「ヘブンズベース戦での功績を称え、シン・アスカにネビュラ勲章を授与するものとする」

 ジブラルタル司令部では、多くのザフトの将校やデュランダルの前で、シンの胸に金色に輝く勲章が授与された。後ろではレイとルナマリアの胸にも勲章が 光っている。

「おめでとう。二つ目だな。いや全く素晴らしい」

 惜しみない拍手の中、将校が微笑みながら手を差し出す。シンは、その手を握り返し「ありがとうございます」と答える。

 すると、今度はデュランダルが前に出て来て、シンとレイに二つの小箱を渡す。

「それからこれを……シン・アスカとレイ・ザ・バレルに」

 その中には、アスランやハイネが付けていたフェイスの徽章が入っていた。シンは、目を見開いてデュランダルを見やる。
 
「議長……」
 
「不服かね?」

「あ、いえ……そんな事は」

「これは我々が君達の力を頼みとしている、ということの証だ。どうかそれを誇りとし、今この瞬間を裏切る事なく今後もその力を尽くして欲しいと思ってね」

 裏切る事無く、という言葉にシンはピクッと反応する。かつて、その徽章をつけて裏切った人物の事を思い出す。

「光栄です。ベストを尽くします」

 レイは、動じずにソレを受け取る。

「俺も……あ、いえ、自分も頑張ります」

 シンも躊躇いながらも、その徽章を受け取った。再び、温かい拍手が彼らに送られた。



「お先に失礼します」

 司令室を出るシン、レイ、ルナマリア。タリアは彼らを労うと、シンに微笑みかけた。

「ええ、ご苦労様……おめでとうシン」

「………どうも」

 もっと喜ぶと思っていたが、妙に雰囲気の暗いシンにタリアは首を傾げる。去って行く三人の姿を見つめながらタリアは表情を厳しくする。まだ、精神的に未 熟な彼らに勲章を贈り、更にフェイスとするなど、デュランダルは何を考えてるのか? これじゃあ、もっと彼らに戦って貰おうと思っているようだ。

 すると、急に後ろからデュランダルが話しかけて来た。

「君が何も言わないのも怖いな、タリア」
 
「……失礼しますわ」
 
 チラッとデュランダルを一瞥すると、タリアは足早に歩き出す。それにデュランダルも付いて来た。

「シンとレイをフェイスとしたことで絶対何か一言あると覚悟していたんだがね」

「何を今更……言いたい事は山ほどありますが迂闊に言える事でもないので黙ってるんです。聞く気がないのなら放っておいていただきたいわ」

 どうせ一戦艦の艦長の自分が何を言っても無駄だと分かっているタリアは、厳しい口調で言うが、デュランダルには心外そうだった。
 
「聞く気がないだなんて、そんな……」

「アスラン・ザラとメイリン・ホーク撃墜の件、私はまだ納得したわけではありません」

「分かってるさそれも。だが……」

 デュランダルが何か言いかけた途端、突然、兵士が駆け寄って来た。

「議長!」

「何だ?」

「キース・レヴィナスの所在が分かりました!」

 それを聞いて場が騒然となる。聞こえたシン達も階段を上がって来た。

「カーペンタリア情報部からの報告です」

「カーペンタリアから?」

 てっきりビクトリアかパナマかと思っていたデュランダルも意外そうな顔になる。

「で、彼は何処に?」
 
「オーブです!」
 
 その国の名前を聞いて、タリアは目を見開き、シン達も愕然となっている。そして兵士の出した資料には、キースと対面しているセイラン親子の写真があっ た。



機動戦士ガンダムSEED Destiny〜Anothe Story〜

PHASE−28 蘇る記憶




「何だと!? キース・レヴィナスがセイランに!? 本当かそれは!」

 アークエンジェルのブリッジでは、同じ報告を聞いたカガリが驚愕の声を上げた。
 
<ああ、間違いない。そしてそれはもうザフトにも知れたようだ>

「何でロゴスの拠点を潰していた彼がオーブに……」

 オーブ軍の制服を着たエリシエルが眉を顰めて呟く。オーブは確かにロゴスと繋がりがあったが、拠点なんて無い筈だ。流石のロゴスもオーブには、公に手を 出せなかったようだ。それに、拠点を潰すなら、わざわざ国内に隠れる必要なんて無い筈だ。

<既にオノゴロ沖合にカーペンタリアより発進した艦隊が展開中だ>

「ウナト……何故そんな!」

 かつてオーブは連合の同盟を拒み、国を焼かれた。それは、連合に与すればザフトが攻めて来るであろうというウズミ・ナラ・アスハの判断だった。連合に与 していれば国をあの時、焼かれなかったかもしれないが、今、彼の言葉の正しさが証明された。どちらかに与してようが、中立の立場を貫こうが国は焼かれてい た。カガリは、ギュッと拳を握り締める。

「もしかしてコレが狙いじゃ……」

「え?」

 ずっと考えていたエリシエルがポツリと呟くと、皆の視線が彼女に集まる。

「自分を餌にしてザフトを引き寄せて、オーブと戦わせるのが……彼の」

「そんな……!」

「何の目的で!?」

 カガリとマリューが相次いで声を上げると、エリシエルは余り自信の無さそうな声を上げる。

「多分……面白いからだと」

「面白いだと!?」

「どうも彼はレンと同じ思考みたいなんです……こうすれば、誰がどう動く……こうする事でこういった状況が生まれる……他人の心理や思考が手に取るように 分かるようで……レンもそういう所あるでしょう?」

 言われて振り返る。彼のなす行動の殆どが、面白いからの理由であったような気がする。ザフトに捕まってみたり、カガリを拉致ったり、アークエンジェルに 海賊である彼らが協力したり………確かに自分達にとっては大きなプラスになる事だったが、レン本人は楽しんでるように見えた。

