陣幕を出ると、賈駆と霞が待っていた。
双方とも心配してくれてるのは目つきで分かる。
「白石、気分はどう?」
「ん、何とか」
強がったわけじゃないけど、そういう風に取られた。
賈駆の表情は、あからさまに不安げなもの。
もうちょっと言葉に気を使った方が良かったかな……
「ま、いいわ。それで、本当は頼みたくないんだけど……」
「何でもどうぞ?」
「……じゃあ、呂布と一緒に、もう一度出陣してくれる?」
予想してなかったわけじゃない。
ただ、すぐには受け入れられなかっただけ。
だから、返事も曖昧なものになった。
「あ、うん……」
「そんなに気負わなくていいわよ。今回は、戦う以外の重要な役割をやってもらうだけだから」
「……戦う以外の?」
言葉の意図はよく分からない。
ただ、賈駆の視線を追ってみると、なぜかキョロキョロしてる恋がいた。
「先に決めてあった予定を変更して、呂布には本隊の先陣として出てもらうわ。その際に、白石には情報の収集を頼みたいの」
「情報収集、ねぇ……」
白状すれば、自信は無い。
さっきも戦場に出て見て実感したけど、仮に戦わなくてもいいとしても、あの場所に立っていると言うだけで、相当神経すり減らす。
そんな場面で、情報を集めて、さらに正確に報告できるかと聞かれれば、否が応でも自身は無くなる。
「……アテにしないって言うのを前提で、ならいいかな」
「この際贅沢は言ってられないわ……じゃ、任せたから」
言うや否や、賈駆は霞の方へと歩いて行く。
遠目に会話を眺めていると、随分と霞の表情が曇ってる。
……これは、律の尻拭いでもさせられるな……
「ん、あれ?」
辺りを見回して、首を傾げた。
音々音の姿が見えない……
「恋、音々音は一緒じゃないの?」
「ねねは、来てない」
「来てない?」
来られない事情でもあったのかな?
自分のことを棚に上げて、少し心配になった。
「理由は聞いてる?」
「……………(フルフル)」
「んー……俺も思い浮かばないし、帰ってから聞くか」
「……………(コクッ)」
小さく頷いたのを見て、俺たちも賈駆の元へと歩みよる。
それを待っていたかのように、賈駆が周囲の将に命令する。
「じゃあ、呂布と白石は先に言ったように先陣として、霞は律の首に縄を括りつけてでも連れて帰って。それ以外の将は、これ以上こちら側に被害が出ないよう、臨機応変に動いて」
恋や霞を除いて、将達が声を大にして返答する。
そして間をおかず、全員が全員、凄まじい速さで持ち場に付く。
俺と恋も、持ち場に付くために足を速めた。
●
「……………」
「ねぇ恋、せめて号令はかけようよ」
「……………」
あー……もう!
子犬みたいな目で上目遣いしながら、服の裾引っ張るのやめてくれ!
分かった、分かったよ!
「じゃあ、これから進軍します!初顔で申し訳ないですが、皆さんよろしくお願いします!」
「「「「「応!!」」」」」
気合のこもった返事が返ってきて、少しホッとした。
先頭を二人で歩きだすと、統率のとれた動きで兵士のみんなが付いてくる。
……すげぇ、こんなのゲームとかテレビとかでしか見たことねぇよ……
「……直詭」
「うん。とりあえず向かう場所は、あっち……」
名前呼ばれただけで、恋が何を聞きたいか分かるようになってきた。
俺も随分と、慣れてきたもんだなぁ……
俺が指さしたのは、退却し始めている敵がごった返しているところ。
ただ、律の部隊もそこを攻めているけど、遠目に見ても一部おかしい場所がある。
逃げようとしているのは分かるんだけど……
「(ああいう野盗の類って、自分の身に危険が及ぶと、何もかもかなぐり捨てて逃げるっていうイメージがあるんだよなぁ)」
そのイメージと反して、俺の視線の先の敵は、ゆっくりと後ずさるように退却している。
例えて言うなら、そうだな……
何か、大事な人や物を庇う様な逃げ方って言うか……
「あそこに何かあるとは思うんだけど、あくまで俺の勘みたいなもんだから、アテにはしないで──」
「あそこ、攻める」
「……いや、あの、恋?」
言うが早いか、恋は既に駆けだしていた。
呆気にとられる俺を差し置いて、後ろの兵士たちも恋の後に続く。
「副官様ー、急ぎますよー」
「あ、羅々もいたのね?」
「いましたよー」
後ろから声をかけてきた羅々に急かされる形で、俺も恋を追う。
ただ、斥候として訓練を受けている羅々でも、恋には追いつけない。
元いた学園で、体育の成績“4”の俺じゃあ、置いて行かれないようにするのが精いっぱいだ。
●
漸く恋に追いついた時、同時にこの場には相応しくない人影も見つけた。
俺よりも先に走り出していた兵士たちは、敵の壁に阻まれてこちらまで来れない。
今こうして、俺が恋のすぐ後ろまで来られたのは、羅々が道を開いてくれたからだ。
そして、目の前にいる人物。
一人は恋だ。
さらにその奥にいる3人は、血のにおいが漂う戦場には似つかわしくない出で立の人物たちだった。
「恋、その3人は……?」
「……………(フルフル)」
よくは知らない、ってことか。
ただ、恋とその3人の間には、元は人だった赤く染まったそれが横たわっている。
この3人を護ろうとして、恋に斬られたのか?
