やがて双方の合意の下、かつての悲劇の地、ユニウスセブンにおいて締結された条約は、今後の相互理解努力と平和とを誓い、世界は再び安定を取り戻 そうと歩み始めていた。
機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜
PHASE−01 海賊
広大な宇宙を一隻の艦が行く。黒い塗装を施され、重装備のその艦は向かう先にあるのはアーモリーワン―――第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦後、L4 宙域に建造されたプラントである。
そのブリッジには、左眼に黒い眼帯をし、金髪を無造作に束ね、半袖のジャケットを着た碧眼の男性が艦長席に座り、その横には青髪に赤い瞳をし、白 いコートを着た青年が立って前方のスクリーンに映るアーモリーワンを見つめている。
眼帯の男性は肘を立て、手の甲に顎を載せて笑みを浮かべる。
「情報は間違いないのかね、副艦長?」
「…………ええ、まぁ」
「フフ……そうか。あのコロニーにザフトの開発した新型MS(モビルスーツ)があるのか……後ついでに新型戦闘艦もな」
アーモリーワンでは、戦後初のザフトの戦闘艦である“ミネルバ”の進水式を明日に迫らせていた。
「愉快じゃないかね……そう思うだろ? ん?」
「「「「「………………」」」」」
ブリッジ全体が妙に重苦しい沈黙が流れる。やがてプッと誰かが噴出すと、ドッと笑い声が巻き起こった。
「ギャハハハハハハ!!! も、もう駄目〜!!」
操縦席に座るバンダナを巻いた男性が腹を抱えて笑う。すると、眼帯の男性は顔を真っ赤にして、額に青筋を浮かべて怒鳴った。
「んな!? 何だテメーら! 人が折角、艦長らしく振舞ってやったのに!!」
「似合わんぞ」
口を押さえ笑いを堪えながら青髪の青年がそう言うと、眼帯の男性は心外とばかりに言い返す。
「おいおい、変な事言うんじゃねぇよ。俺は折角、生まれ変わって皆から頼られる船長をだな……」
「ぎゃ〜っはっはっは!! お、おい聞いたかよ! ロビン! 生まれ変わるだってよ!!」
「は、はい〜。もう腹が痛くて痛くて堪らないッス」
すると、バンダナの男性が隣に座る眼鏡をかけた青年の肩を叩くと、彼もププッと噴き出した。ブチブチと眼帯の男性の額に幾つもの青筋が浮かび上が る。
「テメーらああぁぁぁ!!!!! ぶっ飛ばしてやる〜!!!」
言うや否や眼帯の男性は艦長席から飛んで、バンダナの男性と眼鏡の青年に襲い掛かる。二人は、そそくさと逃げ出して、ブリッジ内を飛び回る。
「ヤレヤレ……少しは大人しく出来んのか」
フゥと青髪の青年が溜息を吐くと、ふとブリッジの端の席で端末を弄っていた金髪を頭の両側で結び、眼鏡をかけ、丈の長い黒い服を着た女性が 「あ……」と声を上げたので、彼はヒョイッと彼女の方に向かって飛んだ。
「どうした?」
そう尋ねると、女性は抑揚の無い声で答えた。
「………な〜んかザフトのコンピューターにハッキングしてたら、凄い情報が……」
「凄い情報………これはっ」
ディスプレイを覗き込み、青髪の青年が驚きの表情を浮かべる。
「おい、ラディック!」
「艦長と呼べ、艦長と」
「良いから来い!」
言われてラディックと呼ばれた眼帯の男性は渋々ながら、二人を追っかけ回すのをやめて、そちらへ移動する。
「何だよ?」
「これ見ろ」
「あ〜ん…………って、何だとぉ!?」
気だるそうにディスプレイを覗き込んだラディックは、大声を上げた。それに、バンダナの男性と眼鏡の青年も首を傾げた。