「彼も同じなんだと思います………」

 キースも同じ……自分の行動で、変わり行く状況を楽しんでるのかもしれない。

「何で……?」

「そこまでは……」

 が、それが本当なら面白い、という理由でオーブを戦火に巻き込もうとしている事になる。カガリは、言いようの無い怒りが込み上げて来た。




「ともかく我々は彼の身柄の引き渡しを要求する」

 目の前に並ぶ将校達に対し、デュランダルが言う。
 
「彼がロゴスの拠点を潰そうと、彼がこの世界においてどれだけ危険か……あのベルリンを破壊した兵器を見ても明らかだろう」

 彼がいる限り、またアレと同等、もしくはアレ以上の残虐な兵器が生み出されてもおかしくない。そう力説するデュランダル。だが、彼を含め全員が知らな い。キースにとってはデストロイですら“お遊び”で設計した程度である事に。

「既にカーペンタリアからこちらの要求を携えた艦隊が出動しているが万一に備えて我等も非常態勢を取る。先駆けてミネルバには直ちに発進してもらいたい」

 そうデュランダルの隣にいる将校に言われて、タリアが驚きの声を上げる。

「え? 本艦が此処からでありますか?」

 ジブラルタルからオーブは遠い。何で自分達が行かなくてはいけないのか疑問に思うのも当然だ。それにタリアは、あの国とはなるべく戦いたくなかった。今 回の件だって、あの実直なカガリが関わっているとは到底、思えない。
 
「こちらも本気だということを示さねば交渉にもならん。ミネルバは足自慢だろう?」
 
「連戦で疲れているところを本当に済まないと思うがね。だが頼むよ、グラディス艦長」

 そうデュランダルにまで頼まれては、断る事など出来ない。

「オーブはその軍事技術の高さを誇るだけでなく、マスドライバーなどの宇宙への道をも持つ国だ。私はそれも気に掛かる」

「え?」

「キース・レヴィナスが宇宙に出て何かしようとしているのではないか、と思ってね」

「オーブが彼に力を貸すと?」

「現に彼はオーブにいるのだ。我々が彼を捜していることをあの国だけ知らない筈はないだろうに」

 それに彼の異名は未来の見える死神。彼の言葉に従っていれば、まず間違いないと連合では知らない者はいないだろう。

「オーブはユニウスセブンの件があるまでは友好国として親しくしてきた国だ。それを思うと残念でならないが。だが我々もこの度の件に関しては一歩も退く事 は出来ん。彼は、ただのロゴスではなく自らも戦う事が出来る厄介な相手だ。皆、気を引き締めて彼を取り押さえてくれ!」

 そのデュランダルの言葉に、将校達は一斉に敬礼した。が、タリアだけはどこか不服そうだった。




「いや、すいませんね。突然、押しかけるような事をして」

「い、いえ……」

 セイラン家での屋敷では、キースが苦笑いを浮かべながら出された紅茶を飲む。その対面に座るウナトの表情は何処か重苦しい。キースは紅茶を一口啜ると、 カップをテーブルに置いて言った。

「別に何もしませんよ。ただ、シャトルを一機貸して欲しいだけです……宇宙に上がる為のね」

「…………レヴィナス中将」

「キースと呼んで頂いて結構ですよ」

「では……キース殿。何故、ヘブンズベースでは、あのような事を……」

 恐らくロゴス、そしてジブリールを抹殺した事だろう。キースは、ニコッと笑うと、足を組んで膝の上に手を組む。その姿が、まるで美術品のモデルのよう で、ウナトは圧倒された。自分よりも遥かに年下である彼に。

 心を見透かされている……そう思った。キースは表面こそ穏やかだが、その瞳は異様に冷たく、まるで死神の鎌が常に自分の首に絡んでいるような感覚に襲わ れる。

「この世界を汚す存在だから……ですよ」

「は?」

「ウナト・エマ。貴方は、この地球を宇宙から見たらどう見えますか?」

 突然の質問にウナトは戸惑う。

「地球は何色に見えますか?」

「え? そ、それは……青でしょう、やはり」

 青い星、地球と呼ばれるぐらい地球ほど青い星は無い。漆黒の宇宙に輝く水晶と言っても過言ではない。ウナトが、ごく当たり前の事を答えると、キースはニ コッと笑った。

「そうですね。普通はそうですね……ですが、私は地球が青く見えた事は一度も無いんですよ」

「は?」

「赤……とても赤く見えるんですよ、地球が」

「赤……ですか?」

 いまいち話が分からないウナト。キースは、目を細め、窓の外を見つめる。その目の冷たさに、ウナトは身を竦ませた。

「そう……地球は赤いんですよ、とても。今の私には、この世界がとても赤く見える…………とても、ね」

 ウナトはサングラスを外して、窓の外を見るが、いつもと変わらないオーブの景色である。

「赤く見える地球は……とても残酷なんですよ、ウナト・エマ」




「オーブ政府からの回答文発信されました!」

 ミリアリアの報告がブリッジに響く。カガリ達は待ち侘びた様子でモニターを凝視し、ミリアリアがその放送を映す。

「スピーカーに出します」

<オーブ政府を代表して通告に対し回答する>

 するとモニターにユウナが映り、会見を開いていた。

<貴官等が引き渡しを要求するキース・レヴィナスなる人物は我が国内には存在しない>

「は?」

「え?」

 その回答内容に、ブリッジ内の空気が一瞬、硬直する。

「ユウナ!」

 余りにも馬鹿げた回答に、カガリがモニターのユウナを睨み付ける。

<また、このような武力を以ての恫喝は一主権国家としての我が国の尊厳を著しく侵害する行為として大変遺憾に思う。よって直ちに軍を引かれること要求す る>

「そんな……そんな言葉がこの状況の中彼等に届くと思うのか!?」

 前の大戦時、アークエンジェルが身を寄せ、ウズミ・ナラ・アスハが匿った事があった。が、あの時と今は状況がまるで違う。国を一国の軍隊が包囲し、今の オーブは中立ではない。免罪符を得たザフトは、容赦なく攻撃出来るのだ。



