「アスラン・ザラ・・・貴君には二度にわたる軍部、Z.A.F.Tからの脱走・・・つまり不名誉除隊処分となっているが・・・相違ないな?」
「・・・はい、ありません」
「では、以後貴君のプラントにおけるZ.A.F.Tでの地位を剥奪、社会保障等の政府からの庇護をうけられず、本法廷終了後から恒久的に貴君のプラントに
おける選挙権を剥奪する。異論があれば今述べられよ」
「・・・ありません」
「よろしい。以後本法廷での決定は何人たりとも覆せないものとここに宣言し、以上で本法廷は閉廷とする。閉廷!」
あの激しかった戦争から2ヵ月・・・アスラン・ザラに言い渡された、無常にも聞こえる判決だった。
獅子の名を継ぐ者
「・・・アスラン」
気遣わしげに被告人席から立ち去る親友の姿を見ながら呟くキラ。
「何故・・・何故こうなる前に何とかできなかったんだ!」
プラントからアスランへの緊急招集がかかったのがつい一週間ほど前・・・。デュランダル議長が掲げたディスティニープランの混乱から世界が落ち着きを取
り戻しつつあった最中、であった。
「何故・・・あの時僕は彼をそのまま行かせてしまったんだ」
アスランがZ.A.F.T脱走後、色々と続いたゴタゴタのせいで、データ処理が遅れ、今だZ.A.F.Tを除隊処分となっていなかった。つまり、彼は
Z.A.F.Tとオーブ軍の両方に在籍していた事になっていた。そのために、Z.A.F.Tからの緊急招集がかけられたのだ。
「まぁ、今更だ・・・。獲って喰われるような事は無いと思うがな」
緊急招集のメールを見たとき、いつも通りアスランは困ったように笑いながら、ツールを閉じた。
「あ、カガリには内緒にしといてくれよ?ただでさえ忙しいのに、要らぬ心配はかけたくないからな」
彼は偶然その場に居合わせた親友のキラにそう言って荷物を纏め始めた。
「カガリには・・・なんて言うつもり?」
「ん?・・・なに、あいつもオーブの代表として忙しく各国を飛び回ってる最中だ。こんな事で一々心配かけたくは無いんだ」
「・・・つまり、何も言わないでいくつもり?」
キラの責めるような目にアスランは苦笑しながら言った。
「大丈夫だって。2,3日もすれば戻ってこれるだろうしな。大体、今プラント最高評議会の議長はお前の愛しいラクス・クライン嬢だぞ?決定権は全て彼女に
あるんだ。そっちに文句を言ってくれ」
「そ・・・そりゃそうかもしれないけど・・・・」
アスランの言葉に頬を染めながらキラは渋々とアスランのプラント行きに賛成した。
「それじゃ、行ってくる。もしカガリから連絡があったら墓参りにでも行ったと言っといてくれ」
「了解・・・気をつけてね」
「あぁ・・・精々、行き返りのシャトルが墜落しないように祈っとくさ」
アスランはそれだけ言うと迎えに来ていたジープに乗り、宇宙港へと向かった。
「・・・何もなければいいけど」
その時のキラは胸中に言い知れない不安を抱いていた。そして、それは現実のものとなった。あれから3日が経ち、一行にアスランからの連絡が無いことにや
きもきしていたキラは、夜遅くにけたたましくなる通信機の音に、気分を害しながらも、通信相手であろうアスランになんと言ってやろうかと考えながら出た。
「ねぇアスラン!今何時だ・・・・と?」
『お久しゅう御座いますわ、キラ』
なんと、通信の相手はアスランではなく、キラの想い人であるラクス・クラインだった。
『夜分遅くに申し訳ありませんわ・・・』
「ううん!そ、そんな事ないよ・・・。ラクスは忙しいんだから・・・仕方ないよ」
通信先で沈んだ表情をする想い人をフォローしつつ、話を変えた。
