『臨検…ですか?』

「そう…。最近各コロニーで整備不良が続いてるって言うんで、臨時の検査に来たんだ。入港許可、もらえるかな?」

 キラの言葉にコロニー管理局の男が顔をしかめて答える。

『何をおっしゃりますか…。我々の所にそういった報告は一切届いておりませんし、仮に怪しい箇所がありましたら、直ぐにでも管理コンピュータが知らせる事 になっております。それに通常の検査をつい先日パスしたばかりです。統一政府はそんなに我々コロニーに住むものの自治管理が信用できないのですか?』

「いや、問題ないならいいんだよ。すまないね…」

 そう言ってキラは通信をきった。あまり長引かせて統一政府への心象を悪くする事は得策ではなかった。ただでさえ、宇宙…それもコロニーに住む人々への待 遇が後手後手に回りがちな昨今、統一政府は彼らの嫌われ者となっていた。

「ふー…これで臨検拒否されたのが5件目。どこのコロニーも査察を受け入れないなんて…」

 統一政府直轄治安維持軍副総官キラ・ヤマト大将は、アークエンジェル級7番艦アークエンジェルUに設けられた提督室でため息をしながら呟いた。カガリが いれば…そう何度も考えたことはあった。統一政府発足直前、カガリがオーブ代表首長として政界で活躍しているころはこんな事はなかった。彼女は影に日向に と、うまく立ち回り、宇宙、地球に住む人々の架け橋となっていた。ラクスも努力しているのだが、どうしてもコロニーに対しての政策や根回しが後手後手に なってしまっているのが現状だった。

「情報通り…って考えたほうがよさそうだな」

 キラは急いで備え付けのコードレスフォンを取ると、回線を開いた。

「もしもし艦長?至急確認したいことがあるからモルゲンレーテ月支社に繋いで。そう!“例のもの”が早急にいりそうなんだ!」

 そして、30秒とかからず、回線はつながった。

「もしもし、オリバー主任?頼んでいたものは後どれぐらいであがりそう?……そう。そんなに待てないよ。あぁ、そういう事だよ。うん、そう…慣らし運転と 試験はこちらでやるから、後3日で終わらせて!そう、いいね!」

 急いでいるように言い終えたキラは、よほど疲れていたのか、勢いよく通信を切り、執務椅子に体を預けた。

「後5日で…クリスマスか」

 カレンダーに移した目を、今度は天井に移す。

「聖誕祭…か。アスラン…」

 キラは、既にこの世にいない人物の名を上げた。彼なら、今の自分を見て何か声をかけてくれただろうか?そうはかない願いを含んでいた。

「無理…だよね。やっぱり。だって――――――」













犯した過ちの大きさに

囚われた男

さりとて、時は進む








獅子の名を継ぐもの
What comes after war

頑無

第2話
Presentiment
―予感―


















 C.E.83.12.20、午前中各コロニー視察の予定があったが、どれも臨時である事を理由に拒否される。そして何の成果も挙げられないまま、月基地 へと帰っていた。

「…もう、英雄の威光も届かなくなったかね?」

 重たげに体を横たえているキラに対して、バルドフェルドは楽しげに言った。

「嫌味ですか?」

 億劫そうに答えたキラは、それだけ言うと、また机に体を横たえる。

「ハハハ、さながら授業にくたびれた学生のようだぞ?」

 コーヒーを入れ終えたバルドフェルドが、キラの前にそれをおき、告げた。

「気になるかね?もしや、今度のことに“彼”が関与しているんではないか…と」

 バルドフェルドの言葉に、キラは驚いたように顔を上げた。

「ラクス・クライン嬢が世界統一政府の首長について、世界は一見平穏を保っている。しかし、それはあくまでも現状維持で…という意味でしかない。人類は自 らの身を滅ぼしそうな目に幾度となくあってきた。そのたびに少しずつ、少しずつ良くなってきた。誰しもがそう思う。しかし、実際は何も変わらない。生活が 豊かになった?科学技術が進歩した?それにいったい何の意味があるのかね?人の“心”が前に進んでこそ、人は革新を向かえ真に“進化した人類”といえるん じゃないのかね?」

「…何が言いたいんですか?」

 キラの眼光が鋭くバルドフェルドをさす。

「“進歩”と“進化”は違う。そういう事さ。以前パトリック・ザラが言ったね。“我々はナチュラルから進化して既に別の生き物だ!”とね。僕はそうは思わ ない。所詮コーディネイターとて、ナチュラルから僅かばかり“進歩”しただけの普通の人間さ。もし、本当に“進化した人類”がいるのなら、そのどちらにも 当てはまらない存在なんだろうねぇ?」