「最早どうにもならんようだな」

 同じ放送をジブラルタルで聞いていたジブリールは、溜息を零して表情を鋭くして言った。

「この期に及んでこんな茶番に付き合えるわけもない。我等の想いにこのような虚偽を以て応ずるというのなら、私は正義と切なる平和への願いを以て断固これ に立ち向かう! キース・レヴィナスをオーブから引きずり出せ!」

 そして、ザフト軍がオーブ侵攻を開始するのであった。




「ちぃっ! 遅かったか!」

 その頃、オーブ領海付近では、ドラゴネスが到着していた。先程の馬鹿げた回答を聞いて、攻撃開始しているザフト軍を見て、ラディックが舌打ちした。

「ラッちゃん、まずいぞ〜。市民に避難勧告が出てないっぽ〜い」

「はぁ!?」

 既に侵攻が開始されたのに、避難勧告一つ出していない行政府に、ラディックは唖然となる。どうやら、セイランは、ああいう回答をすれば攻撃されないと踏 んだのだろう。

<船長! 私が行きます!>

<ステラも……行く>

 既にラストに乗り込んでいるリサとステラ。その横には、アスランもモニターに映っている。

<俺も出ます>

 アスランが乗っているのは、レンがトゥルースと同じように開発したグリード。戦士として戦う事にまだ戸惑いがあるが、オーブが攻撃されているというのに 黙って見ていられずに乗り込んだ。

「アークエンジェルも来てる筈だが……しょうがねぇ! 俺らだけでやるぞ!」

<はい! リサ・フブキ、ラスト、出ます!>

<アスラン・ザラ、グリード、発進する!>

 ラストは白銀に、グリードはエメラルドグリーンのボディになって空へと飛び立った。こちらに気付いたザフト軍が攻撃を仕掛けてくる。ラディックは、すぐ にクルーへ指示を飛ばす。

「アルフ! オノゴロへ回り込め! ロビン! ファング、クロー、テイルを一斉掃射! キャナルはアークエンジェルに回線繋げ!」

「「「了解!」」」

 三人は頷いて、すぐにそれぞれ命令通りに動いた。 




「させるかぁ!」

 アスランは叫び、オノゴロへ向かうMSの群れへと突っ込んでいく。バビがビームを撃ってくるが、グリードの背中にある円盤から、陽電子リフレクターが、 機体全体を覆うように発生して、防いだ。

 そして、両腰にあるビームシャベリンを取ると、一気に空中のバビやグフを切り落としていく。

「アークエンジェル! 応答してくれ!」

 ザフトのMSを撃墜していきながらも、アスランはオーブにいるであろうアークエンジェルと通信を繋ごうとする。すると、ノイズ混じりに女性の声が聞こえ た。

<アスラン!?>

「カガリ!」

 モニターはブレながらも、そこに金髪の少女が映って、アスランは表情を綻ばせた。

<お、お前、無事だったのか!?>

「ああ……フブキ先輩に助けられた」

 カガリは、アスランが無事な事に目を潤ませるが、ふと彼の乗る見慣れない機体に気付いて尋ねた。

<その機体は?>

「フブキ先輩の設計した機体だ」

 カガリと話している間に、地上からザクウォーリアが長距離ビーム砲を撃って来た。アスランは、両肩にあるシールドの一つを取って、それを防ぐとビームが 曲がった。どうやら、両肩のシールドにはゲシュマイディッヒ・パンツァーが応用されているようだ。

「キラは!?」

<それが……ラクスがザフトに見つかって宇宙に>

「ちぃっ!」

 アスランは、ビームライフルで相手を撃ち落としながら今の戦力で何処まで持ち堪えれるか微妙だった。リサの方も慣れないながらも、必死に戦っている。リ サ達は地上に降りて、ザクやアッシュなど海中や地上から攻めるMSを相手にしている。

 ともかく何とかオーブを守る。アスランは、瞳を鋭くし、グフを撃ち落とした。




「まったく! 何でステラさんまでいるんですか!?」

 一方、地上ではラストに乗るリサが、同乗しているステラに対して愚痴る。ステラは、横に立ちながら、ポツリと呟く。

「………シンに……会えるから……」

「……あんな人の何処が良いのか理解に苦しみます」

 ヒートロッドでザクの足を引っ張って、他のMSを足元から倒しながらリサがボヤく。

「シン……ステラ……守るって言ってくれた……」

「ハイハイ。でも私達、シンさんのいるザフトと敵対してるのを忘れてません?」

「………………!?」

 言われて初めて気付いたのか、ステラはハッとなる。

「シン……倒しちゃ駄目……!」

「きゃ〜!! 操縦桿勝手に握らないで下さい!!」

 此処にシンはいないと言い聞かせるが、ステラの耳には届かずリサはパニくった。

「!? マズい! 市街へ!」

 市街へと向かうグフの部隊を見て、リサは慌てて市街地へと向かう。まだ民衆は車などに乗って避難している。こんな所で戦闘をする訳にはいかず、ビームラ イフルを構えながらも撃ち落とせずにいた。

