雪解けの季節。
この時期になると、騒がしくなる一団があった。
奥州の伊達軍である。

「Psych up guys!」
「「「Yeaaaaaah!」」」

弦月の前立てに、眼帯。
奥州筆頭・独眼竜政宗その人である。
配下の兵士たちを引き連れ、豪快な大漁旗をなびかせて、すさまじい勢いでどこかへと向かっていく。

政宗の隣には、“竜の右目”と恐れられる、片倉小十郎の姿があった。
いつも、政宗の突飛な行動を諌めようとするのだが、結局自分が付き添う形になってしまう。
だが、自分の主が頼もしい故、又自分が政宗に頼られているが故、言葉を強くしてまで止めることはできない。

「政宗様!このまま行けば、夕刻頃には甲斐に着くかと」
「OK!お前ら、Partyに遅れんなよ!」
「「「「「Yeaaaaaaah!」」」」」

 

 

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甲斐への山道。
その険しい道程を超え、奥州の国境に到着したときであった。
政宗の表情が、強張った。

不審に思った小十郎が政宗の視線を追うと、そこには一人の女性がいた。
女性といっても、政宗より五つほど年下に思えるその女性。
馬に腰かけ、自分の身の丈ほどもある大きな鎌を携え、まるで儚い花のようにそこにいた。

「め、愛……」
「政宗様、どちらへお出かけですの?小十郎様もお連れになって……?」
「Ah……その、だな……な、なぁ小十郎」
「い、いかにも……!そ、その、ですな……」

強面の二人が、なぜかこの女性に対して頭を上げようとしない。
そればかりか、どこか怯えているようにも見える。
不思議に思ったのか、その女性は首をかしげながら問いかける。

「どうなさったの、政宗様?お寒いのですか?」
「そ、そうじゃねぇ……え、えっと、だな……」
「政宗様。まだ、愛の質問にお答えになっていませんよ?」
「……っ!」

愛くるしい笑みを浮かべる愛姫。
だが、政宗はその笑顔を見せつけられて、余計に畏怖を感じた様子。
気づかれないように小十郎に目配せし、眼だけで会話し始めた。

「(こ、小十郎。俺は、どうするべきだ?)」
「(……こうなった以上、腹を括らねばなりますまい)」
「(お、俺を見殺しにするってのか!No kidding!)」
「政宗様、何か仰って?」

会話に気づいた愛姫が、興味ありげに問いかける。
問いかけられて、政宗は一瞬背筋が凍るような気がしたが、ゆっくりと愛姫に向き直る。
愛姫は変わらず、しおらしい笑顔を向けてくるが、政宗はどこか怯えたまま。

「政宗様。どこへ、お出かけになりますの?小十郎様、代わりにお答えくださいますか?」
「……っ!そ、その……ですな。か、甲斐に、赴くつもり、でした」
「甲斐まで?」

小十郎の答えに、愛姫は少々驚いた様子。
首をかしげながら、今度は政宗に問いかける。

「政宗様?この時期、民草は大変な時期でございます。それは御承知でしょうか?」
「Y、Yeah……よく、分かってる」
「でしたら、甲斐に赴かれる必要はないように思えますが?」
「そ、それは……だな……」

政宗の怯え具合に、後ろの兵士たちも動揺を隠せない。
だが、理由が分かっているが故の動揺であるため、兵士たちも若干怯え気味である。
もしかすると、自分たちにも矛先が向けられるかもしれない。
そんな可能性が、無きにしも非ずだったからである。

「では、戻りましょうか、政宗様?帰ったら、愛の手料理を振舞いまする」
「「「「「「「ま、待った!」」」」」」」

伊達軍が一丸となった。
全員で、愛姫の行動を阻止しようと、異口同音に叫んだ。
不思議に首を傾げる愛姫に対し、政宗は声を荒げながら叫んだ。

「か、帰る!今すぐにだ!だ、だから……その、わ、態々作ってくれなくても……」
「いえいえ、政宗様には執務をこなしていただかなくてはなりません。愛は、せめてお手伝いしたいだけです」
「め、愛姫、様。こ、この小十郎がお作りします故、お気になさらずとも……」
「そう、ですか?小十郎様がそう仰るなら、この度はお任せいたします」

愛姫が引いてくれたことで、全員胸を撫で下ろした。
同時に、身を呈して名乗りを上げた小十郎に、全員感謝せずには居られなかった。
それは、この後必然的に回ってくる役目があったからである。

「では、小十郎様。せめて、小十郎様だけでも召し上がってくださいますか?」
「……っ!……ぎ、御意、に……」
「まぁ!有難うございます!この愛、腕によりをかけてお作りいたします」

伊達軍にとって、これは事実上の死刑宣告。
今までに、愛姫の手料理を食べて、無事に済んだ人間は一人としていない。
しかも、愛姫本人が極度の味音痴であるため、自分の料理は美味しいと思っているのがさらに危険なところである。

思わず、小十郎の額から冷や汗が流れおちる。
音を立てて息を呑み、必死に覚悟を決める。
そんな、愛姫一人を除いて緊迫した雰囲気は、突如やってきた斥候によって打ち砕かれた。

 

 

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「ひ、筆頭!」
「ど、どうした?騒がしいな」

政宗のそばに跪き、あわてた口調で事の詳細を述べる。

「か、甲斐の真田幸村より、救援要請を預かってまいりました!」
「Ah?何かの間違いじゃねぇのか?」

真田幸村といえば、政宗にとって最大の宿敵。
そんな相手から、救援要請が届くなどあり得ない。
ましてや、奥州と甲斐は同盟関係にあるわけでもない。
不審を抱いても、致し方ないことであった。

「小十郎、どう思う?」
「真田が我々を謀るとは思えませんが……」
「……愛、お前は?」
「甲斐の真田様ですか?愛は一度もお目にかかったことがないものですから……」

そう言って、愛姫は顔を俯けてしまう。
政宗は、斥候が預かってきたという書状に目を通していた。
確かに見たことのある幸村の文字だが、如何せん納得がいかない。

「一応、甲斐まで向かうとするか……」
「そうですな。救援要請を無下にもできませんし、武田や真田に恩を売っておくのも、こちらの利にはなりそうですしな」
「なら、この愛もお供いたします」

突如会話に混ざってきた愛姫に、政宗と小十郎は目を丸くする。
自分が何を言ったのか、分かってないわけではなさそうだが……

「愛、お前は戦場に出たことがないはずだ」
「政宗様、愛は政宗様の妻にございます。夫のそばに常に居たいという気持ち、察してくださいませんか?」
「……死ぬかも知れねぇぞ?」
「……固より覚悟はできております。政宗様のお傍で死ぬことは、愛の誇りでございます」

真っ直ぐな瞳。
愛らしい自分の妻は、こういう時にとても強く感じる。
その心意気を、政宗が買わないわけがなかった。

「OK!愛、いい覚悟だ」
「この愛、竜の翼となって、お助けいたします……」
「政宗様、この右目もお忘れなきよう……」

二人の覚悟は本物。
それを感じ取ったのか、兵士たちの意気も上がってくる。
徐々に雄叫びが響き渡るのを、政宗は心地よく聞いていた。

山間にこだまする声を、腕を高らかに掲げて制止する。
全員が政宗に注目すると、気分良く微笑んでいる。
小さく口が動き、その声が、伊達軍に行き渡る。

「Are you ready guys?」
「「「「「Yeaaaaaaaaaaah!!」」」」」

 

 

「さぁ、Showの幕は上がった!お前ら、派手に楽しめよ?」

 

 

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