「カオス、ガイア、アビスの三機が何者かに強奪!? ミネルバはギルバート・デュランダルと共に、これを追跡だとぉ〜!?」
「「!?」」
「つまり今、アーモリーワンは何も無い、という事だな」
青髪の青年のその言葉にラディックは、ブルブルと肩を震わせる。それを見て、男三人は即座に耳を塞ぎ、眼鏡の女性は耳栓をした。
「何処のどいつだああああああああああ!!!!!!!! 人の獲物、横取りしやがってえええええええぇぇぇぇ!!!!!!!!」
ブリッジに怒声が轟く。ビリビリと空気が震え、他のメンバーは表情を顰めた。ラディックは、鬼のような形相で艦長席に座る。
「B警報発令!! ミネルバ追いかけるぞ!!」
ラディックのその言葉にメンバーはハァと溜息を吐く。
「アルフレッド!!」
「うぃ〜」
アルフレッドと呼ばれたバンダナの男性は、ヤレヤレと首を振りながら操縦席に座る。
「ロビン!」
「アイ・サーッス」
ロビンと呼ばれた眼鏡の青年は、ガクッと肩を落とし片手を挙げて、操縦席の隣に座る。
「おら、キャナル!!」
「ミネルバの足跡捕まえた〜。距離8200……やっぱ新型艦だけあって速いな〜」
眼鏡の女性――キャナルの言葉にラディックは、チィッと舌打ちした。
「レンに追跡させる! シュティル! レンを呼び出せ!」
「分かった、分かった………リサに連絡する」
シュティルと呼ばれた青髪の青年は、嘆息し、艦長席の斜め前方の席に座った。
「ふっふっふ……海賊の獲物を横取りしたら、どんな目に遭うか教えてやるぜ」
彼らはザフトでも地球連合でもオーブの軍でもない。何処にも属さず、ただ獲物と決めたものを狙う海賊――“ワイヴァーン”であり、その母艦“ドラ ゴネス”であった。
ドラゴネスの廊下を一人の少女が歩く。真っ白いロングヘアーに紫色の瞳。青い長袖のシャツに、白い短パンを穿いているその少女は、ラディックと同じよう
に左眼に眼帯をしていた。歳は十五歳前後。とても、年頃の女の子とは思えない痛々しい姿だ。
「兄さ〜ん。何処にいるんですか〜?」
先程からB警報のサイレンが艦全体に鳴り響いている。そんな中、彼女――リサ・フブキは、ある人物を探していた。やがて、ある部屋の前に辿り着く と、その部屋の扉には『ノックしてね♪』と乙女チックな文字で書かれたプレートがかけられていた。
リサは、あからさまに嫌そうな顔をして扉をノックするが返事は返って来ない。
「入りますよ〜、兄さ……」
「う〜ん……やっぱり“お兄ちゃん、怖い夢見たから一緒に寝ても良い?”なんていう妹は存在しないのか……」
部屋に入ると、長い銀髪を一纏めにし、海のように青い瞳をした青年が一心不乱にコンピューターの端末に向かってブツブツと呟いていた。赤いシャツ の上に着た水色のジャケットの袖を捲くり、黒の長ズボンを穿いている。
パッと見、美景なので普通の女性なら見惚れるかもしれないが、リサは彼の台詞がバッチリと聞こえていたので、ジト目で彼を見て言った。
「兄さん……」
「ん? おお、リサ。どうしたんだい?」
「今、B警報が発令されたの分かってます?」
「いや〜、五月蝿いから部屋のスピーカー消してやったんだ」
「……………」
それじゃあ意味ないとツッコんだら負けなので、リサは別の話題を振る。
「一体、何を熱心になさっていたんですか?」
「いやね。古今東西妹キャラを調べてたんだけどさ〜……こう、お兄ちゃんに甘えてくれる妹って希少なんだよね〜。私的にはこう……“お兄ちゃん、私 もう大人なんだよ。私の初めてはお兄ちゃんに……”っていうキャラがさ〜……」
ジャキ!!
