コンコン
「どうぞ」
「失礼しますね」
「朱里?こんな夜中に何か用事?」
「はい。直詭さんに少しお願いがありまして」
「お願い?」
朱里からお願いされるなんてまた珍しい。
頼られるのも別に嫌じゃないけど何だろうか?
「実は華琳さんからお誘いがありまして、こちらの腕の立つ方を一人招きたいと」
「んで俺?愛紗とか星は?」
「お二人とも別の用事をお願いしていまして……他の武官の方もお忙しいようですし、手が空いていたらでいいんですけど……」
まぁ、ぶっちゃけ手は空いてる。
でも俺で満足するかな?
何せ相手はかの曹操こと華琳だし……
……三国共立が成り立って、それぞれ交流も盛んになってきた。
俺も何度か魏や呉に行かせてもらったし、その際に真名も教えてもらってる。
桃香は結構頻繁に各国の視察ってことで出かけてるけど……
ま、有体に言えば平和になったってことだな。
「……直詭、どこかに行くの?」
「はわわ!?れ、恋さん?!いたんですか?!」
俺の布団の中からのそりと恋が這い出してきた。
さっきまでいい気分で寝てたっぽいのに、良く起きたな……
「んー……他に当てがないんだろ、朱里?」
「今のところは……」
「じゃあいいよ。俺が行く」
何だかんだで、前に華琳に会ったのは二か月も前だ。
久々に元気な顔も見たいし、こっちの顔も見せておきたい。
「……………」
「そんな心配な顔しなくていいよ恋。一週間くらいで帰ってくるから」
「ホント?」
「ホント」
「……じゃあ、いい」
「……言ってからなんだけど、そのくらいで帰してくれるよな?」
「ちょ、ちょっと分からないですけど……華琳さんもそんな意地の悪い方ではないので……」
……その返事が一番困る。
「……まぁ、日程に関しては華琳と直で相談すればいいか」
「それでお願いできますか?」
「お願いされるよ。恋、数日空けるけど、留守番は頼んでもいい?」
「……(コクッ)」
「ありがと。んじゃ朱里、俺が行くって返事出しといてくれる?」
「それですけど、来ない場合にのみ返事をくれって言われてるので……」
「……成程?可能な限りの無駄は省くんだな」
「アハハ……」
「まぁいいや。待たせてもなんだし、明日にでも出るよ」
「出立の準備は私と摘里ちゃんでやっておきますね」
「あ、いいの?」
「面倒事を頼んでいるという自覚はありますので……」
「そんなに気負わなくっていいって。んじゃ、任せるな」
「はい。よろしくお願いします」
さて、急に忙しくなったな。
準備はしてくれるし、俺はさっさと寝たほうがいいかな?
陽が沈んでまだそんなに時間は経ってないけど、寝過ごしたって言うのは避けたいし……
まぁ、誰かが起こしに来てはくれるとは思うけど、もしもってこともあるからな。
「じゃあ恋、悪いけど俺早めに寝るよ」
「……………」
「恋?」
何だろう、恋の様子がおかしいような……?
いつもだったら、こういう時はすんなりとベッドから降りてくれる。
でも、今日は布団から出ようとしない。
それに、心なしか顔がほんのりと赤いような……?
「直詭と、しばらく会えない……」
「……ゴメンな。華琳と交渉して早く帰れるようにするから」
「……………」
「……何かしてほしいとか?」
「……(コクッ)」
「何がいい?」
「……………」
珍しく恋が考え込んでる。
てか、俺にしてほしいことは多分決まってるんじゃないかな?
それは雰囲気ですぐに分かる。
でも、それがなかなか言えないのか、はたまた上手く説明できないのか……
「……何でも、いい?」
「聞ける範囲でならな」
「……じゃあ──」
そう言って、恋は俺の腕をつかんで──
「一緒に寝たい」
「……そんなんでいいのか?」
「……(フルフル)」
「ん?」
久々に恋の返事の意味が分からなかった。
ここ最近、そんなことなかったのに……
「いつものと違う」
「違う?それって……どういうこと?」
「……耳」
「ん?別に誰もいないけど?」
「……お願い」
「……分かったよ」
耳を貸してくれってせがまれた。
あんまり大きな声で言いたくないってことか。
ほんと、今日の恋は珍しいこと尽くしだ。
まぁそれは良いんだけど、何で顔赤いかな……?
