、これはどういう──」
「そうそう旦那。俺にも詳しいこと、ちゃんと教えてくれよな」
赤い着物に身を包んだ、真田幸村。
その後ろには、護衛の忍び・猿飛佐助。
佐助の方は分からないが、どうやら政宗と幸村は待ち合わせをしていたらしい。
「政宗殿、お持ちいただけたか?」
「当然!お前こそ、忘れてないだろうな?」
「無論!」
何やら会話をしているが、小十郎と佐助にはさっぱり分からない。
「おい小十郎!何を呆けてやがる!」
「佐助!何をぼさっとしている!」
二人の声が重なる。
気がつけば、既に政宗と幸村は、速足で歩いている。
「こりゃ、着いて行くしかないみたいだね?」
「……そのようだな」
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四人の向かった先は、一軒の民家。
扉を叩くこともなく、政宗は豪快にその扉を開いた。
「あっ……!」
「よぉ、久しぶりだな」
柔らかな笑みを浮かべる政宗。
その笑顔に応えるように、中にいた人物も満面の笑みを浮かべた。
「久しぶりだべな、兄ちゃんたち!」
「うむ、お久しぶりでござる、いつき殿」
雪のように銀色に輝く髪。
その髪をなびかせた少女は、政宗たちを中へと招き入れた。
「そうか。だから旦那、ここへ来たがったんだ」
「それならそうと、政宗様もおっしゃってくだされば良いものを……」
理由が分かって、佐助と小十郎はやや不満気味。
その様子を見て、政宗はニヤニヤと口元を緩めていた。
「それで兄ちゃんたち、今日は何しに来たべ?」
「おっと、それを忘れちゃ話にならねぇな」
「そうでござるな」
政宗と幸村はそう言うと、懐から何かを取り出した。
小さな箱が、綺麗な包装紙で包まれ、リボンのような物も施してある。
「いつき、Merry Christmasだ」
「“めりー・くりすます”にござる、いつき殿」
「く、くりすます……?」
二人からプレゼントを渡されたが、いつきは何のことか分からない。
まだ自分の誕生日でもないのに、どうして祝ってもらっているのだろうか?
「外国じゃ、今日はこう言って楽しむ日らしくてな。それと、白ひげの爺さんが、子どもに贈り物をしてくれる日でもあるらしいんだ」
「我らにはまだ白いひげは生えておりませぬが、受け取ってはもらえぬだろうか?」
その様子を見ていた小十郎と佐助も、思わず表情が綻びる。
「やれやれ……政宗様、そう言うことであれば猶のこと、この小十郎にも一言あってほしかったものですな」
「まったくだぜ、旦那。俺様だって、いつきちゃんに何か持ってきたかったぜ?」
「……だから、今から厨房を借りるぞ、いつき?」
「え……?」
急な発言に、いつきはまだ着いていけない。
呆然とするいつきを余所に、小十郎と佐助は厨房へと向かった。
「な、なして……こんな……?」
「お前だけじゃねぇさ」
「え……?」
「俺の、開けてみな?」
政宗からの贈り物を、丁寧な手つきで開く。
中から出てきたのは、いつきの手には随分と小さな手袋だった。
「これ、おらには小さすぎるだよ」
「right……それは、お前のじゃねぇ」
「へ?どういう……?」
「それは、以前お前が育てると誓ってくれた、あの赤ん坊のだ」
「ぁ……」
いつかの雨の日。
祠の中に捨てられていた、あの赤子。
その赤子がきっかけで、自分たちは出会った。
泣いてばかりだったあの子も、今ではもう這って歩くことができる。
政宗たちのことは覚えていないかもしれないけど、雨が降る日には誰かを探しているような顔をする。
だからきっと……
「政宗殿、外を……」
「ん?」
雪だ。
陽光を受け、白銀に輝く雪が舞い降りてきた。
「なぁ、兄ちゃんたち。おら、もう一度会ったら、兄ちゃんたちにお願いしたいことがあっただ」
「何でござるか、いつき殿?」
「あの子の名前、付けてほしいだ!」
満面の笑みで、いつきは言った。
言われて、政宗と幸村は顔を見合わせる。
そして、小さく微笑んだ。
「それならもう──」
「──考えてあるぜ」
その日、最高のプレゼントが贈られた。
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