factor4


 イリヤを退ける事に成功した私達は、そのままそれぞれの家へと帰った。流石にあんな戦闘をした後で、ド素人のマスターに基礎からたたき込むのは骨が折れそうだし。

 家へと到着した私に、アーチャーが霊体化を解いて話しかけてきた。

「……そういえばマスター、バーサーカーの事で少し話があるんだけど」

「? 何かしら、アーチャー」

 アーチャーの表情からはかなりの緊張が感じられる。雰囲気から考えて、相当重要な事なのだろう。

「あのバーサーカーだけど、真名がわかったよ。真名はヘラクレス、ギリシャの大英雄だ」

「……はぁ!?ななな、何でそんな大英雄が狂化してるの!?それより何であんたがそんな事わかるのよ!?」

 アーチャーの口から衝撃の事実が飛び出す。ヘラクレスなんて大物を、わざわざ知性を奪ってまで召喚するなんて……

「僕はこのスカウターで見た対象を解析出来るみたいでね。戦闘中に気になって起動したら、バーサーカーの能力と真名が見えたんだ」

 アーチャーの顔は嘘を言っている様には見えない。……それにしても、あんな小さな物であっさり能力の解析が出来るなんて……機械って凄いわね。

「他のサーヴァントについては会ったときに起動して無かったから仕方ないし、セイバーは協定の関係で真名を知るのは拙い……今後戦う時に使うくらいかしらね、その能力」

「それほど使う能力でもないしね、あまり期待しないでね」

 アーチャーがそう言って笑う。それにしても、何でこいつの笑い顔は見てると寒気がしてくるのかしら……そういえば、アーチャーに聞いておかなきゃいけない事があったわね。

「――アーチャー、私に隠している事があるなら正直に言いなさい。場合によっては令呪を使ってでも聞き出させて貰うわ」

「……何時から気づいてたのかな?」

「前々から怪しいとは思ってはいたわ。その上バーサーカーとの戦いでは『真名解放』までしてたじゃない。これで疑わないなんてあり得ないわ」

 そこまで言うと、アーチャーは溜め息をつきながら近くの椅子に座り込んだ。……話す気になったのかしら?

「……今の段階だと、宝具くらいなら開示出来ると思う。でもそれ以外のスキルや真名は開示出来ない」

「? それは何故?」

「わからないけど、記憶の一部と同時に開示制限が掛かっているのかな。開示出来るのは多分宝具一つってところかな?」

 アーチャーはふわりとした笑顔でそう言った。……普通宝具よりスキルの方を先に見せる物じゃないのかしら?それともスキルの方が力の比重が大きいのかしら?

「……そんな言い分が通るとでも思っているの?それだけしかわからないんだったら、令呪を使わせて貰うわ」

「それはやめておいた方が良いと思うな……今強引に開示させようとしたら最低でも二画は使用するだろうし、僕に何かしらの悪影響が出る可能性が高いんだけど」

「なっ、なんでそんな事がわかるのよ!」

「これでも結構頑張ってたからね。それでやっと一つ開示出来る様になったんだから、相当な負荷が掛かっているはずだよ。そんな状態のものに強引な負荷を掛けたらどうなるか……大体想像はつくだろ?」

 ……なんて面倒くさい、それじゃ私は少しずつ解放される情報だけで戦うしかないの?他の参加者に比べて圧倒的に不利じゃない。

「……はぁ、もう良いわ。良いからあんたの宝具を見せなさい」

「さっき開示するようにしておいたから、多分今ステータスを確認したら見られると思うよ。……そろそろ霊体化したいんだけど」

 アーチャーはそう言って、ジッとこちらを見てくる。確かにあまり実体化させておくのも何だし、さっさと確認して霊体化させておく方が良いか。

「わかったわ、ええと――」

 ステータスを確認する為に開示情報の宝具の項目を開き、その概要を確認する。……だがその内容は想像を遙かに超えていた。

◆――――――◇

宝具:

・万策尽くす走狗の戦い(トゥルー・ニュートラル)
 ランク:E〜A++
 種別:   ????
 レンジ:  ????
 最大捕捉:????
あらゆる手段・方法を行うことを目的とする無景の固有結界。心象風景が現実を塗りつぶす大魔術、固有結界でありながら、展開しても心象風景が発現しない異端の魔術。かつて自分が使った武具や防具、魔法具を具現化し使用することが出来る。その中には神話の武具などもあり、それらをスペックそのままに具現化出来るため非常に強力。相手の戦い方を見て即座に最適解を導き出す事で真価を発揮する反面、物体の具現化に大量の魔力を消費するため乱用は出来ない。

◆――――――◇

「――へっ?」

 アーチャーの宝具を見た瞬間、あまりの非常識さに私は間の抜けた声を出してしまった。固有結界なんて大魔術を使う人物なら、絶対に何処かで聞いたことがあるはずだ。けれど私はアーチャーの正体だと思える人物の見当が付かない。そもそも東洋の英霊を召喚できないはずの冬木の聖杯で日本人の彼が召喚され、その上割と最近の英雄だと言っていた。近代でここまでの魔術を会得した人物なんて、少なくとも表向きには居ないはず。

「ちょっとアーチャー……って、もう霊体化してるか」

 アーチャーに問い詰めようとするも、もう既にその場所には居ない。恐らく霊体化して休眠状態になったのだろう。

「……アンタは一体どんな英霊なのよ」

 ぼそりとそれだけ呟いて、今日はもう寝ることにした。

◆――――――◇

 霊体化した状態で、窓の外を見る。久しぶりに見る良い月だ。

 昔はこんな余裕なんて無かった。生きるため、守るために必死で戦い続けた。そのために友達だって斬ったし、邪魔をする奴は全部排除した。

 けれど、それで何が変わった?血にぬれた手が残り、恐怖と陰謀の眼差しを向けられるようになった。常に刺客を警戒し、寝首をかかれないように生きてきた。

 そんな生活を続けていくうちに、殺した人間の数は数えなくなった。剣に付いた血を拭う暇もなく、すぐに新しい刺客が送られてくる。通った道は血だまりとなり、目指す方向には自分を利用しようとする奴しか居ない。かつて道を示した者は事態が終息すると共に消え、その後一度も姿を見せなかった。人々からの声援は罵声へと変わり、悪魔達の恨みは募っていくばかりだった。

 何故こんな事になったのだろうか?僕は人に害をなす異端とずっと戦ってきた。異端の悪魔を切り、異端の人間を切り、罪のない人々の為に。混沌でも秩序でもない世界の為に、日常を取り戻す為に。

 そんな疑問も時と共に答えが固まっていく。その答えが出たのは死が眼前へと迫った時だった。

「人を超えし者が、異端でないはずがない……か。認めたくは、無かったな」

 窓の外で揺れる木々を眺め、そう呟いた。



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