『発進シークエンス完了、進路クリアー、電磁カタパルト出力グリーン!大将、いつでもいけます!』
管制官から全ての手順が終わった事が示され、機体のエンジンに火が入る。そして、一気にスクランブルゾーンに入る。
「了解、トゥルーフリーダム発進する!」
スロットルを一気に開き、凄まじいまでの速さで機体が宙へと投げ出される。体に掛かるGを心地よいと感じてしまうあたり、既に病気だな…とキラは感じて
いた。
「新しい剣…間に合ってくれ!」
時はC.E.0083.12.23.…間もなく日付が変わろうとしていた。
獅子の名を継ぐもの
What comes after war
頑無
第5話
Preparation
―覚悟―
「やぁやぁ、大将…わざわざご足労ありがとうございます」
いかにも技術者然とした男がキラに向かって頭を軽く下げた。
「いや、こちらも無理言って完成させてもらいましたからね…」
モルゲンレーテ月支社…キラの今いる場所はそう呼ばれている。実際はモルゲンレーテとZ.A.F.T.のファクトリーが月面都市の一つと合同出資して建
造された工房なのだが、地球にあるモルゲンレーテから数多くの技術者が研修と言う名目で出向しており、実質モルゲンレーテの傘下企業となっている。現在こ
こで、キラが基礎設計から携わり、自身の持てる全てを発揮できるMSを開発させていた。
「あれが…そうかな?」
キラはシートのかけられた大きな運搬車のほうを見た。
「えぇ。ZGMF−X30A、トゥルーフリーダム…先程艤装の方も終了しまして、後はバーニア出力の設定や搭載されているスーパードラグーンシステムの微
調整を残すのみです。しかし…本当によろしいのですか?新しいインターフェイスが採用されているとはいえ、ドラグーンシステムの調整は難しいんですよ?そ
れこそ、米粒に文字を書くより難しい作業なんですから」
キラに機体スペックの記されているカタログを手渡しながらも、男は言った。
「君達の腕を信じてないわけじゃないんだけどね…。どうしても、直ぐこいつを使わなきゃいけないんだ」
キラはカタログに目を通しながら、言った。
「ん?これ…総重量が試算のときより10kg近く落ちてるけど、どうしたの?」
「それがですね…資材部の連中が新しく開発したっていう新素材を内部フレームに使いまして、柔軟性を損なうことなく、剛性を7%程あげる事に成功しまし
た。それを使った影響だと思われます」
「そうか…。それなら、別にいいんだけど――――――」
「あれ?キラさんじゃないですか」
通路の向こう側から聞いた事のある女性の声が聞こえてきた。
「君は…」
キラは一瞬彼女の名前が出てこなかった。それは、もうこの世にはいない女性の姿と今目の前にいる女性の姿がダブって見えてしまったからだ。長く紅い髪…
そして懐かしい瞳の色。声さえ違えど、姿は生き写しと言ってもよかった。
「お忘れですか?…仕方ないですものね。こちらはテレビで貴方の顔を連日見かけますけど、こうやって面と向かって会うのは十年ぶりですから」
そう言って目の前の女性は苦笑した。
「あぁ…思い出した。確かホーク姉妹の妹さんで、メイリン…そうメイリン・ホークさんですよね。お元気そうで何よりです。お姉さんの方は元気でやってらっ
しゃいますか?」
キラも今まで思い出せなかった自分に苦笑しながらも、手を差し出した。
「今はプラントのほうで生物学の研究をしています。何でもプラントの土壌でも生産性の高い農作物を作るための基礎理論を構築してるそうです」
メイリンは笑って差し出された手を握った。
「へぇ…軍のほうは退役されたんですね」
あの活発な女性が今は白衣を着てデータとにらめっこしている姿はキラには到底思い浮かべられなかった。
「似合わないでしょう?あの姉が学者なんて。本人だって学生気分でやってるみたいなんですよ。困っちゃいますよね」
困ったように笑う彼女の顔に、やはりキラはどうしても“彼女”の顔を重ねてしまう。彼女があの戦争で死ぬことなく、今を生きていたのなら間違いなく、目
の前にいる女性のように煌びやかな華として咲き誇っていたことだろう。
「あの…私の顔に何か?」
「あ、すまない…。ここの所寝ていなくてね。ボーっとしてしまったよ」
メイリンに声をかけられてキラは慌てて答えた。我ながら下手ないい訳だな…と心の中でつぶやきながら。
「いえ、確かにお疲れのようですね。気づきませんで…。主任、少し大将をお借りしますね」