「だから、何が言いたいんですか!!」

 キラの怒鳴り声に、バルドフェルドはさも意外そうな顔をすると、告げた。

「おや、僕は君のやり口を真似ただけだよ?それとも、問いかけに問いかけで返すのは卑怯とでも言いたいのかな?」

 そして、彼はもう用は済んだといわんばかりに部屋を出ようとした。

「おっと、言い忘れてた」

 そういうと、頭を抱えるキラに対して、告げた。

「少年、“変わらない”ことは“退廃”への一歩だよ?」

 それだけ言うと、バルドフェルドは今度こそ本当に扉の向こうへと去っていった。

「…アスラン、カガリ――――――」

 望んでも返ってこない声…。自らが選んだことだ。二人が自分の傍にいないことは。

「ラクス……」

 暖かかった関係が、徐々に熱を失っていってしまったのはいつからだろう…。あの、冷たい秘密を2人で共有したときからだろうか?それとも、自分の気づか ぬ間に…あれよりも前からその兆候はあったのかもしれない。あったとすれば、それに気づけなかったのも、自分だ。

「僕には…償う事すら、許されないのかな?」

 呟いた先、誰かがいるとは思わずとも…誰かに向かって呟いたのだった。

「大変です!!」

 感慨に浸っているキラの所に、慌しく下士官が転がり込んできた。

「何事だ!?」

 下士官のあわてようから事の重大さを見て取ったキラは、下士官の非礼も攻めずに、報告を急がせた。

「たった今入った情報なのですが、ヘリオポリスコロニーが地球へと進路を取っていると!!」

「そんな馬鹿な!?あれは10年以上前に大破して破棄されたコロニーだぞ!それが何でいまさらになって――――――!」

 キラはそこまで言って、ようやく一人の人物を思い出す。もし彼が生きているとするならば、やりかねない…と。

「今戦闘待機中の部隊はどこだ?」

「はっ!ヒルダ・ハーケン中佐率いる第2MS(モビルスーツ)大隊であります!」

「ならば、彼女らに至急連絡を取りたまえ!出動だ!私も出る!!」

「そ、そんな!大将御自らが出ませんでも…」

「いや、確認したいんだ…。それと、対MS戦用装備も忘れさせるな!」

「それはどういうことで…?」

「私は“用意させろ”といったんだが?」

 キラの有無を言わせない視線が下士官を貫く。

「はっ!りょ、了解しました!」

 気圧された下士官は、来たとき同様転がり出るようにこの部屋を去っていった。

「まさか、あれが…」

 ヘリオポリスは大破しているとはいえ、地球に落ちればどれほどの被害が起こるかまるで見当がつかない。キラの中に最悪のシナリオが描かれる。

「くっ…せっかく勝ち得た平和だというのに!」

 いったい誰が…。キラは軍服の襟を緩めながら、宇宙港へと向かっていった。最早、今から動き出して現場に急行できるのはキラのいる月面基地の部隊以外い ないのだ。




































「C.E.83.12.20…後世の人間はこの日をどう捉えるかな?」

 男は襟章を正すと、控えている女性に向かっていった。

「良くも悪くも、歴史的な日と…捉えてくれるんじゃないか?」

 女の言葉に、男はうっすらと笑みを残しながらいった。

「君も、そう思ってくれているならうれしいよ」

 男の視線の先には、幾百幾千と隊列を組む艦隊が見えていた。彼は、この艦隊すべての長だった。

「すまないな…」

 女が苦しそうに一言つぶやく。

「なんで?」

 男は、その言葉がさもおかしいように聞き返す。

「私の我侭で…お前を御輿にまでしてしまった」

 女の言葉に苦笑すると、男は女の下に歩み寄り頭を撫でた。

「何を言ってるんだ…。前にも言ったろう?お前の夢は俺の夢だ…ってさ。お前が叶えられなかった事…俺ができるのならば、どんな事だってやってやるさ」

「…すまない」

「そうやって沈んだ顔をするなよ。お前には…笑っていてほしい」

 男は、沈んだ面持ちの彼女の顔を上げさせると、唇に熱を落とす。

「…いってくる。俺の、一世一代の大舞台だ。きちんと見ててくれ…」

 そして男は大きな扉を開けると、光の中へと進んでいった。彼の顔は、既に指導者のそれへと変わっていたのだ。そして、扉が閉まると、女は膝から崩れ落 ち、顔を手で覆った。

