プロローグ
この世には、運命というものがある。これから起きる事象はすべてが既に定められており、世界はその筋道に従って動いてるというものだ。
だがもし、その運命をも揺るがす存在があったならばどうなるだろうか?本来起きるべき事象の因果を書き換え、起きるはずのない事象を招き寄せる。そんな異分子が生まれたとき、世界はどんな影響を受けるのか。
これは本来ならその世界に存在しない、ある一人の『異邦人』の物語。
◆――――――◇
冬木市、遠坂邸。今ここで、ある儀式が行われようとしていた。
「時刻確認、術式確認、触媒確認……すべて問題なし!」
彼女、遠坂凛はその儀式の最終確認をしていた。これから行う儀式は、原理としてはただの使い魔の召喚に近い。だからこそ、初歩的なミスをするわけにはいかなかった。
「それじゃ、始めましょうか」
彼女は魔導書を開き、召喚のための詠唱を始める。壁に掛けられた時計が指し示す時刻は午前二時、彼女が最も力を発揮する時間帯だ。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
描かれた魔方陣が光り、辺りに光が満ちる。
「―――――Anfang
――――――告げる。
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
光が収まったとき……そこに居るべき者は居なかった。その状況が示すのはただ一つ。
「そんな……失敗した!?なんで!?」
彼女はしばらくその結果を信じられずにいた。入念に確認し、完璧な状態で召喚したはずだ。だが彼女は気づく。
「……時計が……進んでた?」
手元にある時計と壁に掛けてある時計を見比べ、壁掛けの方が数分進んでいる。つまり、彼女が儀式を始めたのは午前二時では無かったと言うことだ。
「嘘でしょ……こんな小さなミスで――」
ドガァン!
彼女が絶望の淵に立つ中、"外"で大きな物音がする。彼女は慌てて外へと飛び出す。
◆――――――◇
外に出た彼女が目にしたのは、年若き青年だった。背中に剣を背負い、腕に何か機械をつけている。その機械から頭の単眼鏡へとコードが繋がっている。圧倒的な力と言ったものは感じないが、何故か彼女は背筋に薄ら寒い感覚を感じていた。
「……初めまして、君が僕のマスターかな?」
「た、確かに私はサーヴァントを召喚したけど……」
彼女がステータスを確認すると、彼のクラスの欄に映ったのは"アーチャー"の文字。彼女が召喚したかったのはセイバーなので、どうやら失敗してしまったようだ。
「短い間だけど、今後ともよろしく」
青年はただ爽やかに笑った。自分が"招かれざる異邦人"だと知らずに……
◆――――――◇
このとき世界に落とされた異分子は、その運命に無数の波紋を広げていくこととなる。だが、その先に何があるのかは誰にもわからない……
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