メイリンはオリバーにウィンクしながら言った。その仕草にオリバーは気づくと、“仕方ない”といったようにワザとらしくため息をつくと言った。
「そこを曲がったところにレストルームがあるから使うといい。あ、そうそう…あの部屋“ねずみ”が何匹かいたから気をつけたほうがいいよ」
「え〜!?本当ですか、主任!私、そういうのダメなんですよ〜」
メイリンがおどけて答えてみせると、オリバーは微笑んでいった。
「大丈夫、この前ある程度駆除しといたからさ。でも、そういうのは何処から入り込んでくるか分からないから気をつけるといいよ」
「ありがとうございます主任!さ、キラさんいきましょう?」
「え、ちょ…ちょっと―――――」
メイリンはキラの腕をつかむと問答無用でレストルームのほうへ向かう。
「30分もしたら戻りますんで、それまでお願いしますね主任」
「はいはい、やっとくよ。ゆっくり休んでくださいね大将」
それだけ言うと、オリバーは書類を持ってその場を後にした。そして、キラはなすすべなくメイリンに腕を引かれてレストルームへと招かれた。そしてメイリ
ンは中に入ると、周りに人影がないのを確認して部屋の鍵を閉めた。
「ちょっとメイリン…一体――――」
「すいません、しばしお待ちを」
それだけ言うと、メイリンは懐からトランシーバーのようなものを取り出し、コンセント周りや部屋の隅においてある鉢植え、飲み物の自販機周辺や天井等を
念入りにチェックして、納得がいったのかそれを懐にしまいこんだ。
「結構です。さすが主任…駆除はばっちりね」
「メイリン、一体何を…」
「申し訳ありません。何の説明もなくここまでお連れした事をお詫びします。ですが、あの場では盗聴の恐れがありましたので迂闊にしゃべれなかったのです」
「え、盗聴?一体何故…」
キラは訳が分からなくなっていた。これほどまでに警戒しなければならない内容を今から知らされるのか…ただそれだけが分かっていることだった。
「私は今モルゲンレーテから出向という形でこの企業に派遣されたのですが、どうもここ最近の資材の流れがおかしいんです」
「え?」
「私は今この企業の技術顧問兼監査として派遣されているのですが…一先ずこれをご覧ください」
そういって彼女から手渡されたのはこの企業に搬入された資材のリストだった。
「次にこれです」
キラが一通り書類に目を通したころあいを見計らってメイリンは次の書類を渡す。
「これは…」
「今お渡ししたものが出来上がった製品の搬出記録ですが…。どう考えても数が合わないんです」
「確かに、一回一回はたいした量じゃないかもしれないけど…年間で見ればたいした量だよ。これは、一体いつごろから…?」
「およそ、三年前からです。正しくはあの人達が行方不明になってから丁度一ヵ月後…ですね」
彼女の言う“あの人たち”という言葉に、キラは心当たりがあった。アスランとカガリのことだ。
「それじゃぁ…」
「あくまでも可能性の話です。ですが、限りなく黒に近い…と思います」
「それでか…。納得がいったよ。彼らが何故三年の間にあれほどの規模の部隊を用意できたのかが…」
軍需産業は死の商人等といわれるが、まさにその通りだ。背信行為だ…と声高に叫んだとしても、企業からしてみれば金になれば何処へなりとも自社製品を売
り込むし、帳簿にその売買記録が載っていないのならしらばっくれられて終わりだ。
「メイリン、君はこれを一人で…?」
キラの言葉にメイリンは首を横に振る。
「オリバー主任と、あと数人の技術部の人達が手伝ってくれました。でなければ、この会社全体にも及ぶような仕掛けをここまで数字にできませんよ」
笑った彼女の顔に少し感じ入りながらも、キラも微笑んで返した。
「ありがとう、教えてくれて…。でも、それだけなら僕がここに呼ばれる理由にはならないんじゃないかな?」
キラの言葉にメイリンもゆっくり頷くと一枚の資料を渡された。
「これは…トゥルーフリーダムの設計書じゃないか。それも内部フレーム部分だけの」
「えぇ…。先程オリバー主任が新素材が使われている…と言っていたのは覚えてらっしゃいますか?」
「あぁ。おかげで機体重量が10kg削減できたらしいな。…まさか?」
「そのまさか…です。その新素材、うちで開発したことになっていますが敵組織から提供された可能性があります。資材部で研究が活発だったという話は全く聞
いていませんでしたので、ここにきて急に新素材開発など不可能に近かったはずです。なぜあの人がこんな事をしたのか…その理由が分かりませんが」