 その時、避難している家族の姿が目に留まった。母親に手を引かれている幼い少女の姿を見て、ドクン、と胸が高鳴った。

「う……あ……」

「リサ?」

「い、いやあああああああ!!!!!!!」

「!?」

 急に涙を浮かべて悲鳴を上げるリサ。ステラは驚愕するが、ラストが街に向かって落下していく。このままでは、多くの人達が下敷きになる。ステラは慌て て、操縦桿を握り締めて思いっ切り引いてバーニアを点火させた。すると、ラストは激突する前に急上昇する。

「痛い……痛いよ……」

 ガタガタ震えながら自分の体を抱き締めるリサ。ステラは、その尋常でない様子に、急いでドラゴネスと通信を繋ぐ。

<どうした?>

「リサが!」

<あん?>

「リサが大変!」

<お、おい、何があったんだ?>

 それだけじゃ分からず、ラディックが問い返すとバビの部隊がビームを撃って来た。ステラはギリッと歯噛みすると、急上昇してバビ達を引き付ける。

「邪魔……しないでえええええぇぇぇ!!!」

 叫び、彼女はビームライフルでバビを撃墜していった。

「たす……けてぇ……お兄ちゃん……」

 ポロポロと涙を浮かべながら、リサはハッとなる。

「おにい……ちゃん?」

 ――父さん……!

 ――大丈夫だ……施設だろ……。

 ――………頑張って!

 ――……の……い……。

 誰かが何かから逃げている。自分は女の人に手を引かれている。強い風圧が襲い、閃光に包まれて体が熱くなった。

 目が覚めると、視界が狭く、右腕の感覚が無かった。ベッドで寝かされていたので起きて、鏡を見る。ボロボロに焼け焦げた茶色かった髪、包帯で隠された左 目、そして先の無い右腕。余りにも醜い姿……これが……私?

『い、いやああああああああああ!!!!!!!!』

 叫んで蹲る。

『! 君!?』

 誰かが部屋に入って来たような気がした。嫌だ、嫌だ。こんなの私じゃない。私………私?

 何でこんな怪我を負ってるんだろう? 何でこんな事になってるんだろう? 此処は何処? 私は……誰なんだろう?

 自分が分からない。自分の今の姿と現状の恐怖が、髪を白くした。落ち着いた私に言った。

『記憶喪失か……じゃあ……私の妹にでもなってみるかい? 君、夢で“お兄ちゃん”って言ってたしね……名前は……リサ、でどうかな? 私が昔、大切だっ た人の名前を君に上げるよ。本当はリーシャだけど、語呂悪いしね……君さえ良ければ……リサ・フブキって名乗るかい?』

 リサ……今の私の名前。

 でも私は……お兄ちゃん?

「私……お兄ちゃん……?」





「既に戦闘が始まっているな……」

 ロッカールームでパイロットスーツに着替えたレイがポツリと呟く。つい先程、オーブでの戦闘にドラゴネスが介入して来たとの報告があった。が、シンはパ タンとロッカーの戸を閉めて、妹の形見の携帯を見つめる。

「…………オーブを討つのは気が引けるか?」

 そうレイに問われ、シンはハッとなる。未だ彼はオーブへの憎しみを忘れた訳ではない。あの日、一緒に逃げていた家族が、ただの肉の塊に化した光景は今で も覚えている。理念の為に国民を犠牲にしたアスハ。シンは、未だ彼らや、その理念を守ろうとする連中を許せなかった。

「だが……オーブは討たねばならない、絶対に」

「レイ?」

 ギュッと拳を握り締め、目を鋭くさせるレイにシンは眉を顰める。

「議長の目指す戦争の無い世界……誰もが幸福に生きられる世界が目の前まで来ているんだ」

 そう、戦争の無い誰もが幸福に生きられる世界……それはシンが望んだ世界だ。もう、あんな悲しい出来事は起きない。

 けれど、とシンは思う。アスランの言葉が頭から離れない。

『議長にとって人間はチェスの駒だ! 一人一人が決められた役割を果たし、台本に沿った人生を生きる。確かに、それなら欲望も持たず、戦争は起きないだろ う……だが、その世界に生きるのは“人間”ではなく、“人形”だ! 世界という箱庭で生かされるだけだ!』

 その世界に生きるのは人間ではなく、人形……そして、それは世界ではなく箱庭だとアスランは言った。そうかもしれない。けど、そうでもしなければ世界は 本当の平和にならない。欲望という癌を取り除くには、それぐらいの劇薬が必要なのかもしれない。

「何としても俺達の手でキースと、そして奴を匿うオーブを討つ。そして、その後の世界はシン……お前が守れ」

「え?」

 唐突にこちらに向かって微笑みかけられ、シンはキョトンとなる。レイは、ロッカーに入っている、ある薬の入った瓶を取り、ジッとそれを見つめる。自分が 最も信頼している彼から受け取った薬。

 レンの言葉で動揺した。デュランダルの望む世界に戦士の居場所は無い。なら彼の戦士である自分は必要あるのか? そう問いかけられて動揺した。だが、自 分にはギルしかいなかった。薬を見ながら思う。幼い日、彼に薬を渡され、自分の運命を教えられた。

「議長を信じ、議長の目指す世界を守るのが、お前の役目だ」

「何言ってんだよ、レイ? まるでドラマで死んでいく親父みたいだぞ?」

 シンの言葉に、レイはフッと笑みを浮かべ、薬をロッカーに戻すと、感慨深げに言った。

「実際、俺にはもう余り未来は無い」

「え?」

「テロメアが短いんだ……生まれつき」

 そう言われたが、シンにはいまいち理解出来ない。レイは、微笑みながら彼を見て言った。

「クローンだからな、俺は」

 その言葉に、シンは目を見開いて驚愕する。クローンだと言われても、ピンと来ない。自分達、コーディネイターも遺伝子を弄って生み出された人工的な存在 ではあるが、母体を通して生まれた。が、クローンとなると違う。レイは、淡々と自らの出生を語った。