「ラクスがこんな夜中に通信をくれるって事は・・・よっぽどの事が起きたんでしょ?」
『・・・えぇ。落ち着いて聞いてください、キラ』
「なんだか改まって言われると緊張しちゃうな・・・」
溜息混じりに返したキラの冗談に微笑む事すらなく、ラクスは沈痛な表情で述べた。
『アスランが・・・軍事裁判にかけられる事が決定しました』
「なっ・・・・!?そんな馬鹿な!!」
キラは動揺して、思わず座っていた椅子を倒しながら立ち上がった。
『嘘ではありません。プラント最高評議会でも決定された事です・・・』
「そんな・・・!」
キラはラクスのその言葉が信じられなかった。みすみす共に戦った戦友・・・それも自分の元婚約者を軍事裁判にかけることにしたというのだ。
『尽力はしましたが・・・力及びませんでしたわ』
ラクスの落ち込んだ顔を見て、キラも居た堪れなくなった。
「起訴・・・される罪状は?」
『おそらく、前大戦から踏まえての二度の脱走・・・。それも特務隊の隊長・・・FAITHの身でありながらも・・・というのが大きいようです』
いくら志願制をとっているZ.A.F.Tといえど面子はある・・・という事らしい。特に明快な階級の無いZ.A.F.Tの中で、唯一明確に区分されてい
るトップエリートでもあるFAITHに所属するものが、2度も軍を抜けているのだ。裁かれなかったほうがおかしいとでも言うのだろうか。
「・・・カガリに何ていえばいいんだ!」
アークエンジェルが宇宙に上がる日・・・見送りに来たカガリの左手の薬指に指輪は無かったが・・・お互いが不器用で、諦めが悪い事を知っている周囲の人
間は、時がくれば・・・と、アスランとカガリのことを見守っていたのだ。
『裁判は明後日行われます。一審制で、弁護人も呼ばれない・・・裁判官と検察、アスランの三人だけの裁判らしいですの』
「なっ!?それじゃぁ、アスランは―――――!!」
『既に・・・シナリオは出来上がっていたようです、キラ』
「・・・何とか、傍聴席にもぐりこめないかな?」
キラの決意が秘められた瞳が、ラクスを指すように見る。攻めているわけでは無い。しかし、いやとは言わせない・・・そんな感情が篭っていた。
『・・・なるべく期待にこたえられるよう努力しますわ。ですから、キラはすぐにでも――――』
「うん、プラントに向かうよ。・・・ごめんね、ラクス」
『いいえ・・・構いません。ほかならぬ貴方の願いですから。では、プラントにつきましたら連絡をください。迎えをよこしますので』
「ありがとう・・・。ラクス、無理しないでね」
キラの言葉にラクスは微笑むといった。
『その言葉、そっくりそのままお返ししますわ』
それだけいうと、ラクスは通信を切った。
「ラクスってば・・・。よし、プラントへ行かなくちゃ!」
カガリがオーブに帰ってくるまで後2週間・・・それまでに全てを片付けなくては・・・と、キラは焦りを感じつつプラントへと急いだ。そして・・・冒頭の
結果となった。
「くっ・・・あれじゃ、アスランがプラントじゃ人権が無いみたいじゃないか!」
キラは面会室で、拘留されているアスランとガラス越しに向き合って座っていた。
「覚悟の上だ・・・仕方ないさ。自分の選んだ道だ・・・後悔なんてしてないからな」
そう言った彼だが、心なしかやつれて見えた。連日連夜調書作成などで、睡眠らしい睡眠など取らせてもらえなかったようで、食事も満足に与えられていたか
分からなかった。
「まぁ、Z.A.F.Tはまだ結束されてから四半世紀すら迎えていない若い組織だ。おそらく俺が初めてなんだろうな。脱走犯だなんて・・・。これからこの