青年が笑顔で言うと、リサは無言で拳銃を彼に突きつけた。
「兄さん、処女より銃弾を差し上げてもよろしいのですよ?」
「す、すんません。許して下さい」
マジでやりかねないリサの眼光に、彼は冷や汗を大量に流して土下座して謝った。リサはハァと溜息を吐くと、銃を下ろして言った。
「シュティルさんからの連絡です。ザフトの新型が何者かに強奪されたので、何としてでも奪取しろと艦長さんが五月蝿いので、とっとと出撃しろ、だそ うです」
「はぁ……人遣い荒いな〜」
「あ、今回は私も行きますよ」
「え?」
「一応、兄さんのお目付け役ですので」
ニコッと笑って言うリサに、青年――レン・フブキは表情を引き攣らせるのだった。
ザフトの最新鋭艦、ミネルバは突如、強奪されたカオス、ガイア、アビスの三機と、その母艦――正式名称が不明なのでボギー・ワンと名付けた――を追って
いた。そして、ミネルバには軍人ではない人物が三人、乗っていた。
「本当にお詫びの言葉もない。姫までこのような事態に巻き込んでしまうとは。ですがどうか御理解いただきたい」
「あの部隊についてはまだ全く何も解っていないのか?」
「ええまぁ、そうですね。艦などにもハッキリと何かを示すようなものは何も」
一人はプラント最高評議会議長のギルバート・デュランダル。彼がミネルバの客室で対談しているのは、オーブ首長国連合の代表首長、カガリ・ユラ・ アスハである。
彼女はデュランダルとの極秘対談でアーモリーワンを護衛のアレックス・ディノと訪れたが、突如、工廠に襲撃があった。そこでザフトの開発していた 新型MS、カオス、ガイア、アビスの三機が強奪されるという事件が起こり、巻き込まれる形でミネルバに乗船したのだ。
しかし、だからこそ我々は一刻も早く、この事態を収拾しなくてはならないのです。取り返しのつ
かないことになる前に」
「ああ、分かってる。それは当然だ、議長。今は何であれ世界を刺激するようなことはあってはならないんだ。絶対に」
苦しそうな表情を浮かべて、顔を俯かせるカガリ。彼女は二年前の戦争の中心にいた一人だ。そして、彼女の後ろに控えているアレックス。本名はアス ラン・ザラ。
アスランは、二年前、ザフトに所属し、大きな功績を残した伝説のエースと呼ばれている。今はオーブに亡命し、カガリの護衛として常に彼女を支える 立場にいる。
「ありがとうございます。姫ならばそう仰って下さると信じておりました。よろしければ、まだ時間のある内に少し艦内を御覧になって下さい」
「議長……」
デュランダルのその言葉に、彼の後ろに控えていたミネルバの艦長――タリア・グラディスが反応する。そりゃ、このザフトの最新鋭艦を中立とはい
え、他国の者に見せるのは、どうかと思う。だが、デュランダルは平然としていた。
「一時的とは言え、いわば命をお預けいただくことになるのです。それが盟友としての我が国の相応の誠意かと」
そう言われては、カガリも無下に断る訳にもいかなかった。 その時、客室の扉が開かれた。
「失礼します」
「誰?」
入って来たのはザフトのトップガンの印である赤服を着た女性だった。セミロングの黒髪に深い緑色の瞳をした女性で、骨折しているのか右腕にギプス がされていた。
彼女は敬礼すると、タリアとデュランダルに名乗った。
「フィエール隊所属、エリシエル・フォールディアであります」
「ああ……貴女が」
その名前を聞いてタリアは思い出したように呟く。アーモリーワンで、戦闘があった時、アスランとカガリは、たまたま倒れていたザクに乗って戦闘に 参加し、ミネルバに収容された。それとは別に、大破したオリジナルカラーの青色のザクウォーリアーが収容された。
そのパイロットも重傷で、已む無くミネルバの医療室で治療を受けていたと聞いていた。
「もう大丈夫なの?」
「はっ! ご挨拶を済ませていなかったので、急ぎ参上した次第であります! ………痛っ!」
姿勢を正した彼女だったが、突然、痛みが襲って表情を歪める。
「無理しないで。貴女は、ゆっくり休んでなさい」
「い、いえ。私がしっかりしていないばかりに隊は全滅。そして、ミネルバに対しご迷惑をお掛けしました。何か償いをさせて下さい」
女性――エリシエルの言葉にタリアは困惑した。実直で生真面目な性格なのだろう。また隊で自分だけが生き残った事に対し、罪悪感を感じているよう でもある。仕方なく、彼女は妥当な案を出した。
「今、ミネルバはボギー・ワン……例の三機を奪った艦を追っているわ。遅かれ早かれ戦闘は避けられません。その時、ひょっとしたら貴女にも手伝って 貰うかもしれないから、その時に備えて体を早く治しなさい」