「私は卑怯者だ…!ハウメアの神よ…私の代わりに、汚名を着ようとしている彼を、お導きください!」

 女の叫びは、誰が聞くともなく、虚空の闇に消えていった。





































「お待ちしていました総帥」

 男の目の前に、真紅の瞳が印象的な青年が現れ、膝を折った。

「少佐、首尾は?」

 男は、青年を“少佐”と呼んだ。青年は立ち上がると、微笑んでいった。

「すべて滞りなく。順調の一言です」

 男はその言葉に満足そうに頷くと、言った。

「頼りにしているぞ、シン・アスカ少佐」

 青年は男の言葉に恥ずかしそうに言った。

「よして下さいよ。昔のように“シン”で結構です総帥」

 青年の言葉に、男は苦笑するといった。

「分かった。行くぞ、シン」

 その言葉に満足したように青年は頷く。

「治安維持軍月基地の動きは?」

「報告では第2MS大隊が戦闘待機中で、スクランブルがかかれば4時間以内には接触します」

 男は歩みを止めることなく、報告を聞く。

「阻止限界点まで2時間の位置…という事か」

「現在MS2個中隊に守備を任せていますが・・・いかがしますか?」

 青年の言葉に、男は微笑むといった。

「おそらく、あいつが出てくるだろうからな…。MSをもう2個中隊追加させろ。そして…俺も出るぞ」

 男の言葉に青年があわてた。

「な、何いってるんです総帥!何処に長自らでてく組織があるんですか!?冗談もほどほどにしてください!」

「だが…キラは、俺でなくては止められない」

 その確固たる眼差しを見て、青年はため息をつくと、諦めたように言った。

「そういえば、一度言い出したら聞かない人でしたね。分かりましたよ…。かつてZ.A.F.T.でエースの名を欲しいままにしたあなたの腕前…信じてます からね」

「お前、誰にものを言ってるつもりだ?」

 男がむすっとしながら言うのに対し、青年は微笑んでいった。

「そりゃもう…アスラン・ザラ総帥にですよ」

「…ったく!いくぞ、シン!」

「言われなくてもついてきますよ!それが俺の仕事ですからね」

 青年は嬉しそうに不機嫌な男の背中を追った。そう、憧れていた背中に少しでも追いつこうとするように。


























See you again!









後書き

頑無:はい、ようやく顔と名前出しましたねアスラン君

アスラン:…シンって俺の部下なのか?

頑無:ん?不満??何、気心知れた元同僚よりボディコンねーちゃんの方が良かった?

アスラン:ボディコンって…お前、それ歳がばれるからやめとけって

頑無:おぉっと…いかんな。最近どうも…ね

アスラン:それよりも、なぜ俺がキラの中では死亡扱いされてるのに生きてるんだ?

頑無:それはまぁ、おいおいとね…

トリィ…トリィ…

頑無:な、なにやら不吉な声が…っていてぇぇぇぇぇぇっ!!

アスラン:…お前の後頭部にトリィが刺さってるよ。ったく、流血させてるんじゃない

頑無:ず…ずびばぜん…

アスラン:ん?なんだ…なんか手紙がついてるな

頑無:どれどれ?

アスラン:(頭の傷がない…化け物か!?)

頑無:“僕とラクスの仲は永遠だよ!枯れたみたいな事かかないでよね!”…わざわざそれだけのために?

アスラン:…あいつはそういう奴だ

頑無:…理不尽すぎ


感想

頑無さんが続編を送ってくださったようですね〜

時代、どうやら読み違えてたか(汗)

種デスの時代からまだ先のようですね。

イメージは当然逆襲のシャアでしょう!

アスランとキラの最終対決という事ですかね?

アスランの目的は何か?

キラは止めることが出来るのか?

人類の進化とは?

等など色々要素を盛り込んでらっしゃる様子。

オリジナルで続編というか、アフ ター物というわけですね。

シンさんが少佐と言う事は、アスランさんは大佐でしょうか?

総帥自体が階級なんですから本来はそれだけでいいんですけど。

逆襲のシャアではそうだったらしいですね。

ははは、年がばれるねぇ。

何を言っているんですか!! あくまでこれは貴方の知識ですよ!!

まぁ、私がオッサンな事を否定する気はないけどね。

でもガンダムWのゼクス対ヒイロみたいな部分もあるね。

どちらにより近くなるのか、気になる所ですな。


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