「ちょ、ちょっと、どうするのよ、人和!」
「そ、そんなこと言ったって!」
「お姉ちゃんたち、もう逃げられないの?!」
会話を聞く限り、3人は姉妹みたいだな。
……………ん?
あれ、今物凄く嫌な予感が頭を過ったぞ?
気のせい……か?
「天和ちゃん!地和ちゃん!人和ちゃん!ここは俺らに任せて、早く逃げてくれ!」
「そうだぜ!俺たちが戦ってる間に、さぁ早く!」
3人にばかり意識を向けていたら、その後ろから残党が集まって来た。
やっぱり、こいつらも黄巾の連中か……
「……邪魔」
俺たちに向かって刃を向けてきたその残党たちを、恋は一薙ぎで数人同時に絶命させる。
返り血がこちらまで飛んできたが、その光景に意識を持っていかれて、顔に血が付着したことには気づかなかった。
「ちょ、ちょっと!何よこいつ、強すぎじゃない!」
「ちーちゃん、何してるの!早く逃げるよ!」
恐らく一番年上のピンク色の髪の少女が、青い髪の妹を引っ張って、一目散に逃げていく。
もう一人の眼鏡をかけた紫の髪の少女も、その後に続いて走り出す。
追いかけようとしても、何人もの黄巾の残党が壁になって、その道を阻む。
「邪魔、するな」
恋も若干苛立ってるみたいだな。
鍛錬に付き合ってもらってた時には見せなかった大振りが目立つ。
ただ、その衝撃波に吹き飛ばされて、相手は何度も怯んでた。
その壁を突破するのに時間を要して、結局あの3人には逃げられた。
霞と賈駆から引き上げの命が下る頃には、夕日が辺りを照らしていて、恋も俺も、すっかり服が真っ赤になっていた。
勿論、紅くなった理由が、夕日だけではないことは理解していた。
●
「御苦労さま」
賈駆から労いの言葉がかけられる。
それを聞いて、漸く俺は肩から力が抜けた気がした。
「あー、賈駆。一応だけど報告しておくよ」
「後で良いわよ。今日は疲れたでしょ、初陣だったし」
「あ、うん……」
正直、意外だった。
ただ、その優しさが本当に嬉しかった。
「ナオキっち、随分疲れてるなぁ」
「そりゃあ、ねぇ?」
「フン、だらしのない!」
「あんたは全身筋肉やし、疲れもせんだけやろ、律?」
「何だと!?」
霞と律のやり取りに、苦笑が漏れる。
そして、自分の表情や心情を理解した時、漸く戦いが終わったのだと実感できた。
途端、体中から力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。
「……直詭?!」
「あ、大丈夫だよ、恋。ちょっと気が抜けたって言うか……」
「初めてやし、そんなもんやて。何やったら帰った後、風呂で背中でも流したろか?」
「あー、いいね、それ……」
冗談に冗談で返す。
それがちょっと予想外だったのか、霞は頬まで染めて驚いてた。
そして、俺が立てるようになるまで皆待ってくれた。
夕日が地平線に半分ほど隠れ、空に星が瞬きだし、黒く染まり出した大地を、都に向かって歩き出す。
一歩一歩、自分は生きているんだという実感を踏みしめて……
後書き
し、死ぬかと思った……
若干ですけど、鬱になって、もう大変でした。
多くの皆様に、多大なるご心配とご迷惑をおかけして、申し訳ありません(汗
本当に久々にSS書いたんで、長さとか描写・構成とか難ありです。
とりあえず、就活の合間に上げて行って、完結目指します。
今後とも温かい目で見守ってくださいましm(__)m
それと、拍手の方のコメ返しもさせていただきます。
>[4]の方
コメントありがとうございます。
熟女キラーですって?w
生憎、私はロリの方専門です(聞いてねえよ!
>[5]の方
コメントありがとうございます。
一刀君は出てもらう予定ではあります。
まだ随分と先の話ですけど……
言い回しに時代の差がありましたか。
勉強になりました、有難うございます。
>[6]の方(HAL様でいいのかな?)
コメントありがとうございます。
ゲームでは前半部分でいなくなてしまう彼女。
この作品ではどうなるのでしょうか、作者も知りません(マテコラ
重ね重ね、管理人の黒い鳩様を始め、多くの方々にご心配とご迷惑をおかけしました。
何とか続けていこうと言う意志はありますが、リアルの方の事情などで、更新が不定期になりがちです。
自分を縛るわけではありませんが、今後の目標としましては、最大二週間以上は間を開けないようにしていこうと思います。
今後とも、多分にご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんが、何卒よろしくお願い申し上げます。
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