「は、はいっ!」
彼女はビシッと姿勢を正して頷くと、深く頭を下げる。そして、カガリ達の方に向き直って再び頭を下げると、ふとアスランを見て眉を顰めた。
「あら?」
「げ……」
サッとサングラスの中の視線を逸らすアスラン。
「どうしたの?」
「あ、い、いえ。何でもありません。失礼します」
慌ててエリシエルは部屋から出て行き、タリアとカガリは首を傾げるのだった。
「オーブのアスハ!?」
彼――シン・アスカは、MSの格納庫にてインパルスの整備をしていたら、ふと同僚のルナマリア・ホークに、アーモリーワンで自分を助けてくれたザ クのパイロットが誰か尋ねた所、それがオーブの代表の名前 が出てきて彼は驚いた。
オーブのアスハ……彼にとっては、特別な意味を持つ名前だった。その名の所為で、自分は家族を失った。そう彼は思っていた。オーブが、二年前、理 念を守るとか言った所為で大西洋連邦を敵に回し、自分の家族――父、母、そして妹のマユは戦争に巻き込まれて死んだ。無事だった彼が次に見たものは、無残 な家族の死体だった。
今では妹の携帯電話――それを取りに行ったお陰で助かったのだが――が形見で、彼にとってアスハとは憎しみの対象以外何ものでもなかった。
「うん、私もビックリした。こんな所で大戦の英雄に会うとはね。でも何? あのザクがどうかしたの?」
「ああいや…ミネルバ配備の機体じゃないから誰が乗ってたのかなって」
間違ってもアスハに助けられたなどとは言えないシンは、咄嗟に嘘をついた。
「操縦してたのは護衛の人みたいよ。アレックスって言ってたけど……でも、アスランかも」
目を輝かせて、そう小声で言うルナマリア。その名前に、シンは驚いて目を見開いた。
「え?」
「代表がそう呼んだのよ、咄嗟に。その人のことをアスランって………アスラン・ザラ、今はオーブに居るらしいって噂でしょ?」
ミネルバに不時着したアスランとカガリを保護したのはルナマリアだった。そして、彼女はその時、離陸するミネルバに驚くカガリが“アスラン”とア レックスに向かって言ったのでそう思った。
「アスラン……ザラ……」
かつてのプラント最高評議会議長であるパトリック・ザラの息子にして、大戦時にはネビュラ勲章を授与され、特務隊FAITHに任命された超が付く ほどのエリートの名前だった。
シンは、新型三機が強奪され自身のMSであるインパルスに乗って迎撃したが、やられそうになった所、アスランのザクに助けられたのだ。もし、アス ランなら量産型の通常装備のザクで、新型を相手に互角に戦えたのも納得がいった。
「あ、やっぱりアレ、アスランだったのね」
「「!」」
その時、エリシエルがやって来て声を上げるとシンとルナマリアは彼女の方を見る。
「エリィ先輩!」
「ルナ……元気そうね」
「はい!」
目を輝かせるルナマリアに、シンは眉を顰めてエリシエルを見る。
「あ、紹介するわね、シン。この人、アタシの先輩でエリシエルさんって言うの」
「よろしく。エリィって呼んで」
「は、はぁ」
ニコッと微笑まれ、シンは少し頬を赤く染めながらも彼女と握手する。
「さっき、グラディス艦長に挨拶に行った時、昔、何処かで見た顔だと思ったんだけど……やっぱりアスランだったのね」
「先輩、アスランさんと知り合いなんですか?」
「アカデミー時代の後輩よ」
クスッと笑い答える彼女。多分、アスランも気づいたから視線を逸らしたのだろうと思う。
その時、格納庫に誰かが入って来た。見上げると、シン達の同期で同じ赤服を纏うレイ・ザ・バレルが案内役で、デュランダルとカガリ、そして今まで 噂していたアスランが入って来て、デュランダル自らがMSの説明をしていた。
「ZGMF−1000。ザクはもう既に御存知でしょう。現在のザフト軍の主力の機体です。そして、このミネルバ最大の特徴とも言える、この発進シス テムを使うインパルス。工廠で御覧になったそうですが?」
「あ……はい」
驚きながらも、アスランが頷くと、エリシエルは眉を顰めた。
「技術者に言わせると、これは全く新しい効率の良いMSシステムなんだそうですよ。私には余り専門的なことは分かりませんがね」
効率の良いシステム。それは即ち、より多くの犠牲が出る可能性があるとう事にも繋がる。より良い兵器は、より多くの命の奪う事をカガリは分かって いた。故に彼女の表情は自然と苦いものになる。
「しかし、やはり姫にはお気に召しませんか?」
デュランダルは、そんな彼女の心理を見透かして笑みを浮かべながら尋ねた。
「議長は嬉しそうだな?」
「嬉しい、というわけではありませんがね。あの混乱の中から、皆で懸命に頑張り、ようやく此処までの力を持つことが出来たというのは、やはり……」