メイリンは苦笑しながら言うと、俯いた。無理もない…かつて憧れに近いとは言え、恋心を抱いていた相手が今は世紀の反逆者なのだ。
「君は、どう思ってるんだい?」
キラは率直な意見を聞いた。メイリンに、彼が何を思って…自分にこれを託したのか、と。
「…貴方と、決着がつけたいのではないでしょうか?それも、対等な条件で。こんな事にでもならない限り、あなた自身が動き出すことはないから」
「それにしちゃぁ…だいそれすぎだよ」
キラは親友であった彼の事を思い出していた。あの冷静沈着で、動じる事の少なかった彼の…寂しいまでの苦笑が、キラの脳裏を掠めていた。
「ひとまず、この件はこれで終わりました。大将にはこれだけお伝えしたかったので…」
「いや、すまないね…こちらこそ気を使わせてしまったみたいで」
キラの言い様にメイリンは僅かに微笑んだ。
「?…何かおかしな事を言ったかな」
「いえ、ただお変わりないな…と思いまして」
彼女の言葉は言いえて妙だったのかもしれない。あの戦争から十年…初めての戦争から数えれば既に十三年近くのときが経つが、彼には自分ひとり周りから取
り残されている感覚がどこかにあった。
「そっか…いや、そうかもね」
キラの苦笑に慌てたメイリンは言った。
「そ、そんなくらい顔しないでくださいよ大将!」
「え?…そんなに暗い顔してた?」
「そう…もう、この世の終わりみたいな顔してましたよ!こ〜んな顔です!」
そういってメイリンはキラの顔真似をする。
「そ、そんな顔してたかい?まずいなぁ…気をつけないとね」
「アハハ!やっぱりキラさんには沈んだ顔は似合いませんよ。いつも笑っててください」
目の前にいるメイリンは花のように笑う。それがキラには眩しかった。
「そっか…。ありがとう。メイリン」
キラの笑みに、メイリンも心からの笑みで応えた。
「あ、そうそう!私、今回トゥルーフリーダムに搭載されている新型スーパードラグーンシステムの開発主任させてもらってるんです」
「あぁ…君があれを完成させてくれたのか」
トゥルーフリーダムに搭載されているスーパードラグーンは、調整が難しいため実装が先送りされていたものだ。それをメイリン率いる開発チームが基礎理論
から構築しなおし、実装にこぎつけたのだ。
「ですからスーパードラグーンの調整、キラさんにくっついていって手伝わせていただきますからね」
「え?」
「あ、大丈夫ですよ。ちゃんと出向届けは受理されてますから。キラさんにくっついていきますから!ちゃんとアークエンジェルUまで届けてくださいね」
「…君はやることが早いな」
キラはため息を一つつくと、メイリンに向かって手を差し伸べた。
「よろしく頼むよ」
メイリンは笑顔でキラの手をとると、言った。
「はい!こちらこそ!いきましょう、キラさん?お急ぎなんでしょう?」
それだけ言うと、メイリンはレストルームを出てドックへと向かった。
「あぁ…そうだね。よろしく頼むよ」
キラはメイリンの揺れる豊かな紅い髪に苦笑いしながら呟いた。
「未練…なのかな」
「一体どういうことだね?」
世界統一政府高級官僚の一人、ウォント・エルーが自分をエスコートするかのように連れて行くSPに声をかける。
「申し訳ございません。詳しいことはお車の中でお話いたしますので、それまでお待ちください」
SPの言葉にウォントはため息を一つつくとその指示に従う。ウォントはアスランとの会談に出席した一人で、政府側の意見をまとめていた人物だった。
「こちらです」
SPはそういうと、玄関口に待たせていた黒塗りの高級車にウォントを乗車させて、自らも乗り込んだ。
「それで…どういうことなんだね?君達は確かアスラン氏が私につけたSPだったね。あんまり無礼を働くものではないと思うが?」
「そのことに関しては深くお詫び申し上げます。しかし、時間が迫っておりますので…。おい出せ」
SPは運転手にそれだけ告げると、車は軽快に走り出した。
「実はまだお伝えしていないことがございます。まずはこれをご覧ください」
そういってSPは数枚の書類を取り出し、ウォントに渡す。
「これは…!」
一通り目を通したウォントは声を上げた。その書類の中身はアスランがこれから行う計画の全容を記したものであった。
「前回お渡ししたものはフェイク…偽者でした。あなた方の中にクライン派と通じる者がいる可能性がありましたので、こちらとしても全容をお話しすることは
出来なかったのです」
「今これが私の手元にあるということは…調査は終わったということだな」
「はい。調査の結果貴方は白でしたので…こうしてお話しているわけです」