「……………(ごにょごにょ)」
「っ?!!」
「……ダメ?」
「いや、あの、その……ダメって言うか、何て言うか……えと……」
「しばらく会えなくなるから……今日だけのお願い」
「そう言われると、その……」
ここまで恋がお願いしてくることなんてそうない。
だから応えたいし、別に俺にとっても悪い話ってわけじゃ……
「直詭……」
「……分かった」
「……いいの?」
「いいけど……嫌だとか、痛かったりだとか、そう言うのは我慢しないでほしい。恋に嫌な思いさせてまで、俺だけ気分良くなるとかはしたくないから……やめたいと思ったら、すぐに言ってほしい」
「……やっぱり、直詭、優しい」
「普通って言うか、当たり前だよ。俺も男だし……」
「じゃあ、直詭」
「……灯りは?」
「このままがいい」
「……鍵だけ掛けとく」
「うん」
ガチャ
「……じゃあ、いいか?」
「来て、直詭」
●
「……朝、か」
まだ日が昇ってすぐみたいだ。
窓から入ってくる光の加減で大体分かる。
コンコン
「誰?」
「あ、月です。おはようございます」
「……ちょっと待ってくださいね?」
「はい」
流石にこのままの状態の所に入って来て貰う訳にはいかないな……
「(恋?恋、起きて)」
「ん、んぅ〜……直詭?」
「(おはよ。起こしてすぐで悪いけど、服だけ着てくれる?今そこに月さんが来てるし、驚かせたくないし)」
「……(コクッ)」
恋に倣って俺も急いで服を着る。
布団の汚れは……諦めよう。
両方とも服を着たのを確認して扉へ──
「(直詭、まだ寝てていい?)」
「(……いいよ)」
恋がベッドに戻ったのを見てから鍵を開ける。
「おはようございます、ナオキさん。今日から魏へ行かれるんですよね?」
「あ、もう聞いてたんですね」
「昨日、朱里ちゃんと摘里ちゃんが荷物の準備をしていたので、それで」
「急に決まったんで、言いそびれてすいません」
「大丈夫ですよ。お見送りができるのなら、それで十分です」
「ありがとうございます」
「……あれ?恋さん、ですか?」
「あ〜……昨日、この話を聞いてて、ちょっと甘えてきて……」
「ふふっ、羨ましいくらい仲がいいですね」
「……あんまり茶化さないでください」
「えっと、どうします?恋さんも起きてもらって一緒に朝食にされます?」
「一応聞いてみますよ」
月さんにドアの所で待ってもらって、恋に声をかける。
「恋?朝ごはんどうする?今一緒に食べる?」
「……後でもいい?」
「いいよ。ゆっくり寝ててな」
……流石に疲れてるんだろうか?
だとしたら悪いことしたかな……
「後にするらしいです」
「分かりました。じゃあ行きましょうか」
それから朝食を済ませて、もう一度身嗜みを整えて……
準備も整ったし、少し早いけど出ることにした。
見送りには、月さん・恋・朱里・摘里の4人が来てくれた。
他の面子は忙しかったりまだ寝てたりらしい。
「じゃあ行ってくるな」
「お気を付けて」
馬は翠が用意してくれたらしい。
お蔭で乗り心地はかなり良い。
「さてさて……華琳のお誘いとは一体なんぞや?ってか?」
●
魏に到着して、待ち侘びていたのは華琳……と言うよりも、春蘭とか霞だった。
なんか、華琳が近々天下一武闘会を開くつもりらしい。
その前の鍛錬ってことで、他国の人間と仕合がしたかったんだとか。
「……ハァ、ハァ……少し休憩、もらっていい?」
「何故だ?私はまだ疲れてなど──」
「ええでナオキ。ゆっくり休み」
「ありがと」
陽が出てる間はほぼ誰かとの仕合……
それも一週間ぶっ通しだ。
いくらなんでもヘトヘトだし、これで休みなしとか言われたらさすがに帰るぞ?
「随分と頑張ってくれるわね直詭」
「あぁ華琳。まぁ、華琳と流琉の食事を堪能させてもらってるし、それに見合うだけの頑張りは見せないと、だしな」
「ふふっ、そう言ってもらえると、こっちも腕の振るい甲斐があるわ」
「で?様子でも見に来たの?」
「それもあるけれど、直詭に客人よ」
「俺に?」
そう言った華琳の後ろから出てきたのは──
「愛紗、それに星も」
「直詭殿、お疲れ様」
「また強くなられたのでは?」
「そんなことは無いと思うけど……それよりどうした?」
「交代ですよ」
「交代?」
「我々の仕事にキリが着いたのと合わせて、どうしても直詭殿にしかできない任務がありましてな。こちらは我々に任せて、蜀に戻っていただきたい」
「代わってくれるのは嬉しいっちゃ嬉しいけど、俺にしかできない任務って何?」
「それは……!その……!」
「何で愛紗が狼狽してんの?」
「う、うぅ〜っ……!」
「まぁ、蜀に戻ればすぐに分かります故」
「……いいのか、華琳?」
「理由は聞いてるから安心なさい。あなたの荷物も、二人が持って帰ってくれるそうだから、急いで戻ってあげなさい」
……戻って“あげろ”?