「キラ・ヤマトという夢のたった一人を作る資金の為に俺達は作られた」

 キラ・ヤマト……その名前はつい最近、聞いた名前のような気がした。何処だったか、シンは思い出そうとする。その間にもレイの話は続く。

「恐らくはただ出来るという理由だけで」

 自分の子供を最高のコーディネイターにする、と言うある一人の科学者が自らの名声、そして研究の為に必要だった資金を得る為、ある男のクローンを作っ た。それがレイ、そして、ラウ・ル・クルーゼである。

「だがその結果の俺は、どうすれば良いんだ? 父も母もない。俺は俺を作った奴の夢など知らない。人より早く老化しもうそう遠くなく死に至るこの身が、科 学の進歩の素晴らしい結果だとも思えない」

 既に五十を超えていた男のクローンであるレイは、見た目は十代の少年でも、細胞は既に老化しており、寿命が短かった。
 
「もう一人の俺はこの運命を呪い、全てを壊そうと戦って死んだ」

 レイと同じ遺伝子を持つ、同じ存在であった彼。冷たい施設で独りだった自分を連れ出してくれた手の温かさは今でも覚えている。その彼は、自分すらも憎 み、全てを道連れに何もかも滅ぼそうとした。

「だが誰が悪い? 誰が悪かったんだ? 俺達は誰もが皆、この世界の欠陥の子だ。だからもう、全てを終わらせて還る。俺達のような子供がもう二度と生まれ ないように」

 誰も悪くない。悪いのは、そんな風になってしまった世界。なら、世界そのものを変えるしかない。それには議長が示す世界が必要なのだ。

「だからその未来は、お前が守れ」

 そうレイに言われ、シンは驚きながらも、彼の命が短い事だけは理解出来た。そして、未来を自分に託している。シンは、ギュッと携帯を握り締めた。



「敵MS群展開! 数40、侵攻してきます!」

 一方、オーブ国防本部のソガ一佐は、ザフト軍の侵攻に目を細める。突然のドラゴネスが入って来たのは驚いた。しかし、カガリの拉致事件で、彼らがこの国 の事を考え、アークエンジェルに国家元首誘拐の罪が被らないよう、汚れ役を被ってくれたのはオーブ軍の誰もが知っている。故に、カガリも帰って来たかもし れないという一縷の希望が出た。

「ソガ一佐、敵軍の侵攻が始まっているというのに、何故まだ何の命令もないのでありますか!? 市民の避難も!」

「行政府を呼び続けろ! セイランめ何を……」

 ソガは、そう命令し、歯噛みした。オノゴロをザフトに囲まれているのに、避難勧告を出さないなど馬鹿げている。皆がそう思っていると、唐突に扉が開いて ユウナが、苛立った様子で入って来た。
 
「ああもう! どうしてこうなるんだ!? 彼はいないと回答したのに何で奴等は撃ってくるの!?」

 本気で分からない様子で癇癪を起こしているユウナに、ソガが冷ややかに答える。

「嘘だと知ってるからですよ」
 
「へ?」

「政府は何故あんな馬鹿げた回答をしたのです!?」

 そう問い詰めると、ユウナは本当に不思議そうな顔をした。

「だって昔、アークエンジェルの時には……」

「あの時とは政府も状況も違います!」

 ソガがそう言うと、将兵達も彼に冷たい視線を向ける。すると、ユウナは子供みたいに怒鳴って命令した。

「あーもう五月蝿い! ほら! とにかくこっちも防衛体制を取るんだよ! 護衛艦軍出動! 迎撃開始! MS隊発進! 奴等の侵攻を許すな!」

「ワイヴァーンは、如何します?」

「奴らも敵だよ! いっつもいっつも邪魔する奴らなんか敵に決まってる!」

「な……!?」

 少なくとも彼らはオーブを守るように戦っている。その彼らまで敵とし、討つと言われ、ソガは絶句した。それでは彼らは前からはザフト、後ろからはオーブ に挟まれてしまう。

「ほら! 早く、あの目障りな海賊どもを討ってよ!!」




「オーブ軍!?」

 ザフトのグフやバビと戦っていたアスランは、後ろからのオーブ軍の砲撃に驚愕する。

「くそっ! オーブ軍まで……」

 前と後ろ、両方からの攻撃では持ち堪えられない。アスランは、同じように空中で戦っているラストの所まで移動すると、二機を覆うように陽電子リフレク ターを展開する。

<アスラン?>

 不思議そうに首を傾げるステラ。

「このままじゃ両方に狙われる。しばらく篭城するぞ」

 ザフト、オーブ両軍の攻撃を防ぎながら、アスランはこのままでは本当にオーブが再び焼かれる事に目を細めた。




「アマギ、ムラサメ隊は出られるな?」

 アスラン達までオーブ軍に狙われている光景を見て、カガリは静かにアマギに尋ねる。アマギは最初、目を見開いていたが、すぐに彼女の意図を察すると頷い た。
 
「はい!」

「なら行こう。艦長、スカイグラスパーを私に貸してくれ」

「えぇ!?」

「我々だけでも発進する」

 そう言って、エレベーターに向かうカガリを慌ててマリューが止めた。

「そんな無茶よ! スカイグラスパーでなんて!」

「オーブが再び焼かれようとしているんだ! もう何も待ってなどいられない!」

 彼女の制止を聞かず、飛び出そうとするカガリだったが、突然、ブリッジに入って来たキサカにぶつかった。

「カガリ?」

「キサカ一佐!」

「エリカさん……」

 キサカの横には、モルゲンレーテ社の主任で、前大戦でもアークエンジェルに力を貸したエリカ・シモンズの姿もあった。

「行くぞアマギ! 機体はお借りする!」

 そう言ってアマギを伴って出ようとするカガリの腕をキサカが掴んで止めた。
 
「待てカガリ!」

「もう待たんと言っている! 離せ!」
 
「いいから一緒に来るんだ!」

嫌だ! このまま此処で見ているくらいなら国と一緒にこの身も焼かれた方がマシだ!」

 そう言って首を横に振り、涙を浮かべるカガリ。その言葉に、エリシエルはフッと笑みを浮かべた。ミネルバに乗っていた時の様に、まだ少女だった彼女とは 違い、今の彼女は国を愛し、国民を思っている本当の指導者だった。