「力か。争いが無くならぬから力が必要だと仰ったな、議長は」
「ええ」
「だが! ではこの度の事はどうお考えになる!」
突如、カガリが声を荒げ、デッキにいた皆が彼女らに注目した。
「あのたった三機の新型MSの為に、貴国が被ったあの被害の事は!」
「だから、力など持つべきではないのだと?」
「そもそも何故必要なのだ! そんなものが今更! 我々は誓った筈だ! もう悲劇は繰り返さない! 互いに手を取って歩む道を選ぶと!」
「流石、綺麗事はアスハの御家芸だな!」
「!?」
「シン!」
その言葉を発したのは、他でもないシンだった。シンは、ギロッとカガリを睨み付けた。その目には、殺しても殺し足りないほどの憎悪が含まれてお り、カガリはゾクッと身震いした。
思わずレイが飛び出し、シンの胸倉を掴むが、彼はその手を振り解いてインパルスへ向かって行った。
「申し訳ありません議長! この処分は後ほど必ず!」
レイは、デュランダルに敬礼するとシンを追って行った。
「本当に申し訳ない姫。彼はオーブからの移住者なので……よもやあんな事を言うとは思いもしなかったのですが」
その言葉にカガリは僅かに驚愕の表情を浮かべた。
「やれやれ……本当、人遣いが荒いんだから」
黒いパイロットスーツに着替え、ドラゴネスの格納庫でボヤくレン。その横では、ヘルメットを抱えピンクのパイロットスーツを着たリサが呆れ顔で 立っていた。
「兄さん、この一週間、食っちゃ寝しかしてなかったじゃないですか?」
「それは違うぞ妹よ。無駄飯食らってただけ」
「変わりませんね」
「ようも飽きんと兄妹漫才やっとるの〜」
その時、二人との所へ白衣を着た白髪のバイザーをつけた老人がやって来た。
「ドクター・ロン……」
「ほれほれ! とっとと乗らんか!」
「あ〜……何かメンド〜」
「ええ若いもんが何を言うちょるか!」
ゲシッとレンの尻を蹴って気合を入れさせる老人――ロン。レンは、お尻を摩りながら、渋々と目の前のMSに向かって歩き出す。リサはペコッと頭を 下げ、レンの後に付いて行った。
「何つか〜……あのレンが、この艦で最強のMSパイロットって未だに信じられませんね」
整備班の一人がやって来てMSに乗り込むレンとリサを見ながらボヤくと、ロンはフンと鼻であしらった。
「あの小僧……何で海賊なんてやっておるんじゃろうな」
「は?」
「何でも無いわい」
そう言って、発信準備するぞとロンはその場から去って行った。
<良いな、レン!! 絶対! 絶対! 新型奪えよ!!>
MSのコックピット内でレンは、リサを膝に乗せてブリッジと通信で会話をしているとラディックの怒鳴り声ばかりが聞こえた。
「あのさぁ……ラディック。私一人でザフトの新型と戦えっての?」
<お前ならやれる! 俺が保証してやる!>
「艦長の保証ほど頼りにならないものはないですね」
<<<確かに>>>
リサの台詞に、回線の向こうでシュティル、アルフレッド、ロビンが激しく同意していた。
<テメーら、俺のこと嫌いだろ……>
何か怒るよりも寂しそうに言うラディックに、クルーは。
「好きか嫌いかと問われたら辛うじて好き……かな?」
「嫌いです」
<フィフティーフィフティーだ……>
<もうちょっと給料上げてくれりゃ〜な〜>
<短気な性格は嫌いッス>
<別にどうでも良いし〜>
<ふ〜んだ……いいよ〜だ……おれなんて、かざりだけのカンチョーだも〜ん。かいぞくだって、そうそう、もうかるもんじゃね〜し〜>
漢字変換せずにイジけるラディック。が、他の面子は、そんなのを無視して会話を続ける。
<まぁ頑張れや。何かあったら俺様の宇宙一のドライビングテクニックですぐに駆け付けてやるからよ>
<レンのMSの操縦技術はサイコーッス! ザフトの連中の度肝を抜いてやるッス!>
<がんば〜>
<…………適当にな>
グッとモニターの向こうで四人が親指を立てた。その後ろでは、泣きながらラディックも親指を立てている。レンとリサは、プッと笑って親指を立て た。
やがてキャナルの事務的な声が聞こえて来た。
<レン・フブキ機の発進シークエンス開始〜。全システムオールグリーン。ZGD―X999S、ラスト。発進どうぞ〜>
レンの目の前のカタパルトが開き、広大な宇宙へと繋がる。レンは、キッと表情を鋭くすると、操縦桿を強く握り締める。
「レン・フブキ……ラスト行くぞ!」
そして、そのMSは宇宙空間へと飛び出し、灰色のボディに色が付いた。銀色に輝くボディ、赤い相貌、背中に広がる黒い翼。それは“ガンダム”と呼 ばれるタイプのMSであり、レンの愛機“ラストガンダム”だった。
〜あとがき〜