「…残念だ。我々の中に裏切り者がいたなどと」
「世の常です。アスラン様もお分かりになっているからこそ、事前措置を取られたのです。ですが、あの方が今の世をお嘆きになって立ち上がったのは確かで
す。そして、この後あなた方のお力が必要だと思ったからこそ、アスラン様はあなた方に協力を願った」
「言葉を返せば、必要がなければ声も掛からなかった…という事だろう?」
「それは…」
SPはウォルトの言葉に詰まった。その様子を見て、ウォントは苦笑すると告げた。
「別に構わんさ。そんな事、初めからわかっていた事だ。彼には私達が必要で、そして私達にも彼が必要だった。ただ、それだけの事だよ」
「…感謝します。それでは、この後の行動ですが事が終わるまであなた方には行っていただく場所がございます」
「何処へだね?プラントかね?それとも別のコロニーかね?」
ウォントの言葉に、SPは我が意を得たりと言わんばかりに、口の端をゆがめた。
「政治を動かすのはいつも民衆でございます。お忘れですか?」
「まさか…!?」
ウォントの目が驚きに見開かれる。
「そのまさか…ですよ」
SPは今まで顔を隠すようにかけていた大きなサングラスを取る。
「き…君は!?」
「行きましょう…時は一刻を争いますからね」
サングラスを外した男は特有の人懐っこい笑みを浮かべると、ウォントの向かいの席に座り、今後について話し出していた。
『12月22日、グリニッジ標準時間正午過ぎに建造途中で廃棄されたコロニー5基が徐々に軌道をそれ、移動を始めました。専門家の話では以前取り立たされ
た大型スペースデブリの衝突による一時的なものという話です。これらは微妙な重力干渉の結果一定軌道を周回しており、今まで軌道をそれなかったこと自体が
奇跡であるそうです。尚このコロニーは凍結された“地球保存政策”にて使われる予定であったものですが、計画が中止したことにより廃棄されたもので、長き
に渡って放置されたままとなっていました。さて、次の話題ですが――――――』
「デブリがあたったぐらいでコロニーが動くなんて、そんな馬鹿なことがあってたまるか!」
機体内のモニターを乱暴なしぐさで消して、キラは怒鳴った。
「あ…あの、どういう事でしょうか?」
シートの後ろでメイリンが縮こまって聞いた。
「あ、ごめん…。いや、コロニーってさすごい質量でしょ?それに、スペースデブリなんて大きくて精々MSのボディーサイズぐらいなんだ。その程度のものが
ぶつかった程度でコロニーがいくつも軌道から外れると思うかい?」
真空中とはいえ、それこそ大きな物を動かす力はそれ相応に大きくなければいけなかった。キラの言葉を聞いて、メイリンは首を振る。
「それに、これ…」
先程のモニターに映されていたコロニーの映像がコックピットの上隅に表示される。
「見えにくいから少し拡大するけど…」
キラがコンソールをいじって、先程の映像の一部分を拡大する。
「これ…」
メイリンにも分かったようだ。それを見つめて言葉が次に続かなかった。
「そう…黒いペイントを施して偽装してはいるけど、MSだ。姿勢制御のために吹かしたバーニアの灯りが僅かばかり映像に映りこんでしまってる」
「でも、ニュースではそんな事一言も…」
「コロニーの報道機関はアスラン達を黙認している。…そうとるしかないんじゃないか?」
「まさか…3年ですよ?あの人達が表舞台から姿を消して3年…たったそれだけの間で宇宙を掌握できるなんて―――――――」
「そのまさかを…やってのけたんだろう。方法は分からない。手段すら…。ただ事実として、宇宙は既にアスランたちに掌握されている。軍の息が掛かっていな
いものは全て敵と思ってもよさそうだ」
それだけ言うと、キラは自機のスロットルを開ける。
「キャッ!」
急激な加速により、メイリンの体がシート横の隙間にたたきつけられそうになる。
「っと、ごめん!」
キラが咄嗟に腕を伸ばしてメイリンの体を支える。
「大丈夫だったかい?」
「きゅ、急に加速するのはやめてください!」
「ごめん、次から気をつけるよ…と、言いたい所だけど、ちょっと無理みたいだね」
「え?」
「だまってて!舌噛むから!!」
キラはメイリンを抱き寄せると、自分にしがみ付かせた。
「キ、キラさん!」
キラはメイリンの慌てた様子に構わず、なおもスロットルを開く。全開だ。加速によるGが体をシートへと押し付ける。
「あれが移動したって事は…彼は直に動く!」