「それでは困るから来いと言っているんだ」

「五月蝿い離せ!」

「はいはいはい!」

 ジタバタと暴れるカガリ。そこへ、エリカが呆れた口調で割って入って来た。

「だから行くのは良いけど、その前にウズミ様の言葉を聞いてと言いたいの」
 
「お父様の?」

 父親の名前が出て来て、カガリはピタッと止まる。

「そう、遺言を」



 キサカとエリカは、アカツキ島の地下へカガリとアマギを伴ってやって来た。そして、ある巨大な扉の前で立ち止まる。

「そこに言葉が彫ってあるでしょ。読んで」

 そう言われて、カガリは埃を被っていたパネルを払い、その文字を読む。
 
「『この扉、開かれる日が来ぬことを切に願う』」

 が、エリカは扉の横にある開閉レバーを引いて、扉を開けた。ゆっくりと開かれる扉を見ながら、エリカが言う。

「この扉が開かれる日、それはこのオーブが再び炎に包まれる日かもしれないと、そういう事よ。 そしてこれが封印されていたウズミ様の遺言よ」

 扉が全開になり、照明が点けられると、突然、彼らを強い光が襲った。思わずカガリは目を閉じる。そして、目を開けると、そこには、とてつもないものが あった。

「黄金の……MS!?」

 思わずアマギが声を上げる。そこには、黄金色に輝くMSが一機、佇んでいた。フォルムはガンダムと同じ。背中には水平にある翼、肩には『暁』の文字があ る。
 
<カガリ>

 すると、何処からかウズミ・ナラ・アスハの声が響いた。恐らく、此処の照明が点くと再生するようになっていたのだろう。

「お父様……」
 
<もしもお前が力を欲する日来たれば、その希求に応えて私はこれを贈ろう。教えられなかった事は多くある。が、お前が学ぼうとさえすればそれは必ずやお前 を愛し、支えてくれる人々から受け取ることが出来るだろう>

 ウズミのその言葉に、カガリはポロポロと涙を零す。自分を信じ、愛してくれる人達。此処にいるキサカ、アマギ、エリカを初め、キラ達やレン達、そして 今、最も大切な人は、オーブを守る為に戦っている。

<故に私はただ一つ、これのみを贈る。力はただ力。多く望むのも愚かなれど、無闇と厭うのもまた愚か。守るための剣、今必要ならばこれを取れ。道のまま、 お前が定めた成すべき事を成す為ならば>

 カガリは以前、デュランダルに対し『強過ぎる力は争いを呼ぶ』と言った。それに対し、デュランダルは『争いが無くならないから力が必要』だと言った。ど ちらも違っていた。力はただ力。使う者によって、争いを呼ぶ事も、また争いを鎮める事も出来る。剣を飾っていても意味が無い。全ては力を使う者の意思一 つ。カガリは、膝を突いて、号泣した。

「おとう……さま……」

<が、真に願うのはお前がこれを聞く日の来ぬ事だ。今この扉を開けしお前には届かぬ願いかもしれないが。どうか幸せに生きよ、カガリ>

「お父様……お父様ぁ……!」

 カガリの後ろでは、アマギやエリカも瞳に涙を浮かべている。キサカは、カガリの肩に手を置いて問う。
 
「カガリ、アカツキに乗るか?」

「アカツキ?」

 カガリは、顔を上げて黄金に輝くMSを見る。力はただ力……ウズミの言葉が蘇る。敵を倒す為の力ではない。ただ、国を守る為の力がそこにある。カガリ は、涙を拭いて頷いた。

「うん!」

 カガリは、パイロットスーツに着替え、アカツキのコックピットへと乗り込む。

<ORB−01アカツキ、システム起動。発進どうぞ>

 アナウンスと共に頭上のシャッターが開き、青空が見える。カガリは、グッと操縦桿を握り締めた。
 
<カガリ・ユラ・アスハ、アカツキ、発進する!>

 空へと飛び立つアカツキ。その後に、キサカを初めとしたムラサメ隊が続く。

<防衛線を立て直さないと総崩れだぞ!>

「まずは国防本部を掌握し戦線を立て直す。一個小隊、私と来い! 残りは防衛線へ!」

<<<はっ!>>>

 カガリの指示で、三機のムラサメがアカツキに付いて行く。そして残りは、キサカに付いて行った。



「アレは……」

 一方、グリードとラストを陽電子リフレクターで覆い、篭城していたアスランが黄金に輝くMSがムラサメを引き連れている姿を発見した。

<アスラン!>

「! カガリ!?」

 突然、パイロットスーツのカガリが映り、アスランは驚愕する。

<私は国防本部へ向かう。キサカのムラサメ隊もそちらに合流する……ありがとな、来てくれて>

 そうカガリが言うと、驚いていたアスランはフッと笑う。『ありがとう』……ただ、一言だけなのに何故か迷いが吹っ切れた気がした。戦士として戦う、それ で良い。けど、自分はその前にアスラン・ザラという一人の人間だ。守りたいものの為、戦士としての力を使う。それで良い。アスランは、陽電子リフレクター を解除すると、ビームランスを構える。