組織はまだまだ色々な事を経験しなければならない。だから、扱いに困ってるんだろう?こういった時どうすればいいのか・・・マニュアルがないからな」
アスランはさも可笑しそうに笑った。
「・・・なんだか、余裕じゃないか」
キラは、アスランの様子になにか納得のいかないものを感じながら言った。
「まぁ・・・な。俺は・・・獅子の名を受け継いでるらしいからな。そう簡単におろおろしないのさ」
「?」
キラはアスランの言葉に首をかしげた。
「まさか・・・アスラン、君って奴は!!」
キラが鬼のような形相でアスランとの間にある強化ガラスの仕切りを殴る。
「な・・・なんだ、キラ?」
「獅子といえば前オーブ代表首長ウズミ・ナラ・アスハ氏の事・・・そしてカガリは、僕と双子とはいえ、“オーブの獅子”の娘・・・獅子の名を継ぐ者だなん
て・・・いつカガリに手を出したぁっ!!」
再度強化ガラスに拳を打ちつけたキラの瞳に輝きはなく、ただ鈍い光がゆらゆらと、まるで蝋燭の火のように揺れていた。
「(この野郎・・・SEEDを割りやがった)何を言う。今はそういう事を言ってるんじゃないから、落ち着けキラ!獅子の名を受け継ぐとは、俺の名前の事
だ!」
「な・・・まえ?」
「そうだ!地球に古くから伝わる童話に出てくる獅子の姿をした王の事だ。彼の名が・・・アスランというそうだ」
「そう・・・だったの」
キラはいくばくか昂ぶった気を抑えると、席に着いた。彼が拳をたたきつけた強化ガラスは、見るも無残に蜘蛛の巣のような跡が幾つも出来ていた。
「その獅子は勇敢で・・・聡明であり、誰からも慕われる理想の王・・・」
「・・・まるで君とは大違いじゃないか」
キラの言い分に少しムッとしながら、アスランは返した。
「まぁ、確かに俺はすぐに考え込むし・・・人付き合いも下手糞だ」
「なんだ・・・分かってるんだ」
「そう何度もお前等姉弟から言われてれば嫌でもそう思えてくるよ・・・全く」
「ハハハ・・・で、釈放はいつごろ?」
キラが突然真面目な顔をしてアスランにいった。
「・・・おそらく3日後だ。確かカガリのプラントへの表敬訪問があったはずだ。そこで、体裁上国外追放という形をとり、代表の船に便乗してオーブへと亡
命・・・こんなシナリオを描いてるはずだ」
「そっか・・・英雄“プラントのアスラン・ザラ”は消え去り、“オーブのアスラン・ザラ”として生きるの?それとも・・・また“アレックス・ディノ”?」
キラの試す様な視線がアスランを刺す。
「キラ・・・俺は言ったはずだ。オーブへ亡命すると・・・・。だから、“オーブのアスラン・ザラ”として俺は生きるさ」
その答えに満足したのか、キラは微笑むと席を立った。
「じゃ、アスラン・・・オーブ軍とモルゲンレーテの席を空けとくよ」
「おいキラ!」
去り際のキラの言葉にアスランは慌てる。何を無茶な事を言ってるのか・・・と。
「そうそうアスラン・・・僕ね、階級がまた上がったんだよ」
振り返り際に笑って告げるその顔は天使にも悪魔にも見えたという。
「中将になってさ・・・。あ、勿論君は僕の直属の部下って事で、こき使ってあげるからありがたく思ってね」
それだけ言うと、キラは扉の向こう側に消えた。
「・・・・っち!あのシスコンめ・・・俺をカガリと会わせないための嫌がらせか?」
悪態を少しつくと、アスランは溜息をつきながら格子付の窓から宇宙を見上げた。このコロニーは俗に“開放型”と呼ばれるタイプで、コロニー外壁の一部を
ガラス張りとして、直接太陽光を取り入れている。そんなガラス越しの宇宙から、遥か遠くにある小さな月が見えた。
「カガリ・・・」
彼を誇り高き獅子の王の名を継ぐ者・・・と称した暁色の瞳を持つ活発な少女を思い出しながら呟く。