“…そうそう、言い忘れていたがクリスマスは時間を空けておけ。でないとパーティーに遅刻してしまうからな”<中央ぞろえ、太字表示が可能でしたらお願い
します>
キラの脳裏に先日コロニーで会った彼の言葉が繰り返される。
「アスラン…招待状は手に入れたよ!後は――――――」
キラの脳裏に浮かぶ彼との思い出。共に遊び、共に学び、共に育った日々。そして満開の桜並木での別れ。再会は戦場で、殺し合い、共に手をとって平和のた
めに駆け抜けた。そして、今生の別れを覚悟した3年前…そして再び出会った場所は、戦場だった。血生臭いことがずいぶん様になってしまった…そう自覚せね
ばならなかったこの13年間。そして、理想だけで動けぬ事をまざまざと知らされた時間でもあった。かつての彼なら…自分の思うがままに戦場を駆け抜けてい
た。自分の信じた道が何より正しいと信じ、盲目的に戦う。“誰かのために”“やがてくる平和のために”綺麗事を並べ、自己の行いを正当化し、“不殺”とい
う考えを遣り通してきたつもりであった。そして、それを遣り通す力があるとも思っていた。だが、幾ら高性能なMSに乗っていようが、たった1部隊で戦局を
変えられるような戦争は何処にもないのだ。そんな事が起こりうるものは戦争じゃない…性質の悪いできレースでしかない。自分ひとりが戦場で不殺を貫こう
と、自分が行動不能にした敵機を他の誰かが撃墜する。
または制御の効かなくなった機体に取り残され、永遠とこの宇宙を彷徨うことになる。結果的に死んでしまうのだ。そんな事は…犬死である。仮にも、祖国を守
ろうと勇敢に戦う一兵卒に対して余りにも残酷すぎる。そしてあの事件を起こした3年前から特に…MSに乗るたびに、その事が彼の心を重くした。良心の呵
責…そう言えば聞こえはいいが、結局は自分のした事を受け止めきれない小心者の言い訳でしかなかった。そして、彼は決意した。MSに乗るのも…自分に嘘を
つくのも、これが最後だ…と。
「僕は…決めたよ。君を討つ…と!!」
覚悟は決めた。後は、貫くだけ…。キラがそう思ったとき、かつてラクスが言っていた言葉を思い出した。
“まず決める。そして決めた事を遣り通す…”
(確かに…君の言う通りかもね)
自嘲にも似た笑みを僅かにこぼすと、キラは視線を前に移す。彼の表情に、最早迷いはなかった。
「アスラン…僕は君を止めてみせる!!」
賽は投げられた…最早引き返せぬところに歴史は動き出していた――――――――。
See You Again!
あとがき
頑無:長らくお待たせいたしました。獅子の名を継ぐもの第五話でございます
アスラン:ちょっと長すぎはしないか?
頑無:まことに申し訳ない!ちと私用が――――――
アスラン:うるさい!全く…俺にだって理解できても納得できない事はあるんだ!!
頑無:…君はその言葉で女の子一人泣かせたよね?
アスラン:ギクッ…!………何のことかな?
頑無:…まぁ、いい。(しめしめ、うまくごまかせたな)で、今回貴様は出番なしじゃ!
アスラン:…終わった後に言うなよ
頑無:だって始まる前に言ったら面倒くさい事になってただろうし〜
アスラン:お前…分かってるなら蒸し返すなよ
頑無:…それはそうと!メイリンちゃんも登場!いやぁ、彼女はいつだそうかと迷ってたんだけどね
アスラン:切り替えはいやいな…。ま、いいか。確かにな。出すかどうかさえ悩んでたんだろ?
頑無:そうなんだよねぇ…。ま、結果オーライな感があるからこれはこれでよかったのかな…と
アスラン:ん?てことは…彼女の登場が物語りに大きく関係しているって事なのか?
頑無:ば、馬鹿!そんな事こんな所で言うな!!…まぁ、関わりがある様なない様な
アスラン:…期待させるだけさせといて実は考えてないってオチか
頑無:ギクッ!
アスラン:はぁ…まぁ、毎度の事だな。
頑無:それが俺だ!
アスラン:ところで…さっきから何か忘れてないか?
頑無:え?
アスラン:いやな、何か忘れてる気が…
頑無:ナニモワスレテナイヨ
アスラン:…なぜ片言?
頑無:ダイジョウブダッテ、アンシンシロヨデコッパチ
アスラン:貴様…
頑無:はっ!つい本音がぽろっと…って、M16構えるな!!それにどっからだしてきた!?
アスラン:うるさい!問答無用だぁぁぁぁぁぁぁっ!!
頑無:ギャァァァァァァァァァァーーーーー!!!
地獄絵図繰り広げられる某所からお伝えしました。次回をお楽しみにお待ちください。
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