「カガリ……ただいま」

<…………ああ、お帰り>

 そう言い合うと、アスランは再び戦線に復帰した。




「本島防衛線が総崩れです。立て直さなければ全滅します!」

 次々と報告されるザフトの侵攻。また別の島の防衛が崩れた報告が入る。ソガが、ユウナにそう進言すると彼は酷く取り乱した様子で怒鳴った。

「だ、だったらやってよ!」

「ですからその御命令は!?」

 軍人は指揮官の命令に従う。その命令が無ければ何も出来ないし、してはいけない。ソガが問うと、ユウナの口から信じられない言葉が出た。

「そんなこと言って……また負けたら貴様のせいだからな!」

「な……!?」

 この期に及んで他人に責任を押し付ける事を考えているユウナにソガは絶句し、皆が彼に冷たい視線を向ける。指揮官が、そんなんでは、他の兵達の士気も下 がって当然である。

 その時、オペレーターが報告を入れて来る。

「ソガ一佐、沖合上空に新手の友軍部隊が……!」

「何?」
 
「え?」

「この識別コードは……タケミカズチ搭載機のものです!」

「何だと!?」

 オペレーターも驚愕を隠し切れない状況だった。ユウナも唖然となっている。何で、沈んだ筈のタケミカズチの搭載機が、此処に現れるのか?
 
「加えてアンノウンモビルスーツ1。ムラサメと共にこちらへ向かってきます」

 他のオペレーターが報告し、映像に映し出される。すると、黄金のMSが映し出され、司令部の皆が、その神々しさに目を奪われる。

「な、なんだあれは!?」

「黄金の……MS」

<私はウズミ・ナラ・アスハの子、カガリ・ユラ・アスハ>

 呆然となる一同を他所に、そのMSから通信が入った。そして、その名前に誰もが驚愕する。

<国防本部、聞こえるか? 突然の事で審議を問われるかも知れないが指揮官と話したい、どうか……>

「カガリ〜!」

 すると彼女の言葉を遮り、いつの間にか通信機をオペレーターから奪っていたユウナが、甘ったるい声で応答していた。司令部一同が呆然となってる中、ユウ ナは意気揚々と喋る。

「カガリ〜! 来てくれたんだね! マイハニ〜♪ ありがとう〜、僕の女神! 指揮官は僕、僕だよぉ」

<ユウナ……>

 妙に優しい口調のカガリは、念を押すように尋ねる。

<私を本物と、オーブ連合首長国代表首長カガリ・ユラ・アスハと認めるか?>

「もちろん! もちろん! もちろん! 僕にはちゃーんと分かるさ。彼女は本物だ!」

 かつては偽者と言ったくせに、その変わり身の早さに、もはや脱力するしかないソガ。が、次にカガリが堂々とした口調で言って来た。

<ならばその権限において命ずる。将兵達よ! 直ちにユウナ・ロマを国家反逆罪で逮捕、拘束せよ!>

「うんうん………へ?」

「命令により拘束させていただきます」

 カガリの意味不明な言葉に唖然となるユウナに、ソガが此処やクレタで沈んだ同胞達の無念を表すかのような渾身の一撃をユウナに向かってぶつける。

「ひぇっ……カ、カガリ〜!」

 いきなり殴られ、更に他の将兵達に押さえつけられて情けない声を上げるユウナ。だが、カガリは無視する。
 
<ユウナからキース・レヴィナスの居場所を聞き出せ! ウナトは行政府だな? 回線を開け! オーブ全軍、これより私の指揮下とする! 良いか!?>

 彼女の言葉に誰一人反対せず、敬礼した。誰もが、この瞬間、オーブの真の国家元首が帰って来る事を待ち望んでいた。ソガも胸が熱くなる思いだ。

<まずワイヴァーンへの攻撃をやめろ! 彼らは私が雇った傭兵だ!>

 その言葉に、皆が笑みを浮かべる。なるほど、国家元首が海賊と繋がっていては問題になり兼ねない。なら、彼女が雇った傭兵として扱えという事だ。

<残存のアストレイ隊はタカミツガタに集結しろ! ムラサメの二個小隊をその上空援護に! 国土を守るんだ! どうか皆、私に力を!>

 彼女の復帰に、皆が歓喜に彩られ、MS部隊の士気も復活し、戦況が大きく変わり始めた。




「何だ? どういう事だよ?」
 
 いきなり外に連れ出され、拘束を解かれたネオは眉を顰めた。彼の前には、銃を持ったエリシエルと、マリューがいる。マリューは、何処か悲しそうな目をし ながらも微笑んで言った。

「もう怪我も治ったでしょ? 此処にいるとまた怪我するわよ」
 
「あん?」
 
「スカイグラスパー、戦闘機だけど用意したから、行って」

 そう言って背を向けるマリュー。エリシエルも何処か悲しそうな目をしていた。ネオは、不思議そうにマリューの顔を覗き込もうとすると、彼女はそれを拒絶 するかのようにして叫んだ。

「貴方はムウじゃない……ムウじゃないんでしょっ!」

 またその名前を出され、ネオは眉を寄せる。するとマリューは彼女を振り切るように走り出した。エリシエルは彼に一礼すると、マリューを追いかける。

「記憶を信じるか……心を信じるか、貴方はどちらですか?」

 エリシエルの言い残した言葉に、ネオは目を見開き、彼女らの背中を見送った。しばらく考える。心……記憶はある。ネオ・ロアノークとして。だが、あのマ リューという女性の涙を見て、妙に心が痛んだ。

 あのフリーダムのパイロットが『ムウさん』と言った時、何かが頭の中を過ぎった。それが何なのかは分からないが、大切な何かのような気がした。決して忘 れられない何か……それが思い出されずに空を仰いだ。




「キースは?」
 
「まだ見つからないようだ。中々、頑固に抵抗されているようだ」

 待機していたシンは、オーブの戦況を見ながら尋ねた。その間、彼は考えていた。何でキースは自分から出て来ないのか? 彼が出れば、一人でこれぐらいの 敵、どうにか出来る筈だ。戦った時、シンはキースの底知れない何かを感じた。

「見慣れないMSが二機、そしてラストか……あの二機も、ワイヴァーンのものなら厄介だな……行くぞ」

 そうレイが言って、先にエレベーターに乗り込む。シンは、ワイヴァーンと戦う事が果たして正しいのか分からず、ギュッと拳を握り締める。ワイヴァーンに はステラだっている。彼女もいるのに戦って、それが本当に平和に繋がるのだろうか?

