虎の章/第36’話『新しい空の下で〜この空気に酔いしれて〜』
「なーおきー♪」
「ん?」
部屋で読書してたら、窓の外から雪蓮が顔を覗かせてきた。
何かウキウキしてるみたいだな。
「どした?」
「暇かなーって思って」
「暇と言えば暇だけど?」
「ちょっと付き合わない?」
「何に?」
「コレ」
そう言いながら酒を呑むジェスチャーしてみせる雪蓮。
……ハァ、真昼間から酒かよ……
他に何かないのか?
「仕事はいいのかよ?」
「呑んだらちゃんとやるわよ」
「やってから呑め」
「だってぇ〜……お酒が私を呼んでるんだもん……」
「呼んでねぇ」
「それにさ、祭も一緒だし」
「……祭は仕事終えてるのか?」
「知らなーい」
……後で冥琳に報告しておくか。
「取り敢えず、サボるのに付き合う気はないぞ」
「えー……」
「付き合ってほしけりゃ、やることやってからにしろ」
「堅いわねぇ……」
「そういう性格なんでな」
……あれ、どこまで読んだっけか?
話してたら分からなくなっちまった。
……ハァ、お蔭で読む気も失せたな。
「あれ?読書はもう終わり?」
「どこまで読んでたか分からなくなったからな」
「じゃあちょうどいいじゃない♪」
「そうだな……冥琳に二人がサボってたことを報告しに行ってくるわ」
「ちょちょちょ、ちょっと待った!!!」
オイコラ、窓から入ってくるんじゃねぇ。
「お願い直詭!冥琳にだけは言わないで!」
「ならサボんな」
「うぐっ……!」
あ、ちなみに祭ってのは黄蓋って人の真名。
孫堅さんの時代から仕えてる人で、そこそこの年らしい。
ま、あんまり女性の年齢にはこだわらないほうがいいだろう。
「……ハァ、どのくらいだ?」
「え?」
「今日の分の仕事、あとどのくらい残ってんだ?」
「……ひょっとして、手伝ってくれるの?!」
「俺も今日は呑みたい気分だし、早く終わらせてくれるならそのほうがいい。ま、暇なのもあるけどな」
「直詭のそういうところ大好き!」
「そりゃどうも」
「じゃあ、一杯だけ呑んでから──」
「さてと、冥琳はどこだっけ」
「待った待った待った!仕事終わるまで呑まない!約束する!」
それでいいんだよ、ったく……
「じゃあ行くぞ」
「はーい……」
「返事が聞こえないんだけど?」
「やる!やります!」
「よし」
●
「終わったぁ〜……」
「ご苦労さん」
すっかり夜も更けた。
随分とため込んでた雪蓮の仕事もひと段落ついたし、まぁこのくらいで許してやるか。
「直詭ぃ、お酒呑みたいぃ〜」
「ま、頑張ったし、いいんじゃないか?」
終わった以上文句を言うつもりはない。
まぁ、明日に差し支えるほど呑んでもらっても困るが……
さて、俺は祭でも呼んでくるかな。
「じゃあ、祭呼んでくるよ」
「分かったぁ」
そう思って戸に手をかけたんだが──
「終わりましたかな?」
「……見計らったように来るな」
「これも年の功と言うやつじゃ」
「祭ー、お酒ー」
駄々っ子かお前は……
ま、面子も集まったし、呑むか。
「では策殿、盃を」
……てか、二人ともどんだけ呑む気だ?
祭がもってきた量からして、一晩じゃ呑み切れねぇだろこれ……?