誰か俺を待ってると?
誰だろ……?
「ふふっ、直詭」
「ん?」
「おめでとう、って言っておくわ」
「へ?」
「私からも同じ言葉を……直詭殿、おめでとう」
「星も?」
「……おめでとう、直詭殿」
「愛紗まで?取り敢えずどういうことか説明──」
「いいから!あなたは一刻も早く蜀に戻る!それが今のあなたに課せられた使命よ!」
「……………」
全く分からん。
でも、ここまで華琳が強く言うってことはよっぽどなんだろう。
「分かった、すぐ戻るよ。春蘭、霞。途中だけど、ゴメンな」
「ええって、また相手しに来てや〜」
「次は引き分けでは済まさんからな!」
二人に声をかけて、門へと早足で向かう。
そこには凪がいて、馬を準備しててくれた。
「どうぞ」
「ありがと……」
「どうかされましたか?」
「ん〜……凪は、何か聞いてる?俺について」
「いえ、特には何も」
「……まぁ、戻ればすぐ分かるらしいし……じゃあ、何のお礼も出来てないけど、これで失礼するよ。華琳たちによろしく言っておいてくれる?」
「分かりました。お気を付けて」
●
帰る道中、無性に不安になった。
だから、慣れてないくせに馬を急がせる。
城に到着すると、桃香と音々音が飛び出してきた。
「直詭さんお帰り!」
「お帰りであります!」
「ただいま──」
「早く!早くこっち来て!」
「へ?ちょ、待──」
「急ぐであります!」
桃香に腕を引かれ、音々音に背を押され……
むちゃくちゃ急かされて連れてこられたのは──
「恋の、部屋?」
「恋殿、直詭殿が帰ってきたであります」
扉越しに音々音が声をかけて開く。
ベッドに座ってる恋は、何だか嬉しそうな表情してる。
どうしたんだろ?
「えっと……恋……?」
「……お帰り」
「あ、あぁ、ただいま……」
「恋ちゃん、私から言おうか?」
「……(フルフル)」
「じゃあ、自分で言う?」
「……(コクッ)」
「だって」
「俺は今から何を言われるわけ?」
未だに現状を把握できてない。
何があったんだ?
「直詭」
「……うん、どした?」
「出来た」
「……出来た?」
「……(コクッ)」
「えっと、何が?」
「ここ」
そう言って恋はお腹を擦って──
……………へ?
ちょちょちょ、ちょっと待て!?
それってつまり──
「あの、恋。それってひょっとして──」
「赤ちゃん、出来たって」
「……ホントに?」
「……(コクッ)」
赤ちゃん……
全く実感がわかない……
俺、どういう反応すればいいんだ……?
「ほら、直詭さんもっと喜んで!」
「恋殿との間にできた子ですぞ!」
「いや、それは分かるんだけど……」
こんな経験生まれて初めてだ。
……そりゃ、喜ばしいことだってのは分かる。
ただ単に、その喜びを表現する術を知らないだけだ。
「出来た、んだ……」
「うん」
「お医者さんが言うにはね、赤ちゃんが出来た女の人って精神面で落ち込みやすくなったりするから、相手の人がちゃんと支えないといけないんだって」
「白石殿、恋殿の事はねねも頑張るでありますが、特に白石殿に頑張ってもらうことになるであります!」
「……直詭、傍にいてくれる?」
「……当たり前だよ。元気な赤ちゃん、産んでくれな」
「うん、恋も頑張る」
「じゃあ、愛紗ちゃんたちが帰ってきたら、お祝いしよっか!」
「無論であります」
「……祝ってくれるのか?」
「勿論だよ!赤ちゃんができるってすごいことでしょ?だったらお祝いするのが当たり前だよ!」
「……今になって漸く照れくさくなってきた」
「直詭、名前考えるの、一緒にしてくれる?」
「あぁ。いい名前、付けてあげような」
「うん」
後書き
色々謝ります、ホントに申し訳ないですwww
あ、皆様、新年あけましておめでとうございます。
本年も何卒よろしくお願いします。
……特に後書きで何か言うことないな(オイ
ではまぁ、また次話で
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