『アスラン・・・お前、名前負けしないようにガンバレよ!なんたって私の好きな話に出てくる神様の名前と同じなんだからな!』
ある日彼女は自分の目の前に座る彼に向かってそれを言った。
『なんだ・・・カガリの好きな話だったら冒険物だろ、どうせ?』
『な・・・!お前、失礼だぞ!!私だって女らしい御伽噺を読む時だってある!』
『じゃぁ、その話はどんな内容なんだ?』
『え〜と・・・突然冬の世界に迷い込んだ四人の兄弟姉妹が仲間と力をあわせて悪い奴と戦う話だ!』
『・・・つまり、ファンタジーか?』
『そうだ!』
まるで自慢するかのように鼻を鳴らし言う彼女に、彼は溜息をつきながら彼女の頭を撫でた。
『な・・・っ!』
突然の行動にカガリは声を上げ驚いた。
『ホント・・・カガリは可愛いよ』
その後彼女が暴れたのは言うまでも無かったが・・・。その時の様子を思い出した彼は少し笑いながら、あることを思い出した。
「そういえば・・・今日は3月14日・・・ホワイトデーか」
一月前の今日、アスランはカガリからきちんとチョコレートを貰っていた。
「そういえばお返し・・・全然考えてなかったな」
そんな考えが浮かんできた自分が可笑しくて、アスランは大声を出して笑った。何せ自分は今は独房の中で、とてもではないがカガリへのプレゼントを用意す
る暇などないというのに・・・カガリへのプレゼントを悩んでいる自分がいるのだ。それが余計に面白かったのだろう。
「はは、全く・・・。俺は、何処にいてもホントに“カガリ、カガリ”・・・だな」
宇宙を見上げながら、誰に言うとでもなく、彼は呟いた。
「いつか本当に獅子の名を継ぐ日が来た時・・・俺は君と共に見ていた夢を叶えられるんだろう。それが・・・君への俺からのお返し・・・ってわけにはいかな
いかな?」
きっと彼には見えていたのかもしれない。怒りながらも、耳まで真赤に染めて・・・ひとしきり叫び終わった後、そっぽを向き「仕方ない奴だ!私じゃなきゃ
本当にこいつの面倒は見切れないな!」などと叫ぶ、愛しい彼女の姿が。
海の彼方の大帝の息子・・・名をアスランと呼ぶ。歴史の要所要所に現われては、人々を苦しみから解放するという。
その政治的手腕と確固たる信念と折れぬ心を持つ姿から、“オーブの獅子”として領民の皆から好かれ、うやまれていた人物。名をウズミ・ナラ・アスハと言っ
た。
獅子の名を継ぎし者達よ、名に負けぬよう・・・世界を平穏に導きたまえ
後書き
はい、頑無です。支離滅裂です。黒い鳩さんからヴァレンタイン絵を貰ってから早一月・・・ホワイトデーのお返しに駄文で申し訳ないのですが、贈らせていた
だきます。
最後に・・・ホント、14日中にできてよかった・・・
感想
頑無さんにホワイトデーSSとして頂きました♪
とはいえ、ちょっと掲載が間に合わせられませんでした……
厳無さん申し訳ない(汗)
アスランを主軸にした物語ですね〜
今話題のナルニア国物語も盛り込ん
でいる意欲策のようです。
クロスになるのかどうかは、現時点ではわからないみたいですけど。
まあね〜、作品としての面白さもさることながら次回を期待させてくれる作品ですね。
でも、ちょっと次回ってわけにも行かない気もしますが(汗)
投稿作家さんと言うわけではないですからね……
律儀にホワイトデーSSを送ってくださること自体お優しい方であるという現れですし。
そうだね、感謝しないと……
今後も、頑無さんに見捨てられない
よう精進する事です!
はい〜
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