「シン……」

 隣でルナマリアが心配そうに見て来る。シンには答えが出せず、彼女と共にエレベーターに乗り込んだ。





 デスティニー、レジェンド、インパルスが発進され、アスランは目を見開いた。

「ミネルバ!? 来てたのか!」

 てっきりジブラルタルにいるかと思っていたミネルバが現れ、驚愕するアスラン。そして、シンのデスティニーを見て、唇を噛み締める。

 彼だけは……彼にだけはオーブを攻撃させてはいけない。ロゴスを倒し、オーブをも討つなど決してさせてはいけない。アスランは、堪らず叫んだ。

「シン!! やめろ!!」

 そして、ビームランスを迫るデスティニーに突き出す。

「お前がオーブを攻撃してどうする!?」

<!? アスラン!?>

 回線が開き、アスランの姿を見て、シンが驚愕する。そして、ルナマリアとレイも驚いていた。

<アスラン……何で此処に?>

<しぶとい奴め……>

 レジェンドが、グリードに向けて背中のドラグーンを向ける。そこへ、ラストが割って入って来た。

<シン!>

<! ステラ……!>

 やはりヘブンズベース同様、ラストに乗っているのはステラだったので、シンは唇を噛み締めた。




「ステラさん……操縦桿を」

「リサ?」

 頭を押さえて息苦しそうなリサが操縦桿を握って来たリサにステラは眉を顰める。

「アスランさん……すいませんが、他の二機の相手をお願い出来ますか?」

<何?>

「私は少し、そこの馬鹿に話があります……」

 顔を俯かせて言うリサに、アスランは戸惑う。如何にステラが一緒に乗ってるとはいえ、シンに女の子をぶつけるのは躊躇われる。

「お願い……します」

 が、リサの妙な迫力にアスランは冷や汗を垂らす。

<わ、分かった……だが、気をつけろ>

 そう言うと、アスランはその場を離脱する。それを追うようにレジェンドとインパルスもその場を離れた。

<おい、どういうつもりだよ、お前?>

「こんの…………馬鹿兄ぃ!!!!」

 叫ぶや否や、リサは思いっ切りデスティニーの顔面を殴った。突然の事に驚きを隠せないシン。ステラもその横で呆然としている。

「いつまで議長の言いなりになってるつもり!? この馬鹿!!」

<な……!?>

「いい加減、目ぇ覚ましてよ! “私達”の故郷を滅ぼしてどうするつもり!?」

<な、何言ってんだよ、お前……?>

「憎いから戦う、だからオーブを討つ、議長の言葉に従う、それがどんな世界でも戦争が無くなるなら…………そんな世界を、お兄ちゃんが生きて、お父さんと お母さんが喜ぶと思う!?」

 その言葉に、シンは目を見開いて絶句する。

<お、おい……お前、まさか……>

「兄さんも馬鹿だけど、お兄ちゃんは大馬鹿よ!! 私の携帯、忘れずに持っててくれたのは嬉しいけど……今のお兄ちゃんなんか大嫌い!!」

<マ、マユ……!?>

 シンは、信じられない様子でリサを凝視した。彼女の紫の瞳には、薄っすらと涙が滲んでいた。





 〜後書き談話室〜

リサ「とまぁ大方の人が予想してたと思いますが、私の正体が発覚です」

レイ「シンの妹か……ちっ、シンをもう少しで洗脳できる所だったのに」

リサ「お兄ちゃん、単細胞だから言葉に乗せられ易いんですよね〜」

レイ「これでシンは妹までも……三角関係ならぬ四角関係か」

リサ「私は妹だから傍観者です。ちなみに兄さんに関しては何とも思っておりませんので」

レイ「偉く冷たいな……命の恩人だろう?」

リサ「エリシエルさんみたいに、あんな駄目人間を普段から見てて好きでいるほど……」

レイ「なるほどな…………ところで、あの二人を何とかしてくれ」

シン「テメー!! 良くも人の妹に銃を仕込んだり、海賊に仕立てやがったりしやがって〜!!!」

レン「はっはっは。シン君、落ち着きたまえ。今回はロクに出番が無かったから腹いせに君をボコボコにした気分だよ♪」

リサ「…………はぁ。駄目な兄が二人に増えた感じです」
感想

感想を言う能力とかいうものがあったら確実に私はゼロでしょうね。

書いているときいつも、コレ感想なんだろうか?

と思います。

他の方と違って素直に感動することも出来ず、

捻くれた意見を出そうにもそれだけの知識も無い。

感想書く人の中では最悪ですね(汗)


今回もかなりのボリュームで展開していましたが、シンのお話と言う感じがありますね。

もちろんリサがマユであった事はかなりいい伏線だと思います。

ちょっと復活しすぎですが(爆)

今回はキースもレンも裏方でしたからね〜

物語が粛々と進んでいきましたね。

しかし、ココまで話が展開すると、終盤と言う感じがしますね。

MS戦にも力が入るという気もしますが、やはりレン対キースの一騎打ちなのでしょうか?

この先楽しみです♪





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