「この酒強いのか?」
「なんじゃ?直詭は弱い方か?」
「んー、そんなに量呑んだことないから何とも言えない」
「まぁまぁ。祭がもってきたなら、呑みやすいものだと思うわ。水だと思って呑めばいいのよ」
「なら水飲めよ」
「それとこれとは話が違うじゃろ」
酒飲みの理論は分からん……
「はい、直詭の盃」
「どうも」
「では、呑みましょうか」
「乾杯〜♪」
おうおう、すごい勢いで呑むな。
そんなに飲みたかったなら日頃からサボらなきゃいいだろうに……
……まぁ、後の楽しみが待ちきれないって気持ちが分からない訳じゃないけどな。
「くぅ〜♪やっぱお酒は美味しいわ♪」
「儂も仕事を終えてきました故、この一時が堪らん」
「ま、言いたいこともあるけど、野暮は無しってことにしとくか」
折角楽しい気分で呑んでるのに水差すのもどうかと思うし。
てか、この酒地味に強いぞ?
これ早々に酔うんじゃねぇかな?
「普段からこんくらいの酒呑んでるのか?」
「もうちょっと強いのも呑むわよ?」
「このくらい普通じゃろうて」
「……これで普通か……」
月さんの所にいた時も、霞とか律とかとたまに呑んでたっけ?
あの時も結構強い酒呑んでたよな。
この世界の人って、基本的に強い酒でも好むのか?
「直詭、おかわりいる?」
「まだ空けてねぇよ」
「随分ゆったりと呑むのぉ」
「自分のペース……もとい、配分で呑ませろ」
「ま、お酒って急かされて呑むもんじゃないわよね」
とか言いつつ、早く呑めって顔してるぞ?
……ハァ、明日は何にもなかったよな?
「っふぅ……」
「良い飲みっぷりね♪」
「ホレ直詭、儂が注いでやろう」
「ん」
自棄……とまではいかないけど、多少無理なペースになるなこれは……
「あ、そうだ」
「どした?」
「折角手伝ってもらったんだから口移しで呑ませてあげよっか♪」
「ほぉ?それは面白そうじゃな」
「却下で」
蓮華あたりに見られたら何言われるか分かったもんじゃないし。
てか、マジで俺のペースで呑ませてくれないかなぁ?
こんな強い酒をガバガバ飲んでたら卒倒するんじゃねぇか?
「直詭ってホントにお堅いわねぇ」
「普通なつもりだが?」
「元いた場所でもそんな風じゃったのか?」
「んー……偶に空気読めとか言われてたな」
「アハハ♪そうねぇ、あんまりお堅いとそう言われちゃうかもねぇ」
「にしても、雪蓮も祭も呑むの早くねぇか?」
「そう?私たちにとってはこれが普通だけど?」
数分で徳利二つ空けるのが普通、ねぇ……?
呑兵衛の理論は理解したくないな。
「ん〜♪何だか幸せ〜♪」
「急にどうした?」
「なんて言うかこう……心が安らぐ?みたいな?」
「うむ。儂もじゃ」
「祭まで?いつも呑んでるんだろ?」
「そうだけど、ねぇ……こんな気分で呑むのは初めてよ」
「何で?」
「分かんない?」
分からねぇよ。
雪蓮と祭と一緒に酒呑むのは今日が初めてだし……
いつもと何かが違うのか?
「ま、それはいずれ分かるじゃろうて」
「どういうこと?」
「今日みたいな日を重ねて行けば、直詭もきっと分かるようになるってこと」
「ますます分かんねぇ……」
「ちなみに直詭は今どんな気分?」
「今?んー、そうだな……」
ま、幸せって言っても間違いじゃないと思う。
平穏な日に、心を許せる人と一緒に酒を呑む。
きっとこれって、すごく贅沢なことなんだろう。
だから存分に味わおう。
この酒を、この空気を、今この一時を……
後書き
んー、やっぱりうまく書けないなぁ……
もうちょっと試行錯誤したかったんですけど妥協しました(オイ
何とかペースを取り戻さないと……
それと、また今度になると思うんですけど、蜀編の後日談も書いてみようかと思ってます。
しばらく先の話になると思うので、期待しないで待っていてください。
では次話で
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